説明

セメント製造用燃料供給方法及び供給システム

【課題】低引火点燃料をセメント製造工程において燃料の代替として用い、廃棄物の処理とセメント製造工程の高価な化石燃料の原単位の低減とを同時に達成する。
【解決手段】低引火点燃料を単独で、又は、低引火点燃料と他の液状燃料とをセメント焼成炉又は仮焼炉に吹き込む。低引火点燃料と他の液状燃料とを管路の途上で合流させ、セメント焼成炉又は仮焼炉に吹き込むことができ、両燃料の合流を、セメント焼成炉又は仮焼炉への吹込装置の先端部から5m以上、50m以内の位置で行なうことができる。低引火点燃料と他の液状燃料を合流させると、両燃料間で化学反応が起って爆発等の危険性が高まるが、セメント焼成炉又は仮焼炉へ吹き込む直前で合流させることによって、化学反応が進行する前に両燃料をセメント焼成炉等に吹込んで燃焼させるため、より安全に低引火点燃料をセメント製造用燃料として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造用燃料供給方法及び供給システムに関し、特に、廃溶剤等の低引火点燃料をセメント製造用燃料として用いるための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント製造工程において、各種廃棄物を燃料の代替として用い、廃棄物の処理に資するとともに、セメント製造における高価な化石燃料の原単位を低減する試みがなされている。例えば、特許文献1には、廃プラスチックと廃油とを混合し、そのスラリー状混合物を、ロータリーキルンの主燃料(微粉炭)バーナの中心に挿入した補助燃料バーナに送給し、補助燃料バーナの補助燃料吹出口からロータリーキルン内に吹き出して燃焼させるセメントクリンカの製造方法等が提案されている。
【0003】
一方、特許文献2には、タンカー等で発生した引火点の低い廃油を燃焼処理するにあたって、廃油に高引火点の油を添加して混合油を形成し、混合油の引火点を調べて目標の引火点以上のときはそのまま燃焼させ、目標の引火点未満のときは混合油に高引火点油を添加して引火点を高くした後燃焼させることを特徴とする廃油の燃焼方法が提案されている。
【特許文献1】特開2003−192406号公報
【特許文献2】特開昭57−2922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、従来、セメント製造工程で各種廃棄物を燃料の代替として用いているが、アセトン、ガソリン、アルコール類、灯油、軽油等を含有する廃溶剤については、引火点が低く、防爆対策などを確実に行なう必要もあることから、セメント製造工程で燃料の代替とすることは困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、廃溶剤等の低引火点燃料についてもセメント製造工程において燃料の代替として用いることにより、廃棄物の処理と、セメント製造工程の燃料原単位の低減とを同時に達成することのできる燃料供給方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、セメント製造用燃料供給方法であって、低引火点燃料を単独で、又は、低引火点燃料と他の液状燃料とをセメント焼成炉又は仮焼炉に吹き込むことを特徴とする。ここで、低引火点燃料とは、引火点70℃未満の物質を含有するものであり、アセトン、ガソリン、アルコール類、灯油、軽油等を含有する廃溶剤等が該当する。形態としては、液体、エマルジョン、スラリー等の状態のものがある。また、引火点が21℃未満の消防法で規定する第1石油類に分類される可燃性液体を含有するものを含むものとする。他の液状燃料とは、高引火点の液状燃料(液体、エマルジョン、スラリー等を含む)又は該低引火点燃料と異なる種類の低引火点燃料をいう。また、低引火点燃料を単独でとは、液状の燃料として単独で用いるということであり、後述のとおり別途固体粉末燃料等を併用することは妨げない。
【0007】
そして、本発明によれば、低引火点燃料を単独で用いるか、低引火点燃料と他の燃料とをセメント焼成炉又は仮焼炉に吹き込むことにより、低引火点燃料としての廃溶剤等の廃棄物処理と、セメント製造工程の燃料原単位の低減を同時に図ることができる。
【0008】
前記セメント製造用燃料供給方法において、前記低引火点燃料と他の液状燃料とを、管路の途上で合流させ、前記セメント焼成炉又は仮焼炉に吹き込むことができる。これにより、炉内のフレームを適正に形成することができるとともに、バーナーの製作や、耐火物の施工に関するコストを低減することができる。また、貯蔵タンク等において、低引火点燃料と他の液状燃料と混合したのでは、化学反応が起って爆発したり、危険な物質に変質したり、取り扱いが困難になる場合があるが、管路の途上で合流させることにより、これらの危険性等を回避することができる。
【0009】
前記セメント製造用燃料供給方法において、前記低引火点燃料と前記他の液状燃料との合流を、前記セメント焼成炉又は仮焼炉への吹込装置の先端部から5m以上、50m以内の位置で行なうことができる。尚、上記距離は、吹込装置の先端部からの直線距離ではなく、管路に沿って測定した長さをいう。低引火点燃料と他の液状燃料を合流させると、場合によっては、両燃料間で化学反応が起って爆発等の危険性が高まることとなるが、セメント焼成炉又は仮焼炉へ吹き込む直前で合流させることによって、化学反応が進行する前に両燃料をセメント焼成炉等に吹込んで燃焼させることができるため、より安全に低引火点燃料をセメント製造用燃料として用いることができる。
【0010】
前記セメント製造用燃料供給方法において、前記低引火点燃料と他の液状燃料とを、各々別々の管路を介し、前記セメント焼成炉又は仮焼炉に吹き込むことができる。この場合、前記低引火点燃料と他の液状燃料とを、同一のバーナから、又は別々のバーナから、前記セメント焼成炉又は仮焼炉に吹き込むことができる。
【0011】
さらに、本発明は、セメント製造用燃料供給システムであって、低引火点燃料の供給管路と、該供給管路を介して供給された低引火点燃料をセメント焼成炉又は仮焼炉へ吹き込む吹込装置とを備えることを特徴とする。
【0012】
そして、本発明によれば、廃溶剤等の低引火点燃料についてもセメント製造工程において燃料の代替として用いることができ、廃棄物の処理と、セメント製造工程における高価な化石燃料の原単位の低減とを同時に達成することができる。
【0013】
また、本発明は、セメント製造用燃料供給システムであって、低引火点燃料の供給管路と、他の液状燃料の供給管路と、両供給管路の合流点と、該合流点で合流した両燃料をセメント焼成炉又は仮焼炉へ吹き込む吹込装置とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、上記のように、低引火点燃料と、他の液状燃料とを合流させて同一の管路から吹込むことにより、炉内のフレームを適正に形成することができるとともに、バーナーの製作や、耐火物の施工に関するコストを低減することができる。
【0015】
前記セメント製造用燃料供給システムにおいて、前記両燃料の合流点、又は、該合流点と前記吹込装置との間に、前記両燃料を混合する混合装置を備えることができる。これによって、低引火点物質と他の液状燃料とが十分に混合され、セメント焼成炉又は仮焼炉における均一な燃焼を図ることができる。
【0016】
前記セメント製造用燃料供給システムにおいて、前記合流点を、前記セメント焼成炉又は仮焼炉への吹込装置の先端部から5m以上、50m以内に位置させることができる。これによって、上述のように、低引火点燃料と他の液状燃料との化学反応が進行する前に両燃料をセメント焼成炉等に吹込んで燃焼させることができるため、より安全に低引火点燃料をセメント製造用燃料として用いることができる。
【0017】
また、本発明は、セメント製造用燃料供給システムであって、低引火点燃料の供給管路と、他の液状燃料の供給管路と、前記各々の供給管路から前記各々の燃料を別々にセメント焼成炉又は仮焼炉へ吹き込む吹込装置とを備えることを特徴とする。このシステムによれば、両燃料を、同時に各々別々の管路を介してセメント焼成炉又は仮焼炉に吹き込むことができる。ここで、前記両供給管路を同一のバーナに備えてもよく、各々の供給管路を別々のバーナに備えるように構成することができる。
【0018】
尚、本発明においては、前記低引火点燃料等と並行して、固体粉末燃料が吹込まれていてもよい。該固体粉末燃料は、前記低引火点燃料等とは別バーナーで、又は、同一バーナーの別管路で吹込まれることが好ましく、後者の場合には、炉内のフレームを適正に形成することができるとともに、バーナーの製作や、耐火物の施工に関するコストを低減することができる。
【0019】
前記固体粉末燃料としては、微粉炭、粉末オイルコークス等を用いることができる。これら固体粉末燃料と低引火点物質とを並行して吹込むことにより、固体粉末燃料の揮発分が増加した形となり、固体粉末燃料の燃焼性を向上させながら、低引火点燃料をセメント製造用燃料として用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、廃溶剤等の低引火点燃料についてもセメント製造工程において燃料の代替として用いることができ、廃棄物の処理と、セメント製造工程の高価な化石燃料の原単位の低減とを同時に達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、本発明にかかるセメント製造用燃料供給システムの一実施の形態を示し、このシステム1は、大別して、低引火点燃料槽2と、高引火点燃料槽3と、混合器4と、バーナ5とで構成され、セメント焼成炉10及びクリンカクーラ11を備えるセメント焼成設備に燃料を供給するために備えられる。
【0023】
低引火点燃料槽2は、低引火点燃料を一時的に貯蔵するために備えられ、低引火点燃料としての廃溶剤等が貯蔵される。尚、低引火点燃料槽2に低引火点燃料を長期間貯蔵すると、他の物質と混合されて危険な物質となったり、析出、固化等により取り扱いが困難となるため、貯蔵期間は短期間とすることが好ましい。この低引火点燃料槽2には、低引火点燃料を混合器4を経てバーナ5に供給するためのポンプ8と、管路6とが付設される。
【0024】
高引火点燃料槽3は、液状の高引火点燃料を一時的に貯蔵するために備えられ、高引火点燃料としての廃油等が貯蔵される。高引火点燃料槽3には、高引火点燃料を混合器4を経てバーナ5に供給するためのポンプ9と、管路7とが付設される。
【0025】
混合器4は、高引火点燃料2から供給される高引火点燃料と、低引火点燃料槽2から供給される低引火点燃料とをセメント焼成炉10の直前で混合するため、バーナ5の先端部から5m以上、50m以内、好ましくは5m以上、30m以内、より好ましくは5m以上、20m以内に配置する。また、混合器4を管路6、7の合流点に配置せずに、管路6、7の合流点とバーナ5との間に配置してもよい。この混合器4には、静止型混合器、インラインミキサー等を用いることができる。
【0026】
次に、上記構成を有するセメント製造用燃料供給システム1の動作について、図1を参照しながら説明する。
【0027】
低引火点燃料及び高引火点燃料を受け入れ、低引火点燃料槽2及び高引火点燃料槽3に一時的に貯蔵した後、セメント焼成炉10の運転時に、各々、ポンプ8及び管路6、ポンプ9及び管路7とを介して混合器4に供給する。
【0028】
混合器4において、両燃料を混合する。これにより、セメント焼成炉又は仮焼炉における均一な燃焼を図ることができる。尚、混合器4における低引火点燃料と高引火点燃料との混合により、両者が反応し、爆発しやすい状態となるなど、何らかの問題が発生するおそれもあるが、混合器4における混合後、両燃料の混合物は即座にバーナ5に供給されてセメント焼成炉10に吹込まれて燃焼するため安全である。
【0029】
両燃料の混合物を、バーナ5からセメント焼成炉10に吹き込み、セメント焼成に利用する。これによって、廃溶剤等の低引火点燃料についてもセメント製造工程において燃料の代替として用いることができ、廃棄物の処理と、セメント製造工程の高価な化石燃料の原単位の低減という効果を同時に得ることができる。
【0030】
尚、上記実施の形態においては、低引火点燃料と高引火点燃料とをセメント焼成炉10に吹き込む場合について説明したが、上記と同様のシステムを用い、セメント焼成設備の仮焼炉にバーナを介して吹き込むこともでき、上記と同様の効果を奏することができる。
【0031】
また、上記実施の形態においては、低引火点燃料と高引火点燃料とを混合する場合について説明したが、全燃料中の低引火点燃料の割合は、0を超え100%までの広い範囲から選択することができる。
【0032】
さらに、上記実施の形態においては、低引火点燃料と高引火点燃料とをセメント焼成炉等に吹き込む場合について説明したが、異なる種類の低引火点燃料同士を合流させて吹き込むこともできる。例えば、第1の低引火点燃料としての廃アルコールと、第2の低引火点燃料としてのトルエン系廃溶剤とを合流させて吹き込むことができる。
【0033】
また、上記実施の形態においては、低引火点燃料と液状の高引火点燃料とを合流させる場合について説明したが、異なる種類の低引火点燃料同士を合流させてもよい。
【0034】
さらに、2つの燃料を合流させずに、各々別々の供給管路からセメント焼成炉等に吹き込むようにしてもよく、低引火点燃料と液状の高引火点燃料とを、又は、低引火点燃料と固体の高引火点燃料とを、又は異なる種類の低引火点燃料同士を合流させずに吹き込むことができる。この際、各々別々の供給管路を同一のバーナに備えてもよく、各々の供給管路を別々のバーナに備えるように構成することもできる。特に、低引火点燃料と、高引火点の固体粉末燃料とを同一バーナーで別々の管路を介して吹き込むことで、炉内のフレームを適正に形成することができるとともに、バーナーの製作や、耐火物の施工に要するコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかるセメント製造用燃料供給システムの一実施の形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0036】
1 セメント製造用燃料供給システム
2 低引火点燃料槽
3 高引火点燃料槽
4 混合器
5 バーナ
6 管路
7 管路
8 ポンプ
9 ポンプ
10 セメント焼成炉
11 クリンカクーラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低引火点燃料を単独で、又は、低引火点燃料と他の液状燃料とをセメント焼成炉又は仮焼炉に吹き込むことを特徴とするセメント製造用燃料供給方法。
【請求項2】
前記低引火点燃料と他の液状燃料とを、管路の途上で合流させ、前記セメント焼成炉又は仮焼炉に吹き込むことを特徴とする請求項1に記載のセメント製造用燃料供給方法。
【請求項3】
前記低引火点燃料と他の液状燃料との合流を、前記セメント焼成炉又は仮焼炉への吹込装置の先端部から5m以上、50m以内の位置で行なうことを特徴とする請求項2に記載のセメント製造用燃料供給方法。
【請求項4】
前記低引火点燃料と他の液状燃料とを、各々別々の管路を介し、前記セメント焼成炉又は仮焼炉に吹き込むことを特徴とする請求項1に記載のセメント製造用燃料供給方法。
【請求項5】
前記低引火点燃料と他の液状燃料とを、同一のバーナから、又は別々のバーナから、前記セメント焼成炉又は仮焼炉に吹き込むことを特徴とする請求項4に記載のセメント製造用燃料供給方法。
【請求項6】
低引火点燃料の供給管路と、
該供給管路を介して供給された低引火点燃料をセメント焼成炉又は仮焼炉へ吹き込む吹込装置とを備えることを特徴とするセメント製造用燃料供給システム。
【請求項7】
低引火点燃料の供給管路と、
他の液状燃料の供給管路と、
両供給管路の合流点と、
該合流点で合流した両燃料をセメント焼成炉又は仮焼炉へ吹き込む吹込装置とを備えることを特徴とするセメント製造用燃料供給システム。
【請求項8】
前記両燃料の合流点、又は、該合流点と前記吹込装置との間に、前記両燃料を混合する混合装置を備えることを特徴とする請求項7に記載のセメント製造用燃料供給システム。
【請求項9】
前記合流点は、前記セメント焼成炉又は仮焼炉への吹込装置の先端部から5m以上、50m以内に位置することを特徴とする請求項7又は8に記載のセメント製造用燃料供給システム。
【請求項10】
低引火点燃料の供給管路と、
他の液状燃料の供給管路と、
前記各々の供給管路から前記各々の燃料を別々にセメント焼成炉又は仮焼炉へ吹き込む吹込装置とを備えることを特徴とするセメント製造用燃料供給システム。
【請求項11】
前記両供給管路を同一のバーナに備えることを特徴とする請求項10に記載のセメント製造用燃料供給システム。
【請求項12】
前記各々の供給管路を別々のバーナに備えることを特徴とする請求項10に記載のセメント製造用燃料供給システム。

【図1】
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