説明

セルスタック、セルフレーム、レドックスフロー電池、およびセルスタックの製造方法

【課題】従来の構成よりも電解液が漏れ難いセルスタックを提供する。
【解決手段】枠体122に一体化された双極板121を備えるセルフレーム120と電極104,105とイオン交換膜101とを複数積層した積層体を、その両側から2枚のエンドプレート210,220で挟み込み、締付軸231とナット232,233を備える締付機構230により締め付けることで構成されてなるセルスタック1である。このセルスタック1は、枠体122の中央側に電解液を閉じ込めるシール部材127よりも外側で、2枚のエンドプレート210,220の間に挟まれることで両エンドプレート210,220間の間隔を保持する保持部材10を備える。保持部材10は、セルフレーム120よりも耐クリープ性に優れ、かつ積層されるセルフレーム120の合計厚さにほぼ等しい長さを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大容量の蓄電池として利用されるレドックスフロー電池の構成部品であるセルスタック、およびそのセルスタックを利用したレドックスフロー電池、並びにセルスタックの構成部品であるセルフレーム、およびこのセルフレームを使用したセルスタックの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電や風力発電といった新エネルギーを蓄電する大容量の蓄電池の一つにレドックスフロー電池(RF電池)がある。RF電池は、正極用電解液に含まれるイオンと負極電解液に含まれるイオンの酸化還元電位の差を利用して充放電を行う電池である。図6のRF電池の動作原理図に示すように、RF電池は、水素イオンを透過させるイオン交換膜101で正極セル102と負極セル103とに分離されたセル100を備える。正極セル102には正極電極104が内蔵され、かつ正極用電解液を貯留する正極用タンク106が導管108,110を介して接続されている。同様に、負極セル103には負極電極105が内蔵され、かつ負極用電解液を貯留する負極用タンク107が導管109,111を介して接続されている。各タンク106,107に貯留される電解液は、ポンプ112,113によりセル102,103に循環される。
【0003】
上記RF電池には、通常、複数のセル100を積層させたセルスタックと呼ばれる構成が利用されている(例えば、特許文献1参照)。図7は、セルスタックの概略構成図である。このセルスタック200は、枠体122に一体化された双極板121を備えるセルフレーム120、正極電極104、イオン交換膜101、および負極電極105を、この順番で積層することで形成される。この構成の場合、隣接するセルフレーム120の双極板121の間に一つのセルが形成されることになる。このセルスタック200における電解液の流通は、枠体122に形成される給液用マニホールド123,124と、排液用マニホールド125,126により行われる。例えば、正極用電解液は、給液用マニホールド123から枠体122の一面側(紙面表側)に形成される溝を介して正極電極104に供給され、枠体122の上部に形成される溝を介して排液用マニホールド125に排出される。同様に、負極用電解液は、給液用マニホールド124から枠体122の他面側(紙面裏側)に形成される溝を介して負極電極105に供給され、枠体122の上部に形成される溝を介して排液用マニホールド126に排出される。
【0004】
上記セルスタック200は、セルフレーム120や電極104,105、イオン交換膜101を積層した積層体であるため、各部材の隙間から電解液が漏れないようにする必要がある。通常、各セルフレーム120間にOリングや平パッキンなどの環状のシール部材127を配置した状態で、積層体をその両側から2枚のエンドプレート210,220で挟み込んで締め付けることで電解液の漏れを防止している。
【0005】
図8は、セルスタックにおける積層体の締付状態を示すセルスタックの部分断面図である。積層体を締め付ける締付機構230は、締付軸231と、締付軸231の両端に螺合されるナット232,233と、ナット232とエンドプレート210の間に介在される圧縮バネ234とを備える。この締付機構230により、積層体をその積層方向に圧縮する内向きの圧力で締め付けることで、各セルフレーム120間に隙間ができないようにしている。この内向きの圧力に対して、積層体を広げる方向に作用する外向きの圧力が釣り合い、長期に亘る電解液の漏れが抑制される。外向きの圧力には、締付に対する電極104,105やセルフレーム120、シール部材127の反発力や、電解液の圧力などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−367660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の構成であっても、経年的に電解液が漏れ易くなる恐れがあった。
【0008】
RF電池では、充電も放電も行わないときには、待機電力の損失を低減するためにセルスタック200への電解液の流通を止める、あるいはセルスタック200内部での自己放電を抑制するためにセルスタック200から電解液を抜く、といった運用をする。そのような場合、外向きの圧力よりも、締付機構230による内向きの圧力の方が大きくなり、セルフレーム120に過剰な圧縮力が作用する。セルフレーム120は通常、耐食性と絶縁性を確保するために、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などで形成されており、強い圧縮力が長時間作用するとクリープ変形して薄くなる。その結果、セルスタック200における電解液のシールが不十分となる恐れがある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、従来の構成よりも電解液が漏れ難いセルスタック、そのセルスタックを利用したレドックスフロー電池を提供することにある。また、本発明の別の目的は、従来よりも電解液が漏れ難いセルスタックに使用するセルフレーム、並びにそのセルフレームを用いてセルスタックを製造するセルスタックの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、セルフレームと、正極電極と、負極電極と、イオン交換膜とを複数積層した積層体を、その両側から2枚のエンドプレートで挟み込み、締付軸とナットを備える締付機構により締め付けることで構成されてなるセルスタックに係る。セルフレームは、枠体と、枠体に一体化された双極板と、枠体に設けられ、枠体の中央側に電解液を閉じ込める環状のシール部材と、を備えている。この本発明セルスタックは、枠体におけるシール部材よりも外側の位置で、2枚のエンドプレートに挟まれることで両エンドプレート間の間隔を保持する保持部材を備える。そして、この保持部材は、セルフレームよりも耐クリープ性に優れ、かつ積層されるセルフレームの合計厚さにほぼ等しい長さを有することを特徴とする。
【0011】
本発明セルスタックの構成によれば、例えば、セルスタックへの電解液の供給を止めることで、外向きの圧力が減少した場合でも、エンドプレートに挟まれた各セルフレームに過剰な圧縮力が作用することを抑制できる。それは、2枚のエンドプレートに挟まれた保持部材によりエンドプレート間の距離が一定以下にならないように保持されているからである。
【0012】
以下、本発明セルスタックの好ましい形態、セルスタックに使用されるセルフレームの構成などについて説明する。
【0013】
本発明セルスタックの一形態として、保持部材は筒状に形成されており、その筒内部に締付機構の締付軸が貫通していることが好ましい。
【0014】
上記構成であれば、セルスタックにおける保持部材の位置決めを容易に行うことができる。また、この構成であれば、保持部材がエンドプレート間から外れることも防止できる。
【0015】
本発明セルスタックの一形態として、保持部材が複数の分割片(圧力支持部材)からなり、その圧力支持部材が各セルフレームに個別に設けられていることが好ましい。具体的には、セルフレームの枠体には、枠体の中央側に電解液を封じ込めるシール部材が嵌め込まれるシール溝が設けられているが、そのシール溝の外側に、枠体の厚さにほぼ等しい長さを有する圧力支持部材を設ける。その場合、積層された複数のセルフレームの圧力支持部材が直列に繋がることで、保持部材が形成される。ここで、圧力支持部材は、締付軸を貫通させることができる筒状であっても良いし、中実の柱状であっても良い。筒状であれ柱状であれ、各圧力支持部材は、同一の端面形状を有することが好ましい。そうすることで、各圧力支持部材の端面に作用する単位面積当たりの圧力を均一化できるからである。
【0016】
ここで、保持部材が複数の分割片ではなく一つの部材でできている場合、エンドプレートから積層体全体に作用する面圧を低減することはできるが、積層体における各セルフレームに個別に作用する面圧を制御することはできない。通常、積層体を構成する各セルフレームが完全に同一の耐クリープ性を有することはありえないし、一枚のセルフレームにおいても場所によって極わずかな耐クリープ性の違いがあるため、耐クリープ性に劣る部分に変形が生じる恐れがある。これに対して、各セルフレームに対して個別に圧力支持部材を設けておけば、その圧力支持部材で各セルフレームに作用する面圧を受けることができ、その結果、セルフレームの変形をより効果的に抑制することができる。
【0017】
また、一つの部材からなる保持部材の場合、2つのエンドプレート間で積層体を圧縮し始めてから保持部材の両端にエンドプレートが接触するまでの間、積層体を構成するセルフレームにはエンドプレートから加わる面圧が直接作用する。これに対して、各セルフレームに個別に圧力支持部材がある場合、積層体の圧縮開始から終了にかけて各セルフレームに作用する面圧を低減することができる。
【0018】
保持部材の分割片である圧力支持部材は枠体に対して着脱自在に構成されていても良い。その場合、圧力支持部材の軸方向の一端側には、圧力支持部材の軸方向と直交する方向に伸びるフランジが形成されていることが好ましい。
【0019】
圧力支持部材を枠体に対して着脱自在にすることで、圧力支持部材のみを交換することが可能になる。このような構成であれば、経年的なセルスタックの部品の交換にあたり、セルフレーム全体ではなく、圧力支持部材のみを交換すれば足りる場合に、部材の節約になる。加えて、セルフレームを廃棄処分する場合、素材ごとの分別が容易になる。また、枠体に対して着脱自在とした圧力支持部材にフランジを形成することで、枠体の厚み方向における枠体と圧力支持部材の位置合わせを容易にすることができる。
【0020】
さらに、本発明セルスタックの一形態として、圧力支持部材がセルフレームに設けられる金属製の部材である場合、枠体は、圧力支持部材の周縁を取り囲むように形成される排液溝を備えることが好ましい。この排液溝は、セルフレームの枠体に設けられるシール部材(シール溝)から外側に電解液が漏れ出したときに、その漏れ出した電解液が圧力支持部材に接触し難くなるように電解液を逃がす溝である。
【0021】
上記構成によれば、仮にシール部材(シール溝)から外側に電解液が漏れたとしても、その漏れた電解液が金属製の圧力支持部材に接触する可能性を低減できるので、電解液に蓄えられる電力が圧力支持部材を介して失われることを抑制できる。
【0022】
以上説明したセルスタックに備わるセルフレームの構成のうち、特に筒状の圧力支持部材を備えるセルフレームを使用すれば、セルスタックの製造を容易にすることができる。筒状の圧力支持部材を備えるセルフレームを使用したセルスタックの製造方法は、以下の工程を備える。
[工程A]一方のエンドプレートに締付軸を取り付けた状態とする。
[工程B]当該エンドプレート上に、筒状の圧力支持部材を備えるセルフレームを含む積層体を配置する。ここで、セルフレームに備わる圧力支持部材の筒状内部に締付軸を挿通する。
[工程C]当該積層体上に、他方のエンドプレートを配置して、締付軸をナット締めする。
【0023】
上記セルスタックの製造方法の工程Bにおける積層体の配置は、エンドプレート上に、セルフレーム、電極、イオン交換膜を一つずつ積み重ねていくことで行っても良いし、所定数のセルフレームと電極とイオン交換膜を積層して、それをエンドプレート上に載せることを繰り返すことで行っても良い。
【0024】
以上説明したセルスタックは、レドックスフロー電池(RF電池)の構成部材として利用できる。即ち、本発明RF電池は、本発明セルスタックと、セルスタックに正極用電解液を循環させる正極用循環機構と、セルスタックに負極用電解液を循環させる負極用循環機構と、を備えることを特徴とする。
【0025】
本発明RF電池の循環機構は、従来のRF電池と同様に、電解液を貯留するタンクと、タンクからセルスタックに電解液を送り込むための導管と、セルスタックからタンクに電解液を戻すための排管と、電解液を循環させるポンプなどの送液装置と、から構成される。
【0026】
本発明セルスタックは、長期に亘って電解液が漏れ難い構造であるため、このセルスタックを用いたRF電池は、安全でメンテナンスの手間が小さい。その結果、このRF電池を利用した蓄電システムの安全性を高めることができるし、当該蓄電システムのメンテナンスの手間を低減することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明セルスタックおよびセルフレームによれば、従来よりも電解液が漏れ難いRF電池を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態1に示すセルスタックの部分断面図である。
【図2】実施形態2に示すセルスタックの部分断面図である。
【図3】(A)は、実施形態1のセルスタックに使用されるセルフレームの正面図、(B)は(A)のI−I断面図、(C)は変形例における(A)のI−I断面図である。
【図4】実施形態3に示すセルスタックの部分断面図である。
【図5】実施形態4に示すセルフレームの正面図、(B)は(A)のI−I断面図である。
【図6】レドックスフロー電池の動作原理図である。
【図7】従来のセルスタックの概略構成図である。
【図8】従来のセルスタックの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明レドックスフロー電池(RF電池)の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明RF電池は、RF電池に備わるセルスタックの一部に特徴があり、それ以外の構成は、図6〜8を用いて説明した従来のRF電池と同様の構成を備える。従って、以下の実施形態では、従来のRF電池との相違点、即ち従来のセルスタックとの相違点を中心に説明し、従来と同様の構成については図6〜8と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0030】
<実施形態1>
図1に示すように、本実施形態のセルスタック1は、図8を参照した従来のセルスタック200と同様に、セルフレーム120と正極電極104と負極電極105とイオン交換膜101を適宜積層した積層体をエンドプレート210,220で挟み込み、締付機構230で締め付ける構成を備える。本実施形態のセルスタック1はさらに、エンドプレート210,220の間に挟まれる保持部材10を備える。
【0031】
保持部材10は、エンドプレート210,220で締め付けられるセルフレーム20に過剰な圧縮力が作用しないように、両プレート210,220の間隔を保持する部材である。この観点から、保持部材10は、PVCやPEでできたセルフレーム120よりも高硬度で高ヤング率の耐クリープ性に優れる材料で構成する。このような材料としては金属、特にSUSなどの合金や、セラミック、繊維強化プラスチックなどを挙げることができる。特にSUSは、耐クリープ性に優れるだけでなく、耐食性にも優れるため、好ましい。
【0032】
保持部材10の長さは、エンドプレート210,220間に挟まれるセルプレート120の合計厚さとほぼ同じ長さになっている。そのため、エンドプレート210,220間に保持部材10を配置しておけば、積層体を締め付けて圧縮する際、各セルフレーム120間にほぼ隙間ができないように積層体を圧縮することができるし、セルフレーム120の合計厚さ以上に積層体が圧縮されることを回避することができる。その結果、セルフレーム120に過剰な圧縮力が作用することを抑制し、セルフレーム120のクリープ変形を抑制することができる。なお、保持部材10の断面形状は特に限定されず、例えば、真円を含む楕円形であっても良いし、多角形であっても良い。
【0033】
また、本実施形態における保持部材10は、その内部に締付機構230の締付軸231が貫通する円筒状の部材である。保持部材10の数は、締付軸231と同じ数だけあっても良いし、締付軸231よりも少なくても良い。後者の場合、それら保持部材10は、積層体周りに均等な間隔を空けて配置することが好ましい。
【0034】
<実施形態2>
実施形態2では、実施形態1のセルスタックよりもセルフレームのクリープ変形をより効果的に抑制できるセルスタックを、図2,3に基づいて説明する。実施形態2のセルスタックは、実施形態1とは保持部材を設ける位置が異なり、その相違に伴いセルフレームの構成も異なる。
【0035】
図2に示すように、本実施形態のセルスタック2では、セルフレーム20に筒状の保持部材10が設けられ、その保持部材10の内部に締付機構230の締付軸231が貫通している。この保持部材10は、セルフレーム20に個別に設けられる分割片(圧力支持部材11)を複数直列に繋げることで形成される。各圧力支持部材11は、セルフレーム20に一体に形成されている。
【0036】
本実施形態で使用するセルフレーム20は、図3(A)に示すように、枠体22と枠体22に一体化された双極板21を備える。このセルフレーム20のうち、双極板21は従来と同様の構成を備え、枠体22は従来と異なる構成を備える。以下、枠体22の構成を詳細に説明する。
【0037】
枠体22には、従来の枠体と同様に電解液の流路となるマニホールド123〜126が形成されている。枠体22の表側(正極電極が配置される側であり、図3(A)に示される側)には、正極用の給液用マニホールド123(排液用マニホールド125)から双極板21に向かう液溝123G(液溝125G)が形成されている。一方、枠体22の裏側には、図示しないが、負極用のマニホールド124,126から双極板に向かう液溝が形成されている。
【0038】
枠体22の表側のうち、負極用のマニホールド124,126の周囲には、マニホールド124,126から枠体22の表側に負極用電解液が漏れないようにするOリングを嵌め込むための環状溝124G,126Gが形成されている。ここで、枠体22の裏側では、マニホールド123,125の周りに環状溝が形成されており、枠体22の裏側に正極用電解液が漏れないようになっている。
【0039】
上述したマニホールド123〜126、および液溝123G,125Gからなる電解液の流路の周囲には、これらの構成を取り囲んでセルフレーム20外への電解液の漏れを防止するシール機構が設けられている。本実施形態では、枠体22に形成される環状のシール溝127Gと、このシール溝127Gに嵌め込まれるOリングや平パッキンなどのシール部材127(図2参照)とで、シール機構が形成されており、シール溝127G(シール部材)の内側に電解液を封じ込める。その他、積層したセルフレーム20(枠体22)同士を熱融着させることで、シール機構を形成しても良い。その場合、枠体22に通電用の導電部材を配置し、その導電部材に通電してジュール熱で枠体22を溶融させ、枠体22同士を融着させると良い。
【0040】
さらに、枠体22の最外周には、枠体22の外方に突出する突出部22Pが形成されており、その突出部22Pには筒状の圧力支持部材11が一体に形成されている。この圧力支持部材11は、既に述べたように保持部材10を構成する筒状の分割片の一つである(図2を参照)。
【0041】
圧力支持部材11は、インサート成形により枠体22の突出部22Pに一体化された金属製の円筒体であり、図3(B)に示すようにその両端にフランジ11Fを有する。フランジ11Fを含む圧力支持部材11の軸方向の長さは、枠体22の突出部22Pの厚み、即ち枠体22の厚みに等しい。そのため、圧力支持部材11のフランジ11Fは、枠体22の突出部22Pと面一になる。また、圧力支持部材11の長さを突出部22Pの厚みに等しくすることで、積層した各セルフレーム20の圧力支持部材11が直列に繋がったときの長さ、即ち保持部材10の長さは、積層されるセルフレーム20の合計厚さに等しくなる。
【0042】
上記圧力支持部材11を各セルフレーム20に個別に設けることで、積層体全体に作用する面圧を低減できるだけでなく、各セルフレーム20に個別に作用する面圧も低減することができる。その結果、セルスタック2の使用に伴うセルフレーム20のクリープ変形を、実施形態1の構成よりも効果的に抑制することができる。
【0043】
上記圧力支持部材11が設けられる突出部22Pには、圧力支持部材11を取り囲むように設けられる排液溝22Gが形成されている(図3(A)参照)。この排液溝22Gにより、万が一、シール溝127Gの外側に電解液が漏れたときに、その電解液が圧力支持部材11に接触しないように逃がすことができ、電解液から保持部材10に電力が逃げることを防止できる。
【0044】
なお、図3とは異なり、突出部22Pを形成せずに、矩形の輪郭形状を有する枠体22の外周縁部にインサート成形で圧力支持部材11を埋め込んでもかまわない。
【0045】
ここで、本実施形態の構成では、セルスタック2の作製作業が容易になるという効果もある。そこで、セルスタック2の製造方法を以下に説明する。
【0046】
図2に示すセルスタック2を作製するには、まずエンドプレート220に締付軸231とナット233を取り付ける。
【0047】
次に、締付軸231を取り付けたエンドプレート220を地面に平行において、そのエンドプレート220上に、積層体を積み重ねる。その際、積層体に含まれるセルフレーム20には、筒状の圧力支持部材11が設けられているので、その筒内に締付軸231が挿通されるようにする。そうすることで、エンドプレート220に対する積層体の位置決めを容易に行うことができる。積層体は、エンドプレート220上に、セルフレーム20、電極104,105、イオン交換膜101を一枚ずつ積み重ねていくことで行っても良いし、所定数のセルフレーム20や電極104,105、イオン交換膜101を積層した積層体をエンドプレート220上に載せることを繰り返すことで行っても良い。
【0048】
次に、エンドプレート220上に配置した積層体の上に、エンドプレート210を配置して、締付軸231の端部にナット232を取り付ける。このとき、ナット232とエンドプレート210との間に圧縮バネ234を配置しておく。そして、2枚のエンドプレート210,220が、圧力支持部材11の集合体である保持部材10に当て止めされるまでナット232を締め込み、エンドプレート210,220間の積層体を圧縮する。
【0049】
以上説明したように、本実施形態2のセルスタック2であれば、エンドプレート210に積層体を配置すると同時にエンドプレート210に対する積層体の位置決めを行うことができる。また、セルスタック2を組み立てる際に、積層体の各構成の位置がズレ難いという利点もある。
【0050】
<変形実施形態>
実施形態1の変形実施形態として、圧力支持部材を枠体に対して着脱自在にした構成を図3(C)を参照しつつ説明する。
【0051】
図3(C)に示すように、本実施形態の圧力支持部材12は、その軸方向の一端側にのみ、圧力支持部材12の軸方向と直交する方向に延びる環状のフランジ12Fを備える。また、枠体22の突起部22Pには、圧力支持部材12のフランジ12Fの外周形状に一致する内周形状を備える大径部と、フランジ12F以外の部分の外周形状に一致する内周形状を備える小径部とからなる嵌合孔が形成されている。この構成によれば、嵌合孔に圧力支持部材12を容易に嵌め込むことができるし、枠体22に嵌め込んだ圧力支持部材12の端面と枠体22の面を面一にすることができる。なお、圧力支持部材12のフランジ12Fが鉛直上方に向いている限り、枠体22から圧力支持部材12が容易に抜け落ちることがないため、セルスタックの組立の際は、フランジ12Fを上方に向けておくと良い。
【0052】
<実施形態3>
実施形態3では、セルフレーム20に柱状の圧力支持部材13を設けたセルスタック3を、図4に基づいて説明する。
【0053】
このセルスタック3では、図3を参照して説明したセルフレーム20の突出部22Pに柱状の圧力支持部材13が埋設されている。柱状といった中実の圧力支持部材13とすることで、筒状の圧力支持部材よりも積層体を圧縮する面圧を長期に亘ってより確実に受けることができる。
【0054】
なお、本実施形態のセルスタック3では、圧力支持部材13を柱状とすることにより、圧力支持部材13に締付軸231を貫通させることができない。そのため、このセルスタック3では、締付軸231はセルフレーム20の外周側に配置されている。
【0055】
<実施形態4>
実施形態4では、既存のセルフレーム20´に、図3(C)を用いて説明した変形実施形態の圧力支持部材12を設けたセルスタックを、図5を参照しつつ説明する。
【0056】
このセルスタックでは、既存のセルフレーム20´の外周縁部に嵌合孔を形成し、その嵌合孔に圧力支持部材12を嵌め込む。圧力支持部材12は既に述べたように、その軸方向の一端側にのみ、環状のフランジ12Fを備え、この圧力支持部材12が嵌め込まれる嵌合孔は、圧力支持部材12のフランジ12Fの外周形状に一致する大径部と、フランジ12F以外の部分の外周形状に一致する小径部とを備える。
【0057】
以上説明した構成によれば、既存のセルフレーム20´であっても、圧力支持部材12を追加するだけで、セルフレーム20´のクリープ変形を効果的に抑制することができる。
【0058】
なお、本実施形態の場合も、圧力支持部材12を取り囲むように排液溝を形成し、シール溝127Gの外側に電解液が漏れたときに、その電解液が圧力支持部材11に接触しないように逃がすようにしても良い。
【0059】
本発明の実施形態は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することができる。例えば、実施形態3において、図1を参照して説明した実施形態1の保持部材10を追加しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明セルスタック、セルフレームは、蓄電システムに利用されるレドックスフロー電池に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1,2,3 セルスタック
10 保持部材
11,12,13 圧力支持部材 11F,12F フランジ
20,20´ セルフレーム
21 双極板
22 枠体 22P 突出部 22G 排液溝
123,124 給液用マニホールド
125,126 排液用マニホールド
123G,125G 液溝
124G,126G 環状溝
127 シール部材 127G シール溝
230 締付機構
231 締付軸 232,233 ナット 234 圧縮バネ
210,220 エンドプレート
100 セル
101 イオン交換膜
102 正極セル
104 正極電極
106 正極電解液用タンク 108,110 導管 112 ポンプ
103 負極セル
105 負極電極
107 負極電解液用タンク 109,111 導管 113 ポンプ
120 セルフレーム
121 双極板
122 枠体
200 従来のセルスタック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルフレームと、正極電極と、負極電極と、イオン交換膜とを複数積層した積層体を、その両側から2枚のエンドプレートで挟み込み、締付軸とナットを備える締付機構により締め付けることで構成されてなるセルスタックであって、
前記セルフレームは、枠体と、枠体に一体化された双極板と、枠体に設けられ、枠体の中央側に電解液を閉じ込める環状のシール部材と、を備えており、
枠体におけるシール部材よりも外側の位置で、2枚のエンドプレートに挟まれることで両エンドプレート間の間隔を保持する保持部材を備え、
保持部材は、セルフレームよりも耐クリープ性に優れ、かつ積層されるセルフレームの合計厚さにほぼ等しい長さを有することを特徴とするセルスタック。
【請求項2】
前記保持部材は筒状に形成されており、その筒内部に締付機構の締付軸が貫通していることを特徴とする請求項1に記載のセルスタック。
【請求項3】
前記保持部材は、各セルフレームの枠体に個別に設けられる圧力支持部材が直列に繋がることで形成されており、
圧力支持部材は、枠体の厚さにほぼ等しい長さを有し、前記締付機構の締め付けによって生じる圧力であって、積層される各セルフレームをその厚さ方向に圧縮する圧力を支持することを特徴とする請求項1または2に記載のセルスタック。
【請求項4】
前記圧力支持部材は枠体に対して着脱自在に構成され、かつ、
圧力支持部材の一端に、圧力支持部材の軸方向と直交する方向に伸びるフランジが形成されていることを特徴とする請求項3に記載のセルスタック。
【請求項5】
前記圧力支持部材は、セルフレームに設けられる金属製の部材であり、
前記枠体は、圧力支持部材の周縁を取り囲むように形成される排液溝を備え、
シール部材から外側に電解液が漏れ出したときに、漏れ出した電解液が圧力支持部材に接触し難くなるように電解液を排液溝に逃がすように構成されていることを特徴とする請求項3または4に記載のセルスタック。
【請求項6】
枠体と、枠体に一体化された双極板と、枠体の中央側に電解液を閉じ込めるシール部材が嵌め込まれるシール溝と、を備え、
正極電極、負極電極、およびイオン交換膜と共に積層されることでセルスタックを構成するセルフレームであって、
枠体におけるシール溝よりも外側に配置され、セルフレームをその厚さ方向に圧縮する圧力を支持する圧力支持部材を備え、
その圧力支持部材は、枠体の厚さにほぼ等しい長さを有することを特徴とするセルフレーム。
【請求項7】
前記圧力支持部材は、その軸方向の一端側に圧力支持部材の軸方向と直交する方向に伸びるフランジを有し、枠体に対して着脱自在に構成されていることを特徴とする請求項6に記載のセルフレーム。
【請求項8】
前記圧力支持部材は、筒状に形成されていることを特徴とする請求項6または7に記載のセルフレーム。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルスタックと、
セルスタックに正極用電解液を循環させる正極用循環機構と、
セルスタックに負極用電解液を循環させる負極用循環機構と、
を備えることを特徴とするレドックスフロー電池。
【請求項10】
セルフレームと、正極電極と、負極電極と、イオン交換膜とを複数積層した積層体を、その両側から2枚のエンドプレートで挟み込み、締付軸とナットを備える締付機構により締め付けることで構成されてなるセルスタックを製造するためのセルスタックの製造方法であって、
一方のエンドプレートに締付軸を取り付けた状態とする工程Aと、
当該エンドプレート上に、請求項8に記載のセルフレームを含む積層体を配置する工程Bと、
当該積層体上に、他方のエンドプレートを配置して、締付軸をナット締めする工程Cと、を備え、
工程Bで、セルフレームに備わる圧力支持部材の筒内部に締付軸を挿通することを特徴とするセルスタックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−99368(P2012−99368A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246770(P2010−246770)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】