説明

セラミックス部材

【課題】低熱膨張性及び高熱伝導性に優れた光学装置の部品に好適なセラミックス部材を提供する。
【解決手段】窒化珪素焼結体からなり、室温の熱伝導率が60W/(m・K)以上、室温から1000℃までの熱膨張係数が3.4×10−6/K以下、L*a*b*表色系における明度L*が0〜80の範囲であることを特徴とするセラミックス部材。L*a*b*表色系における色度a*が−3〜3、色度bが−3〜3である。露光装置用ステージ機構において、例えば、ステージ部品1や、位置測定用のミラー部品4、5等に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や液晶の露光装置をはじめとする光学装置に使用されるセラミックス部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶露光装置をはじめとする光学装置には、近年、半導体回路の精細化傾向に伴い、極めて高精度な位置決めが要求される。そのため、例えば、高速動作するステージ部品には軽量かつ高剛性であるものが求められる。また、露光装置用の部材は、わずかな温度変化による形状変化は露光精度の低下を引き起こす恐れがあるため、熱膨張が小さく、熱伝導が大きいものが求められる。さらに、光源から漏れた光や装置外から侵入する光が反射することで、露光精度を悪化させることがあることから、低反射のものが求められる。
【0003】
このような、軽量性、高剛性、低熱膨張性、熱伝導性および低反射の問題に対して、窒化珪素セラミックスが注目されている。上記の問題のうち、低反射の問題に関しては窒化珪素セラミックスを黒色化することが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、窒化珪素系セラミックス焼結体の出発原料に、Co、Fe及びNiのうち1種または2種以上の炭酸化合物を添加し焼結することにより黒色化した窒化珪素系セラミックス焼結体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−267786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、黒色化は達成されているものの、低熱膨張性及び熱伝導性については、検討されていない。
【0007】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、低熱膨張性及び高熱伝導性に優れた光学装置の部品に好適なセラミックス部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、これらの問題を解決するため、窒化珪素焼結体からなり、室温の熱伝導率が60W/(m・K)以上、室温から1000℃までの熱膨張係数が3.4×10−6/K以下、L*a*b*表色系における明度L*が0〜80の範囲であることを特徴とするセラミックス部材を提供する。
【0009】
本発明のセラミックス部材は、L*a*b*表色系における色度a*が−3〜3、色度bが−3〜3である。また、L*a*b*表色系における色差ΔEが10以下である。
【0010】
また、本発明のセラミックス部材は、光学装置用部品、なかでも、露光装置用のステージ部品、位置測定用のミラー部品等に用いることができる。
【0011】
さらに、本発明のセラミックス部材は、窒化珪素を主成分とし、マグネシウム及びイットリウムを酸化物換算で合計0.1〜10質量%、鉄を酸化第二鉄換算で0.1〜0.5質量%含み、Y/MgOで表されるモル比が0.01〜0.10とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
低熱膨張性及び高熱伝導性に優れた光学装置の部品に好適なセラミックス部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】露光装置用ステージ機構を示した平面図である。
【図2】ステージ部品の概略断面図である。
【図3】ミラー部品の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。図1は、本発明のセラミックス部材が搭載された光学装置の一例として露光装置用ステージ機構を示した平面図である。この露光装置用ステージ機構は半導体ウエハ10を載置するステージ部品1と、ステージ部品1をX方向に移動させるX方向モータ2と、ステージ部品1をY方向に移動させるY方向モータ3と、ステージ部品1の端部に固定されY方向に延材する角柱状をなすX方向位置測定用のミラー部品4と、このX方向位置測定用のミラー部品4と直交するようにステージ部品1の端部に設けられた角柱状をなすY方向位置測定用のミラー部品5と、X方向位置測定用のミラー部品4にレーザー光を照射するX方向位置測定用レーザー干渉計6と、Y方向位置測定用のミラー部品5にレーザー光を照射するY方向位置測定用レーザー干渉計7とを有している。
【0015】
本発明のセラミックス部材は、このような露光装置用ステージ機構において、例えば、ステージ部品1や、位置測定用のミラー部品4、5等に用いることができる。これらを構成する部品について、低熱膨張性及び高熱伝導性に優れた材料を用いることは、露光精度を高めるうえで好ましい。
【0016】
本発明のセラミックス部材は、窒化珪素焼結体からなる。従来多く用いられているアルミナの熱伝導率は20〜30W/m・Kである。このため、部材からの放熱特性が低く、寸法変化を生じやすい。これに対し、本発明では、高熱伝導化した窒化珪素焼結体を用いているので、寸法変化が生じ難く露光精度を高められる。また、窒化珪素焼結体は、アルミナと比較し、密度が軽く、その剛性も高い。そのため、高速動作するステージ部品においては、動作に必要なエネルギーが少なくなるだけでなく、剛性が高いことによってたわみが少なくなることで、結果的に制振性に優れることからスループットの向上が実現できる。
【0017】
本発明のセラミックス部材の室温の熱伝導率は60W/(m・K)以上、より好ましくは70W/(m・K)である。光学装置の可動するステージ部品に適用すると、移動と静止の繰り返しにより摩擦熱が発生する。さらに光の照射エネルギーにより部材が加温される。このような発熱に際し、本発明のセラミックス部材は、熱伝導率が高いので、熱を逃がすことができ部品の寸法変化を抑え、露光精度の低下を免れることができる。
【0018】
さらに、本発明のセラミックス部材は、1000℃までの熱膨張係数が3.4×10−6/K以下である。上記のように、本発明のセラミックス部材は、熱伝導率が高いことから熱を逃がすことに優れているため、発熱を抑えることができる。しかしながら、発熱を完全に無くすことは困難である。したがって、わずかでも発熱したときの寸法変化を抑えるには、熱膨張係数が小さいことが好ましい。本発明のセラミックス部材は熱膨張係数が3.4×10−6/K以下なので、寸法変化を小さくすることができる。
【0019】
本発明のセラミックス部材は、L*a*b*表色系(JISZ8729)における明度L*が0〜80の範囲とすることができる。ここで、明度L*は0に近いほど黒色を呈しており、低反射性であることを示している。明度L*のより好ましい範囲は0〜50、さらに好ましくは、30〜50である。
【0020】
上記のように黒色を呈しているので、熱放射性に優れている。したがって、高熱伝導性に加えて、熱放射によっても熱を逃がすことができるので、部材の発熱をより抑えることができる。
【0021】
L*a*b*表色系における色度a*が−3〜3、より好ましくは−1〜1であり、色度bが−3〜3、より好ましくは、−2〜3である。明度L*に加えて、色度も上記範囲に調整できるので光の反射が低減できる。また、色度のばらつきは、特性のばらつきを示している場合が多く、その結果、熱伝導性や熱膨張係数等に影響を及ぼす恐れがあることから、色度を上記範囲に調整できることは好ましい。
【0022】
さらに、色差ΔEを10以下、より好ましくは4以下にすることができる。色差ΔEは、以下の式で表すことができる。ΔE=((ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2。ここで、ΔL*、Δa*、Δb*は、それぞれ窒化珪素焼結体の明度L*、色度a*、色度b*の差の最大値である。所定数の測定箇所について明度L*、色度a*、色度b*を測定し、その差の最大を求めて色差ΔEを算出する。本発明の窒化珪素焼結体では、上記のようにして求めた色差ΔEは、全て10以下となる。このように色差ΔEが小さいので、低反射性や、熱伝導性、熱膨張係数のばらつきが小さく、光学装置の部品に適している。
【0023】
特に本発明のセラミックス部材は、光学装置用部品、なかでも、露光装置用のステージ部品1、位置測定用のミラー部品4、5に適している。このような部品に適用すれば、低熱膨張性及び高熱伝導性に加えて熱放射性によって部品の寸法変化が生じ難いので露光精度が高められる。また、例えば図1のような露光装置用ステージ機構において、ステージ部品1とミラー部品4、5とをいずれも本発明のセラミックス部材とすれば、より一層露光精度が向上する。
【0024】
図2は、ステージ部品20の概略断面図である。ステージ面21を有し、肉盗み25を備えている。また、図3はミラー部品30の概略断面図である。ミラー面31を有し、中抜き35を備えている。このようにセラミックス部材がステージ部品やミラー部品のような光学装置部品として用いられる場合には、図2及び図3に示すような肉盗みや中抜きの様な構造にすることが好ましい。それは、ステージ部品のように移動する部品の場合に、単に軽量化によって慣性力の緩和を図るだけでなく、単位体積当りの表面積が大きくなるからである。こうすることによって、さらなる放熱性能の向上が期待できる。
【0025】
特に、寸法精度が必要とされない部位(例えば、図2の肉盗みに面した部位22、23、図3の中抜きに面した部位32)において、その表面粗さを寸法精度が必要とされる部位より大きくすることで、一段の放熱性能の向上をもたらす。例えば、寸法精度が必要とされない部位の表面粗さRa(JISB0601:2001)を1〜10μmとすることにより放熱性を高めることができる。
【0026】
本発明のセラミックス部材は、上述のように特性のばらつきが少なく、耐摩耗性にも優れる。したがって、ステージ部品のような擦動部材として用いた場合には、局部的に磨耗するようなことはなく、他のセラミックスと比較しパーティクルの発生量が少ないため、露光装置の歩留まりの向上をもたらす。
【0027】
また、セラミックス部材をミラー部品として用いる場合には、ミラー面に金属膜を形成することが好ましい。金属膜は、アルミニウム、ニッケル、クロム、銅、銀、白金、金やこれらを含む合金等とすることができる。金属膜の厚さは、0.01〜0.5μmとすることが好ましい。このような範囲であれば、ミラーとして十分な反射率を有し、剥離等も起き難いからである。
【0028】
また、上述のように、光源から漏れた光や装置外から侵入する光が反射することで、露光精度を悪化させることがあることから、ミラー面以外の部分は低反射であることが望ましい。また、金属の蒸着膜は非常に薄く、ミラー面に照射されるレーザーが下地である基材の影響を受けることがあるため、色差ΔEは小さいことが望ましい。
【0029】
本発明のセラミックス部材は、窒化珪素を主成分とし、マグネシウム及びイットリウムを酸化物換算で合計0.1〜10質量%含む。マグネシウム及びイットリウムが含まれる量を上記範囲としたのは、0.1質量%未満だと焼結性が不足し、10質量%を超えると焼結体中で窒化珪素の占める割合が少なくなり熱伝導率が低下するためである。ここで、特許文献1に記載された発明では、アルミナが添加されているが、本発明では、アルミナを添加することは好ましくない。アルミナを添加すると低熱膨張性や高熱伝導性が得られ難いためである。したがって、アルミナの含有量は5000ppm以下とすることが好ましく、2000ppm以下とすることがより好ましい。
【0030】
また、マグネシウム及びイットリウムの合計が上記範囲内であれば、明度L*の調整が容易になる。この理由は定かではないが、粒界相中に存在する鉄の形態が変化して明度に影響を及ぼしていると思われる。
【0031】
鉄は酸化第二鉄換算で0.1〜0.5質量%含むことが望ましい。上記範囲でマグネシウム及びイットリウムを含み、これに鉄を所定量含ませることで熱伝導性、低熱膨張性が向上することに加え、明度L*が小さくなり、色度のばらつき及び色差ΔEを小さくすることができる。鉄が酸化第二鉄換算で0.1質量%未満だと熱膨張係数が低下し、明度L*が大きくなり易い。一方、0.5質量%を超えると、明度L*は小さくなるものの、色差ΔEが大きくなり易い。
【0032】
この鉄は粒界相中で主として酸化第二鉄(Fe)として存在する。そのため、粒界相中のMg−Si−O化合物もしくはY−Si−O化合物と酸化第二鉄との熱膨張差により、焼結の高温過程で粒界相中にマイクロクラックが発生する。この粒界相中のマイクロクラックが窒化珪素の熱膨張を緩和させるため、室温(23℃)から1000℃の熱膨張係数が3.4×10−6/K以下の窒化珪素焼結体が得られる。さらに本発明によれば、3.0×10−6/K以下の熱膨張係数とすることが可能であり、さらには2.8×10−6/K以下とすることができる。なお、粒界相中のMg−Si−OやY−Si−O等の複合酸化物と酸化第二鉄との存在形態は、特に限定されない。また、粒界相中の鉄の一部がYFe12やMgFeのような複合酸化物を形成していても良い。なお、上記のマイクロクラックは、本発明のセラミックス部材をミラー部品として用いた場合に反射率を低下させることはなく、むしろ金属の蒸着膜の密着性を高める効果がある。
【0033】
また、粒界相中にMg−Si−O化合物、Y−Si−O化合物等と鉄を共存させることで、明度L*の調整、色度のばらつき及び色差ΔEを小さくすることが可能となると考えられる。
【0034】
/MgOで表されるモル比が0.01〜0.10とすることが好ましい。このような範囲であれば、色差ΔEを小さくすることが可能となる。この理由は定かではないが、粒界相中に存在する鉄の形態が変化して色差ΔEに影響を及ぼしていると思われる。また、上記範囲であれば、十分に緻密化させることができる。
【0035】
低熱膨脹性の観点から、セラミックス部材の窒化珪素粒子が著しく柱状に粒成長することは好ましくなく、アスペクト比は15以下であることが好ましい。より好ましいアスペクト比の範囲は2〜15である。また短軸径5μm以上の粒子の割合が10体積%未満であることが望ましい。このような微構造とすることで、粒界相中のマイクロクラックによる低熱膨張化が顕著になる。
【0036】
本発明のセラミックス部材は、窒化珪素を主成分とする。その窒化珪素はβ型窒化珪素であることが望ましい。α型窒化珪素は熱伝導率が低いため好ましくない。したがって、本発明のセラミックス部材は、β型窒化珪素粒子と上記した複合酸化物等からなる粒界相から構成される。
【0037】
次に、本発明のセラミックス部材の製造方法について説明する。
【0038】
原料である窒化珪素粉末の平均粒径は1μm以下が好ましい。β分率が10%以下の窒化珪素原料粉末を用いることが、アスペクト比を15以下とする上で好ましい。さらに、純度は、粒界相の生成等に影響するため、高純度であることが好ましい。具体的には、98.0%以上であることが望ましい。このような原料粉末を用いることで極めて低熱膨張性及び高熱伝導性の良好な窒化珪素焼結体を得ることが容易になる。なお、本発明では、レーザー回折式粒度分布測定によるメジアン径(D50)をもって原料粉末の平均粒径とする。
【0039】
窒化珪素の原料粉末には、ある程度の酸素が含まれていることが好ましい。これは複合酸化物及び酸化物からなる粒界相を形成するためである。酸素量としては、1〜3質量%とすることが好ましい。このような範囲とすることで複合酸化物及び酸化物からなる粒界相を形成でき、そこに生じるマイクロクラックにより低熱膨張性を向上させることができる。
【0040】
マグネシウムの添加は、酸化マグネシウムの他、水酸化マグネシウム、硝酸マグネシウム等種々のマグネシウム化合物の粉末を用いることができる。また、イットリウムも同様に、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、硝酸イットリウム等のイットリウム化合物の原料粉末を用いることができる。鉄は酸化第二鉄の他、酸化第一鉄、水酸化鉄、硝酸塩等の種々の粉末を適用することができる。これらは、窒化珪素焼結体中で酸化物または複合酸化物として主として粒界に取り込まれる。これらの純度は、粒界相の生成等に影響するため、高純度であることが好ましく、純度97%以上、より好ましくは99%以上の原料粉末を用いることが望ましい。また、平均粒径は、1μm以下の粉末を用いることが好ましい。
【0041】
原料粉末は、プレス成形、CIP成形、鋳込み成形等の成形方法により成形される。プレス成形やCIP成形等の乾式成形を用いる場合には、原料粉末にバインダーを加えて噴霧乾燥法等により顆粒とすることが好ましい。
【0042】
得られた原料粉末の成形体は、必要に応じてバインダーや分散剤等の有機物を除去するための脱脂を行った後、焼結される。焼結は、常圧焼結、加圧雰囲気焼結、ホットプレス焼結等の焼結方法により作製できる。なかでも窒素を用いた加圧雰囲気中での焼結が好ましい。その場合の圧力は、0.5〜0.98MPaで行うことが好ましい。これは、窒化珪素の分解を防ぎ、緻密化を促進するためである。焼成条件としては、温度はα型からβ型の転移が生じる温度以上が好ましく、1700〜1900℃が好ましい。1900℃より高温では、Siの分解が生じ、1700℃より低温では、十分に緻密化しない場合がある。
【0043】
セラミックス部材の形状加工は、原料粉末を成形した成形体について、いわゆる生加工を用いることができる。また、焼結後の、いわゆる仕上げ加工を用いることができる。これらの加工は、マシニングセンタ、平面研削等、種々の加工方法により行うことができる。セラミックス部材の肉盗み、又は中抜き加工も、これらの加工方法を適用できる。
【0044】
セラミックス部材において、寸法精度が必要とされない肉盗みや中抜き部位の表面粗さの調整加工は、サンドブラスト処理を適用することができる。また、当該部位がいわゆる焼き放し面であって表面粗さが大きい場合は、加工を加えなくとも良い。
【0045】
セラミックス部材がミラー部品として用いられる場合において、ミラー面の形成は、下地のセラミックス部材の表面を鏡面加工した後、アルミニウム、ニッケル、クロム、銅、銀、白金、金やこれらを含む合金等を真空蒸着、スパッタリング等種々の方法により被覆することによって行うことができる。
【0046】
以下、実施例を用いて本発明のセラミックス部材について説明する。
【0047】
平均粒径が1.0μm、酸素量が1.5%、比表面積が6.5m/g、β分率が6%以下の直接窒化法により得られた窒化珪素原料粉末に酸化第二鉄を添加し、マグネシウム源には水酸化マグネシウム(Mg(OH))を用い、イットリウム源には酸化イットリウム(Y)を用いて表1に示すような組成で各焼結助剤を添加混合した。水酸化マグネシウムの添加量は、窒化珪素焼結体に含まれる酸化マグネシウム量が所定の数値になるように調整して添加した。その混合粉末に対して成形用バインダーとしてアクリル樹脂を、イオン交換水を溶媒として添加し、噴霧乾燥後、篩を通して成形用顆粒を得た。なお、平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定機により測定した。
【0048】
得られた成形用顆粒を成形圧1.5t/cmで直径20mm、厚さ5mmの円盤状に成形した。
【0049】
次に成形体を所定温度で脱脂した後、1700℃から1900℃の温度で、10MPaの窒素圧力雰囲気下で焼結させた。焼結工程は、室温から1100℃まで真空中で焼成し、1100℃から1600℃までは0.1MPaの窒素雰囲気中で焼成し、1600℃から1900℃までは0.88MPaで焼成した。
【0050】
熱伝導率はレーザーフラッシュ法により測定した。また、室温(23℃)から1000℃における熱膨張係数はJISR1618に準拠して測定した。
【0051】
明度L*、色度a*、色度b*については、試験片を鏡面加工し、分光測色計を用いて測定した。測定は任意の10箇所について行い、ΔEを上記の方法で求めた。
【0052】
【表1】

【0053】
試験No.1〜8については、高熱伝導性及び低熱膨張性を示した。また、これらの明度L*は32〜78であり、色差ΔEは10以下であった。なお、色度a*は−1〜1であり、色度b*は−2〜3であった。特に試験No.3〜8は、明度L*は32〜50、色差ΔEは4以下を示した。
【0054】
一方、試験No.10、12、13では、熱伝導率が比較的低く、また試験No.9〜14では、熱膨張係数が3.4×10−6/Kを超えた。さらに、試験No.10、11及び13では、明度L*が80を超える値を示し、試験No.9〜No.14では、色差ΔEが大きくなった。
【0055】
次に、試験No.4の材料を用いて、ステージ部品及びミラー部品を作製した。それぞれ、図2および図3に示したような肉盗み、中抜きを形成した。実際に露光装置に搭載して使用したところ、優れた露光精度が得られた。
【符号の説明】
【0056】
1 ステージ部品
4、5 ミラー部品
20 ステージ部品
21 ステージ面
25 肉盗み
30 ミラー部品
31 ミラー面
35 中抜き


【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素焼結体からなり、
室温の熱伝導率が60W/(m・K)以上、
室温から1000℃までの熱膨張係数が3.4×10−6/K以下、
L*a*b*表色系における明度L*が0〜80の範囲であることを特徴とするセラミックス部材。
【請求項2】
L*a*b*表色系における色度a*が−3〜3、色度bが−3〜3である請求項1記載のセラミックス部材。
【請求項3】
L*a*b*表色系における色差ΔEが10以下である請求項1または2記載のセラミックス部材。
【請求項4】
光学装置用部品である請求項1〜3記載のセラミックス部材。
【請求項5】
露光装置用のステージ部品である請求項4記載のセラミックス部材。
【請求項6】
位置測定用のミラー部品である請求項4記載のセラミックス部材。
【請求項7】
窒化珪素を主成分とし、
マグネシウム及びイットリウムを酸化物換算で合計0.1〜10質量%、
鉄を酸化第二鉄換算で0.1〜0.5質量%含むことを特徴とする請求項1〜6記載のセラミックス部材。
【請求項8】
/MgOで表されるモル比が0.01〜0.10である請求項7記載のセラミックス部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−189207(P2010−189207A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33080(P2009−33080)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】