説明

セルソータ、フローサイトメータ、及び、細胞分別方法

【課題】分別対象物を分別する際に、分別対象物に与える損傷を低減する。
【解決手段】分別対象物を含むサンプルから分別対象物を分別するセルソータである。このセルソータは、内部にサンプルを導入するサンプル導入口と、内部にガスを導入するガス導入口と、サンプルとガスとを排出する排出口と、を備える管と、管に形成され、かつ、交流電圧が印加されることにより、ガスを用いてプラズマを生成し、排出口からサンプルが排出される方向を制御する一対の電極と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分別対象物を含むサンプルから分別対象物を分別するセルソータ、フローサイトメータ、及び、細胞分別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、癌などの研究における細胞や染色体の解析には、顕微鏡が用いられていた。しかし、顕微鏡を用いて大量のデータを統計的に検討するには、多くの手間と時間がかかる。そのため、短時間で大量の細胞や染色体を解析するために、フローサイトメータが用いられている。
フローサイトメータを用いる方法では、蛍光で染色された細胞などを含むサンプルにレーザ光を照射し、大量のサンプルの各々が発する蛍光や散乱光を測定する。これにより、大量のサンプルに対するデータを容易に得ることができる。フローサイトメータは、医療分野の研究などに広く利用されている。
【0003】
ところで、医療分野では、再生細胞ともいわれる幹細胞(stem cell)を用いた治療に大きな期待が寄せられている。幹細胞とは、生体を構成する細胞の生理的な増殖・分化などの過程において、自己増殖能と、特定の機能を持つ細胞に分化する能力とをあわせ持つ細胞である。すなわち、幹細胞は、自分自身が増える複製能力と、他の細胞になる能力を備えている。
幹細胞には、胚から取り出される胚性幹細胞(ES細胞)、成人から取り出される成体幹細胞、胎児から取り出される胎児性幹細胞など、様々な種類がある。けがや病気で傷んだ臓器などの細胞にこの幹細胞を分化させることができれば、移植して修復に用いることができるため、再生医療の分野で研究が盛んに行われている。
【0004】
胚性幹細胞や胎児性幹細胞などから幹細胞を取り出すには、胚を壊す(殺す)必要があるという倫理的な問題がある。このため、現在の再生医療に関する研究の多くは、生きている人(子供又は成人)から、その体を傷つけることなく幹細胞を採取することができる成体幹細胞に関するものである。成体幹細胞の研究を行うためには、多くの成体幹細胞が必要となる。
【0005】
成体幹細胞は、骨髄や血液、目の角膜や網膜、肝臓、皮膚などで見つかるものであるが、一般に、採取した大量の細胞サンプルの中からごく微量しか見つけることはできない。例えば、骨髄間質の中には、骨、軟骨、脂肪、筋肉、腱、神経など多くの組織に分化できる間葉系幹細胞と呼ばれる細胞が存在し、病気や外傷などによる組織欠損に対する再生医療において注目されている。しかし、この細胞は、骨髄中には10万個に1個の割合でしか存在しない。そのため、欠損組織の再生を行うためには、体外で細胞を培養し、細胞を増やす必要がある。
一般に、大量の細胞サンプルの中に含まれる微量の幹細胞を短時間で分離・抽出するため、フローサイトメータを用いた細胞の分離・回収システム(セルソータ)が用いられている。
【0006】
例えば、周囲をシース液で包まれたサンプル液がノズルからジェット流として吐出され、超音波振動子がジェット流に振動を与えることにより略均一な粒径の液滴を形成するセルソータが知られている(特許文献1)。このセルソータは、所望の細胞を含む液滴を帯電させ、偏向電極に電圧を印加することで所望の細胞を捕集することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−288896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来のセルソータは、超音波振動子がジェット流に振動を与えることにより、生細胞が損傷を受ける可能性がある。また、液滴を帯電させ、液滴に電場を印加することにより、生細胞が損傷を受ける可能性がある。
従来のセルソータは、超音波振動子による振動と電場を印加することによる帯電の両方の原因により、生細胞が損傷を受ける可能性がより高くなっていた。
【0009】
本発明は、分別対象物を分別する際に、分別対象物に与える損傷を低減することができるセルソータ、フローサイトメータ、及び、細胞分別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のセルソータは、分別対象物を含むサンプルから分別対象物を分別するセルソータであって、内部に前記サンプルを導入するサンプル導入口と、内部にガスを導入するガス導入口と、前記サンプルと前記ガスとを排出する排出口と、を備える管と、前記管に形成され、かつ、交流電圧が印加されることにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記排出口から前記サンプルが排出される方向を制御する一対の電極と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、前記管の管壁は誘電体であり、前記一対の電極の一方の電極は前記管の内部に形成され、前記一対の電極の他方の電極は前記管壁の内部に形成されることが好ましい。
【0012】
また、前記サンプルは、前記サンプル導入口から液流として導入され、前記一対の電極を第1電極対とすると、第1電極対よりも前記管の上流に形成され、かつ、交流電圧が印加されることにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記サンプル導入口から導入された前記サンプルを液滴化する一対の電極からなる第2電極対を備えることが好ましい。
【0013】
また、前記ガスは、ヘリウム、アルゴン、又は、窒素であることが好ましい。
【0014】
本発明のフローサイトメータは、分別対象物を含むサンプルが内部を流れるフローセルと、前記フローセル内を流れる前記サンプルにレーザ光を照射するレーザ光源部と、前記サンプルが前記レーザ光に照射された際に発せられる光を受光する受光部と、前記受光部が受光した光に基づいて、前記レーザ光を照射された前記サンプルが、前記分別対象物を含むか否かを判別する判別部と、内部に前記サンプルを導入するサンプル導入口と、内部にガスを導入するガス導入口と、前記サンプルと前記ガスとを排出する排出口と、を備える管と、前記管に形成され、かつ、交流電圧が印加されることにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記排出口から前記サンプルが排出される方向を制御する一対の電極と、を備えるセルソータと、前記判別部が判別した結果に基づいて、前記一対の電極に交流電圧を印加するか否かを制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、前記サンプルは、前記サンプル導入口から液流として導入され、前記セルソータは、前記一対の電極を第1電極対とすると、第1電極対よりも前記管の上流に形成され、かつ、交流電圧が印加されることにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記サンプル導入口から導入された前記サンプルを液滴化する一対の電極からなる第2電極対を備え、前記制御部は、前記受光部が受光した光に基づいて、第2電極対に交流電圧を印加することが好ましい。
【0016】
本発明の細胞分別方法は、目的細胞を含むサンプルをフローセルの内部に流す工程と、
前記フローセル内を流れる前記サンプルにレーザ光を照射する工程と、前記サンプルが前記レーザ光に照射された際に発せられる光を受光する受光工程と、前記受光工程において受光された光に基づいて、前記レーザ光を照射された前記サンプルが、前記目的細胞を含むか否かを判別する判別工程と、ガスが内部を流れ、交流電圧が印加される一対の電極を備えるセルソータの内部に前記サンプルを導入する工程と、前記判別工程において判別された結果に基づいて、前記一対の電極に交流電圧を印加することにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記セルソータから前記サンプルが排出される方向を制御する工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明のセルソータは、分別対象物を含むサンプルから分別対象物を分別するセルソータであって、内部に前記サンプルを液流として導入するサンプル導入口と、内部にガスを導入するガス導入口と、前記サンプルと前記ガスとを排出する排出口と、を備える管と、前記管に形成され、かつ、交流電圧が印加されることにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記サンプル導入口から導入された前記サンプルを液滴化する一対の電極と、液滴化された前記サンプルを分別する分別部と、を備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の細胞分別方法は、ガスが内部を流れ、交流電圧が印加される一対の電極を備えるセルソータの内部に目的細胞を含むサンプルを液流として導入する工程と、前記一対の電極に交流電圧を印加することにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記フローセルの内部に導入された前記サンプルを液滴化する工程と、液滴化された前記サンプルを分別する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のセルソータ、フローサイトメータ、細胞分別方法によれば、分別対象物を分別する際に、分別対象物に与える損傷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施形態のフローサイトメータの一例を示す概略構成図である。
【図2】第1の実施形態のセルソータの部分断面図である。
【図3】図2のA−A線に沿った断面図である。
【図4】プラズマアクチュエータの原理を説明する図である。
【図5】一対の電極に印加される交流電圧の一例を示す図である。
【図6】第2の実施形態のフローサイトメータの一例を示す概略構成図である。
【図7】第2の実施形態のセルソータの部分断面図である。
【図8】図7のB−B線に沿った断面図である。
【図9】第3の実施形態のフローサイトメータの一例を示す概略構成図である。
【図10】第3の実施形態のセルソータの部分断面図である。
【図11】変形例2における、図7のB−B線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のセルソータ、フローサイトメータ、細胞分別方法について、実施形態に基づいて説明する。
<第1の実施形態>
本実施形態では、生細胞を含むサンプルから目的の生細胞を分別するセルソータを備えるフローサイトメータについて説明する。なお、以下の説明では、サンプルに含まれる分別対象物となる生細胞を「目的生細胞」と呼び、目的生細胞以外の生細胞を「不要生細胞」と呼ぶ。
まず、図1を参照して、本実施形態のフローサイトメータの構成について説明する。図1は、本実施形態のフローサイトメータの一例を示す概略構成図である。フローサイトメータは、不要生細胞と目的生細胞とを含むサンプルにレーザ光を照射し、レーザ光が照射される位置を通過するサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別する。フローサイトメータは、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別した結果に基づいて、サンプルが滴下する方向を制御し、目的生細胞を分別する。
図1に示されるように、本実施形態のフローサイトメータは、フロー部10と、光学検出部40と、データ処理部50と、セルソータ60と、制御部100と、を備える。
【0022】
(フロー部)
まず、フロー部10について説明する。フロー部10は、目的生細胞(例えば、成体幹細胞)を含むサンプルの液流を形成する。
図1に示されるように、本実施形態のフロー部10は、液体供給装置12と、配管18と、超音波振動子20と、サンプル液管22と、シース液管26と、フローセル28と、を備える。
【0023】
液体供給装置12は、サンプル液タンク14と、シース液タンク16と、を備える。サンプル液タンク14は、不要生細胞と目的生細胞とを含むサンプルを収容する。後述するように、光学検出部40は、レーザ光を照射されたサンプルの発光から、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別するため、サンプル液タンク14に収容されるサンプルに含まれる生細胞32には、予め蛍光色素34が付与されている。蛍光色素34は、例えば、CFP(Cyan Fluorescent Protein)、YFP(Yellow Fluorescent Protein)などが用いられる。
シース液タンク16はシース液を収容する。サンプル液タンク14とサンプル液管22とは、配管18で接続されている。また、シース液タンク16とシース液管26とは、配管18で接続されている。
【0024】
液体供給装置12は、不図示のエアポンプを備える。エアポンプを用いてサンプル液タンク14に収容されているサンプルを加圧することにより、液体供給装置12は、配管18を介してサンプル液管22にサンプルを供給する。また、エアポンプを用いてシース液タンク16に収容されているシース液を加圧することにより、液体供給装置12は、配管18を介してシース液管26にシース液を供給する。
液体供給装置12がサンプルやシース液を加圧する大きさは、制御部100により制御される。
【0025】
サンプル液管22の吐出口24から吐出されたサンプルは、シース液に囲まれ、フローセル28の内部を流れる。フローセル28の直径は、例えば、100μmである。フローセル28の内部では、シース液に囲まれたサンプルは流体力学的絞り込みを受け、サンプルは細い液流となる。このとき、サンプルの速度は調整されるため、細い液流の中に細胞を一列に流すことができる。
超音波振動子20は、シース液管26の上流側に設けられている。超音波振動子20は、サンプル液管22の内部を流れるサンプルに超音波振動を与え、フローセル28の吐出口30から吐出されるサンプルを液滴化する。
【0026】
(光学検出部)
次に、光学検出部40について説明する。光学検出部40は、サンプルにレーザ光を照射し、その時に発せられる散乱光や蛍光を受光する。光学検出部40が受光した光の情報は、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かをデータ処理部50が判別する際に用いられる。
図1に示されるように、光学検出部40は、レーザ光源部42と、受光部44,46と、を備える。
【0027】
レーザ光源部42は、フローセル28の内部を流れるサンプルにレーザ光を照射する。レーザ光源部42は、例えば、固体レーザや半導体レーザが用いられる。レーザ光源部42が照射するレーザ光の波長や強度、レーザ光を照射するタイミングなどは、制御部100により制御される。
【0028】
受光部44は、フローセル28にレーザ光が照射される位置を基準として、レーザ光源部42と反対側に配置される。受光部44は、サンプルにレーザ光が照射された際に発せられる前方散乱光を受光する。受光部44は、例えば、フォトダイオードなどの光電変換器を備える。受光部44は、受光した前方散乱光を電気信号に変換して出力する。
受光部44が出力する電気信号は、フローセル28にレーザ光が照射される位置をサンプルが通過するタイミングを知らせるトリガ信号として用いられる。
【0029】
受光部46は、フローセル28にレーザ光が照射される位置を基準として、レーザ光源部42からレーザ光が照射される方向とフローセル28内をサンプルが流れる方向の相互に垂直な方向に配置される。受光部46は、サンプルにレーザ光が照射された際にサンプルから発せられる蛍光を受光する。受光部46は、例えば、光電子増倍管などの光電変換器を備える。受光部46は、受光した蛍光を電気信号に変換して出力する。
受光部46が出力する電気信号は、フローセル28にレーザ光が照射される位置を通過するサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別するための信号として用いられる。
【0030】
(データ処理部)
次に、データ処理部50について説明する。データ処理部50は、光学検出部40が受光した光の情報を用いて、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別する。
図1に示されるように、データ処理部50は、データ取得部52と、判別部54と、を備える。
【0031】
データ取得部52は、受光部44,46から出力される電気信号の入力を受け、この電気信号をAD変換してデジタル信号として出力する。
判別部54は、データ取得部52から出力される信号を用いて、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別する。例えば、判別部54は、レーザ光を照射されたサンプルの蛍光色素の量を示す情報を求める。また、判別部54は、求めた蛍光色素の量を示す情報に基づいて、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別する。例えば、目的生細胞と不要生細胞の蛍光色素の量が異なる場合、蛍光色素の量がある閾値より大きいか小さいかによって、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別することが可能となる。
判別部54は、判別結果を制御部100に出力する。
【0032】
(セルソータ)
次に、セルソータ60について説明する。セルソータ60は、制御部100からの制御信号に基づき、フローセル28の吐出口30から吐出される液滴化されたサンプルが滴下する方向を制御する。
図1に示されるように、セルソータ60は、管62と、一対の電極68と、を備える。
【0033】
管62は、サンプル導入口64と、ガス導入口66と、排出口67と、を備える。管62の直径は、数mmである。管62の管壁は誘電体であることが好ましい。例えば、管62は合成石英で形成される。サンプル導入口64にフローセル28が挿入される。超音波振動子20によって超音波振動を与えられることにより、サンプルは液滴化され、フローセル28の吐出口30から吐出される。液滴化されたサンプルは、管62の内部を流れる。
【0034】
また、ガス導入口66はガス供給部80と接続され、ガスが管62の内部を流れる。図1に示されるように、フローセル28の吐出口30の周囲をガスが流れるようにガス導入口66は形成される。
ガス供給部80は、化学的な反応が生じにくいガスをセルソータ60に供給する。ガス供給部80は、例えば、ヘリウム、アルゴン、又は窒素等の不活性ガスを供給する。また、ガス供給部80は、制御部100と接続されている。ガス供給部80が供給するガスの流量は、制御部100により制御される。ガス供給部80が供給するガスの流速は、フローセル28を流れるサンプルの流速よりも速いことが好ましい。
また、管62の下流側には、液滴化されたサンプルやガスを排出する排出口67が形成されている。
【0035】
また、管62の下流側において、管62の径は次第に大きくなる。本実施形態のセルソータ60は、管62の径が次第に大きくなる位置に、一対の電極(以下、本実施形態において「第1電極対」と呼ぶ。)68を少なくとも1つ備える。図1に示される例では、第1電極対68が2つ示されている。
第1電極対68は高圧パルス電源72と接続されている。第1電極対68は、高圧パルス電源72から交流電圧を間欠的に印加される。後述するように、第1電極対68に交流電圧が印加されることにより、液滴化されたサンプルが滴下する方向を制御することができる。
【0036】
ここで、図2を参照して、セルソータ60の構成についてより詳細に説明する。図2は、本実施形態のセルソータ60の部分断面図である。各第1電極対68は、管62の内壁に形成される電極68aと、管62の管壁の内部に形成される電極68bと、を備える。各第1電極対68には高圧パルス電源72が接続されている。本実施形態のセルソータ60は第1電極対68を2つ備えるが、高圧パルス電源72は、第1電極対68のそれぞれ独立に交流電圧を印加することができる。
高圧パルス電源72は、制御部100と接続されている。高圧パルス電源72が各第1電極対68に交流電圧を印加するタイミングは制御部100により制御される。
【0037】
図3は、図2のA−A線に沿った断面図である。図3に示されるように、本実施形態の電極68aは、セルソータ60の管62の内壁に沿って形成される。また、図示されていないが、本実施形態の電極68bは、セルソータ60の管62の管壁の内部に、管壁に沿って形成される。
なお、電極68a、電極68bの大きさや形状は特に限定されるものではないが、後述するように、電極68aと電極68bとに交流電圧を印加することにより、電極68aと電極68bとの間にプラズマが発生するような距離で、第1電極対68は形成される。
【0038】
図1に戻り、フローセル60の下流側には容器90,92が配置される。フローセル60により、液滴化されたサンプルが滴下する方向は制御され、例えば、目的生細胞を含むサンプルは容器90へ収容され、不要生細胞を含むサンプルは容器92へ収容される。
【0039】
(制御部)
次に、制御部100について説明する。制御部100は、フロー部10、光学検出部40、セルソータ60など、フローサイトメータの全体の動作タイミングなどの制御を行う。
図1に示されるように、制御部100は、液体供給装置12がサンプルやシース液を加圧する大きさを制御する。また、制御部100は、レーザ光源部42が照射するレーザ光の波長や強度、レーザ光を照射するタイミングなどを制御する。また、制御部100は、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別部54が判別した結果の入力を受ける。また、制御部100は、ガス供給部80が供給するガスの流量を制御する。また、制御部100は、判別部54からの判別結果に基づいて、高圧パルス電源72が第1電極対68に交流電圧を印加するタイミングを制御する。
以上が本実施形態のフローサイトメータの概略構成である。
【0040】
(プラズマアクチュエータの原理)
次に、本実施形態のセルソータ60の動作原理について説明する。本実施形態のセルソータ60は、第1電極対68に交流電圧を印加することによりプラズマアクチュエータとして動作する。図4を参照して、プラズマアクチュエータの原理を説明する。
図4に示されるように、プラズマアクチュエータでは、一対の電極に交流電圧が印加される。一方の電極はガスにさらされる。他方の電極は誘電体により被覆され、ガスにさらされない。一対の電極に交流電圧を印加すると、一対の電極間で局所的にプラズマが発生し、上流側から下流側に誘起流れが生じる。一対の電極に交流電圧を印加することにより誘起流れが生じる厳密なメカニズムは不明であるが、以下に説明するメカニズムにより誘起流れが生じ得ると考えることができる。
【0041】
一対の電極間で局所的にプラズマが発生すると、ガスが電離して電荷が生じる。電荷密度ρの電荷に電場Eが作用すると、電荷に作用するクーロン力は以下の式(1)で表される。
【数1】


また、ガスの誘電率をεとすると、ガウスの法則は以下の式(2)で表される。
【数2】

【0042】
ここで、電極に垂直な方向(図4の上方向)をz方向として上記式(1)、式(2)をz方向のみ考慮すると、式(2)は下記式(3)で表される。
【数3】


また、式(1)と式(3)より、下記式(4)が得られる。
【数4】

【0043】
式(3)をナビエ・ストークス方程式の圧力項と考えると、圧力pは下記式(5)で表される。
【数5】


式(5)は、一対の電極付近に−z方向の圧力が生じることを意味する。本実施形態のフローサイトメータでは、この−z方向の圧力を用いて、液滴化されたサンプルが滴下する方向を制御する。
【0044】
(作用)
以下、図1を参照して、本実施形態のフローサイトメータの作用について説明する。
まず、液体供給装置12は、サンプル液管22にサンプルを供給する。サンプル液管22に供給されたサンプルは、サンプル液管22の吐出口24から吐出され、シース液に囲まれてフローセル28の内部を流れる。
次に、レーザ光源部42は、フローセル28の内部を流れるサンプルにレーザ光を照射する。受光部44は、サンプルにレーザ光が照射された際に発せられる前方散乱光を受光する。また、受光部46は、サンプルにレーザ光が照射された際に発せられる蛍光を受光する。レーザ光を照射されたサンプルは、フローセル28の吐出口30で液滴化して吐出される。一方、データ処理部50は、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別する。
【0045】
次に、制御部100は、データ処理部50が判別した結果に基づき、高圧パルス電源72が第1電極対68に交流電圧を印加するタイミングを制御する。
ここで、図5を参照して、第1電極対68に印加される交流電圧について説明する。図5は、高圧パルス電源72が第1電極対68に印加する交流電圧の一例を示す図である。図5に示されるように、本実施形態の高圧パルス電源72は、周波数fで間欠的に、周波数fの交流電圧を第1電極対68に印加する。周波数fは、フローセル28の吐出口30から液滴化されたサンプルが吐出される周波数と等しくすることが好ましい。例えば、fは、1kHz〜100kHzである。また、周波数fは、第1電極対68に交流電圧を印加することによりプラズマが発生する周波数である。例えば、fは、1MHz〜100MHzである。
【0046】
図1に示される例では、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むとデータ処理部50が判別した場合、制御部100は、図1の左側の第1電極対68に交流電圧を印加する。左側の第1電極対68に交流電圧が印加されることにより、左側の第1電極対68の近傍(図2にPで示される領域)にプラズマが発生する。また、上述したように、左側の第1電極対68の近傍で、左側の第1電極対68に向かう方向に誘起流れが生じる。
この誘起流れにより、セルソータ60の内部を流れるガスの流れが変化する。具体的には、第1電極対68よりも下流側において、上述したプラズマアクチュエータの原理により、ガスの流れは図1の左側へ変化する。これにより、ガスの内部に含まれる目的生細胞を含む液滴化されたサンプルは、第1電極対68よりも下流側において、容器90へ向かう方向へ滴下する。
【0047】
これに対し、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含まないとデータ処理部50が判別した場合、制御部100は、図1の右側の第1電極対68に交流電圧を印加する。右側の第1電極対68に交流電圧が印加されることにより、右側の第1電極対68の近傍にプラズマが発生する。また、上述したように、右側の第1電極対68の近傍で、右側の第1電極対68に向かう方向に誘起流れが生じる。
この誘起流れにより、セルソータ60の内部を流れるガスの流れが変化する。具体的には、第1電極対68よりも下流側において、上述したプラズマアクチュエータの原理により、ガスの流れは図1の右側へ変化する。これにより、ガスの内部に含まれる目的生細胞を含まない液滴化されたサンプルは、第1電極対68よりも下流側において、容器92へ向かう方向へ滴下する。
【0048】
本実施形態のセルソータ60は、第1電極対68に交流電圧を印加した際に生じる誘起流れを用いて、セルソータ60の内部を流れるガスの流れを変化させることにより、液滴化したサンプルが滴下する方向を間接的に制御することができる。そのため、従来のように、液滴化したサンプルに直接電場を印加しないため、生細胞を分別する際に、生細胞に与える損傷を低減することができる。
【0049】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、一対の電極に交流電圧を印加した際に生じる誘起流れを用いて、液滴化したサンプルが滴下する方向を間接的に制御するものである。本実施形態では、一対の電極に交流電圧を印加した際に生じる誘起流れを用いて、フローセルの吐出口から吐出されるサンプルの液滴化を行う。
【0050】
まず、図6を参照して、本実施形態のフローサイトメータの構成について説明する。図6は、本実施形態のフローサイトメータの一例を示す概略構成図である。本実施形態のフローサイトメータの概略構成は、図1を参照して説明した第1の実施形態のフローサイトメータの構成とほぼ同様である。そのため、以下の説明では、第1の実施形態のフローサイトメータと構成が異なる部分についての説明を行い、同様の部分の説明は省略する。
図6に示されるように、本実施形態のフローサイトメータは、フロー部10と、光学検出部40と、データ処理部50と、セルソータ60と、制御部100と、を備える。
【0051】
本実施形態のフロー部10は、第1の実施形態の超音波振動子20を備えない点を除いて、第1の実施形態のフロー部10と同様である。本実施形態では、セルソータ60において、一対の電極に交流電圧を印加した際に生じる誘起流れを用いて、フローセル28の吐出口30から吐出されるサンプルの液滴化を行うため、第1の実施形態で説明したように、超音波振動子20を用いてサンプルの液滴化を行う必要がない。
本実施形態の光学検出部40、データ処理部50は、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
次に、本実施形態のセルソータ60について説明する。セルソータ60は、制御部100からの制御信号に基づき、フローセル28の吐出口30から吐出されるサンプルを液滴化する。
セルソータ60は、管62と、一対の電極70と、帯電電極74(図6には不図示)と、偏向電極76と、を備える。第1の実施形態と同様、管62は、サンプル導入口64と、ガス導入口66と、排出口67と、を備える。本実施形態のセルソータ60は、フローセル28の吐出口30の位置の近傍に、一対の電極(以下、本実施形態において「第2電極対」と呼ぶ。)70を少なくとも1つ備える。図6に示される例では、第2電極対70が2つ示されている。
【0053】
第2電極対70は高圧パルス電源72と接続されている。第2電極対70は、高圧パルス電源72から交流電圧を間欠的に印加される。後述するように、第2電極対70に交流電圧が印加されることにより、フローセル28の吐出口30から吐出されるサンプルの液滴化を行うことができる。
【0054】
ここで、図7を参照して、本実施形態のセルソータ60の構成についてより詳細に説明する。図7は、本実施形態のセルソータ60の部分断面図である。各第2電極対70は、管62の内壁に形成される電極70aと、管62の管壁の内部に形成される電極70bと、を備える。各第2電極対70には高圧パルス電源72が接続されている。本実施形態のセルソータ60は第2電極対70を2つ備えるが、高圧パルス電源72は、第2電極対70のそれぞれ独立に交流電圧を印加することができる。
高圧パルス電源72は、制御部100と接続されている。高圧パルス電源72が第2電極対70に交流電圧を印加するタイミングは制御部100により制御される。第2電極対70が複数ある場合、各第2電極対70に対して同じタイミングで、高圧パルス電源72が交流電圧を印加することが好ましい。
【0055】
図8は、図7のB−B線に沿った断面図である。図8に示されるように、本実施形態の電極70aは、セルソータ60の管62の内壁に沿って形成される。また、図示されていないが、本実施形態の電極70bは、セルソータ60の管62の管壁の内部に、管壁に沿って形成される。
なお、電極70a、電極70bの大きさや形状は特に限定されるものではないが、後述するように、電極70aと電極70bとに交流電圧を印加することにより、電極70aと電極70bとの間にプラズマが発生するような距離で、第2電極対70は形成される。
【0056】
図7に戻り、第2電極対70よりも下流側には、帯電電極74と、偏向電極76とが形成されている。帯電電極74は、第2電極対70により液滴化されたサンプルを正又は負に帯電させる。偏向電極76は、帯電電極74により帯電された液滴化されたサンプルに電場を印加し、サンプルが滴下する方向を制御する。
帯電電極74、偏向電極76は制御部100と接続されている。帯電電極74が液滴化されたサンプルを正又は負に帯電させるタイミングは、制御部100により制御される。また、偏向電極76が帯電された液滴化されたサンプルに印加する電場の方向や電場を印加するタイミングは、制御部100により制御される。
【0057】
次に、制御部100について説明する。図6に示されるように、制御部100は、液体供給装置12がサンプルやシース液を加圧する大きさを制御する。また、制御部100は、レーザ光源部42が照射するレーザ光の波長や強度、レーザ光を照射するタイミングなどを制御する。また、制御部100は、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別部54が判別した結果の入力を受ける。また、制御部100は、ガス供給部80が供給するガスの流量を制御する。また、制御部100は、高圧パルス電源72が第2電極対70に交流電圧を印加するタイミングを制御する。また、制御部100は、帯電電極74が液滴化されたサンプルを正又は負に帯電させるタイミングを制御する。また、制御部100は、判別部54からの判別結果に基づいて、偏向電極76が帯電された液滴化されたサンプルに印加する電場の方向や電場を印加するタイミングを制御する。
以上が本実施形態のフローサイトメータの概略構成である。
【0058】
以下、図6を参照して、本実施形態のフローサイトメータの作用について説明する。
まず、液体供給装置12は、サンプル液管22にサンプルを供給する。サンプル液管22に供給されたサンプルは、サンプル液管22の吐出口24から吐出され、シース液に囲まれてフローセル28の内部を流れる。
次に、レーザ光源部42は、フローセル28の内部を流れるサンプルにレーザ光を照射する。受光部44は、サンプルにレーザ光が照射された際に発せられる前方散乱光を受光する。また、受光部46は、サンプルにレーザ光が照射された際に発せられる蛍光を受光する。レーザ光を照射されたサンプルは液滴化され、フローセル28の吐出口30から吐出される。一方、データ処理部50は、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別する。
【0059】
次に、制御部100は、高圧パルス電源72が第2電極対70に交流電圧を印加するタイミングを制御する。第2電極対70に印加される交流電圧は、図5を参照して説明した第1の実施形態と同様である。第2電極対70に交流電圧が印加されることにより、第2電極対70の近傍にプラズマが発生する。そのため、第2電極対70の近傍で管62の径方向外側に向かう方向に誘起流れが生じる。
この誘起流れにより、セルソータ60の内部を流れるガスの流れが変化する。具体的には、第2電極対70の近傍において、上述したプラズマアクチュエータの原理により、管62の径方向の中心から外側に向かってガスの流れが変化する。この誘起流れにより、フローセル28の吐出口30近傍のサンプルが液滴となって吐出されやすくなる。第2電極対70への交流電圧の印加が終わると、第2電極対70近傍の誘起流れがなくなり、フローセル28の吐出口30近傍のサンプルは吐出されにくくなる。このように、第2電極対70に交流電圧を間欠的に印加することにより、フローセル28の吐出口30からサンプルを液滴化して吐出することができる。
【0060】
次に、制御部100は、液滴化されたサンプルを帯電電極74が正又は負に帯電させるタイミングを制御する。次に、制御部100は、判別部54からの判別結果に基づいて、偏向電極76が帯電された液滴化されたサンプルに印加する電場の方向や電場を印加するタイミングを制御する。
例えば、液滴化されたサンプルが目的生細胞を含む場合は、帯電されたサンプルが容器90へ向かう方向へ滴下するように、制御部100は、偏向電極76がサンプルに印加する電場の方向を制御する。これに対し、液滴化されたサンプルが目的生細胞を含まない場合は、帯電されたサンプルが容器92へ向かう方向へ滴下するように、制御部100は、偏向電極76がサンプルに印加する電場の方向を制御する。
【0061】
本実施形態のセルソータ60は、第2電極対70に交流電圧を印加した際に生じる誘起流れを用いて、フローセル28の吐出口30近傍のガスの流れを変化させることにより、吐出口30から吐出されるサンプルを液滴化することができる。そのため、従来のように、超音波振動子がジェット流に振動を与えないため、生細胞を分別する際に、生細胞に与える損傷を低減することができる。
【0062】
<第3の実施形態>
本実施形態のセルソータは、第1の実施形態のセルソータと第2の実施形態のセルソータとを組み合わせたものである。本実施形態のセルソータは、一対の電極に交流電圧を印加した際に生じる誘起流れを用いて、フローセルの吐出口から吐出されるサンプルの液滴化を行い、かつ、一対の電極に交流電圧を印加した際に生じる誘起流れを用いて、液滴化したサンプルが滴下する方向を間接的に制御する。
【0063】
まず、図9を参照して、本実施形態のフローサイトメータの構成について説明する。図9は、本実施形態のフローサイトメータの一例を示す概略構成図である。本実施形態のフローサイトメータの構成は、図1や図6を参照して説明した第1の実施形態、第2の実施形態のフローサイトメータの構成とほぼ同様である。そのため、以下の説明では、上述した実施形態のフローサイトメータと構成が異なる部分についての説明を行い、同様の部分の説明は省略する。
図9に示されるように、本実施形態のフローサイトメータは、フロー部10と、光学検出部40と、データ処理部50と、セルソータ60と、制御部100と、を備える。
【0064】
本実施形態のフロー部10は、第1の実施形態の超音波振動子20を備えない点を除いて、第1の実施形態のフロー部10と同様である。本実施形態では、セルソータ60において、一対の電極に交流電圧を印加した際に生じる誘起流れを用いて、フローセル28の吐出口30から吐出されるサンプルの液滴化を行うため、超音波振動子20を用いてサンプルの液滴化を行う必要がない。
本実施形態の光学検出部40、データ処理部50は、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0065】
次に、本実施形態のセルソータ60について説明する。セルソータ60は、制御部100からの制御信号に基づき、フローセル28の吐出口30から吐出されるサンプルを液滴化する。
図9に示されるように、セルソータ60は、管62と、第1電極対68と、第2電極対70と、を備える。第1の実施形態と同様、管62は、サンプル導入口64と、ガス導入口66と、排出口67と、を備える。
【0066】
また、本実施形態のセルソータ60は、管62の径が次第に大きくなる位置に、第1電極対68を少なくとも1つ備える。図9に示される例では、第1電極対68が2つ示されている。第1電極対68は高圧パルス電源72と接続されている。第1電極対68は、高圧パルス電源72から交流電圧を間欠的に印加される。後述するように、第1電極対68に交流電圧が印加されることにより、液滴化されたサンプルが滴下する方向を制御することができる。
【0067】
また、本実施形態のセルソータ60は、フローセル28の吐出口30の位置の近傍に、第2電極対70を少なくとも1つ備える。図9に示される例では、第2電極対70が2つ示されている。第2電極対70は高圧パルス電源72と接続されている。第2電極対70は、高圧パルス電源72から交流電圧を間欠的に印加される。後述するように、第2電極対70に交流電圧が印加されることにより、フローセル28の吐出口30から吐出されるサンプルの液滴化を行うことができる。
【0068】
ここで、図10を参照して、本実施形態のセルソータ60の構成についてより詳細に説明する。図10は、本実施形態のセルソータ60の部分断面図である。
各第1電極対68は、管62の内壁に形成される電極68aと、管62の管壁の内部に形成される電極68bと、を備える。各第1電極対68には高圧パルス電源72が接続されている。本実施形態のセルソータ60は第1電極対68を2つ備えるが、高圧パルス電源72は、第1電極対68のそれぞれ独立に交流電圧を印加することができる。
高圧パルス電源72は、制御部100と接続されている。高圧パルス電源72が第1電極対68に交流電圧を印加するタイミングは制御部100により制御される。
【0069】
各第2電極対70は、管62の内壁に形成される電極70aと、管62の管壁の内部に形成される電極70bと、を備える。各第2電極対70には高圧パルス電源72が接続されている。本実施形態のセルソータ60は第2電極対70を2つ備えるが、高圧パルス電源72は、第2電極対70のそれぞれ独立に交流電圧を印加することができる。
高圧パルス電源72は、制御部100と接続されている。高圧パルス電源72が第2電極対70に交流電圧を印加するタイミングは制御部100により制御される。第2電極対70が複数ある場合、各第2電極対70に対して同じタイミングで、高圧パルス電源72が交流電圧を印加することが好ましい。
【0070】
次に、制御部100について説明する。図9に示されるように、制御部100は、液体供給装置12がサンプルやシース液を加圧する大きさを制御する。また、制御部100は、レーザ光源部42が照射するレーザ光の波長や強度、レーザ光を照射するタイミングなどを制御する。また、制御部100は、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別部54が判別した結果の入力を受ける。また、制御部100は、ガス供給部80が供給するガスの流量を制御する。また、制御部100は、高圧パルス電源72が第2電極対70に交流電圧を印加するタイミングを制御する。また、制御部100は、判別部54からの判別結果に基づいて、高圧パルス電源72が第1電極対68に交流電圧を印加するタイミングを制御する。
【0071】
以下、図9を参照して、本実施形態のフローサイトメータの作用について説明する。
まず、液体供給装置12は、サンプル液管22にサンプルを供給する。サンプル液管22に供給されたサンプルは、サンプル液管22の吐出口24から吐出され、シース液に囲まれてフローセル28の内部を流れる。
次に、レーザ光源部42は、フローセル28の内部を流れるサンプルにレーザ光を照射する。受光部44は、サンプルにレーザ光が照射された際に発せられる前方散乱光を受光する。また、受光部46は、サンプルにレーザ光が照射された際に発せられる蛍光を受光する。レーザ光を照射されたサンプルは液滴化され、フローセル28の吐出口30から吐出される。一方、データ処理部50は、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むか否かを判別する。
【0072】
次に、制御部100は、高圧パルス電源72が第2電極対70に交流電圧を印加するタイミングを制御する。第2電極対70に印加される交流電圧は、図5を参照して説明した第1の実施形態と同様である。第2電極対70に交流電圧が印加されることにより、第2電極対70の近傍にプラズマが発生する。そのため、第2電極対70の近傍で管62の径方向外側に向かう方向に誘起流れが生じる。
この誘起流れにより、セルソータ60の内部を流れるガスの流れが変化する。具体的には、第2電極対70の近傍において、管62の径方向の中心から外側に向かってガスの流れが変化する。この誘起流れにより、フローセル28の吐出口30近傍のサンプルが吐出されやすくなる。第2電極対70への交流電圧の印加が終わると、第2電極対70近傍の誘起流れがなくなり、フローセル28の吐出口30近傍のサンプルは吐出されにくくなる。このように、第2電極対70に交流電圧を間欠的に印加することにより、フローセル28の吐出口30からサンプルを液滴化して吐出することができる。
【0073】
次に、制御部100は、データ処理部50が判別した結果に基づき、高圧パルス電源72が第1電極対68に交流電圧を印加するタイミングを制御する。
図9に示される例では、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むとデータ処理部50が判別した場合、制御部100は、図9の左側の第1電極対68に交流電圧を印加する。これにより、ガスの内部に含まれる目的生細胞を含む液滴化されたサンプルは、第1電極対68よりも下流側において、容器90へ向かう方向へ滴下する。
これに対し、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含まないとデータ処理部50が判別した場合、制御部100は、図9の右側の第1電極対68に交流電圧を印加する。これにより、ガスの内部に含まれる目的生細胞を含まない液滴化されたサンプルは、第1電極対68よりも下流側において、容器92へ向かう方向へ滴下する。
【0074】
本実施形態のセルソータ60は、第2電極対70に交流電圧を印加した際に生じる誘起流れを用いて、フローセル28の吐出口30近傍のガスの流れを変化させることにより、吐出口30から吐出されるサンプルを液滴化することができる。更に、第1電極対68に交流電圧を印加した際に生じる誘起流れを用いて、セルソータ60の内部を流れるガスの流れを変化させることにより、液滴化したサンプルが滴下する方向を間接的に制御することができる。そのため、従来のように、超音波振動子がジェット流に振動を与えたり、液滴化したサンプルに直接電場を印加したりしないため、生細胞を分別する際に、生細胞に与える損傷を低減することができる。
【0075】
(変形例1)
上述した実施形態では、セルソータ60が第1電極対68を2つ備える例について説明したが、セルソータ60は第1電極対68を1つだけ備えるものでもよい。例えば、セルソータ60が図1の左側の第1電極対68のみを備える場合について、以下に説明する。
【0076】
レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含むとデータ処理部50が判別した場合、制御部100は、図1の左側の第1電極対68に交流電圧を印加する。これにより、ガスの内部に含まれる目的生細胞を含むサンプルは、第1電極対68よりも下流側において、容器90へ向かう方向へ滴下する。
これに対し、レーザ光を照射されたサンプルが目的生細胞を含まないとデータ処理部50が判別した場合、制御部100は、図1の左側の第1電極対68に交流電圧を印加しない。この場合、セルソータ60の内部を流れるガスの流れは変化しない。そのため、ガスの内部に含まれる目的生細胞を含まないサンプルは、鉛直下方に滴下する。このとき、セルソータ60の鉛直下方に容器92を配置する。
【0077】
本変形例のように、セルソータ60が第1電極対68を1つだけ備える場合であっても、第1電極対68に交流電圧を印加した際に生じる誘起流れを用いて、セルソータ60の内部を流れるガスの流れを変化させることにより、液滴化したサンプルが滴下する方向を間接的に制御することができる。
【0078】
(変形例2)
上述した実施形態では、セルソータ60が第2電極対70を2つ備える例について説明したが、セルソータ60は第2電極対70を少なくとも1つ備えるものであればよい。例えば、セルソータ60が第2電極対70を4つ備える場合について、図11を参照して説明する。
図11は、第2の実施形態を示す図7のB−B線に沿った断面図である。図11に示されるように、本変形例のセルソータ60は、第2電極対70を4つ備える。電極70aは、セルソータ60の管62の内壁に沿って形成される。また、図示されていないが、本実施形態の電極70bは、セルソータ60の管62の管壁の内部に、管壁に沿って形成される。
【0079】
本変形例のように、セルソータ60が第2電極対70を4つ備える場合であっても、第2電極対70に交流電圧を印加した際に生じる誘起流れを用いて、セルソータ60の内部を流れるガスの流れを変化させることにより、フローセル28の吐出口30からサンプルを液滴化して吐出することができる。
【実施例】
【0080】
第3の実施形態で説明したフローサイトメータのセルソータ60を用いて、液滴化したサンプルが滴下する方向の制御について、具体的に説明する。
液体の密度をρ、フローセルの断面積をS、シース液の速度をv、ガスの誘電率をε、第1電極対68による電場をE、ガスが流れる方向に沿った第1電極対68の長さをl、第1電極対68の幅をw、鉛直下方に対してサンプルが滴下する角度をθとする。このとき、単位時間におけるサンプルの運動量の変化が誘起流れに起因する圧力によるものであると仮定すると、以下の関係式が成り立つ。
【数6】


これは以下のように変形される。
【数7】


これは、第1電極対68に印加する電圧の大きさによって、液滴化したサンプルが滴下する方向を制御できることを意味する。
【0081】
例えば、フローセル60にアルゴンを流し、第1電極対68の電極68aと電極68bとの距離を1.0mmとする。第1電極対68に1.5kVの交流電圧を印加する。また、ρ=1.0×10[kg/m]、S=π×(100[μm]/2)、v=5.0[m/s]、E=1.5×10[V/m]、l=0.005[m]、w=0.002[m]とすると、θ=30.5度となる。
フローセル60の鉛直下方から約30度の位置に容器90を配置することにより、目的生細胞を分別することができる。
【符号の説明】
【0082】
10 フロー部
12 液体供給装置
14 サンプル液タンク
16 シース液タンク
18 配管
20 超音波振動子
22 サンプル液管
24,30 吐出口
26 シース液管
28 フローセル
32 生細胞
34 蛍光色素
40 光学検出部
42 レーザ光源部
44,46 受光部
50 データ処理部
52 データ取得部
54 判別部
60 セルソータ
62 管
64 サンプル導入口
66 ガス導入口
67 排出口
68 第1電極対
70 第2電極対
72 高圧パルス電源
74 帯電電極
76 偏向電極
80 ガス供給部
90,92 容器
100 制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分別対象物を含むサンプルから分別対象物を分別するセルソータであって、
内部に前記サンプルを導入するサンプル導入口と、内部にガスを導入するガス導入口と、前記サンプルと前記ガスとを排出する排出口と、を備える管と、
前記管に形成され、かつ、交流電圧が印加されることにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記排出口から前記サンプルが排出される方向を制御する一対の電極と、
を備えることを特徴とするセルソータ。
【請求項2】
前記管の管壁は誘電体であり、
前記一対の電極の一方の電極は前記管の内部に形成され、前記一対の電極の他方の電極は前記管壁の内部に形成される、請求項1に記載のセルソータ。
【請求項3】
前記サンプルは、前記サンプル導入口から液流として導入され、
前記一対の電極を第1電極対とすると、第1電極対よりも前記管の上流に形成され、かつ、交流電圧が印加されることにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記サンプル導入口から導入された前記サンプルを液滴化する一対の電極からなる第2電極対を備える、請求項1又は2に記載のセルソータ。
【請求項4】
前記ガスは、ヘリウム、アルゴン、又は、窒素である、請求項1乃至3のいずれかに記載のセルソータ。
【請求項5】
分別対象物を含むサンプルが内部を流れるフローセルと、
前記フローセル内を流れる前記サンプルにレーザ光を照射するレーザ光源部と、
前記サンプルが前記レーザ光に照射された際に発せられる光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した光に基づいて、前記レーザ光を照射された前記サンプルが、前記分別対象物を含むか否かを判別する判別部と、
内部に前記サンプルを導入するサンプル導入口と、内部にガスを導入するガス導入口と、前記サンプルと前記ガスとを排出する排出口と、を備える管と、前記管に形成され、かつ、交流電圧が印加されることにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記排出口から前記サンプルが排出される方向を制御する一対の電極と、を備えるセルソータと、
前記判別部が判別した結果に基づいて、前記一対の電極に交流電圧を印加するか否かを制御する制御部と、
を備えることを特徴とするフローサイトメータ。
【請求項6】
前記サンプルは、前記サンプル導入口から液流として導入され、
前記セルソータは、前記一対の電極を第1電極対とすると、第1電極対よりも前記管の上流に形成され、かつ、交流電圧が印加されることにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記サンプル導入口から導入された前記サンプルを液滴化する一対の電極からなる第2電極対を備え、
前記制御部は、前記受光部が受光した光に基づいて、第2電極対に交流電圧を印加する、請求項5に記載のフローサイトメータ。
【請求項7】
目的細胞を含むサンプルをフローセルの内部に流す工程と、
前記フローセル内を流れる前記サンプルにレーザ光を照射する工程と、
前記サンプルが前記レーザ光に照射された際に発せられる光を受光する受光工程と、
前記受光工程において受光された光に基づいて、前記レーザ光を照射された前記サンプルが、前記目的細胞を含むか否かを判別する判別工程と、
ガスが内部を流れ、交流電圧が印加される一対の電極を備えるセルソータの内部に前記サンプルを導入する工程と、
前記判別工程において判別された結果に基づいて、前記一対の電極に交流電圧を印加することにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記セルソータから前記サンプルが排出される方向を制御する工程と、
を有することを特徴とする細胞分別方法。
【請求項8】
分別対象物を含むサンプルから分別対象物を分別するセルソータであって、
内部に前記サンプルを液流として導入するサンプル導入口と、内部にガスを導入するガス導入口と、前記サンプルと前記ガスとを排出する排出口と、を備える管と、
前記管に形成され、かつ、交流電圧が印加されることにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記サンプル導入口から導入された前記サンプルを液滴化する一対の電極と、
液滴化された前記サンプルを分別する分別部と、
を備えることを特徴とするセルソータ。
【請求項9】
ガスが内部を流れ、交流電圧が印加される一対の電極を備えるセルソータの内部に目的細胞を含むサンプルを液流として導入する工程と、
前記一対の電極に交流電圧を印加することにより、前記ガスを用いてプラズマを生成し、前記フローセルの内部に導入された前記サンプルを液滴化する工程と、
液滴化された前記サンプルを分別する工程と、
を有することを特徴とする細胞分別方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−145074(P2011−145074A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3613(P2010−3613)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】