説明

セルスタック及び燃料電池

【課題】セル間距離の変動及びセルの長さ方向の伸縮に対して十分に追従できる柔軟性を有し、かつセルの外側電極へ反応ガスを十分に供給できるセルスタック及び燃料電池を提供する。
【解決手段】集電部材10が、セル30のセル長さ方向Hに延設された一対の保持部材10aと、該一対の保持部材10aに、セル長さ方向Hに所定間隔を置いて掛け渡され連結された複数の連結帯10bと、該連結帯10bに複数設けられセル長さ方向Hに延設された複数の接合帯10cとを具備し、保持部材は、第1傾斜部10a1と第2傾斜部10a2とを具備し、第1傾斜部10a1と第2傾斜部10a2に折曲部25を形成し、連結帯10b及び接合帯10cが対向する燃料電池セル30の平坦側面に交互に接合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の燃料電池セル間にそれぞれ集電部材を介装し、複数の燃料電池セルを電気的に接続してなるセルスタック及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体電解質形燃料電池は、収容ケース内にセルスタックが配設されて構成されている。セルスタックは、複数の燃料電池セルを一列に配列させ隣り合う燃料電池セル同士の間に集電部材を設けることにより燃料電池セル同士を電気的に接続している。
【0003】
従来の集電部材は、比較的剛性のある構造であったが、燃料電池セルの熱応力等による反り変形に対する追従性がなく集電部材と燃料電池セルとの接着部が剥離しやすかったため、弾性を有する比較的柔軟な構造の集電部材が用いられるようになった。
【0004】
図8は、比較的柔軟な構造をもつ集電部材の幾つかの従来例を示す平面図である。図8では、2つの燃料電池セル30の間に従来の集電部材101〜103が挿入設置された状態を示している。概略的に示す燃料電池セル30は、対向する一対の平坦側面を具備する柱状であり、ガス透過性のある導電性支持体32の内部に軸方向に沿って複数の反応ガス通路31が穿設されている。反応ガス通路31には第1の反応ガスが供給される。
【0005】
図示しないが、導電性支持体32の一方の平坦側面上には内側電極、固体電解質、外側電極が順次積層され、他方の平坦側面上には、導電性セラミックスからなるインターコネクタ(内側電極と導通)が積層されている。従って、集電部材101〜103は、一方の燃料電池セル30の外側電極及び他方の燃料電池セル30のインターコネクタに対して電気的に接触している。通常、集電部材と各燃料電池セルの平坦側面の間を導電性接着剤で接着することにより固着強度を高めると共に電気抵抗を低減している。なお、燃料電池セル30の外側電極に対しては、その周囲から第2の反応ガスが供給される。従って、集電部材は、燃料電池セルに対する第2の反応ガスの流れを妨げない構造とする必要がある。
【0006】
図8(a)は、燃料電池セル30の軸方向(長さ方向)に垂直な断面がU字形の集電部材101を示す図である。断面U字形の集電部材は弾性を有するため、熱変形等による燃料電池セル間の距離の変動に対する追従性は良好であり、それによる接着部の応力発生は低減された。しかしながら、燃料電池セルの長さ方向の伸縮に対する追従性は劣るために、軸方向についての応力低減効果は十分ではなかった。
【0007】
図8(b)は、同じく断面がZ字形の集電部材102を示す図である。断面Z字形の集電部材もまた弾性を有しており、燃料電池セル間の距離変動及び長さ方向の伸縮の双方に対して集電部材にかかる応力を低減する効果がある。しかしながら、Z字形は、燃料電池セルの幅方向において非対称な形状であるため、燃料電池セル間の距離が広くなると集電部材が軸周りに回転するようにずれやすい。その結果、接着強度の低下や剥離を生じていた。
【0008】
さらに、集電部材におけるU字形やZ字形の構造の欠点は、曲げ加工の仕上がりすなわち曲げ角度にバラツキがあるために、平行であるべき部位(燃料電池セルの平坦側面に対して当接する部位)が平行とならない場合がある点である。そのような集電部材を燃料電池セル間に挿入して燃料電池セルスタックの両端に固定のための圧力を負荷しても、集電部材が十分に弾性変形しない。その結果、集電部材と燃料電池セルとの密着性が損なわれる。
【0009】
図8(c1)は、さらに別の集電部材103を示す図である。図8(c2)は、その部分斜視図である。集電部材103は、断面が平坦な筒形状であり両端部113a、113bが接合された形状であるが、平坦な側面は、2枚の帯状片111、112が交互に突出して、それぞれが燃料電池セル30の平坦側面に当接する。
【0010】
特許文献1に開示された導電性の相互接続部材は、所定の間隔を空けた複数の面部材を燃料電池セル面に平行となるように2つのセル間に配置しており、各面部材に突出部分と窪み部分を加工することで通気性を確保している。
【0011】
特許文献2に開示された集電部材は、燃料電池セルの長さ方向と平行に延びる1つの帯状体を中央に配置し、その両側長辺から複数の断面略U字状の集電片がセルの幅方向端部へ向かって突出した形態である。
【特許文献1】特表2004−502281号公報
【特許文献2】特開2003−297396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図8(a)、(b)に示した集電部材101、102では、セル間に集電部材の一部が存在しており、セル間のガス流通を邪魔し、燃料電池セルの外側電極に反応ガスを十分に供給することができないという問題があった。
【0013】
また、図8(c1)及び(c2)に示した集電部材103は、その中央部分は十分な弾性があり追従性が良好であるが、両端が長さ方向において完全に接合されているために軸方向の伸縮性が阻害される。
【0014】
特許文献1の相互接続部材は、面部材に突出と窪みを設けた3次元構造であるため剛性部材に近く、セル間の距離変動及び長さ方向の伸縮のいずれについても追従性に劣ると考えられる。
【0015】
特許文献2の集電部材も、軸方向に背骨のような帯状体が存在するために長さ方向の伸縮性が阻害される。
【0016】
本発明は、セル間距離の変動及びセルの長さ方向の伸縮に対して十分に追従できる柔軟性を有し、かつセルの外側電極へ反応ガスを十分に供給できるセルスタック及び燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のセルスタックは、対向する一対の平坦側面を具備する柱状の固体電解質形燃料電池セルを複数個配列させ、隣り合う前記燃料電池セル間を集電部材により電気的に接続したセルスタックにおいて、前記集電部材が、前記燃料電池セルのセル幅方向に所定間隔を置いて平行に、かつ前記燃料電池セルのセル長さ方向に延設された一対の保持部材と、該一対の保持部材に、前記セル長さ方向に所定間隔を置いて掛け渡され連結された複数の連結帯と、該連結帯に複数設けられ前記セル長さ方向に延設された前記燃料電池セルの平坦側面に接合する複数の接合帯とを具備するとともに、前記保持部材は、前記連結帯間が、一方の前記燃料電池セルの平坦側面から他方の前記燃料電池セルの平坦側面に延設された第1傾斜部と、他方の前記燃料電池セルの平坦側面から一方の前記燃料電池セルの平坦側面に延設された第2傾斜部とを具備し、前記第1傾斜部及び前記第2傾斜部に折曲部を形成し、前記連結帯及び前記接合帯が対向する前記燃料電池セルの平坦側面に交互に接合していることを特徴とする。
【0018】
このようなセルスタックでは、保持部材の第1傾斜部及び第2傾斜部に折曲部を形成したため、セル長さ方向への動きが強固に束縛されることがなく、燃料電池セルの熱応力等によるセル長さ方向の伸縮に対して非常に良好な追従性を有する。
【0019】
また、第1傾斜部と第2傾斜部により、対向する燃料電池セルの平坦側面同士の電気的接続が確保される一方、第1傾斜部と第2傾斜部はセル長さ方向に形成されるため、第1傾斜部と第2傾斜部を長く形成することができ、これにより燃料電池セル間の距離変動に対する良好な追従性が確保される。
【0020】
さらに、一方の燃料電池セルに接合する集電部材の接合帯と、他方の燃料電池セルに接合する集電部材の接合帯と、一対の保持部材とで、何ら遮るものがないガス通路が形成され、反応ガスの通気性が確保される。
【0021】
即ち、ガス供給不足を顕著に生じさせない為にはセル間ピッチを大きくする必要があるが、セル間ピッチを大きくすると発電モジュールが大型化し、エネルギー効率の向上を阻害する要因となる。一方、発電モジュールを小型化し、エネルギー効率を向上するためには、セル間ピッチを小さくすることが望ましいが、セル間ピッチを小さくすると、図8(b)に示すように、集電部材に、燃料電池セルの幅方向にセル間を横切る部分が形成される等の理由で、反応ガスの通気性が妨げられる。しかしながら、本発明では、集電部材の接合帯、保持部材との間には、セル間を横切るものがないガス通路が形成されるため、セル間ピッチを狭めても、反応ガスのガス通路を確実に形成できるため、通気性が確保され、この結果、発電モジュールを小型化し、エネルギー効率を向上できる。
【0022】
また、本発明のセルスタックは、前記燃料電池セル間を前記セル長さ方向に流れるガスが、前記燃料電池セルの外側電極側に向けて流れるように、前記接合帯のガス下流側が前記外側電極側に向けて折曲されていることを特徴とする。このようなセルスタックでは、ガス通路を通過する反応ガスを、十分に外側電極側に向けて供給することができ、発電性能を向上できる。
【0023】
本発明の燃料電池は、上記セルスタックを収納ケース内に収納してなることを特徴とする。このような燃料電池では、小型化及びエネルギー効率を向上できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のセルスタックでは、集電部材のセル長さ方向への動きが強固に束縛されることがなく、燃料電池セルの熱応力等によるセル長さ方向の伸縮に対して非常に良好な追従性を有するとともに、集電部材は燃料電池セル間の距離変動に対する良好な追従性を確保でき、しかも、一方の燃料電池セルに接合する集電部材の接合帯と、他方の燃料電池セルに接合する集電部材の接合帯と、一対の保持部材とで、何ら遮るものがないガス通路を形成でき、反応ガスの通気性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明のセルスタックの一部を示す一部断面図であり、隣り合う2つの燃料電池セル30とその間に設けられた集電部材10の一実施形態を示している。図2は、図1(a)のa−a線に沿った方向から見た平面図、図3は図1の側面図、図4は集電部材の斜視図である。
【0026】
概略的に示す燃料電池セル30は中空平板状であり、対向する一対の平坦側面を具備する扁平な柱状である。図1の紙面に垂直な方向が燃料電池セル30の軸方向(長さ方向H)であり、図1の上下方向を燃料電池セル30の幅方向Bとする。ガス透過性のある導電性支持体32の内部には、軸方向に沿って複数の反応ガス通路31が穿設されている。反応ガス通路31には第1の反応ガス(例えば水素リッチな燃料ガス)が供給される。
【0027】
図1には図示しないが、導電性支持体32の一方の平坦側面上には燃料極層、固体電解質、酸素極層の薄膜層が順次積層され、他方の平坦側面上には、導電性セラミックスからなるインターコネクタ(燃料極層と導通)、酸素極材料層の薄膜層が積層され、酸素極層、酸素極材料層が、燃料電池セルの平坦側面とされている。セルスタックは、複数の燃料電池セル30を一列に配列させて構成され、図1の左右方向がセルの配列方向となる。隣り合う2つの燃料電池セル30間において集電部材10は、一方の燃料電池セルの平坦側面である酸素極層と、他方の燃料電池セルの平坦側面である酸素極材料層(インターコネクタ)に対して電気的に接続されている。
【0028】
セルスタックの中の隣り合う任意の2つの燃料電池セル30を、説明の便宜上、第1燃料電池セル(または単に「第1セル」)及び第2燃料電池セル(または単に「第2セル」)と称することとする。図1において、集電部材10は、燃料電池セルのセル幅方向Bに所定間隔を置いて平行に、かつ燃料電池セルのセル長さ方向Hに延設された一対の保持部材10aと、該一対の保持部材10aに、セル長さ方向Hに所定間隔を置いて掛け渡され連結された複数の連結帯10bと、該連結帯10bに複数設けられセル長さ方向に延設された複数の接合帯10cとを具備して構成されている。
【0029】
即ち、第1セルの平坦側面に接合する連結帯10b、接合帯10cと、第1セルの一方の平坦側面から第2セルの他方の平坦側面へと傾斜して延びる保持部材10aの第1傾斜部10a1と、第2セルの他方の平坦側面から第1セルの一方の平坦側面へと傾斜して延びる第2傾斜部10a2と、第2セルの平坦側面に接合する連結帯10b、接合帯10cとを具備して構成されている。
【0030】
保持部材10aには、第1傾斜部10a1と第2傾斜部10a2とが交互に形成され、第1傾斜部10a1と第2傾斜部10a2との間には、一対の保持部材10a間に連結帯10bが掛け渡され、連結帯10の両端が保持部材10aに連結されている。この第1傾斜部10a1及び第2傾斜部10a2には、図3に示すように、それぞれ2箇所ずつ折曲部25が形成され、これにより、燃料電池セルの厚み方向への集電部材10の伸縮を容易に行うことができるとともに、長さ方向への伸縮も容易となる。
【0031】
接合帯10cは、セル長さ方向に延設されており、その形状は矩形状とされている。また、対向する一対の保持部材10aの両端同士は、長さ方向端部材10dでそれぞれ連結され、保持部材10a及び長さ方向端部材10dにより矩形枠を構成している。長さ方向端部材10dには、連結帯10bに向けて接合帯10cが形成されている。集電部材10は、一枚の合金板をプレス加工して形成されている。
【0032】
本発明では、集電部材10の保持部材10aの幅、厚みは適宜設定されるが、幅を細くし、または厚みを薄くすることにより、燃料電池セルの厚み方向への柔軟性、長さ方向への柔軟性が大きくなる。また、保持部材10aの折曲部の形成数、折曲部の角度等によっても燃料電池セルの厚み方向への柔軟性、長さ方向への柔軟性を変更できる。
【0033】
また、接合帯10cの形状は図示のような帯状が好適であるが、その帯幅及び厚さは適宜決定され、各連結帯10bの接合帯10cが必ずしも等しくなくともよい。さらに、燃料電池セルの長さ方向の場所によって、接合帯10cの帯幅、帯長さを変えてもよい。
【0034】
本発明のセルスタックでは、接合帯10cが燃料電池セルの長さ方向Hに分割して、燃料電池セル30の平坦側面に接合され、長さ方向全体に亘って接合されていないため、また、保持部材10aの第1傾斜部10a1及び第2傾斜部10a2に折曲部25を形成したため、セル長さ方向Hへの動きが束縛されることがなく、燃料電池セルの熱応力等によるセル長さ方向の伸縮に対して非常に良好な追従性を有する。
【0035】
また、第1傾斜部10a1及び第2傾斜部10a2により、対向する燃料電池セル30の電気的接続が確保される一方、第1傾斜部10a1及び第2傾斜部10a2はセル長さ方向に形成されるため、従来のように、セルの幅に規制されることなく、第1傾斜部10a1及び第2傾斜部10a2を長く形成することができ、これにより燃料電池セル間の距離変動に対する良好な追従性(燃料電池セルの厚み方向への追従性)が確保される。
【0036】
さらに、図1に示すように、一方の燃料電池セル30に接合する接合帯10cと、他方の燃料電池セル30に接合する集電部材10の接合帯10cと、一対の保持部材10aとで、燃料電池セル間をセル長さ方向Hに貫く、何ら遮るものがない反応ガス通路Aが形成され、反応ガスの通気性が確保される。これにより、セル間ピッチを狭めても、反応ガスのガス通路Aを確実に形成できるため通気性が確保され、この結果、発電モジュールを小型化し、エネルギー効率を向上できる。
【0037】
図1の(b)、図3の(b)は、本発明のセルスタックの他の形態を示すもので、図1の(b)、図3の(b)に示すように、燃料電池セル30間をセル長さ方向Hに流れる酸素含有ガスを、燃料電池セル30の酸素極層側に向けて流れるように、接合帯10cのガス下流側が酸素極層側に向けて折曲され、折曲部10c1が形成されている。これにより、ガス通路Aを通過する酸素含有ガスを、十分に酸素極層側に向けて供給することができ、発電性能を向上できる。
【0038】
図5、6は、集電部材10の燃料電池セル30への接合構造について詳細に示すもので、集電部材10は、Crを含有する合金からなる耐熱性合金(以下、集電基材という。)201の表面に、Znを含む材料からなる表面層202を設けて構成されている。ここで、表面層202は、Cr拡散防止層202aと被覆層202bとがこの順に集電基材201の表面に積層されるように構成される。
【0039】
集電基材201としては、導電性及び耐熱性の高いCrを10〜30質量%含有する合金、例えばFe−Cr系合金、Ni−Cr系合金等が用いられる。また、Cr拡散防止層202aは、スピネル構造、コランダム構造、ウルツ鉱構造及び岩塩構造のうち少なくとも一種、またはこれらと類似の構造を持つ金属酸化物である。特に、Cr拡散防止層202aはZn−Mn系スピネルからなるもので、Fe、Cr等の元素を含有してもよい。Cr拡散防止層202aはZn−Mn系スピネル、例えば、(Zn,Mn)Mnから形成される。ZnとMnを含む金属酸化物はCrを固溶しにくいために、Crの拡散を抑制する効果を有している。
【0040】
Cr拡散防止層202aと被覆層202bとの界面に元素として亜鉛を含有する導電層が設けられているのでもよい。この導電層はZnOを含有するものであり、純粋なZnOは絶縁体であるが、Zn1+δOは陽イオン過剰型のn型半導体となり、価数の高い不純物元素を添加することによっても、n型の不純物半導体となる。ここで、ZnO中のZnは、+2価のイオンとなっているため、+3価以上のイオンとなる金属元素を固溶させることによって導電性が付与される。+3価以上のイオンとなる金属元素としては、特にAl、Feが望ましい。Al、Feを固溶させた酸化亜鉛からなる導電層は、大気中、発電温度近傍550℃〜900℃で、1S・cm−1以上の導電率を有することが好ましい。
【0041】
被覆層202bは、燃料電池セルの酸素極層を構成する成分の少なくとも一部を含有するペロブスカイト構造の複合酸化物及び亜鉛酸化物を含有するもので、具体的にはLaとFe又はMnとを含有するペロブスカイト型複合酸化物及び亜鉛酸化物を含有する。さらに具体的には、酸素極層の形成等に用いられるペロブスカイト型複合酸化物、例えば、LaFeO系、LaMnO系と、ZnOから構成することができる。
【0042】
このような被覆層202bは、酸素極層に用いられるLaFeO系、LaMnO系と、Cr拡散防止層202a、導電層に用いられるZnOを含有するため、被覆層202bが酸素極層と集電基材のCr拡散防止層202a、導電層との中間の熱膨張係数を有することになり、燃料電池セル30と集電部材10との接合信頼性を向上でき、電圧低下の少ない長期信頼性に優れた燃料電池を得ることができる。
【0043】
集電基材201中のCrは気化し外部に拡散してしまうので、Cr拡散防止層202aは、集電基材201の少なくとも表面全面を覆うように、緻密に設けることが好ましい。
【0044】
Cr拡散防止層202aは2μm以下、特には1μm以下であれば、ある程度絶縁性であっても集電部材10としての導電性に影響を与えることがない。
【0045】
本発明のCr拡散防止層202aは、ディッピングによる場合は、Zn又はZnOを含有するペースト中に集電基材201を浸漬し、熱処理により、或いは発電時の加熱により形成することができる。
【0046】
即ち、Cr拡散防止層202aがZn−Mn系スピネルからなる場合には、例えば、Mnを含有する集電基材201を用いて、これを、例えば、Zn又はZnOとFe又はAlとを含有するペースト中に浸漬し、熱処理することにより、集電基材201表面にZn−Mn系スピネルからなるCr拡散防止層202aが形成され、このCr拡散防止層202a表面にZnO中にFe又はAlを含有する導電層を形成することができる。
【0047】
また、Mnを含有しない集電基材201を用いる場合、これを、例えば、Zn又はZnOと、Fe又はAlと、Mnを含有するペースト中に浸漬し、熱処理することにより、Zn−Mn系スピネルからなるCr拡散防止層202aが形成され、ZnO中にFe又はAlを含有する導電層を形成することもできる。
【0048】
さらに、集電基材201にZn−Mn系スピネルからなるCr拡散防止層202aを形成した後、Cr拡散防止層202aが形成された集電基材201を、例えば、Zn又はZnOと、Fe又はAlとを含有するペースト中に浸漬し、熱処理することにより、Zn−Mn系スピネルからなるCr拡散防止層202a上に、ZnO中にFe又はAlを含有する導電層を形成することもできる。
【0049】
導電層の表面に被覆層202bを形成する場合には、酸素極層の形成等に用いられるペロブスカイト構造、LaFeO系、LaMnO系と、ZnOとを含有するペースト中に浸漬し、熱処理することにより形成することができる。
【0050】
尚、Cr拡散防止層202aの表面に被覆層202bを形成する場合には、Zn−Mn系スピネルを含有するペースト中に集電基材201を浸漬し、熱処理してCr拡散防止層202aを形成した後、酸素極層の形成等に用いられるペロブスカイト構造、LaFeO系、LaMnO系と、ZnOとを含有するペースト中に浸漬し、熱処理することにより形成することができる。
【0051】
Cr拡散防止層202aは、ディッピング(Cr拡散防止層用の亜鉛を含有する液中に集電基材を浸漬する浸漬塗布法)に加え、メッキ、蒸着等の方法を用いて形成されるが、コスト的にはディッピングが望ましい。
【0052】
導電層の厚みは、集電基材201の耐用時間にもよるが、ディッピングの場合、1〜100μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。厚さを5μm以上とすることにより、エアーの巻き込みなどによる空隙発生を防止できる。又、厚さを50μm以下とすることにより、集電基材201との熱膨張差による内部応力を最小限に抑制できると共に、導電性の低下を抑制し、形成を容易にすることができる。
【0053】
燃料電池セル30は、図7に示すように、中空平板型であり、平板状の支持体32と、平板状の支持体32の周囲に設けられた燃料極層30a、固体電解質層30b、酸素極層30c、インターコネクタ30d、及び酸素極材料層30eとを備え、支持体32は、さらに内部に、燃料電池セル1の積層方向に交わる方向(セル長さ方向)に伸びた複数の燃料ガス通路31を有するように構成される。尚、図1においては、セルの一方の平坦側面として酸素極層30cが、他方の平坦側面として酸素極材料層30eが形成された状態を示した。
【0054】
支持体32は、例えば、多孔質かつ導電性の材料からなり、図7に示すように横断面が平坦側面と平坦側面の両端の弧状部とからなっている。対向する平坦側面の一方とその両端の弧状部を覆うように多孔質の燃料極層30aが設けられており、この燃料極層30aを覆うように、緻密質な固体電解質層30bが積層されており、さらに、この固体電解質層30bの上には、燃料極層30aに対向するように、多孔質の導電性セラミックからなる酸素極層30cが積層されている。また、支持基板32の電極層30a、30cが設けられた面に対向する平坦側面には、緻密なインターコネクタ30dが形成されている。このインターコネクタ30dの表面には、酸素極材料からなる酸素極材料層30eが形成されている。ここで、酸素極材料は、例えばペロブスカイト構造のLa(Fe,Mn)O、(La,Sr)(Co,Fe)O等の酸化物からなる。ただし、この酸素極材料層30eについては必ずしも形成する必要はない。燃料極層30a及び固体電解質層30bは、図7に示すように、インターコネクタ30dの両サイドまで延び、支持体32の表面が外部に露出しないように構成されている。
【0055】
このような構造の燃料電池セル30は、燃料極層30aの酸素極層30cと対面している部分が燃料極として作動して発電する。即ち、酸素極層30cの外側に空気等の酸素含有ガスを流し、且つ支持体32内のガス通路31に燃料ガス(水素)を流し、所定の作動温度まで加熱することにより、酸素極層30cで下記の式(1)の電極反応が生じ、また燃料極層30aの燃料極となる部分では例えば下記の式(2)の電極反応が生じることによって発電する。
【0056】
酸素極: 1/2O+2e → O2− (固体電解質) (1)
燃料極: O2− (固体電解質)+ H → HO+2e (2)
かかる電極反応によって発生した電流は、支持体32に取り付けられているインターコネクタ30dを介して集電される。
【0057】
そして、このような複数の燃料電池セル30の間には、図1、3に示すように、集電部材10が介装されて電気的に接続され、これによりセルスタックが構成されている。即ち、集電部材10の連結帯10b、接合帯10cが、一方の燃料電池セル30の酸素極層30cに接合されると共に、隣設する他方の燃料電池セル30の酸素極材料層30eに接合され、これにより、複数の燃料電池セル30が電気的に直列に接続され、セルスタックが構成されている。
【0058】
酸素極層30cは、固体電解質層30b上に形成された第1酸素極層30c1と、該第1酸素極層30c1上に設けられた第2酸素極層30c2とを具備して構成されている。第1酸素極層30c1は第2酸素極層30c2よりも微粒な導電性セラミック粒子から形成されており、板状の集電部材10(連結帯10b、接合帯10c)の一方側主面が第1酸素極層30c1に接合し、集電部材10(連結帯10b、接合帯10c)の側面が第2酸素極層30c2に接合している。
【0059】
第1酸素極層30c1は、平均粒径が1μm以下の導電性セラミック粒子から構成され、厚み20μm以下とされている。また、第1酸素極層30c1の緻密度は、第2酸素極層30c2よりも高く設定されており、言い換えれば、第1酸素極層30c1の気孔率は、第2酸素極層30c2よりも低くされている。
【0060】
このようなセルスタックでは、緻密な固体電解質層30b上に微粒な導電性セラミック粒子からなる第1酸素極層30c1が強固に接合しており、このような第1酸素極層30c1上に集電部材10の主面が接合されているため、集電部材10の固体電解質層30bへの接合強度を向上できる。尚、酸素極層30cとしての厚みが不足する場合には、第1酸素極層30c1と第2酸素極層30c2との間に、第2酸素極層30c2と同一材料からなる中間層を形成することもできる。
【0061】
また、第2酸素極層30c2に集電部材の側面が接合しており、これにより、さらに板状集電部材の固体電解質層への接合強度を向上できる。尚、集電部材の側面には、第2酸素極層30c2のメニスカスが形成されているが、図6では簡略化して記載した。このメニスカスによっても、集電部材10の酸素極層30cへの接合強度を向上できる。また、図6では、理解を容易にするため、集電部材10の厚みを誇張して記載した。
【0062】
第1酸素極層30c1、第2酸素極層30c2としては、La及びFeを含有するペロブスカイト型複合酸化物、例えばペロブスカイト構造の(La,Sr)(Co,Fe)Oを用いることができ、この複合酸化物を用いることにより、第1酸素極層30c1が多少緻密質であったとしても、酸素極としての機能を有することができる。
【0063】
また、集電部材10は、一方の燃料電池セル30の酸素極層30cに接合されるが、隣設する他方の燃料電池セル30の酸素極材料層30eにも接合される。集電部材10の酸素極材料層30eへの接合は、酸素極材料層30e表面に形成された、第2酸素極層30c2と同様の接合層45に集電部材10を埋設し、その側面を接合層45に接合することにより行われる。
【0064】
ここで、各部材の熱膨張率について説明すると、750℃において、燃料電池セルの酸素極材料として一般に用いられるLaFeO系の熱膨張率は15〜17×10−6/℃、LaMnO系は10〜11×10−6/℃であり、インターコネクタとして用いられるLaCrO系は14×10−6/℃程度であり、集電部材10については、集電基材201は11×10−6/℃程度、Zn−Mn系スピネルからなるCr拡散防止層202a、ZnO中にFe又はAlを含有する導電層は6〜8×10−6/℃である。
【0065】
従って、燃料電池セル30と集電部材10を接合した場合には、その界面に熱膨張差に基づく応力が発生するが、被覆層202bが、酸素極層30cの形成等に用いられるペロブスカイト構造、LaFeO系、LaMnO系と、ZnOとを含有するため、その比率を変化させることにより、酸素極層30cと集電基材201との中間の所望の熱膨張率を有することができ、燃料電池セル30と集電部材10の接合信頼性を向上することができる。
【0066】
セルスタックの製造方法について説明する。先ず、燃料電池セルの固体電解質層の表面に、(La,Sr)(Co,Fe)O等の空気極材料を含有するスラリーをスクリーン印刷にて塗布し、所定温度で焼き付けて第1酸素極層30c1を形成する。この後、第1酸素極層30c1の表面、及びインターコネクタ30dの酸素極材料層30e表面に、(La,Sr)(Co,Fe)O等の空気極材料を含有するスラリーをスクリーン印刷にて塗布し、この状態で、複数の燃料電池セル間に集電部材10を配置し、両側から押圧することにより、集電部材10が第1酸素極層30c1に当接するとともに、第2酸素極層、接合層の塗布膜中に埋設され、この状態で、第1酸素極層30c1の焼き付け温度よりも低い温度で、第2酸素極層、接合層を焼き付け、本発明のセルスタックを形成することができる。
【0067】
このようなセルスタックは、図示しないが燃料ガスが供給されるマニホールドに配置され、マニホールド内に供給された燃料ガスが燃料電池セル30のガス通路31内を通過していくことになる。
【0068】
燃料電池は、上記のセルスタックを収納容器内に収容し、この収納容器に、都市ガス等の燃料ガスを供給する燃料ガス導入管及び空気を供給するための空気導入管を配設することにより構成される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明のセルスタックの一部を示す断面図であり、図2のb−b線に沿う断面図である。
【図2】図1(a)のa−a線に沿った平面図である。
【図3】図1の側面図である。
【図4】集電部材の斜視図である。
【図5】集電部材の一部拡大断面図である。
【図6】燃料電池セルに集電部材が接合されている状態を示すセルスタックの縦断面図である。
【図7】燃料電池セルの断面斜視図である。
【図8】従来のセルスタックを示す説明図である。
【符号の説明】
【0070】
10 集電部材
10a 保持部材
10b 連結帯
10c 接合帯
30 燃料電池セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の平坦側面を具備する柱状の固体電解質形燃料電池セルを複数個配列させ、隣り合う前記燃料電池セル間を集電部材により電気的に接続したセルスタックにおいて、前記集電部材が、前記燃料電池セルのセル幅方向に所定間隔を置いて平行に、かつ前記燃料電池セルのセル長さ方向に延設された一対の保持部材と、該一対の保持部材に、前記セル長さ方向に所定間隔を置いて掛け渡され連結された複数の連結帯と、該連結帯に複数設けられ前記セル長さ方向に延設された前記燃料電池セルの平坦側面に接合する複数の接合帯とを具備するとともに、前記保持部材は、前記連結帯間が、一方の前記燃料電池セルの平坦側面から他方の前記燃料電池セルの平坦側面に延設された第1傾斜部と、他方の前記燃料電池セルの平坦側面から一方の前記燃料電池セルの平坦側面に延設された第2傾斜部とを具備し、前記第1傾斜部及び前記第2傾斜部に折曲部を形成し、前記連結帯及び前記接合帯が対向する前記燃料電池セルの平坦側面に交互に接合していることを特徴とするセルスタック。
【請求項2】
前記燃料電池セル間を前記セル長さ方向に流れるガスが、前記燃料電池セルの外側電極側に向けて流れるように、前記接合帯のガス下流側が前記外側電極側に向けて折曲されていることを特徴とする請求項1記載のセルスタック。
【請求項3】
請求項1又は2記載のセルスタックを収納ケース内に収納してなることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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