説明

セラミックス多孔質断熱材及びその製造方法

【課題】水の凍結現象を利用して簡便に得られるセラミックス多孔質体であり、断熱材として低い熱伝導率を有し、構造材料としての断熱材に求められる強度を維持しつつ、従来のものよりも高温までの使用が可能であり、熱やガスの遮断性に優れたセラミックス多孔質断熱材の提供。
【解決手段】セラミックス原料粉体と、ゲル化剤溶解液とを含む材料から作製したゲル体を凍結し、凍結時に形成された氷結晶を細孔源とするゲル化凍結法により得られた、ゲル化剤由来の筒状のマクロ気孔内部に多数の節状の隔壁が形成されてなる隔壁構造を有する多孔質セラミックスであるセラミックス多孔質断熱材、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温で使用可能な、マクロ気孔内部に隔壁構造を有するセラミックス多孔質断熱材、及びセラミックス多孔質断熱材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高温で使用可能なセラミックス断熱材の製造方法として、種々の方法が提案されている。それらの方法の中で、最も工業化が進んでいる方法として、セラミックスを高温で溶融し、得られた繊維状のセラミックスファイバーを結合材で固めることによって作製した断熱材が知られている。しかし、この方法では、材料を溶融してファイバー状に加工する必要があることから、採用できる材料が、主に低融点の材料(主にアルミナとシリカ)に限定されてしまう。そのため、この方法によって得られる断熱材は、使用可能温度が低いという課題を有していた。
【0003】
また、セラミックスファイバーを固化して作製した断熱材は、機械的性質が劣ることから、材質や直径の異なるファイバーを組み合わせる方法や、繊維を三次元的に編み込むといった改良がなされており、これらの方法によって高強度化に成功したとされている(例えば、特許文献1及び2参照)。
その他にも、ファイバーを固化して作製される断熱材の課題を解決するための様々な提案がなされている。例えば、セラミックス粉末と分散媒(例えば、水)により作製されたスラリーに発泡剤を添加し、スラリー中に多量の気孔を導入し、固化することによって作製した断熱材(特許文献3参照)や、さらに、泡を独立して作製し、泡の形状を整えた状態でスラリーに添加し、固化することにより作製した断熱材(特許文献4参照)についての提案がある。
【0004】
また、シロキサンを含有するゲルを作製し、ゲルを乾燥及び焼成することにより多孔質体を作製する方法が知られている(特許文献5及び6参照)。しかし、これらの方法によれば、非常に微細な気孔径を均一に付与することが可能となるが、材質としてはシリカに限られてしまい、断熱材として要求されるサイズの構造部材の作製が困難であり、断熱材としての使用範囲が限定されるという課題がある。
このような課題を解決する方法として、セラミックス原料粉末を水に分散させスラリーを調製し、一方向から凍結させることでセラミックス中に一方向の氷を形成させ、この氷を凍結乾燥することで昇華させ、多孔質化を図る方法(特許文献7参照)や、ゲル化剤を添加し、ゲル体中に保持された水を凍結させることでハンドリング強度の高い、連通孔を持つセラミックス多孔体を作製する方法(特許文献8参照)が提案されている。
【0005】
これらの方法は、従来の方法と異なり、様々な材質への応用が可能であり、形状付与性に優れ、加えて、気孔形成手段として水を用いていることから、製造時に発生する有害ガスも殆どなく、コストや環境面で極めて優れた製造方法であり、工業化が期待される。しかし、これらの方法を、断熱材を製造する手段に適用することを考えると、得られる多孔体が連通孔を有することから、下記の課題があった。すなわち、熱やガスが断熱材を通過してしまい断熱性能に劣ってしまう点、さらに、連通孔と同一方向からの応力には高い抵抗力を示すが、直交する方向ではマクロ状の気孔が連続して存在することから、構造部材である断熱材として実用化を想定した場合、高い強度が期待できない点、などの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−275747号公報
【特許文献2】特開平6−143469号公報
【特許文献3】特開平5−170571号公報
【特許文献4】特開2004−75444号公報
【特許文献5】特開平8−73210号公報
【特許文献6】特開2006−241275号公報
【特許文献7】特開2001−192280号公報
【特許文献8】特開2008−201636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した従来技術では、断熱材への適用を具体的に開示しているが、これらの技術によって得られるセラミックス断熱材は、使用目的によっては十分な物とは言えず、下記に述べるように、それぞれに改良の余地があった。前記した特許文献1、2には、セラミックスファイバーのサイズや構造の最適化を図ることで、過酷な条件で使用可能である断熱材の製造が可能であることが開示されている。しかし、ファイバー化するための工程が必要であること、製品の使用中に、ファイバーの脱落等による装置内の汚染や製品への混入などの恐れがあるという課題を有する。
【0008】
また、特許文献3、4では、セラミックスのスラリーに泡を導入することで、焼成後のセラミックス中に独立した状態の気孔を存在させることが開示されている。しかしながら、特許文献3では、出発原料にケイ酸ソーダやアルミン酸ソーダを用いていることから、リーチング処理を施してもソーダの残留が生じるため、高温での使用は困難である。また、特許文献4ではセラミックスの材質の記載がないが、断熱材として高い特性が開示されている。確かに、この方法では様々な材質への応用が期待されるが、泡のサイズを事前に調整することによる泡同士の結合、スラリー中での泡の分散等、工業的にはいくつかの課題が予想され、直ちに工業化できる技術とは言い難い。
【0009】
一方、特許文献5では、微細な気孔を有するシリカを主成分とする粒子の製造が可能であり、特許文献6では、バルク形状まで微細な気孔を有する多孔体の製造が可能となることが開示されている。しかしながら、特許文献5、6に記載されている材料はシリカを主成分とすることから、高純度シリカであっても融点が1,726℃であることから、特許文献5、6の技術を用いて作製した断熱材の使用可能温度は1,500℃以下になると予想され、セラミックスの断熱材としての用途においては、使用可能温度が低いという課題がある。
【0010】
さらに、特許文献7、8に記載されているセラミックス多孔体の製造方法は、特許文献4と同様、様々な材質への適用が期待できる。また、特許文献8に記載された技術においては、気孔率を99%まで高くすることが可能であるため、断熱材の製造に有益な手法であると言える。しかし、いずれの方法においても、マクロポーラスな連通孔を付与することを構造上の特徴としていることから、熱やガスが断熱材を容易に通過してしまうため、断熱材用途への適用に関しては、この点で極めて好ましくない。
【0011】
従って、本発明の目的は、水の凍結現象を利用して簡便に得られるセラミックス多孔体でありながら、断熱材として低い熱伝導率を有し、構造材料としての断熱材に求められる強度を維持しつつ、従来のものよりも高温までの使用が可能であり、熱やガスの遮断性に優れたセラミックス多孔質断熱材を提供することにある。さらに、本発明の目的は、高融点を示すジルコニアなどの材料や、従来、断熱材の製造が困難であるといわれている材料(例えば、窒化硼素)や、さらにカーボンを材料として用いた、上記の従来にない優れた特性を実現したセラミックス多孔質断熱材を、安易に、かつ、安価に製造することができる製造技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、セラミックス原料粉体と、ゲル化剤溶解液とを含む材料から作製したゲル体を凍結し、凍結時に形成された氷結晶を細孔源とするゲル化凍結法により得られた、ゲル化剤由来の筒状のマクロ気孔内部に多数の節状の隔壁が形成されてなる隔壁構造を有する多孔質セラミックスであることを特徴とするセラミックス多孔質断熱材を提供する。
【0013】
上記本発明の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
前記隔壁構造が、内径10〜300μmの筒状のマクロ気孔内に、該マクロ気孔と同質な材料からなる膜を形成してなり、かつ、該膜は、厚さ1〜10μmであってマクロ気孔の内壁に直立して掛け渡されており、その膜と膜との間隔がマクロ気孔の内径の10〜100%のピッチである多数の節状の隔壁が形成された構造を有してなる上記のセラミックス多孔質断熱材が挙げられる。また、多孔質セラミックスの気孔率が50〜99%であって、かつ、前記マクロ気孔が、内径10μm〜300μmの大きさの円筒状をしており、その空気透過率が1×10-20〜1×10-122である上記のセラミックス多孔質断熱材が挙げられる。また、前記ゲル体を−10℃以下で凍結させてなる、前記マクロ気孔の内径が10〜300μmの範囲にある上記のセラミックス多孔質断熱材が挙げられる。また、上記セラミックス原料粉体が、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、コーディエライト及び炭素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する上記のセラミックス多孔質断熱材が挙げられる。
【0014】
さらに、本発明は、別の実施形態として、ゲル化凍結法を用いて隔壁構造を有する多孔質セラミックスを作製するセラミックス多孔質断熱材の製造方法であって、セラミックス原料粉体と、ゲル化剤溶解液とを含む材料からゲル体を得るゲル化工程と、該ゲル体を凍結し、凍結体を得る凍結工程と、該凍結工程で得られた凍結体から氷を除去して得られた乾燥体を焼成する乾燥・焼成工程とを有し、上記ゲル化工程で、上記ゲル化剤と、該ゲル体の凝固点降下を生じさせる有機化合物又は無機化合物を含有させ、上記凍結工程で、凍結時にゲル体中の水分が冷却され、細孔源となる氷結晶が形成される際、上記ゲル化剤由来の筒状のマクロ氷結晶と、該マクロ氷結晶の内部に、凍結濃縮とゲル体の凝固点降下によって多数の節状の隔壁を形成して隔壁構造を有する凍結体を得、上記乾燥・焼成工程で、凍結体から氷を除去することで、多孔質セラミックスを得ることを特徴とするセラミックス多孔質断熱材の製造方法を提供する。
【0015】
上記本発明の製造方法の好ましい形態としては、前記ゲル体の凝固点降下を生じさせる有機化合物又は無機化合物が、アクリルアミド系高分子、アルギン酸系高分子、ポリエチレンイミン系高分子、メチルセルロース系高分子、ポリアクリル酸系高分子、ポリカルボン酸系高分子、ポリエチレングリコール、ポリプレングリコール、エチレングリコール、炭素数1〜3の低級アルコール、硝酸塩及び塩化物塩からなる群から選ばれる少なくともいずれかであり、かつ、該化合物を、セラミックス原料粉体に対して0.1〜13体積%(質量%に換算すると0.1〜15.0質量%)となるように含有させることが挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明を特徴づける多孔質セラミックスは、筒状のマクロ気孔を有し、該マクロ気孔の内壁に直立して架け渡された状態の、多数の節状の隔壁が形成されてなる隔壁構造を有する。かかる隔壁構造は、従来にない特有の構造であって、熱やガスを通しにくく断熱材として有用な微構造であるため、優れたセラミックス多孔質断熱材の提供が可能になる。この多孔質セラミックスは、セラミックス原料粉体とゲル化剤溶解液との混合物を凍結する際に生じる氷結晶を細孔源とするゲル化凍結法において、凝固点降下を生じる有機化合物、ないしは、無機化合物を原料に含有させることで、ゲル化剤に由来して形成される筒状のマクロ気孔内部に、上記の凝固点降下を生じる化合物に由来して形成される多数の隔壁が設けられた新規な隔壁構造を有するセラミックス多孔質体を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1のセラミックス多孔質体の断面のSEM写真の図である。
【図2】本発明の実施例2のセラミックス多孔質体の断面のSEM写真の図である。
【図3】本発明を特徴づけるマクロ気孔内に形成される隔壁構造を示す模式図である。
【図4】比較例1のセラミックス多孔質体の断面のSEM写真の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明を実施するための好ましい形態を挙げて、本発明をより詳細に説明する。以下の説明は、発明の趣旨をよりよく理解可能とするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明者らは、先に述べた従来技術の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、セラミックス原料粉体とゲル化剤溶解液を用いて多孔体を作製する従来のゲル化凍結法に改良を加えて特有の構成とすれば、筒状のマクロ気孔内部に、さらに多数の節状の隔壁が形成されてなる隔壁構造を形成することができ、かかる構造を有するセラミックス多孔質体は、断熱材として極めて有用であることを見出した。より具体的には、原料中に、ゲル体の凝固点を降下させる有機化合物、ないしは、無機化合物を含有させるという極めて簡単な手段によって、凍結工程でゲル化剤由来の筒状のマクロ気孔を形成するための氷結晶が凍結濃縮をともない形成される際に、添加した有機化合物又は無機化合物によるゲル体の凝固点降下が生じ、マクロ気孔内部に、架け渡された多数の節状の隔壁を有する隔壁構造が形成できることを初めて見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0019】
以下、本発明のセラミックス多孔質断熱材の製造方法の一例を挙げて、本発明を説明する。本発明の製造方法は、セラミックス原料粉体とゲル化剤溶解液とを含む材料からゲル体を得るゲル化工程と、
得られたゲル体を凍結して凍結体を得る凍結工程と、該凍結工程で得られた凍結体から氷を乾燥除去して乾燥体とし、該乾燥体を焼成して多孔質セラミックスを得る乾燥・焼成工程とを有する。特に、上記ゲル化工程で、その原料に、セラミックス原料粉体及びゲル化剤溶解液に加えて、ゲル体の凝固点降下を生じさせる有機化合物又は無機化合物を添加し、これらを含有してなるゲル体を作製し、該ゲル体を凍結、乾燥、焼成することで、マクロ気孔内部に、特有の隔壁構造を有する多孔質セラミックスを作製することを特徴とする。ゲル化工程で使用する材料以外は、基本的には、前記した特開2008−201636号公報に記載の技術事項を利用できる。
【0020】
ゲル化工程で、まず、セラミックス原料粉体および、水にゲル化剤を溶解させたゲル化剤溶解液(以下、単に「ゲル化剤溶解液」とも称す)、これと共に、ゲル体の凝固点降下を生じさせる有機化合物又は無機化合物(以下、これらを「ゲル体の凝固点降下添加物」とも呼ぶ)を含み、セラミックス原料粉体の含有量が1〜50体積%である混合物を作製する。本発明に用いる原料粉体は、水に分散するセラミックス粉体(本発明では炭素粉体も含む)であればよく、原料に依存しない製造方法であることを一つの特徴としている。このため、原料の種類に制限がなく、コストや最終製品の強度などを考慮して、セラミックス原料粉体を適宜に選択することができる。例えば、公知のセラミックスの粉粒体を1種或いは2種以上組み合わせて使用することができる。具体的には、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、コーディエライト、又は炭素を挙げることができる。これらに対して微量の焼結助剤も添加することができる。
上記した体積%となるよう配合した原料粉体、水、ゲル化剤、ゲル体の凝固点降下添加物を含んだスラリー(混合物)を調製し、次に、調製したスラリーを成形型に流し込んでゲル体を作製する。
【0021】
本発明の製造方法は、出発原料の種類に依存することなく、マクロ気孔の内部に多数の節状の隔壁が形成されてなる隔壁構造という特有の形状を有してなる、高気孔率なセラミックス多孔質体を提供できることを特徴とする。そのため、原料粉体の形状やサイズに特に制限されるものではないが、使用される環境やコストを考慮して原料粉体を選定することができる。例えば、原料粉体の粒径は、原料粒子の直径として定義する場合、0.01μm〜100μm程度のものが望ましい。特に望ましくは、0.01μm〜5μmの範囲のものである。これは、スラリーを作製する際に、原料粉体を壊砕し、スラリー内部で均一に分散させることを目的としているためである。これよりも大きな粒子であると沈降してしまい、均質なゲル体が得られない可能性があるため、望ましくない。
【0022】
また、本発明を特徴づける多孔質セラミックスの気孔率を、好適な50〜99体積%となるようにするためには、原料粉体の含有量を50体積%以下、水の含有量を48.9体積%以上、ゲル化剤の含有量を1〜5体積%、ゲル体の凝固点降下添加物の含有量を、0.1〜13体積%(質量%に換算すると0.1〜15.0質量%)、さらには、ゲル体の凝固点降下添加物を0.1〜5体積%とすることが好ましい。ゲル化剤の含有量1〜5体積%としたのは、これよりも少ないとゲル化が進行せず、ゲル化剤としての機能を十分に発揮することができない場合があり、一方、これよりもゲル化剤の量が多いと、多すぎてゲル強度が高まり、凍結時の水分離性が劣る傾向があるので好ましくない。上記したように、ゲル体の凝固点降下添加物の含有量は0.1〜5体積%とすることが好ましく、この範囲で含有させることで、より良好な隔壁構造の形成を、より安定して得ることができる。
【0023】
ゲル化工程で用いるゲル化剤としては、例えば、ゼラチン等のゲル化性水溶性高分子を好ましく用いることができる。勿論、これに限定されず、下記に挙げるような、ゲル化可能な水溶性高分子であればいずれも使用可能である。例えば、前記した特開2008−201636号公報に記載の、N−アルキルアクリルアミド系高分子、N−イソプロピルアクリルアミド系高分子、スルホメチル化アクリルアミド系高分子、N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド系高分子、ポリアルキルアクリルアミド系高分子、アルギン酸、ポリエチレンイミン、でんぷん、カルボシキメチルセルロース、ゼラチン、ヒドロシキメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、寒天、又はポリエチレンオキシド等を用いることができる。
【0024】
上記のようなゲル化剤と共に用いる、ゲル体の凝固点降下添加物としては、例えば、アクリルアミド系高分子、アルギン酸系高分子、ポリエチレンイミン系高分子、メチルセルロース系高分子、ポリアクリル酸系高分子、ポリカルボン酸系高分子、ポリエチレングリコール、ポリプレングリコール、エチレングリコール、炭素数1〜3の低級アルコール、硝酸塩及び塩化物塩等を用いることができる。より具体的には、ポリアクリル酸塩や硝酸アルミニウム・9水和物、などを用いることができる。前記したように、これらの化合物は、セラミックス原料粉体に対して、0.1〜15.0質量%程度となるように、より好ましくは、0.1〜5.0質量%となるように含有させるとよい。
【0025】
本発明におけるゲル体の作製は、例えば、上記の混合比からなるスラリーを作製し、該スラリーを成形型に流し込み、水をゲル中に保持させた状態で固化してゲル化させる。このゲル化によって、セラミックス原料粉体がゲル中に固定されることになる。
【0026】
次に、凍結工程で、成形型に鋳込んだゲル体を凍結させる。例えば、成形型の一部、又は全表面から冷却することで、ゲル体内に氷結晶が配向した凍結体が得られる。凍結方法としては、通常の冷凍庫、凍結槽など、公知の冷却方法を用いればよい。
【0027】
凍結体を作製するための凍結温度は、ゲル化剤に保水される水分が凍結する温度であれば特に限定されるものではない。ただし、本発明者らの検討によれば、−10から−20℃の範囲では、氷結晶が粗大化してしまい細孔(マクロ気孔)内径がおよそ300μmよりも大きく粗大になる傾向があり、マクロ気孔内壁に良好なピッチで多数の節状の膜を張りづらくなって、結果的に、所望する隔壁構造が形成しにくくなるため望ましくない。したがって、好ましくは、−20℃よりも低い温度、例えば、−40℃程度の温度でマクロ気孔内径が50〜200μm程度になるように凍結処理をするとよい。形成されるマクロ気孔内径にもよるが、本発明者らの検討によれば、熱やガスを通しにくく断熱材としてより有用な微構造とするためには、膜と膜との間隔が、マクロ気孔の内径に対して10〜100%程度で多数の節状の隔壁が形成されたものが好ましい。より好ましくは、マクロ気孔の内径に対して10〜40%程度のピッチで、多数の節状の隔壁が緻密に形成されたものであることがより好ましい。
【0028】
次に、乾燥・焼成工程で、上記のようにして得た凍結体から氷を乾燥除去した後、焼成をする。この処理の際に、凍結体の構成成分である原料粉体や氷結晶の構造を崩さないように氷のみを除去することが重要になる。すなわち、寸法変化が少なく、試料の破壊の恐れが少ない氷の除去方法を採用することが望ましい。寸法変化や試料破壊の恐れが少ない乾燥方法としては、例えば、フリーズドライ法が挙げられ、かかる方法は、本発明に適用する乾燥法として好適である。フリーズドライ法は、減圧下で、凍結体中の氷を直接昇華させ、氷のみを除去する方法である。この方法は、凍結した成形体表面から氷が水蒸気へと直接昇華するため、寸法変化が少なく、本発明方法において行う、凍結体から氷を除去し、乾燥する方法として好適である。
【0029】
乾燥後に行う焼成工程では、用いた原料粉体の種類等に応じて、得られる多孔質体の強度を確保する目的から、焼成温度を適宜に定めることができる。例えば、セラミックス原料粉体が、炭化珪素や窒化珪素の場合は、1,500〜2,300℃、アルミナの場合は、1,100〜1,600℃、ジルコニアの場合は、1,200〜1,600℃、窒化硼素の場合は1,400〜2,500℃、コーディエライトの場合は、1,300〜1,500℃、炭素の場合は、1,000〜2,500℃の温度で、それぞれ焼成することが望ましい。
【実施例】
【0030】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1>
セラミックス原料粉体に、比表面積7m2/gのジルコニア粉体(トーソー製:8Y)を用いた。これは、8mol%のイットリアを含有したジルコニア粉末である。このジルコニア粉体を10体積%、蒸留水を86体積%、ゲル体の凝固点降下添加物としてポリアクリル酸塩を1体積%混合してスラリーを作製し、さらに、これにゲル化剤(ゼラチン、和光純薬株式会社製)を3体積%添加してスラリーの調製を行った。そして、得られたスラリーを成形型にキャストし、冷蔵庫内にてゲル化を行った。ゲル化後、ゲル体を成形型ごと凍結槽で−40℃にて1時間冷却して凍結体とした。得られた凍結体を成形型から外し、フリーズドライ装置で12時間乾燥して乾燥体を得、その後、該乾燥体を焼成炉で、1,500℃で2時間焼成してセラミックス多孔質体を得た。上記のようにして本実施例で得られた多孔質体について、気孔率、内部の構造のSEM観察、および空気透過率、熱伝導率、強度を測定して評価した。図1は、セラミックス多孔質体のSEM写真の図であるが、図からわかるように、連通あるいは不連通の筒状のマクロ気孔の内部に、該孔の内壁に直立して架け渡された状態の、あたかもタケノコの節のような多数の隔壁が形成された構造となっている。セラミックス多孔質体の評価方法および基準については後述する。また、得られた評価結果は表1にまとめて示した。
【0031】
<実施例2>
セラミックス原料粉体に、比表面積10m2/gの窒化珪素粉体(宇部興産製:SN−COC)を用いた。これは、5質量%のイットリアと2質量%のアルミナを含有した窒化珪素粉末である。この窒化珪素粉体を10体積%、蒸留水を87体積%、ゲル体の凝固点降下添加物として無機塩である硝酸アルミニウム・9水和物(和光純薬株式会社製)を蒸留水の1質量%添加してスラリーを作製し、さらに、これにゲル化剤(ゼラチン、和光純薬株式会社製)を3体積%添加してスラリーの調製を行った。そして、得られたスラリーを成形型にキャストし、冷蔵庫内にてゲル化を行った。ゲル化後、ゲル体を成形型ごと凍結槽で−60℃にて1時間冷却して凍結体とした。得られた凍結体を成形型から外し、フリーズドライ装置で12時間乾燥して乾燥体を得、その後、該乾燥体を実施例1と同様の方法で焼成してセラミックス多孔質体を得た。図2は、得られた多孔質体のSEM写真の図であるが、図からわかるように、無機塩の添加においても、実施例1のポリアクリル酸塩を用いた場合と同様に、筒状のマクロ気孔の内部に、該孔の内壁に直立して多数の隔壁が形成された構造が確認された。さらに、得られた多孔質体について実施例1と同様に評価し、その評価結果を表1に示した。
【0032】
<実施例3−1〜実施例3−3>
セラミックス原料粉体に、比表面積7m2/gのジルコニア粉体(トーソー製:8Y)を用いた。これは、8mol%のイットリアを含有したジルコニア粉末である。このジルコニア粉体を10体積%、蒸留水を86体積%、ゲル体の凝固点降下添加物としてポリアクリル酸塩を1体積%混合してスラリーを作製し、さらに、これにゲル化剤(ゼラチン、和光純薬株式会社製)を3体積%添加してスラリーの調製を行った。そして、得られたスラリーを成形型にキャストし、冷蔵庫内にてゲル化を行った。ゲル化後、ゲル体を成形型ごと凍結槽で凍結する際、凍結温度を−10℃(実施例3−1)、−30℃(実施例3−2)及び−40℃(実施例3−3)に調節し、それぞれ1時間冷却して凍結体とした。得られた凍結体を成形型から外し、フリーズドライ装置で12時間乾燥して乾燥体を得、その後、該乾燥体を焼成炉で、1,500℃で2時間焼成してセラミックス多孔質体を得た。上記のようにして本実施例で得られた多孔質体について、マクロ気孔の平均気孔径、隔壁構造の形成の有無、及び隔壁構造を形成する膜の間隔を表2に示した。表から分かるように、凍結の温度が高いほどマクロ気孔の平均気孔径が大きく、−10℃で凍結した実施例3−1では平均気孔径が300μmで、マクロ気孔が形成され、節状の膜が認められるものの、その形状及び数が十分とは言えず、所望する隔壁構造とは言い難かった。
【0033】
<比較例1>
特開2008−201636にて開示されている、ゲル化剤を用いたゲル化凍結法によって、実施例1で使用したと同様のジルコニア粉体を用いてセラミックス多孔質体を作製した。具体的には、本比較例の方法では、原料に実施例1で用いたと同様のゲル化剤を用いたが、実施例1で用いたポリアクリル酸塩を原料中に含有させなかった。また、その他の製造条件は実施例1と同じとした。得られた多孔質体の気孔率、内部の構造のSEM観察、および空気透過率を測定して評価した。図4は、比較例の多孔質体のSEM写真の図である。図に示した通り、多数の連通孔が形成されているが、実施例の場合のような隔壁構造はみられなかった。また、実施例の場合と同様に、その評価結果を表1に示した。
【0034】
<比較例2>
市販されているファイバーを原料に用いて作製してなる断熱材(ジルカー:商品名、ジルカージルコニア社製)の空気透過率、熱伝導率、強度を測定した。また、実施例の場合と同様に、その評価結果を表1に示した。
【0035】
<評価>
(1)気孔率
気孔率は、得られた各セラミックス多孔質体の寸法と重量から密度を算出し、粉体の密度で除することで算出した。本発明の実施品である実施例1の多孔質体の気孔率は、73%と高かった。比較例1のゲル化凍結法により得られた多孔質体は、特開2008−201636号公報に記載されている通り、実施例1の多孔質体とほぼ同程度に高気孔率化されていた。
【0036】
(2)組織・構造
実施例1、2で得た各セラミックス多孔質体は、その切断面のSEM写真である図1、2から明らかなように、マクロ気孔の内部に本発明で初めて見出した隔壁構造が形成されていた。すなわち、図の縦方向に並んだ壁によって形成された、連通している或いは連通していないマクロ気孔の内壁に直立し、架け渡されたような状態で、上記内壁の厚みよりも薄い薄膜状の、図の横方向に並んだ、あたかもタケノコの節のような多数の隔壁が形成されたものとなる。一方、従来のゲル化凍結法により作製した比較例1の多孔質体は、図4に示したように、特開2008−201636号公報に記載されている通り、細孔は非常に連通性に優れたものとなり、図1及び2に示した実施例のような多数の隔壁の形成は認められなかった。
【0037】
(3)空気透過率、熱伝導率
セラミックス多孔質体の空気透過率の測定は、JIS K7126−1により行った。本発明で初めて見出した隔壁構造を有する実施例1の多孔質体は、空気透過率が4×10-132であったのに対して、従来のゲル化凍結法で作製した比較例1の多孔質体は、その空気透過率は5×10-122であった。さらに、本発明の実施品である多孔質体は、従来の様々な多孔体からなる断熱材と比べて空気透過率が非常に低い値を示すことを確認した。一方、熱伝導率は、本発明の実施品と、比較品とで、ほぼ同程度の値を示した。さらに、その強度は、本発明の実施品では10MPaであったのに対して、比較例2のファイバーを原料とした断熱材では2MPaと、5倍の強度を示した。これは、本発明の実施品は、マクロ気孔の存在によって高気孔率が達成できることに加えて、このマクロ気孔内部に形成された、ガスや熱の移動を阻害することができる隔壁構造を有しているためであると考えられる。結果を表1に示した。
【0038】
(4)マクロ気孔の平均気孔径
セラミックス多孔質体のマクロ気孔の平均気孔径は、SEM観察結果より測定し、算出した。具体的には、筒状のマクロ気孔が配向している方向に直交する面を平面研削盤にて研削加工し、その研削面をSEM観察し、得られたSEM写真に任意の線を引き、その線とそれぞれの気孔が交わった部分を気孔直径とする、いわゆる線インターセプト法を用いた。測定数は1試料につき500個とし、得られた気孔径の度数分布から累積度数50にあたる値を平均気孔径とした。実施例3−1は平均気孔径が300μmで、隔壁構造の形成が認められるものの、明確な節を形成しておらず所望するものではなかった。一方、実施例3−2および3−3は実施例3−1よりも平均気孔径が小さく、良好なピッチでの多数の節状の膜を有する隔壁構造が確認された。これは本発明のセラミックス多孔体において、凍結温度が−10℃と高く、マクロ気孔が粗大になる場合は、筒状のマクロ気孔に膜のように形成される節が、膜としての形状を保てず壊れてしまうためだと考えられる。
【0039】


【産業上の利用可能性】
【0040】
以上説明したように、本発明の技術は、様々なセラミックス原料粉体に対して適用が可能であり、しかも、高い断熱性と共に気体の遮断性能に優れ、高強度のセラミックス多孔質体とすることができることから、本発明の活用は、広範な範囲で可能であると考えられ、産業上極めて高い利用可能性が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス原料粉体と、ゲル化剤溶解液とを含む材料から作製したゲル体を凍結し、凍結時に形成された氷結晶を細孔源とするゲル化凍結法により得られた、ゲル化剤由来の筒状のマクロ気孔内部に多数の節状の隔壁が形成されてなる隔壁構造を有する多孔質セラミックスであることを特徴とするセラミックス多孔質断熱材。
【請求項2】
前記隔壁構造が、内径10〜300μmの筒状のマクロ気孔内に、該マクロ気孔と同質な材料からなる膜を形成してなり、かつ、該膜は、厚さ1〜10μmであってマクロ気孔の内壁に直立して掛け渡されており、その膜と膜との間隔がマクロ気孔の内径の10〜100%のピッチである多数の節状の隔壁が形成された構造を有してなる請求項1に記載のセラミックス多孔質断熱材。
【請求項3】
前記多孔質セラミックスの気孔率が50〜99%であって、かつ、前記マクロ気孔が、内径10μm〜300μmの大きさの円筒状をしており、その空気透過率が1×10-20〜1×10-122である請求項1に記載のセラミックス多孔質断熱材。
【請求項4】
前記ゲル体を−10℃以下で凍結させてなる、前記マクロ気孔の内径が10〜300μmの範囲にある請求項1に記載のセラミックス多孔質断熱材。
【請求項5】
セラミックス原料粉体が、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、コーディエライト及び炭素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する請求項1に記載のセラミックス多孔質断熱材。
【請求項6】
ゲル化凍結法を用いて隔壁構造を有する多孔質セラミックスを作製するセラミックス多孔質断熱材の製造方法であって、セラミックス原料粉体と、ゲル化剤溶解液とを含む材料からゲル体を得るゲル化工程と、該ゲル体を凍結し、凍結体を得る凍結工程と、該凍結工程で得られた凍結体から氷を除去して得られた乾燥体を焼成する乾燥・焼成工程とを有し、上記ゲル化工程で、上記ゲル化剤と、該ゲル体の凝固点降下を生じさせる有機化合物又は無機化合物を含有させ、上記凍結工程で、凍結時にゲル体中の水分が冷却され、細孔源となる氷結晶が形成される際、上記ゲル化剤由来の筒状のマクロ氷結晶と、該マクロ氷結晶の内部に、凍結濃縮とゲル体の凝固点降下によって多数の節状の隔壁を形成して隔壁構造を有する凍結体を得、上記乾燥・焼成工程で、凍結体から氷を除去することで、多孔質セラミックスを得ることを特徴とするセラミックス多孔質断熱材の製造方法。
【請求項7】
前記ゲル体の凝固点降下を生じさせる有機化合物又は無機化合物が、アクリルアミド系高分子、アルギン酸系高分子、ポリエチレンイミン系高分子、メチルセルロース系高分子、ポリアクリル酸系高分子、ポリカルボン酸系高分子、ポリエチレングリコール、ポリプレングリコール、エチレングリコール、炭素数1〜3の低級アルコール、硝酸塩及び塩化物塩からなる群から選ばれる少なくともいずれかであり、かつ、該化合物を、セラミックス原料粉体に対して0.1〜13体積%(質量%に換算すると0.1〜15.0質量%)となるように含有させる請求項6に記載のセラミックス多孔質断熱材の製造方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−195437(P2011−195437A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40643(P2011−40643)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(391009419)美濃窯業株式会社 (33)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】