説明

セラミックス粒子の製造方法

【課題】取り扱い性のよい粒径を有するセラミックス粒子を製造する。
【解決手段】
セラミックス形成金属化合物を溶解したセラミックス形成金属化合物溶液を加熱してセラミックス粒子を製造する方法において、シランカップリング剤を含有するセラミックス形成金属化合物溶液をセラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度以上の温度に加熱してセラミックス粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池、太陽電池及び燃料電池等は、高エネルギー密度、高電圧を有し、繰り返しの充放電によるメモリー効果がないことから、携帯電話や、ノート型パソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の電子機器類の電源として従来から広く利用されている。これら二次電池等には、電極材料として金属酸化物や複合金属酸化物等のセラミックス粒子が用いられる。
【0003】
従来、一般に、セラミックス粒子は、セラミックス形成金属化合物を熱分解することにより製造される。例えば、セラミックス粒子を製造する方法として、塩、酸化物、水酸化物、有機金属化合物の出発材料の溶液または懸濁液を空気若しくは天然ガス混合物、又は水素若しくは空気混合物の雰囲気下で、例えば600℃〜1000℃の高温に噴霧、加熱して熱分解することにより、平均粒径が10μm未満の均一な微細粒子からなる粉体を製造する方法等が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−529758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1に記載されている方法で得られたセラミックス粒子は、平均粒径が小さな微粒子の粉体であるため、取り扱い性が悪いという難点があった。例えば、このセラミックス粒子が微粒子のときは、塗料を調製した場合に粘稠で流動性がないので、塗膜することが難しかった。このような取り扱い性に関する難点は、セラミックス粒子の粒径を調整することで、ある程度は解決することができる。しかし、上記した特許文献1に記載されている方法のように、セラミックス形成金属化合物が該セラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度以上の高温で加熱された場合には、生成されるセラミックス粒子が微細化しやすく、取り扱い性のよい粒径を有するセラミックス粒子を得ることが困難であった。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、取り扱い性のよいセラミックス粒子を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究した結果、セラミックス形成金属化合物を溶解したセラミックス形成金属化合物溶液にシランカップリング剤を添加して、セラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度以上の温度に加熱することにより、取り扱い性のよい適度な大きさの粒径を有するセラミックス粒子が得られることを見出し、本発明を為すに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)セラミックス形成金属化合物を溶解したセラミックス形成金属化合物溶液を加熱してセラミックス粒子を製造する方法において、シランカップリング剤を含有するセラミックス形成金属化合物溶液をセラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度以上の温度に加熱することを特徴とするセラミックス粒子の製造方法、
(2)セラミックス形成金属化合物が、金属塩、金属錯体化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である上記(1)記載のセラミックス粒子の製造方法、
(3)シランカップリング剤は、分子構造の一端側に加水分解性基を有し、他端側に反応性官能基を有する有機ケイ素化合物である上記(1)記載のセラミックス粒子の製造方法、
(4)シランカップリング剤は、官能基がビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、ポリスルフィド基及びイソシアネート基のものから選ばれる少なくとも1種である上記(3)記載のセラミックス粒子の製造方法、
(5)前記セラミックス形成金属化合物溶液がシランカップリング剤及び高分子物質を含有する上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載のセラミックス粒子の製造方法、
(6)前記高分子物質は、セラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満である上記(5)記載のセラミックス粒子の製造方法、
(7)前記高分子物質が、セルロース系高分子、ポリアルキレングリコール、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルから選ばれる少なくとも1種である上記(5)又は(6)記載のセラミックス粒子の製造方法、
(8)前記金属塩が、ニッケル、コバルト、マンガン、イットリウム、チタン、鉄、セリウムから選ばれる遷移金属化合物の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、臭素酸塩である上記(2)記載のセラミックス粒子の製造方法、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法は、シランカップリング剤を含有するセラミックス形成金属化合物溶液をセラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度以上の温度に加熱することにより、形成された微細な粒子同士がシランカップリング剤によって結合しやすくなり、取り扱い性の優れた大きさの粒径を有するセラミックス粒子を容易に得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、セラミックス形成金属化合物を溶解したセラミックス形成金属化合物溶液にシランカップリング剤を含有させたセラミックス形成金属化合物溶液をセラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度以上の温度に加熱してセラミックス粒子を得る方法である。
【0011】
本発明に用いられるシランカップリング剤は、分子構造の一端側に加水分解でシラノール基(Si−OH)とアルコールを生じることの可能な加水分解性基(例えばエトキシ基やメトキシ基など)を有し、他端側にアミノ基やエポキシ基、ビニル基などの反応性官能基を有する有機ケイ素化合物である。
【0012】
前記シランカップリング剤の具体的なものとしては、例えば、反応性官能基がビニル基(ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン)、エポキシ基(2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)、スチリル基(p-スチリルトリメトキシシラン)、メタクリロキシ基(3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン)、アクリロキシ基(3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)、アミノ基(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、ウレイド基(3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン)、クロロプロピル基(3-クロロプロピルトリメトキシシラン)、メルカプト基(3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン)、ポリスルフィド基(ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)、イソシアネート基(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)等が挙げられる。中でも、反応性官能基としてビニル基、メタクリロキシ基、アミノ基を有する有機ケイ素化合物が好ましい。
【0013】
本発明において、前記シランカップリング剤は、セラミックス形成金属化合物に対して、通常1〜60重量%の範囲で用いられ、好ましくは5〜50重量%の範囲で用いられることが好ましい。また、シランカップリング剤は、1種又は2種以上を併用することができる。
【0014】
このようなセラミックス形成金属化合物を構成する金属元素としては、所望の第一金属酸化物膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、およびTaからなる群から選択されることが好ましく、その中でもTi、Mn、Fe、Co、Ni、Y、Ceから選択されるものであることがより好ましい。
【0015】
上記金属元素を与える金属塩としては、具体的には、上記金属元素を含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。なかでも、汎用品として入手が容易な塩化物、硝酸塩、酢酸塩が好ましい。また遷移金属化合物のなかでも、安価なコバルト化合物、ニッケル化合物、マンガン化合物、鉄化合物、チタンの化合物が好ましい。遷移金属化合物は1種又は2種以上を併用することができる。
【0016】
また、上記金属錯体としては、具体的には、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、カルシウムジ(メトキシエトキシド)、グルコン酸カルシウム一水和物、クエン酸カルシウム四水和物、サリチル酸カルシウム二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物、ジシクロペンタジエニル鉄(II)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛、ストロンチウムジピバロイルメタナート、イットリウムジピバロイルメタナート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタイソプロポキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、トリシクロヘキシルすず(IV)ヒドロキシド、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、タンタル(V)エトキシド、セリウム(III)アセチルアセトナートn水和物、クエン酸鉛(II)三水和物、シクロヘキサン酪酸鉛等を挙げることができる。中でも、本発明においては、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、ストロンチウムジピバロイルメタナート、ペンタエトキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、セリウム(III)アセチルアセトナートn水和物を使用することが好ましい。
【0017】
本発明方法により得られたセラミックス粒子を二次電池の電極材料として使用する場合には、アルカリ金属と遷移金属との複合化合物が用いられる。この場合、セラミックス形成金属化合物としては、アルカリ金属化合物及び遷移金属化合物が用いられる。アルカリ金属化合物としては、具体的には、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等が用いられる。なかでも入手が容易な塩化物、硝酸塩、酢酸塩が好ましい。これらアルカリ金属化合物のうちリチウム化合物が好適であり、具体的なリチウム化合物としては、例えばクエン酸リチウム四水和物、過塩素酸リチウム三水和物、酢酸リチウム二水和物、硝酸リチウム、リン酸リチウム等が挙げられ、ナトリウム化合物としては、例えば硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。アルカリ金属化合物は、1種又は2種以上を併用することができる。なお、遷移金属化合物としては、前記記載のものが用いられる。上記したアルカリ金属化合物を併用した場合に得られるセラミックス粒子は、例えば、LiMnO、LiMn、LiNiO、LiTi12、LiFeO、LiFePO、LiCoO、LiNiO・33CoO・33MnO・33O等が挙げられる。また、固体酸化物型燃料電池として使用する場合には、LaGaO、NiO−YSZ、ランタンストロンチウムマンガナイト、サマリウムストロンチウムコバルタイト、等が挙げられる。太陽電池として使用する場合には、TiOなどが挙げられる。
【0018】
なお、本発明方法によりセラミックス粒子を形成する場合には、高分子物質をセラミックス形成金属化合物溶液に添加してもよい。この場合の高分子物質としては、セラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満の高分子物質が用いられる。ここで、セラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度における高分子物質の加熱重量減少率が100重量%未満であるとは、セラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度において高分子物質に由来する炭素成分が残存していることをいう。高分子物質に由来する炭素成分とは、高分子物質又はその分解物である。
【0019】
本発明において用いられる高分子物質としては、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース系高分子、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン−プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテル等のうち、使用するセラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満のものを選択して用いることが好ましく、これらのなかでも特にセルロース系高分子、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂が好ましい。
【0020】
本発明において、セラミックス形成金属化合物及びシランカップリング剤、又は、前記セラミックス形成金属化合物、アルカリ金属化合物及びシランカップリング剤、並びに高分子物質を含有するセラミックス形成金属化合物溶液に用いられる溶媒としては、水や、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等の総炭素数5以下の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、トルエン等が挙げられ、これらの中からアルカリ金属化合物、遷移金属化合物、高分子物質を溶解させるに適した溶媒を選択して用いる。また、アルカリ金属化合物、遷移金属化合物、高分子物質の溶解性を高める等の目的で、2種以上の溶媒を組みあわせた混合溶媒を用いることもできる。混合溶媒としては、例えば水−メチルアルコール混合溶媒、水−エチルアルコール混合溶媒、水−イソプロピルアルコール混合溶媒、等の水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0021】
本発明の方法により生成されるセラミックス粒子は、セラミックス形成金属化合物を加熱分解する環境雰囲気によりその形態が異なり、酸化物、窒化物、硫化物あるいは遷移金属複合リン酸化合物等を得ることができる。例えば、セラミックス形成金属化合物を大気中又は酸素雰囲気下で加熱分解を行った場合には酸化物が生成され、窒素ガス及び/又はアンモニアガス雰囲気下で加熱分解を行った場合には窒化物が生成される。また、セラミックス形成金属化合物中にリン酸化合物を共存させて還元性ガスあるいは不活性ガスの存在下で熱分解した場合に金属リン酸化合物(遷移金属複合リン酸化合物)を得ることができる。
【0022】
なお、遷移金属複合リン酸化合物を得る場合には、セラミックス形成金属化合物として遷移金属を選択すると共に、リン酸化合物を加えることにより得ることができる。リン酸化合物としては、例えば、メタリン酸、ピロリン酸、オルトリン酸、三リン酸、四リン酸や、これらの塩等のリン酸類、亜リン酸や亜リン酸塩等、次亜リン酸や次亜リン酸塩等が挙げられる。
【0023】
セラミックス形成金属化合物溶液を金属化合物の熱分解温度以上に加熱する方法としては、セラミックス形成金属化合物溶液を、るつぼ等の容器に入れて、セラミックス形成金属化合物の熱分解温度以上の温度に調整された加熱炉内で加熱する方法、加熱炉内にセラミックス形成金属化合物溶液を噴霧して加熱する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、セラミックス形成金属化合物溶液を噴霧して加熱する方法では、るつぼ等の容器内でセラミックス形成金属化合物溶液を加熱する方法に比べ、粒径が制御された小さな一次粒子及び二次粒子が得られる。
【0024】
本発明における加熱温度は、セラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度以上の温度であれば良いが、より効率的に熱分解を行わせる観点では、200〜600℃の範囲内の温度であることが好ましい。
【0025】
本発明方法によれば、セラミックス形成金属化合物の熱分解温度以上の所定温度で加熱することによって、セラミックス形成金属化合物が熱分解されて、微細な一次粒子が形成され、その加熱温度においてシランカップリング剤により一次粒子同士が凝集した二次粒子が形成される。上記により得られた一次粒子は、使用される金属化合物の種類や加熱条件によって異なるが、粒径が1〜300nmの微細な粒子として得られ、二次粒子は、前記個々の微細な一次粒子が凝集した粒径が100〜1000nmの粒子として得られる。
上記二次粒子は、単に一次粒子同士が凝集して粒径が大きくなったものとは相違し、シランカップリング剤の作用により、個々の微細な一次粒子が凝集して形成されたものである。
【0026】
本発明によって生成された粒子は、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 MAC VIEW)により粒径を測定し、平均粒径を求めることができる。
【0027】
(実施例1)
セラミックス粒子を生成する原料として、硝酸コバルト(II)六水和物(Co(NO3)2・6H2O:分子量291.03)を29g用い、これを、水50g、メタノール50gの混合溶液に溶解した溶液を調製した。この溶液に、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 商品名:KBM503)5gを添加し、バイオシェーカー(タイテック社製 商品名:BR−12FH)を用いて200rpmで2時間混練し、セラミックス形成金属化合物溶液を調製した。
【0028】
次に、スプレー装置(ノードソン株式会社製)を用いて、上記したセラミックス形成金属化合物溶液を、大気雰囲気下において550℃に加熱した炉の中に噴霧し、その後、炉の内部を60℃になるまで冷却して、セラミックス粒子を得た。このようにして得られたセラミックス粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 商品名:MAC VIEW)により粒子5点の粒径を測定し、平均粒径を求めた。その結果、43nmの平均粒径を有する一次粒子が凝集して、311nmの平均粒径を有する二次粒子のセラミックス粒子を得た。
【0029】
(比較例1)
セラミックス形成金属化合物溶液にシランカップリング剤を用いたこと以外は、実施例1と同様に実施してセラミックス粒子を得た。そして、この得られたセラミックス粒子をSEMで観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェアにより粒子5点の粒径を測定し、平均粒径を求めた。その結果、40nmの平均粒径を有する一次粒子は形成されたが、一次粒子が凝集した二次粒子は確認できなかった。
【0030】
(実施例2)
セラミックス粒子を生成する原料として、硝酸イットリウム六水和物(Y(NO3)3・6H2O:分子量383.01)を30g用い、これを、水30g、エタノール60gの混合溶液に溶解した溶液を調製した。この溶液に、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 商品名:KBM503)10gを添加し、バイオシェーカー(タイテック社製 商品名:BR−12FH)を用いて200rpmで2時間混練し、セラミックス形成金属化合物溶液を調製した。
【0031】
次に、スプレー装置(ノードソン株式会社製)を用いて、上記したセラミックス形成金属化合物溶液を、大気雰囲気下において700℃に加熱した炉の中に噴霧し、その後、炉の内部を60℃になるまで冷却して、セラミックス粒子を得た。このようにして得られたセラミックス粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 商品名:MAC VIEW)により粒子5点の粒径を測定し、平均粒径を求めた。その結果、27nmの平均粒径を有する一次粒子が凝集して、210nmの平均粒径を有する二次粒子のセラミックス粒子を得た。
【0032】
(実施例3)
セラミックス粒子を生成する原料として、塩化ニッケル(II)六水和物(NiCl2・6H2O:分子量237.69)を20g用い、これを、エタノール60gの混合溶液に溶解した溶液を調製した。この溶液に、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 商品名:KBM503)2gを添加し、バイオシェーカー(タイテック社製 商品名:BR−12FH)を用いて200rpmで2時間混練し、セラミックス形成金属化合物溶液を調製した。
【0033】
次に、スプレー装置(ノードソン株式会社製)を用いて、上記したセラミックス形成金属化合物溶液を、大気雰囲気下において400℃に加熱した炉の中に噴霧し、その後、炉の内部を60℃になるまで冷却して、セラミックス粒子を得た。このようにして得られたセラミックス粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 商品名:MAC VIEW)により粒子5点の粒径を測定し、平均粒径を求めた。その結果、56nmの平均粒径を有する一次粒子が凝集して、602nmの平均粒径を有する二次粒子のセラミックス粒子を得た。
【0034】
(実施例4)
セラミックス粒子を生成する原料として、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)(マツモト交商社製、TC200)を5g用い、これを、エタノール20gに溶解した溶液を調製した。この溶液に、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 商品名:KBE903)3gを添加し、バイオシェーカー(タイテック社製 商品名:BR−12FH)を用いて200rpmで2時間混練し、セラミックス形成金属化合物溶液を調製した。
【0035】
次に、スプレー装置(ノードソン株式会社製)を用いて、上記したセラミックス形成金属化合物溶液を、大気雰囲気下において500℃に加熱した炉の中に噴霧し、その後、炉の内部を60℃になるまで冷却して、セラミックス粒子を得た。このようにして得られたセラミックス粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 商品名:MAC VIEW)により粒子5点の粒径を測定し、平均粒径を求めた。その結果、32nmの平均粒径を有する一次粒子が凝集して186nmの平均粒径を有する二次粒子のセラミックス粒子を得た。
【0036】
(実施例5)
セラミックス粒子を生成する原料として、硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO3)3・9H2O:分子量404)を20g用い、これを、水20g、イソプロピルアルコール30gの混合溶液に溶解した溶液を調製した。この溶液に、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 商品名:KBM503)5gを添加し、バイオシェーカー(タイテック社製 商品名:BR−12FH)を用いて200rpmで2時間混練し、セラミックス形成金属化合物溶液を調製した。
【0037】
次に、スプレー装置(ノードソン株式会社製)を用いて、上記したセラミックス形成金属化合物溶液を、大気雰囲気下において300℃に加熱した炉の中に噴霧し、その後、炉の内部を60℃になるまで冷却して、セラミックス粒子を得た。このようにして得られたセラミックス粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 商品名:MAC VIEW)により粒子5点の粒径を測定し、平均粒径を求めた。その結果、15nmの平均粒径を有する一次粒子が凝集して、134nmの平均粒径を有する二次粒子のセラミックス粒子を得た。
【0038】
(実施例6)
セラミックス粒子を生成する原料として、硝酸セリウム(III)六水和物(Ce(NO3)3・6H2O:分子量434.22)を40g用い、これを、水40gとエタノール20gの混合溶液に溶解した溶液を調製した。この溶液に、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 商品名:KBM603)1gと、高分子物質としてポリエチレンオキサイド(住友精化株式会社製 商品名:PEO1)を1g添加し、バイオシェーカー(タイテック社製 商品名:BR−12FH)を用いて200rpmで2時間混練し、セラミックス形成金属化合物溶液を調製した。
【0039】
次に、スプレー装置(ノードソン株式会社製)を用いて、上記したセラミックス形成金属化合物溶液を、大気雰囲気下において500℃に加熱した炉の中に噴霧し、その後、炉の内部を60℃になるまで冷却して、セラミックス粒子を得た。このようにして得られたセラミックス粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 商品名:MAC VIEW)により粒子5点の粒径を測定し、平均粒径を求めた。その結果、35nmの平均粒径を有する一次粒子が凝集して、182nmの平均粒径を有する二次粒子のセラミックス粒子を得た。
【0040】
(実施例7)
セラミックス粒子を生成する原料として、酢酸リチウム二水和物(Li(CH3COO)・2H2O:分子量102.02)を10gと、酢酸コバルト(II)四水和物(Co(CH3COO)2・4H2O:分子量249.08)を24g用い、これを、水40gとエタノール60gの混合溶液に溶解した溶液を調製した。この溶液に、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 商品名:KBM503)5gを添加し、バイオシェーカー(タイテック社製 商品名:BR−12FH)を用いて200rpmで2時間混練し、セラミックス形成金属化合物溶液を調製した。
【0041】
次に、スプレー装置(ノードソン株式会社製)を用いて、上記したセラミックス形成金属化合物溶液を、大気雰囲気下において550℃に加熱した炉の中に噴霧し、その後、炉の内部を60℃になるまで冷却して、セラミックス粒子を得た。このようにして得られたセラミックス粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 商品名:MAC VIEW)により粒子5点の粒径を測定し、平均粒径を求めた。その結果、102nmの平均粒径を有する一次粒子が凝集して、865nmの平均粒径を有する二次粒子のセラミックス粒子を得た。
【0042】
(実施例8)
セラミックス粒子を生成する原料として、酢酸リチウム二水和物(Li(CH3COO)・2H2O:分子量102.02)を10gと、硝酸マンガン(II)六水和物(Mn(NO3)2・6H2O:分子量287.04)を28g用い、これを、水10gとエタノール60gの混合溶液に溶解した溶液を調製した。この溶液に、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 商品名:KBM503)10gと、高分子物質としてポリエチレンオキサイド(住友精化株式会社製 商品名:PEO1)を1g添加し、バイオシェーカー(タイテック社製 商品名:BR−12FH)を用いて200rpmで2時間混練し、セラミックス形成金属化合物溶液を調製した。
【0043】
次に、スプレー装置(ノードソン株式会社製)を用いて、上記したセラミックス形成金属化合物溶液を、大気雰囲気下において600℃に加熱した炉の中に噴霧し、その後、炉の内部を60℃になるまで冷却して、セラミックス粒子を得た。このようにして得られたセラミックス粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 商品名:MAC VIEW)により粒子5点の粒径を測定し、平均粒径を求めた。その結果、68nmの平均粒径を有する一次粒子が凝集して、241nmの平均粒径を有する二次粒子のセラミックス粒子を得た。
【0044】
(実施例9)
シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 商品名:KBM503)に代えて、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 商品名:KBE903)を溶液に添加した以外は、実施例1と同様に実施してセラミックス粒子を得た。そして、この得られたセラミックス粒子をSEMで観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェアにより粒子5点の粒径を測定し、平均粒径を求めた。その結果、48nmの平均粒径を有する一次粒子が凝集して、258nmの平均粒径を有する二次粒子のセラミックス粒子を得た。
【0045】
(実施例10)
シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 商品名:KBM503)に代えて、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 商品名:KBM1003)を溶液に添加した以外は、実施例1と同様に実施してセラミックス粒子を得た。そして、この得られたセラミックス粒子をSEMで観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェアにより粒子5点の粒径を測定し、平均粒径を求めた。その結果、37nmの平均粒径を有する一次粒子が凝集して、280nmの平均粒径を有する二次粒子のセラミックス粒子を得た。
【0046】
(実施例11)
実施例1で使用したものと同様のセラミックス形成金属化合物溶液を使用し、該溶液を所要量るつぼに採り、大気雰囲気下において加熱炉に入れ、室温から600℃まで2時間かけて昇温し、その後、炉の内部を60℃になるまで冷却してセラミックス粒子を得た。このようにして得られたセラミックス粒子をSEMで観察して、画像解析式粒度分布測定ソフトウェアにより粒子5点の粒径を測定し、平均粒径を求めた。その結果、125nmの平均粒径を有する一次粒系が凝集して、886nmの平均粒径を有する二次粒子のセラミックス粒子を得た。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の方法によれば、例えばリチウムイオン二次電池の電極材料、光学レンズ等をはじめとする各種光学材料、センサー等の電子部品材料等に利用することができ、特にリチウムイオン二次電池の電極材料に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス形成金属化合物を溶解したセラミックス形成金属化合物溶液を加熱してセラミックス粒子を製造する方法において、シランカップリング剤を含有するセラミックス形成金属化合物溶液をセラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度以上の温度に加熱することを特徴とするセラミックス粒子の製造方法。
【請求項2】
セラミックス形成金属化合物が、金属塩、金属錯体化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1記載のセラミックス粒子の製造方法。
【請求項3】
シランカップリング剤は、分子構造の一端側に加水分解性基を有し、他端側に反応性官能基を有する有機ケイ素化合物である請求項1記載のセラミックス粒子の製造方法。
【請求項4】
シランカップリング剤は、官能基がビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、ポリスルフィド基及びイソシアネート基のものから選ばれる少なくとも1種である請求項3記載のセラミックス粒子の製造方法。
【請求項5】
前記セラミックス形成金属化合物溶液がシランカップリング剤及び高分子物質を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のセラミックス粒子の製造方法。
【請求項6】
前記高分子物質は、セラミックス形成金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満である請求項5記載のセラミックス粒子の製造方法。
【請求項7】
前記高分子物質が、セルロース系高分子、ポリアルキレングリコール、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルから選ばれる少なくとも1種である請求項5又は6記載のセラミックス粒子の製造方法。
【請求項8】
前記金属塩が、ニッケル、コバルト、マンガン、イットリウム、チタン、鉄、セリウムから選ばれる遷移金属化合物の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、臭素酸塩である請求項2記載のセラミックス粒子の製造方法。

【公開番号】特開2011−213496(P2011−213496A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80311(P2010−80311)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】