説明

セメントクリンカ中のC3AおよびC4AF含量の決定方法

【課題】 高価で精密な大掛かりな装置を用いることなく、また熟練を必要とせず、誰でも極めて簡便にかつ迅速に、セメントクリンカー中のCAおよびCAF含量を決定することができる方法を提供する。
【解決手段】 セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法は、セメントクリンカの色調であるb値を測定し、該b値に基づき、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を決定するものであり、例えば、該b値はハンター色度のb値であって、
A量は、下記式(1)
A(%)=1.60×b値−6.46・・・(1)
AF量は、下記式(2)
AF(%)=−1.87×b値+27.89・・・(2)
を用いてCA及びCAF含量を決定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法に関し、特にセメントクリンカ中の色調であるb値を測定することによりセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメントクリンカ中のCA,CAF含量は、当該セメントクリンカ中に含まれるAl(質量%)やFe(質量%)の化学分析値から、以下のボーグ式を用いて算出していた。
なお、ボーグ式は、セメントクリンカ中の主要な4鉱物の含有量を求める計算式であり、セメントクリンカの場合のボーグ式は、下記のように表される。
S量=(4.07×CaO)−(7.60×SiO)−(6.72×Al)−(1.43×Fe
S量=(2.87×SiO)−(0.754×CS)
A量=(2.65×Al)−(1.69×Fe
AF量=3.04×Fe
上記式中の「CaO」、「SiO」、「Al」及び「Fe」は、それぞれ、セメントクリンカにおけるCaO、SiO、Al及びFeのセメントクリンカ全体質量に対する含有割合(質量%)である。
これらの含有割合は、JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」により測定することができる。
【0003】
しかし実際には、クリンカの焼成雰囲気や冷却条件等がそれぞれ異なるため、クリンカ中に生成しているCA及びCAF量は異なっているものとなっている。
例えば、セメントクリンカが還元雰囲気で焼成された場合、セメント原料中のFe、Mnなどが高温焼成雰囲気の酸素濃度が変わることにより容易にイオンの価数が変わり、必要な鉱物の生成を妨げ、セメントの強度発現性を低下させたりする。
【0004】
具体的には、Feが還元雰囲気に曝されることによりイオンの価数は3から2、0となり、Fe→FeO → Fe(メタル)と変わる。
これにより、酸化雰囲気下で焼成されたセメントクリンカ中に生成する4CaO・Al・Feが4CaO・Al・Fe → 3CaO・Al+CaO+FeO、Feのごとく反応し、生成したFeOの一部は2CaO・SiOに固溶し、一部は間隙層にとどまる。
このため、クリンカ中に未結合のCaOが増加し、強度発現性が低下する。
【0005】
このように、当該間隙相と称されるCA及びCAFは、コンクリートのフレッシュ状態等、セメントの物性に大きな影響を与える。
【0006】
特に、1990年代より資源循環型社会の構築に対する機運が高まり、セメント産業においても産業廃棄物や副産物の使用量のさらなる増大が望まれており、一般に、セメントクリンカの原料として使用できる廃棄物はAlを含む成分に富むため、市販のポルトランドセメントと同じ製造条件でこれらの使用量を単純に増大すると、セメントクリンカ 中の3CaO・Al(CA)や4CaO・Al・Fe(CAF)の量が増大することになる。
【0007】
しかし、CAは水和活性が非常に高いため、これらを多く含むセメントは、一般に、水等とともに練り混ぜてコンクリートを調製したときに、練り混ぜ直後のコンクリートの流動性が悪く、しかも流動性の経時変化が大きい。
【0008】
Aは短期の強度発現性が高く、また水和熱は大きく、これに対してCAFは短期の強度発現性が低く、水和熱は小さい。
従って、同じAl量のセメントでもCAFが多いと短期強度が低くなり、コンクリートの脱型時に所定の強度が無く、脱型できなくなる場合がある。
またCAFは黒褐色を呈するため、CAFが多いとセメントの色が黒くなる。また減水剤などの混和剤ではCA量やCAF量により効果が変化するものが多くある。
従って、これらの鉱物量を把握することで流動性や混和剤との相性などセメントの物性を推測することが可能となる。
【0009】
一方、セメントクリンカ中のCAやCAF量を、X線回折(検量線法、リートベルト法)や光学顕微鏡によるポイントカウントなどで測定する方法もある。
しかし、これらの従来の方法ではX線装置や光学顕微鏡等の高価で精密な機器を用いる方法であるため、熟練を要する上に個人差が大きく、また装置や時間的制約が大きくなる等の問題があった。
【0010】
特開2005−214891号公報には、セメントまたはクリンカの粉末X線回折結果を、プロファイルフィッティング法により解析し、これから得られるクリンカ鉱物の結晶情報を基に、セメントの品質の変化を予測することを特徴とするセメントの品質予測方法が開示されており、該プロファイルフィッティング法が、リートベルト解析法またはWPF解析法であり、結晶情報が、クリンカ鉱物の量、結晶多形、格子定数および格子体積から選ばれる1種以上であるセメントの品質予測方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−214891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高価で精密な大掛かりな装置を用いることなく、また熟練を必要とせず、誰でも極めて簡便にかつ迅速に、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を決定することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量とセメントクリンカの色調であるb値の実測値との関係から得られる一定の関係式を用い、製造されたセメントクリンカの色調であるb値を測定することで該セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を決定することができることを見出し、上記目的が達成できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明の請求項1記載のセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法は、セメントクリンカの色調であるb値を測定し、該b値に基づき、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を決定することを特徴とする、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法である。
【0014】
本発明の請求項2記載のセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法は、請求項1記載のセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法において、該b値はハンター色度のb値であって、
A量は、下記式(1)
A(%)=1.60×b値−6.46・・・(1)
AF量は、下記式(2)
AF(%)=−1.87×b値+27.89・・・(2)
を用いてCA及びCAF含量を決定することを特徴とする、セメントクリンカ中のCAおよびCAFの決定方法である。
【0015】
本発明の請求項3記載のセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法は、請求項1または2記載のセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法において、セメントクリンカは普通ポルトランドセメントクリンカであることを特徴とする、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法を用いることにより、高価で精密で大掛かりなX線回析装置や光学顕微鏡等を用いる必要がなく、色彩色度計を用いることで、誰でも極めて簡便にかつ迅速に、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を決定することが可能となる。
従って、セメントの品質管理を容易な方法で管理することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を以下の好適例を用いて説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のセメントクリンカの色調であるb値を測定し、該b値に基づき、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を決定する、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法である。
なおここで、例えば、X線回析装置(スペクトリス株式会社 X‘PertMRD/PW3050)を用いて回折測定を実施し、リートベルト解析ソフト(スペクトリス株式会社;HighScorePlus)を用いてCA含量ならびにCAF含量を測定する方法を、「X線回析リートベルト法」により測定したCA含量ならびにCAF含量という。
【0018】
ここで色調のb値は、色彩色度計を用いてその数値を測定することができるもので、ハンター色度、L色度等で示されるいずれの色度b値も用いることができる。
【0019】
以下、好適例として、ハンターLab表色の色度のb値を用いて、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を測定する方法を説明する。
すなわち、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を決定するにあたり、セメントクリンカ中の色調であるハンターLab表色のb値を色彩色度計を用いて測定し、該セメントクリンカ中のCA量を、下記式(1)
A(%)=1.60×b値−6.46・・・(1)
AF量を、下記式(2)
AF(%)=−1.87×b値+27.89・・・(2)
を用いて測定する方法である。
【0020】
上記式(1)及び(2)の関係式を導く方法を説明する。
セメントクリンカとして、多様な組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカを用い、ブレーン比表面積3000〜5000cm/gに遊星ミル(株式会社レッチェ製:PM400)を用いて粉砕した。
ここで、ブレーン比表面積はJIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従って測定したものである。
次いで、粉砕した該セメントクリンカの色調を色彩色差計(コニカミノルタホールディングズ株式会社製:CR−400)を用いてハンター色度(b値)を測定した。
その結果を表1に示す。
【0021】
一方、X線回析装置(スペクトリス株式会社 X‘PertMRD/PW3050)を用いて回折測定を実施し、リートベルト解析ソフト(スペクトリス株式会社;HighScorePlus)を用いてCA含量ならびにCAF含量を測定した(「X線回析リートベルト法」と称す)。
その結果も表1に示す。
【0022】
また比較のために、各セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を、セメントクリンカ中のAl(質量%)、Fe(質量%)含量の化学分析値から以下のボーグ式を用いて算出した値も表1に示す。
A量=(2.65×Al)−(1.69×Fe
AF量=3.04×Fe
上記式中の「CaO」、「SiO」、「Al」及び「Fe」は、それぞれ、セメントクリンカにおけるCaO、SiO、Al及びFeのセメントクリンカ全体質量に対する含有割合(質量%)である。
これらの含有割合は、JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」により測定することができる。
【0023】
【表1】

【0024】
上記各セメントクリンカのハンター色度のb値とX線回析リートベルト法により求めたCAおよびCAF含量との関係を、それぞれ図1及び図2にまとめて示した。
また、上記各セメントクリンカのハンター色度のb値とボーグ式により求めたCAおよびCAF含量との関係を、それぞれ図3及び図4にまとめて示した。
【0025】
上記各セメントクリンカのハンター色度のb値と、ボーグ式から求めたセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量との関係を最小二乗法により求めた式は、それぞれ
A(%)=0.44×b値+6.63
AF(%)=−0.30×b値+10.96
であるが、図3及び図4より色度b値とボーグ式により求められたセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量とは良好な相関関係がないことがわかる。
【0026】
一方、上記各セメントクリンカのハンター色度のb値と、X線回析リートベルト法により求めたセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量との関係を最小二乗法により求めた式で表すと、以下の関係式が導かれ、図1及び図2より、色度b値とX線回析リードベルト法により求められたセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量とは良好な相関関係があることがわかる。
【0027】
セメントクリンカ中のCA量は、下記式(1)
A(質量%)=1.60×b値−6.46・・・(1)
また、セメントクリンカ中のCAF量は、下記式(2)
AF(質量%)=−1.87×b値+27.89・・・(2)
の関係が導かれた。
【0028】
次いで、上記式(1)及び(2)を用いて、CAおよびCAF含量が未知なセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を決定する手順を説明する。
まず、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量が未知のセメントクリンカの色度であるb値を色彩色度計を用いて測定して数値化する。
例えば、色彩色度計を用いてハンターLab表色の色度b値を測定する場合には、上記したように予めハンター色度であるb値とX線回析リートベルト法により測定したCAおよびCAF含量より導かれた上記(1)式及び(2)式を用いる。
【0029】
当該セメントクリンカ中のCA含量を決定したい場合には、上記式(1)に数値化したb値を代入し、また当該セメントクリンカ中のCAF含量を決定したい場合には、上記式(2)に数値化したb値を代入することで、当該CAおよびCAF含量が未知のセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を決定することができる。
【0030】
また、色彩色度計を用いてL表色の色度b値を測定する場合には、予めL色度であるb値とX線回析リートベルト法により測定したCAおよびCAF含量より最小二乗法により導かれた一定の関係式を用いて、当該関係式に数値化したb値を代入することで、当該CAおよびCAF含量が未知のセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を決定することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法は、簡便な方法でセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を決定することができるので、色度b値を測定することで、得られるセメント組成物の短期強度の発現状況、初期発熱量、流動性の良否、混和剤との相性などを予測したり調整することが可能となり、セメントやコンクリートの品質管理に適用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ハンター色度であるb値とX線リートベルト法によって測定されたCA量との関係を示す図である。
【図2】ハンター色度であるb値とX線リートベルト法によって測定されたCAF含量との関係を示す図である。
【図3】ハンター色度であるb値とボーグ式によって求めたCA含量との関係を示す図である。
【図4】ハンター色度であるb値とボーグ式によって求めたCAF含量との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカの色調であるb値を測定し、該b値に基づき、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量を測定することを特徴とする、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法。
【請求項2】
請求項1記載のセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法において、該b値はハンター色度のb値であって、
A量は、下記式(1)
A(%)=1.60×b値−6.46・・・(1)
AF量は、下記式(2)
AF(%)=−1.87×b値+27.89・・・(2)
を用いてCA及びCAF含量を測定することを特徴とする、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のセメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法において、セメントクリンカは普通ポルトランドセメントクリンカであることを特徴とする、セメントクリンカ中のCAおよびCAF含量の決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−241442(P2008−241442A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81928(P2007−81928)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】