セラミックハニカム構造体の製造方法
【課題】セルヨレの発生を防止することができるセラミックハニカム構造体の製造方法を提供すること。
【解決手段】外皮11と、多角形格子状に配設されたセル壁12と、これらのセル壁12内に区画されていると共に軸方向に沿って伸びる複数のセル13とを有するセラミックハニカム構造体1の製造方法である。その製造にあたっては、保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である坏土をハニカム状に成形し、焼成する。
【解決手段】外皮11と、多角形格子状に配設されたセル壁12と、これらのセル壁12内に区画されていると共に軸方向に沿って伸びる複数のセル13とを有するセラミックハニカム構造体1の製造方法である。その製造にあたっては、保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である坏土をハニカム状に成形し、焼成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置等において用いられるセラミックハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガスを浄化するために、貴金属等の排ガス浄化触媒が用いられている。排ガス浄化触媒は、担体に担持して用いられる。排ガス浄化触媒を担持する担体としては、例えばコージェライト等からなるセラミックハニカム構造体が広く用いられている。図12に示すごとく、セラミックハニカム構造体9は、外皮90、その内側において四角形、六角形等の多角形の格子状に配設されたセル壁91、及びセル壁91に区画されて軸方向に伸びる多数のセル92によって構成されている。
【0003】
セラミックハニカム構造体は、通常、セラミック原料、バインダ、水等を混合して坏土を作製し、該坏土を所望のハニカム形状に成形して成形体を作製した後、該成形体を焼成することにより製造される(特許文献1〜4)。例えばコージェライトからなるセラミックハニカム構造体を製造する場合には、セラミック原料として、タルク、カオリン、アルミナ等を所望の組成となるように調整したコージェライト化原料が用いられている。
また、坏土のようなセラミック粘土については、その可塑性について様々な検討がなされており、セラミック粘土の可塑性は、保形性が大きく流動性が高いほど良好であるという研究報告がなされている(非特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、特許文献1には、熱可塑性樹脂等を成形助剤成分として用い、成形時の良好な流動性と高い形状保持性を有するとともに、常温において高い強度を有する成形体が得られる無機物質粉末の成形用組成物を提供することを目的とする技術が示されている。そこには、組成物の貯蔵弾性率が押出成形時の流動性と形状保持性に大きく影響を与えることを見出し、貯蔵弾性率が押出成形温度において3×105Pa以上、107Pa以下であり、かつ貯蔵弾性率が常温において3×107Pa以上であると、良好な流動性と良好な形状保持性を示すことが示されている。
【0005】
また、特許文献2には、押出後の保形性を保ちつつ流動性の良いセラミックス構造体押出用坏土を提供することを目的する技術が開発されている。具体的には、成形温度で2000Paの一定応力を与えた場合の歪の時間変化を測定した場合の、(1)その応力値を、応力を加えると同時に発生する歪で割った値:弾性0(G0)、(2)その応力値を、応力を加え続けた時に歪の時間変化(以下、せん断速度と略す)が概ね一定になった時の値で割った値:粘性0(η0)、(3)その応力値をせん断速度が概ね一定になった時にその直線を時間軸0秒に外挿した時の歪から上記(1)で求めた歪を引いた値で割った値:弾性1(G1)、(4)その応力値を、応力を4秒間加えた後の歪から上記(1)で求めた歪を引いた値の4秒間平均せん断速度で割った値:粘性1(η1)、の関係を、η0/G0≦105、η1/G1≦70とする技術が示されている。かかる引用文献2においては、歪に着目し坏土特性を規定している。
【0006】
また、特許文献3には、細管レオメータによるせん断応力とせん断速度の関係が、(1)せん断応力が5×105Paの時のせん断速度が500s-1の(a)点および4000s-1の(b)点、(2)せん断応力が6×105Paの時のせん断速度が1000s-1の(c)点および8000s-1の(d)点で規定される領域(A)にある坏土を用いることで、流動性と保形性を両立させてハニカム構造体を押出成形で提供する技術が示されている。
【0007】
また、特許文献4には、セラミック原料、成形助剤及び造孔材を含有する原料を混合及び混練して坏土を得る工程、得られた坏土の特性を管理する工程、及び坏土をハニカム状に押出成形する工程を有するセラミックハニカム構造体の製造方法であって、前記坏土の特性を管理する工程において、坏土のタイプCデュロメータ硬度(JIS K 7312準拠)を16〜23とする技術が示されている。そして、引用文献4は、造孔材として発泡済みの発泡樹脂が使用され、気孔率が例えば50%以上の高気孔率で、外径が200mmを超えるような大型のセラミックハニカム構造体を得るためのセラミックハニカム成形体を押出成形する場合に、セラミック坏土のレオロジー特性を適正に評価でき、セラミック坏土の流動性及び成形体の保形性を十分に確保できるように制御したセラミックハニカム構造体の製造方法を提供することを目的としている。
【0008】
また、非特許文献1には、粘土として蛙目、ジョージアカオリン、アルミナ単身又は混合物をニーダで混練した後、ミキサーで混合し、1日熟成させ金型で円柱状に成形して、圧縮試験を行い、この測定結果から得られる応力−歪曲線の変形初期の曲線の傾き(見かけの弾性率=保形力)と変形域の応力増加領域で必要とされた仕事(=流動抵抗)で評価する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−265790号公報
【特許文献2】特開平6−279090号公報
【特許文献3】特開2007−301931号公報
【特許文献4】国際公開2008/126450号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・セラミックス・ソサエティ・オブ・ジャパン(Journal Of Ceramics Society Of Japan)、日本、1999年、第107巻、第1号、p54−59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示された技術において、貯蔵弾性率測定は、ゾル、ゲル状態のものを評価するには適するものの、坏土のような固体を扱う場合には、サンプル保持部のすべりの問題があり再現性のあるデータが得られにくいという問題がある。
また、特許文献2に開示された技術においては、各パラメータがある一定応力値(例えば2000Pa)を与えた時の粘弾性特性を規定しているが、各パラメータが概ね同等の特性を示すと判断できるのは、測定条件近傍の比較的狭い範囲に限られる。このため、坏土の特性を同等に維持しようとすると実際の生産現場における管理条件が厳しくなり、所望の成形速度が得られずに生産性が低下するといった不具合が生じるおそれがある。また、坏土の特性変動により成形条件が変化してしまい、得られる成形体にもバラツキが発生して外観不良及び形状不良の原因となるおそれがある。
【0012】
また、特許文献3に開示された技術において、細管レオメータによる測定方法は、ダイと坏土の表面のすべりのみで決まるため、必ずしも坏土全体の性質を表していないという問題がある。また、細管レオメータによるせん断応力及びせん断速度の測定においては、測定バラツキが大きくなり、坏土の特性変動を生じやすい。その結果、成形体にもバラツキが発生して、外観不良、形状不良が発生してしまうという問題がある。
また、特許文献4に開示された技術において、タイプCデュロメータによる硬度は、見かけ粘度の対数と良い相関が認められ、坏土の保形力よりも流動性特性を示すこととなり、保形性と流動性の最適なバランスを確保できないという問題がある。
また、非特許文献1に開示された技術は、セラミック粘土一般の可塑性に関するものであり、セラミックハニカム構造体に適用するためにはさらなる検討が必要となる。
【0013】
近年、自動車における排ガス浄化触媒の担体においては、浄化性能の向上、軽量化、及び低圧損化が要求されており、これに伴い、担体であるハニカム構造体のセル壁の薄肉化が進んでいる。ところが、セル壁を薄くすると、成形時における成形条件の影響を受けやすくなる。そして、成形後のハニカム形状の成形体において、外皮及びセル壁が自重等により変形し、焼成後のセラミックハニカム構造体における外皮やセル壁が変形するという所謂セルヨレと呼ばれる現象が発生するという問題がある。セルヨレが発生したセラミックハニカム構造体の例を図13(a)〜(c)に示す。同図においては、セルヨレの発生位置を円で囲って示してある。
従来においても、上述のように坏土の可塑性等について検討がなされてきた(特許文献1〜4及び非特許文献1参照)が、かかる技術に基づいてもセラミックハニカム構造体におけるセルヨレの発生を十分に防止することは困難であった。
【0014】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであって、セルヨレの発生を防止することができるセラミックハニカム構造体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、外皮と、該外皮内に多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁内に区画されていると共に軸方向に沿って伸びる複数のセルとを有するセラミックハニカム構造体の製造方法において、
少なくともセラミック原料とバインダと水とを含有する混合原料を混練して坏土を作製し、該坏土を押出成形して所定の長さに切断することによりハニカム成形体を得る混練・成形工程と、
上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム構造体を得る焼成工程とを有し、
上記混練・成形工程においては、上記坏土を直径10mm、高さ10mmの円柱形状に成形してなる成形体を6mm/minの速度で圧縮し、縦軸を成形体にかかる応力(N/mm2)とし、横軸を成形体の歪として得られる応力−歪曲線について、応力0、歪0の点から上記応力−歪曲線における圧縮開始初期の曲線部分に引いた接線の傾きによって規定される保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、変曲点から歪が0.7になるまでに成形体に付与されたエネルギーとして規定される流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を採用することを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0016】
上記セラミックハニカム構造体の製造方法においては、上記混練・成形工程と、上記焼成工程とを行う。
上記混練・成形工程においては、まず、セラミック原料とバインダと水とを含有する混合原料を混練して坏土を作製する。そして、上記坏土を押出成形して所定の長さに切断することによりハニカム成形体を得る。このとき、上記坏土としては、上記保形力、上記流動抵抗、及びこれらの比(流動抵抗/保形力)が上記所定の範囲にあるものを採用する。
そのため、上記混練・成形工程後に得られる上記ハニカム成形体においては、自重等によるセル壁の変形(セルヨレ)が発生することを防止することができる。
【0017】
そして、上記焼成工程においては、上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム構造体を得る。上記成形工程においては、上述のようにセル壁の変形を防止してハニカム成形体を製造することができるため、上記焼成工程後においても、セルヨレのないハニカム構造体を製造することが可能になる。
【0018】
このように、上記製造方法によれば、セルヨレの発生を防止することができるセラミックハニカム構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1における、セラミックハニカム構造体の全体構造を示す説明図。
【図2】実施例1における、セラミックハニカム構造体の断面構造を示す説明図。
【図3】実施例1における、ピンゲージを挿入したセルを示すハニカム構造体の部分拡大図。
【図4】実施例1における、坏土の構成を示す説明図。
【図5】実施例1における、坏土を押出成形機により成形する様子を示す説明図。
【図6】実施例1における、圧縮試験機により、成形体を押圧する様子を示す説明図。
【図7】実施例1における、応力−歪曲線を示す説明図。
【図8】実施例1における、成形後のハニカム成形体を受け皿に配置した様子を示す説明図。
【図9】実施例1における、セルヨレが発生したセラミックハニカム構造体のセル壁の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図。
【図10】実施例2における、セル壁厚み95μmのセラミックハニカム構造体における流動抵抗/保形力とセルヨレ発生率との関係を示す説明図(a)、セル壁厚み75μmのセラミックハニカム構造体における流動抵抗/保形力とセルヨレ発生率との関係を示す説明図(b)、セル壁厚み65μmのセラミックハニカム構造体における流動抵抗/保形力とセルヨレ発生率との関係を示す説明図(c)。
【図11】実施例2における、セルヨレ発生率0%のセラミックハニカム構造体における、セル壁厚みと流動抵抗/保形力との関係を示す説明図。
【図12】背景技術における、セラミックハニカム構造体の全体構成を示す説明図。
【図13】セルヨレが発生したセラミックハニカム構造体における外皮付近のセル壁の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図であって、第1のセルヨレ部位を示す説明図(a)、第2のセルヨレ部位を示す説明図(b)、第3のセルヨレ部位を示す説明図(c)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
上記製造方法においては、外皮と、該外皮内に多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁内に区画されていると共に軸方向に沿って伸びる複数のセルとを有するセラミックハニカム構造体を製造する。
該セラミックハニカム構造体は、例えば貴金属等からなる排ガス浄化触媒を担持する担体として用いることができる。排ガス浄化触媒を担持したセラミックハニカム構造体は、排ガス流路中に配置して用いることができる。
【0021】
上記セラミックハニカム構造体は、その形状を例えば円柱、楕円柱、多角柱等の各種柱状とすることができる。上記セラミックハニカム構造体において、上記セル壁は、例えば三角形、四角形、六角形等の多角形の格子状に配設されている。そして、セル壁に区画された多数のセルが形成されている。上記セルは、セラミックハニカム構造体の軸方向に伸びるように形成されている。また、上記外皮及び上記セル壁は、セラミックスの多孔質体により構成することができる。
【0022】
上記セラミックハニカム構造体は、例えばコージェライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、シリカ、チタニア等からなる。好ましくは、コージェライトがよい。
【0023】
上記セラミックハニカム構造体は、混練・成形工程と、焼成工程とを行うことにより製造することができる。
上記混練・成形工程においては、少なくともセラミック原料とバインダと水とを含有する混合原料を混練して坏土を作製し、該坏土を押出成形して所定の長さに切断することによりハニカム成形体を得る。
【0024】
例えばコージェライトからなる上記セラミックハニカム構造体を製造する場合には、上記セラミック原料として、タルク、カオリン、シリカ、水酸化アルミニウム、及びアルミナ等を用いることができる。これらのセラミック原料を所望の配合割合で配合して、所望の組成のコージェライトを生成することができる。バインダとしては、有機バインダであるメチルセルロースなどを用いることができる。
【0025】
上記混練・成形工程においては、保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を採用する。
上記保形力、上記流動抵抗、上記保形力に対する上記流動抵抗の比が上述の範囲から外れる場合には、セルヨレが発生し易くなるおそれがある。
【0026】
また、上記坏土としては、上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.12J/N/mm2以下であるものを採用することが好ましい(請求項2)。
この場合には、セルヨレの発生をより確実に防止することができる。
【0027】
上記保形力は、次のようにして規定するこができる。
即ち、まず、上記坏土を直径10mm、高さ10mmの円柱形状に成形して成形体を得る。次いで、成形体を軸方向(高さ方向)に6mm/minの速度で圧縮する。このとき、成形体にかかる応力及び歪みを測定し、縦軸を成形体にかかる応力(N/mm2)とし、横軸を成形体の歪(単位なし)とする応力−歪曲線を得る(図7参照)。そして、同図に示すごとく、応力0、歪0の点から応力−歪曲線における圧縮開始初期の曲線部分(0点から変曲点Pまでの曲線部分)に引いた接線Kの傾きによって、上記保形力を規定することができる。
【0028】
また、上記流動抵抗は、上記応力−歪曲線において、変曲点Pから歪が0.7になるまで、即ち円柱形状の成形体の高さが3mmになるまでに成形体に付与されたエネルギーとして規定することができる。成形体に付与されたエネルギーは、変曲点Pから歪0.7の範囲における上記応力−歪曲線と、該応力−歪曲線における上記変曲点Pから横軸に下ろした垂線Lと、上記応力−歪曲線における歪0.7の点から横軸に下ろした垂線Mと、横軸とによって囲まれる面積によって算出することができる(図7参照)。
【0029】
上記坏土の保形力及び流動抵抗は、上記坏土におけるセラミック原料の組成、バインダの種類及び配合割合、水の配合割合、及び混練条件等により制御することができる。これらを調整することにより、上記坏土の保形力、流動抵抗、及びその比(流動抵抗/保形力)を上述の範囲に制御することができる。
【0030】
また、上記混練・成形工程においては、上記混合原料の平均粒子径に対する上記坏土の平均粒子径の比(坏土の平均粒子径/混合原料の平均粒子径)によって規定される練り強さが0.85以下となるように混練を行うことが好ましい(請求項3)。
この場合には、上述のように保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を得ることが容易になる。上記練り強さは、具体的には、混練条件を調整することにより制御することができる。例えば所定条件における混練回数を増やすことにより上記練り強さを0.85以下に調整することが可能になる。
上記坏土及び上記混合原料の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径である。
【0031】
上記所定の練り強さとなるように混練を行うと、セラミック原料が均質に分散し、バインダの表面に水分子が一様に吸着されており、かつバインダと水とセラミック原料粒子との間の隙間をほとんどなくすことができる。そのため、保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を得やすくなる。
【0032】
また、上記流動抵抗/保形力(J/N/mm2)を縦軸(y)とし、上記セル壁の厚み(μm)を横軸(x)としたとき、y=0.0013x+0.0569(65≦x≦95)の関係を満足することが好ましい(請求項4)。
この場合には、より一層確実にセルヨレの発生を防止することができる。y=0.0013x+0.0569(65≦x≦95)の関係については、後述の実施例2において説明する。
【0033】
また、セル壁の厚みが75μm以下のときに本願発明による作用効果を特に顕著に発揮することができるため、上記成形工程においては、上記セル壁の厚みが75μm以下となるように上記坏土の成形を行うことが好ましい(請求項5)。
この場合には、上述のように保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を採用することによって得られる、セルヨレを防止できるという上述の作用効果がより顕著になる。
【0034】
即ち、一般にセル壁が75μm以下となるように上記坏土の成形を行うと、自重等により、セルヨレが発生し易くなる。上記のように、保形力、流動抵抗、及び流動抵抗/保形力を所定範囲に制御することにより、セル壁が75μm以下というセルヨレが発生し易い条件下においても、セルヨレの発生を防止することができる。
なお、セラミックハニカム構造体の強度を確保するという観点からは、上記セル壁の厚みは50μm以上にすることが好ましい。例えばセラミックハニカム構造体を所定のケースに収容して自動車の排気管に装着する場合には、ケースに収容するときに生じる圧力(ケーシング圧)に耐えうる強度が必要になる。セラミックハニカム構造体の強度は、セル壁の厚みに依存するため、十分な強度を確保するためには上述のようにセル壁の厚みを50μm以上にすることが好ましい。
【0035】
上記セラミック原料としては、コージェライト化原料を用いて、コージェライトからなる上記セラミックハニカム構造体を得ることが好ましい(請求項6)。
この場合には、上述のように保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を採用することによって得られる、セルヨレを防止できるという上述の作用効果がより顕著になる。
【0036】
また、上記混練・成形工程においては、上記坏土の押出成形後に成形体を所定の長さに切断する。これにより、所望の寸法のハニカム成形体を容易に得ることができる。
また、成形後のハニカム成形体は、スポンジなどの弾性材料からなる受け皿に配置されることが好ましい。これにより、ハニカム成形体の変形をより防止することができる。
【0037】
次に、上記焼成工程においては、上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム構造体を得る。
上記焼成工程における焼成温度は、セラミック原料の種類やハニカム成形体の大きさ等によって適宜調整することができる。コージェライト化原料を用いる場合には、例えば温度1400〜1420℃で3〜12時間の焼成を行うことができる。
【0038】
上記混練・成形工程における押出成形と切断との間、又は上記混練・成形工程と上記焼成工程との間には、上記ハニカム成形体を乾燥する乾燥工程を行うことが好ましい。該乾燥工程は、上記ハニカム成形体中に含まれる水分等を蒸発させるために行われる。上記乾燥工程は、上記ハニカム成形体を例えば温度80〜120℃で加熱することにより行うことができる。乾燥工程における加熱時間は、ハニカム成形体の大きさ等に応じて適宜調整することができる。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
次に、セラミックハニカム構造体の製造方法の実施例及び比較例について説明する。
図1及び図2に示すごとく、本例において作製するセラミックハニカム構造体1は、外皮11と、外皮11内に多角形格子状に配設されたセル壁12と、セル壁12内に区画されていると共に、柱状のセラミックハニカム構造体1の軸方向に沿って伸びる多数のセル13とを有する。本例において、セル壁12は、正方形格子状に配設されており、セル13は、円柱状のセラミックハニカム構造体1の軸方向と垂直な断面、及びセラミックハニカム構造体1の端面14において正方形状となる。
【0040】
また、本例のセラミックハニカム構造体1は、コージェライトからなり、全体の外形が直径105mm、高さ110mmの円柱形状である。また、本例においては、図3に示すごとく、セルピッチ(図3における幅A)及びセル壁の厚み(図3における幅B)が異なるセラミックハニカム構造体1を製造する。具体的には、後述の表3に示すごとく、セル壁の厚みは、65μm、75μm、又は95μmの3種類とし、セル数を600メッシュ(個/インチ)又は750メッシュにすることにより、セルピッチを調整してある。
【0041】
本例において、セラミックハニカム構造体は、混練・成形工程、及び焼成工程を行って製造する。
混練・成形工程においては、図4に示すごとく、少なくともセラミック原料101とバインダ102と水103とを含有する混合原料を混練して坏土100を作製し、この坏土100を押出押出成形して所定の長さに切断してハニカム成形体10を得る(図5参照)。また、焼成工程においては、ハニカム成形体10を焼成してセラミックハニカム構造体1を得る(図1及び図2参照)。
本例においては、セラミック原料の組成及び混練条件を変更して作製した坏土を用いて複数のセラミックハニカム構造体を作製する。
【0042】
具体的には、まず、所望のコーディエライト組成となるように、タルク、カオリン、溶融シリカ、水酸化アルミニウム、及びアルミナを秤量し、セラミック原料としてコージェライト化原料を調整した。次いで、セラミック原料に有機バインダとしてのメチルセルロース(MC)を混合し、水冷にて冷却できるニーダを用いて1時間混合した。得られた混合粉末に対し、潤滑材として植物油、及び水を添加し、1時間混合し、混合原料(練り土)を作製した。
【0043】
次いで、市販の水冷冷却できる1軸スクリュー混練機を用いて、混合原料を混練した。混練は、混合原料を1回又は2回以上繰り返し混練機に通すことにより行った。
このようにして、図4に示すごとく、タルク、カオリン等のセラミック原料101と、バインダ102と、潤滑材104と水103とを含有し、これらの原料の配合比及び混練条件が異なる27種類の坏土100(試料1〜27)を作製した。
各試料1〜27の坏土について、コージェライト化原料、水、バインダ、潤滑材の配合割合を後述の表1及び表2に示す。
【0044】
各試料1〜27の坏土について、混練条件を評価するために、次のようにして練り強さを測定した。また、保形力及び流動抵抗、その比(流動抵抗/保形力)を測定した。
【0045】
「練り強さ」
練り強さは、混練前の混合原料の平均粒子径に対する混練後の坏土の平均粒子径の比によって規定される。混合原料及び坏土の平均粒子径は、混合原料及び坏土をそれぞれ水に分散させ、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径をもって平均粒子径とした。各試料の練り強さを後述の表1及び表2に示す。
【0046】
「保形力」
まず、各試料の坏土を直径10mm、高さ10mmの円柱形状に成形して成形体を作製した。次いで、圧縮試験機である(株)島津製作所製のオートグラフ「卓上型EZ−GRAPH」を用いて、圧縮試験を行った。
具体的には、図6に示すごとく、まず、圧縮試験機2の荷重部(測定部)21に、成形体20を配置した。このとき円柱状の成形体20の上面側及び下面側にはそれぞれ厚み50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム25を配置した。そして、円柱状の成形体20を軸方向に6mm/minの速度で圧縮し、成形体20に応力(最大荷重:200N)を印加した。このとき、成形体にかかる応力及び歪みを測定し、成形体にかかる応力(N/mm2)を縦軸とし、成形体の歪(単位なし)を横軸とする応力−歪曲線を得た(図7参照)。そして、同図に示すごとく、応力0、歪0の点から応力−歪曲線における圧縮開始初期の曲線部分(0点から変曲点Pまでの曲線部分)に引いた接線Kの傾きを求め、これを保形力とした。その結果を後述の表1及び表2に示す。
【0047】
「流動抵抗」
「保形力」の測定において得られた応力−歪曲線において、変曲点から歪が0.7になるまで、具体的には成形体の高さが3mmになるまでに成形体に付与されたエネルギーを求めた。成形体に付与されたエネルギーは、変曲点Pから歪0.7の範囲における上記応力−歪曲線と、該応力−歪曲線における上記変曲点Pから横軸に下ろした垂線Lと、上記応力−歪曲線における歪0.7の点から横軸に下ろした垂線Mと、横軸とによって囲まれる面積によって算出することができる(図7参照)。このように算出されたエネルギーをもって流動抵抗とした。その結果を後述の表1及び表2に示す。
【0048】
「保形力に対する流動抵抗の比」
上記のようにして得られた各試料の保形力及び流動抵抗から、保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)を算出した。その結果を後述の表1及び表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
次に、図5に示すごとく、各試料の坏土100を供給口30から押出成形機3内に投入して成形を行った。
押出成形機3内に投入された坏土100は、スクリュー31によって金型33が配置された先端方向に送られる。金型33の手前には、坏土100を整流するためのフィルタ32が配置されており、フィルタ32を通って整流された坏土100が金型33に送られる。金型33は、四角形格子状の溝からなる排出流路(図示略)と当該溝の交点に坏土を分割供給する送給流路(図示略)とを備えた構造を有する。そして、坏土100は金型33から押し出された後、所定の長さで切断され、直径:105mm、高さ:110mmの円筒形状のハニカム構造に成形される。押出成形時の押出圧力は180kgf/cm2とした。また、金型としては、四角形状で、セル数が600メッシュ又は750メッシュの2種類のものを用いた。また、成形時には、セル壁の厚みを金型のスリット幅で調整し、90μm(3.5ミル)、75μm(3ミル)、75μm(2ミル)の3種類で成形した。
そして、押し出された成形体10は、自重による変形を防止すために、スポンジなどの弾性材料からなる受け皿4に載置した(図8参照)。このようにしてハニカム成形体10を得た。
【0052】
次いで、ハニカム成形体を乾燥した後、温度1410℃で5時間焼成した。焼成は、温度1000〜1400℃における平均昇温速度を80℃/時間として行った。
このようにして、図1及び図2に示すごとく、セラミックハニカム構造体1を得た。
【0053】
次に、各試料の坏土を用いて製造したセラミックハニカム構造体について、セルヨレ発生率を調べた。
「セルヨレ発生率」
図3に示すごとく、セラミックハニカム構造体1において、セルピッチ(同図における幅A)の最小値からセル壁の厚み(同図における幅B)の最大値を差し引いた値を算出する。この値を一辺の長さとする正方形を想定し、この正方形に内接する円の直径と等しい直径を有する球状部を備えたピンゲージ5を作製する。そして、ピンゲージ5の球状部をセラミックハニカム構造体の端面から任意の20カ所のセル13内に挿入した。1カ所でもピンゲージ5がセル13内に入らなかった場合をセルヨレの発生ありとして評価した。そして、各試料の坏土を用いてそれぞれ20個のセラミックハニカム構造体を作製し、これら20個のセラミックハニカム構造体について、セルヨレの発生を調べた。20個のセラミックハニカム構造体のうち、セルヨレの発生ありとして評価されたサンプルの数を計測し、その割合を100分率で表し、セルヨレ発生率とした。その結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3より知られるごとく、セル壁の厚みを小さくすると、セルヨレが発生し易くなる傾向がある(試料13〜27参照)。セルヨレの一例を図9に示す。同図は、セラミックハニカム構造体に発生していたセルヨレを示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0056】
これに対し、表1〜表3より知られるごとく、保形力が0.7〜1.6N/mm2、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である試料1〜12の坏土を用いて作製したセラミックハニカム構造体においては、セル壁を小さくしてもセルヨレが発生していない。したがって、保形力、流動抵抗、及び流動抵抗/保形力を上述の範囲に制御することにより、セルヨレの発生を防止できることがわかる。
【0057】
保形力が0.7〜1.6N/mm2、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である試料1〜12の坏土は、成形時に金型のスリットを通り抜ける際には、十分流動性を示し、金型から押し出された後は直ちに成形後の形状を維持できるという優れた保形力を発揮できると考えられる。そのため、上述のごとく、セル壁の厚みを小さくしても、セルヨレの発生を防止することができる。
【0058】
このように、本例によれば、保形力が0.7〜1.6N/mm2、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下の坏土を用いることにより、セルヨレの発生を防止して、セラミックハニカム構造体を製造できることがわかる。
【0059】
(実施例2)
本例においては、セルヨレ発生率が0%であるセラミックハニカム構造体のセル壁の厚みと、保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)との関係を調べる例である。
実施例1の表1〜表3の結果に基づいて、セル数600メッシュ、セル壁の厚み95μmのセラミックハニカム構造体について、流動抵抗/保形力とセルヨレ発生率との関係を図10(a)に示す。
同様に、セル数600メッシュ、セル壁の厚み75μmのセラミックハニカム構造体について、流動抵抗/保形力とセルヨレ発生率との関係を図10(b)に示す。
さらに、セル数600メッシュ、セル壁の厚み65μmのセラミックハニカム構造体について、流動抵抗/保形力とセルヨレ発生率との関係を図10(c)に示す。
【0060】
図10(a)〜(c)より知られるごとく、セル壁の厚みを小さくするにつれて、流動抵抗/保形力をより小さくことが、セルヨレの発生をより確実に防止する上で効果的であることがわかる。
【0061】
また、図10(a)〜(c)の結果に基づいて、セルヨレ発生率が0%のセラミックハニカム構造体について、セル壁の厚み(μm)と流動抵抗/保形力(J/N/mm2)との関係を図11に示す。同図において、横軸(x)がセル壁の厚み(μm)を示し、縦軸(y)が流動抵抗/保形力(J/N/mm2)を示す。
図11より知られるごとく、セルヨレの発生のないセラミックハニカム構造体は、上記流動抵抗/保形力(J/N/mm2)を縦軸(y)とし、上記セル壁の厚み(μm)を横軸(x)としたとき、y=0.0013x+0.0569(65≦x≦95)の関係を満足する。したがって、y=0.0013x+0.0569(65≦x≦95)の関係を満足するセラミックハニカム構造体は、セルヨレの発生をより確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 セラミックハニカム構造体
11 外皮
12 セル壁
13 セル
10 ハニカム成形体
100 坏土
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置等において用いられるセラミックハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガスを浄化するために、貴金属等の排ガス浄化触媒が用いられている。排ガス浄化触媒は、担体に担持して用いられる。排ガス浄化触媒を担持する担体としては、例えばコージェライト等からなるセラミックハニカム構造体が広く用いられている。図12に示すごとく、セラミックハニカム構造体9は、外皮90、その内側において四角形、六角形等の多角形の格子状に配設されたセル壁91、及びセル壁91に区画されて軸方向に伸びる多数のセル92によって構成されている。
【0003】
セラミックハニカム構造体は、通常、セラミック原料、バインダ、水等を混合して坏土を作製し、該坏土を所望のハニカム形状に成形して成形体を作製した後、該成形体を焼成することにより製造される(特許文献1〜4)。例えばコージェライトからなるセラミックハニカム構造体を製造する場合には、セラミック原料として、タルク、カオリン、アルミナ等を所望の組成となるように調整したコージェライト化原料が用いられている。
また、坏土のようなセラミック粘土については、その可塑性について様々な検討がなされており、セラミック粘土の可塑性は、保形性が大きく流動性が高いほど良好であるという研究報告がなされている(非特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、特許文献1には、熱可塑性樹脂等を成形助剤成分として用い、成形時の良好な流動性と高い形状保持性を有するとともに、常温において高い強度を有する成形体が得られる無機物質粉末の成形用組成物を提供することを目的とする技術が示されている。そこには、組成物の貯蔵弾性率が押出成形時の流動性と形状保持性に大きく影響を与えることを見出し、貯蔵弾性率が押出成形温度において3×105Pa以上、107Pa以下であり、かつ貯蔵弾性率が常温において3×107Pa以上であると、良好な流動性と良好な形状保持性を示すことが示されている。
【0005】
また、特許文献2には、押出後の保形性を保ちつつ流動性の良いセラミックス構造体押出用坏土を提供することを目的する技術が開発されている。具体的には、成形温度で2000Paの一定応力を与えた場合の歪の時間変化を測定した場合の、(1)その応力値を、応力を加えると同時に発生する歪で割った値:弾性0(G0)、(2)その応力値を、応力を加え続けた時に歪の時間変化(以下、せん断速度と略す)が概ね一定になった時の値で割った値:粘性0(η0)、(3)その応力値をせん断速度が概ね一定になった時にその直線を時間軸0秒に外挿した時の歪から上記(1)で求めた歪を引いた値で割った値:弾性1(G1)、(4)その応力値を、応力を4秒間加えた後の歪から上記(1)で求めた歪を引いた値の4秒間平均せん断速度で割った値:粘性1(η1)、の関係を、η0/G0≦105、η1/G1≦70とする技術が示されている。かかる引用文献2においては、歪に着目し坏土特性を規定している。
【0006】
また、特許文献3には、細管レオメータによるせん断応力とせん断速度の関係が、(1)せん断応力が5×105Paの時のせん断速度が500s-1の(a)点および4000s-1の(b)点、(2)せん断応力が6×105Paの時のせん断速度が1000s-1の(c)点および8000s-1の(d)点で規定される領域(A)にある坏土を用いることで、流動性と保形性を両立させてハニカム構造体を押出成形で提供する技術が示されている。
【0007】
また、特許文献4には、セラミック原料、成形助剤及び造孔材を含有する原料を混合及び混練して坏土を得る工程、得られた坏土の特性を管理する工程、及び坏土をハニカム状に押出成形する工程を有するセラミックハニカム構造体の製造方法であって、前記坏土の特性を管理する工程において、坏土のタイプCデュロメータ硬度(JIS K 7312準拠)を16〜23とする技術が示されている。そして、引用文献4は、造孔材として発泡済みの発泡樹脂が使用され、気孔率が例えば50%以上の高気孔率で、外径が200mmを超えるような大型のセラミックハニカム構造体を得るためのセラミックハニカム成形体を押出成形する場合に、セラミック坏土のレオロジー特性を適正に評価でき、セラミック坏土の流動性及び成形体の保形性を十分に確保できるように制御したセラミックハニカム構造体の製造方法を提供することを目的としている。
【0008】
また、非特許文献1には、粘土として蛙目、ジョージアカオリン、アルミナ単身又は混合物をニーダで混練した後、ミキサーで混合し、1日熟成させ金型で円柱状に成形して、圧縮試験を行い、この測定結果から得られる応力−歪曲線の変形初期の曲線の傾き(見かけの弾性率=保形力)と変形域の応力増加領域で必要とされた仕事(=流動抵抗)で評価する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−265790号公報
【特許文献2】特開平6−279090号公報
【特許文献3】特開2007−301931号公報
【特許文献4】国際公開2008/126450号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・セラミックス・ソサエティ・オブ・ジャパン(Journal Of Ceramics Society Of Japan)、日本、1999年、第107巻、第1号、p54−59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示された技術において、貯蔵弾性率測定は、ゾル、ゲル状態のものを評価するには適するものの、坏土のような固体を扱う場合には、サンプル保持部のすべりの問題があり再現性のあるデータが得られにくいという問題がある。
また、特許文献2に開示された技術においては、各パラメータがある一定応力値(例えば2000Pa)を与えた時の粘弾性特性を規定しているが、各パラメータが概ね同等の特性を示すと判断できるのは、測定条件近傍の比較的狭い範囲に限られる。このため、坏土の特性を同等に維持しようとすると実際の生産現場における管理条件が厳しくなり、所望の成形速度が得られずに生産性が低下するといった不具合が生じるおそれがある。また、坏土の特性変動により成形条件が変化してしまい、得られる成形体にもバラツキが発生して外観不良及び形状不良の原因となるおそれがある。
【0012】
また、特許文献3に開示された技術において、細管レオメータによる測定方法は、ダイと坏土の表面のすべりのみで決まるため、必ずしも坏土全体の性質を表していないという問題がある。また、細管レオメータによるせん断応力及びせん断速度の測定においては、測定バラツキが大きくなり、坏土の特性変動を生じやすい。その結果、成形体にもバラツキが発生して、外観不良、形状不良が発生してしまうという問題がある。
また、特許文献4に開示された技術において、タイプCデュロメータによる硬度は、見かけ粘度の対数と良い相関が認められ、坏土の保形力よりも流動性特性を示すこととなり、保形性と流動性の最適なバランスを確保できないという問題がある。
また、非特許文献1に開示された技術は、セラミック粘土一般の可塑性に関するものであり、セラミックハニカム構造体に適用するためにはさらなる検討が必要となる。
【0013】
近年、自動車における排ガス浄化触媒の担体においては、浄化性能の向上、軽量化、及び低圧損化が要求されており、これに伴い、担体であるハニカム構造体のセル壁の薄肉化が進んでいる。ところが、セル壁を薄くすると、成形時における成形条件の影響を受けやすくなる。そして、成形後のハニカム形状の成形体において、外皮及びセル壁が自重等により変形し、焼成後のセラミックハニカム構造体における外皮やセル壁が変形するという所謂セルヨレと呼ばれる現象が発生するという問題がある。セルヨレが発生したセラミックハニカム構造体の例を図13(a)〜(c)に示す。同図においては、セルヨレの発生位置を円で囲って示してある。
従来においても、上述のように坏土の可塑性等について検討がなされてきた(特許文献1〜4及び非特許文献1参照)が、かかる技術に基づいてもセラミックハニカム構造体におけるセルヨレの発生を十分に防止することは困難であった。
【0014】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであって、セルヨレの発生を防止することができるセラミックハニカム構造体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、外皮と、該外皮内に多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁内に区画されていると共に軸方向に沿って伸びる複数のセルとを有するセラミックハニカム構造体の製造方法において、
少なくともセラミック原料とバインダと水とを含有する混合原料を混練して坏土を作製し、該坏土を押出成形して所定の長さに切断することによりハニカム成形体を得る混練・成形工程と、
上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム構造体を得る焼成工程とを有し、
上記混練・成形工程においては、上記坏土を直径10mm、高さ10mmの円柱形状に成形してなる成形体を6mm/minの速度で圧縮し、縦軸を成形体にかかる応力(N/mm2)とし、横軸を成形体の歪として得られる応力−歪曲線について、応力0、歪0の点から上記応力−歪曲線における圧縮開始初期の曲線部分に引いた接線の傾きによって規定される保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、変曲点から歪が0.7になるまでに成形体に付与されたエネルギーとして規定される流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を採用することを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0016】
上記セラミックハニカム構造体の製造方法においては、上記混練・成形工程と、上記焼成工程とを行う。
上記混練・成形工程においては、まず、セラミック原料とバインダと水とを含有する混合原料を混練して坏土を作製する。そして、上記坏土を押出成形して所定の長さに切断することによりハニカム成形体を得る。このとき、上記坏土としては、上記保形力、上記流動抵抗、及びこれらの比(流動抵抗/保形力)が上記所定の範囲にあるものを採用する。
そのため、上記混練・成形工程後に得られる上記ハニカム成形体においては、自重等によるセル壁の変形(セルヨレ)が発生することを防止することができる。
【0017】
そして、上記焼成工程においては、上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム構造体を得る。上記成形工程においては、上述のようにセル壁の変形を防止してハニカム成形体を製造することができるため、上記焼成工程後においても、セルヨレのないハニカム構造体を製造することが可能になる。
【0018】
このように、上記製造方法によれば、セルヨレの発生を防止することができるセラミックハニカム構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1における、セラミックハニカム構造体の全体構造を示す説明図。
【図2】実施例1における、セラミックハニカム構造体の断面構造を示す説明図。
【図3】実施例1における、ピンゲージを挿入したセルを示すハニカム構造体の部分拡大図。
【図4】実施例1における、坏土の構成を示す説明図。
【図5】実施例1における、坏土を押出成形機により成形する様子を示す説明図。
【図6】実施例1における、圧縮試験機により、成形体を押圧する様子を示す説明図。
【図7】実施例1における、応力−歪曲線を示す説明図。
【図8】実施例1における、成形後のハニカム成形体を受け皿に配置した様子を示す説明図。
【図9】実施例1における、セルヨレが発生したセラミックハニカム構造体のセル壁の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図。
【図10】実施例2における、セル壁厚み95μmのセラミックハニカム構造体における流動抵抗/保形力とセルヨレ発生率との関係を示す説明図(a)、セル壁厚み75μmのセラミックハニカム構造体における流動抵抗/保形力とセルヨレ発生率との関係を示す説明図(b)、セル壁厚み65μmのセラミックハニカム構造体における流動抵抗/保形力とセルヨレ発生率との関係を示す説明図(c)。
【図11】実施例2における、セルヨレ発生率0%のセラミックハニカム構造体における、セル壁厚みと流動抵抗/保形力との関係を示す説明図。
【図12】背景技術における、セラミックハニカム構造体の全体構成を示す説明図。
【図13】セルヨレが発生したセラミックハニカム構造体における外皮付近のセル壁の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図であって、第1のセルヨレ部位を示す説明図(a)、第2のセルヨレ部位を示す説明図(b)、第3のセルヨレ部位を示す説明図(c)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
上記製造方法においては、外皮と、該外皮内に多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁内に区画されていると共に軸方向に沿って伸びる複数のセルとを有するセラミックハニカム構造体を製造する。
該セラミックハニカム構造体は、例えば貴金属等からなる排ガス浄化触媒を担持する担体として用いることができる。排ガス浄化触媒を担持したセラミックハニカム構造体は、排ガス流路中に配置して用いることができる。
【0021】
上記セラミックハニカム構造体は、その形状を例えば円柱、楕円柱、多角柱等の各種柱状とすることができる。上記セラミックハニカム構造体において、上記セル壁は、例えば三角形、四角形、六角形等の多角形の格子状に配設されている。そして、セル壁に区画された多数のセルが形成されている。上記セルは、セラミックハニカム構造体の軸方向に伸びるように形成されている。また、上記外皮及び上記セル壁は、セラミックスの多孔質体により構成することができる。
【0022】
上記セラミックハニカム構造体は、例えばコージェライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、シリカ、チタニア等からなる。好ましくは、コージェライトがよい。
【0023】
上記セラミックハニカム構造体は、混練・成形工程と、焼成工程とを行うことにより製造することができる。
上記混練・成形工程においては、少なくともセラミック原料とバインダと水とを含有する混合原料を混練して坏土を作製し、該坏土を押出成形して所定の長さに切断することによりハニカム成形体を得る。
【0024】
例えばコージェライトからなる上記セラミックハニカム構造体を製造する場合には、上記セラミック原料として、タルク、カオリン、シリカ、水酸化アルミニウム、及びアルミナ等を用いることができる。これらのセラミック原料を所望の配合割合で配合して、所望の組成のコージェライトを生成することができる。バインダとしては、有機バインダであるメチルセルロースなどを用いることができる。
【0025】
上記混練・成形工程においては、保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を採用する。
上記保形力、上記流動抵抗、上記保形力に対する上記流動抵抗の比が上述の範囲から外れる場合には、セルヨレが発生し易くなるおそれがある。
【0026】
また、上記坏土としては、上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.12J/N/mm2以下であるものを採用することが好ましい(請求項2)。
この場合には、セルヨレの発生をより確実に防止することができる。
【0027】
上記保形力は、次のようにして規定するこができる。
即ち、まず、上記坏土を直径10mm、高さ10mmの円柱形状に成形して成形体を得る。次いで、成形体を軸方向(高さ方向)に6mm/minの速度で圧縮する。このとき、成形体にかかる応力及び歪みを測定し、縦軸を成形体にかかる応力(N/mm2)とし、横軸を成形体の歪(単位なし)とする応力−歪曲線を得る(図7参照)。そして、同図に示すごとく、応力0、歪0の点から応力−歪曲線における圧縮開始初期の曲線部分(0点から変曲点Pまでの曲線部分)に引いた接線Kの傾きによって、上記保形力を規定することができる。
【0028】
また、上記流動抵抗は、上記応力−歪曲線において、変曲点Pから歪が0.7になるまで、即ち円柱形状の成形体の高さが3mmになるまでに成形体に付与されたエネルギーとして規定することができる。成形体に付与されたエネルギーは、変曲点Pから歪0.7の範囲における上記応力−歪曲線と、該応力−歪曲線における上記変曲点Pから横軸に下ろした垂線Lと、上記応力−歪曲線における歪0.7の点から横軸に下ろした垂線Mと、横軸とによって囲まれる面積によって算出することができる(図7参照)。
【0029】
上記坏土の保形力及び流動抵抗は、上記坏土におけるセラミック原料の組成、バインダの種類及び配合割合、水の配合割合、及び混練条件等により制御することができる。これらを調整することにより、上記坏土の保形力、流動抵抗、及びその比(流動抵抗/保形力)を上述の範囲に制御することができる。
【0030】
また、上記混練・成形工程においては、上記混合原料の平均粒子径に対する上記坏土の平均粒子径の比(坏土の平均粒子径/混合原料の平均粒子径)によって規定される練り強さが0.85以下となるように混練を行うことが好ましい(請求項3)。
この場合には、上述のように保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を得ることが容易になる。上記練り強さは、具体的には、混練条件を調整することにより制御することができる。例えば所定条件における混練回数を増やすことにより上記練り強さを0.85以下に調整することが可能になる。
上記坏土及び上記混合原料の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径である。
【0031】
上記所定の練り強さとなるように混練を行うと、セラミック原料が均質に分散し、バインダの表面に水分子が一様に吸着されており、かつバインダと水とセラミック原料粒子との間の隙間をほとんどなくすことができる。そのため、保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を得やすくなる。
【0032】
また、上記流動抵抗/保形力(J/N/mm2)を縦軸(y)とし、上記セル壁の厚み(μm)を横軸(x)としたとき、y=0.0013x+0.0569(65≦x≦95)の関係を満足することが好ましい(請求項4)。
この場合には、より一層確実にセルヨレの発生を防止することができる。y=0.0013x+0.0569(65≦x≦95)の関係については、後述の実施例2において説明する。
【0033】
また、セル壁の厚みが75μm以下のときに本願発明による作用効果を特に顕著に発揮することができるため、上記成形工程においては、上記セル壁の厚みが75μm以下となるように上記坏土の成形を行うことが好ましい(請求項5)。
この場合には、上述のように保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を採用することによって得られる、セルヨレを防止できるという上述の作用効果がより顕著になる。
【0034】
即ち、一般にセル壁が75μm以下となるように上記坏土の成形を行うと、自重等により、セルヨレが発生し易くなる。上記のように、保形力、流動抵抗、及び流動抵抗/保形力を所定範囲に制御することにより、セル壁が75μm以下というセルヨレが発生し易い条件下においても、セルヨレの発生を防止することができる。
なお、セラミックハニカム構造体の強度を確保するという観点からは、上記セル壁の厚みは50μm以上にすることが好ましい。例えばセラミックハニカム構造体を所定のケースに収容して自動車の排気管に装着する場合には、ケースに収容するときに生じる圧力(ケーシング圧)に耐えうる強度が必要になる。セラミックハニカム構造体の強度は、セル壁の厚みに依存するため、十分な強度を確保するためには上述のようにセル壁の厚みを50μm以上にすることが好ましい。
【0035】
上記セラミック原料としては、コージェライト化原料を用いて、コージェライトからなる上記セラミックハニカム構造体を得ることが好ましい(請求項6)。
この場合には、上述のように保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を採用することによって得られる、セルヨレを防止できるという上述の作用効果がより顕著になる。
【0036】
また、上記混練・成形工程においては、上記坏土の押出成形後に成形体を所定の長さに切断する。これにより、所望の寸法のハニカム成形体を容易に得ることができる。
また、成形後のハニカム成形体は、スポンジなどの弾性材料からなる受け皿に配置されることが好ましい。これにより、ハニカム成形体の変形をより防止することができる。
【0037】
次に、上記焼成工程においては、上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム構造体を得る。
上記焼成工程における焼成温度は、セラミック原料の種類やハニカム成形体の大きさ等によって適宜調整することができる。コージェライト化原料を用いる場合には、例えば温度1400〜1420℃で3〜12時間の焼成を行うことができる。
【0038】
上記混練・成形工程における押出成形と切断との間、又は上記混練・成形工程と上記焼成工程との間には、上記ハニカム成形体を乾燥する乾燥工程を行うことが好ましい。該乾燥工程は、上記ハニカム成形体中に含まれる水分等を蒸発させるために行われる。上記乾燥工程は、上記ハニカム成形体を例えば温度80〜120℃で加熱することにより行うことができる。乾燥工程における加熱時間は、ハニカム成形体の大きさ等に応じて適宜調整することができる。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
次に、セラミックハニカム構造体の製造方法の実施例及び比較例について説明する。
図1及び図2に示すごとく、本例において作製するセラミックハニカム構造体1は、外皮11と、外皮11内に多角形格子状に配設されたセル壁12と、セル壁12内に区画されていると共に、柱状のセラミックハニカム構造体1の軸方向に沿って伸びる多数のセル13とを有する。本例において、セル壁12は、正方形格子状に配設されており、セル13は、円柱状のセラミックハニカム構造体1の軸方向と垂直な断面、及びセラミックハニカム構造体1の端面14において正方形状となる。
【0040】
また、本例のセラミックハニカム構造体1は、コージェライトからなり、全体の外形が直径105mm、高さ110mmの円柱形状である。また、本例においては、図3に示すごとく、セルピッチ(図3における幅A)及びセル壁の厚み(図3における幅B)が異なるセラミックハニカム構造体1を製造する。具体的には、後述の表3に示すごとく、セル壁の厚みは、65μm、75μm、又は95μmの3種類とし、セル数を600メッシュ(個/インチ)又は750メッシュにすることにより、セルピッチを調整してある。
【0041】
本例において、セラミックハニカム構造体は、混練・成形工程、及び焼成工程を行って製造する。
混練・成形工程においては、図4に示すごとく、少なくともセラミック原料101とバインダ102と水103とを含有する混合原料を混練して坏土100を作製し、この坏土100を押出押出成形して所定の長さに切断してハニカム成形体10を得る(図5参照)。また、焼成工程においては、ハニカム成形体10を焼成してセラミックハニカム構造体1を得る(図1及び図2参照)。
本例においては、セラミック原料の組成及び混練条件を変更して作製した坏土を用いて複数のセラミックハニカム構造体を作製する。
【0042】
具体的には、まず、所望のコーディエライト組成となるように、タルク、カオリン、溶融シリカ、水酸化アルミニウム、及びアルミナを秤量し、セラミック原料としてコージェライト化原料を調整した。次いで、セラミック原料に有機バインダとしてのメチルセルロース(MC)を混合し、水冷にて冷却できるニーダを用いて1時間混合した。得られた混合粉末に対し、潤滑材として植物油、及び水を添加し、1時間混合し、混合原料(練り土)を作製した。
【0043】
次いで、市販の水冷冷却できる1軸スクリュー混練機を用いて、混合原料を混練した。混練は、混合原料を1回又は2回以上繰り返し混練機に通すことにより行った。
このようにして、図4に示すごとく、タルク、カオリン等のセラミック原料101と、バインダ102と、潤滑材104と水103とを含有し、これらの原料の配合比及び混練条件が異なる27種類の坏土100(試料1〜27)を作製した。
各試料1〜27の坏土について、コージェライト化原料、水、バインダ、潤滑材の配合割合を後述の表1及び表2に示す。
【0044】
各試料1〜27の坏土について、混練条件を評価するために、次のようにして練り強さを測定した。また、保形力及び流動抵抗、その比(流動抵抗/保形力)を測定した。
【0045】
「練り強さ」
練り強さは、混練前の混合原料の平均粒子径に対する混練後の坏土の平均粒子径の比によって規定される。混合原料及び坏土の平均粒子径は、混合原料及び坏土をそれぞれ水に分散させ、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径をもって平均粒子径とした。各試料の練り強さを後述の表1及び表2に示す。
【0046】
「保形力」
まず、各試料の坏土を直径10mm、高さ10mmの円柱形状に成形して成形体を作製した。次いで、圧縮試験機である(株)島津製作所製のオートグラフ「卓上型EZ−GRAPH」を用いて、圧縮試験を行った。
具体的には、図6に示すごとく、まず、圧縮試験機2の荷重部(測定部)21に、成形体20を配置した。このとき円柱状の成形体20の上面側及び下面側にはそれぞれ厚み50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム25を配置した。そして、円柱状の成形体20を軸方向に6mm/minの速度で圧縮し、成形体20に応力(最大荷重:200N)を印加した。このとき、成形体にかかる応力及び歪みを測定し、成形体にかかる応力(N/mm2)を縦軸とし、成形体の歪(単位なし)を横軸とする応力−歪曲線を得た(図7参照)。そして、同図に示すごとく、応力0、歪0の点から応力−歪曲線における圧縮開始初期の曲線部分(0点から変曲点Pまでの曲線部分)に引いた接線Kの傾きを求め、これを保形力とした。その結果を後述の表1及び表2に示す。
【0047】
「流動抵抗」
「保形力」の測定において得られた応力−歪曲線において、変曲点から歪が0.7になるまで、具体的には成形体の高さが3mmになるまでに成形体に付与されたエネルギーを求めた。成形体に付与されたエネルギーは、変曲点Pから歪0.7の範囲における上記応力−歪曲線と、該応力−歪曲線における上記変曲点Pから横軸に下ろした垂線Lと、上記応力−歪曲線における歪0.7の点から横軸に下ろした垂線Mと、横軸とによって囲まれる面積によって算出することができる(図7参照)。このように算出されたエネルギーをもって流動抵抗とした。その結果を後述の表1及び表2に示す。
【0048】
「保形力に対する流動抵抗の比」
上記のようにして得られた各試料の保形力及び流動抵抗から、保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)を算出した。その結果を後述の表1及び表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
次に、図5に示すごとく、各試料の坏土100を供給口30から押出成形機3内に投入して成形を行った。
押出成形機3内に投入された坏土100は、スクリュー31によって金型33が配置された先端方向に送られる。金型33の手前には、坏土100を整流するためのフィルタ32が配置されており、フィルタ32を通って整流された坏土100が金型33に送られる。金型33は、四角形格子状の溝からなる排出流路(図示略)と当該溝の交点に坏土を分割供給する送給流路(図示略)とを備えた構造を有する。そして、坏土100は金型33から押し出された後、所定の長さで切断され、直径:105mm、高さ:110mmの円筒形状のハニカム構造に成形される。押出成形時の押出圧力は180kgf/cm2とした。また、金型としては、四角形状で、セル数が600メッシュ又は750メッシュの2種類のものを用いた。また、成形時には、セル壁の厚みを金型のスリット幅で調整し、90μm(3.5ミル)、75μm(3ミル)、75μm(2ミル)の3種類で成形した。
そして、押し出された成形体10は、自重による変形を防止すために、スポンジなどの弾性材料からなる受け皿4に載置した(図8参照)。このようにしてハニカム成形体10を得た。
【0052】
次いで、ハニカム成形体を乾燥した後、温度1410℃で5時間焼成した。焼成は、温度1000〜1400℃における平均昇温速度を80℃/時間として行った。
このようにして、図1及び図2に示すごとく、セラミックハニカム構造体1を得た。
【0053】
次に、各試料の坏土を用いて製造したセラミックハニカム構造体について、セルヨレ発生率を調べた。
「セルヨレ発生率」
図3に示すごとく、セラミックハニカム構造体1において、セルピッチ(同図における幅A)の最小値からセル壁の厚み(同図における幅B)の最大値を差し引いた値を算出する。この値を一辺の長さとする正方形を想定し、この正方形に内接する円の直径と等しい直径を有する球状部を備えたピンゲージ5を作製する。そして、ピンゲージ5の球状部をセラミックハニカム構造体の端面から任意の20カ所のセル13内に挿入した。1カ所でもピンゲージ5がセル13内に入らなかった場合をセルヨレの発生ありとして評価した。そして、各試料の坏土を用いてそれぞれ20個のセラミックハニカム構造体を作製し、これら20個のセラミックハニカム構造体について、セルヨレの発生を調べた。20個のセラミックハニカム構造体のうち、セルヨレの発生ありとして評価されたサンプルの数を計測し、その割合を100分率で表し、セルヨレ発生率とした。その結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3より知られるごとく、セル壁の厚みを小さくすると、セルヨレが発生し易くなる傾向がある(試料13〜27参照)。セルヨレの一例を図9に示す。同図は、セラミックハニカム構造体に発生していたセルヨレを示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0056】
これに対し、表1〜表3より知られるごとく、保形力が0.7〜1.6N/mm2、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である試料1〜12の坏土を用いて作製したセラミックハニカム構造体においては、セル壁を小さくしてもセルヨレが発生していない。したがって、保形力、流動抵抗、及び流動抵抗/保形力を上述の範囲に制御することにより、セルヨレの発生を防止できることがわかる。
【0057】
保形力が0.7〜1.6N/mm2、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である試料1〜12の坏土は、成形時に金型のスリットを通り抜ける際には、十分流動性を示し、金型から押し出された後は直ちに成形後の形状を維持できるという優れた保形力を発揮できると考えられる。そのため、上述のごとく、セル壁の厚みを小さくしても、セルヨレの発生を防止することができる。
【0058】
このように、本例によれば、保形力が0.7〜1.6N/mm2、流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下の坏土を用いることにより、セルヨレの発生を防止して、セラミックハニカム構造体を製造できることがわかる。
【0059】
(実施例2)
本例においては、セルヨレ発生率が0%であるセラミックハニカム構造体のセル壁の厚みと、保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)との関係を調べる例である。
実施例1の表1〜表3の結果に基づいて、セル数600メッシュ、セル壁の厚み95μmのセラミックハニカム構造体について、流動抵抗/保形力とセルヨレ発生率との関係を図10(a)に示す。
同様に、セル数600メッシュ、セル壁の厚み75μmのセラミックハニカム構造体について、流動抵抗/保形力とセルヨレ発生率との関係を図10(b)に示す。
さらに、セル数600メッシュ、セル壁の厚み65μmのセラミックハニカム構造体について、流動抵抗/保形力とセルヨレ発生率との関係を図10(c)に示す。
【0060】
図10(a)〜(c)より知られるごとく、セル壁の厚みを小さくするにつれて、流動抵抗/保形力をより小さくことが、セルヨレの発生をより確実に防止する上で効果的であることがわかる。
【0061】
また、図10(a)〜(c)の結果に基づいて、セルヨレ発生率が0%のセラミックハニカム構造体について、セル壁の厚み(μm)と流動抵抗/保形力(J/N/mm2)との関係を図11に示す。同図において、横軸(x)がセル壁の厚み(μm)を示し、縦軸(y)が流動抵抗/保形力(J/N/mm2)を示す。
図11より知られるごとく、セルヨレの発生のないセラミックハニカム構造体は、上記流動抵抗/保形力(J/N/mm2)を縦軸(y)とし、上記セル壁の厚み(μm)を横軸(x)としたとき、y=0.0013x+0.0569(65≦x≦95)の関係を満足する。したがって、y=0.0013x+0.0569(65≦x≦95)の関係を満足するセラミックハニカム構造体は、セルヨレの発生をより確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 セラミックハニカム構造体
11 外皮
12 セル壁
13 セル
10 ハニカム成形体
100 坏土
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外皮と、該外皮内に多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁内に区画されていると共に軸方向に沿って伸びる複数のセルとを有するセラミックハニカム構造体の製造方法において、
少なくともセラミック原料とバインダと水とを含有する混合原料を混練して坏土を作製し、該坏土を押出成形して所定の長さに切断することによりハニカム成形体を得る混練・成形工程と、
上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム構造体を得る焼成工程とを有し、
上記混練・成形工程においては、上記坏土を直径10mm、高さ10mmの円柱形状に成形してなる成形体を6mm/minの速度で圧縮し、縦軸を成形体にかかる応力(N/mm2)とし、横軸を成形体の歪として得られる応力−歪曲線について、応力0、歪0の点から上記応力−歪曲線における圧縮開始初期の曲線部分に引いた接線の傾きによって規定される保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、変曲点から歪が0.7になるまでに成形体に付与されたエネルギーとして規定される流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を採用することを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、上記坏土として、上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.12J/N/mm2以下であるものを採用することを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法において、上記混練・成形工程においては、上記混合原料の平均粒子径に対する上記坏土の平均粒子径の比(坏土の平均粒子径/混合原料の平均粒子径)によって規定される練り強さが0.85以下となるように混練を行うことを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法において、上記流動抵抗/保形力(J/N/mm2)を縦軸(y)とし、上記セル壁の厚み(μm)を横軸(x)としたとき、y=0.0013x+0.0569(65≦x≦95)の関係を満足することを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法において、上記成形工程においては、上記セル壁の厚みが75μm以下となるように上記坏土の成形を行うことを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法において、上記セラミック原料としては、コージェライト化原料を用いて、コージェライトからなる上記セラミックハニカム構造体を得ることを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項1】
外皮と、該外皮内に多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁内に区画されていると共に軸方向に沿って伸びる複数のセルとを有するセラミックハニカム構造体の製造方法において、
少なくともセラミック原料とバインダと水とを含有する混合原料を混練して坏土を作製し、該坏土を押出成形して所定の長さに切断することによりハニカム成形体を得る混練・成形工程と、
上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム構造体を得る焼成工程とを有し、
上記混練・成形工程においては、上記坏土を直径10mm、高さ10mmの円柱形状に成形してなる成形体を6mm/minの速度で圧縮し、縦軸を成形体にかかる応力(N/mm2)とし、横軸を成形体の歪として得られる応力−歪曲線について、応力0、歪0の点から上記応力−歪曲線における圧縮開始初期の曲線部分に引いた接線の傾きによって規定される保形力が0.7〜1.6N/mm2であり、変曲点から歪が0.7になるまでに成形体に付与されたエネルギーとして規定される流動抵抗が0.1〜0.2Jであり、かつ上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.15J/N/mm2以下である上記坏土を採用することを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、上記坏土として、上記保形力に対する流動抵抗の比(流動抵抗/保形力)が0.12J/N/mm2以下であるものを採用することを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法において、上記混練・成形工程においては、上記混合原料の平均粒子径に対する上記坏土の平均粒子径の比(坏土の平均粒子径/混合原料の平均粒子径)によって規定される練り強さが0.85以下となるように混練を行うことを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法において、上記流動抵抗/保形力(J/N/mm2)を縦軸(y)とし、上記セル壁の厚み(μm)を横軸(x)としたとき、y=0.0013x+0.0569(65≦x≦95)の関係を満足することを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法において、上記成形工程においては、上記セル壁の厚みが75μm以下となるように上記坏土の成形を行うことを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法において、上記セラミック原料としては、コージェライト化原料を用いて、コージェライトからなる上記セラミックハニカム構造体を得ることを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図9】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図9】
【図13】
【公開番号】特開2013−22938(P2013−22938A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163002(P2011−163002)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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