説明

セラミックスの接合方法およびセラミックス接合体

【課題】窒化アルミニウムのように極めて誘電損率が小さいセラミックスであっても、効率よく、かつ強固に接合する方法を提供すること。
【解決手段】同一種または異種のセラミックスを、電磁波照射によって該セラミックスを自己発熱させることにより、加熱して接合する方法であって、前記自己発熱以外の補助加熱手段を含む加熱手段によって該セラミックスの接合面を加熱する予備加熱工程を含む
ことを特徴とするセラミックスの接合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスの接合方法およびセラミックス接合体に関し、より詳細にはマイクロ波等の電磁波を利用したセラミックスの接合方法およびセラミックス接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックスの接合方法として、接合部付近を局所的に加熱して接合する方法が知られている。
この加熱の方法としては、レーザーの照射や、マイクロ波の照射などが挙げられる。
【0003】
しかしながら、レーザーの照射では、セラミックスを外部から加熱、溶融して接合するため、接合体の内部強度が弱く、接合面の形状が変形しやすい。また、この方法では、酸化物系のセラミックスしか接合することができない、熱クラックが生じ易いなどの問題があり、さらに接合部での気泡の残留や結晶粒の粗大化という問題も生じてしまう。
【0004】
一方、マイクロ波の照射によるセラミックスの接合方法として、特公平2−62516号公報(特許文献1)には、空胴共振器と、マイクロ波発生手段と、この空胴共振器内に配置したセラミックスの接合面を加圧するための加圧手段と、このセラミックスの温度分布を制御するための温度制御手段と、からなるセラミックスの接合装置を利用したセラミックスの接合方法が記載されている。この接合方法によれば、セラミックスの接合面の各部位のみを一様に、かつ急激に加熱して接合が行われるため、セラミックスを効率よく、かつ強固に接合することができるとされる。
【特許文献1】特公平2−62516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の接合方法は、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の接合には有効であったが、この方法では、窒化アルミニウムのように極めて誘電損率が小さいセラミックスを接合することはできなかった。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、窒化アルミニウム等のように極めて誘電損率が小さいセラミックスであっても、効率よく、かつ強固に接合可能な接合方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセラミックスの接合方法は、
同一種または異種のセラミックスを、電磁波照射によって該セラミックスを自己発熱させることにより、加熱して接合する方法であって、
前記自己発熱以外の補助加熱手段を含む加熱手段によって該セラミックスの接合面を加熱する予備加熱工程を含む
ことを特徴としている。
【0008】
前記予備加熱は、前記セラミックスの接合面近傍における自己発熱による昇温速度が1℃/分以上となる温度まで行うことが好ましい。
前記予備加熱は、前記セラミックスの接合面近傍における、測定周波数を2.45GHzとしたときの誘電損率(εrtanδ)が0.005以上となる温度まで行うことが好
ましい。
【0009】
前記補助加熱手段としては、前記セラミックスの接合面周囲に配置された発熱体が好ましい。
この発熱体としては前記セラミックスよりも室温(25℃)での誘電損率が大きい物質からなり、電磁波の吸収によって自己発熱する誘電体が好ましく、この誘電体は、測定周波数を2.45GHzとしたときの誘電損率(εrtanδ)が室温(25℃)では0.
003以上、かつ800℃では0.5以上である物質からなることが好ましい。
【0010】
また、前記発熱体は抵抗発熱体であってもよく、前記補助加熱手段は加熱炉であってもよい。
前記電磁波の周波数は、0.2〜30GHzであることが好ましい。
【0011】
本発明の接合方法では、
本発明の接合方法では、測定周波数を2.45GHzとしたときの誘電損率(εrta
nδ)が、室温(25℃)では0.0001〜0.002、かつ800℃では0.03〜0.3であり、熱膨張係数の差が3×10-6[K-1]以内にあるセラミックス同士を接合させることが可能であり、窒化アルミニウムを接合させることができる。
【0012】
本発明の窒化アルミニウムの接合方法では、
該窒化アルミニウムの接合面の周囲に配置された、炭化ケイ素、ジルコニアおよびステアタイトのうちの少なくとも1つの化合物からなる焼成体に電磁波を照射することにより該焼成体を自己発熱させ、この熱によって、該窒化アルミニウムの接合面を1000℃以上になるまで加熱した後、
該接合面同士を接触させながら、電磁波の照射によって該接合面を加熱する(自己発熱させる)
ことにより該窒化アルミニウム同士を接合させることを特徴としている。
【0013】
本発明のセラミックス接合体は、前記の接合方法により接合されてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るセラミックスの接合方法においては、接合するセラミックスの接合面を、予め加熱するため、窒化アルミニウムのような誘電損率の極めて小さいセラミックスであっても、電磁波照射により接合面近傍を局部的に自己発熱させ、効率よく、かつ強固に接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のセラミックスの接合方法およびセラミックス接合体についてより詳細に説明する。
[セラミックスの接合方法]
本発明に係るセラミックスの接合方法は
同一種または異種のセラミックスを、電磁波照射によって該セラミックスを自己発熱させることにより、加熱して接合する方法であって、
前記自己発熱以外の補助加熱手段を含む加熱手段によって該セラミックスの接合面を加熱する予備加熱工程を含む
ことを特徴としている。
【0016】
<セラミックス>
本発明の接合方法により接合されるセラミックスとしては、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム(AlN)、酸窒化アルミニウム、酸窒化珪素、ジルコニア
等が挙げられる。
【0017】
本発明の接合方法によれば、誘電損率が極めて小さいセラミックスであっても接合することができる。
ここで、誘電損率が極めて小さいセラミックスとは、測定周波数を2.45GHzとしたときの誘電損率(εrtanδ)が、たとえば室温(25℃)では0.0001〜0.
002、かつ800℃では0.003〜0.3であるセラミックスであり、特に、該誘電損率が室温(25℃)では0.0005〜0.002、かつ800℃では0.003〜0.1であるセラミックスである。この誘電損率(εrtanδ)は、LCRメーターによ
り測定される誘電正接(tanδ)にセラミックの比誘電率(εr)を乗ずることにより
求めることができる。
【0018】
このような誘電損率が極めて小さいセラミックスの具体例としては、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素、単結晶アルミナが挙げられる。窒化アルミニウム(AlN)の誘電損率の値を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
また、本発明の接合方法により接合されるセラミックスは、同一種であっても異種であってもよい。異種のセラミックス同士を接合させる場合には、たとえば測定周波数を2.45GHzとしたときの誘電損率(εrtanδ)が、室温(25℃)では0.0001
〜0.002、かつ800℃では0.003〜0.3であり、熱膨張係数の差が5×10-6[K-1]以内、好ましくは3×10-6[K-1]以内にあるセラミックス同士を接合させることが望ましい。このように熱膨張係数の差が小さいセラミックス同士を接合させる場合には、熱膨張率の差が大きいことに基づく加熱時、冷却時に発生するセラミックの割れ、クラックなどの問題が生じない。異種のセラミックスの組み合わせとしては、たとえば窒化アルミニウム(AlN)および窒化珪素、窒化アルミニウム(AlN)および単結晶アルミナ、窒化珪素および単結晶アルミナ等の組み合わせが挙げられる。
【0021】
より強固なセラミックス接合体を得るという観点からは、同一種のセラミックス同士、たとえばAlN同士を接合することが好ましい。
接合されるセラミックスの形状は、特に制限はなく、たとえば角柱状、円柱状、塊状の形状であってもよいが、より信頼性の高い接合強度を有するセラミックス接合体を得るためには、セラミックスの接合面を研磨仕上げ等により平坦にして、セラミックス同士を突き合わせた際に間隙が生じないようにするとよい。
【0022】
また、セラミックスの接合面の形状は、図1(a)に示すような平面形状のほか、図1(b)に示すようなV字形状や図1(c)に示すような段差形状であってもよい。
また接合するセラミックスの数にも特に制限はなく、たとえば図2(a)に示すように
2つのセラミックスを接合してもよく、図2(b)に示すように3つ、あるいはさらに多数のセラミックスを接合してもよい。
【0023】
<予備加熱>
本発明の接合方法は、同一種または異種のセラミックスを、電磁波照射によって該セラミックスを自己発熱させることにより、加熱して接合する方法であって、この自己発熱以外の補助加熱手段を含む加熱手段によって該セラミックスの接合面を加熱する予備加熱工程を含んでいる。
【0024】
ここで、マイクロ波等の電磁波を利用した誘電加熱によって試料に吸収されるエネルギーPは、
P=2πfε0εrtanδE2
〔ただし、ε0は真空の誘電率、εrは比誘電率、tanδは誘電正接、fは周波数、Eはマイクロ波等の電磁波の電界強度である。〕
で表され、誘電損率ε"(=εrtanδ)が大きいと試料のエネルギー吸収効率が高くなる。
【0025】
誘電損率ε"(=εrtanδ)は温度、周波数などによって変化し、一般にセラミックス誘電損率は室温付近では小さいが、温度の上昇と共に急激に上昇する。
しかし窒化アルミニウムなどのセラミックスは、室温付近での誘電損率がセラミックスの中でも極めて小さいため、通常のマイクロ波照射では、室温から接合可能な温度まで加熱することが極めて困難である。
【0026】
本発明に係る接合方法では、予備加熱によって、接合させるセラミックスの接合面の温度を、電磁波照射による自己発熱に基づく加熱が容易となる温度まで、すなわち電磁波吸収により容易に自己発熱する温度まで上昇させるため、窒化アルミニウムなどのセラミックスであっても、電磁波照射によって自己発熱させ、この自己発熱に基づいて加熱し、接合することができる。
【0027】
接合させるセラミックスの自己発熱が容易になる温度とは、自己発熱によるセラミックスの昇温速度がたとえば1℃/分以上となる温度、好ましくは3℃/分以上となる温度であり、この昇温速度の上限はたとえば50℃/分、好ましくは30℃/分である。この温度はセラミックスの種類や電磁波の周波数によっても異なるが、たとえば、電磁波の周波数を2.45GHzとするならば、誘電損率(εrtanδ)が0.005以上となる温
度であれば、セラミックスは容易に自己発熱する。
【0028】
たとえばセラミックスが窒化アルミニウムである場合には、たとえば1000℃以上、好ましくは1200℃以上であれば、窒化アルミニウムは容易に自己発熱する。
実際にセラミックス同士を接合する際には、接合しようとするセラミックスの誘電損率と温度との関係を予め把握しておき、接合しようとするセラミッスクの温度をモニターしながら、予備加熱を行うことが好ましい。
【0029】
予備加熱工程では、接合させるセラミックスの自己発熱以外の補助加熱手段を含む加熱手段によって該セラミックスの接合面が加熱される。
補助加熱手段の好ましい例としては、接合させるセラミックスの接合面周囲に配置された発熱体が挙げられる。補助加熱手段として発熱体を利用した予備加熱工程においては、好ましくは、図5に示すように、接合するセラミックスの接合面の周囲に、前記セラミックスよりも室温付近での誘電損率が大きい物質からなる成形体を配置し、電磁波照射によってこの物質を自己発熱させ、この熱によって前記セラミックスの接合面近傍の温度を上昇させる。
【0030】
この発熱体は、接合しようとするセラミックスよりも誘電損率の大きな物質からなる成
形体であり、この誘電損率の大きな物質とは、たとえば測定周波数を2.45GHzとしたときの誘電損率(εrtanδ)が室温(25℃)では0.003〜2、かつ800℃
では0.5〜5である物質であり、好ましくは該誘電損率が室温(25℃)では0.003〜1、かつ800℃では0.5〜2.5である物質である。
【0031】
このような誘電損率の大きな物質の具体例としては、炭化ケイ素(SiC)、ジルコニア(ZrO2)、ステアタイトが挙げられる。これらの物質の誘電損率の値を表2に示す

【0032】
【表2】

【0033】
これらの物質は、誘電損率が大きいため、電磁波を吸収することによって容易に自己発熱する。
この電磁波としては、好ましくは周波数が0.2〜30GHzである電磁波(マイクロ波またはミリ波)を使用することができ、たとえば2.45GHzの電磁波を使用できる。
【0034】
また、電磁波のエネルギーを前記セラミックスに効率的に吸収させるためには、少なくとも前記セラミックスの接合面近傍を、電磁波を外部に漏らさない容器内に収容して電磁波照射を行うことが好ましい。また空胴共振器を使用してもよい。
【0035】
この予備加熱は、特に自己発熱する温度の異なる異種のセラミックス同士を接合させる場合であれば、いずれか一方のセラミックスが容易に自己発熱する温度まで行えばよく、この場合、この自己発熱によって他方のセラミックスも加熱される。
【0036】
予備加熱は、接合するセラミックスを、予備加熱に続いての本加熱を行う際の位置に配置して互いに接触させながら行うことが好ましい。このようにすれば、本加熱の際にセラミックスの配置を変更する必要がなく、セラミックスの接合工程が簡略化される。
【0037】
また、接合しようとするセラミックス同士を接触させずに予備加熱を行い、予備加熱終了後にすみやかにこれらのセラミックスを接触させて、本加熱を行うこともできる。
なお、補助加熱手段としての発熱体は、抵抗発熱体であってもよい。この場合には、発熱体は電磁波照射(電磁波吸収による自己発熱)ではなく、通電によって発熱する。
【0038】
補助加熱手段の他の例としては、加熱炉などが挙げられる。たとえば接合させるセラミックスを、電気炉等の加熱炉によって容易に自己発熱する温度以上にまで加熱し、加熱終了後に直ちに接合面に電磁波を照射してセラミックスを自己発熱させて加熱することにより、このセラミックス同士を接合させることができる。
【0039】
予備加熱は、補助加熱手段のみによって行ってもよく、接合させるセラミックスを自己発熱させつつ補助加熱手段を併用して行ってもよい。たとえば補助加熱手段が、前述したような電磁波吸収によって発熱する発熱体であり、接合させるセラミックスが窒化アルミニウムのように誘電損率の小さい物質である場合には、発熱体および接合させるセラミックスに対して電磁波を照射しても、室温付近では、実質的に発熱体のみが自己発熱するため、予備加熱は、補助加熱手段のみによって行われることとなる。
【0040】
一方、接合させるセラミックスが炭化ケイ素のように誘電損率の大きい物質である場合には、発熱体および接合させるセラミックスに対する電磁波照射によって、発熱体および接合させるセラミックスの双方が自己発熱するため、予備加熱は、接合させるセラミックスを自己発熱させつつ補助加熱手段を併用して行われることとなる。なお、接合させるセラミックスが窒化アルミニウム等の誘電損率が小さい物質であっても、高温では、電磁波照射により発熱体および接合させるセラミックの双方が自己発熱し、加熱される。
【0041】
<本加熱>
本発明においては、前記予備加熱手段によって容易に自己発熱する温度まで加熱されたセラミックスの接合面とその近傍は、接合させようとするセラミックスの接合面同士を接触させながら、該接合面への電磁波照射によって(すなわち、電磁波吸収による自己発熱によって)さらに加熱(以下「本加熱」ともいう。)され、セラミックス同士が接合される。
【0042】
接合させようとするセラミックスにおいては、前記の予備加熱によって、接合面とその近傍のみが、局所的に温度が上昇し、誘電損率の値が上昇している。したがってこの本加熱においては、電磁波照射によって、接合面とその近傍のみを、効率的に接合可能な温度まで加熱することができる。
【0043】
なお予備加熱の終了後、セラミックスの接合面を容易に自己発熱可能な温度に維持したまま、本加熱に移行することが好ましい。
予備加熱の際の補助加熱手段として前記発熱体を使用した場合には、本加熱の際に前記発熱体(前記予備加熱手段)を除去(本加熱に全くあるいはほとんど影響を及ぼさない位置への移動)してもよく、あるいは本加熱の際の加熱手段として前記発熱体を併用してもよいが、前記発熱体を除去して本加熱を行うと、この発熱体の成分が接合するセラミックスの中に混入するおそれがなく、また接合するセラミックスに対する加熱効率が高まる点で好ましい。
【0044】
本加熱の際には、セラミックスの接合面同士の接触を確実にし、接合をより強固にするために、セラミックス同士を押し付け合い、セラミックスの接合面を加圧することが好ましい。接合面を加圧する手段としては従来公知の加圧手段、たとえば図3(特許文献1の第17図)に示すような、接合させるセラミックス1の、接合面11とは反対側の端部を保持する左右対称の同心のとれたチャック21と、このチャックを加圧できるエアシリンダ22と、このチャックを加圧しながら移動させることのできる移動台23とからなる加圧手段を用いることができる。
【0045】
また本加熱の際には、上記のようにセラミックスの接合面同士を直接接触させるほか、接触面間にセラミックスの粉末、またはこの粉末を含むペーストを介在させてもよい。
このセラミックス粉末としては、通常は、接合させるセラミックスと同一組成のセラミックスの粉末が用いられるが、接合面をより一層効率的に加熱するために、接合させるセラミックスよりも誘電損率の大きいセラミックスの粉末を用いてもよい。この粉末の平均粒径は、たとえば0.1〜15μmとすることができる。
【0046】
前記ペースト中には、窒化アルミニウム粉末などのセラミックス粉末と焼結助剤とが、質量比で、セラミックス粉末:焼結助剤=100:0.5〜10、好ましくは100:2〜7の割合で含まれることが望ましい。前記セラミックス粉末と前記焼結助剤との割合が上記範囲内にあると、セラミックス粉末の焼結温度が充分に低下し、かつ焼結助剤が充分に飛散あるいはセラミックス接合体中に充分拡散し、接合面付近に局所的に残留することがない。
【0047】
この焼結助剤としては、希土類金属またはアルカリ土類金属の酸化物、窒化物、塩化物、硝酸塩、炭酸塩またはフッ化物が挙げられ、好ましくはY23、CaO、Yb23が挙げられる。
【0048】
前記セラミックス粉末および前記焼結助剤の粒径は、好ましくは0.1〜3μmである。粒径、特にセラミックスの粒径がこの範囲にあると、ペースト全体の体積に占めるセラミックスの体積の割合が大きくなり、焼結後の密度が大きくなる。
【0049】
また、このペーストにはカーボン粉末が含まれていてもよい。カーボン粉末が含まれていると、後述する加熱時に焼結助剤の飛散を促進できる点で好ましい。
前記ペースト中には、前記セラミックス粉末と前記カーボン粉末とが、質量比で、セラミックス粉末:カーボン粉末=100:0.5〜30、好ましくは100:1〜10の割合で含まれることが望ましい。カーボン粉末の割合が上記範囲内にあると、焼結時に焼結助剤の飛散を促進することができる。
【0050】
前記カーボン粉末の粒径は、好ましくは0.1〜10μmである。粒径がこの範囲にあると、ペースト中のカーボンの分布を均一にすることが可能である。
前記ペーストが含有する溶剤としては、たとえばエチルセルロース、ターピネオールが挙げられる。この溶剤の含量は、ペースト中に、室温(25℃)で10〜50質量%とすればよい。
【0051】
前記電磁波としては、好ましくは周波数が0.2〜30GHzである電磁波(マイクロ波またはミリ波)を使用することができ、たとえば2.45GHzの電磁波を使用できる。
【0052】
また、電磁波のエネルギーを前記セラミックスに効率的に吸収させるためには、少なくとも前記セラミックスの接合面近傍を、電磁波を外部に漏らさない容器に収容して電磁波照射を行うことが好ましい。
【0053】
このように本発明の接合方法では、少なくともセラミックスの接合面近傍さえ電磁波照射によって加熱できればよいので、小型の電磁波照射装置(マイクロ波焼成炉等)を用いて大型のセラミックス接合体を形成することができる。
【0054】
電磁波の照射には、特許文献1に記載の装置、マイクロ波焼成炉等、従来公知の装置を用いることができる。
[セラミックス接合体]
本発明のセラミックス接合体は、上記本発明のセラミックスの接合方法によってセラミックス同士を接合することにより形成される。
【0055】
このため本発明のセラミックス接合体の強度は良好であり、たとえば接合部に直接荷重をかけて、ファインセラミックスの室温曲げ試験方法(JIS C2141規格)に従って室温で3点曲げ試験を行ったときの曲げ強度が母材、すなわち接合前のセラミックスの70%以上、好ましくは80%以上である。なお、この値は、図4に示すように、支点間
の距離を30mmとし、長さ40mm×幅30mm×厚さ1.5mmであって長さ方向の中央部に接合部12(接合面11)が存在する試験片を作成し、支点間の中心にペーストの接合部12が位置するようにこの試験片を配置し、この接合部の上から荷重をかけて測定した際の値である。
【0056】
また、本発明のセラミックス接合体においては、接合面でのセラミックス組織の劣化も少ない。
[実施例]
以下、本発明を好ましい態様である実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何等限定されるものではない。
【0057】
<装置、測定方法>
マイクロ波照射には、美濃窯業(株)製のマイクロ波焼成炉(型番:MW−Master)(以下、「接合装置」ともいう。)を用いた。
【0058】
温度の測定は、マイクロ波焼成炉に付属の赤外放射温度計により行った。
接合させるセラミックス(窒化アルミニウム(AlN)焼結体)がその接合面近傍で自己発熱を開始したことは、以下のようにして判断した;
(1)以下に述べる実施例と同様の方法で予備実験を行い、予備加熱用発熱体(SiCからなる焼成体)が少なくとも1300℃であればセラミックス(窒化アルミニウム)は既に自己発熱していることをあらかじめ確認した。
【0059】
(2)予備加熱用発熱体の温度が1300℃になったことを以って、セラミックス(窒化アルミニウム)が既に自己発熱を開始していると判断した。
<曲げ試験>
ファインセラミックスの室温曲げ試験方法(JIS C2141規格)に基づいて3点曲げ試験を行った。支点間距離は30mmに設定した。図4に示すように、接合後のセラミックス(窒化アルミニウム)を評価する際には、セラミックスを全長40mm、厚み1.5mmの形状の試料片に加工して、支点間の中心に接合部が位置するようにこの試験片を配置し、接合部に荷重をかけた。
【実施例1】
【0060】
<AlN焼結体同士の接合>
30mm×30mm、厚さ2mmの窒化アルミニウム焼結体((株)トクヤマ製、SH−15)同士を、以下のように接合した。
【0061】
図5、6に示すように、2つの窒化アルミニウム(AlN)焼結体1を接合装置6の筐体内の中央部で接するように配置した。窒化アルミニウム焼結体1の接合面(30mm×2mmの面)11は間隙が生じないように平坦にし、治具3を用いて窒化アルミニウム焼結体1同士を押し付け合うことにより接合面11には1kgf/cm2(0.098MP
a)の圧力を加えた。
【0062】
予備加熱手段としては、1対の、40mm×10mm、厚さ2mmの炭化ケイ素からなる焼成体2を使用し、これを図5に示すように、前記窒化アルミニウム焼結体1の接合面周囲に、窒化アルミニウム焼結体1から0.5mmの距離を置いて配置した。
【0063】
まず、マイクロ波発信機5により、前記の炭化ケイ素焼成体2に対して電磁波(周波数:2.45GHz)を照射し、予備加熱を行った。予備加熱および本加熱は窒素雰囲気中で行い、予備加熱は室温から行った。マイクロ波の出力については、一定の速度で120分かけて3000Wまで上昇させた。
【0064】
電磁波の照射により、炭化ケイ素焼成体2は自己発熱を開始し、この発熱によって窒化アルミニウム焼結体1の接合面11の温度は上昇した。電磁波の照射開始から60分後に、予備加熱用発熱体(炭化ケイ素焼成体2)の表面温度は1,300℃になり、これを以って、対向する2つの窒化アルミニウム焼結体1は接合面付近で自己発熱を開始したと判断した。
【0065】
次いで、電磁波照射を続けたまま、予備加熱用発熱体(炭化ケイ素焼成体2)を除去して、窒化アルミニウム焼結体1の接合面11をさらに60分間加熱し、2つの窒化アルミニウム焼結体1の接合を終了させた。接合を終了させた際の接合部の温度は1700℃であった。
【0066】
電磁波照射を終了し、窒化アルミニウムの接合体を接合装置内で60分間放冷した後に取り出した。
接合した窒化アルミニウム焼結体(窒化アルミニウム接合体)について3点曲げ試験を行ったところ、接合前の窒化アルミニウム焼結体と同一の強度であった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、セラミックスの接合面の形状の例を示す図である。
【図2】図2は、セラミックスの接合形態の例を示す図である。
【図3】図3は、セラミックスの接合面を加圧する手段の一態様を示す図である。
【図4】図4は、3点曲げ試験の際の試験片の形状および配置を示す模式該略図である。
【図5】図5は、予備加熱の際のAlN焼結体1、予備加熱用発熱体(SiC焼成体)2の配置等の一例を示す模式概略図(側面から見た図)である。
【図6】図6は、予備加熱の際のAlN焼結体1、予備加熱用発熱体(SiC焼成体)2の配置等の一例を示す模式概略図(上から見下ろした図)である。
【符号の説明】
【0068】
1・・・セラミックス(窒化アルミニウム焼結体)
2・・・予備加熱用発熱体(炭化ケイ素焼成体)
3・・・セラミックス用治具
4・・・発熱体用治具
5・・・マイクロ波発信機
6・・・接合装置
11・・・接合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一種または異種のセラミックスを、電磁波照射によって該セラミックスを自己発熱させることにより、加熱して接合する方法であって、
前記自己発熱以外の補助加熱手段を含む加熱手段によって該セラミックスの接合面を加熱する予備加熱工程を含む
ことを特徴とするセラミックスの接合方法。
【請求項2】
前記予備加熱を、前記セラミックスの接合面近傍における自己発熱による昇温速度が1℃/分以上となる温度まで行うことを特徴とする請求項1に記載のセラミックスの接合方法。
【請求項3】
前記予備加熱を、前記セラミックスの接合面近傍における、測定周波数を2.45GHzとしたときの誘電損率(εrtanδ)が0.005以上となる温度まで行うことを特
徴とする請求項1または2に記載のセラミックスの接合方法。
【請求項4】
前記補助加熱手段が、前記セラミックスの接合面周囲に配置された発熱体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセラミックスの接合方法。
【請求項5】
前記発熱体が、前記セラミックスよりも室温(25℃)での誘電損率が大きい物質からなり、電磁波の吸収によって自己発熱する誘電体であることを特徴とする請求項4に記載のセラミックスの接合方法。
【請求項6】
前記誘電体が、測定周波数を2.45GHzとしたときの誘電損率(εrtanδ)が
室温(25℃)では0.003以上、かつ800℃では0.5以上である物質からなることを特徴とする請求項5に記載のセラミックスの接合方法。
【請求項7】
前記発熱体が、抵抗発熱体であることを特徴とする請求項4に記載のセラミックスの接合方法。
【請求項8】
前記補助加熱手段が、加熱炉であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセラミックスの接合方法。
【請求項9】
前記電磁波の周波数が0.2〜30GHzであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のセラミックスの接合方法。
【請求項10】
測定周波数を2.45GHzとしたときの誘電損率(εrtanδ)が、室温(25℃
)では0.0001〜0.002、かつ800℃では0.003〜0.3であり、熱膨張係数の差が3×10-6[K-1]以内にあるセラミックス同士を接合させることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のセラミックスの接合方法。
【請求項11】
前記セラミックスが窒化アルミニウムであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のセラミックスの接合方法。
【請求項12】
窒化アルミニウム同士の接合方法であって、
該窒化アルミニウムの接合面の周囲に配置された、炭化ケイ素、ジルコニアおよびステアタイトのうちの少なくとも1つの化合物からなる焼成体に電磁波を照射することにより該焼成体を自己発熱させ、この熱によって、該窒化アルミニウムの接合面を1000℃以上になるまで加熱した後、
該温度を維持しながら該接合面同士を接触させ、電磁波照射によって該接合面を加熱す

ことにより該窒化アルミニウム同士を接合させることを特徴とする窒化アルミニウムの接合方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の方法により接合されてなることを特徴とするセラミックス接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−261916(P2007−261916A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92289(P2006−92289)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】