説明

セラミックス発光管を用いた小型放電灯およびその製造方法

【課題】簡単な構成により異常放電を抑制し、且つバラツキを低減した小型放電ランプおよびその製造方法を提供できるようにする。
【解決手段】透光性セラミックスからなる発光管(2)の小型放電ランプ(1)であって、前記発光管は、内径が1〜4mmとした発光部(2b)を有する筒状形状とされ、両端の開口内部には環状のセラミックス片(6)が配設されており、前記金属パイプ(3)は、一方の端部が前記セラミックス片の外径と略一致する内径若しくは外径とした挿入部と、他方の端部が前記電極を固定する狭径部とを備え、前記放電電極先端と金属パイプ挿入部先端との間には、前記セラミックス片が設けられ、金属パイプ挿入部の内面若しくは金属パイプ挿入部先端が前記セラミックス片に当接して封止するものとしている。これにより金属パイプの内周面が放電空間に露出することがなく、異常放電を低減した小型放電ランプを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のヘッドライトの光源等に適した、消費電力を50W近傍、或いは、それ以下とした比較的に小型の高圧放電灯の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両のヘッドライトには、メタルハライドランプを光源としたものが広く使用されている。ヘッドライトに用いられるメタルハライドランプは透明な石英管を用い、両端に電極を封止した構成とされている。
【0003】
また、本出願人は、特許文献1において、自動車用ヘッドライトに適した小型の高圧放電灯を開示している。この特許文献1の記載による放電ランプは、放電電極と透光性セラミックスと封入された充填ガスを有する放電ランプであって、発光管を構成する前記透光性セラミックスは、発光部と両端に開口部を成す電極取付部が形成され、前記電極取付部には、この電極取付部の内側に金属パイプを備えた電極部が気密的に取付けられており、前記電極部は、一方の端部の外径が前記開口部内径と略一致し、他方の端部が前記電極を固定する狭径部とされている。
【0004】
具体的には、高圧放電ランプの発光管として略パイプ状とした透光性セラミックスからなる発光管を用い、その両端に金属パイプおよび電極を設けている。電極は金属パイプに設けた狭径部にて固定しており、金属パイプは封着用接着剤コンパウンドにて発光管に固定する構造を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−220350公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、特許文献1の放電ランプについて更に検討を行なったところ、両端の電極に外部電源を接続して点灯したとき、安定点灯時となるアーク放電の起点は両端の対向する電極の先端となり、当初意図した放電状態であった。しかしながら、点灯初期においては、電極の先端だけでなく、発光管内に露出する金属パイプの表面も放電の起点となっていることが判明した。
【0007】
さらに、点灯初期のみでなく、点滅を繰返す動作を行なう試験を実施した場合においても、点灯初期と同様に金属パイプ表面を放電の起点とすることが生じ得ることも判明した。これらの金属パイプ表面を起点とする放電は、発光管の局部的な温度上昇を招くことになり好ましい現象ではない。
【0008】
また、金属パイプの局部的な温度上昇は、金属パイプとセラミックス製発光管との間を気密に封止するコンパウンドを溶融、蒸発させる。そのため、内部空間がコンパウンドの組成物により汚染され、それが点灯異常、例えば発光色の変化等を引き起こす場合も想定される。さらに、気密性を保てなくなりリークが生じ点灯できなくなる、金属パイプの局部的な温度上昇によりセラミックス発光管にクラックが生じて、リークおよび不点灯となる、という問題も生じ得る。
【0009】
本発明は、以上の点から、金属パイプ表面での異常放電を低減させて、小型放電ランプの寿命特性を改善することを目的としている。
【0010】
さらに、金属パイプ表面での異常放電を生じにくい小型放電ランプを、内部空間の容積バラツキを低減して製造可能な小型放電ランプの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、次の実施の態様により、達成される。
請求項1に記載の発明は、両端に一対の開口部を備えた透光性セラミックスからなる発光管(2,12,22)と、発光管両端に設けた放電電極(5)と、放電電極を固定する金属パイプ(3)とを有し、発光管両端部には前記金属パイプ(3)を介して放電電極(5)を固定する電極取付け部(2c)が設けられ、発光管内部(2a)に封入された発光物質を有する小型放電ランプ(1,11,21,31)であって、
前記発光管(2,12,22)は、内径が1〜4mmとした発光部(2b)を有する筒状形状とされ、両端の開口内部には環状のセラミックス片(6,16,36)が配設されており、
前記金属パイプ(3)は、一方の端部が前記セラミックス片の外径と略一致する内径若しくは外径とした挿入部(3b)と、他方の端部が前記電極を固定する狭径部(3a)とを備え、
前記放電電極先端(5a)と金属パイプ挿入部先端(3c)との間には、前記セラミックス片(6,16,36)が設けられ、金属パイプ挿入部(3b)の内面若しくは金属パイプ挿入部先端(3c)が前記セラミックス片(6,16,36)に当接している、ことを特徴とする小型放電ランプ(1,11,21,31)を提供することができる。
【0012】
請求項1に係る発明によれば、発光管の開口部内周にはセラミックス片が配設されているので、金属パイプを取付けた場合においても、金属パイプ挿入部と放電電極との間にはセラミックス片が介在する。よって金属パイプが発光管の放電部たる内部空間に露出しない。したがって、金属パイプの挿入部表面での異常放電を防止することができる。また、発光管の内部空間への金属パイプの挿入量およびセラミックス片の挿入量を一定に制御することができる。すなわち、発光管の内部空間の容積、すなわち放電室の容積のバラツキを簡易な構成にて低減することができる。
【0013】
さらに、前記発光管(2,12)は、発光部(2b)よりも内径を大きくした拡径平坦部(2e)と段差部(2d)が形成されており、前記金属パイプ挿入部(3b)は、前記拡径平坦部(2e)とセラミックス片(6)の隙間に配設された小型放電ランプ(1,11)とするのが好適である。
【0014】
このようにすることで、金属パイプの取り付け位置を一定に制御することが容易になる。すなわち、発光管の内部空間の容積、すなわち放電室の容積のバラツキを簡易な構成にて低減することができ、放電特性を安定させることができる。
【0015】
さらに、前記セラミックス片(16)の開口部側端面(6b)が、前記発光管の開口端部(22f)よりも外側に突出しており、前記金属パイプ挿入部(3b)の先端が前記発光管の開口端部(22f)に当接している、小型放電ランプ(21)とするのが好適である。
このようにすることで、セラミックス片と発光管との間に隙間を形成することなく、金属パイプを所定位置に容易に取り付けることができる。すなわち、発光管の内部空間の容積、すなわち放電室の容積のバラツキを簡易な構成にて低減することができ、放電特性を安定させることができる。
【0016】
さらに、前記セラミックス片(36)の開口部側端面(36b)が、前記発光管の開口端部(2f)よりも内側に位置しており、前記金属パイプ挿入部(3b)の先端(3c)が前記セラミックス片(36)の開口端部に当接している、小型放電ランプ(31)とするのが好適である。
このようにすることで、金属パイプが熱膨張した場合であっても、金属パイプが発光管内面から押し拡げる方向に働くので、金属パイプと発光管との間に隙間を形成することなく、金属パイプを所定位置に容易に取り付けることができる。すなわち、発光管の内部空間の容積、すなわち放電室の容積のバラツキを簡易な構成にて低減することができ、放電特性を安定させることができる。
【0017】
また、より好ましくは、セラミックス片(6)の発光部側端面(6a)と金属パイプの挿入部(3b)先端との距離Bはセラミックス片(6)幅Aと同等以下で0.3mmよりも大きくするのが好適である。また、開口部側端面(6b)の中央孔(6d)側の内縁(6c)と電極(5)との最短距離をdとしたとき、最短距離dは前記幅Aに対して、次の関係を満たすようにすると良い。
d/A≦0.5 (ただしd>0、A>0である)
【0018】
このようにすることで、異常放電の発生をより一層低減することができ、放電特性を安定した小型放電ランプを提供することができる。
【0019】
本発明の別の観点によれば、両端に一対の開口部を備えた透光性セラミックスからなる発光管(2,12,22)と、発光管両端に設けた放電電極(5)と、放電電極を固定する金属パイプ(3)とを有し、発光管両端部には前記金属パイプ(3)を介して放電電極(5)を固定する電極取付け部(2c)が設けられ、発光管内部(2a)に封入された発光物質を有する小型放電ランプ(1,11,21)の製造方法であって、
a) 両端に開口部を有し、発光部の内径が1〜4mmとした透光性セラミックスからなる発光管(2,12,22)と、環状のセラミックス片(6,16,36)を準備する工程と、
b) 前記発光管の開口部内に、セラミックス片(6,16,36)を配設する工程と、
c) 一方の端部の内径若しくは外径が前記セラミックス片(6,16,36)の外径と略一致し、他方の端部が前記電極を固定する狭径部(3a)とされた金属パイプ(3)を準備する工程と、
d) 前記金属パイプ(3)の金属パイプ挿入部(3b)をセラミックス片(6,16,36)の外径部と発光管(2,12,22)の間に固定するパイプ固定工程と、
d) 前記金属パイプ(3)の金属パイプ挿入部(3b)をセラミックス片(6,16)の外径部と当接して、または金属パイプ挿入部先端(3c)を前記セラミックス片(6,16,36)に当接した状態にて発光管(2,12,22)に固定するパイプ固定工程と、
e) 工程d)の後に、前記発光管(2,12,22)内に発光物質を充填する工程と、金属パイプの狭径部に前記電極を挿入した後に金属パイプ(3)の一方の端部側にて仮固定する工程と、
f) 工程e)の後に、狭径部における金属パイプ(3)と電極(5)との隙間から充填ガスの封入を行う封入ガス充填工程と、
g) 前記放電電極先端(5a)と金属パイプ挿入部先端(3c)との間には、前記セラミックス片(6,16,36)が位置するように調整する工程と、
h) 前記仮封止部を溶接して完全封止を行う工程と、
を行うことを特徴とする小型放電ランプ(1,11,21,31)の製造方法、が提供される。
【0020】
上記した製造方法の発明によれば、小型放電ランプの内部空間の容積のバラツキおよび電極間距離のバラツキを低減した小型放電ランプを、比較的簡易な製造装置にて効率良く量産することが可能となり、総じてコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る小型高圧放電ランプの実施形態を示す側面図である。
【図2】同じく本発明に係る小型高圧放電ランプの断面拡大図である。
【図3】同じく本発明に係る小型高圧放電ランプの製造工程を示すもので、金属パイプ取り付け工程前の状態を示す側面図である。
【図4】同じく本発明に係る小型高圧放電ランプの製造工程を示すもので、金属パイプ取り付け工程後の状態を示す断面図である。
【図5】同じく本発明に係る小型高圧放電ランプの製造工程を示すもので、電極取り付け工程後の状態を説明する一部を切り欠いた側面図である。
【図6】第2の実施の形態の小型高圧放電ランプの要部を一部切り欠いた状態にて説明する側面拡大図である。
【図7】第3の実施の形態の小型高圧放電ランプの要部を一部切り欠いた状態にて説明する側面拡大図である。
【図8】第4の実施の形態の小型高圧放電ランプの要部を一部切り欠いた状態にて製造工程に沿って説明する側面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図8を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0023】
図1〜図5は第1の実施形態を説明する図面である。
図1に示すものは、本発明に係る小型高圧放電ランプ1の側面図である。図2は、本発明に係る小型高圧放電ランプの一方の端部を一部を切り欠いて断面にて示す拡大図である。図3は同じく本発明に係る小型高圧放電ランプの製造工程を示すもので、金属パイプ取り付け工程前の状態を示す側面図である。そして、本発明においても両端に一対の開口部を備えた透光性セラミックスにより、略パイプ状として発光管2が形成されている点は従来例のものと同様である。
【0024】
発光管2は、透光性のセラミックスにより形成された略パイプ形状とされ両端部には開口が形成されている。具体的には多結晶アルミナ(Al)を用い、内径を1〜4mm、肉厚が0.3〜1.0mmとしている。他の材料として、可視域の全光線透過率50%以上のAlN,YAG、Yなどを用いても良い。内径は発光管2の全長に渡りほぼ同一径として形成されている。金属パイプ3が挿入される電極取付部2cには段差部2dおよび拡径平坦部2eが形成されている。また、金属パイプ3が挿入される電極取付部2cには後述するセラミックス片6が配設される。
【0025】
金属パイプ3は、タンタル、タングステン、モリブテンなどの高融点金属により形成されたパイプを、その一端の径を機械加工などにより適宜絞って狭径部3aとし、他端は挿入部3bとしている(図3参照)。
なお、このときに形成される上記狭径部3aの内側には、図示しない突起などが形成され、前記狭径部3aに挿入した前記電極軸5bを突起にて仮封止するが、気体などが流通するだけの間隙を残して仮固定可能としている。突起による間隙を利用して、排気、ガスとの置換、或いは、ハロゲン化金属ガスの発光管2内へ封入が行えるようにされている。
【0026】
狭径部3aの形成には、電極軸5bと略同径とする絞り加工が望ましいが、プレスカシメ加工とすることもできる。金属パイプ材料として特にモリブデンなどの高融点金属を用いる場合には、狭径部3aを形成する際に金属パイプの再結晶が生じない温度以下の加熱条件で行うことが望ましい。また狭径部3aは発光管2の両端の何れか一方の側に形成して仮封止とし、他方の側においては仮封止を行うことなく完全封止を行っても良い。
【0027】
コンパウンド4は封着用接着剤であり、本実施形態ではフリットガラスを用いる。コンパウンド4としてはサーメット(cermet)や他のセラミックスを含有する接着剤を用いることもできる。金属の炭化物や窒化物など化合物の粉末を金属の結合材と混合して焼結した複合材料であるサーメットを用いる場合には、図3に示すように、予めドーナツ形状の焼結体としていることで、組立工程における作業性が向上し好適である。
【0028】
発光部2bの内部空間2aには、発光物質として所定のハロゲン化金属を封入する。発光物質としてはヨウ化金属、スカンジウムハロゲン化物、ナトリウムハロゲン化物、インジウムハロゲン化物の何れかもしくはこれらの混合物等が、適宜の組成比範囲にて用いられる。
また、始動ガスとしてアルゴン、キセノン等の不活性ガス、更に必要に応じて水銀若しくは亜鉛ハロゲン化物も封入する。
【0029】
電極5は、先端電極部5aと電極軸5bが接合されたものを用いる。狭径部3aの近傍に接合部が位置するようにして、電極軸5bが狭径部3aにて封止している。また、先端電極部5aは金属パイプ挿入部3bよりも内部空間2a側に突出する寸法とする。本実施形態では、電極軸5bを先端電極部5aよりも大きな径としている。
【0030】
第1の実施の形態においては、図2に示すように発光部2bの内径に対し拡開した拡径平坦部2eおよび段差部2dを設けている。拡径平坦部2eは、挿入した金属パイプ挿入部3bの内径と発光部2bの内径とが同一となるように、金属パイプ挿入部3bの厚み分を加えた量よりも僅かに大きな内径されている。具体的には、発光部内径Aを1〜4mmとし、段差を0.05〜0.3mmとする。ただし、金属パイプ挿入部3bの肉厚は段差以下の厚みとする。なお、ここで内径が同一とは、完全同一ではなく、発光部の容積が同一とみなせる程度の同一をいい、発光特性に影響を与えない程度の内径の僅かな相違も含む概念である。
【0031】
段差部2dは、金属パイプ3を挿入したときのストッパとしても機能する。段差部2dは金属パイプ挿入部3bの端面が当接したときに、隙間が生じないように全周方向において接触するように形成する。このようにすることで、金属パイプ3を挿入するときの挿入距離を制御することが可能になるとともに、コンパウンド4の発光部内への侵入を抑止することができる。また、段差を0.3mmよりも大きくすると金属パイプの肉厚も厚くしないと容積を同一に保つことが難しくなり、同時に発光管の肉厚も厚くしないと強度を保てなくなくなる。そのため、放電ランプ全体の大きさが大型化し、好ましくない。
【0032】
セラミックス片6は、中央部に孔6dが開いた環状形状をなしており、好ましくは発光管2と同一のセラミックス材料により形成される。セラミックス片6は、発光管2の各々の開口から内部に挿入され、金属パイプ3を覆う絶縁壁面を形成する。本実施形態では、発光管2に拡径平坦部2eおよび段差部2dを設け、且つ、金属パイプ挿入部3bの内径と発光部2bの内径とが同一となるべく拡径平坦部2eの内径を金属パイプの肉厚相当分だけ大きくしている。セラミックス片6の外部輪郭は断面直線状としている。また、好ましくはセラミックス片6の外径は発光部2bの内径と同一の外径としている。セラミックス片6の外径は発光部2bの内径と同一とすることで放電ランプの気密信頼性を向上することができるからである。
【0033】
また、図2に示したように、環状としたセラミックス片6を発光管2と同軸方向に取付けたときに、その発光管2の発光部2b側の端面を発光部側端面6a、開口端部2f側の端面を開口部側端面6bとすると、開口部側端面6bが開口端部2fと同一面となる位置にセラミックス片6を配設する。このとき、発光部側端面6aは電極取付部2cよりも発光部2b側で、電極5の先端まで届かない位置となるように幅Aが決定されている。発光部側端面6aと金属パイプの挿入部3b先端との距離Bは幅Aと同等以下で、0.3mmよりも大きくするのが好適である。距離Bが0.3mmよりも小さくなると、金属パイプ3を覆う絶縁壁面としての機能が弱まるからである。
【0034】
また、開口部側端面6bの中央孔6d側の内縁6cと電極5との最短距離をdとしたとき、最短距離dは前記幅Aに対して、次の関係を満たすようにすることが好適である。
d/A≦0.5 (ただしd>0、A>0である)
金属パイプを起点とする異常放電が生じた場合においても、異常放電が主たる放電空間たる内部空間(2a)につながりにくくすれば、異常放電が生じたとしてもその影響を小さくすることができる。そのたためには、最短距離dを小さくすること、セラミックス片(6)の幅を大きくすることが効果的であるからである。具体的にはd/Aが0.5よりも大きい場合には金属パイプ近傍を起点とする放電が生じる蓋然性が高いので、それよりも小さくすることが望ましい。
【0035】
図3〜図5を用いて、本実施形態の小型高圧放電ランプの製造方法について説明する。
図3は同じく本発明に係る小型高圧放電ランプの製造工程を示すもので、金属パイプ取り付け工程前の状態を示す側面図である。図4は金属パイプ取り付け工程後の状態を示す要部断面図である。また、図5は、電極取り付け工程および金属パイプ接着工程を終えた後の状態の要部を示す一部切り欠き側面図である。
【0036】
最初に透光性のパイプ状の発光管2、金属パイプ3およびコンパウンド4を用意する。金属パイプ3は一方の端部を絞り込んで狭径部3aとしたものである。ただし、狭径部3aはこの時点では電極5の外径よりも大きな内径としている。また、発光管2は拡径平坦部2eおよび段差部2dを予め設けておく。拡径平坦部2eおよび段差部2dは、筒状のセラミックスを切削することにより形成する。また、段差を設けた円柱棒と段差無しの円柱棒を突き合わせた状態にてセラミックスを塗布形成し、焼結した後に円柱棒を抜き取ることでパイプ状に成形する方法で形成することもできる。セラミックス片6は中央孔6dを有する環状のもので、発光管2と同じセラミックス材料からなる。同じ材料を用いることで熱膨張係数の相違による応力発生などの問題が生じず、また両者の一体化も容易になるからである。
【0037】
セラミックス片配設工程を実施する。
最初にセラミックス片6を発光管2内に挿入し、固定する。セラミックス片6を開口部側端面6bが開口端部2fと同一面となる位置とすることで、内部空間の容積を一定とすることができる。固定手段としては発光管2の製造段階において、発光管2およびセラミックス片6を別々に所定の形状に成形し、発光管2内にセラミックス片6を挿入した状態にて同時に焼成することで一体化する。なお、固定手段として、セラミックス片6に接着剤を付着させて発光管2内に挿入して仮固定し、後に行なう金属パイプ接着工程等における過熱工程にて加熱硬化させて本固定を行なうものでも良い。
【0038】
次に、金属パイプ挿入工程を実施する。
図4に示すように金属パイプ3と発光管2を同一軸上に並べた状態にて金属パイプ3を発光管2内に挿入する。発光管2の拡径平坦部2eは金属パイプ挿入部3bの外径と同一もしくは僅かに大きな内径とされており、発光部2bは金属パイプの挿入部3bの内径と同一とされている。よってセラミックス片6と拡径平坦部2eとの間には、金属パイプの挿入部3bの肉厚分の隙間が開いている。この隙間に、金属パイプ3を発光管2内に挿入すると、その先端が段差部2dに当接して停止する。
【0039】
続いて、金属パイプ接着工程を行なう。
最初にコンパウンド4を金属パイプ3と発光管2との嵌合位置に被せ、金属パイプ3を所定位置になるように挿入した状態を保ったまま加熱を行なう。加熱することでコンパウンド4が溶解して、金属パイプ3と発光管2との間の隙間にコンパウンド4が入り込む。隙間にコンパウンドが入り込んだ状態にて冷却することで、コンパウンド4が内部空間2a内に入り込む量を低減した状態にて接着される(図3、図5参照)。また、セラミックス片6が内部空間2a側に位置するのでコンパウンド4が蒸発して内部空間を汚染するおそれが著しく軽減される。
【0040】
セラミックス片配設工程、金属パイプ挿入工程および金属パイプ接着工程は、発光管2の両端に対して実施する。
【0041】
次に、一方の側の電極5の挿入・固定工程を実施する。
図5は電極5を挿入した後の状態を示す断面図である。電極5の先端電極部5a側から金属パイプの狭径部3aに電極を挿入する。電極間距離が所定の値となるように電極挿入量を調整する。
電極5を挿入した状態にて、狭径部3aに図示しないレーザ光線を照射してレーザ溶接にて金属パイプと電極を溶接する。全周にわたってレーザ光を照射することで気密的に溶接され、電極5を固定することができる。なお、気密的に溶接は狭径部3aと電極軸5bとの間にて実施する。電極軸5bとして先端電極部5aに比べて金属パイプ3との溶接性が優れた材料を用いることで、電極固定の信頼性が向上するからである。また、電極軸5bの外径を大きくすることで、金属パイプ5を絞り込みんで狭径部3aを製造する際に生じる薄肉化を低減することができ、電極固定の信頼性が向上する。
【0042】
続いて発光物質挿入工程を行なう。
一方の端部側の電極5の挿入・仮固定工程を実施し、反対側の端部の狭径部3aへの電極挿入・仮固定工程を行なう前に、開いているから側の狭径部3aから所定量の発光物質を挿入する。
【0043】
次に、一対の電極5のうち、反対側の電極5の挿入・仮固定工程を実施する。
反対側の端部の狭径部3aについても、電極5の先端電極部5a側から金属パイプの狭径部3aに電極を挿入する。電極間距離が所定の値となるように電極挿入量を調整する。電極5を挿入した状態にて、治具等を用いて、電極5を仮固定する。
【0044】
次に、始動ガスなどのガス封入工程を実施する。
仮固定した狭径部3aと電極5との間の隙間からアルゴンなどの始動ガスを封入し、狭径部3aと電極5とを気密固定する。仮固定の後の気密封止にレーザ光線を用いる。レーザ光線を狭径部3a外周の全周に渡り照射して溶接することで、始動ガスを封入することができる。なお、レーザ溶接法に代えて抵抗溶接法や他の周知の溶接方法を採用することもできる。
【0045】
本発明によれば、簡易な製造工程にて小型高圧放電ランプをバラツキを低減して製造することが可能となる。また、製造設備として高価な設備を用いなくても良い。
【0046】
図6は、第2の実施形態における小型高圧放電ランプ11を示す断面拡大図である。
第1の実施の形態では発光管2として、発光部2bの内径に対し拡開した拡径平坦部2eおよび段差部2dを設け、段差を有さないセラミックス片6を配設することで生じる隙間に金属パイプ3を挿入したものとしていたが、第2の実施の形態では、セラミックス片16および発光管12の双方に段差を設けたものとしている点が異なる。
【0047】
発光管12とセラミックス片16との間の隙間が、金属パイプ挿入部3bの肉厚と略同一となるように、セラミックス片16および発光管12の双方に設ける段差量を適宜調整して段差を設けている。また、発光管12には、セラミックス片16の発光部側端面16aが当接する位置にも段差部12dを設けることで、セラミックス片16が発光管段差部12dに当接して位置決め可能なものとしている。
【0048】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態による小型高圧放電ランプの製造方法に対してセラミックス片16の位置決めが容易になる。従って、製造上の歩留まりを高めた小型高圧放電ランプを得ることができる。
【0049】
また、発光管の内面に金属パイプ位置決め用の段差を設けないものとし、セラミックス片の外径側にのみ金属パイプ位置決め用の段差を設けるものとしても良い。
【0050】
図7は、第3の実施の形態における小型高圧放電ランプ21を示す断面拡大図である。第1の実施の形態では金属パイプの挿入部3bの先端を、発光管2の段差部2dに当接させて位置決めを図っていたが、この実施形態においては、金属パイプ3の挿入部3bの先端を発光管22の開口端部22fに当接させるものとしている。
【0051】
発光管22は、透光性のセラミックスにより形成された略パイプ形状とされ両端部には開口が形成されている。具体的には多結晶アルミナ(Al)を用い、内径を1〜4mm、肉厚が0.3〜1.0mmとしている。他の材料として、可視域の全光線透過率50%以上のAlN,YAG、Yなどを用いても良い。内径が発光管2の全長に渡りほぼ同一径として形成されている。また、開口部には発光管と同一材料からなるセラミックス片6が配設される。このとき、図7に示すようにセラミックス片6の開口部側端面6bが開口端部22fよりも外側に位置するように配設する。そして、セラミックス片6に被せるようにして金属パイプ3を取付け、コンパウンド4にて封止・固定するものとしている。
【0052】
小型高圧放電ランプ21の製造方法について説明する。
前述した小型高圧放電ランプ1の製造方法と重複する部分については、その説明を省略する。透光性のパイプ状の発光管2、金属パイプ3およびコンパウンド4を用意する工程、セラミックス片配設工程は前述した工程と同様である。
【0053】
金属パイプ挿入工程は前述した工程に代えて次の工程とする。
金属パイプ3と発光管22を同一軸上に並べた状態にて金属パイプ3を発光管22に嵌め込む。発光管22は均一の内径とされ、その内径は金属パイプ挿入部3bの内径と同一とされている。換言すれば、セラミックス片6の外径と金属パイプ挿入部3bの内径が略同一とされており、金属パイプ3がセラミックス片6に被せる。このとき、金属パイプ3の先端が開口端部22fに当接して停止して位置決めされる。
【0054】
続いて、金属パイプ接着工程、一方の側の電極5の挿入・固定工程、発光物質挿入工程、反対側の電極5の挿入・仮固定工程およびガス封入工程を実施する。これらの工程は前述した先の実施形態の工程と同様である。
なお、金属パイプ溶着工程においては、図6に示すようにコンパウンド4を先の実施形態に比べて大型化して、金属パイプ3と発光管2の開口端部22fとを接着するものとする。
【0055】
第3の実施の形態によれば、セラミックス片および発光管の双方に段差を設けることがないので、セラミックス片および発光管の製造工程が簡略化することができ、総じてコストを低減することができる。
【0056】
図8は、第4の実施の形態における小型高圧放電ランプ31の製造工程順に示す一部断面とした拡大図である。第1の実施の形態では金属パイプの挿入部3bの先端を、発光管2の段差部2dに当接させて位置決めを図っていたが、この実施形態においては、金属パイプ3の挿入部3bの先端3cをセラミックス片36の開口端部36bに当接させるものとしている。なお、第1の実施の形態と同一のものには同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0057】
以下、小型高圧放電ランプ31の製造方法に沿って説明する。
最初に、図8(A)に示すように発光管2およびセラミックス片36を用意する。発光管2は透光性のセラミックスにより形成された略パイプ形状とされ両端部には開口が形成されている。開口部より発光管と同一材料からなるセラミックス片36を内部に挿入して配設する。このとき、図8(A)に示すようにセラミックス片36の開口部側端面36bが発光管の開口端部2fよりも内側に位置するように配設する。そして、セラミックス片36が発光管2の内部に嵌合するようにして所定位置に固定する。なお、セラミックス片36と発光管2は中心軸xが一致する。また、セラミックス片36の開口部側端面36b側の内周は拡開部36dを形成している。拡開部36dを設けることで最短距離をdを大きくして放電電極5の取付性を容易にしている。
【0058】
次に図8(B)を参照して金属パイプ挿入工程をについて説明する。
金属パイプ3と発光管2を同一軸x上に並べた状態にて金属パイプ3を発光管2に嵌め込む。発光管2は均一の内径とされ、その内径は金属パイプ挿入部3bの外径と同一とされている。換言すれば、セラミックス片36の外径と金属パイプ挿入部3bの外径が略同一とされており、金属パイプ3が発光管2の内面に嵌合し、その先端3cがセラミックス片36に当接する。このとき、金属パイプ3の先端3cがセラミックス片の開口部側端面36bに当接して停止することで金属パイプの位置決めが行なわれる。
【0059】
続いて、金属パイプ接着工程、一方の側の電極5の挿入・固定工程、発光物質挿入工程、反対側の電極5の挿入・仮固定工程およびガス封入工程を実施する。これらの工程は前述した実施形態の工程と同様である。
【0060】
図8(C)は、完成した小型高圧放電ランプ31の要部を拡大して示すものである。金属パイプ3は、その先端3cがセラミックス片36に当節した状態にて接着・固定される。放電電極5の先端5aと金属パイプ3の最も内部空間2側となる挿入部先端3cとの間にはセラミックス片36が位置し、金属パイプ挿入部3bが内部空間2に露出しないようにされている。
【0061】
第4の実施の形態によれば、セラミックス片36および発光管2の双方に段差を設けることないので、セラミックス片および発光管の製造工程が簡略化することができ、総じてコストを低減することができる。また、セラミックスより熱膨張係数の大きな金属パイプが発光管2の内側に嵌合している。よって、発光に伴う温度上昇により膨張した場合においても金属パイプ3と発光管2との隙間がなくなる方向の応力が生じ。より一層リークが生じにくいものとして信頼性を高めることができる。
【0062】
本発明によれば、簡単な構成により信頼性を高めた小型放電ランプを得ることができる。なお、この発明は前述した実施形態に限られるものではない。例えば、発光部の外形を楕円球形等にしたものとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、自動車用ヘッドランプに適した高効率で長寿命の小型放電ランプを提供することができ。自動車用ヘッドランプに限らず、街路等の屋外照明や屋内での投影装置等の光源として適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1,11,21,31…小型高圧放電ランプ
2,12,22…発光管
2a…内部空間
2b…発光部
2c…電極取付部
2d,12d…段差部
2e…拡径平坦部
2f,22f…開口端部
3…金属パイプ
3a…狭径部
3b…挿入部
3c…挿入部先端
4…コンパウンド
5…電極
5a…先端電極部
5b…電極軸
A…発光部の内径
6,16,36…セラミック片
6a,16a…発光部側端面
6b,36b…開口部側端面
6c…内縁
6d…中央孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に一対の開口部を備えた透光性セラミックスからなる発光管と、発光管両端に設けた放電電極と、放電電極を固定する金属パイプとを有し、発光管両端部には前記金属パイプを介して放電電極を固定する電極取付け部が設けられ、発光管内部に封入された発光物質を有する小型放電ランプであって、
前記発光管は、内径が1〜4mmとした発光部を有する筒状形状とされ、両端の開口内部には環状のセラミックス片が配設されており、
前記金属パイプは、一方の端部が前記セラミックス片の外径と略一致する内径若しくは外径とした挿入部と、他方の端部が前記電極を固定する狭径部とを備え、
前記放電電極先端と金属パイプ挿入部先端との間には、前記セラミックス片が設けられ、金属パイプ挿入部の内面若しくは金属パイプ挿入部先端が前記セラミックス片に当接している、ことを特徴とする小型放電ランプ。
【請求項2】
前記発光管は、発光部よりも内径を大きくした拡径平坦部と段差部が形成されており、
前記金属パイプ挿入部は、前記拡径平坦部とセラミックス片の隙間に配設されている、ことを特徴とする請求項1に記載の小型放電ランプ。
【請求項3】
前記セラミックス片の開口部側端面が、前記発光管の開口端部よりも外側に突出しており、
前記金属パイプ挿入部の先端が前記発光管の開口端部に当接している、ことを特徴とする請求項1に記載の小型放電ランプ。
【請求項4】
前記セラミックス片の開口部側端面が、前記発光管の開口端部よりも内側に位置しており、
前記金属パイプ挿入部の先端が前記セラミックス片の開口端部に当接している、ことを特徴とする請求項1に記載の小型放電ランプ。
【請求項5】
前記セラミックス片の発光部側端面と金属パイプの挿入部先端との距離をBとし、前記セラミックス片の幅Aとしたとき、距離Bは、幅Aと同等以下で0.3mmよりも大きくすると共に、開口部側端面の中央孔側の内縁と電極との最短距離をdとしたとき、最短距離dが前記幅Aに対して、d/A≦0.5(ただしd>0、A>0である)の関係を満たす、ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の小型放電ランプ。
【請求項6】
両端に一対の開口部を備えた透光性セラミックスからなる発光管と、発光管両端に設けた放電電極と、放電電極を固定する金属パイプとを有し、発光管両端部には前記金属パイプを介して放電電極を固定する電極取付け部が設けられ、発光管内部に封入された発光物質を有する小型放電ランプの製造方法であって、
a) 両端に開口部を有し、発光部の内径が1〜4mmとした透光性セラミックスからなる発光管と、環状のセラミックス片を準備する工程と、
b) 前記発光管の開口部内に、セラミックス片を配設する工程と、
c) 一方の端部の内径若しくは外径が前記セラミックス片の外径と略一致し、他方の端部が前記電極を固定する狭径部とされた金属パイプを準備する工程と、
d) 前記金属パイプの金属パイプ挿入部をセラミックス片の外径部と当接して、または金属パイプ挿入部先端を前記セラミックス片に当接した状態にて発光管に固定するパイプ固定工程と、
e) 工程d)の後に、前記発光管内に発光物質を充填する工程と、金属パイプの狭径部に前記電極を挿入した後に金属パイプの一方の端部側にて仮固定する工程と、
f) 工程e)の後に、狭径部における金属パイプと電極との隙間から充填ガスの封入を行う封入ガス充填工程と、
g) 前記放電電極先端と金属パイプ挿入部先端との間には、前記セラミックス片が位置するように調整する工程と、
h) 前記仮封止部を溶接して完全封止を行う工程と、
を行うことを特徴とする小型放電ランプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−192389(P2011−192389A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54820(P2010−54820)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】