説明

セラミックス構造体

【課題】セラミックス構造体としての、機械的強度等に優れるという基本的な特性を保持し、高温環境下における使用に好適であることに加え、複雑、多様な形状が要求される場合であっても、製造が簡易で低コストなセラミックス構造体を提供する。
【解決手段】セラミックス原料を含有する成形体の複数が、所定の構造に組み立てられた後、焼成されてなるセラミックス構造体10であって、成形体1が、セラミックス原料に加えて弾性化剤を含有し、その少なくとも一部分が弾性変形可能な性質を有するものであり、かつ所定の構造への組み立てが、成形体1の弾性変形を利用した成形体1相互の連結加工によるものであることを特徴とするセラミックス構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス構造体に関する。さらに詳しくは、セラミックス構造体としての、機械的強度等に優れるという基本的な特性を保持し、高温環境下における使用に好適であることに加え、複雑、多様な形状が要求される場合であっても、製造が簡易で低コストなセラミックス構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス構造体は、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度等に優れていることから各種産業分野で用いられているが、特に、高温環境下に曝される分野、例えば、焼成炉を用いる分野においては、搬送手段の台車の揺れの防止のため等に用いられるセラミックス製の柱の代替等として、セラミックチェーンが、高温強度特性に優れることに加えて、自己リンク構造を有し、軽量かつ自由に曲がるという特性を有することから、用いられるようになっている。
【0003】
この種のセラミックチェーンとしては、例えば、炭素繊維の繊維束、織布又は不織布に、樹脂を含浸することによって、プリプレグを得、これを積層、成形、硬化及び焼成することによって炭素化し、さらに樹脂又はピッチを含浸し、焼成、含浸を数度繰り返すこと等によって得られる炭素繊維強化炭素複合材料からなる耐熱性チェーン(特許文献1参照)や、炭化珪素及び金属珪素からなる耐酸化保護層を有する炭素質材料で構成された搬送用チェーン(特許文献2参照)が開示されている。
【0004】
しかしながら、上述の耐熱性チェーンや搬送用チェーンは、高温強度特性に優れるものの、構成材料や製造工程が複雑であることから、複雑、多様な形状への対応が困難で、コストの上昇をもたらすという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平8−30519号公報
【特許文献2】特開2001−261137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、セラミックス構造体としての、機械的強度等に優れるという基本的な特性を保持し、高温環境下における使用に好適であることに加え、複雑、多様な形状が要求される場合であっても、製造が簡易で低コストなセラミックス構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によって以下のセラミックス構造体が提供される。
【0008】
[1] セラミックス原料を含有する成形体の複数が、所定の構造に組み立てられた後、焼成されてなるセラミックス構造体であって、前記成形体が、前記セラミックス原料に加えて弾性化剤を含有し、その少なくとも一部分が焼成前においてのみ弾性変形可能な性質を有するものであり、かつ前記所定の構造への組み立てが、前記成形体の弾性変形を利用した前記成形体相互の連結加工によるものであることを特徴とするセラミックス構造体。
【0009】
このように構成することによって、セラミックス構造体としての、機械的強度等に優れるという基本的な特性を保持し、高温環境下における使用に好適であることに加え、複雑、多様な形状が要求される場合であっても、製造が簡易で低コストなセラミックス構造体を提供することができる。
【0010】
[2] 複数の前記成形体のうち、一部がリング形状であり、残余が前記リング形状の一箇所が切断されて、その2つの対向する切断面(対向切断面)が弾性変形により互いに離間及び当接又は近接し得る切断リング形状であり、前記成形体相互の連結加工が、前記切断リング形状の成形体の離間した状態の前記対向切断面のうちの一つが前記リング形状の成形体に挿通された後、他方に当接又は近接する状態に戻ることにより、前記リング形状の成形体と前記切断リング形状の成形体とが連結されてチェーン構造を形成する加工である前記[1]に記載のセラミックス構造体。
【0011】
[3] 前記セラミックス原料が、酸化物系セラミックス、複合酸化物、窒化物系セラミックス及び炭化物系セラミックスからなる群から選択される少なくとも一種を主成分とするものである[1]又は[2]に記載のセラミックス構造体。
【0012】
[4] 前記酸化物系セラミックスが、ムライト、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ、マグネシア、フェライト、コージェライト及び希土類元素の酸化物からなる群から選択される少なくとも一種である[3]に記載のセラミックス構造体。
【0013】
[5] 前記希土類元素の酸化物がイットリアである[4]に記載のセラミックス構造体。
【0014】
[6] 前記複合酸化物が、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛、希土類元素のマンガナイト及び希土類元素のクロマイトからなる群から選択される少なくとも一種である[3]〜[5]のいずれかに記載のセラミックス構造体。
【0015】
[7] 前記窒化物系セラミックスが、窒化アルミニウム、窒化珪素及びサイアロンからなる群から選択される少なくとも一種である[3]〜[6]のいずれかに記載のセラミックス構造体。
【0016】
[8] 前記炭化物系セラミックスが、炭化珪素、炭化ホウ素及び炭化タングステンからなる群から選択される少なくとも一種である[3]〜[7]のいずれかに記載のセラミックス構造体。
【0017】
[9] 前記弾性化剤が、ガラクトースを骨格とする多糖類、コラーゲンを骨格とするポリペプチド、又はこれらの混合物を主成分とするものである[1]〜[8]のいずれかに記載のセラミックス構造体。
【0018】
[10] 前記多糖類が寒天であり、前記ポリペプチドがゼラチンである[9]に記載のセラミックス構造体。
【発明の効果】
【0019】
上述したように、本発明によって、セラミックス構造体としての、機械的強度等に優れるという基本的な特性を保持し、高温環境下における使用に好適であることに加え、複雑、多様な形状が要求される場合であっても、製造が簡易で低コストなセラミックス構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のセラミックス構造体(セラミックチェーン)の一の実施の形態を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明のセラミックス構造体(セラミックチェーン)の一の実施の形態における、リング形状の成形体と切断リング形状の成形体との連結加工を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明のセラミックス構造体(セラミックチェーン)の一の実施の形態における、切断リング形状の成形体をリング形状の成形体に挿通するために、対向切断面のうちの一つを他方から弾性変形により互いに離間させる態様を模式的に示す説明図であり、図3(a)は、対向切断面のうちの一つを他方から上下方向にずらした状態を示し、図3(b)は、対向切断面のうちの一つを他方の内側にずらした状態を示し、図3(c)は、対向切断面のうちの一つを他方の外側にずらした状態を示す。
【図4】本発明のセラミックス構造体(セラミックチェーン)の一の実施の形態における、リング形状の成形体を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明のセラミックス構造体(セラミックチェーン)の一の実施の形態における、切断リング形状の成形体を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0022】
本発明のセラミックス構造体は、セラミックス原料を含有する成形体の複数が、所定の構造に組み立てられた後、焼成されてなるセラミックス構造体であって、成形体が、セラミックス原料に加えて弾性化剤を含有し、その少なくとも一部分が焼成前においてのみ弾性変形可能な性質を有するものであり、かつ所定の構造への組み立てが、成形体の弾性変形を利用した成形体相互の連結加工によるものであることを特徴とする。
【0023】
本発明に用いられるセラミックス原料としては特に制限はないが、例えば、酸化物系セラミックス、複合酸化物、窒化物系セラミックス及び炭化物系セラミックスからなる群から選択される少なくとも一種を主成分とするものを挙げることができる。そして、酸化物系セラミックスとしては、ムライト、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ、マグネシア、フェライト、コージェライト、及び希土類元素の酸化物からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。希土類元素の酸化物としてはイットリアが好ましい。また、複合酸化物としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛、希土類元素のマンガナイト、及び希土類元素のクロマイトからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、窒化物系セラミックスとしては、窒化アルミニウム、窒化珪素、及びサイアロンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、炭化物系セラミックスとしては、炭化珪素、炭化ホウ素、及び炭化タングステンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの中でも、酸化物系セラミックスであるアルミナが、易焼結性粉体を得やすい理由から特に好ましい。セラミックス原料は、一種単独であっても、二種以上を混合したものであってもよい。
【0024】
セラミックス原料は、平均粒径が10μm以下の粉体であることが好ましく、平均粒径が0.1〜5μmであることがさらに好ましく、0.1〜2μmであることが特に好ましい。10μmより大きいと、弾性変形時に成形体にクラックを生じることがある。
【0025】
セラミックス原料は、そのセラミックス原料を分散させるための水等の分散媒に、溶解及び反応しないことが好ましい。さらに、セラミックス原料は、加熱により焼結する特性を有する粉体であることが好ましい。
【0026】
本発明に用いられる弾性化剤としては特に制限はないが、例えば、ガラクトースを骨格とする多糖類、コラーゲンを骨格とするポリペプチド、又はこれらの混合物を主成分とするものを挙げることができる。多糖類としては寒天が好ましく、ポリペプチドとしてはゼラチンが好ましい。中でも、ガラクトースを骨格とする寒天が天然原料であり、種類が豊富である理由から好ましい。弾性化剤は、一種単独であっても、二種以上を混合したものであってもよい。
【0027】
本発明に用いられる弾性化剤の含有量は、例えば、セラミックス原料に対して、1.0〜10.0質量%とすることが好ましく、2.5〜5.0質量%とすることがさらに好ましい。1.0質量%未満であると、成形体の弾性特性が低く、加工に耐えられないことがあり、10.0質量%を超えると、焼成収縮比が大きすぎ、焼成時に反り等の問題を起こすことがある。
【0028】
本発明に用いられる成形体は、前述のセラミックス原料に加えて前述の弾性化剤を含有し、その少なくとも一部分が焼成前においてのみ弾性変形可能な性質を有するものである。ここで、「弾性変形可能な性質」とは、既に固定した形状を有する成形体に対し、曲げる、伸ばす等ある程度の外力を加えた際、変形した後に構造を破損することなく本来の形状に戻すことができる性質を意味する。さらに具体的には、本発明においては、厚さ4mm、40mm角に成形した材料を、45度以上曲げることができる性質を意味する。
【0029】
図1は、本発明のセラミックス構造体の一の実施の形態であるセラミックチェーン10を模式的に示す説明図であり、図2はリング形状の成形体11と切断リング形状の成形体12との連結加工を模式的に示す説明図である。
【0030】
図1に示すように、本実施の形態におけるセラミックス構造体は、複数の成形体1のうち、一部がリング形状(リング形状の成形体11)であり、残余が前記リング形状の一箇所が切断されて、その2つの対向する切断面(対向切断面)が弾性変形により互いに離間及び当接又は近接し得る切断リング形状(切断リング形状の成形体12)であり、後述する図2に示す方法によって成形体1(11,12)相互の連結加工がなされたものである。成形体1の弾性変形は、未乾燥の状態でなされるのが望ましい。
【0031】
図2に示すように、連結加工は、切断リング形状の成形体12の、弾性変形により互いに離間した状態の対向切断面13,14のうちの一つの対向切断面13をリング形状の成形体11に挿通した後、他方の対向切断面14に当接又は近接する状態に戻すことにより、リング形状の成形体11と切断リング形状の成形体12とを連結してチェーン構造を形成させることによって行うことができる。
【0032】
図3(a)〜図3(c)は、切断リング形状の成形体12をリング形状の成形体11に挿通するために、対向切断面13,14のうちの一つを他方から弾性変形により互いに離間させる態様を模式的に示す説明図である。離間させる態様としては、図3(a)に示すように、対向切断面のうちの一つの対向切断面13を他方の対向切断面14から上下方向にずらしてもよく、図3(b)に示すように、対向切断面のうちの一つの対向切断面13を他方の対向切断面14の内側にずらしてもよく、図3(c)に示すように、対向切断面のうちの一つの対向切断面13を他方の対向切断面14の外側にずらしてもよい。
【0033】
上述のように構成される本実施の形態のセラミックス構造体は、セラミックス構造体としての、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度等に優れるという基本的な特性を保持し、高温環境下における使用に好適なセラミックス構造体を、複雑、多様な形状が要求される場合であっても、製造が簡易で低コストなセラミックス構造体である。
【0034】
以下、本発明のセラミックス構造体を製造する方法の一の形態について説明する。
【0035】
本発明のセラミックス構造体を製造する方法としては、セラミックス原料を含有する坏土を成形して複数の成形体を形成し、成形体を所定の構造に組み立てた後、焼成するセラミックス構造体の製造方法であって、坏土として、セラミックス原料に加えて弾性化剤を含有し、成形体の少なくとも一部分が弾性変形可能な性質を有するものを用い、成形体の弾性変形を利用して、成形体相互を連結加工することによって、成形体を前記所定の構造に組み立てることを特徴とする。以下、各工程ごとに具体的に説明する。
【0036】
(坏土の成形)
本実施の形態においては、セラミックス原料に、分散剤と水の混合液をスラリー化した際の水分量が15〜25%質量部となるように加えて調製したスラリーを、例えば、ポットミル等の混合機によって6〜140時間解砕する。水分量が25%を超えると、粉体種によっては沈降することがあり、15%未満であると、粉体種によっては初期粘性が高すぎ、解砕が十分行われないことがある。また、解砕時間が140時間を超えると、粉体種によってはスラリーが高粘性化することがあり、6時間未満であると、粉体種によっては解砕不十分となることがある。
【0037】
得られたスラリーに弾性化剤を加え、0.5〜2時間、寒天の場合80〜100℃となるように加熱する。2時間を超えると、スラリーの水分蒸散量が増え、水分量の低下が無視できなくなることがあり、0.5時間未満であると、弾性化剤を均一にスラリーへ溶解できないことがある。また、100℃を超えると、弾性化剤が変質することがあり、80℃未満であると、弾性化剤が十分に溶解せず、スラリー中に不均一に分散することがある。さらに、必要に応じて、0〜30分間混練する。混練(攪拌)機としては、特に制限はないが、例えば、特殊機化工業(株)製、商品名:T.K.ハイビスミックスを挙げることができる。この機械を用いたときには、攪拌ブレードの回転数は毎分35〜50回転とすることが好ましい。
【0038】
本発明のセラミックス構造体に用いられるセラミックス原料としては特に制限はないが、例えば、酸化物系セラミックス、複合酸化物、窒化物系セラミックス及び炭化物系セラミックスからなる群から選択される少なくとも一種を主成分とするものを挙げることができる。そして、酸化物系セラミックスとしては、ムライト、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ、マグネシア、フェライト、コージェライト、及び希土類元素の酸化物からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。希土類元素の酸化物としてはイットリアが好ましい。また、複合酸化物としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛、希土類元素のマンガナイト、及び希土類元素のクロマイトからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、窒化物系セラミックスとしては、窒化アルミニウム、窒化珪素、及びサイアロンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、炭化物系セラミックスとしては、炭化珪素、炭化ホウ素、及び炭化タングステンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの中でも、酸化物系セラミックスであるアルミナが、易焼結性粉体を得やすい理由から特に好ましい。セラミックス原料は、一種単独であっても、二種以上を混合したものであってもよい。ここで、分散剤としては特に制限はないが、例えば、ポリアクリル酸アンモニウムや、ノニオン系界面活性剤等を挙げることができる。中でも、ポリアクリル酸アンモニウム塩が、分散特性の理由から好ましい。分散剤は、一種単独であっても、二種以上を混合したものであってもよい。分散剤の含有量は、例えば、セラミックス原料に対して、0.3〜1.5質量%とすることが好ましく、0.7〜1.0質量%とすることがさらに好ましい。0.3質量%未満であると、粘性が下がらないことがあり、1.5質量%を超えると、粘性が高くなることがある。
【0039】
本発明に用いられる弾性化剤としては特に制限はないが、例えば、ガラクトースを骨格とする多糖類、コラーゲンを骨格とするポリペプチド、又はこれらの混合物を主成分とするものを挙げることができる。多糖類としては寒天が好ましく、ポリペプチドとしてはゼラチンが好ましい。中でも、ガラクトースを骨格とする寒天が天然原料であり、種類が豊富である理由から好ましい。弾性化剤は、一種単独であっても、二種以上を混合したものであってもよい。本発明に用いられる弾性化剤の含有量は、例えば、セラミックス原料に対して、1.0〜10.0質量%とすることが好ましく、2.5〜5.0質量%とすることがさらに好ましい。1.0質量%未満であると、成形体の弾性特性が低く、加工に耐えられないことがあり、10.0質量%を超えると、焼成収縮比が大きすぎ、焼成時に反り等の問題を起こすことがある。なお、寒天を用いる場合、寒天に水を加え、よく混合した上でスラリーに加えることが好ましい。この際の加水量は混合後に総水量が全量に対し15〜25質量%となるようにすることが好ましい。
【0040】
(複数の成形体の形成)
坏土の成形の工程で、得られた攪拌したスラリーを60〜70℃まで冷却した後取り出し、ペレット化して乾燥することにより得られたペレットの水分量が15.5〜18.5%となるように水分調整を行うことが好ましく、16.5〜17.5%となるように水分調整を行うことがさらに好ましい。そして、上記ペレットから成形体を形成したときの成形体の水分量も、15.5〜18.5%であることが好ましく、16.5〜17.5%であることがさらに好ましい。スラリーを冷却したときの温度が70℃を超えると、取り出した際に坏土表面上から急激に水分が蒸散することがあり、60℃未満であると、坏土がゲル化し取り出しにくくなることがある。また、上記ペレット及び成形体の水分量はいずれも、18.5%を超えると、成形体が軟かすぎ、強度が低下することがあり、15.5%未満であると、成形体が硬すぎ、弾性変形による加工時に成形体を破損することがある。
【0041】
複数の成形体を形成する方法としては特に制限はないが、例えば、ペレット化した材料を、成形体の形成型締め15〜30トンの電動射出成形機を使用し、所定形状(例えば、縦40mm、高さ40mm、厚さ4mmの角板)となるように射出成形した後、射出成形した角板が乾燥する前にリング抜き型を用いてリング状に打ち抜いて、図4に示すようなリング形状の成形体11の複数を得ることを好適例として挙げることができる。この他に、ボールジョイント様の形状を有する成形体を射出成形機等を用いて成形し、乾燥する前にそれぞれのジョイント部を嵌め込むことにより連結し、一体化するようにしてもよい。
【0042】
(成形体相互の連結加工による成形体の組み立て)
図4に示す、打ち抜いたリング形状の成形体11のうちの一部を、図5に示すように、その一箇所で切断することによって2つの対向する切断面(対向切断面13,14)が弾性変形により互いに離間及び当接又は近接し得る切断リング形状の成形体12とし、得られた切断リング形状の成形体12を軽くひねることによって、図3(a)〜図3(c)に示すように、2つの対向する切断面(対向切断面)が互いに離間したものとすることができ、次いで、切断リング形状の成形体12の離間した状態の対向切断面のうちの一つをリング形状の成形体11に挿通した後、他方に当接又は近接する状態に戻すことにより、図1に示すような、リング形状の成形体11と切断リング形状の成形体12とが連結してチェーン構造を形成したものとすることができ、これを繰り返し、長鎖のチェーン状成形体を得ることができる。
【0043】
(乾燥及び焼成)
得られたチェーン状成形体を室内で3〜24時間静置した後80〜130℃オーブンで2〜6時間乾燥させることが好ましい。次いで、乾燥したチェーン状成形体を焼成する。焼成方法としては特に制限はないが、例えば、平坦な板の上へジルコニア粗粒(平均粒系200ミクロン)を敷き、その上へ乾燥したチェーン状成形体チェーンを縮めた状態で置いて、この状態で焼成して、セラミックチェーンを得ることが好ましい。焼成条件としては、例えばアルミナを原料とする場合、室温から400℃までを昇温速度50〜200℃/時間で昇温し、400℃で1〜2時間保持し、400℃から1600℃までを昇温速度50〜200℃/時間で昇温し、1600℃で4〜6時間保持して行うことが好ましい。
【0044】
上述のように構成される本実施の形態のセラミックス構造体を製造する方法としては、セラミックス構造体としての、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度等に優れるという基本的な特性を保持し、高温環境下における使用に好適なセラミックス構造体を、複雑、多様な形状が要求される場合であっても、簡易、低コストに効率よく製造することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明のセラミックス構造体を実施例によってさらに具体的に説明する。
【0046】
(実施例1)
アルミナ粉末(住友化学工業(株)製、商品名:AES−11C)1000グラムに分散剤及び水の混合液を加えた。分散剤としてのポリアクリル酸アンモニウム塩(東亜合成(株)製、商品名:A−6114)の質量は、アルミナ粉末の0.9質量%相当の質量とした。水分量はスラリー化した際に20質量%となるように調整した。調製したスラリーをポットミルにて8時間解砕した。
【0047】
次いで、寒天(伊那食品工業(株)製、商品名:XG−89)をスラリーに含有されるアルミナ質量に対し3質量%相当の質量分用意した。この寒天に水を加え、よく混合した上でスラリーに加えた。この際の加水量は混合後に総水量が全量に対し29質量%となるようにした。寒天を添加したスラリーを室温から30分かけ95℃に加熱し、さらに30分混練した。混練には混練機(特殊機化工業(株)製、商品名:T.K.ハイビスミックス)を使用し、攪拌ブレードの回転数は毎分50回転とした。
【0048】
攪拌した材料を60℃まで冷却した後取り出し、ペレット化して乾燥による水分調整を行った。水分量は17質量%に調整した。
【0049】
ペレット化した材料を型締め30トンの電動射出成形機を使用し、縦40mm、高さ40mm、厚さ4mmの角板に成形した。ここで得られた角板を、折り曲げると、45度以上曲げることができた。次いで、切り抜き成形、射出成形した角板が乾燥する前に長径が28mmで、短径が17mmのリング状に打ち抜いた。打ち抜いたリング状の成形体のうちの一部を、その一箇所で切断することによって2つの対向する切断面(対向切断面)が弾性変形により互いに離間及び当接又は近接し得る切断リング形状の成形体(焼成前の成形体)とし、得られた切断リング形状の成形体を軽くひねることによって、2つの対向する切断面(対向切断面)が互いに離間したものとした。次いで、切断リング形状の成形体の離間した状態の対向切断面のうちの一つをリング形状の成形体に挿通した後、他方に当接する状態に戻すことにより、リング形状の成形体と切断リング形状の成形体とが連結してチェーン構造を形成したものとした。これを繰り返し、長鎖のチェーン状成形体を得た。
【0050】
得られたチェーン状成形体を室内で24時間静置した後130℃オーブンで2時間乾燥させた。次いで、平坦な板の上へジルコニア粗粒(平均粒径200ミクロン)を敷き、その上へチェーンを縮めた状態で置いた。この状態で焼成した。焼成条件は室温から400℃までの昇温速度が200℃/時間、400℃で1時間保持、400℃から1600℃までの昇温速度が200℃/時間、1600℃で4時間保持して行った。
【0051】
(比較例1)
一般的な、高純度、高密度アルミナである、ニッカトー社製アルミナSSA−Sを比較例1とした。
【0052】
上述のようにして得られた、実施例1のセラミックス構造体と比較例1のセラミックスとについて、下記方法にて、アルミナ純度、かさ密度及び機械的強度を評価した。実施例1のセラミックス構造体については、上記ペレット化した材料を、縦40mm、高さ40mm、厚さ4mmの角板に成形したものを、チェーン状にせずにそのまま乾燥、焼成したものをサンプルとした。比較例1のアルミナについては、実施例1のセラミックス構造体の試験片と同様の大きさのサンプルとした。結果を表1に示す。
【0053】
(アルミナ純度測定法)
サンプルを粉砕し、100メッシュ以下の粒径の粉体にする。プレスの後多元素同時蛍光X線分析装置(Philips社製PW2606)を用いて純度を測定した。
【0054】
(嵩密度測定法)
サンプルを130℃の乾燥炉にて2時間乾燥させた後、乾燥重量を測定した。その後煮沸及び真空引きにより表面気孔に水を浸透させた。このサンプルの空中重量と水中重量を測定した。この際に水の温度を測定し、得られる水密度からサンプルの体積を算出した。これら乾燥重量値と体積値から焼成体の嵩密度を測定した。
【0055】
(機械的強度試験(四点曲げ試験))
JIS R 1601に準拠する方法で、四点曲げ試験を行った。
【0056】
【表1】

【0057】
以上より、実施例1のセラミックス構造体は、焼成前の成形体を弾性変形させることにより、複雑な構造のセラミックス構造体とすることができることが分かる。さらに、表1より、実施例1のセラミックス構造体のアルミナ純度、嵩密度及び機械的強度は、比較例1と同様であることが分かる。つまり、実施例1のセラミックス構造体は、一般的な、高純度、高密度アルミナと同様のアルミナ純度、嵩密度及び機械的強度を有しながら、焼成前の成形体を弾性変形させることができ、複雑なセラミックス構造体とすることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、セラミックス構造体としての、機械的強度等に優れるという基本的な特性を保持し、高温環境下における使用に好適であることに加え、複雑、多様な形状が要求される場合であっても、製造が簡易で低コストなセラミックス構造体として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
1:成形体、10:セラミックス構造体(セラミックチェーン)、11:リング形状の成形体、12:切断リング形状の成形体、13:対向切断面、14:対向切断面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス原料を含有する成形体の複数が、所定の構造に組み立てられた後、焼成されてなるセラミックス構造体であって、
前記成形体が、前記セラミックス原料に加えて弾性化剤を含有し、その少なくとも一部分が焼成前においてのみ弾性変形可能な性質を有するものであり、かつ前記所定の構造への組み立てが、前記成形体の弾性変形を利用した前記成形体相互の連結加工によるものであることを特徴とするセラミックス構造体。
【請求項2】
複数の前記成形体のうち、一部がリング形状であり、残余が前記リング形状の一箇所が切断されて、その2つの対向する切断面(対向切断面)が弾性変形により互いに離間及び当接又は近接し得る切断リング形状であり、
前記成形体相互の連結加工が、前記切断リング形状の成形体の離間した状態の前記対向切断面のうちの一つが前記リング形状の成形体に挿通された後、他方に当接又は近接する状態に戻ることにより、前記リング形状の成形体と前記切断リング形状の成形体とが連結されてチェーン構造を形成する加工である請求項1に記載のセラミックス構造体。
【請求項3】
前記セラミックス原料が、酸化物系セラミックス、複合酸化物、窒化物系セラミックス及び炭化物系セラミックスからなる群から選択される少なくとも一種を主成分とするものである請求項1又は2に記載のセラミックス構造体。
【請求項4】
前記酸化物系セラミックスが、ムライト、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ、マグネシア、フェライト、コージェライト及び希土類元素の酸化物からなる群から選択される少なくとも一種である請求項3に記載のセラミックス構造体。
【請求項5】
前記希土類元素の酸化物がイットリアである請求項4に記載のセラミックス構造体。
【請求項6】
前記複合酸化物が、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛、希土類元素のマンガナイト及び希土類元素のクロマイトからなる群から選択される少なくとも一種である請求項3〜5のいずれかに記載のセラミックス構造体。
【請求項7】
前記窒化物系セラミックスが、窒化アルミニウム、窒化珪素及びサイアロンからなる群から選択される少なくとも一種である請求項3〜6のいずれかに記載のセラミックス構造体。
【請求項8】
前記炭化物系セラミックスが、炭化珪素、炭化ホウ素及び炭化タングステンからなる群から選択される少なくとも一種である請求項3〜7のいずれかに記載のセラミックス構造体。
【請求項9】
前記弾性化剤が、ガラクトースを骨格とする多糖類、コラーゲンを骨格とするポリペプチド、又はこれらの混合物を主成分とするものである請求項1〜8のいずれかに記載のセラミックス構造体。
【請求項10】
前記多糖類が寒天であり、前記ポリペプチドがゼラチンである請求項9に記載のセラミックス構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−208479(P2009−208479A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148536(P2009−148536)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【分割の表示】特願2003−81951(P2003−81951)の分割
【原出願日】平成15年3月25日(2003.3.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】