説明

セメント用混和材およびこれを含むセメント組成物

【課題】0.2未満の低水結合材比下であっても、モルタルやコンクリート中での分散性に優れて練り混ぜが容易であり、高い流動性のセメント組成物を与えるセメント用混和材を提供する。
【解決手段】SiO2含有量が99重量%以上であり、1000±50℃での強熱減量が0.3重量%以下であり、かつBET法比表面積が1〜4.8m2/gである合成真球状二酸化珪素微粉末を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い流動性および強度発現性をモルタルまたはコンクリート硬化体に付与するためのセメント用混和材、および該混和材を含むセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にモルタルやコンクリートの流動性の改善および高強度化のため、各種セメントに混和材としてシリカフュームを混合することが行われている。
シリカフュームは、金属シリコンやフェロシリコンの製造時に副生される非晶質二酸化珪素を主成分とする粒径約0.1〜0.3μmの球状超微粒子材料であり、モルタルやコンクリートに混和すると、その高いポゾラン活性やマイクロフィラー効果により硬化体が緻密化され、強度が増進する。
【0003】
しかしながら、シリカフュームの一次粒子は粒径約0.1〜0.3μmの超微粒子であり、通常凝集して数〜数十μmサイズの二次粒子を形成しているため、シリカフュームのモルタルやコンクリート中での分散性はよくない。
また、シリカフュームは金属シリコンやフェロシリコン製造時の副生品であるため、品質が安定せず、未燃カーボンや三酸化硫黄、酸化マグネシウムなど種々の不純物を数%含有しており、これらの不純物は、シリカフュームをセメント用混和材として用いるときに、高性能減水剤やAE剤などの化学混和剤の所要量を増大させ、モルタルやコンクリ−トの流動性を低下させてしまう。
【0004】
水結合材比の高いモルタルやコンクリートの混和材としてシリカフュームを使用する場合には、上記の二次粒子の形成の有無や不純物の多寡は大きな問題にならないが、超高強度を狙った水結合材比が低い配合、特に水結合材比0.2未満の配合では、シリカフュームの混和量がセメントに対して内割り添加量で約15重量%を超えるとモルタルやコンクリートの粘性が著しく高くなる。すなわち流動性が悪化するため、ポリカルボン酸系などの高価な高性能AE減水剤を過剰添加せざるを得ず、コンクリートの凝結遅延、強度発現の停滞やコストアップ等の問題が発生する。また混和材であるシリカフュームの分散性が悪いとモルタルやコンクリートの練り混ぜ時間を非常に長くする必要がある。さらにシリカフュームは嵩密度が約0.2〜0.3g/cm3と著しく嵩高なため、輸送や貯蔵が非効率で定量供給が難しく、作業時に粉塵が発生しやすく取扱いが難しいという問題もある。
【0005】
これらの問題を解決するため、あらかじめシリカフュームをポルトランドセメントクリンカなどと混合粉砕する方法(特許文献1)、シリカフュームと共に特定の粒度分布を有する石灰石微粉末を混和する方法(例えば、特許文献2)、シリカフュームを高ビーライト系ポルトランドセメントと混合する方法(特許文献3)などが提案されている。しかしながらこれらの方法では、水結合材比0.2未満の配合においてモルタルやコンクリートの粘性は十分に低減されず、十分な流動性が得られない。
【0006】
【特許文献1】特開平5−147984号公報
【特許文献2】特許第3267091号公報
【特許文献3】特開平11−29349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題を有するシリカフュームに代えて、取り扱い性がよく、低水結合材比下でもモルタルやコンクリートに高い流動性を付与することができるセメント用混和材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、シリコンなど他の材料生産時の副生物であるがゆえに不純物が多いシリカフュームに代えて、高純度でより粒径の大きい真球状二酸化珪素微粉末の合成品を用いることで上記課題を解決したセメント用混和材が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は
(1)SiO2含有量が99重量%以上であり、1000±50℃での強熱減量が0.3重量%以下であり、かつBET法比表面積が1〜4.8m2/gである合成真球状二酸化珪素微粉末からなるセメント用混和材;
(2)(1)のセメント用混和材とセメントとの混合重量比が10/90〜40/60である結合材を含有するセメント組成物;
(3)セメントのビーライト含有量が35〜60重量%である(2)のセメント組成物;
(4)水結合材比が0.2未満で、高性能AE減水剤使用下に用いられる(2)または(3)のセメント組成物;
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセメント用混和材は、高純度で比較的粒径の大きい真球状二酸化珪素微粉末であり嵩密度が約0.5g/cm3と取り扱い性がよく、低水結合材比下であっても、モルタルやコンクリート中での分散性に優れて練り混ぜが容易であり、高い流動性のセメント組成物が得られる。そして、モルタルまたはコンクリート硬化体に高い強度発現性も付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する高純度の合成真球状二酸化珪素微粉末は、非晶質SiO2を主成分とする微粒子材料であり、例えば、酸素含有雰囲気中で金属珪素粉末に着火し、燃焼火炎を形成して金属珪素粉末を連続的に酸化燃焼して製造される合成品である。また、その金属珪素粉末の酸化燃焼時に二酸化珪素粉末を共存させて該二酸化珪素粉末中の不純物を燃焼させたものであってもよい。このような合成品であるゆえに、他の材料生産時の副生物で不純物が多いシリカフュームとは異なり、SiO2含有量が99重量%以上、1000±50℃での強熱減量が0.3重量%以下と高純度であり、未燃カーボンや三酸化硫黄、酸化マグネシウムなどのモルタルおよびコンクリートに有害な不純物をほとんど含有せず、かつBET法比表面積が1〜4.8m2/gの比較的粒径の大きい真球状二酸化珪素微粉末である。
本発明で使用する合成真球状二酸化珪素微粉末は、BET法比表面積が上記範囲であり、粒径は数μmから数十μmであり、シリカフュームの数倍から数十倍と大きく、嵩密度が大きいため取扱い性がよく、モルタルやコンクリート中での分散性に優れて練り混ぜが容易であり、高い流動性のセメント組成物が得られる。
かかる合成真球状二酸化珪素微粉末は、市販品では、アドマテックス社製のアドマファインSO−E3、SO−E5、SO−E6、SO−C3、SO−C5、SO−C6等として入手できる。
【0011】
本発明で使用する合成真球状二酸化珪素微粉末のモルタルおよびコンクリートへの配合量は、使用対象となるモルタルおよびコンクリートに要求されるワーカビリティー、強度、耐久性などの所望の性能(品質)を付与する量であればよい。例えば、セメントに対する内割り添加で10〜60重量%(セメント用混和材とセメントとの混合重量比が10/90〜60/40)が好ましい。配合量が10重量%未満では練混ぜが困難になる上に高強度性が十分に発揮されず、配合量が60重量%を超えるとモルタルやコンクリートの強度低下が大きくなって実用性が大幅に低下し、さらに原料コストが嵩んでしまう。
【0012】
混和対象となるセメントは、普通、中庸熱、低熱、早強、超早強、耐硫酸塩など各種ポルトランドセメント、高炉セメントやフライアッシュセメントおよびシリカセメントなどの混合セメント、アルミナセメントやジェットセメントなどの超速硬セメント、アーウィン系セメントなどが挙げられる。これら種々のセメントからモルタルやコンクリートに要求されるスペックやコストを考慮した上で、任意に一種以上を選択することができる。
【0013】
なお、高強度性のモルタルやコンクリートを得るためには、セメントのビーライト(C2S=2CaO・SiO2/珪酸二カルシウム)含有量は35〜60重量%であることが好ましく、例えば低熱ポルトランドセメント(JIS規格でビーライトは40%以上と規定)や中庸熱ポルトランドセメントの使用が特に好ましい。
【0014】
本発明のセメント用混和材は、セメントのほか、必要に応じ細骨材、粗骨材、減水剤、消泡剤など、および水を加えてモルタルあるいはコンクリート用セメント組成物とする。細骨材、粗骨材、消泡剤などは公知の材料、薬剤が特に制限なく使用できる。
減水剤も、公知の高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤等を通常の添加量で用いることができるが、高強度のモルタルやコンクリートを得るためには、高性能AE減水剤を使用することが好ましく、その添加量はセメント100重量部に対して0.25〜5重量部程度である。
また、同じく、超高強度のモルタルやコンクリートを得るためには、セメントペーストは水結合材比0.2未満で練り混ぜられることが好ましい。
【実施例】
【0015】
以下に本発明の実施例を挙げ、さらに詳しく本発明を説明する。
【0016】
<超高強度モルタル試験>
(使用原材料)
セメント:低熱ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社、C2S含有量56%、ブレーン比表面積3300cm2/g)
混和材A/合成真球状二酸化珪素微粉末:アドマファインSO−C6(アドマテックス株式会社、以下SSと略記)
混和材B/シリカフューム:マイクロシリカ940−U(エルケムジャパン株式会社、以下SFと略記)
細骨材:愛知県産乾燥珪砂3号、乾燥珪砂4号、乾燥珪砂7号
水:上水道水
ポリカルボン酸系高性能AE減水剤:シーカメント1200N(日本シーカ株式会社)
消泡剤:シーカアンチフォームW(日本シーカ株式会社)
【0017】
使用した混和材A、Bの性状を表1に示す。
SiO2の含有量は、セメント協会法「けい酸質原料の化学分析方法」、SO3(三酸化硫黄)およびMgOの含有量は、JIS R5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」にそれぞれ準じて測定した。強熱減量は、JIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」に準じて1000±50℃で測定した。未燃炭素(未燃カーボン)量の指標として、セメント協会法の「メチレンブルー吸着量試験」に準じて測定した。BET法比表面積は、「窒素吸着法」によって測定した。
なお、FE−SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)を用いて、倍率5千倍〜5万倍で観察すると、混和材A(SS)は粒径約0.5〜50μmの真球状の一次粒子があまり凝集していないのに対し、混和材B(SF)は粒径約0.1〜0.3μmの球状もしくは非球状の一次粒子のほとんどが凝集し、粒径約10〜50μmの異形状の二次粒子を形成しているものである。
【0018】
【表1】

【0019】
表1より、混和材A(SS)は、混和材B(SF)よりSiO2含有量が高く、不純物であるSO3とMgO含有量は極めて低い。また、混和材A(SS)は混和材B(SF)より強熱減量およびメチレンブルー吸着量が著しく少ないため、未燃炭素(未燃カーボン)が少ないと判断される。またBET法比表面積は、混和材A(SS)が混和材B(SF)より大幅に小さいことは明らかである。
【0020】
超高強度モルタルの配合表を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
(配合試験)
20℃恒温室において表2の配合で超高強度モルタルの配合試験を実施した。1配合の練混ぜ量は3リットル一定とし、20℃恒温室内で容量10リットルのモルタルミキサーを用いた。材料の投入および練り混ぜ手順は、まずセメント、混和材、乾燥珪砂3種を投入して空練りを60秒間行い、次に水、高性能AE減水剤および消泡剤を投入して60秒間練り混ぜ後かき落としを行い、さらに180〜900秒間の本練りを行った。なお、本練り時間は、モルタルの練り混ぜ状態を目視で観察しながら調節し、練り混ぜ完了までにかかった時間を測定した。なお、水結合材比は0.143で一定、高性能AE減水剤および消泡剤の添加量も一定とし、高性能AE減水剤の添加量は、結合材(セメント+混和材)重量に対して2.2%で一定、消泡剤の添加量は、結合材重量に対して0.06%で一定とした。なお、高性能AE減水剤および消泡剤は、練り混ぜ水とみなして水量を補正した。
【0023】
練上がり後、直ちにモルタルフローを測定し、圧縮強度測定用のφ50mm×100mmの円柱供試体を作製した。モルタルフローはJIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠し、フローコーン引き上げ後に落下運動を与えない0打フローで比較検討した。円柱供試体は材齢1日で脱型し、20℃の水中で標準養生および70℃の温水中で促進養生した。モルタルの圧縮強度はJIS A 1108に準じて実施した。圧縮強度の材齢は20℃標準養生で7、28日、さらに70℃促進養生の7日とした。
【0024】
超高強度モルタルの試験結果を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
表3に示すように、実施例1〜7は、5〜9分内の比較的短時間の練り混ぜでモルタルが練り上がり、得られたモルタルの流動性および強度発現は良好であった。特に実施例3〜5は、練り混ぜ時間が5分と短く、流動性および強度発現が優れていた。
【0027】
一方、従来のシリカフュームを配合した比較例1、2は、実施例1〜7より練混ぜ時間が長くかかり、流動性は実施例1〜7より大きく劣った。シリカフュームの添加量が多い比較例3および4は、混和材料無添加の比較例5と同様に、17分間練混ぜても団結せず、モルタルが得られなかった。
【0028】
以上のように合成真球状二酸化珪素微粉末はモルタルでの分散性がよく、これをセメントに対して内割りで10〜60重量%混和したモルタルは、シリカフュームを混和したモルタルより優れた流動性が得られることが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2含有量が99重量%以上であり、1000±50℃での強熱減量が0.3重量%以下であり、かつBET法比表面積が1〜4.8m2/gである合成真球状二酸化珪素微粉末からなるセメント用混和材。
【請求項2】
請求項1に記載のセメント用混和材とセメントとの混合重量比が10/90〜60/40である結合材を含有するセメント組成物。
【請求項3】
セメントのビーライト含有量が35〜60重量%である請求項2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
水結合材比が0.2未満で、高性能AE減水剤使用下に用いられる請求項2または3に記載のセメント組成物。

【公開番号】特開2008−115027(P2008−115027A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298129(P2006−298129)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(506367722)西尾コンクリート工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】