説明

セメント系材料および構造物の補修剤とその調製方法

本発明はセメント系材料および構造物の補修剤に関し、前記補修剤には有機化合物および/または細菌を担持する多孔質粒子が含まれ、前記多孔質粒子には発泡粘土またはフライアッシュ焼結体が含まれる。さらに、前記多孔質粒子は完全な球体または前記完全な球体から破砕あるいは粉砕された粒子で、その密度は0.4から2g/cmである。最後に、本発明は補修剤を調製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント系材料および構造物の補修剤とその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学化合物(細菌および/または有機化合物)を担持した多孔質凝集材料(発泡粘土またはフライアッシュ焼結体)がマトリックス材料に含有されると、セメント系構造物の耐久性が改善される。異なるタイプの発泡粘土(ブランド名:例えばLiapor,Argex)やフライアッシュ(微粉炭灰焼結体)(例えばLytag)などの多孔質材料は一般にセメント系材料の凝集材料として、特に軽量コンクリートの生産に使用される。しかし、これら補修剤または修理剤の多孔質材料に化合物や細菌などを貯蔵する容量についてはこれまでに提案されていなく、また使用されていない。
【0003】
最近、セメント系材料、特にコンクリートの改良および/または修理のための細菌の適用がいくつかの研究で調査されている(Bang et al. 2001; Ramachandran et al. 2001; DeMuynck et al. 2005 and 2007; Jonkers & Schlangen 2007 a+b; Jonkers 2007)。これらの研究のいくつかで細菌または誘導される酵素は、代謝または酵素バイオミネラルの形成によってコンクリートのひび割れを塞ぎ、密封し、補修する表面処理システムとして外部的に使用されてきた。ごくわずかの報告された研究では、コンクリート特性の自律改良の能力を調査するため、例えばコンクリート固定化自己補修剤として作用させるため、(例えば、静止流体セメントペーストと混合することで)細菌がコンクリートマトリックスに適切に含まれる(Jonkers & Schlangen 2007 a+b; Jonkers 2007)。
【0004】
細菌またはその胞子をセメントペーストに直接加えると、その生存能力が非常に減少することがこの方法の主な欠点となる(Jonkers & Schlangen 2007 b)。暴露コンクリートに固定化された細菌の寿命が制限される理由は、おそらく、継続するセメント水和作用中におけるコンクリートマトリックスの高アルカリ度(pH>12)とマトリックスの細孔サイズ直径の進行する減少(<1μm)との組み合わせであると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Bang et al. 2001
【非特許文献2】Ramachandran et al. 2001
【非特許文献3】DeMuynck et al. 2005 and 2007
【非特許文献4】Jonkers & Schlangen 2007 a+b
【非特許文献5】Jonkers 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は前述の欠点が除去されたセメント系材料および構造物の補修剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、補修剤に有機化合物および/または細菌を担持する多孔質粒子が含まれたセメント系材料および構造物の補修剤を提供することによって達成される。
【0008】
一般に多孔質粒子(porous particle)には発泡粘土(expanded clay)またはフライアッシュ焼結体(sintered fly ash)が含まれ、これらは完全な球体または完全な球体から破砕あるいは粉砕された粒子として存在する。
【0009】
前記多孔質粒子の密度は0.4から2g/cmである。
【0010】
さらに表面孔の幅は1.0から100μm、好ましくは1.0から15μmである。
【0011】
発明により、細菌のみを担持する粒子のサイズは直径で0.02mm以上、好ましくは0.02から8mmにするのが有利である。一般に細菌のみを担持する粒子のサイズは0.05mmである。
【0012】
一般に発明による細菌の胞子または種はバチルスおよびスポロサルシナ属に属し、細菌としてはバチルス・シュードファームスを使用するのが好ましい。
【0013】
一方では、スポロサルシナ属に属する細菌はスポロサルシナ・パストゥリなどの尿素分解菌である。
【0014】
他方では、有機化合物はバイオミネラル前駆化合物、好ましくはギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、または他のカルボン酸カルシウム塩である。
【0015】
最後になるが、バイオミネラル前駆化合物担持粒子の粒子表面孔の幅は0.01から1μmにすると有利となる。
【0016】
セメントペーストに加える前に、細菌またはその胞子を発泡粘土の粒子またはフライアッシュ焼結体の粒子内に固定化して保護すると、細菌またはその胞子の保存がほぼ完全になるか、その生存能力の減少がかなり抑制される結果になり、このようにしてコンクリートおよび他のセメント系材料の補修または修理剤としての能力が長期間継続する。
【0017】
コンクリートおよびセメント系材料のこれら粒子の補修または修理能力を増加するために多孔質発泡粘土または発泡フライアッシュ粒子には、細菌に加えさらに適切な有機のバイオミネラル前駆化合物も担持させる。
【0018】
好ましい結果を得るために、セメント系材料における密度、サイズ、表面孔サイズおよび適用密度などの多孔質粒子特性は次の通りである。
【0019】
一般に発泡粘土またはフライアッシュ焼結体の粒子は完全な球体である。
【0020】
さらに表面孔の幅寸法は細菌を入れるのに十分大きくすることが重要となる。
【0021】
セメント系材料における適用粒子サイズ、その表面孔の幅および適用密度の選択は主として担持粒子の意図される機能によって決まる。細菌(すなわちバイオミネラル生成の触媒)のみを担持するときには粒子は小さくてもよいが、セメント系材料の補修に必要なバイオミネラル前駆化合物を追加担持するときには粒子はかなり大きくする必要がある。第1の選択は、バイオミネラル前駆化合物を外部的に適用するときに、すなわちバイオミネラル前駆化合物を材料のひび割れから浸入させて細菌に供給するときに実現可能となる。この場合、細菌のみを担持した粒子は小さくてよく、粒子の分布および適用密度は、セメント系材料の新たに形成された微小ひび割れが、マトリックスに埋封された細菌担持多孔質粒子に出会う機会が意味をなすように決められる。この適用のため、セメントペーストが固まる前に多孔質粒子に含浸した細菌の大半が漏れ出すのを防止するため、多孔質粒子の表面孔の幅は過度に大きくはしない。そのために、表面孔の幅は1.0から100μmに、より理想的には1.0から15μmにする。細菌のみを担持する粒子のサイズは多数の細菌または細菌胞子を収容して保護するのに十分な大きさにし、すなわち粒子サイズは直径で少なくとも0.02mmにする。新しく形成された幅0.1mmで長さ2mmのひび割れが直径0.05mmの細菌担持粒子に出会う機会は、粒子が材料中に均一に分布しているときの機会に近似する。セメント系材料に対する0.05mmサイズ粒子の容積比は1:240の程度である。しかし、粒子サイズの範囲はもっと広くてもよく、すなわち0.02から8mmの範囲でもよい。さらに、多孔質粒子がバイオミネラル前駆化合物のリザーバーとしても機能するときは、このような化合物の容積的補修または修理能力が化合物自体の容積に直接関係するので、サイズは0.02mmよりかなり大きくする。補修能力またはひび割れ充填能力は多孔質粒子に担持される補修剤の量で制限される。すなわち、補修すべきひび割れ容積が大きくなればなるほど、多孔質粒子の貯蔵容積は大きくしなければならない。バイオミネラル生成への前駆化合物の転化反応が膨張反応であるときは容積は小さくてよいことが注目される。また部分的なバイオミネラルひび割れ充填でもひび割れ浸透性が十分に減少し補修される結果となっている。しかし、粒子の分布および量はセメント系材料の圧縮強度および関連する機能が広い範囲にわたって悪い影響を受けないようにするべきであるので、粒子のサイズは大きくし過ぎないようにする。バイオミネラル前駆化合物と細菌の両方を担持するとき、バイオミネラル前駆化合物担持粒子の表面孔の幅は、細菌担持粒子のものとほぼ同一にする。しかし、細菌を加えずに適切なバイオメタル前駆化合物のみを多孔質粒子に担持するときは、粒子表面孔の幅はかなり小さくし、すなわち、0.01から1μmの範囲にすることができる。最近の材料補修または修理適用として、一方の粒子が細菌またはその胞子を担持し、他方の粒子が適切なバイオミネラル前駆化合物を担持する異なった2種類の多孔質粒子を同時に適用することができる。
【0022】
さらに本発明は前述の補修剤を調製する方法に関する。
【0023】
したがって、本発明は、多孔質粒子を細菌あるいは細菌胞子含有懸濁液またはバイオミネラル前駆化合物溶液に接触させることによって、多孔質凝集材料、発泡粘土またはフライアッシュ焼結体に細菌および/または有機化合物を担持させる方法であって、最初に、多孔質粒子を一晩中オーブンで120から200℃、好ましくは140℃の温度で乾燥させることで多孔質粒子を乾燥させて生存環境細菌を解放し、続いて、室温に冷却して粒子を真空処理にさらし、多孔質粒子が真空下にある間に細菌あるいは細菌胞子含有懸濁液またはバイオミネラル前駆化合物溶液を粒子に供給して粒子を完全に液中に沈めて、部分真空を解除し、続いて、前記懸濁液または溶液が混入した粒子を室温で乾燥させ、この粒子を再度使用するまで室温で保存することを特徴とする補修剤の調製方法に関する。
【0024】
上記方法は、多孔質粒子に細菌あるいは細菌胞子含有懸濁液、またはバイオミネラル前駆化合物溶液を担持させるのに適している。次に部分真空を解除すると、懸濁液または溶液が効率的に多孔質粒子に含浸されることに注目される。
【0025】
本発明によると、特にバチルスおよびスポロサルシナ属に関係する種の細菌胞子は数年間生存が維持される。これらの属に属する種の細菌胞子は、新しい(硬化していない)セメントペーストに混合する前に多孔質粒子内に固定化してコンクリートなどのセメント系材料に入れると、数ヶ月から数年にわたって生存が維持される。
【0026】
長期(数年)補修能力を保持するために、多孔質粒子に固定化される細菌胞子の数はコンクリート立方cmあたり10から10個の範囲にすることに注目される。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0027】
以下、次の実施例によって本発明をさらに説明するが、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
(ひび割れのあるコンクリートの浸透性を減少させるためバチルス・シュードファームス胞子および乳酸カルシウム溶液を担持した発泡粘土粒子の適用)
対数増殖遅延相においてバチルス・シュードファームスDSM8715培養で生成した胞子を遠心分離(10000gで20分)によって採取する。取得した細胞と胞子を包含するペレットを生水に再懸濁させて一回洗浄し、続いて再度遠心分離を行う。次に洗浄した胞子ペレットを一定分量の生水に再懸濁させml当たり3×1010個の胞子密度で懸濁液を取得する。平均粒子サイズが0.05mmの一回分の粉砕された発泡粘土粒子(例えば、ドイツKG HallendorfにあるLiapor社製のLipor)を約140℃の温度で一晩中乾燥させ、続いて室温に冷却する。次に、この1回分の量を部分真空にして、その後、1ml当たり3×1010個の胞子懸濁液1mlを真空状態の粒子16.5gに加え、その後、真空を解除する。2回目の分としてサイズ範囲が4から8mmの発泡粘土の完全な球体(例えば、ドイツOekotau Easy Green 社製のAquaclay)を約140℃の温度で一晩中乾燥させ、続いて室温に冷却する。次にこの分の量を部分真空にして、その後、真空状態の粒子がすべて液中に沈むまで乳酸カルシウム150mM溶液を加え、その後で真空を解除する。次に乳酸カルシウム溶液が含浸した多孔質の完全な球体を、重量損失が停止するまで温度30℃で乾燥させる。凝集体部分、セメントおよび水を次の仕様によって混合する。
【0029】
【表1】

この種のコンクリート内の粉砕されたLiapor固定化バチルス・シュードファームス胞子の特徴は長期生存性(数ヶ月から数年)にある。新しく形成されたひび割れを貫通する水で活性化した発芽胞子は以下の反応に従い乳酸カルシウムおよびコンクリートマトリックスポルトランダイトの代謝転化によってカルサイトの生成をもたらす。
【0030】
Ca(C3H5O3)2+5Ca(OH)2+6O2→6CaCO3+10H2O
生成されたカルサイトは新しく形成されたひび割れをシールすることでコンクリートの浸透性を減少させる。
【実施例2】
【0031】
(スポロサルシナ・パストゥリ胞子を担持する発泡粘土粒子のコンクリート補修剤としての適用)
この実施例においてスポロサルシナ・パストゥリDSM33などの尿素分解菌の発泡粘土固定化胞子はひび割れのあるコンクリートの補修触媒として作用し、一方、カルサイト前駆化合物の混合物(尿素、酢酸カルシウムおよびペプトン)は外部的に適用される。スポロサルシナ・パストゥリDSM33培養で生成された胞子は実施例1で述べた方法で粉砕された発泡粘土(例えば、Liapor)粒子に固定化される。0.05mmサイズのスポロサルシナ・パストゥリ胞子含有粒子(粒子1g当たり1.8×10個の胞子)をコンクリート混合物1m当たり5.4kgの比率でコンクリート混合物に加える。続いて固化した古いコンクリートの表面ひび割れに尿素、酢酸カルシウムおよびペプトン混合物(それぞれ10,27および0.5g/L)を液浸またはスプレーによって補修する。この混合物の有機アセテートおよびペプトンはスポロサルシナ・パストゥリ胞子を活性化(発芽)させ、この胞子は続いて尿素分解活性により尿素は加水分解される。この反応で生成された炭酸イオンは溶液のカルシウムイオンとともに自然に沈澱し、ひび割れ内とコンクリート表面に緻密で比較的不透質のカルサイト層を生成する。自律性細菌が介在するカルサイト生成系を得るために実施例1で述べた方法に類似して、カルサイト前駆化合物・混合物を外部的に適用する代わりに、コンクリート混合物に加えられる多孔質発泡粘土粒子内に吸収させることもできる。
【0032】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術の範囲内で他の形態もありうることに注目される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系材料および構造物の補修剤であって、
前記補修剤には有機化合物および/または細菌を担持する多孔質粒子が含まれることを特徴とする。
【請求項2】
前記多孔質粒子には発泡粘土またはフライアッシュ焼結体が含まれることを特徴とする請求項1に記載の補修剤。
【請求項3】
前記多孔質粒子は完全な球体または前記完全な球体から破砕あるいは粉砕された粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の補修剤。
【請求項4】
前記多孔質粒子の密度は0.4から2g/cmであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の補修剤。
【請求項5】
表面孔の幅は1.0から100μmであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の補修剤。
【請求項6】
表面孔は1.0から15μmであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の補修剤。
【請求項7】
細菌のみを担持する粒子の直径は0.02mm以上であり、好ましくは0.02から8mmであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の補修剤。
【請求項8】
粒子の直径は0.05mmであることを特徴とする請求項7に記載の補修剤。
【請求項9】
細菌胞子または種はバチルスまたはスポロサルシナ属に属することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の補修剤。
【請求項10】
細菌はバチルス・シュードファームスまたはスポロサルシナ・パストゥリであることを特徴とする請求項9に記載の補修剤。
【請求項11】
有機化合物はバイオミネラル前駆化合物であることを特徴とする請求項1に記載の補修剤。
【請求項12】
有機化合物はギ酸カルシウムであることを特徴とする請求項11に記載の補修剤。
【請求項13】
粒子表面孔の幅は0.01から1μmであることを特徴とする請求項1または11に記載の補修剤。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか1項に記載の補修剤の調製方法において、
多孔質粒子を細菌あるいは細菌胞子含有懸濁液またはバイオミネラル前駆化合物溶液に接触させることによって、多孔質凝集材料、発泡粘土またはフライアッシュ焼結体に細菌および/または有機化合物を担持させる方法であって、
最初に、多孔質粒子を一晩中オーブンで120から200℃、好ましくは140℃の温度で乾燥させることで多孔質粒子を乾燥させて生存環境細菌を解放し、
続いて、室温に冷却して粒子を真空処理にさらし、多孔質粒子が真空下にある間に細菌あるいは細菌胞子含有懸濁液またはバイオミネラル前駆化合物溶液を粒子に供給して粒子を完全に液中に沈めて、部分真空を解除し、
続いて、前記懸濁液または溶液が混入した粒子を室温で乾燥させ、この粒子を再度使用するまで室温で保存する
ことを特徴とする方法。
【請求項15】
発泡粘土粒子にバチルス・シュードファームスを担持させることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
発泡粘土粒子にスポロサルシナ・パストゥリを担持させることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
一方には細菌またはその胞子を、他方にはバイオミネラル前駆化合物を担持させ、この異なった2種類の粒子を同時に使用することを特徴とする請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2011−509915(P2011−509915A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544250(P2010−544250)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050025
【国際公開番号】WO2009/093898
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(500292149)テクニッシェ ユニヴァージテート デルフト (14)
【Fターム(参考)】