説明

セメント製造設備におけるタリウムの回収方法及び回収装置

【課題】セメント製造設備から排出される燃焼ガス中のタリウムを、高純度で回収することができるセメント製造設備におけるタリウムの回収方法及び回収装置を提供する。
【解決手段】本発明のセメント製造設備におけるタリウムの回収方法は、サスペンションプレヒータ1のサイクロン1dから排出される燃焼ガス中のダストを、スタビライザ5、電気集塵機6、バグフィルタ7により捕集し、このダストを水洗槽8中の水にて水洗してスラリーとし、このスラリーを濾過機9に導入してケーキとタリウムを含む濾液に分離し、この濾液を反応析出槽11に投入して酸化タリウムを析出させ、得られた懸濁状の濾液をタリウム分離機12に投入して、酸化タリウムを含むケーキ状のスラッジと濾液とに分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造設備におけるタリウムの回収方法及び回収装置に関し、更に詳しくは、セメント製造設備から排出される燃焼ガスに含まれる有用な金属の一種であるタリウム(Tl)を、高純度で回収することが可能なセメント製造設備におけるタリウムの回収方法及び回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保護の高まりにより、セメント製造設備においても産業廃棄物を有効利用することが行われている。
この産業廃棄物には塩素等の揮発性成分が含まれているので、脱塩装置等を用いて取り除く必要がある。この脱塩装置は、セメントキルンと予熱機の間で揮発と凝縮を繰り返すことで濃縮した塩素等の揮発性成分を取り除くために、セメントキルンの窯尻部から排ガスを抽気し冷却することにより、塩素化合物を主とする揮発性成分を固化させた塩素バイパスダストを生成させ、この塩素バイパスダストを系外に排出することで、塩素をセメントキルン内から除去する装置である。
【0003】
ところで、この脱塩装置にて発生した塩素バイパスダストには、有用な金属であるタリウムが含まれているので、このタリウムを回収して再利用することが望まれている。
そこで、セメント製造工程から300℃以上かつ900℃以下のセメントキルン燃焼ガスの一部を抽気し、この抽気した燃焼ガスを徐塵することなく冷却して該燃焼ガスに含まれるダスト(塵埃)を捕集することにより、セメント製造工程からタリウム、鉛、セレン等の金属を回収する方法(特許文献1)、あるいは、セメント製造設備のプレヒータから200℃〜800℃の排ガスを抜き取り、この排ガス中から、タリウム、鉛、カドミウム、亜鉛、水銀等の有用金属を回収する方法(特許文献2)等が提案されている。
【特許文献1】特開2006−347794号公報
【特許文献2】特開2007−130565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の各々の有用金属の回収方法においては、確かに、タリウムを回収することはできるものの、この回収したタリウムには、鉛、セレン、カドミウム、亜鉛、水銀、等の有用金属が多く含まれているために、高純度のタリウムを得るためには、回収したタリウムを再度精製する必要があり、したがって、工程が増加し、タリウム回収に要するコストが大きくなってしまうという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、セメント製造設備から排出される燃焼ガスに含まれる有用な金属の一種であるタリウムを、再度精製することなく、高純度で回収することができ、しかも、タリウム回収に要するコストが安価であるセメント製造設備におけるタリウムの回収方法及び回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、次の様なセメント製造設備におけるタリウムの回収方法及び回収装置を提供した。
すなわち、本発明のセメント製造設備におけるタリウムの回収方法は、セメント製造設備から排出される燃焼ガスに含まれるタリウムを回収する方法であって、前記セメント製造設備のサスペンションプレヒータのガス出口またはセメントキルンの脱塩装置のガス出口より下流の燃焼ガスの流路にて該燃焼ガスに含まれる塵埃を捕集し、次いで、この捕集された塵埃を水洗してスラリーまたは水溶液を得、次いで、このスラリーまたは水溶液を固液分離し、タリウムを回収することを特徴とする。
【0007】
このタリウムの回収方法では、セメント製造設備のサスペンションプレヒータのガス出口またはセメントキルンの脱塩装置のガス出口より下流の燃焼ガスの流路にて該燃焼ガスに含まれる塵埃を捕集した後、この捕集された塵埃を水洗してスラリーまたは水溶液とし、このスラリーまたは水溶液を固液分離することにより、分離された濾液中にタリウムが高純度で残留することとなり、高純度のタリウムが容易に得られる。一方、分離された固形分は、セメント製造設備のセメント原料として有効利用される。
【0008】
また、サスペンションプレヒータのガス出口またはセメントキルンの脱塩装置のガス出口より下流の燃焼ガスは、サスペンションプレヒータから抽気した燃焼ガスと比べて温度が低いものであるから、別途冷却手段を用いて冷却する必要もなく、高純度のタリウムが効率的に得られる。
【0009】
前記塵埃を水洗する際に、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを水に添加してなる強アルカリ水を用いて前記塵埃を洗浄することが好ましい。
このタリウムの回収方法では、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを水に添加してなる強アルカリ水を用いて前記塵埃を洗浄することにより、強アルカリ水により塵埃に含まれるタリウムが容易に溶出し、タリウムの濃度が高いスラリーまたは水溶液が容易に得られる。
【0010】
前記濾液に直流電流を通電することにより前記濾液に溶存するタリウムを酸化タリウムとして析出させ、この酸化タリウムを前記濾液から分離することが好ましい。
このタリウムの回収方法では、濾液に直流電流を通電することにより前記濾液に溶存するタリウムを酸化タリウムとして析出させ、この酸化タリウムを前記濾液から分離することにより、通常のpH調整や還元剤の投与等では沈殿し難い濾液中のタリウムを、水の電気分解とともに酸化タリウムとして析出させ、この析出物を分離する。これにより、濾液中のタリウムが容易に取り除かれるとともに、析出する酸化タリウムの純度が高まる。
【0011】
本発明のセメント製造設備におけるタリウムの回収装置は、セメント製造設備から排出される燃焼ガスに含まれるタリウムを回収する装置であって、前記セメント製造設備のサスペンションプレヒータのガス出口またはセメントキルンの脱塩装置のガス出口より下流の燃焼ガスの流路にて該燃焼ガスに含まれる塵埃を捕集する捕集手段と、この捕集された塵埃を水洗してスラリーまたは水溶液を得る水洗手段と、この水洗手段にて得られたスラリーまたは水溶液を固液分離し、前記スラリーまたは水溶液からタリウムを分離する固液分離手段とを備えてなることを特徴とする。
【0012】
このタリウムの回収装置では、捕集手段により、セメント製造設備のサスペンションプレヒータのガス出口またはセメントキルンの脱塩装置のガス出口より下流の燃焼ガスの流路にて該燃焼ガスに含まれる塵埃を捕集し、水洗手段により、この捕集された塵埃を水洗してスラリーまたは水溶液を得、固液分離手段により、このスラリーまたは水溶液を固液分離し、前記スラリーまたは水溶液からタリウムを分離する。
これにより、タリウムは分離された濾液中に高純度で残留することとなり、高純度のタリウムが容易に得られる。一方、分離された固形分は、セメント製造設備のセメント原料として有効利用される。
【0013】
前記捕集手段は、前記燃焼ガスを加湿しそれに含まれる塵埃を凝集させて捕集する調湿塔、前記燃焼ガスに含まれる塵埃を帯電させて吸着する電気集塵機、前記燃焼ガスに含まれる塵埃をフィルタにより捕集するバグフィルタ、のいずれか1種または2種以上により構成されていることを特徴とする。
【0014】
このタリウムの回収装置では、捕集手段を、燃焼ガスを加湿しそれに含まれる塵埃を凝集させて捕集する調湿塔、燃焼ガスに含まれる塵埃を帯電させて吸着する電気集塵機、燃焼ガスに含まれる塵埃をフィルタにより捕集するバグフィルタ、のいずれか1種または2種以上により構成したことにより、セメント製造設備から排出される燃焼ガス中の塵埃を、効率良く捕集することが可能になり、よって、塵埃の捕集効率が高まる。
【0015】
前記固液分離手段により得られた濾液に直流電流を通電することにより、この濾液に溶存するタリウムイオンを酸化タリウムとして析出させ、この酸化タリウムを前記濾液から分離するタリウム分離手段を備えてなることを特徴とする。
このタリウムの回収装置では、タリウム分離手段により、濾液に直流電流を通電し、この濾液に溶存するタリウムを酸化タリウムとして析出させ、この酸化タリウムを前記濾液から分離する。これにより、通常のpH調整や還元剤の投与等では沈殿し難いタリウムを、濾液中から容易に取り除くことが可能になり、高純度の酸化タリウムが容易に得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセメント製造設備におけるタリウムの回収方法によれば、セメント製造設備のサスペンションプレヒータのガス出口またはセメントキルンの脱塩装置のガス出口より下流の燃焼ガスの流路にて該燃焼ガスに含まれる塵埃を捕集し、次いで、この捕集された塵埃を水洗してスラリーまたは水溶液を得、次いで、このスラリーまたは水溶液を固液分離するので、高純度のタリウムを容易かつ安価に得ることができる。
また、分離された固形分を、セメント製造設備のセメント原料として有効利用することができ、セメント製造設備における製造コストの削減を図ることができる。
【0017】
本発明のセメント製造設備におけるタリウムの回収装置によれば、セメント製造設備のサスペンションプレヒータのガス出口またはセメントキルンの脱塩装置のガス出口より下流の燃焼ガスの流路にて該燃焼ガスに含まれる塵埃を捕集する捕集手段と、この捕集された塵埃を水洗してスラリーまたは水溶液を得る水洗手段と、この水洗手段にて得られたスラリーまたは水溶液を固液分離する固液分離手段とを備えたので、高純度のタリウムを容易かつ安価に得ることができる。
また、分離された固形分を、セメント製造設備のセメント原料として有効利用することができ、セメント製造設備における製造コストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のセメント製造設備におけるタリウムの回収方法及び回収装置の最良の形態について、図面に基づき説明する。
なお、本形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態のタリウムの回収装置を付設したセメント製造設備を示す模式図であり、セメント製造設備から排出される燃焼ガスに含まれるタリウムを回収するとともに、この燃焼ガスに含まれるカルシウム成分をセメント原料として有効利用するタリウム(Tl)の回収装置を付設した例である。
図において、1は多段のサイクロン1a〜1dからなるサスペンションプレヒータ、2は仮焼炉、3はセメントキルン、4はクリンカクーラ、5はスタビライザー(調湿塔)、6は電気集塵機(EP)、7はバグフィルタ、8は水洗槽(水洗手段)、9は濾過機(固液分離手段)、10は反応析出槽11およびタリウム分離機12により構成されたタリウム分離装置(タリウム分離手段)、13は煙突である。
これらスタビライザ5、電気集塵機(EP)6、バグフィルタ7、水洗槽8、濾過機9、タリウム分離装置10により本実施形態のタリウムの回収装置が構成されている。
【0020】
スタビライザー5は、空洞の塔に燃焼ガスの入口及び出口が設けられ、この塔内に散水装置(図示略)が設けられたもので、この塔内に、サスペンションプレヒータ1の下流側、すなわち最上段のサイクロン1dから排出される燃焼ガス、あるいは、セメントキルン3の窯尻部に設けられ塩素を抽気する脱塩パイパス装置から排出される燃焼ガス、のいずれかまたは双方を導入し、この塔内で散水して導入された燃焼ガスを加湿するとともに、その温度を低下させる装置である。この燃焼ガス中のダスト(塵埃)は、加湿及び温度低下に伴って凝集して塔下部に沈降し、捕集される。この燃焼ガスの入口温度は200〜450℃、出口温度は120〜200℃である。
【0021】
電気集塵機6は、導入された燃焼ガス中のダスト(塵埃)を、負極線による放電で帯電させ、この燃焼ガスを一対の正極板間に導入することにより、この燃焼ガス中の帯電したダストを正極板に吸着させて集塵する装置であり、導入される燃焼ガスの温度は、一般に85〜180℃である。
バグフィルタ7は、通気性を有する不織布からなる袋状のフィルタに燃焼ガスを導入し、透過させることにより、この燃焼ガス中のダスト(塵埃)を集塵する装置であり、導入される燃焼ガスの温度は、一般に85〜150℃である。
【0022】
水洗槽8は、スタビライザ5、電気集塵機6及びバグフィルタ7のうち1種または2種以上にて捕集されたダストを水洗してスラリー(または水溶液)を得る装置であり、新たな水(以下、新水とも称する)を注水して貯留し、この新水に上記のダストを投入し浸漬・攪拌して水洗することにより、このダスト中のタリウムイオンを含む水溶性成分を水中に溶出させたスラリー(または水溶液)を得る装置である。
この水洗槽8では、新水の替わりに、セメント製造設備から排出される二次水を用いることも可能である。
【0023】
濾過機9は、例えば、加圧式の濾過機等からなるもので、水洗槽8から排出されるタリウムイオンを含むスラリー(または水溶液)をフィルタによりカルシウム成分を含むケーキ(固形分)とタリウムイオンを含む濾液に分離する装置である。カルシウム成分を含むケーキは、セメント原料として有効利用される。
反応析出槽11は、濾過機9から排出されるタリウムイオンを含む濾液に直流電流を通電することにより、この濾液に溶存するタリウムイオンを酸化タリウムとして析出させる装置である。
【0024】
タリウム分離機12は、例えば、クロスフロー方式の精密濾過装置、遠心分離機等からなるもので、反応析出槽11から排出される酸化タリウムが析出した濾液を、酸化タリウムを含むケーキ状のスラッジと濾液とに分離する装置である。
このタリウム分離機12から排出される濾液には、微量の金属が溶存していることがある。この場合、この濾液に溶存する金属をイオン交換樹脂を用いて取り除くことが好ましい。
【0025】
次に、本実施形態のタリウムの回収方法について、図1に基づき説明する。
本実施形態のタリウムの回収方法は、セメント製造設備のサスペンションプレヒータ1の最上段のサイクロン1dから排出される燃焼ガス、あるいは、セメントキルン3の窯尻部に設けられ塩素を抽気する脱塩パイパス装置(図示略)から排出される燃焼ガスに含まれるタリウムを回収する方法であり、この燃焼ガスに含まれる塵埃を捕集し、この捕集された塵埃を水洗してスラリーまたは水溶液を得、このスラリーまたは水溶液を固液分離し、タリウムを回収する方法である。
【0026】
これらの各工程について、さらに詳細に説明する。
ここでは、ダストとしては、セメント製造設備のサスペンションプレヒータ1の最上段のサイクロン1dから排出される燃焼ガスをスタビライザ5、電気集塵機6、バグフィルタ7のいずれか1種または2種以上に導入して捕集されたダストを用いる。
【0027】
[水洗工程]
水洗槽8に所定量の新水、例えば水洗する上記のダストに対して2〜4重量倍の新水を注水して貯留し、この新水に所定量のダスト投入し浸漬・攪拌して水洗し、このダスト中のタリウムイオンを含む水溶性成分を水中に溶出させたスラリー(または水溶液)とする。
【0028】
ここで新水の注水量を上記の様に限定した理由は、注水量がダストの2重量倍以下であると、ダスト中のタリウムイオンを含む水溶性成分の溶出が不十分なものとなり、後段の濾過機9で濾過して得られるケーキ中に残存するタリウムイオンを含む水溶性成分が多くなるからである。また得られるスラリー(または水溶液)の粘性が高くなり、後の工程へのポンプ輸送が難しくなるからである。
また、注水量がダストの4重量倍以上であると、カルシウム成分や重金属類等のタリウムイオン以外の成分の溶出が多くなり、したがって、後段の工程においては、これらの成分を取り除くための薬剤の使用量が多くなるからである。
【0029】
この水洗工程では、タリウムイオンを含む水溶性成分の溶解速度を高めるために水洗槽8内の温度を40℃以上に高めてもよい。また、攪拌時間は1時間以内で十分タリウムイオンを含む水溶性成分を溶出させることができるが、長時間の攪拌は、ダストに含有するカルシウム等を含む塩が生成して沈殿物が生じる虞があるので好ましくない。
この水洗工程では、水酸化ナトリウム(NaOH)および/または水酸化カリウム(KOH)を水に溶解した強アルカリ水溶液を用いることにより、ダストに含有するタリウムの溶出量を極大化することができる。
この場合、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液の水素イオン濃度(pH)は13〜14が好ましい。
【0030】
[濾過工程]
濾過機9に水洗槽8から排出されるタリウムイオンを含むスラリー(または水溶液)を導入し、フィルタによりカルシウム成分を含むケーキ(固形分)とタリウムイオンを含む濾液に分離する。
この分離の際に、濾過機9内のケーキに残留するタリウムイオンを含む水溶性成分を、新水で洗浄することが好ましい。この新水を用いた洗浄は、濾過機9を加圧した状態でケーキに一方向から新水を圧送することにより、少ない水量で効率のよい洗浄を行うことができる。
この洗浄のために使用する新水は、水洗されるダスト量に対して0.5〜2.0重量倍が好ましい。
【0031】
この新水を用いた洗浄により、ケーキに残留するタリウムイオンを含む水溶性成分を十分に除去することができる。
また、得られたケーキは、含水率が比較的低いことから、直接セメント製造設備に送られ他のセメント原料に混合され、乾燥・粉砕の後、粉末セメント原料としてセメント焼成工程にて再循環使用され、セメントクリンカとして焼成される。
【0032】
「反応析出工程」
反応析出槽11に濾過機9から排出されるタリウムイオンを含む濾液を投入し、この濾液に電極を介して通電を行い、濾液中の一部の水を電気分解することによって同時に溶存するタリウムイオンを酸化タリウムとして析出させ、微細な懸濁物質に変化させる。
この電気分解の際、電極上に、鉛、銅、亜鉛等の金属が析出し、濾液中から除去される。析出した鉛等の金属は、別途定期的に陽極上から回収する。
【0033】
[タリウム分離工程]
タリウム分離機12に、反応析出槽11から排出される酸化タリウムが析出した懸濁状の濾液を導入して加圧・脱水し、酸化タリウムを含むケーキ状のスラッジと濾液とに分離する。この濾液は、反応槽21に送られることで循環使用される。
このようにして得られた酸化タリウムは、90%以上の純度を確保することができる。したがって、タリウムを高純度の酸化タリウムとして容易に得ることができる。
また、この酸化タリウムが析出した懸濁状の濾液は、非常に微粒子でなかなか沈殿しづらいが、静置することにより、沈降分離することもできる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態のタリウムの回収方法によれば、セメント製造設備のサスペンションプレヒータ1の最上段のサイクロン1dから排出される燃焼ガス、あるいは、セメントキルン3の窯尻部に設けられ塩素を抽気する脱塩パイパス装置(図示略)から排出される燃焼ガスに含まれるタリウムを回収する方法であり、このサスペンションプレヒータのガス出口またはセメントキルンの脱塩装置のガス出口より下流の燃焼ガスに含まれる塵埃を捕集し、この捕集された塵埃を水洗してスラリーまたは水溶液を得、このスラリーまたは水溶液を固液分離し、タリウムを回収するので、高純度のタリウムを容易かつ安価に得ることができる。
また、分離された固形分を、セメント製造設備のセメント原料として有効利用することができ、セメント製造設備における製造コストの削減を図ることができる。
【0035】
本実施形態のタリウムの回収装置によれば、セメント製造設備のサスペンションプレヒータのガス出口またはセメントキルンの脱塩装置のガス出口より下流の燃焼ガスの流路にて該燃焼ガスに含まれる塵埃を捕集するスタビライザ5、電気集塵機6およびバグフィルタ7と、この捕集された塵埃を水洗してスラリーまたは水溶液を得る水洗槽8と、この水洗手段にて得られたスラリーまたは水溶液を固液分離する濾過機9と、タリウムイオンを含む濾液に直流電流を通電することにより、この濾液に溶存するタリウムイオンを酸化タリウムとして析出させる反応析出槽11とを備えたので、高純度のタリウムを容易かつ安価に得ることができる。
また、分離された固形分を、セメント製造設備のセメント原料として有効利用することができ、セメント製造設備における製造コストの削減を図ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明のセメント製造設備におけるタリウムの回収方法について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
【0037】
本実施例で用いるダストとしては、セメント製造設備のサスペンションプレヒータ1の最上段のサイクロン1dから排出される燃焼ガスからスタビライザ5により捕集したスタビダスト、上記の燃焼ガスから電気集塵機6により捕集したEPダスト、上記の燃焼ガスからバグフィルタ7により捕集したバグダストの3種類のダストを用いた。
これらのダストにおけるタリウム(Tl)の含有量を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
通常、燃焼ガスのダスト中には、数百〜数千ppm程度のタリウムが含まれており、より微細な粒子に付着している。このダストのタリウム含有率を捕集箇所毎にみれば、スタビダストでは500mg/kg、EPダストでは1300mg/kg、バグダストでは2200mg/kgであるから、セメント製造プロセスの下段に行くほど、高濃度になっていることが分かる。
【0040】
次いで、これらのダストを質量比で、ダスト:新水=1:10となるように混合して3種類のスラリーを作製し、各スラリーをケーキ(固形分)とタリウムイオンを含む濾液に分離した。各濾液中のタリウムの濃度を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
この表によれば、最も好ましいのは、バグダストである。このバグダストは、タリウム濃度が高く、粉塵捕集効率も高く、燃焼ガスからの放出も少なく、発生するダストも少ないので、タリウムの除去および回収を行うのに好ましい。
【0043】
また、EPダストを、洗浄水として2種類のpHの水酸化カリウム(KOH)水溶液を用い、これらの水溶液を用いて洗浄して得られたスラリー中のタリウムの濃度を測定し、EPダストを新水(pH未調整)にて水洗した場合のスラリー中のタリウムの濃度と比較した。
測定結果を表3および図2に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
表3および図2によれば、強アルカリ水を用いることにより、ダストに含有するタリウムの溶出量、すなわちスラリー中のタリウムの濃度を極大化することができることが分かった。
また、このようにして回収されたタリウムは、粉末X線回折により、結晶性の良い酸化タリウム(Tl)であることが確認された。また、酸化タリウム(Tl)以外の回折線は認められず、高純度の酸化タリウム(Tl)であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態のタリウムの回収装置を付設したセメント製造設備を示す模式図である。
【図2】スラリーのpHとタリウムの濃度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 サスペンションプレヒータ
1a〜1d サイクロン
2 仮焼炉
3 セメントキルン
4 クリンカクーラ
5 スタビライザー
6 電気集塵機(EP)
7 バグフィルタ
8 水洗槽
9 濾過機
10 タリウム分離装置
11 反応析出槽
12 タリウム分離機
13 煙突

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント製造設備から排出される燃焼ガスに含まれるタリウムを回収する方法であって、
前記セメント製造設備のサスペンションプレヒータのガス出口またはセメントキルンの脱塩装置のガス出口より下流の燃焼ガスの流路にて該燃焼ガスに含まれる塵埃を捕集し、次いで、この捕集された塵埃を水洗してスラリーまたは水溶液を得、次いで、このスラリーまたは水溶液を固液分離し、タリウムを回収することを特徴とするセメント製造設備におけるタリウムの回収方法。
【請求項2】
前記塵埃を水洗する際に、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを水に添加してなる強アルカリ水を用いて前記塵埃を洗浄することを特徴とする請求項1記載のセメント製造設備におけるタリウムの回収方法。
【請求項3】
前記固液分離により得られた濾液に直流電流を通電することにより、この濾液に溶存するタリウムイオンを酸化タリウムとして析出させ、この酸化タリウムを前記濾液から分離することを特徴とする請求項1または2記載のセメント製造設備におけるタリウムの回収方法。
【請求項4】
セメント製造設備から排出される燃焼ガスに含まれるタリウムを回収する装置であって、
前記セメント製造設備のサスペンションプレヒータのガス出口またはセメントキルンの脱塩装置のガス出口より下流の燃焼ガスの流路にて該燃焼ガスに含まれる塵埃を捕集する捕集手段と、この捕集された塵埃を水洗してスラリーまたは水溶液を得る水洗手段と、この水洗手段にて得られたスラリーまたは水溶液を固液分離し、前記スラリーまたは水溶液からタリウムを分離する固液分離手段と、を備えてなることを特徴とするセメント製造設備におけるタリウムの回収装置。
【請求項5】
前記捕集手段は、前記燃焼ガスを加湿しそれに含まれる塵埃を凝集させて捕集する調湿塔、前記燃焼ガスに含まれる塵埃を帯電させて吸着する電気集塵機、前記燃焼ガスに含まれる塵埃をフィルタにより捕集するバグフィルタ、のいずれか1種または2種以上により構成されていることを特徴とする請求項4記載のセメント製造設備におけるタリウムの回収装置。
【請求項6】
前記固液分離手段により得られた濾液に直流電流を通電することにより、この濾液に溶存するタリウムを酸化タリウムとして析出させ、この酸化タリウムを前記濾液から分離するタリウム分離手段を備えてなることを特徴とする請求項4または5記載のセメント製造設備におけるタリウムの回収装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−215577(P2009−215577A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57850(P2008−57850)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】