説明

スロッシング荷重軽減装置及びスロッシング荷重軽減装置付き船舶

【課題】タンク内に収納する液体の自由表面の動揺を軽減できるスロッシング荷重軽減装置及びスロッシング荷重軽減装置付き船舶を提供すること。
【解決手段】タンク10内の液体11の自由表面12に臨ませるとともに水平方向に自由度をもたせた膜体21と、膜体21の両端部をタンク10内で支持する支持手段22aと、膜体21を中間部において下方に引っ張る張引手段23とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク内に収納する液体の自由表面の動揺を軽減できるスロッシング荷重軽減装置及びスロッシング荷重軽減装置付き船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にスロッシングとは、液体をタンクにより運搬、貯蔵する際に、種々の周期的外力のためにタンク内の液体が運動・同調することで、水平方向、垂直方向及び回転の過剰な液体流動となる現象であり、液体貨物運搬船貨物艙の損傷や地震時における石油備蓄施設の損傷原因となっている。
従来のスロッシング防止策の多くは、石油備蓄施設における浮屋根式円筒タンクに対応したものであり、その多くが浮屋根に付加した機構を用いることにより、損傷や火災の原因となる浮屋根の沈没を防止することを主目的としている。一方、船舶等の液体貨物運搬時におけるスロッシング対策としては、古くから貨物艙内部に仕切りを設置し液体の運動を抑制する手法を用いているが、液体貨物の多様化が進み、各々の液体貨物に適したタンク構造が考案される中、船舶で言えばLNG船やケミカルタンカーといった従来からの仕切板等による対策が困難な貨物艙を有する船種も建造されている。このような船種へのスロッシング対策としては、タンクの形状毎に、貨物液位、動揺運動、動揺周期をパラメータとした実験や数値計算を実施し、危険な運航条件を導き出し、オペレーションにより回避しているのが現状であり、積み付け制限等による制約が多く、利便性に乏しい運用を強いられている。
以下に従来提案されているスロッシング荷重軽減装置を説明する。
浮屋根式タンクに対応したスロッシング抑制材としては特許文献1に示されるようなものがある。特許文献1では、浮屋根をタンク底の近隣まで降下させても機能させることができるスロッシング抑制材を提案している。特許文献1によるスロッシング抑制材は、容器の内壁に対向する浮屋根の外周端から容器の底に向けて、容器に貯留される液体の所定領域を包囲するように湾曲して延び、容器の底に連結される膜部材からなる。
特許文献2では、定在波の発生を招く固有モードの形成を阻害することでスロッシングを抑制するようにしたスロッシング防止装置を提案している。特許文献2によるスロッシング防止装置は、容器の内壁に気体を充填した空室を配設している。
特許文献3では、水面近傍にスロッシング抑制ケースを設置することを提案している。このスロッシング抑制ケースは、スロッシングにより持ち上がった液面を一時保持し、任意の時刻で保持した液体を開放する機能を持ち、周期的な液位の変動に乱れを与え、スロッシングを抑制するものである。
特許文献4では、円筒状の壁面を有する液体貯槽内の液面付近に、貯留液体から作用する浮力で保持され、水平方向の移動が液体の内壁面に当接して拘束される浮枠体と、この浮枠体から下方に支持され、液面付近で水平方向へ移動する液体に抵抗を付与する流動抵抗付与部材とを備えたスロッシング抑制装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−253971号公報
【特許文献2】特開平8−198387号公報
【特許文献3】特開昭60−243596号公報
【特許文献4】特開2006−8148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えば船舶に搭載されるタンクのように、タンク形状が垂直方向よりも水平方向に長いタイプであり、特にタンクの長手方向に流体の動揺によるスロッシング影響が大きな場合に適したスロッシング荷重軽減装置は提案されていない。
そして、船舶の様々な形状の貨物艙にも対応可能なスロッシング抑制機構を開発することにより、貨物艙の寸法を目的に応じて自由に設計することができ、有効的且つ安全な液体貨物の運搬が可能となる。
【0005】
そこで本発明は、タンク内に収納する液体の自由表面の動揺を軽減できるスロッシング荷重軽減装置及びスロッシング荷重軽減装置付き船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応したスロッシング荷重軽減装置においては、液体を収納するタンクと、前記液体の自由表面に臨ませるとともに水平方向に自由度をもたせた膜体と、膜体の両端部をタンク内で支持する支持手段と、膜体を中間部において下方に引っ張る張引手段とを備えたことを特徴とする。請求項1に記載の本発明によれば、液体の運動による自由表面変形に膜体が追随して変動するときに、張引手段によって中間部を拘束しているので液体の流動を抑えて自由表面の動揺を軽減することができる。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載のスロッシング荷重軽減装置において、膜体をタンクの長さよりも長く設定し、膜体の中間部を下方に弛ませて液体中に液没させたことを特徴とする。請求項2に記載の本発明によれば、膜体の液没箇所において、タンクの長さ方向に移動する液体の流動を抑えることができる。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載のスロッシング荷重軽減装置において、張引手段として、ロープを用いたことを特徴とする。請求項3に記載の本発明によれば、ロープによって膜体を引っ張ることで、自由表面変形に応じた膜体の変形自由度を制御することができる。
請求項4記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載のスロッシング荷重軽減装置において、張引手段として、張引膜を用いたことを特徴とする。請求項4に記載の本発明によれば、張引膜によっても移動する液体の流動を抑えることができる。
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載のスロッシング荷重軽減装置において、膜体が液体の自由表面に臨むように、膜体の浮力を液体の密度との関係において設定したことを特徴とする。請求項5に記載の本発明によれば、膜体を液体の自由表面に臨ませることができる。
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載のスロッシング荷重軽減装置において、膜体に浮力を与えるフロートを膜体の上面において凸状を成すように設けたことを特徴とする。請求項6に記載の本発明によれば、膜体の上面を走る液体の移動を抑えることができる。
請求項7記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載のスロッシング荷重軽減装置において、液体の自由表面の高さに応じて、張引手段の長さを変える張引変更手段をさらに備えたことを特徴とする。請求項7に記載の本発明によれば、タンク内に収納する液体量に応じて膜体を液体の自由表面の高さに臨ませることができる。
請求項8記載の本発明は、請求項1から請求項7のいずれかに記載のスロッシング荷重軽減装置において、液体の運動による自由表面の変形に応じて、支持手段の上下位置が変わる支持位置調節手段をさらに備えたことを特徴とする。請求項8に記載の本発明によれば、特に液体の自由表面の動揺が大きな場合にも膜体を液面に追随させることができる。
請求項9記載の本発明は、請求項8に記載のスロッシング荷重軽減装置において、支持位置調節手段によって支持手段の上限及び/又は下限を規制することを特徴とする。請求項9に記載の本発明によれば、タンクへの膜体の衝突を防止することができる。
請求項10記載の本発明は、請求項1から請求項9のいずれかに記載のスロッシング荷重軽減装置において、膜体を複数箇所に設けた張引手段で張引したことを特徴とする。請求項10に記載の本発明によれば、自由表面変形に応じた膜体の変形自由度を制御することができる。
請求項11記載の本発明は、請求項1から請求項10のいずれかに記載のスロッシング荷重軽減装置において、張引手段には、衝撃荷重を緩和する緩衝手段をさらに備えたことを特徴とする。請求項11に記載の本発明によれば、膜体の運動によって生じる張引手段への衝撃を緩和させることができる。
請求項12記載に対応したスロッシング荷重軽減装置付き船舶においては、請求項1から請求項11のいずれかに記載のスロッシング荷重軽減装置を搭載したことを特徴とする。請求項12に記載の本発明によれば、航行時に生じる船体動揺によるスロッシングに有効に対応できる。
請求項13記載の本発明は、請求項12に記載のスロッシング荷重軽減装置付き船舶において、タンクの長さ方向が船長方向又は船幅方向となるようにタンクを配置したことを特徴とする。請求項13に記載の本発明によれば、スロッシングが懸念される方向にタンクを配置することでスロッシングを有効に防止できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスロッシング荷重軽減装置によれば、タンク内に収納する液体の自由表面の動揺を軽減できる。そして、例えば船舶に適用した場合には、様々な形状の貨物艙に対応できるため、貨物艙の寸法を目的に応じて自由に設計することができ、簡単な構造で有効的且つ安全な液体貨物の運搬が可能となる。
なお、膜体をタンクの長さよりも長く設定し、膜体の中間部を下方に弛ませて液体中に液没させた場合には、膜体の液没箇所において、タンクの長さ方向に移動する液体の流動を抑えることができる。
また、張引手段としてロープを用いた場合には、ロープによって膜体を引っ張ることで、自由表面変形に応じた膜体の変形自由度を制御することができる。
また、張引手段として張引膜を用いた場合には、張引膜によっても移動する液体の流動を抑えることができる。
また、膜体の浮力を液体の密度との関係において設定した場合には、膜体を液体の自由表面に臨ませることができる。
また、膜体に浮力を与えるフロートを膜体の上面において凸状を成すように設けた場合には、膜体の上面を走る液体の移動を抑えることができる。
また、液体の自由表面の高さに応じて、張引手段の長さを変える張引変更手段をさらに備えた場合には、タンク内に収納する液体量に応じて膜体を液体の自由表面の高さに臨ませることができる。
また、液体の運動による自由表面の変形に応じて、支持手段の上下位置が変わる支持位置調節手段をさらに備えた場合には、特に液体の自由表面の動揺が大きな場合にも膜体を液面に追随させることができ、また過大な力が膜体にかかることを制限できる。
また、支持位置調節手段によって支持手段の上限及び/又は下限を規制する場合には、液体の自由表面の動揺軽減を図りつつ、タンクへの膜体の衝突を防止することができる。
また、膜体を複数箇所に設けた張引手段で張引した場合には、自由表面変形に応じた膜体の変形自由度を制御することができる。
また、張引手段に衝撃荷重を緩和する緩衝手段をさらに備えた場合には、膜体の運動によって生じる張引手段や膜体への衝撃を緩和させることができる。
本発明のスロッシング荷重軽減装置付き船舶によれば、航行時に生じる船体動揺によるスロッシングに有効に対応できる。
また、タンクの長さ方向が船長方向又は船幅方向となるようにタンクを配置したときには、特にタンクが長い場合であっても、スロッシングが懸念される方向にタンクを配置することでスロッシングを有効に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態によるスロッシング荷重軽減装置を示す断面図、(b)は(a)におけるA−A矢視図、(c)は(b)におけるB−B矢視図
【図2】本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置の同調時における挙動図
【図3】(a)は本発明の第2の実施形態によるスロッシング荷重軽減装置を示す断面図、(b)は(a)におけるA−A矢視図、(c)は(b)におけるB−B矢視図
【図4】本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置の同調時における挙動図
【図5】(a)は本発明の第3の実施形態によるスロッシング荷重軽減装置を示す断面図、(b)は(a)におけるA−A矢視図、(c)は(b)におけるB−B矢視図
【図6】本発明の第4の実施形態によるスロッシング荷重軽減装置を示す断面図
【図7】本発明の第5の実施形態によるスロッシング荷重軽減装置を示す要部断面図
【図8】本発明の第6の実施形態によるスロッシング荷重軽減装置を示す要部断面図
【図9】本発明の第7の実施形態によるスロッシング荷重軽減装置を示す要部断面図
【図10】(a)は本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置付き船舶の要部上面断面図、(b)は同船舶の要部側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明のスロッシング荷重軽減装置の第1の実施形態について説明する。
図1(a)は本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置を示す断面図、図1(b)は図1(a)におけるA−A矢視図、図1(c)は図1(b)におけるB−B矢視図である。
本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置は、長手方向が水平方向となる直方体からなるタンク10に適用した場合を示している。なお、適用可能なタンク10は、直方体に限らず、頂部や底部が傾斜している角型タンク、又は円筒形タンクであってもよいが、高さ寸法よりも長さ又は幅方向の寸法が長いタイプが適している。
本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置は、タンク10内の液体11の自由表面12に臨ませるとともに水平方向に自由度をもたせた膜体21と、膜体21の両端部をタンク10内で支持する支持手段22aと、膜体21を中間部において下方に引っ張る張引手段23とを備えている。ここで張引手段23は、図示のように左右対称となるような中心位置でなくてもよく、膜体21の両端部の間に位置していればよい。
【0010】
膜体21は、タンク10の長さよりも長く設定しており、膜体21の中間部を下方に弛ませて液体11中に液没させている。膜体21は、液体11の自由表面12に臨むように、膜体21の浮力を液体11の密度との関係において設定している。
支持手段22aは、膜体21の短辺両端及び短辺中央の位置にそれぞれ設けている。支持位置調節手段22bは、タンク10の長手方向の対向する壁面に沿って、垂直方向に設けた複数本の柱状部材によって構成している。支持手段22aは、柱状部材からなる支持位置調節手段22bに沿って上下動でき、液体11の運動による自由表面12の変形に応じて支持手段22aの上下位置が変わる。
また、支持位置調節手段22bには、支持位置規制手段22c、22dを設けている。支持位置規制手段22cは支持位置調節手段22bの上限を規制し、支持位置規制手段22dは支持位置調節手段22bの下限を規制している。支持位置規制手段22c、22dは、例えば支持位置調節手段22bに設けた突起物であり、支持手段22aの上下動を所定の高さで阻止する部材である。
張引手段23には複数のロープを用いており、張引手段23の一端を膜体21に接続するとともに他端をタンク10の底面に接続している。
膜体21の上面には、膜体21に浮力を与えるフロート24を設けている。フロート24は、膜体21の上面に凸状を成すように設けている。フロート24は、膜体21の短辺方向に所定長さを有する形状の凸状部材であり、膜体21の中央部には配置せず、それぞれの端部寄りに複数設けている。このフロート24は、別体として形成し膜体21に付設しても、膜体21と一体的に形成してもよい。
張引手段23の他端側には、液体11の自由表面12の高さに応じて、張引手段23の長さを変える張引変更手段25を設けている。また、張引手段23の他端には、衝撃荷重を緩和する緩衝手段26を設けている。ここで緩衝手段26としては、例えばバネのような弾性体、又は油圧や空気圧によるダンパー、また弾性体とダンパーの組み合わせなどを用いることができる。
【0011】
図2を用いて本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置の動作状態を説明する。
図2は、本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置の同調時における挙動図である。
図2に示すように、一端側膜体21xは液体11の運動による自由表面12の変形に追随する。このとき、張引手段23が緊張状態となり、また支持位置規制手段22cにより支持手段22aが拘束されるため、一端側膜体21xの運動が抑制され、その結果として液体11の流動を抑えられる。このとき他端側膜体21yは、張引手段23の作用により図2に示すように張引手段23部の弛みが変形し、右側の液体の左側への流動が軽減される。
張引手段23の緊張時には、軸方向に衝撃荷重が発生するが、緩衝手段26により緩和される。また、膜体21の上面に存在する液体11xにより、弛んでいる膜体21の余分な振れ回りを抑制する。そして、この膜体21の上面に存在する液体11xが側面方向へ移動する流れはフロート24により抑止される。
【0012】
以上のように、本実施形態によれば、液体11の運動による自由表面12の変形に膜体21が追随して変動するときに、張引手段23によって中間部を拘束しているので、液体11の流動を抑えて自由表面12の動揺を軽減することができる。
また、膜体21をタンク10の長さよりも長く設定し、膜体21の中間部を下方に弛ませて液体11中に液没させているので、膜体21の液没箇所において、タンク10内で移動する液体11の流動を抑えることができる。
また、張引手段23としてロープを用い、ロープによって膜体21を引っ張ることで、自由表面12の変形に応じた膜体21の変形自由度を制御することができる。
また、膜体21の浮力を液体11の密度との関係において設定することで、膜体21を液体の自由表面12に臨ませることができる。
また、フロート24を膜体21の上面において凸状を成すように設けたことで、膜体21の上面を走る液体11の移動を抑えることができる。
また、張引変更手段25を備えたことで、タンク10内に収納する液体11の量に応じて膜体21を液体11の自由表面12の高さに臨ませることができる。
また、支持位置調節手段22bを備えたことで、特に液体11の自由表面12の動揺が大きな場合にも膜体21を液面に追随させ、過大な力が膜体21にかかることを制限できる。
また、支持位置規制手段22c、22dによって支持手段22aの上限位置や下限位置を規制することで、液体の自由表面の動揺軽減を図りつつ、タンク10への膜体21の衝突を防止することができる。
また、膜体21を複数箇所に設けた張引手段23で張引したことで、自由表面12の変形に応じた膜体21の変形自由度を制御することができる。
また、緩衝手段26を備えたことで、膜体21の運動によって生じる張引手段23や膜体21への衝撃を緩和させることができる。
【0013】
以下に、本発明のスロッシング荷重軽減装置の第2の実施形態について説明する。
図3(a)は本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置を示す断面図、図3(b)は図3(a)におけるA−A矢視図、図3(c)は図3(b)におけるB−B矢視図である。上記実施形態と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置では、膜体21Aは、タンク10の長さよりも長く設定しているが、膜体21Aの中間部を液体11中に液没させていない。膜体21Aは、液体11の自由表面12に臨むように、膜体21Aの浮力を液体11の密度との関係において設定している。
張引手段23には、張引膜23aと複数のロープ23bを用いており、張引膜23aの一端を膜体21Aの中間部に接続するとともに他端にロープ23bを接続し、このロープ23bを介してタンク10の底面に接続している。ここで膜体21Aにおける中間部は、図示のように左右対称となるような中心位置でなくてもよく、膜体21Aの両端部の間に位置していればよい。張引膜23aは、膜体21Aと同一幅又は膜体21Aよりも短い幅で、膜体21Aの一部で構成されていても、また別部材を接続したものでもよい。
本実施形態によるフロート24は、膜体21Aの中央部にも配置している。ロープ23bの他端側には、液体11の自由表面12の高さに応じて、ロープ23bの長さを変える張引変更手段25を設けている。また、ロープ23bの他端には、衝撃荷重を緩和する緩衝手段26を設けている。
【0014】
図4を用いて本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置の動作状態を説明する。
図4は、本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置の同調時における挙動図である。
図4に示すように、一端側膜体21Axは支持手段22aが支持位置規制手段22cを支点として液体11の運動による自由表面12の変形に追随する。このとき、同時に張引膜23aは液体11の流動により変形し、一端側膜体21Axの上下動を抑える。張引膜23aの変形時には、ロープ23bが緊張し、軸方向に衝撃荷重が発生するが、緩衝手段26により緩和される。張引膜23aは、液体11の左方向への流動Xを縦方向の流動Yへと変化させることにより抑制し、他端側膜体21Ayを変形させ、左方向への液体11の流動Xの調整手段としての機能を持つ。
【0015】
以上のように、本実施形態によれば、液体11の運動による自由表面12の変形に膜体21Aが追随して変動するときに、張引膜23a及びロープ23bによって中間部を拘束しているので、液体11の流動を抑えて自由表面12の動揺を軽減することができる。
また、膜体21Aをタンク10の長さよりも長く設定し、膜体21Aの中間部下方に張引膜23aを配置しているので、張引膜23aに過大な力をかけることなく、タンク10内で移動する液体11の流動を抑えることができる。
また、張引膜23aをロープ23bによって引っ張ることで、膜体21Aおよび張引膜23aの変形自由度を制御することができる。
また、膜体21Aの浮力を液体11の密度との関係において設定することで、膜体21Aを液体の自由表面12に臨ませることができる。
また、フロート24を膜体21Aの上面において凸状を成すように設けたことで、膜体21Aの上面を走る液体11の移動を抑えることができる。
また、張引変更手段25を備えたことで、タンク10内に収納する液体11の量に応じて膜体21Aを液体11の自由表面12の高さに臨ませることができる。
また、支持位置調節手段22bを備えたことで、特に液体11の自由表面12の動揺が大きな場合にも膜体21Aを液面に追随させ、過大な力が膜体21Aにかかることを制限できる。
また、支持位置規制手段22c、22dによって支持手段22aの上限位置や下限位置を規制することで、液体の自由表面の動揺軽減を図りつつ、タンク10への膜体21Aの衝突を防止しすることができる。
また、膜体21Aを複数箇所に設けたロープ23bで張引したことで、自由表面12の変形に応じた膜体21Aおよび張引膜23aの変形自由度を制御することができる。
また、緩衝手段26を備えたことで、膜体21Aの運動によって生じる膜体21A自身や張引膜23aやロープ23bへの衝撃を緩和させることができる。
なお、本実施形態における張引膜23aを、第1の実施形態における膜体21の中間部に設けてもよい。また、ロープ23bを用いずに、張引膜23aのみで構成することもできる。
また、本実施形態における膜体21Aとして伸縮性を有する膜で構成してもよい。伸縮性を有する膜体21Aを用いる場合にも、タンク10の長さよりも長く設定してもよいし、タンク10の長さと同一長さとしてもよい。更には、伸縮性を有する膜体21Aを用いる場合には、タンク10の長さよりも短いものを用いて、所定の張力を持たせて設置してもよい。
【0016】
以下に、本発明のスロッシング荷重軽減装置の第3の実施形態について説明する。
図5(a)は本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置を示す断面図、図5(b)は図5(a)におけるA−A矢視図、図5(c)は図5(b)におけるB−B矢視図である。上記実施形態と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置は、タンク10Aが長さ方向だけでなく幅方向の寸法も長い場合に適したものである。
本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置では、膜体21Bは、タンク10Aの長さ及び幅よりも長く設定しているが、膜体21Bの中間部を液体11中に液没させていない。膜体21Bは、液体11の自由表面12に臨むように、膜体21Bの浮力を液体11の密度との関係において設定している。
張引手段23には、第2の実施形態と同様に張引膜23aと複数のロープ23bを用いているが、2つの張引膜23aを交叉するように配置している。張引膜23aは、膜体21Bと同一幅若しくは同一長さ又は膜体21Bよりも短い幅若しくは短い長さで、膜体21Bの一部で構成されていても、また別部材を接続したものでもよい。
本実施形態によれば、長さ方向だけでなく幅方向にも大きな寸法を有するタンク10Aにおいても、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
なお、本実施形態における膜体21Bの中間部を第1の実施形態のように弛ませてもよい。
また、本実施形態における膜体21Bとして伸縮性を有する膜で構成してもよい。伸縮性を有する膜体21Bを用いる場合にも、タンク10Aの長さよりも長く設定してもよいし、タンク10Aの長さと同一長さとしてもよい。更には、伸縮性を有する膜体21Bを用いる場合には、タンク10Aの長さよりも短いものを用いて、所定の張力を持たせて設置してもよい。
【0017】
以下に、本発明のスロッシング荷重軽減装置の第4の実施形態について説明する。
図6は本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置を示す断面図である。上記実施形態と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態は、第1の実施形態における膜体21に代えて、伸縮性を有する膜体21Cを用いたものである。従って、図示のように、膜体21Cは、中間部を下方に弛ませて液体11中に液没させていない。膜体21Cにおいても、液体11の自由表面12に臨むように、膜体21Cの浮力を液体11の密度との関係において設定している。
なお、本実施形態においては、張引手段23として複数のロープを用いる場合を示しているが、第2の実施形態に示すように、張引手段23として、張引膜23aと複数のロープ23bを用いてもよい。
本実施形態によれば、液体11の運動による自由表面12の変形に膜体21Cが追随して変動するときに、張引手段23によって中間部を拘束しているので、液体11の流動を抑えて自由表面12の動揺を軽減することができる。
本実施形態においても、膜体21Cの伸縮性によって程度は異なるが、図2と同様に張引手段23部で膜体21Cが下方に凸に変形し、右側の液体の左側への流動が軽減される。
【0018】
以下に、本発明のスロッシング荷重軽減装置の第5の実施形態について説明する。
図7は本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置の要部断面図である。上記実施形態と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態は、第4の実施形態における膜体21Cに代えて、膜体21Aを用いるとともに膜体21Aと支持手段22aとの間に弾性部材31を設けたものである。
なお、第4の実施形態における膜体21Cに弾性部材31を設けてもよい。
また、本実施形態においても、張引手段23として複数のロープを用いる場合を示しているが、第2の実施形態に示すように、張引手段23として、張引膜23aと複数のロープ23bを用いてもよい。
本実施形態によれば、液体11の運動による自由表面12の変形に膜体21Aが追随して変動するときに、張引手段23によって中間部を拘束しているので、液体11の流動を抑えて自由表面12の動揺を軽減することができる。
本実施形態においても、弾性部材31の弾性によって程度は異なるが、図2と同様に張引手段23部で膜体21Aが下方に凸に変形し、右側の液体の左側への流動が軽減され得る。
【0019】
以下に、本発明のスロッシング荷重軽減装置の第6の実施形態について説明する。
図8は本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置の要部断面図である。上記実施形態と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態は、第4の実施形態における膜体21Cに代えて、膜体21Aを用いるとともに膜体21Aと支持手段22aとの間に弛み膜体32を別体で設けたものである。
また、本実施形態においても、張引手段23として複数のロープを用いる場合を示しているが、第2の実施形態に示すように、張引手段23として、張引膜23aと複数のロープ23bを用いてもよい。
本実施形態によれば、液体11の運動による自由表面12の変形に膜体21Aが追随して変動するときに、張引手段23によって中間部を拘束しているので、液体11の流動を抑えて自由表面12の動揺を軽減することができる。
本実施形態においても、図2と同様に張引手段23部で膜体21Aが下方に凸に変形し、右側の液体の左側への流動が軽減される。
【0020】
以下に、本発明のスロッシング荷重軽減装置の第7の実施形態について説明する。
図9は本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置の要部断面図である。上記実施形態と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態は、第1の実施形態における膜体21を用いるが、下方に弛ませて液体11中に液没させる中間部を長手方向に2箇所設けたものである。このように、液体11中に液没させる中間部を複数形成するように、膜体21を複数箇所に設けた張引手段23で張引してもよい。
なお、本実施形態においても、張引手段23として複数のロープを用いる場合を示しているが、第2の実施形態に示すように、張引手段23として、張引膜23aと複数のロープ23bを用いてもよい。
本実施形態によれば、液体11の運動による自由表面12の変形に膜体21が追随して変動するときに、張引手段23によって中間部を拘束しているので、液体11の流動を抑えて自由表面12の動揺を軽減することができる。
【0021】
以下に、本発明のスロッシング荷重軽減装置付き船舶の実施形態について説明する。
図10(a)は本実施形態によるスロッシング荷重軽減装置付き船舶の要部上面断面図、図10(b)は同船舶の要部側面断面図である。上記実施形態と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態は、フロート24の配置以外は第1の実施形態におけるスロッシング荷重軽減装置を船舶に適用した場合を示している。
本実施形態におけるフロート24は、長さの異なるフロート24a、24bを備えている。
本実施形態のように配置することで、一般に船舶40のピッチング角がローリング角よりも少ないこともあり、タンク10内の液体11の揺動が軽減され、特にタンク10が長い場合であっても、スロッシングを有効に防止できる。
なお、タンクの船舶に対する配置方向を問わず、スロッシングの起こりやすい方向にスロッシング荷重軽減装置を設けることもできる。また、本実施形態におけるスロッシング荷重軽減装置としては、第1の実施形態以外の実施形態で説明したスロッシング荷重軽減装置を適用することもできる。
また本実施形態におけるスロッシング荷重軽減装置は、油タンカー、LNG船、又はLPG船などの船舶に用いることができる。なお、タンク内の液体11が液化ガスのように超低温である場合には、膜体21、張引手段23、張引膜23a、及びロープ23bなどの材料にはアラミド繊維が適している。
また、上記実施形態において、膜体21の浮力を液体11の密度との関係において設定する場合には、膜体21自体の比重による調整の他、空気層を形成することで浮力調節を行ってもよい。
また、フロート24を設ける場合には、膜体21の上面に付設する場合の他、膜体21内に形成してもよく、膜体21とフロート24とは一体で構成しても別体で構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、油タンカー、LNG船、又はLPG船などの船舶に搭載されるタンクに適しているが、原油や液体資源を採取する浮体に備えるタンク、陸上で液体を輸送するタンクローリーや液体貨物列車のタンク、また液体の備蓄用のタンク等にも広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0023】
10 タンク
11 液体
12 自由表面
21 膜体
22a 支持手段
22b 支持位置調節手段
22c 支持位置規制手段
22d 支持位置規制手段
23 張引手段
24 フロート
25 張引変更手段
26 緩衝手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収納するタンクと、前記液体の自由表面に臨ませるとともに水平方向に自由度をもたせた膜体と、前記膜体の両端部を前記タンク内で支持する支持手段と、前記膜体を中間部において下方に引っ張る張引手段とを備えたことを特徴とするスロッシング荷重軽減装置。
【請求項2】
前記膜体を前記タンクの長さよりも長く設定し、前記膜体の前記中間部を下方に弛ませて前記液体中に液没させたことを特徴とする請求項1に記載のスロッシング荷重軽減装置。
【請求項3】
前記張引手段として、ロープを用いたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスロッシング荷重軽減装置。
【請求項4】
前記張引手段として、張引膜を用いたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスロッシング荷重軽減装置。
【請求項5】
前記膜体が前記液体の前記自由表面に臨むように、前記膜体の浮力を前記液体の密度との関係において設定したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のスロッシング荷重軽減装置。
【請求項6】
前記膜体に浮力を与えるフロートを前記膜体の上面において凸状を成すように設けたことを特徴とする請求項5に記載のスロッシング荷重軽減装置。
【請求項7】
前記液体の前記自由表面の高さに応じて、前記張引手段の長さを変える張引変更手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のスロッシング荷重軽減装置。
【請求項8】
前記液体の運動による前記自由表面の変形に応じて、前記支持手段の上下位置が変わる支持位置調節手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載のスロッシング荷重軽減装置。
【請求項9】
前記支持位置調節手段によって前記支持手段の上限及び/又は下限を規制することを特徴とする請求項8に記載のスロッシング荷重軽減装置。
【請求項10】
前記膜体を複数箇所に設けた前記張引手段で張引したことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載のスロッシング荷重軽減装置。
【請求項11】
前記張引手段には、衝撃荷重を緩和する緩衝手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載のスロッシング荷重軽減装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれかに記載のスロッシング荷重軽減装置を搭載したことを特徴とするスロッシング荷重軽減装置付き船舶。
【請求項13】
前記タンクの長さ方向が船長方向又は船幅方向となるように前記タンクを配置したことを特徴とする請求項12に記載のスロッシング荷重軽減装置付き船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−148511(P2011−148511A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9394(P2010−9394)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】