説明

セラミック基材への骨セメントの接着性を改善するための表面調整法

本発明は、骨セメントの接着性を改善するために表面が変性されているセラミック基材に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨セメントの接着性を改善するために、その表面が変性されているセラミック基材に関する。
【0002】
たとえばインプラントとして使用されるセラミック基材の表面を変性する目的は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)をベースとする市販の骨セメントの接着性を改善し、基材材料とセメントとの間の高い接着強度を得ることである。EP1202702B1には、インプラント上の三層の被覆系によってインプラントへのセメント接着性を改善できる方法が開示されている。この三層系は、(i)シリケート層(SiO2)、(ii)シランカップリング剤層、および(iii)保存ポリマー被覆層、からなっている。この場合、SiO2層の施与は、予め調整した表面へのシランカップリング剤の結合を保証するために必須である。
【0003】
本発明の課題は、たとえばインプラントとして使用されるべきセラミック基材への骨セメントの接着性を改善するための、従来技術と比較して、簡素化された表面調整法を提供することであった。
【0004】
前記課題は本発明により、主請求項に記載の特徴を有する基材によって解決される。有利な実施態様は、従属請求項に特徴付けられている。
【0005】
意外なことに、その表面に十分なヒドロキシル基(OH基)を有しているセラミック基材(このようなセラミック基材には、酸化アルミニウムセラミック、酸化ジルコニウムセラミック、および酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムとからなる異なった組成の混合セラミックが含まれる)は、相応して選択された、適切なシランカップリング剤によって直接変性できることが判明した。SiO2層を予め施与することは、本発明によれば省略することができる。本発明により適切なシランカップリング剤は、特定のシランであり、有利にはメトキシシラン、エトキシシラン、および/またはクロロシランである。この場合、これらのシランは、基材表面のOH基と反応し、その際、シランと基材との間に共有結合が生じる。
【0006】
異なったカップリング剤の効果的な結合は、水の接触角の測定、ならびに基材表面におけるケイ素含有率の測定によって証明することができた。
【0007】
セメントの接着性を改善するためにはさらに、一方では基材表面のOH基と反応し、かつ他方では、骨セメントのモノマー成分(メチルメタクリレート)と反応することができる反応性の基を少なくとも1つ有している滅菌シランカップリング剤を使用することが有利である。本発明によれば、このためには反応性のアクリレート基もしくはメタクリレート基を有している滅菌シランカップリング剤が有利であることが判明している。
【0008】
適切な、かつ滅菌されたシランカップリング剤により予め調整された表面は、滅菌シランカップリング剤の施与後に直接、市販の骨セメントと接触させることができ、これにより、滅菌シランカップリング剤のアクリレート基もしくはメタクリレート基と骨セメントのモノマー成分との間の化学反応に基づいて共有結合が生じ、この共有結合によって基材とセメントとの間での強固な結合が保証される。意外なことに、この結合は、湿った条件下、たとえば水性媒体中でも生じる。
【0009】
本発明によればさらに、適切なシランカップリング剤によって予め調整された基材表面上に、ポリマー被覆層を施与することが可能であり、これが完全に重合した後に基材表面の保護機能を満足する。この場合、本発明により保護層として有利であるものは、メチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ビスGMA(ビスフェノールAグリシジルジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、フェノール樹脂、および/またはこれらの成分の混合物をベースとする被覆層であることが判明した。この場合、保護層中に含有されている反応性の二重結合は、シランカップリング剤の二重結合と反応して、シランカップリング剤は物理的および化学的にそれ以上汚染されることがないものとなる。
【0010】
これに引き続き、シランカップリング剤およびポリマー保護層によって予め調整された基材を、適切な方法によって滅菌し、かつ滅菌包装することができる。このように滅菌され、かつ包装された基材は、汚れから保護され、品質を損なうことなく数ヶ月にわたって貯蔵するか、もしくは輸送することができる。シランカップリング剤およびポリマー被覆層によって予め調整された基材表面上に骨セメントを施与することにより、ポリマー被覆層は活性化され、これは、骨セメントのポリマー網状構造中へのポリマー被覆層のアロイ構造の形成につながる。この際に、強固に付着した、水性媒体中でも抵抗性のある結合が、骨セメントと基材材料との間に生じる。
【0011】
従って本発明はさらに、
→基材の表面がシランカップリング剤によって変性されている
セラミック基材に関する。
【0012】
特に有利には本発明によるセラミック基材は、
→基材が、その表面にヒドロキシル基(OH基)を有し、
→基材が、酸化アルミニウムセラミック、酸化ジルコニウムセラミック、または酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムとからなる異なった組成の混合セラミックであり、
→シランカップリング剤が、基材表面のOH基と共有結合を形成するシランであり、
→シランカップリング剤が、滅菌シランカップリング剤から選択されており、
→シランカップリング剤が、メトキシシラン、エトキシシラン、および/またはクロロシランから選択されており、
→滅菌シランカップリング剤は、一方では基材表面のOH基と反応し、かつ他方では、骨セメントのモノマー成分と反応することができる反応性の基を少なくとも1つ有しており、
→滅菌シランカップリング剤は、反応性のアクリレート基もしくはメタクリレート基を有している。
【0013】
さらに、本発明は、
→シランカップリング剤により予め調整されている基材表面が、さらに、完全な重合後に基材表面の保護機能を満たすポリマー被覆層を有している
セラミック基材に関する。
【0014】
特に有利であるのは、
→被覆層が、メチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ビスGMA、TEGDMA、フェノール樹脂、および/またはこれらの成分の混合物をベースとしている
ポリマー被覆層を有している本発明によるセラミック基材である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基材において、前記基材の表面が、シランカップリング剤によって変性されていることを特徴とする、セラミック基材。
【請求項2】
前記基材が、その表面にヒドロキシル基(OH基)を有していることを特徴とする、請求項1記載のセラミック基材。
【請求項3】
前記基材が、酸化アルミニウムセラミック、酸化ジルコニウムセラミック、または酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムからなる異なった組成の混合セラミックであることを特徴とする、請求項1または2記載のセラミック基材。
【請求項4】
シランカップリング剤が、基材表面のOH基により共有結合を形成するシランであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のセラミック基材。
【請求項5】
シランカップリング剤が、滅菌シランカップリング剤であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のセラミック基材。
【請求項6】
シランカップリング剤が、メトキシシラン、エトキシシランおよび/またはクロロシランから選択されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載のセラミック基材。
【請求項7】
滅菌シランカップリング剤が、一方では前記基板表面のOH基と反応し、かつ他方では、骨セメントのモノマー成分と反応することができる反応性の基を少なくとも1つ有していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載のセラミック基材。
【請求項8】
滅菌シランカップリング剤が、反応性のアクリレート基もしくはメタクリレート基を有していることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載のセラミック基材。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載のシランカップリング剤により予め調整された基材表面が、さらに、完全な重合後に前記基材表面の保護機能を満たすポリマー被覆層を有していることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載のセラミック基材。
【請求項10】
前記ポリマー被覆層が、メチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ビスGMA、TEGDMA、フェノール樹脂、および/またはこれらの成分の混合物をベースとしていることを特徴とする、請求項9記載のセラミック基材。

【公表番号】特表2013−514105(P2013−514105A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543773(P2012−543773)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070000
【国際公開番号】WO2011/083024
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(511004645)セラムテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (16)
【氏名又は名称原語表記】CeramTec GmbH
【住所又は居所原語表記】CeramTec−Platz 1−9, D−73207 Plochingen, Germany
【Fターム(参考)】