説明

セメント組成物、スリップフォーム工法

【課題】コンクリートを打設する間は流動性の低下が小さいが、所定の時間が経過すると,低温下においても脱型可能な初期強度が発現するようなコンクリートを提供する。
【解決手段】コンクリートは、セメントに、ポリアマイドポリアミン鎖を有する高分子化合物からなるポリカルボン酸系セメント分散剤からなる高性能AE減水剤及び硬化促進剤は、硝酸塩を主成分とする、亜硝酸塩、アミン類の何れかが混合されてなる硬化促進剤を添加するものとした。これにより、練混ぜ後2時間程度経過してもスランプフローの低下が7cm以下であり、また、10℃を下回る低温環境下においても脱型する前に必要となる打ち込み後6時間後における初期強度(0.1[N/mm]以上)が確保できる(実施例1〜3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、スリップフォーム工法に好適なコンクリートに適用されるセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄筋コンクリート造の塔状構造物を構築する際には、スリップフォーム工法が広く用いられている。スリップフォーム工法では、スリップフォーム内にコンクリートを打設し、打設したコンクリートが十分な強度を発揮した後、スリップフォーム装置を上昇させる工程を繰り返すことで、塔状構造物を構築する。
【0003】
スリップフォーム工法を用いる場合には、打設した下段のコンクリートが所定の強度を発現していなければ、その上段のコンクリートの荷重を支持することができず、脱型することができない。このため、施工効率を向上するため、早期に強度を発現するコンクリートが望まれる。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、高流動モルタルにロダン塩と亜硝酸塩とからなる硬化促進剤を混合することで、初期強度を確保する方法が開示されている。
また、特許文献2には,スランプ5〜15cmのコンクリートを製造し,高性能AE減水剤を分割して添加することでスランプ15〜21cmのコンクリートとし,初期強度発現性を確保する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001―146458号公報
【特許文献2】特許4377005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、鉄筋コンクリート造構造物において、耐震性を確保するため、配筋の過密化、コンクリートの高強度化が進んでいる。このような配筋が過密な鉄筋コンクリート造構造物を構築する場合には、コンクリートには高い流動性が求められる。特に、スリップフォーム工法により塔状構造物を構築する際には、練混ぜからコンクリートの打ち込みまでに2時間程度かかることもあり、この間、コンクリートの流動性が低下しないことが求められる。
また,同時に型枠脱型のため早期の強度発現が望まれ,この場合,例えば10℃を下回る低温下において打設後6時間程度で脱型可能な初期強度を確保することが求められる。
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の方法により得られるコンクリートは、同文献の表8に記載されているように、硬化促進剤を加えてから35分でスランプフローが150mm程度低下している。このように打設している間にスランプフローが低下してしまうと、コンクリートが隅々に行き亘らず、コンクリート構造物内に空隙が生じるおそれがある。
【0008】
また、特許文献2記載の方法により得られるコンクリートは、同文献の表1,表2および表3に記載されているように単位粉体量360kg/mのコンクリートに高性能AE減水剤を分割添加して流動化した後のスランプの目標値が15〜21cmのコンクリートであり,環境温度20℃下の条件において材齢4時間で0.05N/mmを達成するものであるが,近年の配筋が過密な鉄筋コンクリート造構造物に対しては流動性が小さく,適用できない。また,10℃を下回る低温下における初期強度の確保については検討されていない。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、高強度あるいは高い流動性のコンクリートに適用されるセメント組成物であって、打設する間は流動性の低下が小さいが、低温下においても所定の時間が経過すると脱型可能な初期強度が発現するようなセメント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のセメント組成物は、高強度あるいは流動性の高いコンクリートに適用されるセメント組成物で,セメントに高性能AE減水剤及び硬化促進剤を添加し、前記高性能AE減水剤は、ポリアマイドポリアミン鎖を有する高分子化合物からなるポリカルボン酸系セメント分散剤であることを特徴とする。
【0011】
上記のセメント組成物において、前記硬化促進剤は、硝酸塩を主成分とし、亜硝酸塩、アミン類の少なくとも何れかを含むものであってもよい。
また、本発明のスリップフォーム工法は、上記のセメント組成物を含むコンクリートを打設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリアマイドポリアミン鎖を有する高分子化合物からなるポリカルボン酸系セメント分散剤からなる高性能AE減水剤を添加し,硝酸塩を主成分とし、亜硝酸塩、アミン類の少なくとも何れかを含む硬化促進剤を添加することで、練混ぜ後2時間程度の間は流動性の低下が小さく、例えば10℃を下回る低温下において打設後6時間程度で脱型可能な初期強度が発現するコンクリートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実験におけるコンクリートの調合を示す表である。
【図2】実施例1〜3及び比較例1,2において用いた硬化促進剤の調合を示す表である。
【図3】各試験体のコンクリートの混練直後、硬化促進剤添加後、60分後、及び120分後のスランプフローと、硬化促進剤添加後6時間経過時における圧縮強度を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のセメント組成物を適用したコンクリートの一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態のコンクリートは、スリップフォーム工法に用いられる高強度で流動性の高いコンクリートを対象にしたものである。本実施形態のスリップフォーム工法では、10℃程度の低温下において,練混ぜてから現場までの運搬時間を30分とし、コンクリートの打設後6時間経過後に脱型を行うことを想定した。すなわち脱型までの6時間の間に10℃を下回る低温下において,コンクリートは、0.1[N/mm]の初期強度が発現していなければならない。また、近年、鉄筋コンクリート造構造物では、鉄筋の配筋が密になっている。塔状構造物などスリップフォーム工法を用いて構築する場合には、コンクリートの打設作業時において練混ぜから打ち込み完了までに2時間程度かかることもあるため、120分程度経過しても、密に配筋された鉄筋の間にコンクリートが充填されるように流動性の低下が小さい(望ましくは練混ぜからから打込み完了までのスランプフローの低下量が7cm以下である)必要がある。
【0015】
上記の要求を満たすべく、本実施形態のコンクリートは、セメントとして中庸熱ポルトランドセメントを用い、高性能AE減水剤及び硬化促進剤を添加するものとした。
なお,初期強度の確保のためには初期の強度発現に優れる早強熱ポルトランドセメントや普通ポルトランドセメントを用いても良いが,高強度で流動性の高いコンクリートではセメント量が多くなり,打込み後の水和熱による温度ひび割れの発生が懸念されることから,ここでは水和熱が小さな中庸熱ポルトランドセメントを用いることとした。
【0016】
高性能AE減水剤は、ポリアマイドポリアミン鎖を有する高分子化合物からなるポリカルボン酸系セメント分散剤である。ポリアマイドポリアミン鎖を有する高分子化合物は、水溶性両性型共重合体であり、これがセメントへ選択的に吸着されフローの持続性、凝結特性を著しく改善する効果を持ち合わせている。この高性能AE減水剤は、特に、低水セメント比において、コンクリートペーストの粘性低減に優れ、減水性、フローの保持性、凝結特性を改良し得るものである。
硬化促進剤は、硝酸塩を主成分とし、亜硝酸塩、アミン類が混合されてなるものが好適である。
【0017】
以下、かかるコンクリートについてスランプフロー及び初期強度を実験により調べたので説明する。
本実験では、ポリアミドポリアミン鎖を有する高性能AE減水剤を用いたコンクリート(実施例1〜3)と、ポリアミドポリアミン鎖を有しない高性能AE減水剤を用いたコンクリート(比較例1,2)について、混練直後、硬化促進剤添加直後(30分後)、60分後、120分後におけるスランプフローと、混練後6.5時間経過した際の圧縮強度を調べた。硬化促進剤は、硝酸カルシウムを主成分とし、亜硝酸カルシウム、トリエタノールアミンを含むものを用いた。実験における環境温度は10℃より低い8℃とした。
【0018】
図1は、本実験におけるコンクリートの調合を示す表である。同図に示すように、本実験では、水セメント比を32%、細骨材率を47.7%、水Wの単位量を170[kg/m]、セメントCの単位量を532[kg/m]、陸砂S1の単位量を598[kg/m]、砕砂S2の単位量を200[kg/m]、砕石Gの単位量を905[kg/m]とした。
【0019】
なお、セメントとしては、中庸熱ポルトランドセメント(密度3.21g/cm)を用い、細骨材S1としては、陸砂(君津産、密度2.61g/cm)、細骨材S2としては、砕石(佐野産、密度2.63g/cm)を用い、粗骨材としては、砕石(津久見産、密度2.71g/cm)を用いることとした。
【0020】
また、図2は、実施例1〜3及び比較例1,2において用いた硬化促進剤の調合を示す表である。同図に示すように、硬化促進剤として、実施例1では硝酸カルシウム70重量部のみからなるものを、実施例2では硝酸カルシウム60重量部、亜硝酸カルシウム1重量部、トリエタノールアミン3重量部からなるものを、実施例3では、硝酸カルシウム80重量部、亜硝酸カルシウム1重量部からなるものを、比較例1、2では硝酸カルシウム80重量部、亜硝酸カルシウム1重量部からなるものを、用いることとした。
【0021】
図3は、各試験体のコンクリートの混練直後、硬化促進剤添加後、60分後、及び120分後のスランプフローと、硬化促進剤添加後6時間経過における圧縮強度を示す表である。
【0022】
同図に示すように、比較例1,2では、混練直後のスランプフローは55cmであるが、120分経過後のスランプフローはそれぞれ45cm、40cmであり、比較例1では10cm、比較例2では15cmスランプフローが低下している。
【0023】
これに対して、実施例1〜3は、混練直後のスランプフローは57cmであるが、硬化促進剤を添加することでスランプフローが上昇し、120分後には夫々、60cm、59cm、55cm、となっている。このように、実施例1〜3では混練直後と120分経過後のスランプフローの差は最も大きい実施例3であっても、2cmであり、実施例1〜3では120分経過してもスランプフローが略一定であることが確認された。
【0024】
また、現場においてコンクリートを打設する際には、硬化促進剤の添加後に打設することとなるため、硬化促進剤の添加後と120分経過後とのスランプフローの差が小さい必要があるが、比較例1,2ではこの差がそれぞれ15cm、18cmと大きいのに対して、実施例1〜3では、この差は1〜5cmと小さい値であり、硬化促進剤の添加後に比べてもスランプフローが大きく低下することはないことが確認された。
【0025】
また、同図に示すように、比較例1、2の6時間経過後における圧縮強度は、それぞれ0.04[N/mm]、0.06[N/mm]と、脱型するために必要となる6時間後における初期強度(0.1[N/mm]以上)が確保できていないが、実施例1〜3及び比較例の6時間経過後における圧縮強度は、夫々、0.15[N/mm]、0.11[N/mm]、0.1[N/mm]であり、8℃の低温下において上記の初期強度が確保できることが確認された。
【0026】
以上説明したように、本実験により、本実施形態によれば、練混ぜから2時間程度経過してもスランプフローの低下量が7cm以下であり、また、8℃の低温下において脱型する前に必要となる打ち込みから6時間後における初期強度(0.1[N/mm]以上)が確保できることが確認された。
【0027】
なお、本実施形態では、スリップフォーム工法に用いるコンクリートについて説明したが、かかる組成のコンクリートをスリップフォーム工法以外の工法により建物を建てる場合に用いてもよい。
【0028】
また、本実施形態では、中庸ポルトランドセメントを用いているが、これ以外のセメントを用いてもよい。
【0029】
また、上記の実験では、硬化促進剤として、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、トリエタノールアミンを含むものを用いたが、これに限らず、硝酸塩、亜硝酸塩、アミン類を含むものであればよく、また、必ずしも全てを含む必要はない。また、本実施形態では、脱型に必要な強度を0.1[N/mm]以上および脱型に必要な時間を打ち込み後6時間としたが、それ以外の値を用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度あるいは流動性の高いコンクリートに適用されるセメント組成物で,セメントに高性能AE減水剤及び硬化促進剤を添加し、前記高性能AE減水剤は、ポリアマイドポリアミン鎖を有する高分子化合物からなるポリカルボン酸系セメント分散剤であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
前記硬化促進剤は、硝酸塩を主成分とし、亜硝酸塩、アミン類の少なくとも何れかを含むものであることを特徴とする請求項1のセメント組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のセメント組成物を含むコンクリートを打設することを特徴とするスリップフォーム工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−148645(P2011−148645A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9386(P2010−9386)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(597038356)日本シーカ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】