スロッシング抑制装置
【課題】 大型の液体貯槽内でスロッシングを有効に抑制することができる装置であって、既存の貯槽にも適用が可能な装置を提供する。
【解決手段】 円筒状の壁体1を有する液体貯槽内の液面付近に浮力で保持され、水平方向の移動が壁体の内周面に当接して拘束される浮枠体10を設ける。また、この下方に所定の間隔で下方枠体20を吊支持し、上記浮枠体10と下方枠体20との間に流動抵抗付与部材30を保持する。流動抵抗付与部材は、ほぼ鉛直に保持された網状体であり、スロッシング発生時に液面近くで水平方向に生じる液体流動に抵抗を付与する。流動抵抗付与部材は、穴あき板、複数の棒状部材、格子状部材等であってもよい。また、柔軟に変形する部材又は上下方向に長さの変動が可能な部材を用いることにより、貯留液体の排出時における浮枠体10及び浮き屋根2の下降を許容する。
【解決手段】 円筒状の壁体1を有する液体貯槽内の液面付近に浮力で保持され、水平方向の移動が壁体の内周面に当接して拘束される浮枠体10を設ける。また、この下方に所定の間隔で下方枠体20を吊支持し、上記浮枠体10と下方枠体20との間に流動抵抗付与部材30を保持する。流動抵抗付与部材は、ほぼ鉛直に保持された網状体であり、スロッシング発生時に液面近くで水平方向に生じる液体流動に抵抗を付与する。流動抵抗付与部材は、穴あき板、複数の棒状部材、格子状部材等であってもよい。また、柔軟に変形する部材又は上下方向に長さの変動が可能な部材を用いることにより、貯留液体の排出時における浮枠体10及び浮き屋根2の下降を許容する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水・石油類等の液体を貯留する大型の円筒型貯槽内で、地震等の水平力が作用したときに液面が揺動するいわゆるスロッシング現象を抑制する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原油や重油等の石油類を貯留する容器として円筒型の貯槽が広く採用されている。このような貯槽内に液体が貯留されている状態で地震が発生すると、図15に示すように、水平方向の地震動によって液面が揺動し、円筒状の壁体近くでは液面の上昇及び下降が繰り返される。大型の貯槽内における液面揺動の固有周期は一般に長周期となるが、地震動が長周期成分を含む場合には液面の揺動が成長し、液面の昇降量が大きくなる。そして、壁体の上部が解放されている貯槽では、上昇した液面が壁体の頂部より高くなると、貯留する液体は貯槽外へ大量に溢れ出すことになる。また、貯槽が液面上に浮き屋根を有する場合には、液面の上昇とともに浮き屋根が大きく持ち上げられ、液体が溢れ出すとともに屋根が破壊されるおそれも生じる。このような事態になると、貯留する液体が浮き屋根上に漏出し、石油類等の可燃性の液体では火災が発生する危険も生じてしまう。
【0003】
このようなスロッシング現象を抑制する手段としては、特許文献1及び特許文献2に開示されるものがある。
特許文献1に記載の技術は、円筒型貯槽の壁体の内周面に沿って螺旋状の誘導フインを設けるものである。上記誘導フインは壁体から貯槽の内側にほぼ水平に張り出し、螺旋状に連続した板状部材である。これにより、スロッシング発生時の壁体付近に生じる上下方向の液体移動を螺旋状に旋回する上昇流又は下降流とし、壁体又は誘導フインによって液体の流れに抵抗を付与してエネルギの減衰を図るものである。
【0004】
また、特許文献2に記載の技術は、貯槽内の液面付近にドーム屋根から支持された制振部材を支持するものである。制振部材は壁体の内周面付近で水平に支持される環状の部材であり、液位に合わせて上下方向に位置の調整が可能となっている。そして、液位検出手段で検出された情報に基づいて制振部材を移動し、貯留される液体の自由液面に接触する状態に保持するものである。
【特許文献1】特開昭56―106773号公報
【特許文献2】実開平6―6297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来から知られている上記技術では次のような問題点がある。
特許文献1に記載の技術では、有効にスロッシングを抑制しようとすると誘導フインを壁体から大きな幅で内側に張り出す必要がある。特に内径の大きい円筒型の貯槽では誘導フインの幅が小さいとほとんどスロッシングを抑制することができない。誘導フインの幅を大きくすると、部材は大きく強固なものとする必要があり、工事費が大幅に増大する。また、既存の貯槽にこのような誘導フインを追加で取り付けることは難しい。
【0006】
また、特許文献2に記載の技術では、制振部材をドーム屋根から支持しており、変動する液面から作用する鉛直方向の力に抵抗するためには、屋根の構造を強固なものとしなければならない。また、この技術は浮き屋根を備える貯槽には適用することができない。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構造で貯槽内のスロッシングを有効に抑制することができるとともに、既存の貯槽にも適用が可能なスロッシング抑制装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に係る発明は、 円筒状の壁体を有する液体貯槽内の液面付近に、貯留液体から作用する浮力で保持され、水平方向の移動が前記壁体の内周面に当接して拘束される浮枠体と、 該浮枠体から下方に支持され、液面付近で水平方向へ移動する液体に抵抗を付与する流動抵抗付与部材とを有するスロッシング抑制装置を提供する。
【0009】
液体貯槽内でスロッシングが生じたときには、図14に示すように貯槽内の中央部では液面付近に水平方向の液体移動が生じ、液面が上昇している部分の壁体の近くでは、壁面に沿った上昇流が生じている。そして、液面が下降している部分では壁面付近で下降流が生じる。このような液体の流れに抵抗を付与することによって液体の運動エネルギが減衰され、スロッシングが抑制される。
【0010】
本請求項に係る装置は、貯槽の中央部で液面付近に生じる流れに抵抗を付与するものであり、浮枠体から下方に支持された流動抵抗付与部材に上記水平方向の流れが交錯し、流れに抵抗が付与される。流動抵抗付与部材に作用する反力は浮枠体に伝達され、この浮枠体は壁体によって水平方向の移動が拘束されているので、水平力は壁体に伝達される。
【0011】
なお、上記装置において、流動抵抗付与部材は水平方向の液体移動に抵抗できるものであれば様々な形態の部材を用いることができる。そして、この流動抵抗付与部材と浮枠体と接合の形態は、水平方向の反力の一部又は前部を浮枠体に伝達することができる構造であればよい。また、上記浮枠体は、鋼型材等を用いて組み立てられ、浮体を取り付けて浮力を作用させるものとしてもよいし、中空構造の部材が枠状に組み立てられたものであって、部材自体に大きな浮力が作用するものであっても良い。そして、この浮枠体を液面付近に保持する構成は、流動抵抗付与部材と浮枠体とに作用する浮力をこれらの重量より大きくし、浮枠体が液面付近まで浮揚するものであってもよいし、流動抵抗付与部材と浮枠体との重量をこれらに作用する浮力よりやや大きくし、これらを浮き屋根と連結して支持することもできる。つまり浮き屋根に作用する浮力と浮枠体及び流動抵抗付与部材に作用する浮力とによって液面近くに保持されるものであってもよい。さらに、浮枠体と流動抵抗付与部材とに作用する浮力を大きく設定し、底板から係留して所定の位置に保持するものであってもよい。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に係るスロッシング抑制装置において、 前記浮枠体は、前記壁体の周方向に所定の間隔で内周面と対向するか又は周方向に連続して内周面と対向する水平力伝達部を備え、 該水平力伝達部は、前記壁体の内周面に当接され、柔軟に変形する緩衝部材を備えるものとする。
【0013】
この装置では、地震時にスロッシングが発生し、これにともなって浮枠体に一方向の水平力が作用したときに、壁体の周方向に沿って複数の位置又は周方向に沿って連続した範囲に分散して水平力が伝達される。このため、壁体に大きな断面力が作用するのを回避することができ、壁体が変形したり破壊されるのを防止することができる。また、水平力伝達部には、柔軟に変形する緩衝部材が設けられているので、浮枠体と壁体との接触部分で大きな衝撃力が作用したり、局部的にに大きな支圧力が作用するのが回避され、壁体の損傷を防止することができる。
なお、上記緩衝部材としては、例えばゴム等の弾性体、粘弾性部材又は流体を収容する袋状部材等を用いることができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載のスロッシング抑制装置において、 前記浮枠体の下方に所定の間隔で保持され、水平方向の移動が前記壁体の内周面に当接して拘束される下方枠体を有し、 前記流動抵抗付与部材は、前記浮枠体と前記下方枠体との間に支持されているものとする。
【0015】
この装置では、流動抵抗付与部材の上縁部と下縁部とがそれぞれ浮枠体と下方枠体とに接合されているので、ほぼ水平方向の液体移動によって作用する水平方向力は浮枠体と下方枠体とに分割して伝達され、壁体で支持される。従って、流動抵抗付与部材は剛性の高い部材でなくても液体の移動に対して抵抗力を付与することができ、例えば柔軟な網状の部材等を浮枠体と下方枠体との間に張設して用いることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3までのいずれかに記載のスロッシング抑制装置において、 上記流動抵抗付与部材は、網状部材、穴あき板、間隔をあけて配置された複数の棒状部材、格子状部材、分割された複数の板部材から選択される1又は複数の部材の組み合わせであるものとする。
【0017】
この装置では、スロッシングによって水平方向に生じる液体の流動が流動抵抗付与部材と交錯し、網状部材の網目、穴あき板の穴、棒状部材の間、格子状部材の格子目、複数の板状部材の部材間を通過する。このとき、液体の流れは攪乱され、液体の流動に対する抵抗となる。そして、網状部材の網目の大きさ及び網を構成する線材の太さ、穴あき板の穴の大きさ及び間隔を調整することによって、流体の移動に付与する抵抗の大きさを調整することができる。また、棒状部材、格子状部材、板状部材の部材間隔、部材の太さ又は大きさ等を調整することによって同様に抵抗の大きさを調整することができる。このように流体の移動に付与する抵抗の大きさを調整することによって、流体の往復動の減衰効率、及び浮枠体等に必要な構造強度を適切に設定することができ、貯槽の規模や貯留液体の種類等に応じた装置とすることが可能となる。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4までのいずれかに記載のスロッシング抑制装置において、 前記流動抵抗付与部材は、上端と下端との距離が短縮可能な部材であるものとする。
【0019】
大型の貯槽では、浮き屋根が設けられることが多い。この浮き屋根は貯留している液体上に浮遊しており、液体の貯留量が減少すると、浮き屋根が底板近くまで下降する。このとき流動抵抗付与部材が浮き屋根の下降を阻害しないものとしなければならない。上記のように流動抵抗付与部材が、上端と下端との距離が短縮可能な部材となっていることにより、多くの液体を貯留している状態では液面近くから充分な深さまでほぼ鉛直に配置された部材となって、液体の移動に有効な抵抗を付与し、浮き屋根が下降したときには浮き屋根の下面と底板との間の小さい空間に納まる構造とすることが可能となる。
【0020】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載のスロッシング抑制装置において、 上記流動抵抗付与部材は、複数の穴あき板、剛性を有する網状部材、格子状部材又は板部材が、水平方向の軸線回りに互いに回動が可能に連結されたものとする。
【0021】
この装置では、液体の貯留量が多いときに、複数の板状部材や格子状部材等が上下方向に直列に連なった状態となり、水平方向の液体移動に対して有効に抵抗を付与することができる。そして、浮枠体とともに、底板近くまで下降したときには、複数の板状部材等の間で回動し、折りたたまれるように変形して上下方向の寸法が小さくなる。従って、浮き屋根又は浮枠体の下降が妨げられるのを回避することができる。
【0022】
請求項7に係る発明は、請求項5に記載のスロッシング抑制装置において、 上記流動抵抗付与部材は、横方向に架け渡された複数の棒状部材を柔軟な線部材もしくは鎖状部材で吊支持したものとする。
【0023】
この装置では、液体の貯留量が多いときに、横方向に架け渡された複数の棒状部材が上下に配列されるように吊支持し、これらの間を液体が通過するようにして抵抗を付与する。そして、流動抵抗付与部材が底板近くまで下降したときには、線部材又は鎖状部材が変形して浮き屋根の下降を許容する。
【0024】
請求項8に係る発明は、請求項5に記載のスロッシング抑制装置において、 上記流動抵抗付与部材は、柔軟な網状部材又は横方向に架け渡された複数の棒状部材を、複数のエレメントを互いに回動が可能に連結したリンク機構によって支持したものとする。
【0025】
この装置では、リンク機構が変形して上下方向に伸縮し、液体の貯留量が多いときには、網状部材又は棒状部材によって水平方向の液体移動に抵抗が付与される。そして、流動抵抗付与部材が底板近くまで下降したときにはリンク機構の変形によって上下方向の寸法を小さくすることができる。
【0026】
請求項9に係る発明は、請求項5に記載のスロッシング抑制装置において、 上記流動抵抗付与部材は、複数の板部材又はパネル状の部材が互いに上下方向に連結され、前記浮枠体が該貯槽底部付近まで下降したときには、相互間で上下方向に摺動して重なり合うように接合されているものとする。
【0027】
この装置では、複数の板部材又はパネル状の部材が上下方向に摺動して重なり合うことによって上下方向の寸法が可変となっている。したがって、液体移動に有効な抵抗を付与するとともに、貯留液体が少量となったときには浮き屋根の下降を阻害することなく収納することができる。
【0028】
請求項10に係る発明は、請求項3に記載のスロッング抑制装置において、 前記下方枠体は、上下方向に複数が配置され、それぞれの間に前記流動抵抗付与部材が設けられているものとする。
【0029】
この装置では、流動抵抗付与部材を設ける範囲が、液面付近から深い位置に及ぶ場合に、液体が水平に流動しても流動抵抗付与部材を所定の位置に保持するとともに、複数の下方枠体に分割して水平力を壁体に伝達することができる。従って、液体の移動に有効な抵抗を付与することができるとともに、水平力が集中して壁体に伝達されるを回避し、壁体の構造上の安全性を高めることができる。
【0030】
請求項11に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載のスロッシング抑制装置において、 前記流動抵抗付与部材は、前記浮枠体から吊支持され、下端部に重錐が取り付けられているものとする。
【0031】
この装置では、流動抵抗付与部材が柔軟な部材又は上端部が浮枠体に対して回動が可能に接続されていても、下端部に取り付けられた重錐に作用する重力によって流動抵抗付与部材は鉛直下方へ垂下された姿勢を維持しようとする。したがって、水平方向の液体移動があると流動抵抗付与部材には水平方向に押し流そうとする力が作用するが、重力によって鉛直方向への復元力が働き、液体の水平方向への流動に抵抗が付与される。
【0032】
請求項12に係る発明は、請求項11に記載のスロッシング抑制装置において、 複数の方向に設けられた前記流動抵抗付与部材のそれぞれの下端部に梁が支持され、この梁を互いに連結して枠体が形成されており、 前記重錐は、前記枠体から吊支持されているものとする。
【0033】
地震時に液面が揺動する方向は予め特定することができないため、流動抵抗付与部材は、全ての方向の液面揺動に有効に作用するように、複数の方向に設けられる。これらの下端部を一体となった枠体に接合し、重錐をこの枠体から吊支持することによって、全ての重錘が常に流動抵抗付与部材の横方向への変位に対する復元力を付与するものとなる。したがって、重錘の質量を小さく抑えても流動抵抗付与部材に有効な復元力を作用させることができる。
【0034】
請求項13に係る発明は、請求項1から請求項12までのいずれかに記載のスロッシング抑制装置において、 前記浮枠体は、液面を覆う浮き屋根とする。
【0035】
この装置では、浮き屋根に作用する浮力を利用して流動抵抗付与部材が支持されており、浮き屋根の他に別途浮枠体を設ける必要がなくなる。従って、部材数が少なくなり、製作費用が低減される。また、浮き屋根はその周縁部が壁体と接触又は近接し、貯留する液体を封入するように構成されるものであり、水平力を壁体に伝達する機構が必要となる。この機構を利用して流動抵抗付与部材に作用する水平力が壁体に伝達されるので、水平力を伝達する機構も別途に設ける必要がなくなる。
【発明の効果】
【0036】
以上説明したように、本願発明のスロッシング抑制装置では,スロッシングによる液面揺動にともなって貯槽中央部の液面付近に生じる液体の水平方向の流れに流動抵抗付与部材が差し入れられ、液体の流れに有効に抵抗が付与される。したがって、液体の流れは減衰し、スロッシングの成長が抑制される。そして、貯槽内の液面の昇降が過度に生じて液体が溢れ出したり、浮き屋根が破壊されるといった危険を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本願発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置の概略平面図及び概略断面図である。また図2は、 図1に示すスロッシング抑制装置の構造を示す拡大断面図である。
【0038】
この装置は、円筒型の壁体1と浮き屋根2とを有する鋼製貯槽内で、貯留液体にスロッシングが生じるのを抑制するものであり、浮き屋根2の下側に支持される浮枠体10と、この浮枠体の下側に間隔をおいて支持された下方枠体20と、上記浮枠体10と下方枠体20との間を連結するように設けられた網状部材30(流動抵抗付与部材)とで主要部が構成されている。
【0039】
上記浮枠体10は、鋼型材11を平面視が格子状となるように組み立てられたものであり、外周部は鋼型材が環状に連結されている。これらの型材の格点部には、鋼製の函体12が設けられており、空気又は不燃性気体を封入して浮力を付与するものとなっている。外周部に設けられた函体12の壁体内周面と対向する側面には、壁体に当接される水平力伝達部が設けられており、浮枠体の水平方向の位置が拘束されるとともに、浮枠体に作用する水平力を壁体に伝達するものとなっている。上記水平力伝達部は、弾性的な変形を生じる合成樹脂製のパッド13を備えるものであり、壁体内周面との接触面は上下方向の摺動が円滑に生じるように薄い金属板14で被覆されている。
【0040】
上記下方枠体20は、上記浮枠体10とほぼ同じ構成を備えており、浮枠体の下側に連結材25によって結合され、浮枠体10より低い所定の高さに支持されている。上記連結材25は、上下端がそれぞれ浮枠体10と下方枠体20とに回動可能に接続されており、浮枠体と下方枠体とが水平方向に相対変位が可能となっている。そして、下方枠体20の壁体内周面と対向する部分には、浮枠体10と同様に、金属板24で被覆された弾性パッド23が設けられている。
【0041】
流動抵抗付与部材として用いられる網状部材は、柔軟に変形するものであり、上縁及び下縁がそれぞれ浮枠体10を構成する鋼型材11及び下方枠体20を構成する鋼型材21に接合され、ほぼ鉛直方向に張設されている。
【0042】
上記浮枠体10と下方枠体20と流動抵抗付与部材30とは、互いに連結された状態で、これらに作用する浮力と重力とがほぼ同じとなるように調整されている。この調整は、浮枠体10に設けられた函体11及び下方枠体20に設けられた函体22の大きさの設定、おもりの付加、函体内への液体の注入等によって容易に行うことができる。そして、浮枠体10は浮き屋根2と連結材15で連結されており、液面上に浮遊する浮き屋根2によって浮枠体10及び下方枠体20が液面下の所定の高さに保持されるものとなっている。
【0043】
上記浮き屋根2は、壁体1の内周面に沿って環状の梁2aを備えており、その内側には水平に連続する鋼板2bが設けられて液面を覆うようになっている。そして、環状の梁2aは中空になっており、この梁に充分な浮力が作用する。また、この環状の梁2aの外側面には、周方向に連続するように弾性部材2cが取り付けられ、金属の薄板2dによって被覆されている。これにより、浮き屋根2が昇降するときに、壁体1の内周面と浮き屋根2とが円滑に摺動するともに、貯留する液体を浮き屋根2の下側に密封した状態が維持されるものとなっている。
【0044】
このようなスロッシング抑制装置を備える貯槽では、地震動によって液面が揺動し始めたときに、貯槽内中央部の液面近くで水平方向に液体が流動するが、液体の流れは、浮枠体10と下方枠体20との間に張設された網状部材30(流動抵抗付与部材)の網目を通過する。これによって液体の流れは乱され、流動に抵抗が付与されるので、スロッシングは大きく成長せず、抑制されることになる。
なお、上記液体の流動に対して網状部材30は抵抗を付与するため、その反力が作用して流れの方向に引っ張られ、張力が生じる。この張力は浮枠体10及び下方枠体20に伝達され、水平方向の力となって浮枠体及び下方枠体の周縁部に設けられたパッド13,23から壁体1に伝達される。
【0045】
上記装置では浮枠体10と下方枠体20との連結材25として鋼型材等の剛性を有する部材を用い、上端及び下端を回動が可能に接合しているが、この連結部材に代えて柔軟に変形するワイヤ等の線材を用いてもよい。また、線材等をも用いず、網状部材30によって浮枠体10と下方枠体20とを連結してもよい。これらの場合には、下方枠体20は重力が浮力より大きくなるように設定し、上記線材又は網状部材によって下方枠体20が浮枠体30から吊支持されている状態とする。これにより浮枠体10と下方枠体20とが所定の間隔に保持され、網状部体30がほぼ鉛直に支持されて液体の水平方向への流動に対して有効に抵抗を付与することができる。また、浮枠体10と下方枠体20とを線材又は網状部材で連結することにより、貯槽内に貯留する液体が減少して浮き屋根2が下降したときに、下方枠体20が底板3上に到達した後も、線材又は網状部体が変形して浮枠体10及び浮き屋根2が下降するのを阻害しないものとなる。したがって、浮き屋根2を所定の低い位置まで下降させることができる。
【0046】
図3は、図1に示すスロッシング抑制装置の流動抵抗付与部材として用いられる網状部材30に代えて用いることができる流動抵抗付与部材の他の例を示す概略断面図である。なお、この流動抵抗付与部材を用いるスロッシング抑制装置は、請求項6に係る発明の一実施形態である。
この流動抵抗付与部材40は、上下方向に所定の幅で横方向に長い複数の板状部材41を、上縁及び下縁に沿って設けた回動軸42によって上下に接合したものであり、それぞれの板状部材41には複数の穴(図示しない)が所定の間隔で設けられている。この穴は、水平方向に流動する液体が通過するように設けられたものであり、この穴の大きさ及び配置を適切に設定することによって、液体の流動に付与される抵抗が調整されている。
【0047】
このような流動抵抗付与部材40を浮枠体10と下方枠体20との間に設けたスロッシング抑制装置では、スロッシング発生時における水平方向の液体移動に対して、穴が設けられた上記板状部材41が抵抗となり、液面の揺動が減衰される。そして、貯槽内の液体の貯留量が減少して浮枠体10及び浮き屋根2が下降するときには、上記板状部材41を連結する回動軸回りに板状部材41が互いに回動し、折りたたまれるように変形して浮枠体10及び浮き屋根2の下降を妨げないように構成されている。
【0048】
図4は、流動抵抗付与部材の他の例を示す断面図及び側面図であって、請求項7に係るスロッシング抑制装置で用いられる流動抵抗付与部材の一例を示すものである。
この流動抵抗付与部材50は、浮枠体10と下方枠体20とを複数のワイヤ51で連結し、これらのワイヤ51に水平方向に保持された複数の棒状部材52を上下に配列して取り付けたものである。この棒状部材52は、鋼棒や鋼管、合成樹脂製の棒状部材又は管材等を用いることができ、太さ及び配列する間隔を調整することによって、液体の流動に付与する抵抗が調整される。また、ワイヤ51が柔軟に変形するので、下方枠体20が底板3上に到達した後も、浮枠体10は降下することができ、低い位置まで下降させることが可能となる。
【0049】
図5は、流動抵抗付与部材の他の例を示す断面図であって、請求項8及び請求項9に係るスロッシング抑制装置で用いられる流動抵抗付与部材の一例を示すものである。
図5(a)に示す流動抵抗付与部材60は、浮枠体10と下方枠体20とをリンク機構61によって連結し、このリンク機構に柔軟な網状部材62を支持させたものである。リンク機構61は上下方向の伸縮が可能となっており、貯槽内に液体が貯留されてこの貯留液体の液面付近に浮枠体10が保持されているときには、リンク機構61が上下方向に所定の長さまで伸長し、網状部材62を上下方向に広げられた状態で保持する。これにより、水平方向の液体の流動に抵抗が付与され、液面揺動を減衰させることができる。
また、貯留液体が減少して液面が降下したときには、上記リンク機構61は上下方向に短縮され、網状部材62も折りたたまれれて浮枠体10が下方枠体20に接近するのを許容するものとなっている。
【0050】
図5(b)に示す流動抵抗付与部材70は、浮枠体10の下面から下方へ突き出すように第1の縦枠71を設けるとともに、下方枠体20の上面には第2の縦枠72を立設し、これらが上下方向に互いに相対変位が可能となるように係合したものである。そして、これらの縦枠71,72に網状部材73が張設されており、水平方向の液体の移動に対して抵抗を付与するものとなっている。
【0051】
浮枠体10に上端が固着された第1の縦枠71の下端には係合輪74aが取り付けられており、この係合輪74aが下方枠体上に立設された第2の縦枠72に係合され、この第2の縦枠72に沿って上下に移動が可能となっている。また、第2の縦枠72の上端にも係合輪74bが取り付けられており、第1の縦枠71に係合され、この第1の縦枠71に沿って移動が可能となっている。したがって、第1の縦枠71と第2の縦枠72とは平行に保持され、互いに上下方向の相対変位が可能となっており、貯槽内に液体が貯留されてこの貯留液体の液面付近に浮枠体10が保持されているときには、第1の縦枠71に対して第2の縦枠72は最も下方まで降下した状態となる。これにより上下に広い範囲で網状部材73が液体の水平方向の流動に抵抗を付与するものとなる。また、貯留液体が減少して下方枠体20が底板3上に到達したときには、第1の縦枠71は第2の縦枠72とが重なり合うように下降し、浮枠体10は低い位置まで下降が可能となる。
【0052】
図6は、図1に示すスロッシング抑制装置の浮枠体に代えて用いることができる他の浮枠体の例を示す平面図である。
図6(a)に示す浮枠体は、貯槽の中心から半径方向へ放射状に鋼型材16を配置するとともに、これら半径方向の鋼型材16を周方向に配置した鋼型材17によって連結したものである。周方向の鋼型材17は、貯槽の壁体の内周面に沿って環状に連結されるとともに、その内側にも小さい径で環状に連結され、半径方向の鋼型材16の変形を拘束するものとなっている。また、このような浮枠体に浮力を付与する鋼製の函体18は、図1に示す浮枠体と同様に格点部分に設けられている
【0053】
一方、図6(b)に示す浮枠体は、図6(a)に示す浮枠体と同様に、半径方向の部材と周方向の部材との組み合わせによって構成されているが、半径方向の部材及び周方向の部材のそれぞれには、鋼製の管部材19が用いられており、これらの内側に気体を封入して密閉したものとなっている。従って、貯留されている液体内でこれらの部材に大きな浮力が作用するものとなっており、管部材19の太さ、肉厚等によって浮力を調整することが可能となっている。
【0054】
上記のような浮枠体を用いた場合であっても、図1に示すスロッシング抑制装置と同様に機能し、液面動揺が有効に抑制される。
また、上記のような浮枠体に支持される流動抵抗付与部材は、半径方向の鋼型材及び周方向の鋼型材の全てに沿って設けてもよいが、貯槽の中央部付近に限定して設けてもよい。スロッシング発生時における水平方向の液体流動は、中央部付近で最も流速が大きく、壁体近くでは上下方向の流れとなるため、水平方向の流れに抵抗を付与する部材は、貯槽の中央部付近に限定して設けても、スロッシングを抑制する効果はほとんど変わらない。したがって、図6に示す浮枠体では、図中に破線で示す範囲Aに限定して、これらの範囲内の鋼型材に沿ってその下側に流動抵抗付与部材を設けてもよい。また、図1に示す浮枠体でも、図1(a)中に示す破線の範囲Bに限定して流動抵抗付与部材を設けてもよい。
【0055】
図7は、請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置の概略断面図である。
図7(a)に示すスロッシング抑制装置は、浮枠体81と下方枠体82とこれらの間に張設された網状部材83とを有するものであり、浮枠体81の上側に浮力を付与するための函体84が複数設けられている。そして、これらの函体84と浮枠体81と下方枠体82と網状部材83とに作用する浮力が、これらに作用する重力よりやや大きくなるように設定されている。したがって、函体84は液面上に浮上しようと作用し、液面を覆う浮き屋根2の下面に当接した状態で保持され、流動抵抗付与部材である網状部材83は液面下の所定の高さに支持される。
【0056】
貯槽の径が大きくなると浮枠体81及び下方枠体82の剛性が不足し、図1に示すように壁体1近くの周縁部付近のみで浮き屋根2と連結した構造では、浮力と重力とに差があるとこれらの浮枠体が浮き上がったり、沈下して流動抵抗付与部材を所定の位置に支持できなくなるおそれが生じる。しかし、上記のように浮き屋根2に当接して浮枠体81及び下方枠体82を保持することにより、常に所定の位置を維持することが可能となる。
【0057】
図7(b)に示すスロッシング抑制装置も、浮枠体91と下方枠体92とこれらの間に張設された網状部材93とを有するものであるが、函体94と浮枠体91と下方枠体92と網状部材93とに作用する浮力が、これらに作用する重力より小さくなるように設定されている。そして、ワイヤ等の吊材95によって浮き屋根4から吊支持され、浮き屋根4の下で所定の高さに保持される。吊材95は、貯槽内のほぼ全域にわたって所定の間隔で設けられ、浮枠体91及び下方枠体92等から下方への反力が浮き屋根4に作用するが、図7(b)に示すように、浮き屋根4が上面板4aと下面板4bとを有する二重構造となっている場合には、浮き屋根がかなりの剛性を有しており、充分な浮力も作用する。このため、浮枠体91と下方枠体92と網状部材93と函体94とに作用する浮力が重力より小さくなっていても浮枠体等を浮き屋根4から吊支持したときに浮き屋根4及び浮枠体91に過大な変形を生じることはなく、所定の高さに保持することができる。
【0058】
図8は、請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
この装置では、浮枠体101、下方枠体102、流動抵抗付与部材である網状部材103及び函体104に作用する浮力が重力より大きく設定されており、これらをワイヤ105によって底板3に係留するものである。ワイヤ105が連結される底板3は、上方への引張力に耐えられるように補強してもよいし、底板上にアンカーとして充分な重量を有する部材106を載置し、これに係止してもよい。
このような構造の装置でも、流動抵抗付与部材は、液面下の所定深さに保持され、水平方向の液体移動に抵抗を付与することができる。
【0059】
図9は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項10に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
この装置は、図1に示す装置で用いられているものと同じ浮枠体111を備え、下方枠体を2基備えている。浮枠体111と第1の下方枠体112及び第2の下方枠体113はそれぞれ浮力を付与するための函体115を有し、ワイヤ等の吊材116によって連結されて浮き屋根2から吊支持されている。流動抵抗付与部材としては柔軟な網状部材114が用いられ、浮枠体111と第1の下方枠体112及び第1の下方枠体112と第2の下方枠体113との間に張設されている。
【0060】
このような装置では、流動抵抗付与部材を設ける範囲が上下方向に広くなった場合でも、水平方向の反力は複数の下方枠体112,113と浮枠体111とに分散して伝達され、壁体1に作用する水平方向力が集中するのを回避することができる。また、網状の流動抵抗付与部材が水平方向の液体移動によって大きく変形するのが防止され、有効に抵抗を付与することができる。
【0061】
図10は、請求項13に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。また、図11は、同じスロッシング抑制装置の拡大断面図である。
この装置は、浮枠体121が浮き屋根としての機能を備えるものであり、壁体1の内周面に沿った環状の梁125を備えており、その内側が鋼型材126で格子状に連結されている。そして、この鋼型材126の上には、上記環状の梁125と連続するように鋼板材127が取り付けられ、液面を覆うようになっている。また、鋼型材の格点部分には鋼製の函体124が設けられ、貯槽の中央部付近でも上記鋼型材126と鋼板材127とに浮力を付与するようになっている。上記環状の梁125の外側面、すなわち壁体1の内周面と対向する面には、図1に示す貯槽の浮き屋根と同様に、環状の梁125と壁体1の内周面との間を密閉するとともに、水平力を伝達して浮枠体121の水平方向の移動を拘束する緩衝部材128が設けられ、薄い金属板129で被覆されている。
【0062】
浮き屋根としての機能を有する浮枠体121の下側には、図1に示す装置で用いられているものと同じ下方枠体122が設けられており、浮枠体121と水平方向の相対変位を許容するように連結されている。そして、浮枠体121と下方枠体122との間には流動抵抗付与部材として柔軟な網状部材123が張設されている。
【0063】
このような装置では、スロッシング発生時における水平方向の液体移動が網状部材123によって阻害され、抵抗が付与される。そして、網状部材123に作用する反力は浮枠体121に伝達され、浮枠体121は壁体1によって水平方向の移動が拘束される。
また、この装置では、浮枠体と浮き屋根とを別途に設ける必要がなく、部材数を低減して安価に製作することができる。
【0064】
なお、図10及び図11に示す装置において、流動抵抗付与部材としては、図1に示す装置と同様に、図3,図4又は図5に示すような構造のものを用いることもできる。また、下方枠体は、浮き屋根として機能する浮枠体と一体に結合されたものとすることもできる。
【0065】
図12は、請求項13に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
この装置は、浮き屋根として機能する浮枠体131と、この浮枠体の下面から下方に突き出すように設けられた縦枠132と、この縦枠132に張設された網状部材133とで主要部が構成されている。
【0066】
上記浮枠体131は、上側デッキ板131aと下側デッキ板131bとこれらの間に形成される空間を仕切る仕切板131cとを備えており、ダブルデッキタイプの浮き屋根として広く用いられているものである。そして、半径方向及び周方向に配置されたリブによって補強されており、容易に変形しない剛性を備えている。また、上記縦枠132は浮枠体131の下面から下方へ突き出すように設けられており、上端部は水平方向の力及び曲げモーメントが上記浮枠体131に伝達されるように固着された構造となっている。
【0067】
このような装置では、スロッシング発生時のに液面付近で生じた水平方向の液体移動は、浮枠体131から下方に突き出すように支持された網状部材133によって抵抗が付与され、減衰する。そして、網状部材133に作用する反力は、縦枠132から浮枠体131に伝達され、浮枠体131は貯槽の壁体1によって水平方向の移動が拘束される。
【0068】
図13は、請求項11に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
この装置は、浮枠体141を浮き屋根2と連結して保持するとともに、この浮枠体141から柔軟に変形する網状部材142を垂下し、その下端部に横梁143を介して重錘144を設けたものである。
【0069】
上記浮枠体141は、図1に示す装置で用いられているものとほぼ同じ構成を備えるものであるが、浮枠体141の自重と網状部材142と横梁143と重錘144との全体に作用する浮力がこれら全体に作用する重力とほぼ同じとなるように、函体の数及び大きさ等が設定されている。そして、周縁部で浮き屋根2と連結され、液面下の所定の高さに保持されている。
【0070】
この装置では、スロッシング発生時に液面付近で生じる水平方向の流れによって、上記網状部材142の下部が流れの下流側に押し流されるように変形しようとする。これに対して重錘144に作用する重力が網状部材142の下端を下方へ引っ張り、網状部材142は傾斜した状態で液体の流動に対して抵抗を付与するものとなる。そして、この反力は網状部材142の引張力として浮枠体141に伝達され、浮枠体141の周縁部に設けられた水平力伝達部145から壁体1に伝達される。
また、この装置では、貯槽内に貯留する液体が減少し、浮枠体141及び浮き屋根2が下降して底板3との間隔が小さくなったときには、上記網状部材142が底板上に降り畳まれ、浮枠体141及び浮き屋根2の下降を阻害しないようになっている。
【0071】
図14は、 請求項12に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
この装置は、図13に示す装置と同じ浮枠体151を備え、この浮枠体151から柔軟に変形する網状部材152を垂下している。網状部材152は貯槽の中央部付近のみに設けられ、中心付近から放射状に複数枚が取り付けられている。また、周方向にも設けられて中央部付近ではどの方向へ液体の移動が生じても有効に抵抗を付与できるものとなっている。これら複数枚の網状部材152の下端にはそれぞれ鋼型材が取り付けられるとともに、これらの鋼型材が一体に連結され、枠体153を形成している。重錘154はこの枠体153から吊支持されており、枠体153が液体の流動によって水平方向に変位したときに復元力を付与するものとなっている。
【0072】
このよな装置では、液面付近の液体移動に対して網状部材152が流れの下流側に押し流されるように変形するが、枠体153及びこれに吊支持される重錘154によって復元力が付与され、枠体153及び全ての重錘154が復元力に寄与するものとなる。従って、全体の重量を低減することができ、浮枠体151の構造も簡略化されて製造費用も低減される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置の概略平面図及び概略断面図である。
【図2】図1に示すスロッシング抑制装置の構造を示す拡大断面図である。
【図3】図1に示すスロッシング抑制装置の流動抵抗付与部材に代えて用いることができる流動抵抗付与部材の他の例であって、請求項5又は請求項6に係る発明の一実施形態を示す断面図である。
【図4】図1に示すスロッシング抑制装置の流動抵抗付与部材に代えて用いることができる流動抵抗付与部材の他の例であって、請求項5又は請求項7に係る発明の一実施形態を示す断面図及び側面図である。
【図5】図1に示すスロッシング抑制装置の流動抵抗付与部材に代えて用いることができる流動抵抗付与部材の他の例を示す断面図であって、請求項8又は請求項9に係る発明の一実施形態を示す断面図である。
【図6】図1に示すスロッシング抑制装置の浮枠体に代えて用いることができる浮枠体の他の例を示す平面図である。
【図7】請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置の概略断面図である。
【図8】請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置の概略断面図である。
【図9】請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項10に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置の概略断面図である。
【図10】請求項13に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
【図11】図10に示すスロッシング抑制装置の拡大断面図である。
【図12】請求項13に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
【図13】請求項11に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
【図14】請求項12に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
【図15】円筒型の貯槽でスロッシングが生じたときの液面の状態及び液体の流動の状態を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0074】
1:壁体、 2:浮き屋根、 3:底板、 4:浮き屋根、 10:浮枠体、 11:鋼型材、 12:函体、 13:パッド、 14:金属板、 15:連結材、 16、17:鋼型材、 18:函体、 19:管材、 20:下方枠体、 21:鋼型材、 22:函体、 23:パッド、 24:金属板、 25:連結材、 30:網状部材、 40:流動抵抗付与部材、 41:板状部材、 42:回動軸、 50:流動抵抗付与部材、 51:ワイヤ、 52:棒状部材、 60:流動抵抗付与部材、 61:リンク機構、 62:網状部材、 70:流動抵抗付与部材、 71:第1の縦枠、 72:第2の縦枠、 73:網状部材、 74:係合輪、 81:浮枠体、 82:下方枠体、 83:網状部材、 84:函体、 91:浮枠体、 92下方枠体、 93:網状部材、 94:函体、 95:吊材、 101:浮枠体、 102:下方枠体、 103:網状部材、 104:函体、 105:ワイヤ、 106:充分な重量を有する部材(アンカー)、 111:浮枠体、 112:第1の下方枠体、 113:第2の下方枠体、 114:網状部材、 115:函体、 116:吊材、 121:浮枠体、 122:下方枠体、 123:網状部材、 124:函体、 125:環状の梁、 126:鋼型材、 127:鋼板材、 128:緩衝部材、 129:薄い金属板、 131:浮枠体、 132:縦枠、 133:網状部材、 141:浮枠体、 142:網状部材、 143:横梁、 144:重錘、 151:浮枠体、 152:網状部材、 153:枠体、 154:重錘
【技術分野】
【0001】
本発明は、水・石油類等の液体を貯留する大型の円筒型貯槽内で、地震等の水平力が作用したときに液面が揺動するいわゆるスロッシング現象を抑制する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原油や重油等の石油類を貯留する容器として円筒型の貯槽が広く採用されている。このような貯槽内に液体が貯留されている状態で地震が発生すると、図15に示すように、水平方向の地震動によって液面が揺動し、円筒状の壁体近くでは液面の上昇及び下降が繰り返される。大型の貯槽内における液面揺動の固有周期は一般に長周期となるが、地震動が長周期成分を含む場合には液面の揺動が成長し、液面の昇降量が大きくなる。そして、壁体の上部が解放されている貯槽では、上昇した液面が壁体の頂部より高くなると、貯留する液体は貯槽外へ大量に溢れ出すことになる。また、貯槽が液面上に浮き屋根を有する場合には、液面の上昇とともに浮き屋根が大きく持ち上げられ、液体が溢れ出すとともに屋根が破壊されるおそれも生じる。このような事態になると、貯留する液体が浮き屋根上に漏出し、石油類等の可燃性の液体では火災が発生する危険も生じてしまう。
【0003】
このようなスロッシング現象を抑制する手段としては、特許文献1及び特許文献2に開示されるものがある。
特許文献1に記載の技術は、円筒型貯槽の壁体の内周面に沿って螺旋状の誘導フインを設けるものである。上記誘導フインは壁体から貯槽の内側にほぼ水平に張り出し、螺旋状に連続した板状部材である。これにより、スロッシング発生時の壁体付近に生じる上下方向の液体移動を螺旋状に旋回する上昇流又は下降流とし、壁体又は誘導フインによって液体の流れに抵抗を付与してエネルギの減衰を図るものである。
【0004】
また、特許文献2に記載の技術は、貯槽内の液面付近にドーム屋根から支持された制振部材を支持するものである。制振部材は壁体の内周面付近で水平に支持される環状の部材であり、液位に合わせて上下方向に位置の調整が可能となっている。そして、液位検出手段で検出された情報に基づいて制振部材を移動し、貯留される液体の自由液面に接触する状態に保持するものである。
【特許文献1】特開昭56―106773号公報
【特許文献2】実開平6―6297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来から知られている上記技術では次のような問題点がある。
特許文献1に記載の技術では、有効にスロッシングを抑制しようとすると誘導フインを壁体から大きな幅で内側に張り出す必要がある。特に内径の大きい円筒型の貯槽では誘導フインの幅が小さいとほとんどスロッシングを抑制することができない。誘導フインの幅を大きくすると、部材は大きく強固なものとする必要があり、工事費が大幅に増大する。また、既存の貯槽にこのような誘導フインを追加で取り付けることは難しい。
【0006】
また、特許文献2に記載の技術では、制振部材をドーム屋根から支持しており、変動する液面から作用する鉛直方向の力に抵抗するためには、屋根の構造を強固なものとしなければならない。また、この技術は浮き屋根を備える貯槽には適用することができない。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構造で貯槽内のスロッシングを有効に抑制することができるとともに、既存の貯槽にも適用が可能なスロッシング抑制装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に係る発明は、 円筒状の壁体を有する液体貯槽内の液面付近に、貯留液体から作用する浮力で保持され、水平方向の移動が前記壁体の内周面に当接して拘束される浮枠体と、 該浮枠体から下方に支持され、液面付近で水平方向へ移動する液体に抵抗を付与する流動抵抗付与部材とを有するスロッシング抑制装置を提供する。
【0009】
液体貯槽内でスロッシングが生じたときには、図14に示すように貯槽内の中央部では液面付近に水平方向の液体移動が生じ、液面が上昇している部分の壁体の近くでは、壁面に沿った上昇流が生じている。そして、液面が下降している部分では壁面付近で下降流が生じる。このような液体の流れに抵抗を付与することによって液体の運動エネルギが減衰され、スロッシングが抑制される。
【0010】
本請求項に係る装置は、貯槽の中央部で液面付近に生じる流れに抵抗を付与するものであり、浮枠体から下方に支持された流動抵抗付与部材に上記水平方向の流れが交錯し、流れに抵抗が付与される。流動抵抗付与部材に作用する反力は浮枠体に伝達され、この浮枠体は壁体によって水平方向の移動が拘束されているので、水平力は壁体に伝達される。
【0011】
なお、上記装置において、流動抵抗付与部材は水平方向の液体移動に抵抗できるものであれば様々な形態の部材を用いることができる。そして、この流動抵抗付与部材と浮枠体と接合の形態は、水平方向の反力の一部又は前部を浮枠体に伝達することができる構造であればよい。また、上記浮枠体は、鋼型材等を用いて組み立てられ、浮体を取り付けて浮力を作用させるものとしてもよいし、中空構造の部材が枠状に組み立てられたものであって、部材自体に大きな浮力が作用するものであっても良い。そして、この浮枠体を液面付近に保持する構成は、流動抵抗付与部材と浮枠体とに作用する浮力をこれらの重量より大きくし、浮枠体が液面付近まで浮揚するものであってもよいし、流動抵抗付与部材と浮枠体との重量をこれらに作用する浮力よりやや大きくし、これらを浮き屋根と連結して支持することもできる。つまり浮き屋根に作用する浮力と浮枠体及び流動抵抗付与部材に作用する浮力とによって液面近くに保持されるものであってもよい。さらに、浮枠体と流動抵抗付与部材とに作用する浮力を大きく設定し、底板から係留して所定の位置に保持するものであってもよい。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に係るスロッシング抑制装置において、 前記浮枠体は、前記壁体の周方向に所定の間隔で内周面と対向するか又は周方向に連続して内周面と対向する水平力伝達部を備え、 該水平力伝達部は、前記壁体の内周面に当接され、柔軟に変形する緩衝部材を備えるものとする。
【0013】
この装置では、地震時にスロッシングが発生し、これにともなって浮枠体に一方向の水平力が作用したときに、壁体の周方向に沿って複数の位置又は周方向に沿って連続した範囲に分散して水平力が伝達される。このため、壁体に大きな断面力が作用するのを回避することができ、壁体が変形したり破壊されるのを防止することができる。また、水平力伝達部には、柔軟に変形する緩衝部材が設けられているので、浮枠体と壁体との接触部分で大きな衝撃力が作用したり、局部的にに大きな支圧力が作用するのが回避され、壁体の損傷を防止することができる。
なお、上記緩衝部材としては、例えばゴム等の弾性体、粘弾性部材又は流体を収容する袋状部材等を用いることができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載のスロッシング抑制装置において、 前記浮枠体の下方に所定の間隔で保持され、水平方向の移動が前記壁体の内周面に当接して拘束される下方枠体を有し、 前記流動抵抗付与部材は、前記浮枠体と前記下方枠体との間に支持されているものとする。
【0015】
この装置では、流動抵抗付与部材の上縁部と下縁部とがそれぞれ浮枠体と下方枠体とに接合されているので、ほぼ水平方向の液体移動によって作用する水平方向力は浮枠体と下方枠体とに分割して伝達され、壁体で支持される。従って、流動抵抗付与部材は剛性の高い部材でなくても液体の移動に対して抵抗力を付与することができ、例えば柔軟な網状の部材等を浮枠体と下方枠体との間に張設して用いることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3までのいずれかに記載のスロッシング抑制装置において、 上記流動抵抗付与部材は、網状部材、穴あき板、間隔をあけて配置された複数の棒状部材、格子状部材、分割された複数の板部材から選択される1又は複数の部材の組み合わせであるものとする。
【0017】
この装置では、スロッシングによって水平方向に生じる液体の流動が流動抵抗付与部材と交錯し、網状部材の網目、穴あき板の穴、棒状部材の間、格子状部材の格子目、複数の板状部材の部材間を通過する。このとき、液体の流れは攪乱され、液体の流動に対する抵抗となる。そして、網状部材の網目の大きさ及び網を構成する線材の太さ、穴あき板の穴の大きさ及び間隔を調整することによって、流体の移動に付与する抵抗の大きさを調整することができる。また、棒状部材、格子状部材、板状部材の部材間隔、部材の太さ又は大きさ等を調整することによって同様に抵抗の大きさを調整することができる。このように流体の移動に付与する抵抗の大きさを調整することによって、流体の往復動の減衰効率、及び浮枠体等に必要な構造強度を適切に設定することができ、貯槽の規模や貯留液体の種類等に応じた装置とすることが可能となる。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4までのいずれかに記載のスロッシング抑制装置において、 前記流動抵抗付与部材は、上端と下端との距離が短縮可能な部材であるものとする。
【0019】
大型の貯槽では、浮き屋根が設けられることが多い。この浮き屋根は貯留している液体上に浮遊しており、液体の貯留量が減少すると、浮き屋根が底板近くまで下降する。このとき流動抵抗付与部材が浮き屋根の下降を阻害しないものとしなければならない。上記のように流動抵抗付与部材が、上端と下端との距離が短縮可能な部材となっていることにより、多くの液体を貯留している状態では液面近くから充分な深さまでほぼ鉛直に配置された部材となって、液体の移動に有効な抵抗を付与し、浮き屋根が下降したときには浮き屋根の下面と底板との間の小さい空間に納まる構造とすることが可能となる。
【0020】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載のスロッシング抑制装置において、 上記流動抵抗付与部材は、複数の穴あき板、剛性を有する網状部材、格子状部材又は板部材が、水平方向の軸線回りに互いに回動が可能に連結されたものとする。
【0021】
この装置では、液体の貯留量が多いときに、複数の板状部材や格子状部材等が上下方向に直列に連なった状態となり、水平方向の液体移動に対して有効に抵抗を付与することができる。そして、浮枠体とともに、底板近くまで下降したときには、複数の板状部材等の間で回動し、折りたたまれるように変形して上下方向の寸法が小さくなる。従って、浮き屋根又は浮枠体の下降が妨げられるのを回避することができる。
【0022】
請求項7に係る発明は、請求項5に記載のスロッシング抑制装置において、 上記流動抵抗付与部材は、横方向に架け渡された複数の棒状部材を柔軟な線部材もしくは鎖状部材で吊支持したものとする。
【0023】
この装置では、液体の貯留量が多いときに、横方向に架け渡された複数の棒状部材が上下に配列されるように吊支持し、これらの間を液体が通過するようにして抵抗を付与する。そして、流動抵抗付与部材が底板近くまで下降したときには、線部材又は鎖状部材が変形して浮き屋根の下降を許容する。
【0024】
請求項8に係る発明は、請求項5に記載のスロッシング抑制装置において、 上記流動抵抗付与部材は、柔軟な網状部材又は横方向に架け渡された複数の棒状部材を、複数のエレメントを互いに回動が可能に連結したリンク機構によって支持したものとする。
【0025】
この装置では、リンク機構が変形して上下方向に伸縮し、液体の貯留量が多いときには、網状部材又は棒状部材によって水平方向の液体移動に抵抗が付与される。そして、流動抵抗付与部材が底板近くまで下降したときにはリンク機構の変形によって上下方向の寸法を小さくすることができる。
【0026】
請求項9に係る発明は、請求項5に記載のスロッシング抑制装置において、 上記流動抵抗付与部材は、複数の板部材又はパネル状の部材が互いに上下方向に連結され、前記浮枠体が該貯槽底部付近まで下降したときには、相互間で上下方向に摺動して重なり合うように接合されているものとする。
【0027】
この装置では、複数の板部材又はパネル状の部材が上下方向に摺動して重なり合うことによって上下方向の寸法が可変となっている。したがって、液体移動に有効な抵抗を付与するとともに、貯留液体が少量となったときには浮き屋根の下降を阻害することなく収納することができる。
【0028】
請求項10に係る発明は、請求項3に記載のスロッング抑制装置において、 前記下方枠体は、上下方向に複数が配置され、それぞれの間に前記流動抵抗付与部材が設けられているものとする。
【0029】
この装置では、流動抵抗付与部材を設ける範囲が、液面付近から深い位置に及ぶ場合に、液体が水平に流動しても流動抵抗付与部材を所定の位置に保持するとともに、複数の下方枠体に分割して水平力を壁体に伝達することができる。従って、液体の移動に有効な抵抗を付与することができるとともに、水平力が集中して壁体に伝達されるを回避し、壁体の構造上の安全性を高めることができる。
【0030】
請求項11に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載のスロッシング抑制装置において、 前記流動抵抗付与部材は、前記浮枠体から吊支持され、下端部に重錐が取り付けられているものとする。
【0031】
この装置では、流動抵抗付与部材が柔軟な部材又は上端部が浮枠体に対して回動が可能に接続されていても、下端部に取り付けられた重錐に作用する重力によって流動抵抗付与部材は鉛直下方へ垂下された姿勢を維持しようとする。したがって、水平方向の液体移動があると流動抵抗付与部材には水平方向に押し流そうとする力が作用するが、重力によって鉛直方向への復元力が働き、液体の水平方向への流動に抵抗が付与される。
【0032】
請求項12に係る発明は、請求項11に記載のスロッシング抑制装置において、 複数の方向に設けられた前記流動抵抗付与部材のそれぞれの下端部に梁が支持され、この梁を互いに連結して枠体が形成されており、 前記重錐は、前記枠体から吊支持されているものとする。
【0033】
地震時に液面が揺動する方向は予め特定することができないため、流動抵抗付与部材は、全ての方向の液面揺動に有効に作用するように、複数の方向に設けられる。これらの下端部を一体となった枠体に接合し、重錐をこの枠体から吊支持することによって、全ての重錘が常に流動抵抗付与部材の横方向への変位に対する復元力を付与するものとなる。したがって、重錘の質量を小さく抑えても流動抵抗付与部材に有効な復元力を作用させることができる。
【0034】
請求項13に係る発明は、請求項1から請求項12までのいずれかに記載のスロッシング抑制装置において、 前記浮枠体は、液面を覆う浮き屋根とする。
【0035】
この装置では、浮き屋根に作用する浮力を利用して流動抵抗付与部材が支持されており、浮き屋根の他に別途浮枠体を設ける必要がなくなる。従って、部材数が少なくなり、製作費用が低減される。また、浮き屋根はその周縁部が壁体と接触又は近接し、貯留する液体を封入するように構成されるものであり、水平力を壁体に伝達する機構が必要となる。この機構を利用して流動抵抗付与部材に作用する水平力が壁体に伝達されるので、水平力を伝達する機構も別途に設ける必要がなくなる。
【発明の効果】
【0036】
以上説明したように、本願発明のスロッシング抑制装置では,スロッシングによる液面揺動にともなって貯槽中央部の液面付近に生じる液体の水平方向の流れに流動抵抗付与部材が差し入れられ、液体の流れに有効に抵抗が付与される。したがって、液体の流れは減衰し、スロッシングの成長が抑制される。そして、貯槽内の液面の昇降が過度に生じて液体が溢れ出したり、浮き屋根が破壊されるといった危険を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本願発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置の概略平面図及び概略断面図である。また図2は、 図1に示すスロッシング抑制装置の構造を示す拡大断面図である。
【0038】
この装置は、円筒型の壁体1と浮き屋根2とを有する鋼製貯槽内で、貯留液体にスロッシングが生じるのを抑制するものであり、浮き屋根2の下側に支持される浮枠体10と、この浮枠体の下側に間隔をおいて支持された下方枠体20と、上記浮枠体10と下方枠体20との間を連結するように設けられた網状部材30(流動抵抗付与部材)とで主要部が構成されている。
【0039】
上記浮枠体10は、鋼型材11を平面視が格子状となるように組み立てられたものであり、外周部は鋼型材が環状に連結されている。これらの型材の格点部には、鋼製の函体12が設けられており、空気又は不燃性気体を封入して浮力を付与するものとなっている。外周部に設けられた函体12の壁体内周面と対向する側面には、壁体に当接される水平力伝達部が設けられており、浮枠体の水平方向の位置が拘束されるとともに、浮枠体に作用する水平力を壁体に伝達するものとなっている。上記水平力伝達部は、弾性的な変形を生じる合成樹脂製のパッド13を備えるものであり、壁体内周面との接触面は上下方向の摺動が円滑に生じるように薄い金属板14で被覆されている。
【0040】
上記下方枠体20は、上記浮枠体10とほぼ同じ構成を備えており、浮枠体の下側に連結材25によって結合され、浮枠体10より低い所定の高さに支持されている。上記連結材25は、上下端がそれぞれ浮枠体10と下方枠体20とに回動可能に接続されており、浮枠体と下方枠体とが水平方向に相対変位が可能となっている。そして、下方枠体20の壁体内周面と対向する部分には、浮枠体10と同様に、金属板24で被覆された弾性パッド23が設けられている。
【0041】
流動抵抗付与部材として用いられる網状部材は、柔軟に変形するものであり、上縁及び下縁がそれぞれ浮枠体10を構成する鋼型材11及び下方枠体20を構成する鋼型材21に接合され、ほぼ鉛直方向に張設されている。
【0042】
上記浮枠体10と下方枠体20と流動抵抗付与部材30とは、互いに連結された状態で、これらに作用する浮力と重力とがほぼ同じとなるように調整されている。この調整は、浮枠体10に設けられた函体11及び下方枠体20に設けられた函体22の大きさの設定、おもりの付加、函体内への液体の注入等によって容易に行うことができる。そして、浮枠体10は浮き屋根2と連結材15で連結されており、液面上に浮遊する浮き屋根2によって浮枠体10及び下方枠体20が液面下の所定の高さに保持されるものとなっている。
【0043】
上記浮き屋根2は、壁体1の内周面に沿って環状の梁2aを備えており、その内側には水平に連続する鋼板2bが設けられて液面を覆うようになっている。そして、環状の梁2aは中空になっており、この梁に充分な浮力が作用する。また、この環状の梁2aの外側面には、周方向に連続するように弾性部材2cが取り付けられ、金属の薄板2dによって被覆されている。これにより、浮き屋根2が昇降するときに、壁体1の内周面と浮き屋根2とが円滑に摺動するともに、貯留する液体を浮き屋根2の下側に密封した状態が維持されるものとなっている。
【0044】
このようなスロッシング抑制装置を備える貯槽では、地震動によって液面が揺動し始めたときに、貯槽内中央部の液面近くで水平方向に液体が流動するが、液体の流れは、浮枠体10と下方枠体20との間に張設された網状部材30(流動抵抗付与部材)の網目を通過する。これによって液体の流れは乱され、流動に抵抗が付与されるので、スロッシングは大きく成長せず、抑制されることになる。
なお、上記液体の流動に対して網状部材30は抵抗を付与するため、その反力が作用して流れの方向に引っ張られ、張力が生じる。この張力は浮枠体10及び下方枠体20に伝達され、水平方向の力となって浮枠体及び下方枠体の周縁部に設けられたパッド13,23から壁体1に伝達される。
【0045】
上記装置では浮枠体10と下方枠体20との連結材25として鋼型材等の剛性を有する部材を用い、上端及び下端を回動が可能に接合しているが、この連結部材に代えて柔軟に変形するワイヤ等の線材を用いてもよい。また、線材等をも用いず、網状部材30によって浮枠体10と下方枠体20とを連結してもよい。これらの場合には、下方枠体20は重力が浮力より大きくなるように設定し、上記線材又は網状部材によって下方枠体20が浮枠体30から吊支持されている状態とする。これにより浮枠体10と下方枠体20とが所定の間隔に保持され、網状部体30がほぼ鉛直に支持されて液体の水平方向への流動に対して有効に抵抗を付与することができる。また、浮枠体10と下方枠体20とを線材又は網状部材で連結することにより、貯槽内に貯留する液体が減少して浮き屋根2が下降したときに、下方枠体20が底板3上に到達した後も、線材又は網状部体が変形して浮枠体10及び浮き屋根2が下降するのを阻害しないものとなる。したがって、浮き屋根2を所定の低い位置まで下降させることができる。
【0046】
図3は、図1に示すスロッシング抑制装置の流動抵抗付与部材として用いられる網状部材30に代えて用いることができる流動抵抗付与部材の他の例を示す概略断面図である。なお、この流動抵抗付与部材を用いるスロッシング抑制装置は、請求項6に係る発明の一実施形態である。
この流動抵抗付与部材40は、上下方向に所定の幅で横方向に長い複数の板状部材41を、上縁及び下縁に沿って設けた回動軸42によって上下に接合したものであり、それぞれの板状部材41には複数の穴(図示しない)が所定の間隔で設けられている。この穴は、水平方向に流動する液体が通過するように設けられたものであり、この穴の大きさ及び配置を適切に設定することによって、液体の流動に付与される抵抗が調整されている。
【0047】
このような流動抵抗付与部材40を浮枠体10と下方枠体20との間に設けたスロッシング抑制装置では、スロッシング発生時における水平方向の液体移動に対して、穴が設けられた上記板状部材41が抵抗となり、液面の揺動が減衰される。そして、貯槽内の液体の貯留量が減少して浮枠体10及び浮き屋根2が下降するときには、上記板状部材41を連結する回動軸回りに板状部材41が互いに回動し、折りたたまれるように変形して浮枠体10及び浮き屋根2の下降を妨げないように構成されている。
【0048】
図4は、流動抵抗付与部材の他の例を示す断面図及び側面図であって、請求項7に係るスロッシング抑制装置で用いられる流動抵抗付与部材の一例を示すものである。
この流動抵抗付与部材50は、浮枠体10と下方枠体20とを複数のワイヤ51で連結し、これらのワイヤ51に水平方向に保持された複数の棒状部材52を上下に配列して取り付けたものである。この棒状部材52は、鋼棒や鋼管、合成樹脂製の棒状部材又は管材等を用いることができ、太さ及び配列する間隔を調整することによって、液体の流動に付与する抵抗が調整される。また、ワイヤ51が柔軟に変形するので、下方枠体20が底板3上に到達した後も、浮枠体10は降下することができ、低い位置まで下降させることが可能となる。
【0049】
図5は、流動抵抗付与部材の他の例を示す断面図であって、請求項8及び請求項9に係るスロッシング抑制装置で用いられる流動抵抗付与部材の一例を示すものである。
図5(a)に示す流動抵抗付与部材60は、浮枠体10と下方枠体20とをリンク機構61によって連結し、このリンク機構に柔軟な網状部材62を支持させたものである。リンク機構61は上下方向の伸縮が可能となっており、貯槽内に液体が貯留されてこの貯留液体の液面付近に浮枠体10が保持されているときには、リンク機構61が上下方向に所定の長さまで伸長し、網状部材62を上下方向に広げられた状態で保持する。これにより、水平方向の液体の流動に抵抗が付与され、液面揺動を減衰させることができる。
また、貯留液体が減少して液面が降下したときには、上記リンク機構61は上下方向に短縮され、網状部材62も折りたたまれれて浮枠体10が下方枠体20に接近するのを許容するものとなっている。
【0050】
図5(b)に示す流動抵抗付与部材70は、浮枠体10の下面から下方へ突き出すように第1の縦枠71を設けるとともに、下方枠体20の上面には第2の縦枠72を立設し、これらが上下方向に互いに相対変位が可能となるように係合したものである。そして、これらの縦枠71,72に網状部材73が張設されており、水平方向の液体の移動に対して抵抗を付与するものとなっている。
【0051】
浮枠体10に上端が固着された第1の縦枠71の下端には係合輪74aが取り付けられており、この係合輪74aが下方枠体上に立設された第2の縦枠72に係合され、この第2の縦枠72に沿って上下に移動が可能となっている。また、第2の縦枠72の上端にも係合輪74bが取り付けられており、第1の縦枠71に係合され、この第1の縦枠71に沿って移動が可能となっている。したがって、第1の縦枠71と第2の縦枠72とは平行に保持され、互いに上下方向の相対変位が可能となっており、貯槽内に液体が貯留されてこの貯留液体の液面付近に浮枠体10が保持されているときには、第1の縦枠71に対して第2の縦枠72は最も下方まで降下した状態となる。これにより上下に広い範囲で網状部材73が液体の水平方向の流動に抵抗を付与するものとなる。また、貯留液体が減少して下方枠体20が底板3上に到達したときには、第1の縦枠71は第2の縦枠72とが重なり合うように下降し、浮枠体10は低い位置まで下降が可能となる。
【0052】
図6は、図1に示すスロッシング抑制装置の浮枠体に代えて用いることができる他の浮枠体の例を示す平面図である。
図6(a)に示す浮枠体は、貯槽の中心から半径方向へ放射状に鋼型材16を配置するとともに、これら半径方向の鋼型材16を周方向に配置した鋼型材17によって連結したものである。周方向の鋼型材17は、貯槽の壁体の内周面に沿って環状に連結されるとともに、その内側にも小さい径で環状に連結され、半径方向の鋼型材16の変形を拘束するものとなっている。また、このような浮枠体に浮力を付与する鋼製の函体18は、図1に示す浮枠体と同様に格点部分に設けられている
【0053】
一方、図6(b)に示す浮枠体は、図6(a)に示す浮枠体と同様に、半径方向の部材と周方向の部材との組み合わせによって構成されているが、半径方向の部材及び周方向の部材のそれぞれには、鋼製の管部材19が用いられており、これらの内側に気体を封入して密閉したものとなっている。従って、貯留されている液体内でこれらの部材に大きな浮力が作用するものとなっており、管部材19の太さ、肉厚等によって浮力を調整することが可能となっている。
【0054】
上記のような浮枠体を用いた場合であっても、図1に示すスロッシング抑制装置と同様に機能し、液面動揺が有効に抑制される。
また、上記のような浮枠体に支持される流動抵抗付与部材は、半径方向の鋼型材及び周方向の鋼型材の全てに沿って設けてもよいが、貯槽の中央部付近に限定して設けてもよい。スロッシング発生時における水平方向の液体流動は、中央部付近で最も流速が大きく、壁体近くでは上下方向の流れとなるため、水平方向の流れに抵抗を付与する部材は、貯槽の中央部付近に限定して設けても、スロッシングを抑制する効果はほとんど変わらない。したがって、図6に示す浮枠体では、図中に破線で示す範囲Aに限定して、これらの範囲内の鋼型材に沿ってその下側に流動抵抗付与部材を設けてもよい。また、図1に示す浮枠体でも、図1(a)中に示す破線の範囲Bに限定して流動抵抗付与部材を設けてもよい。
【0055】
図7は、請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置の概略断面図である。
図7(a)に示すスロッシング抑制装置は、浮枠体81と下方枠体82とこれらの間に張設された網状部材83とを有するものであり、浮枠体81の上側に浮力を付与するための函体84が複数設けられている。そして、これらの函体84と浮枠体81と下方枠体82と網状部材83とに作用する浮力が、これらに作用する重力よりやや大きくなるように設定されている。したがって、函体84は液面上に浮上しようと作用し、液面を覆う浮き屋根2の下面に当接した状態で保持され、流動抵抗付与部材である網状部材83は液面下の所定の高さに支持される。
【0056】
貯槽の径が大きくなると浮枠体81及び下方枠体82の剛性が不足し、図1に示すように壁体1近くの周縁部付近のみで浮き屋根2と連結した構造では、浮力と重力とに差があるとこれらの浮枠体が浮き上がったり、沈下して流動抵抗付与部材を所定の位置に支持できなくなるおそれが生じる。しかし、上記のように浮き屋根2に当接して浮枠体81及び下方枠体82を保持することにより、常に所定の位置を維持することが可能となる。
【0057】
図7(b)に示すスロッシング抑制装置も、浮枠体91と下方枠体92とこれらの間に張設された網状部材93とを有するものであるが、函体94と浮枠体91と下方枠体92と網状部材93とに作用する浮力が、これらに作用する重力より小さくなるように設定されている。そして、ワイヤ等の吊材95によって浮き屋根4から吊支持され、浮き屋根4の下で所定の高さに保持される。吊材95は、貯槽内のほぼ全域にわたって所定の間隔で設けられ、浮枠体91及び下方枠体92等から下方への反力が浮き屋根4に作用するが、図7(b)に示すように、浮き屋根4が上面板4aと下面板4bとを有する二重構造となっている場合には、浮き屋根がかなりの剛性を有しており、充分な浮力も作用する。このため、浮枠体91と下方枠体92と網状部材93と函体94とに作用する浮力が重力より小さくなっていても浮枠体等を浮き屋根4から吊支持したときに浮き屋根4及び浮枠体91に過大な変形を生じることはなく、所定の高さに保持することができる。
【0058】
図8は、請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
この装置では、浮枠体101、下方枠体102、流動抵抗付与部材である網状部材103及び函体104に作用する浮力が重力より大きく設定されており、これらをワイヤ105によって底板3に係留するものである。ワイヤ105が連結される底板3は、上方への引張力に耐えられるように補強してもよいし、底板上にアンカーとして充分な重量を有する部材106を載置し、これに係止してもよい。
このような構造の装置でも、流動抵抗付与部材は、液面下の所定深さに保持され、水平方向の液体移動に抵抗を付与することができる。
【0059】
図9は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項10に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
この装置は、図1に示す装置で用いられているものと同じ浮枠体111を備え、下方枠体を2基備えている。浮枠体111と第1の下方枠体112及び第2の下方枠体113はそれぞれ浮力を付与するための函体115を有し、ワイヤ等の吊材116によって連結されて浮き屋根2から吊支持されている。流動抵抗付与部材としては柔軟な網状部材114が用いられ、浮枠体111と第1の下方枠体112及び第1の下方枠体112と第2の下方枠体113との間に張設されている。
【0060】
このような装置では、流動抵抗付与部材を設ける範囲が上下方向に広くなった場合でも、水平方向の反力は複数の下方枠体112,113と浮枠体111とに分散して伝達され、壁体1に作用する水平方向力が集中するのを回避することができる。また、網状の流動抵抗付与部材が水平方向の液体移動によって大きく変形するのが防止され、有効に抵抗を付与することができる。
【0061】
図10は、請求項13に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。また、図11は、同じスロッシング抑制装置の拡大断面図である。
この装置は、浮枠体121が浮き屋根としての機能を備えるものであり、壁体1の内周面に沿った環状の梁125を備えており、その内側が鋼型材126で格子状に連結されている。そして、この鋼型材126の上には、上記環状の梁125と連続するように鋼板材127が取り付けられ、液面を覆うようになっている。また、鋼型材の格点部分には鋼製の函体124が設けられ、貯槽の中央部付近でも上記鋼型材126と鋼板材127とに浮力を付与するようになっている。上記環状の梁125の外側面、すなわち壁体1の内周面と対向する面には、図1に示す貯槽の浮き屋根と同様に、環状の梁125と壁体1の内周面との間を密閉するとともに、水平力を伝達して浮枠体121の水平方向の移動を拘束する緩衝部材128が設けられ、薄い金属板129で被覆されている。
【0062】
浮き屋根としての機能を有する浮枠体121の下側には、図1に示す装置で用いられているものと同じ下方枠体122が設けられており、浮枠体121と水平方向の相対変位を許容するように連結されている。そして、浮枠体121と下方枠体122との間には流動抵抗付与部材として柔軟な網状部材123が張設されている。
【0063】
このような装置では、スロッシング発生時における水平方向の液体移動が網状部材123によって阻害され、抵抗が付与される。そして、網状部材123に作用する反力は浮枠体121に伝達され、浮枠体121は壁体1によって水平方向の移動が拘束される。
また、この装置では、浮枠体と浮き屋根とを別途に設ける必要がなく、部材数を低減して安価に製作することができる。
【0064】
なお、図10及び図11に示す装置において、流動抵抗付与部材としては、図1に示す装置と同様に、図3,図4又は図5に示すような構造のものを用いることもできる。また、下方枠体は、浮き屋根として機能する浮枠体と一体に結合されたものとすることもできる。
【0065】
図12は、請求項13に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
この装置は、浮き屋根として機能する浮枠体131と、この浮枠体の下面から下方に突き出すように設けられた縦枠132と、この縦枠132に張設された網状部材133とで主要部が構成されている。
【0066】
上記浮枠体131は、上側デッキ板131aと下側デッキ板131bとこれらの間に形成される空間を仕切る仕切板131cとを備えており、ダブルデッキタイプの浮き屋根として広く用いられているものである。そして、半径方向及び周方向に配置されたリブによって補強されており、容易に変形しない剛性を備えている。また、上記縦枠132は浮枠体131の下面から下方へ突き出すように設けられており、上端部は水平方向の力及び曲げモーメントが上記浮枠体131に伝達されるように固着された構造となっている。
【0067】
このような装置では、スロッシング発生時のに液面付近で生じた水平方向の液体移動は、浮枠体131から下方に突き出すように支持された網状部材133によって抵抗が付与され、減衰する。そして、網状部材133に作用する反力は、縦枠132から浮枠体131に伝達され、浮枠体131は貯槽の壁体1によって水平方向の移動が拘束される。
【0068】
図13は、請求項11に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
この装置は、浮枠体141を浮き屋根2と連結して保持するとともに、この浮枠体141から柔軟に変形する網状部材142を垂下し、その下端部に横梁143を介して重錘144を設けたものである。
【0069】
上記浮枠体141は、図1に示す装置で用いられているものとほぼ同じ構成を備えるものであるが、浮枠体141の自重と網状部材142と横梁143と重錘144との全体に作用する浮力がこれら全体に作用する重力とほぼ同じとなるように、函体の数及び大きさ等が設定されている。そして、周縁部で浮き屋根2と連結され、液面下の所定の高さに保持されている。
【0070】
この装置では、スロッシング発生時に液面付近で生じる水平方向の流れによって、上記網状部材142の下部が流れの下流側に押し流されるように変形しようとする。これに対して重錘144に作用する重力が網状部材142の下端を下方へ引っ張り、網状部材142は傾斜した状態で液体の流動に対して抵抗を付与するものとなる。そして、この反力は網状部材142の引張力として浮枠体141に伝達され、浮枠体141の周縁部に設けられた水平力伝達部145から壁体1に伝達される。
また、この装置では、貯槽内に貯留する液体が減少し、浮枠体141及び浮き屋根2が下降して底板3との間隔が小さくなったときには、上記網状部材142が底板上に降り畳まれ、浮枠体141及び浮き屋根2の下降を阻害しないようになっている。
【0071】
図14は、 請求項12に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
この装置は、図13に示す装置と同じ浮枠体151を備え、この浮枠体151から柔軟に変形する網状部材152を垂下している。網状部材152は貯槽の中央部付近のみに設けられ、中心付近から放射状に複数枚が取り付けられている。また、周方向にも設けられて中央部付近ではどの方向へ液体の移動が生じても有効に抵抗を付与できるものとなっている。これら複数枚の網状部材152の下端にはそれぞれ鋼型材が取り付けられるとともに、これらの鋼型材が一体に連結され、枠体153を形成している。重錘154はこの枠体153から吊支持されており、枠体153が液体の流動によって水平方向に変位したときに復元力を付与するものとなっている。
【0072】
このよな装置では、液面付近の液体移動に対して網状部材152が流れの下流側に押し流されるように変形するが、枠体153及びこれに吊支持される重錘154によって復元力が付与され、枠体153及び全ての重錘154が復元力に寄与するものとなる。従って、全体の重量を低減することができ、浮枠体151の構造も簡略化されて製造費用も低減される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置の概略平面図及び概略断面図である。
【図2】図1に示すスロッシング抑制装置の構造を示す拡大断面図である。
【図3】図1に示すスロッシング抑制装置の流動抵抗付与部材に代えて用いることができる流動抵抗付与部材の他の例であって、請求項5又は請求項6に係る発明の一実施形態を示す断面図である。
【図4】図1に示すスロッシング抑制装置の流動抵抗付与部材に代えて用いることができる流動抵抗付与部材の他の例であって、請求項5又は請求項7に係る発明の一実施形態を示す断面図及び側面図である。
【図5】図1に示すスロッシング抑制装置の流動抵抗付与部材に代えて用いることができる流動抵抗付与部材の他の例を示す断面図であって、請求項8又は請求項9に係る発明の一実施形態を示す断面図である。
【図6】図1に示すスロッシング抑制装置の浮枠体に代えて用いることができる浮枠体の他の例を示す平面図である。
【図7】請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置の概略断面図である。
【図8】請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置の概略断面図である。
【図9】請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項10に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置の概略断面図である。
【図10】請求項13に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
【図11】図10に示すスロッシング抑制装置の拡大断面図である。
【図12】請求項13に係る発明の他の実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
【図13】請求項11に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
【図14】請求項12に係る発明の一実施形態であるスロッシング抑制装置を示す概略断面図である。
【図15】円筒型の貯槽でスロッシングが生じたときの液面の状態及び液体の流動の状態を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0074】
1:壁体、 2:浮き屋根、 3:底板、 4:浮き屋根、 10:浮枠体、 11:鋼型材、 12:函体、 13:パッド、 14:金属板、 15:連結材、 16、17:鋼型材、 18:函体、 19:管材、 20:下方枠体、 21:鋼型材、 22:函体、 23:パッド、 24:金属板、 25:連結材、 30:網状部材、 40:流動抵抗付与部材、 41:板状部材、 42:回動軸、 50:流動抵抗付与部材、 51:ワイヤ、 52:棒状部材、 60:流動抵抗付与部材、 61:リンク機構、 62:網状部材、 70:流動抵抗付与部材、 71:第1の縦枠、 72:第2の縦枠、 73:網状部材、 74:係合輪、 81:浮枠体、 82:下方枠体、 83:網状部材、 84:函体、 91:浮枠体、 92下方枠体、 93:網状部材、 94:函体、 95:吊材、 101:浮枠体、 102:下方枠体、 103:網状部材、 104:函体、 105:ワイヤ、 106:充分な重量を有する部材(アンカー)、 111:浮枠体、 112:第1の下方枠体、 113:第2の下方枠体、 114:網状部材、 115:函体、 116:吊材、 121:浮枠体、 122:下方枠体、 123:網状部材、 124:函体、 125:環状の梁、 126:鋼型材、 127:鋼板材、 128:緩衝部材、 129:薄い金属板、 131:浮枠体、 132:縦枠、 133:網状部材、 141:浮枠体、 142:網状部材、 143:横梁、 144:重錘、 151:浮枠体、 152:網状部材、 153:枠体、 154:重錘
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の壁体を有する液体貯槽内の液面付近に、貯留液体から作用する浮力で保持され、水平方向の移動が前記壁体の内周面に当接して拘束される浮枠体と、
該浮枠体から下方に支持され、液面付近で水平方向へ移動する液体に抵抗を付与する流動抵抗付与部材とを有することを特徴とするすスロッシング抑制装置。
【請求項2】
前記浮枠体は、前記壁体の周方向に所定の間隔で内周面と対向し、又は周方向に連続して内周面と対向する水平力伝達部を備え、
該水平力伝達部は、前記壁体の内周面に当接され、柔軟に変形する緩衝部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項3】
前記浮枠体の下方に所定の間隔で保持され、水平方向の移動が前記壁体の内周面に当接して拘束される下方枠体を有し、
前記流動抵抗付与部材は、前記浮枠体と前記下方枠体との間に支持されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項4】
上記流動抵抗付与部材は、網状部材、穴あき板、間隔をあけて配置された複数の棒状部材、格子状部材、分割された複数の板部材から選択される1又は複数の部材の組み合わせであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のスロッシング抑制装置。
【請求項5】
前記流動抵抗付与部材は、上端と下端との距離が短縮可能な部材であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載のスロッシング抑制装置。
【請求項6】
上記流動抵抗付与部材は、複数の穴あき板、剛性を有する網状部材、格子状部材又は板部材が、水平方向の軸線回りに互いに回動が可能に連結されたものであることを特徴とする請求項5に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項7】
上記流動抵抗付与部材は、横方向に架け渡された複数の棒状部材を柔軟な線部材もしくは鎖状部材で吊支持したものであることを特徴とする請求項5に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項8】
上記流動抵抗付与部材は、横方向に架け渡された複数の棒状部材を、複数のエレメントを互いに回動が可能に連結したリンク機構によって支持したものであることを特徴とする請求項5に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項9】
上記流動抵抗付与部材は、複数の板部材又はパネル状の部材が互いに上下方向に連結され、前記浮枠体が該貯槽底部付近まで下降したときには、相互間で上下方向に摺動して重なり合うように接合されていることを特徴とする請求項5に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項10】
前記下方枠体は、上下方向に複数が配置され、それぞれの間に前記流動抵抗付与部材が設けられていることを特徴とする請求項3に記載のスロッング抑制装置。
【請求項11】
前記流動抵抗付与部材は、前記浮枠体から吊支持され、下端部に重錐が取り付けられていることを特徴する請求項1又は請求項2に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項12】
複数の方向に設けられた前記流動抵抗付与部材のそれぞれの下端部に梁が支持され、この梁を互いに連結して枠体が形成されており、
前記重錐は、前記枠体から吊支持されていることを特徴とする請求項11に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項13】
前記浮枠体は、液面を覆う浮き屋根であることを特徴とする請求項1から請求項12までのいずれかに記載のスロッシング抑制装置。
【請求項1】
円筒状の壁体を有する液体貯槽内の液面付近に、貯留液体から作用する浮力で保持され、水平方向の移動が前記壁体の内周面に当接して拘束される浮枠体と、
該浮枠体から下方に支持され、液面付近で水平方向へ移動する液体に抵抗を付与する流動抵抗付与部材とを有することを特徴とするすスロッシング抑制装置。
【請求項2】
前記浮枠体は、前記壁体の周方向に所定の間隔で内周面と対向し、又は周方向に連続して内周面と対向する水平力伝達部を備え、
該水平力伝達部は、前記壁体の内周面に当接され、柔軟に変形する緩衝部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項3】
前記浮枠体の下方に所定の間隔で保持され、水平方向の移動が前記壁体の内周面に当接して拘束される下方枠体を有し、
前記流動抵抗付与部材は、前記浮枠体と前記下方枠体との間に支持されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項4】
上記流動抵抗付与部材は、網状部材、穴あき板、間隔をあけて配置された複数の棒状部材、格子状部材、分割された複数の板部材から選択される1又は複数の部材の組み合わせであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のスロッシング抑制装置。
【請求項5】
前記流動抵抗付与部材は、上端と下端との距離が短縮可能な部材であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載のスロッシング抑制装置。
【請求項6】
上記流動抵抗付与部材は、複数の穴あき板、剛性を有する網状部材、格子状部材又は板部材が、水平方向の軸線回りに互いに回動が可能に連結されたものであることを特徴とする請求項5に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項7】
上記流動抵抗付与部材は、横方向に架け渡された複数の棒状部材を柔軟な線部材もしくは鎖状部材で吊支持したものであることを特徴とする請求項5に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項8】
上記流動抵抗付与部材は、横方向に架け渡された複数の棒状部材を、複数のエレメントを互いに回動が可能に連結したリンク機構によって支持したものであることを特徴とする請求項5に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項9】
上記流動抵抗付与部材は、複数の板部材又はパネル状の部材が互いに上下方向に連結され、前記浮枠体が該貯槽底部付近まで下降したときには、相互間で上下方向に摺動して重なり合うように接合されていることを特徴とする請求項5に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項10】
前記下方枠体は、上下方向に複数が配置され、それぞれの間に前記流動抵抗付与部材が設けられていることを特徴とする請求項3に記載のスロッング抑制装置。
【請求項11】
前記流動抵抗付与部材は、前記浮枠体から吊支持され、下端部に重錐が取り付けられていることを特徴する請求項1又は請求項2に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項12】
複数の方向に設けられた前記流動抵抗付与部材のそれぞれの下端部に梁が支持され、この梁を互いに連結して枠体が形成されており、
前記重錐は、前記枠体から吊支持されていることを特徴とする請求項11に記載のスロッシング抑制装置。
【請求項13】
前記浮枠体は、液面を覆う浮き屋根であることを特徴とする請求項1から請求項12までのいずれかに記載のスロッシング抑制装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−8148(P2006−8148A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184645(P2004−184645)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]