説明

セミ相互貫入高分子網目の組成物

塩基性多糖の架橋した水溶性誘導体のセミ相互貫入網目および、アニオン性多糖である非架橋成分から構成される新規組成物を提供する。そのような組成物の製造方法もまた開示する。好ましくは、塩基性多糖はキトサンまたはその誘導体であり、アニオン性多糖はヒアルロン酸である。組成物は、例えばゲルまたは膜に形成することができ、このように、皮膚科、形成外科、泌尿器科および整形外科の分野での広範囲の医学的用途で使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性多糖が酸性多糖の存在下で架橋されたセミ相互貫入網目(semi interpenetrating networks)として形成される架橋塩基性多糖を含むヒドロゲル組成物に関する。特に、塩基性多糖はキトサンまたはその誘導体であり、酸性多糖はヒアルロン酸(HA)またはその誘導体である。
【背景技術】
【0002】
生体適合性化合物が生物医学分野で広く使用されている。インビボでの滞留時間を延長するために、これらの化合物は、通常架橋により、しばしば化学的に修飾され、ポリマーネットワークが形成される。
【0003】
医学用途のために最も広く使用される生体適合性ポリマーの1つはヒアルロン酸(HA)である。全脊椎動物中に同じ化学組成の天然分子が存在するので、事実上、有害反応がなく、広く許容される。ヒアルロン酸は結合組織の非常に重要な成分であり、生体適合性が優れているために、そのヒドロキシルおよびカルボキシル部分の両方により分子を架橋させる多くの試みの対象であった。しかしながら、架橋はポリマーの化学構造を変化させ、例えば、軟組織増強において使用すると、結合組織中の細胞がその発達、移動および増殖において、それらが見いだされる環境により影響を受け、通常見られないヒアルロン酸ポリマーネットワークに曝露される。
【0004】
科学文献において、体外から投与された天然のヒアルロン酸が内因性ヒアルロン酸の合成を刺激するという証拠が増えており、そのため、インビボでの滞留時間が改善されており、同時に延長された時間にわたり天然の化学的に修飾されていない構造の内因性ヒアルロン酸を送達することができる生体高分子ネットワークを含む生体材料は、多くの生物医学用途の架橋ヒアルロン酸よりも潜在的な恩典を有すると仮定することができる。さらに、そのような生体材料は、天然の細胞外基質の他の多糖成分、例えばコンドロイチン、デルマタンおよびケラチン硫酸がポリマーネットワークに組み入れられると、細胞外基質の模倣物質としての用途を有することができると仮定できる。
【0005】
アミノ基含有塩基性多糖であるキトサンは生体高分子キチンの誘導体であり、科学文献において、優れた生体適合性を有するものとしてよく報告されており、多くの生物医学用途において使用されている。
【0006】
米国特許第5,977,330号では、カルボン酸を有するヒドロキシアシル化合物に置換され、その後、ポリエポキシドを用いて架橋される架橋N置換キトサン誘導体が開示されている。これらの架橋誘導体を使用するIPNを規定する試みはなされていない。
【0007】
米国特許第6,379,702号では、キトサンと親水性ポリ(N-ビニルラクタム)のブレンドが開示されている。この文書ではキトサンの架橋またはセミIPNの形成は開示されていない。
【0008】
米国特許第6,224,893号では、薬物送達および組織工学のためのセミ相互貫入または相互貫入ポリマーネットワークを形成するための組成物が開示されている。ここで、セミIPNは、合成および/または天然ポリマーから、光開始剤を用いて調製され、架橋は、電磁放射によるフリーラジカル生成により開始される。
【0009】
米国特許第5,644,049号では、成分の1つ、酸性多糖が、第2の成分、合成化学ポリマーに架橋され、無限ネットワークが形成されている貫入ポリマーネットワークを含む生体材料が開示されている。酸性多糖と塩基性多糖の架橋は開示されていない。
【0010】
米国特許第5,620,706号では、生物学的に活性な物質のカプセル化および制御放出のためのキサンタンおよびキトサンのポリイオン錯体を含む生体材料が開示されている。塩基性多糖と酸性多糖との共有結合による架橋は開示されていない。
【0011】
Berger et al., European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, 57(2004), 19-34では、セミIPN構造を含む、架橋キトサンヒドロゲルに対する様々な構造が開示されている。
【発明の開示】
【0012】
そのため、本発明者らは、カチオン多糖の誘導体を用いたセミIPNの形成に基づく新しい範囲の生体材料を開発した。カチオン多糖は、アニオン性多糖の存在下、2つのポリマー間のイオン錯体の形成が阻止される条件下で架橋され、その後、架橋ネットワークからアニオン性多糖が放出される。
【0013】
このように、第1の局面では、本発明は、1級および/または2級アミン基を有する塩基性多糖の少なくとも1つの架橋した水溶性誘導体、および少なくとも1つのアニオン性多糖を有する非架橋成分を含むセミ相互貫入高分子網目から構成される組成物を提供し、ここで、アニオン性多糖はセミ相互貫入高分子網目内に存在する。
【0014】
セミ相互貫入高分子網目は少なくとも2つのポリマーの組み合わせであり、そのポリマーのうちの少なくとも1つが、別のポリマーの存在下、そのポリマーに架橋されずに、共有結合により架橋されることにより形成され、そのポリマーのうちの少なくとも1つがネットワーク内で、直線または分枝非架橋ポリマーとして存在する。
【0015】
本発明の関連では、塩基性カチオン多糖は、イオン化を受けてカチオン、例えばプロトン化アミン基を形成することができる少なくとも1つの官能基を含む多糖であり、一方、酸性アニオン性多糖は、イオン化を受けてアニオン、例えばカルボン酸または硫酸イオンを形成することができる少なくとも1つの官能基を含む多糖である。
【0016】
本発明の組成物は生体材料としての用途が考えられ、例えば、ヒドロゲルとして調製することができ、これを軟組織中に細胞外基質の模倣物質として配置することができる。
【0017】
本発明のこの局面の1つの態様では、塩基性多糖の水溶性誘導体はキトサンの誘導体、特に、N-カルボキシメチルキトサン、O-カルボキシメチルキトサンまたはO-ヒドロキシエチルキトサンまたは特にN-アセチル化キトサンである。部分的にキチンを脱アセチル化することにより、またはキトサンを再アセチル化することにより、部分的なN-アセチル化キトサンを製造することができる。いずれの場合であっても、1つの態様では、部分的なN-アセチル化キトサンは45%〜55%の範囲のアセチル化度を有する。
【0018】
別の好ましい態様では、非架橋成分はヒアルロン酸である。さらに、細胞外基質の他のアニオン性多糖成分を含んでもよい。
【0019】
組成物の架橋成分は、ジグリシジルエーテル、ジイソシアネートまたはアルデヒドなどの架橋剤を使用して架橋させることができる。特に、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)を使用することができる。BDDE分子のいずれかの端のエポキシド環とキトサン鎖上のアミン基との間の反応は、“Chitin in Nature and Technology,”R.A. Muzarelli, C. Jeuniaux and G.W. Godday, Plenum Press, New York, 1986, p303で記述されるように、反応性アミン基による求核攻撃により起き、その後エポキシド環開環が生じる。
【0020】
本発明の組成物は、膜、スポンジ、ヒドロゲル、糸または不織マトリクスに形成することができる。
【0021】
第2の局面では、本発明は、1級および/または2級アミン基を含む塩基性多糖の少なくとも1つの水溶性誘導体を、少なくとも1つのアニオン性多糖の存在下、塩基性多糖上の1級または2級アミン基のプロトン化が阻止され、水溶性アニオン性多糖上の任意の他の官能基の反応も阻止される条件下で、架橋させる段階を含む、本発明の組成物を調製するための方法を提供する。
【0022】
すでに記述したように、本発明の組成物は、医学用途で使用するための様々な生体材料に形成することができる。例えば、注射可能なヒドロゲルを製造するために、1級および/または2級アミン基を含む塩基性多糖の水溶性誘導体の水溶液を形成させ、これに水溶性アニオン性多糖を添加する。その後、塩基性多糖の架橋を多官能性架橋剤の存在下、1級または置換アミンのみを架橋させ、アニオン性多糖を、架橋ポリマーネットワーク内にトラップされたままとする本質的に中性条件下で、開始させる。
【0023】
不水溶性膜を製造するために、1級および/または2級アミン基を含む塩基性多糖の水溶性誘導体の水溶液を形成させ、これに水溶性アニオン性多糖を添加する。その後、多官能性架橋剤を添加し、混合物を蒸発乾固させ、架橋反応を起こさせる。
【0024】
キトサンは、酸でプロトン化した場合のみ、水溶液に溶解する。このように形成されたポリマーは正に帯電し、そのため、ヒアルロン酸および他のポリアニオンなどの負に帯電した種と相互作用する。そのようなイオン錯体は、セミIPNを形成するためには避けなければならず、これが本発明の主題である。
【0025】
このように、キトサンは中性または弱アルカリ性媒質のいずれか中、アニオン高分子電解質または非イオンポリマーとして可溶化されなければならない。すでに記述したように、適した誘導体としてはN-カルボキシメチルキトサン、O-カルボキシメチルキトサン、O-ヒドロキシエチルキトサンまたは部分的なN-アセチル化キトサンが挙げられる。好ましい態様では、約50%再アセチル化されたキトサンを使用する。アミン基をプロトン化せずに中性媒質中に溶解させることができるからである。別の好ましい態様では、再アセチル化キトサンは、水溶性を得るために45%〜55%の範囲のアセチル化度を有する。
【0026】
多官能性架橋剤の存在下での架橋反応は、一般に中性または弱アルカリ性条件下、7〜8のpH範囲で実施される。これにより確実に、実質的に塩基性多糖の1級または2級アミン基のみが架橋剤と反応することができるようになる。このように、アニオン性多糖の架橋、または酸性ポリマーと塩基性ポリマーの間の実際の架橋が避けられる。架橋度は、塩基性多糖の架橋剤に対するモル供給比を変動させることにより制御することができる。このように、トラップされたアニオン性多糖の放出プロファイルは、それが使用される特別な生物医学用途に適応するように変更/改良することができる。
【0027】
一般に、架橋反応はpH7付近、好ましくはpH6.8と8の間で実施させる。
【0028】
第3の局面では、本発明は本発明の組成物を含む生体材料を提供する。
【0029】
第4の局面では、本発明は薬剤中での本発明の組成物または生体材料の使用を提供する。
【0030】
第5の局面では、本発明は、生体材料の調製における本発明の組成物の使用を提供する。特に、生体材料は、皮膚科、形成外科、泌尿器科および整形外科の分野において使用するためのものである。
【0031】
そのような生体材料は膜、スポンジ、ヒドロゲル、糸または不織マトリクスに形成することができる。
【0032】
本発明の各局面の好ましい局面は、必要な変更を加えて、互いの局面に関するものである。
【0033】
本発明について、下記実施例を参照して、以下説明する。下記実施例は本発明を説明するものであり、いかなる意味においても制限するものと考えるべきではない。
【0034】
実施例
下記実施例に関しては、HAおよびBDDEを用い、キトサンのみを使用せずに全てのゲルの調製に対するのと同じ条件下で、対照実験を実施した。HAをBDDEと共に50℃で3時間インキュベータした後、ゲルが形成される証拠はなかった。そのため、本発明者らは、セミIPNを形成するために使用する条件下では、HAはゲル形成に寄与せず、架橋キトサンマトリクスにトラップされる線形非架橋ポリマーとして残ると結論づけることができる。
【0035】
下記実施例で調製したゲルおよび膜の水吸収能力(Q)は、下記式を用いて計算することができる:

【0036】
実施例1-ゲル
イカ甲キトサン(squid pen chitosan)から調製した再アセチル化キトサン(2g、DDA%=54%、Mv=680,000g/mol)を脱イオン水中で水和させ、最終ポリマー濃度が5重量%の溶液を得た。HA(2g、発酵により調製、Hyaltech Ltd)を水に溶解し、最終ポリマー濃度が5重量%の溶液を得た。2つの溶液を一晩中冷却し、ポリマーの溶解を補助した。その後、2つのポリマー溶液を高せん断ミキサで共に混合し、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(2.5g、Sigma)を添加し、機械撹拌機を用いてポリマー混合物中に撹拌して混入させた。その後、溶液を50℃の水浴中、3時間、穏やかに撹拌しながら架橋させた。形成したゲルをその後、脱イオン水に浸漬させ、一定重量になるまで膨潤させ、その間、水を4〜5回置換し、未反応残留架橋剤を除去した。ゲルの水吸収能力は9654%であり、各ポリマー濃度は10mg/mlであった。試料を高せん断ミキサでホモジナイズし、ゲルをシリンジから30G針を通して注入できるようにした。平均粒子サイズ(D4,3)は302μmであった。0.01〜10Hzの周波数範囲の振動せん断で測定すると、試料は500〜600PaのG’弾性率を有した。長期にわたるゲルからのHAの放出をモニタするためにインビトロ試験を実施した。同じ実験をリゾチームの存在下でも実施した。結果を下記に示す:


【0037】
実施例2-ゲル
イカ甲キトサンから調製した再アセチル化キトサン(2g、DDA%=54%、Mv=680,000g/mol)を脱イオン水中で水和させ、最終ポリマー濃度が5重量%の溶液を得た。HA(1g、発酵により調製、Hyaltech Ltd)を水に溶解し、最終ポリマー濃度が5重量%の溶液を得た。2つの溶液を一晩中冷却し、ポリマーの溶解を補助した。その後、2つのポリマー溶液を高せん断ミキサで共に混合し、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(2.5g、Sigma)を添加し、機械撹拌機を用いてポリマー混合物中に撹拌して混入させた。その後、溶液を50℃の水浴中、3時間、撹拌しながら架橋させた。形成したゲルをその後、脱イオン水に浸漬させ、一定重量になるまで膨潤させ、その間、水を4〜5回置換し、未反応残留架橋剤を除去した。ゲルの水吸収能力は4551%であり、再アセチル化キトサン濃度は22mg/ml、HA濃度は12mg/mlであった。試料を高せん断ミキサでホモジナイズし、ゲルをシリンジから30G針を通して注入できるようにした。平均粒子サイズ(D4,3)は255μmであった。0.01〜10Hzの周波数範囲の振動せん断で測定すると、試料は2000〜3000PaのG’弾性率を有した。長期にわたるゲルからのHAの放出をモニタするためにインビトロ試験を実施した。同じ実験をリゾチームの存在下でも実施した。結果を下記に示す:

【0038】
実施例3-ゲル
市販のエビキトサンから調製した再アセチル化キトサン(2g、DDA%=54%、Mv?750,000g/mol)を脱イオン水中で水和させ、最終ポリマー濃度が5重量%の溶液を得た。HA(2g、発酵により調製、Hyaltech Ltd)を水に溶解し、最終ポリマー濃度が5重量%の溶液を得た。2つの溶液を一晩中冷却し、ポリマーの溶解を補助した。その後、2つのポリマー溶液を高せん断ミキサで共に混合し、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(1.7g、Fluka)を添加し、機械撹拌機を用いてポリマー混合物中に撹拌して混入させた。その後、溶液を50℃の水浴中、3時間、穏やかに撹拌しながら架橋させた。形成したゲルをその後、脱イオン水に浸漬させ、一定重量になるまで膨潤させ、その間、水を4〜5回置換し、未反応残留架橋剤を除去した。ゲルの水吸収能力は12652%であり、再アセチル化キトサン濃度は7.9mg/ml、HA濃度は7.5mg/mlであった。ゲルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で膨潤させると、RACおよびHAの最終濃度はそれぞれ、13.54mg/mlおよび12.75mg/mlであった。水中で膨潤させたゲル試料を高せん断ミキサでホモジナイズし、ゲルをシリンジから30G針を通して注入できるようにした。平均粒子サイズ(D4,3)は451μmであった。0.01〜10Hzの周波数範囲の振動せん断で測定すると、試料は1000PaのG’弾性率を有した。長期にわたるゲルからのHAの放出をモニタするためにインビトロ試験を実施した。同じ実験をリゾチームの存在下でも実施した。結果を下記に示す:

【0039】
実施例4-ゲル
O-ヒドロキシエチルキトサン(1g、Sigma)を脱イオン水中で水和させ、最終ポリマー濃度が5重量%の溶液を得た。HA(1g、発酵により調製、Hyaltech Ltd)を水に溶解し、最終ポリマー濃度が5重量%の溶液を得た。2つの溶液を一晩中冷却し、ポリマーの溶解を補助した。その後、2つのポリマー溶液を高せん断ミキサで共に混合し、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(1.5g、Fluka)を添加し、機械撹拌機を用いてポリマー混合物中に撹拌して混入させた。その後、溶液を50℃の水浴中、3時間、穏やかに撹拌しながら架橋させた。形成したゲルをその後、脱イオン水に浸漬させ、一定重量になるまで膨潤させ、その間、水を4〜5回置換し、残留架橋剤を除去した。ゲルの水吸収能力は8525%であり、O-ヒドロキシエチルキトサン最終濃度は11.7mg/ml、HA最終濃度は12.7mg/mlであった。試料を高せん断ミキサでホモジナイズし、ゲルをシリンジから30G針を通して注入できるようにした。粒子サイズ(D4,3)は205μmであった。0.01〜10Hzの周波数範囲の振動せん断で測定すると、試料は1000〜2000PaのG’弾性率を有した。
【0040】
実施例5-ゲル
N-カルボキシメチルキトサン(0.6g、DDA%=85%、Heppe Ltd)を脱イオン水中で水和させ、最終ポリマー濃度が5重量%の溶液を得た。HA(0.6g、発酵により生成、Hyaltech Ltd)を水に溶解し、最終ポリマー濃度が5重量%の溶液を得た。2つの溶液を一晩中冷却し、ポリマーの溶解を補助した。その後、2つのポリマー溶液を高せん断ミキサで共に混合し、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(0.96g、Fluka)を添加し、機械撹拌機を用いてポリマー混合物中に撹拌して混入させた。その後、溶液を50℃の水浴中、8時間、撹拌しながら架橋させた。形成したゲルをその後、脱イオン水に浸漬させ、一定重量になるまで膨潤させ、その間、水を4〜5回置換し、未反応残留架橋剤を除去した。ゲルの水吸収能力は9464%であり、両方のポリマーの最終濃度は11mg/mlであった。試料を高せん断ミキサでホモジナイズし、ゲルをシリンジから30G針を通して注入できるようにした。平均粒子サイズ(D4,3)は218μmであった。0.01〜10Hzの周波数範囲の振動せん断で測定すると、試料は600〜900PaのG’弾性率を有した。試料をリン酸緩衝生理食塩水中で膨潤させると、N-カルボキシメチルキトサンおよびHAの濃度はそれぞれ、38mg/mlおよび39mg/mlであった。
【0041】
実施例6-ゲル
イカ甲キトサンから調製した再アセチル化キトサン(1.9g、DDA%=54%、Mv=680,000g/mol)を脱イオン水中で水和させ、最終ポリマー濃度が5重量%の溶液を得た。HA(1.9g、発酵により調製、Hyaltech Ltd)を水に溶解し、最終ポリマー濃度が5重量%の溶液を得た。2つの溶液を一晩中冷却し、ポリマーの溶解を補助した。その後、2つのポリマー溶液を高せん断ミキサで共に混合し、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(0.7g、Fluka)を添加し、機械撹拌機を用いてポリマー混合物中に撹拌して混入させた。その後、溶液を50℃の水浴中、7 1/2時間、撹拌しながら架橋させた。形成したゲルをその後、脱イオン水に浸漬させ、一定重量になるまで2〜3日膨潤させ、その間、水を4〜5回置換し、未反応残留架橋剤を除去した。ゲルの水吸収能力は7995%であり、各ポリマー濃度は12.5mg/mlであった。試料を高せん断ミキサでホモジナイズし、ゲルをシリンジから30G針を通して注入できるようにした。平均粒子サイズ(D4,3)は403μmであった。0.01〜10Hzの周波数範囲の振動せん断で測定すると、試料は500〜800PaのG’弾性率を有した。
【0042】
実施例7-膜
O-ヒドロキシエチルキトサン(0.2g)を脱イオン水(15ml)中で水和させた。HA(0.1g)をO-ヒドロキシエチルキトサン溶液に添加し、HAが溶解するまで撹拌した。1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(0.2g、Sigma)を添加し、ポリマー混合物中に撹拌して混入させた。その後、溶液をペトリ皿に移し、18時間蒸発させ、その間、架橋膜が形成した。その後、膜を脱イオン水に浸漬させ、膨潤させた。膜の水吸収能力は151%であり、O-ヒドロキシエチルキトサン濃度は660mg/ml、HA濃度は388mg/mlであった。48時間後、膨潤水を[HA]について試験すると、9.38%のHAが放出されていた。膜をさらに96時間膨潤水中に放置した後、さらなるHAの放出は検出されなかった。
【0043】
実施例8-膜
再アセチル化キトサン(0.5g)を脱イオン水に2%濃度で水和させた。HA(0.5g、発酵により生成、Hyaltech Ltd)を脱イオン水に溶解し、2%の溶液を得、2つの溶液を冷蔵庫に入れ、一晩中完全に溶解させた。2つの溶液を共に混合し、BDDE(0.3g、Fluka)を添加した。ポリマー混合物をペトリ皿に注ぎ入れ、水を一晩中室温で徐々に蒸発させ、架橋膜を形成させた。膜を脱イオン水中に2日間浸漬させ、膨潤させた。膜のWACは258%であり、HA濃度383mg/mlおよび再アセチル化キトサン387mg/mlに対応した。膨潤後、0.45%のHAが膜から放出された。さらに4日後、さらなるHAの放出は検出されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1級および/または2級アミン基を有する、塩基性多糖の少なくとも1つの架橋した水溶性誘導体、ならびに少なくとも1つのアニオン性多糖を含む非架橋成分を含むセミ相互貫入網目からなる組成物であって、アニオン性多糖はセミ相互貫入高分子網目内に存在する組成物。
【請求項2】
水溶性塩基性多糖が、キトサンまたはその誘導体である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
塩基性多糖が、脱アセチル化キチン、再アセチル化キトサン、N-カルボキシメチルキトサン、O-カルボキシメチルキトサンまたはO-ヒドロキシエチルキトサンである、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
部分的なN-アセチル化キトサンが、45%〜55%の範囲のアセチル化度を有する、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
非架橋成分が、ヒアルロン酸である、請求項1〜4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
組成物が、細胞外基質の1または他のアニオン性多糖成分も含む、請求項1〜5のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
1級および/または2級アミン基を含む塩基性多糖の少なくとも1つの水溶性誘導体を、少なくとも1つのアニオン性多糖の存在下、1級または2級アミン基のプロトン化が阻止され、アニオン性多糖上のヒドロキシル基または任意の他の官能基の反応も阻止される条件下で架橋させる段階を含む、請求項1〜6のいずれか一項記載の組成物の調製方法。
【請求項8】
架橋反応が、中性または弱アルカリ性条件、pH7〜8の下、実施される、請求項6記載の方法。
【請求項9】
架橋反応が、pH7付近で実施される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項記載の組成物を含む生体材料。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項記載の組成物または請求項10記載の生体材料の薬剤中での使用。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項記載の組成物の生体材料の調製における使用。
【請求項13】
生体材料が、皮膚科、形成外科、泌尿器科および整形外科の分野で使用するためのものである、請求項12記載の使用。
【請求項14】
生体材料が、薄膜、スポンジ、ヒドロゲル、糸または不織マトリクスに形成される、請求項13記載の使用。

【公表番号】特表2007−516333(P2007−516333A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546331(P2006−546331)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【国際出願番号】PCT/GB2004/005443
【国際公開番号】WO2005/061611
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(506217542)ヒアルテック リミテッド (2)
【Fターム(参考)】