説明

セメント組成物の製造方法

【課題】セメント類の中でも、特にカルシウムアルミネートと石膏類その他骨材などからなるエトリンガイトを析出するセメントペースト、モルタル、又はコンクリート等は、そのセメント部分が水と水和反応し、硬化後表面に異色模様が出来やすい。そのため硬化体の表面美観の損失による商品価値の低下が課題であり、従来の方法では可使時間が短くなり凝結遅延剤量が増えたり、本来の色が変化したりするなどの問題があり、容易な改善策が無いのが現状であった。本発明は、硬化体表面に現れる異色の模様を容易な方法で低減することができるとともに、可使時間の大幅な変化などによる作業効率の低下やセメント等の硬化体の物性低下を著しくきたすことのないセメント組成物の製造方法を説明する。
【解決手段】セメント100重量部に対して、高級脂肪酸類0.05以上20重量部以下を添加することを特徴とする、異色模様抑制セメント組成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレミックスセメント、セメントペースト、モルタル、又はコンクリート等のセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、緊急工事や二次製品の早期脱型等において、短時間で実用強度を得ることを目的として速硬性セメント等が利用されているが、特許文献1、2、3に記載されているように、主にカルシウムアルミネートと石膏類からなるエトリンガイトを生成する速硬性セメントは、水と水和反応し硬化後表面に白色系の斑点のような模様が出来やすい。そのため、硬化後における表面美観の損失による商品価値の低下が課題であり、その対策として特許文献3、4に記載されているように炭素物質を混入し成分調整する方法や、活性シリカを混入する方法などが知られている。出来上がり表面に異色模様が出来やすいエトリンガイトを生成するセメントは例えば、CA、CA、CA、C・CaF、C11・CaF、及びC12等を主成分とする結晶質カルシウムアルミネート又はこれらの急冷によって無定形カルシウムアルミネートとしたものと、石膏類を主とする急硬材を各種ポルトランドセメントや混合セメントに混和したものがあり、急硬材を混和する各種ポルトランドセメントとしては普通、早強、超早強、中庸熱、低発熱、及び白色等のポルトランドセメントが使用可能であるものである。このようなセメントの市販品として例えば太平洋セメント社製商品名「スーパージェットセメント」や住友大阪セメント社製商品名「ジェットセメント」及び電気化学社製商品名「スーパーセメント」等が挙げられる。
【0003】
【特許文献1】特開昭53−37729号広報
【特許文献2】特開昭48−89222号広報
【特許文献3】特開2000−219560号広報
【特許文献4】特開2005−289656号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セメントペースト、モルタル、又はコンクリート等が硬化した後の、硬化体表面美観の損失を防ぐためには、異色模様を生じさせる原因のエトリンガイトの塊などを細かく分散させる方法や、硬化体の表面色を変える方法等が考えられるが、従来の技術でのシリカ系材料などの混和では、可使時間が短くなり凝結遅延剤量が増えたり、本来の色が変化したりするなどの問題があり、この分野での研究開発は十分ではなく、容易な改善策が無いのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明はセメント100重量部に対して、高級脂肪酸類0.05以上20重量部以下、好ましくは、0.1以上10重量部以下を添加することを特徴とする、異色模様防止用セメント組成物の製造方法である。また、前述セメント組成物とは通常プレミックスセメント、セメントペースト、モルタル、コンクリートなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法とすることにより高級脂肪酸類は、異色模様防止用混和剤として機能するものであり、硬化後に表面に発生する異色模様を抑制することができる。そのため、表面状態が良好なセメント硬化体となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で使用する高級脂肪酸類とは、一般に加硫促進剤や分散剤、洗浄剤、界面活性剤などとして知られるものであり、種類としては、ステアリン酸類、アラギドン酸類、オイレン酸類、パルミチン酸類、ミリスチン酸類、ラウリン酸類、ウンデシレン酸類、ベへニン酸類、ラノリン脂肪酸類、硬質ラノリン脂肪酸類、軟質脂肪酸類、リノール酸類、リノレン酸類等が挙げられるが、好ましくはステアリン酸類、パルミチン酸類の混合物であり、より好ましくはステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カリウムなどのステアリン酸類であるが、特にステアリン酸類の混合物の中でも経済性を考慮するとステアリン酸カルシウムが望ましい。
【0008】
高級脂肪酸類の使用量としては、セメント100重量部に対して、高級脂肪酸0.05以上20重量部以下が好ましく、0.1以上10重量部以下が特に好ましい。0.1重量部未満では、異色模様の防止効果は小さく、10重量部を超えて使用した場合効果は保たれるが、硬化時における強度低下などを招く場合もある。
【0009】
尚、本発明の高級脂肪酸類は、異色模様防止用セメント混和剤として、水、骨材等と練り混ぜ、コンクリート等として使用する。この際、減水剤やAE剤または凝結遅延剤等の化学混和剤を併用することが可能である。
【実施例】
【0010】
試料は目標スランプ18cmの一般的なコンクリートとし、速硬性セメントと該セメントからなるセメント100重量部、珪砂140重量部、粗骨材160重量部、水54重量部、及び主成分をクエン酸ナトリウムとする凝結遅延剤0.07重量部の配合に、該セメント100重量部に対し、各種高級脂肪酸類を0.01〜20重量部の範囲で添加した。尚、試料の混練作業及び養生は、20±2℃の試験室にて行った。試験項目として、混練終了直後からの可使時間、材齢3時間圧縮強度、材齢3時間曲げ強度を測定し、硬化後表面に生じる異色模様の程度を観測した。その結果を表1に表す。
【0011】
【表1】

【0012】
*1:可使時間は混練終了直後、混練した試料を容量200cc、高さ80mmの判定容器に移し、直径5mmの金属製の判定棒にて判定容器の底を掻き、掻く抵抗力が混練直後よりも大きくなったときまでの時間を測定した。
【0013】
*2:材齢3時間強度は4×4×16cmの強度測定用供試体を作製し、混練開始から3時間後の圧縮及び曲げ強度試験の測定値とした。
【0014】
*3:異色模様の程度は混練した試料をL20×W15×H1cmの型枠に移して成形し、成形から24時間後、目視にて以下の基準で評価した。
×・・・高級脂肪酸無混入の場合とほぼ同等
△・・・異色模様が少なくなった場合
○・・・異色模様が見にくくなった場合
◎・・・異色模様が見られない場合
【0015】
表1より硬化前のコンクリートに各種高級脂肪酸を添加することで硬化体表面に生ずる異色模様が抑制されていることが分かる。また、各種ステアリン酸の中でもステアリン酸カルシウムを使用した試料は、特に異色模様の抑制効果が大きいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
出来上がり表面に異色模様が見られると、美観が損なわれる場所に使用する土木建築及び家庭用等のコンクリート、モルタル及びセメント材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント100重量部に対して、高級脂肪酸類0.05以上20重量部以下を添加することを特徴とする、セメント組成物の製造方法。
【請求項2】
エトリンガイトを析出する水硬性セメントを用いた請求項1記載による製造方法。
【請求項3】
カルシウムアルミネートと石膏類からなるエトリンガイトを析出する水硬性セメントを用いた請求項1記載による製造方法。
【請求項4】
請求項3記載による水硬性セメントに対して、ステアリン酸類、アラギドン酸類、オイレン酸類、パルミチン酸類、ミリスチン酸類、ラウリン酸類、ウンデシレン酸類、ベへニン酸類、ラノリン脂肪酸類、硬質ラノリン脂肪酸類、軟質脂肪酸類、リノール酸類、リノレン酸類の何れか1種類以上からなる高級脂肪酸類を用いた請求項1記載によるセメント組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載による水硬性セメントに、請求項4記載のステアリン酸類と同請求項4記載のうち、ステアリン酸類以外の何れか1種類以上からなる高級脂肪酸類を用いた請求項1記載によるセメント組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項3記載による水硬性セメントに、ステアリン酸類のうち、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムの何れか1種類以上からなる高級脂肪酸類を用いた請求項1記載によるセメント組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6記載の何れかによる製造方法により製造されたセメント組成物。

【公開番号】特開2008−195574(P2008−195574A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33219(P2007−33219)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(593084638)トーヨーマテラン株式会社 (3)
【Fターム(参考)】