説明

セメント混和材及びセメント組成物

【課題】優れた防錆効果や外部から侵入する塩化物イオンの遮蔽効果を持ち、Caの溶脱抑制効果も発揮するセメント混和材及びセメント組成物を提供する。
【解決手段】CaO/Alモル比が0.15〜0.7のカルシウムアルミネート化合物と、ジエチレングリコール、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンの中から選ばれる1種または2種以上の耐久性向上物質を含有してなり、カルシウムアルミネート化合物と耐久性向上物質の合計100質量部中、カルシウムアルミネート化合物が10〜99質量部であるセメント混和材であり、カルシウムアルミネート化合物の粉末度が、ブレーン比表面積値で2000〜7000cm/gである該セメント混和材であり、セメントと、該セメント混和材を含有するセメント組成物であり、セメント100質量部に対して、該セメント混和材を1〜30質量部含有する該セメント組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋環境下におけるコンクリート構造物の耐久性、すなわち耐海水性及び耐食性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、土木や建築分野において、コンクリート構造物の耐久性向上に対する要望が高まっている。
【0003】
コンクリート構造物の劣化要因の1つとして、塩化物イオンの存在によって鉄筋腐食が顕在化する塩害があり、その塩害を抑制するための方法として、コンクリート構造物に塩化物イオン浸透抵抗性を付与する方法がある。
【0004】
コンクリート硬化体の内部への塩化物イオン浸透を抑制し、塩化物イオン浸透抵抗性を付与する方法としては、水/セメント比を小さくする方法が知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、水/セメント比を小さくする方法では、施工性が損なわれるだけでなく、抜本的な対策とはならないという課題があった。
【0005】
また、セメントコンクリートに早強性を付与し、かつ、鉄筋の腐食を防止するなどの目的で、CaO・2Alとセッコウを主体とし、ブレーン比表面積値が8000cm/gの微粉を含有するセメント混和材を使用する方法(特許文献1参照)や、CaO/Alモル比が0.3〜0.7のカルシウムアルミネートを含有するセメント混和材を用いて塩化物イオン浸透抵抗性を向上させる方法(特許文献2参照)が提案されている。
【0006】
一方、ジエチレングリコールを含有するセメント混和材により、比較的少ない添加量で、初期強度を低下させずに、塩化物イオンの浸透抵抗性を向上させることが提案されている(特許文献3参照)。塩化物イオンの浸透を抑制する理由として、セメント硬化体中における水酸化カルシウムの生成量が低減し、水酸化カルシウムが海水中に溶脱した場合に生成する数十μm〜数百μmの空隙の生成を抑制していることが考えられる。
【0007】
一方、鉄筋の防錆を目的として、亜硝酸塩、亜硝酸型ハイドロカルマイトを添加する方法も提案されている(特許文献4〜特許文献6参照)。しかしながら、亜硝酸塩は、防錆効果を発揮するものの、外部から侵入する塩化物イオンの遮蔽効果を発揮するものではなく、また、亜硝酸型ハイドロカルマイトは、防錆効果を発揮するものの、これを混和したセメント硬化体が多孔質になりやすく、むしろ、外部からの塩化物イオンの浸透を許容しやすいという課題を有していた。
【0008】
【非特許文献1】岸谷孝一、西澤紀昭他編、「コンクリートの耐久性シリーズ、塩害(I)」、技報堂出版、pp.59−63、1986年5月
【特許文献1】特開昭47−035020号公報
【特許文献2】特開2005−104828号公報
【特許文献3】特開平11−278895号公報
【特許文献4】特開昭53−003423号公報
【特許文献5】特開平01−103970号公報
【特許文献6】特開平04−154648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、海洋環境下におけるコンクリート構造物の耐久性、すなわち耐海水性及び耐食性を向上するセメント混和材及びセメント組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(1)CaO/Alモル比が0.15〜0.7のカルシウムアルミネート化合物と、ジエチレングリコール、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンの中から選ばれる1種または2種以上の耐久性向上物質を含有してなり、カルシウムアルミネート化合物と耐久性向上物質の合計100部中、カルシウムアルミネート化合物が10〜99部であるセメント混和材であり、(2)カルシウムアルミネート化合物の粉末度が、ブレーン比表面積値で2000〜7000cm/gである該セメント混和材であり、(3)セメントと、該セメント混和材を含有するセメント組成物であり、(4)セメント100部に対して、該セメント混和材を1〜30部含有する該セメント組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、セメントコンクリートに、優れた防錆効果と、外部から侵入する塩化物イオンの遮蔽効果を付与し、さらに、セメントコンクリート硬化体からのCaイオンの溶脱も少ないことから、多孔化も抑制できるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は、特に規定しない限り質量基準で示す。
また、本発明で云うセメントコンクリートとは、セメントペースト、セメントモルタル、及びコンクリートの総称である。
【0013】
土木用途や建築用途では、生コン工場から工事現場に輸送し、大量に打設する使用形態がある。このような使用形態では、可使時間はセメントと同等以上とすることが必要であり、可使時間が少なくとも1時間以上確保される必要があり、3時間以上確保されることが好ましいとされている。
【0014】
本発明で使用するカルシウムアルミネート化合物(以下、CA化合物という)とは、カルシアを含む原料と、アルミナを含む原料等を混合して、キルンでの焼成や電気炉での溶融等の熱処理をして得られる、CaOとAlを主成分とする化合物を総称するものであり、本発明は、その組成が、CaO/Alモル比で、0.15〜0.7の範囲にあるものである。CA化合物に、例えば、SiOやRO(Rはアルカリ金属)が含有していても、本発明の目的を損なわない限り使用可能である。
本発明のCA化合物のCaO/Alモル比は0.15〜0.7であり、0.4〜0.6が好ましい。0.15未満では、塩化物イオンの遮蔽効果が充分に得られない場合があり、逆に、0.7を超えると急硬性が現れるようになり、可使時間が確保できない場合がある。
【0015】
本発明では、CaO/Alモル比が0.15〜0.7のCA化合物に、ジエチレングリコール、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン(以下、それぞれDEG、TEA、TIPAという)の中から選ばれる1種または2種以上の耐久性向上物質を併用する。これらを併用することにより、セメント硬化体中における水酸化カルシウムの生成が抑えられ、海洋環境下におけるコンクリートの耐久性すなわち耐海水性及び耐食性が一層向上する。
【0016】
なお、耐久性向上物質をCA化合物と併用するに際し、DEG、TEA、TIPAをそれぞれ単独で添加した場合に得られる塩化物イオンの浸透抵抗性に対して、2種以上を併用した場合には相乗的により高い効果が得られるようになる。例えば、本CA化合物にDEGを単独で添加した場合に比べ、DEGとTEA、DEGとTIPA、DEGとTEAとTIPAを併用した場合には相乗的により高い効果が得られる。
【0017】
本発明では、CA化合物と耐久性向上物質の合計100部中、CA化合物が10〜99部が好ましい。この範囲以外では、CA化合物と、DEG、TEA、TIPAによる相乗効果が小さい場合がある。CA化合物が10部未満の場合には、CA化合物による充分な防錆効果や塩化物イオンの遮蔽効果が得られない場合があり、99部を超えると、耐久性向上物質の添加による水酸化カルシウムの生成を抑制する効果が小さくなる。
【0018】
CA化合物の粉末度は、ブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)で2000〜7000cm/gが好ましく、3000〜6000cm/gがより好ましく、4000〜5000cm/gが最も好ましい。ブレーン値が2000cm/g未満では、充分な塩化物イオンの遮蔽効果が得られない場合があり、7000cm/gを超えると急硬性が現れるようになり、可使時間が短くなる。
【0019】
セメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末等を混合したフィラーセメント、並びに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)などのポルトランドセメントが挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が使用可能である。
【0020】
本発明では、セメントとセメント混和材を配合して、すなわち、セメント、CA化合物、及び耐久性向上物質を併用してセメント組成物とする。配合割合は、セメント100部に対して、セメント混和材が1〜30部が好ましい。1部未満の場合には、充分な防錆効果や塩化物イオンの遮蔽効果、Caイオンの溶脱抑制効果が少なく、30部を超えると急硬性が現れるようになり、可使時間が短くなる。
【0021】
本発明のセメント組成物の水/結合材比は、25〜70%が好ましく、30〜65%がより好ましい。ここで結合材とは、セメントとCA化合物の合計をいう。25%未満の場合、ポンプ圧送性や施工性が低下し、自己収縮に伴うひび割れが発生しやすくなり、耐海水性が低下する場合がある。一方、70%を超えると硬化体中の空隙量が多くなり、耐海水性が低下する場合がある。
【0022】
本発明のセメント混和材やセメント組成物は、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0023】
本発明では、セメント、セメント混和材、及び砂等の細骨材や砂利等の粗骨材の他に、膨張材、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、従来の防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子エマルジョン、凝結調整剤、ベントナイトなどの粘土鉱物、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体、高炉水砕スラグ微粉末や高炉徐冷スラグ微粉末などのスラグ、石灰石微粉末等の混和材料からなる群のうちの1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0024】
混合装置としては、既存の如何なる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサ等の使用が可能である。
【0025】
以下、実施例、比較例を挙げてさらに詳細に内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
「実施例1」
表1に示すCA化合物を90部と、DEGを10部混合してセメント混和材を調製し、セメント100部に対して、セメント混和材を10部混合してセメント組成物を調製した。次に、水/結合材比50%としたモルタルをJIS R 5201に準じて調製した。このモルタルを用いて、防錆効果、圧縮強度、塩化物イオン浸透深さ、及びCaイオンの溶脱を調べた。結果を表1に併記する。
【0027】
<使用材料>
CA化合物A:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の酸化アルミニウムを所定の割合で配合し、電気炉で1650℃で焼成した後、徐冷して合成。CaO/Alモル比0.1、ブレーン値4000cm/g
CA化合物B:CA化合物Aと同様に合成、CaO/Alモル比0.15、ブレーン値4000cm/g
CA化合物C:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の酸化アルミニウムを所定の割合で配合し、電気炉で1550℃で焼成した後、徐冷して合成。CaO/Alモル比0.4、ブレーン値4000cm/g
CA化合物D:CA化合物Cと同様に合成、CaO/Alモル比0.5、ブレーン値4000cm/g
CA化合物E:CA化合物Cと同様に合成、CaO/Alモル比0.6、ブレーン値4000cm/g
CA化合物F:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の酸化アルミニウムを所定の割合で配合し、電気炉で1450℃で焼成した後、徐冷して合成。CaO/Alモル比0.7、ブレーン値4000cm/g
CA化合物G:CA化合物Fと同様に合成、CaO/Alモル比0.9、ブレーン値4000cm/g
DEG:ジエチレングリコール、市販品
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
細骨材:JIS R 5201準拠の標準砂
水:水道水
【0028】
<測定方法>
防錆効果:モルタルに内在塩化物イオンとして、塩化物イオン換算で10kg/mとなるように塩化ナトリウムを加え、丸鋼の鉄筋を入れて50℃に加温養生することによる促進試験で防錆効果を確認した。鉄筋に錆が発生しなかった場合は良、1/10の面積以内で錆が発生した場合は可、1/10の面積を超えて錆が発生した場合は不可とした。
圧縮強度:JIS R 5201に準じて材齢28日の圧縮強度を測定。
塩化物イオン浸透深さ:塩化物イオン浸透抵抗性を評価。φ10×20cmのモルタル供試体を作製して、20℃で材齢28日まで水中養生した後、30℃で塩分濃度3.5%の食塩水に12週間浸漬して塩化物浸透深さを測定。塩化物浸透深さはフルオロセイン−硝酸銀法により、モルタル供試体断面の茶変しなかった部分を塩化物浸透深さと見なし、ノギスで8点測定して平均値を求めた。
Caイオンの溶脱:4×4×16cmのモルタル供試体を10リットルの純水に28日間浸漬し、液相中に溶解したCaイオン濃度を測定した。
【0029】
【表1】

【0030】
表1より、本発明に依れば、セメントコンクリートに、優れた防錆効果と、外部から侵入する塩化物イオンの遮蔽効果を付与し、さらに、セメントコンクリート硬化体からのCaイオンの溶脱も少ないことが分かる。
【0031】
「実施例2」
CA化合物Dを使用し、表2に示すようにセメント混和材中のCA化合物Dの割合を変えたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0032】
【表2】

【0033】
表2より、本発明に依れば、セメントコンクリートに、優れた防錆効果と、外部から侵入する塩化物イオンの遮蔽効果を付与し、さらに、セメントコンクリート硬化体からのCaイオンの溶脱も少ないことが分かる。
【0034】
「実施例3」
表3に示すように、DEG、TEA、TIPAの組合せと使用量を変えたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0035】
<使用材料>
TEA:トリエタノールアミン、市販品
TIPA:トリイソプロパノールアミン、市販品
【0036】
【表3】

【0037】
表3より、本発明に依れば、セメントコンクリートに、優れた防錆効果と、外部から侵入する塩化物イオンの遮蔽効果を付与し、さらに、セメントコンクリート硬化体からのCaイオンの溶脱も少ないことが分かる。また、DEG、TEA、TIPAから2種又は3種を組み合わせると、塩化物浸透深さやCaイオンの溶脱に対し相乗効果があることが分かる。
【0038】
「実施例4」
表4に示す粉末度のCA化合物Dを併用したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0039】
【表4】

【0040】
表4より、本発明に依れば、セメントコンクリートに、優れた防錆効果と、外部から侵入する塩化物イオンの遮蔽効果を付与し、さらに、セメントコンクリート硬化体からのCaイオンの溶脱も少ないことが分かる。
【0041】
「実施例5」
CA化合物Dを使用し、表5に示すように、セメント100部に対するセメント混和材の使用量を変えたこと以外は、実施例1と同様に行った。比較のために、従来の防錆材を用いて同様に行った。結果を表5に併記する。
【0042】
<使用材料>
市販の防錆材イ:亜硝酸リチウム
市販の防錆材ロ:亜硝酸型ハイドロカルマイト
【0043】
【表5】

【0044】
表5より、本発明に依れば、セメントコンクリートに、優れた防錆効果と、外部から侵入する塩化物イオンの遮蔽効果を付与し、さらに、セメントコンクリート硬化体からのCaイオンの溶脱も少ないことが分かる。
【0045】
本発明は、セメントコンクリートに、優れた防錆効果と、外部から侵入する塩化物イオンの遮蔽効果を付与し、さらに、セメントコンクリート硬化体からのCaイオンの溶脱も少ないことから、多孔化も抑制できるなどの効果を奏するので、海洋構造物や護岸構造物などの用途に適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO/Alモル比が0.15〜0.7のカルシウムアルミネート化合物と、ジエチレングリコール、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンの中から選ばれる1種または2種以上の耐久性向上物質とを含有してなり、カルシウムアルミネート化合物と耐久性向上物質の合計100質量部中、カルシウムアルミネート化合物が10〜99質量部であるセメント混和材。
【請求項2】
カルシウムアルミネート化合物の粉末度が、ブレーン比表面積値で2000〜7000cm/gである請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
セメントと、請求項1〜2記載のセメント混和材を含有するセメント組成物。
【請求項4】
セメント100質量部に対して、セメント混和材を1〜30質量部含有する請求項3記載のセメント組成物。

【公開番号】特開2010−100468(P2010−100468A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272685(P2008−272685)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】