セルラーゼ組成物及びその利用
【課題】セルロースの分解に適したCBHとEGの組み合わせを含むセルラーゼ組成物を提供する。
【解決手段】 GHF6に属する1又は2以上の第1のセロビオヒドロラーゼと、GHF7に属する1又は2以上の第2のセロビオヒドロラーゼと、GHF5に属する1又は2以上の第1のエンドグルカナーゼと、を含み、さらに、以下の酵素;
(a)GHF9に属する1又は2以上の第2のエンドグルカナーゼ、
(b)1又は2以上のペクチン酸リアーゼ、
(c)1又は2以上のキシラナーゼ、
(d)1又は2以上のアラビノフラノシダーゼ、
(e)1又は2以上のグルクロノキシランキシラノヒドロラーゼからなる群から選択される1又は2以上の酵素を含有する。
【解決手段】 GHF6に属する1又は2以上の第1のセロビオヒドロラーゼと、GHF7に属する1又は2以上の第2のセロビオヒドロラーゼと、GHF5に属する1又は2以上の第1のエンドグルカナーゼと、を含み、さらに、以下の酵素;
(a)GHF9に属する1又は2以上の第2のエンドグルカナーゼ、
(b)1又は2以上のペクチン酸リアーゼ、
(c)1又は2以上のキシラナーゼ、
(d)1又は2以上のアラビノフラノシダーゼ、
(e)1又は2以上のグルクロノキシランキシラノヒドロラーゼからなる群から選択される1又は2以上の酵素を含有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスに含まれるセルロースを有効利用するためのセルラーゼ組成物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有限である石油資源を代替するものとして、植物の光合成作用に由来するバイオマスへの期待が高まってきており、バイオマスをエネルギーや各種材料に利用するための各種の試みがなされている。なかでも、セルロースの利用が期待されている。セルロースは、糖であるグルコースがβ−1,4グリコシド結合によって縮合した高分子化合物であり、分子間水素結合により強固な結晶構造を構成している。
【0003】
現在、提供されているセルロース分解用のセルラーゼ製剤として、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)由来の酵素製剤が知られている。また、ヘミセルロース等を分解するヘミセルラーゼも各種知られている(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tung M-Y, et al, Applied Biochem. Biotechnol. 136(2007), 1-16
【非特許文献2】K. Nishitani et al., J. Bio. Chem. Vol. 266, No.10, 65369-6543, 1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイオマスの実用的な利用には、単糖まで分解する糖化工程の低コスト化が大きなボトルネックとなっている。セルロースを効率よく単糖まで分解(糖化)するには、少なくとも3つのタイプのセルロース分解酵素(セルラーゼ)が必要であり、それらが協働して作用することによって初めて可能になると考えられている(以下、こうした効果を相乗効果という。)。この3つのタイプのセルラーゼは、高分子のセルロースに対して作用するエキソ型(末端から2糖づつ切断する)のセロビオヒドロラーゼ(CBH)と、エンド型(ランダムに切断する)のエンドグルカナーゼ(EG)と、これらの酵素によりある程度オリゴマー化されたものを単糖まで分解するβ−グルコシダーゼ(BGL)である。効率的な糖化工程の実現には、最大の相乗効果を発揮するセルラーゼの組み合わせを確立することが重要である。なかでも、CBHとEGとの組み合わせが重要である。
【0006】
しかしながら、上記従来のセルラーゼ製剤は、Trichoderma reesei(トリコデルマ・リーゼイ)の生産するタンパク質精製物に過ぎず、すべてのセルラーゼがT. reesei由来の酵素製剤であるほか、不要なタンパク質も含んでいる。また、T. reeseiは、遺伝子組換え系が十分に確立されていないため、遺伝子組換えによる酵素の種類や発現量の制御による改変は困難である。さらに、T. reesei以外の微生物由来のセルラーゼのバイオマス分解への利用は各種検討されているものの人工的なセルラーゼの組み合わせによって、従来のセルラーゼ製剤と同等以上のセルロース分解活性を得るのは極めて困難であった。
【0007】
また、実バイオマス中にはセルロースに加えてヘミセルロース等が併存するため、前処理後のバイオマスに存在する可能性のあるヘミセルロース等をヘミセルラーゼ等で処理することも考えられるが、個々のヘミセルラーゼの糖化に対する有効性は確認されていない。
【0008】
そこで、本明細書の開示は、セルロースの分解に適したCBHとEGの組み合わせを含むセルラーゼ組成物及びその利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、T. reesei及びT. reesei以外の複数の生物に由来する各種のセルラーゼ、特に、CBHとEGとの組み合わせについて詳細な検討を行った。その結果、特定のGHFに属するCBHとEGとを組み合わせることが重要であることがわかった。さらに、セルラーゼによるセルロースの分解効率の向上のためには、ある種のヘミセルラーゼなどが有効であることを初めて見出した。本明細書の開示によれば、これらの知見に基づき以下の手段が提供される。
【0010】
本明細書の開示によれば、GHF6に属する1又は2以上の第1のセロビオヒドロラーゼと、GHF7に属する1又は2以上の第2のセロビオヒドロラーゼと、GHF5に属する1又は2以上の第1のエンドグルカナーゼと、を含み、さらに、以下の酵素(a)〜(e)からなる群から選択される1又は2以上を含有する、セルローゼ組成物が提供される。
(a)GHF9に属する1又は2以上の第2のエンドグルカナーゼ
(b)1又は2以上のペクチン酸リアーゼ
(c)1又は2以上のキシラナーゼ
(d)1又は2以上のアラビノフラノシダーゼ
(e)1又は2以上のグルクロノキシランキシラノヒドロラーゼ
【0011】
前記第1のセロビオヒロドラーゼは、Phanerochaete chrysosporium(P. chrysosporium,ファネロケーテ・クリソスポリウム)及びAspergillus oryzae(A.oryzae、アスペルギルス・オリゼ)からなる群から選択される1又は2以上の生物に由来するセロビオヒドロラーゼを含むことが好ましい。なかでも、前記第1のセロビオヒドロラーゼは、P. chrysosporiumに由来するセロビオヒドロラーゼを含むことが好ましい。
【0012】
前記第2のセロビオヒドロラーゼは、Aspergillus niger(A. niger,アスペルギルス・ニガー)、Aspergillus aculeatus(A. aculeatus,アスペルギルス・アキュリータス)及びA.oryzaeからなる群から選択される1又は2以上の生物に由来するセロビオヒドロラーゼを含むことが好ましい。なかでも、前記第2のセロビオヒドロドラーゼは、A. nigerに由来するセロビオヒドロラーゼを含むことが好ましい。
【0013】
前記第1のエンドグルカナーゼは、A.oryzae及びTrichoderma reesei(T. reesei,トリコデルマ・リーゼイ)に属する生物に由来するエンドグルカナーゼを含むことが好ましい。また、前記第2のエンドグルカナーゼは、Oryza sativa(O. sativa,イネ)に属する生物に由来するエンドグルカナーゼを含むことが好ましい。
【0014】
さらに、GHF12に属する1又は2以上の第3のエンドグルカナーゼを含有することが好ましい。前記第3のエンドグルカナーゼは、P. chrysosporium、A. oryzae及びT. reeseiからなる群から選択される1又は2以上の生物に由来することが好ましい。上記組成物においては、前記第2のエンドグルカナーゼと前記第3のエンドグルカナーゼとを含有することが好ましい。
【0015】
前記組成物において、セロビオヒドロラーゼが、GHF6に属する1又は2以上の第1のセロビオヒドロラーゼと、GHF7に属する1又は2以上の第2のセロビオヒドロラーゼと、からなり、エンドグルカナーゼが、1又は2以上のGHF5に属する第1のエンドグルカナーゼと、GHF9に属する1又は2以上の第2のエンドグルカナーゼと、GHF12に属する1又は2以上の第3のエンドグルカナーゼと、からなる組成物も提供される。
【0016】
β−グルコシダーゼを実質的に含有しない前記組成物も提供される。
【0017】
本明細書の開示によれば、酵素の生産方法であって、Phanerochaete属に由来するセルラーゼ、Oryza 属に由来するセルラーゼ及びBacillus属に由来するヘミセルラーゼからなる群から選択される1又は2以上の酵素をコードする遺伝子をセルラーゼ非生産微生物に導入して前記セルラーゼ非生産微生物で前記酵素を生産する工程、を備える方法が提供される。前記セルラーゼ非生産微生物は、Aspergillus属菌であり、前記遺伝子は、Aspergillus属菌におけるコドン使用頻度に基づいて改変されていることが好ましい。前記セルラーゼ非生産微生物は酵母であってもよい。
【0018】
本明細書の開示によれば、セルラーゼ非生産微生物の形質転換体であって、
以下のタンパク質;
Phanerochaete属に由来するGHF6に属する1又は2以上のセルラーゼ、
Phanerochaete属に由来するGHF7に属する1又は2以上のセルラーゼ、
Phanerochaete属に由来するGHF12に属する1又は2以上のセルラーゼ、
Oryza属に由来するGHF9に属する1又は2以上のセルラーゼ、及び
Bacillus属に由来するヘミセルラーゼ、
からなる群から選択される1又は2以上のタンパク質をコードする遺伝子を発現させるための発現ベクターで形質転換して得られる、形質転換体が提供される。前記セルラーゼ非生産微生物は、Aspergillus属菌であって、前記遺伝子は、前記Aspergillus属菌でのコドン使用頻度に基づいて改変した遺伝子であってもよく、前記セルラーゼ非生産微生物は酵母であってもよい。前記形質転換体は、前記タンパク質を細胞外に分泌又は細胞表層に提示することが好ましい。
【0019】
本明細書の開示によれば、セルロースの低分子化物の生産方法であって、上記いずれかに記載のセルラーゼ組成物を用いて、前記セルロースを分解する工程、を備える、方法が提供される。
【0020】
本明細書の開示によれば、微生物の発酵により有用物質を生産する方法であって、少なくとも、上記いずれかに記載のセルラーゼ組成物を用いて、セルロースを前記微生物が利用可能な炭素源にまで分解する工程と、前記炭素源を前記微生物により発酵して前記有用物質を生産する工程と、を備える、方法が提供される。前記微生物は、前記セルロースに由来する部分分解物を炭素源として利用可能にβ−グルコシダーゼを細胞外に分泌又は細胞表層に提示する微生物であることが好ましい。さらに、前記微生物は、酵母であり、前記有用物質はエタノールとすることができる。
【0021】
前記セルロースは、少なくともセルロースを含有するセルロース含有材料を前処理して得られるセルロース画分としてもよく、前処理は、水熱処理であってもよいしイオン液体に浸漬するなどの処理であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本明細書の開示によれば、セルロース分解活性の良好なCBHとEGの組み合わせを含むセルロース分解用の酵素組成物及びその利用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】水熱処理後の稲ワラ由来セルロースの糖化結果を示す図である。
【図2】イオン液体処理後のユーカリ由来セルロースの糖化結果を示す図である。
【図3】セルラーゼ組成物中のEGの種類の比較評価結果を示す図である。
【図4】セルラーゼ組成物中のCBH量の比較評価結果を示す図である。
【図5】セルラーゼ組成物中のCBHの種類の比較評価結果を示す図である。
【図6】グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼの添加効果を示す図である。
【図7】O. sativa由来のEG及び市販キシラナーゼの添加効果を示す図である。
【図8】A. oryzae由来のキシラナーゼ及びB. subtilis由来グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼの添加効果を示す図である。
【図9】A. oryzae由来のキシラナーゼの添加効果を示す図である。
【図10】A. oryzae由来のペクチン酸リアーゼの添加効果を示す図である。
【図11】A. oryzae由来のアラビノフラノシダーゼの添加効果を示す図である。
【図12】O. sativa由来のEGの添加効果を示す図である。
【図13A】Aspergillus oryzaeのコドン使用頻度及び改変に用いたコドンを示す図である。
【図13B】Aspergillus oryzaeのコドン使用頻度及び改変に用いたコドンを示す図である。
【図13C】Aspergillus oryzaeのコドン使用頻度及び改変に用いたコドンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書の開示は、セルラーゼ組成物、セルラーゼ等の酵素の生産方法、形質転換体、セルロースの分解産物の生産方法及び有用物質の生産方法に関する。本明細書に開示されるセルラーゼ組成物は、GHF6に属する1又は2以上の第1のCBHと、GHF7に属する1又は2以上の第2のCBHと、1又は2以上のGHF5に属する第1のEGと、を含むとともに、さらに、一定範囲のセルローゼ及びヘミセルローゼから選択される1又は2以上の酵素を含有している。かかる組成は、セルロースの分解のため、特に、水熱処理やイオン液体などによる所定の前処理を施したセルロース含有材料中のセルロースの分解のために、人為的に組み合わされたものであることから、セルロース含有材料の工業的な糖化工程において、セルロースを効率的に分解することができる。したがって、セルロース含有材料の糖化にあたって、従来提供されているセルロース分解のための酵素製剤と同等あるいはそれ以上のセルロース分解活性をも容易に得ることができる。
【0025】
また、セルラーゼ等の生産にあたっては、Phanerochaete属に由来するセルラーゼ、Oryza 属に由来するセルラーゼ及びBacillus属に由来するヘミセルラーゼ及びからなる群から選択される1又は2以上の酵素をコードする遺伝子をセルラーゼ非生産微生物に導入して前記セルラーゼ非生産微生物で前記酵素を生産することが好ましい。
【0026】
以下、本明細書の開示に含まれる種々の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において用いる「GHF(Glycoside Hydrolase Family)」とは、CAZy(Carbohydrate active Enzymes)のホームページ(http://www.cazy.org/fam/acc_GH.html)において提供される、グリコシド加水分解酵素の分類である。
【0027】
(セルラーゼ組成物)
本組成物は、GHF6に属する1又は2以上の第1のCBHと、GHF7に属する1又は2以上の第2のCBHと、GHF5に属する1又は2以上の第1のEGと、少なくとも含有している。さらに、GHF12に属する1又は2以上の第3のEGを含んでいていてもよい。
【0028】
(第1のセロビオヒドロラーゼ(CBH))
第1のCBHは、GHF6に属するCBHである。GHF6に属するCBHは、一般に、セルロースをその非還元末端から切断してセロビオースを生成するII型(CBH II)であるとされている。GHF6に属するCBHとしては、各種微生物に由来するものが知られている(http://www.cazy.org/fam/GH6.html)。第1のCBHとしては、例えば、P. chrysosporium、A. oryzae及びT. reeseiに由来するCBHが挙げられる。
【0029】
本明細書において、例えば、「P. chrysosporiumに由来するCBH」とは、P. chrysosporiumに分類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい。)が生産するCBH又は当該微生物の生産するタンパク質をコードする遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたCBHをいう。したがって、P. chrysosporiumから取得したCBHをコードする遺伝子(又はその改変遺伝子)を導入した形質転換体によって生産された組換体タンパク質であるCBHも、P. chrysosporiumに由来するCBHに該当する。したがって、「P. chrysosporiumに由来するCBH」には、P. chrysosporiumと同属で異種の菌株や同種で他の菌株からそれぞれ取得されるCBHが含まれる。同様のことが「A. oryzaeに由来するCBH」に適用される。また、本明細書に開示される同様の表現についても上記と同様に定義される。
【0030】
例えば、P. chrysosporiumに由来する配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるPcCBH2が挙げられる。また、A. oryzaeに由来する配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるAoCBH2Aが挙げられる。さらに、第1のCBHとしては、こうした公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様のCBHを含めることができる。かかるCBHについては後段で説明する。第1のCBHは、以上の各種のCBHのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
(第2のセロビオヒドロラーゼ(CBH))
第2のCBHは、GHF7に属するCBHである。GHF7に属するCBHは、一般に、セルロースをその還元末端から切断してセロビオースを生成するI型(CBH I)であるとされている。GHF7に属するCBHとしては、各種微生物に由来するものが知られている(http://www.cazy.org/fam/GH7.html)。なかでも、A. niger、A. aculeatus、P. chrysosporium及びT. reeseiに由来するCBHから選択される1又は2以上とすることができる。さらに、第2のCBHとしては、A. nigerに由来する配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるAncbhA、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるAncbhBが挙げられる。また、A. aculeatusに由来する配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるAaCBHIが挙げられる。また、P. chrysosporiumに由来する配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるPcCBH7Cが挙げられる。なかでも、A. nigerに由来するCBHを好ましく用いることができる。さらに、第2のCBHとしては、こうした公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様のCBHを含めることができる。かかるCBHについては後段で説明する。第2のCBHは、以上の各種のCBHのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
(第1のエンドグルカナーゼ(EG))
第1のEGは、GHF5に属するEGである。GHF5に属する第1のEGとしては、各種微生物に由来するものが知られている(http://www.cazy.org/fam/GH5.html)。なかでも、T. reesei及びA. oryzaeに由来するEGから選択される1又は2以上とすることができる。さらに、第1のEGとしては、例えば、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるA. oryzaeに由来するAocelE及び配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるT. reeseiに由来するTrEG IIが挙げられる。さらに、第1のEGとしては、こうした公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様のEGを含めることができる。かかるEGについては後段で説明する。第1のEGは、以上の各種のEGのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
(追加の酵素)
本組成物は、以下に順次説明する酵素から選択される1又は2以上の酵素を含有することができる。これらの酵素のいずれかを含有することで、第1のCBH、第2のCBH及び第1のEGの組み合わせによるセルロースの分解活性を効果的に増強することができる。植物細胞壁の構成成分であるセルロース、ヘミセルロース及びペクチンの分解に寄与する酵素は多数知られている。本明細書に開示されるセルラーゼ組成物に追加される酵素は、いずれもセルロースやヘミセルロース等の分解に寄与するものであるが、第1のCBH、第2のCBH及び第1のEGに対して組み合わせること及び組み合わせた際の効果については報告されていない。したがって、これらの各酵素及びその2以上の組み合わせは、第1のCBH、第2のCBH及び第1のEGを含む酵素組成物に対する有効な増強剤としての用途を有している。
【0034】
(GHF9に属する第2のエンドグルカナーゼ(EG))
第2のEGは、GHF9に属するEGである。GHF9に属する第2のEGとしては、各種生物に由来するものが知られている(http://www.cazy.org/fam/GH9.html)。第2のEGは、セルロース等分解酵素のなかでも、好ましい増強剤である。第1のCBH、第2のCBH及び第1のEGさらには第3のEGと直接的にセルロース分解に際して相乗効果を発揮することができる。第2のEGは、好ましくは、植物由来であり、なかでも、イネ属植物(O. sativaなど)に由来するEGであることがより好ましい。第2のEGとしては、例えば、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるO. sativaに由来するEGが挙げられる。さらに、第2のEGとしては、こうした公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様のEGを含めることができる。かかるEGについては後段で説明する。第2のEGは、以上のEGのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
また、本明細書に開示される組成物が第2のEGを含有する場合には、併せて後述する第3のEGを含有することが好ましい。本組成物が第1〜第3のEGを含有することで、第1のCBH及び第2のCBHとより好ましい相乗効果を発揮できる。
【0036】
(ペクチン酸リアーゼ)
ペクチン酸リアーゼ(EC4.2.2.2.)は、ペクチンに含まれる(1,4)-α-D−ガラクツロナンを脱離的に開裂して、非還元末端に4-デオキシ-α-D-ガラクト-4-エヌロノシル基を生成する酵素であり、ペクチン分解酵素に包含される酵素である。ペクチン酸リアーゼは、各種生物に由来するものが知られているが、なかでも、A. oryzaeに由来するペクチン酸リアーゼが挙げられる。ペクチン酸リアーゼとしては、例えば、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるA. oryzaeに由来するAoPL19が挙げられる。ペクチン酸リアーゼとしては、公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様の酵素を含めることができる。かかる酵素については後段で説明する。ペクチン酸リアーゼは、以上の各種のペクチン酸リアーゼのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
(キシラナーゼ)
キシラナーゼ(EC3.2.1.8.)は、ヘミセルロースの構成成分であるβ-1,4-D-キシランのβ-1,4結合を加水分解する酵素であり、ヘミセルラーゼに包含される酵素である。キシラナーゼは、各種生物に由来するものが知られているが、なかでも、A. oryzaeに由来するキシラナーゼが挙げられる。キシラナーゼとしては、例えば、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるA. oryzaeに由来するAoxyn887、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるA. oryzaeに由来するAoxyn139が挙げられる。キシラナーゼとしては、公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様の酵素を含めることができる。かかる酵素については後段で説明する。キシラナーゼは、以上の各種のキシラナーゼのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
(アラビノフラノシダーゼ)
アラビノフラノシダーゼ(EC.3.2.1.55)は、ヘミセルロースの構成成分であるアラビノキシランやアラビナンなどのアラビノシドの非還元末端のアラビノフラノシドを加水分解で切り離す酵素であり、ヘミセルラーゼに包含される酵素である。アラビノフラノシダーゼは、各種生物に由来するものが知られているが、なかでも、A. oryzaeに由来するアラビノフラノシダーゼが挙げられる。アラビノフラノシダーゼとしては、例えば、配列番号13、14及び15でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるA. oryzaeに由来するアラビノフラノシダーゼ(Aoabf20、Aoabf22、Aoabf18)が挙げられる。アラビノフラノシダーゼとしては、公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様の酵素を含めることができる。かかる酵素については後段で説明する。アラビノフラノシダーゼは、以上の各種のアラビノフラノシダーゼのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
(グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼ)
グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼは、ヘミセルロースの構成成分であるグルクロノキシランのβ-1,4結合を加水分解する酵素であり、ヘミセルラーゼに包含される酵素である。グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼは、各種生物に由来するものが知られているが、なかでも、B. subtilisに由来するものが挙げられる。グルクロノキシランキシラノハイドロラーゼとしては、例えば、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるB. subtilisに由来するものが挙げられる。グルクロノキシランキシラノハイドロラーゼとしては、公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様の酵素を含めることができる。かかる酵素については後段で説明する。グルクロノキシランキシラノハイドロラーゼは、以上の各種のグルクロノキシランキシラノハイドロラーゼのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
(第3のエンドグルカナーゼ(EG))
本組成物は、第1のCBH、第2のCBH及び第1のEGに加えて、GHF12に属する第3のエンドグルカナーゼを含有していてもよい。GHF12に属する第3のEGとしては、各種生物に由来するものが知られている(http://www.cazy.org/fam/GH12.html)。なかでも、A. oryzaeに由来するEG、T. reeseiに由来するEG及びP. chrysosporiumに由来するEGから選択される1又は2以上とすることができる。好ましくは、A.oryzaeに由来するEGである。さらに、第3のEGとしては、例えば、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるA.oryzaeに由来するAocelA、配列番号18で表されるアミノ酸配列からなるT. reeseiに由来するTrEG III及び配列番号19(特開2009-247434号公報における配列番号2、なお、当該公報に開示される配列番号4〜8のアミノ酸配列からなるEGでもよい。)で表されるアミノ酸配列からなるP. chrysosporiumに由来するPcEG IIIが挙げられる。なお、さらに、第3のEGとしては、こうした公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様のEGを含めることができる。かかるEGについては後段で説明する。第3のEGは、以上の各種のEGのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
なお、本組成物に用いるのに好ましい酵素は、当該酵素について特定されたある種のアミノ酸配列などの公知又は新規の配列情報と一定の関係を有するとともに、それぞれ固有の酵素活性を有するタンパク質であってもよい。
【0042】
こうした酵素の一態様としては、例えばある酵素について開示される特定のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。各アミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換若しくは付加は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、1個以上10個以下程度である。より好ましくは、1個以上5個以下である。アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のグループ内での置換が挙げられる。(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)。
【0043】
他の一態様としては、ある酵素について開示される特定のアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつセルラーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。同一性は好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは、90%以上であり、一層好ましくは95%以上である。最も好ましくは、98%以上である。
【0044】
本明細書において同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性 ”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
【0045】
さらに他の一態様として、ある酵素について開示される特定のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、固有のセルラーゼ活性を有するタンパクが挙げられる。ストリンジェントな条件とは、たとえば、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、塩基配列の同一性が高い核酸、すなわち、所定の塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。なお、以上のことから、さらなる他の一態様として、所定の塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列を有するDNAによってコードされ、セルラーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0046】
本組成物は、第1のCBH、第2のCBH、第1のEG及び第2のEGのみを含有するものであってもよく、これらの酵素を各1種類ずつのみ含有するものであってもよい。また、第1のCBH、第2のCBH、第1のEG、第2のEG及び第3のEGのみを含有するものであってもよく、これらの各酵素を各1種類ずつのみ含有するものであってもよい。本組成によれば、これらのCBH及びEGがセルロース分解に対して良好な相乗効果を発揮できるため、こうした最小限のセルラーゼ組成であるにも関わらず、効果的にセルロースを分解することができ、糖化工程の低コスト化に寄与できる。
【0047】
本組成物において、第1のCBH、第2のCBH、第1のEG及び第3のEGを、いずれもT. reesei由来としてもよい。典型的には、これらの酵素を、商業的に入手可能なT. reesei由来のセルラーゼ製剤としてもよい。本組成物における上記各種の追加酵素は、T. reesei由来のセルラーゼ製剤についても有効に作用することができる。
【0048】
本組成物は、β−グルコシダーゼ(BGL)を含有していてもよいし、実質的に含有していなくてもよい。本発明の酵素製剤が、BGLを実質的に含有していない場合、BGLにより生成されるグルコースがCBH等の他のセルラーゼに対して生産物阻害を生じない点において好ましい。したがって、BGLを実質的に含有しない酵素製剤であれば、確実に生産物阻害を回避して、本発明者らが評価系で確認したセルロース分解の相乗効果を組成物においても得ることができる。また、セルロースをセロビオース等の部分分解物を効率的に生産することができる。さらに、特に、例えば、糖化と発酵とを同時進行させるCBP(連結バイオプロセス(糖化発酵同時進行))に本組成物を用いる場合においてBGLを表層提示した発酵微生物を用いる場合には、BGLを実質的に含有しない組成であるのが有利である。
【0049】
なお、実質的にBGLを含有しないとは、BGLを含有しないほか、BGLによる生産物阻害を回避又は抑制できる範囲のBGL量を含んでいてもよいことを意味している。本組成物は、好ましくは、BGLを含有していない。BGLを実質的に含有しない本組成物は、例えば、内在性のBGL遺伝子を保持しない微生物(酵母など)や内在性のBGL遺伝子を有するが当該遺伝子の発現が実質的に低い微生物や破壊した微生物(麹菌など)に対して、本明細書に開示される各種酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換体の培養物(培養上清)から容易に得ることができる。
【0050】
本組成物は、上記した各種酵素を、それぞれ精製したものとして含有していてもよいし、培養上清等、未精製タンパク質として他タンパク質やその他の成分を含んだものであってもよい。また、その製剤形態は、特に限定されず、固形製剤(粉末(凍結乾燥体等)、タブレット等、顆粒等)であってもよいし、溶液(流通時においては凍結体であることが好ましい。)であってもよい。
【0051】
本明細書に開示される組成物は、セルロース分解用である。本明細書において、セルロースは、グルコースがβ-1,4-グルコシド結合により重合した重合体及びその誘導体が挙げられる。グルコースの重合度は特に限定しない。また、誘導体としては、カルボキシメチル化、アルデヒド化、若しくはエステル化などの誘導体が挙げられる。また、セルロースは、その部分分解物を含むものであってもよい。さらに、セルロースは、配糖体であるβ−グルコシド、リグニン及び/又はヘミセルロースとの複合体であるリグノセルロース、さらにペクチンなどとの複合体であってもよい。セルロース は、結晶性セルロースであってもよいし、非結晶性セルロースであってもよい。セルロースの由来も特に限定しないで、天然由来のものでも、人為的に合成したものでもよい。
【0052】
セルロースは、通常、セルロースの他に併存成分を含むセルロース含有材料として分解に供される。セルロース含有材料は、少なくともセルロースを含んでいれば足り、綿や麻などの天然繊維品、レーヨン、キュプラ、アセテート、リヨセルなどの再生繊維品、稲ワラ、籾殻、木材チップなどのリグノセルロース系の農産廃棄物などのいわゆる実バイオマスであってもよいし、その前処理物であってもよい。また、セルロースは、前処理されたセルロース又はセルロース含有材料であってもよい。前処理とは、例えば、セルロースとともにリグニンやヘミセルロースが併存する状態の材料に対して、それらの複合状態を緩和するあるいは解除するような処理又は結晶性セルロースの結晶性を低下させるような処理が挙げられる。このような処理としては、例えば、水熱処理やイオン液体による処理が挙げられる。水熱処理としては、例えば、180℃〜240℃の温度で、30分から90分程度処理することが挙げられる。また、イオン液体による処理としては、60℃〜150℃で30分から2時間程度、疎水性又は親水性イオン液体に浸漬するなどの処理等が挙げられる。
【0053】
本組成物は、水熱処理やイオン液体による前処理が施されたバイオマス材料に好適である。ある程度の複合形態が緩和されたセルロース材料に対して、本組成の酵素組成が相乗的に作用してセルロースの分解活性を高めることができる。
【0054】
(セルラーゼ組成物の生産方法)
本組成物の生産方法は特に限定されない。例えば、各種酵素をそれぞれ準備し混合してもよいし、2以上の酵素を共発現する形質転換体を培養して得られる培養上清等の培養物から製造する形態であってもよい。さらに、これらを適宜組み合わせる形態であってもよい。
【0055】
これらの各種酵素は、公知のタンパク質合成方法あるいは遺伝子工学的に合成できる。例えば、適当な宿主微生物に上記酵素をコードする遺伝子を導入して形質転換した形質転換体で発現させることができる。こうした遺伝子は、例えば、特定の酵素をコードする塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いて、所定の酵母から抽出したDNA、各種cDNAライブラリー又はゲノムDNAライブラリー等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また、上記ライブラリー等由来の核酸を鋳型とし、各種酵素の遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいは酵素の遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。さらにまた、変異を導入した態様の酵素に対応する遺伝子は、例えば、酵素のアミノ酸配列をコードするDNAを、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって取得することができる。このような手法としては、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法が挙げられ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(タカラバイオ社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。そのほか、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、酵素について開示される塩基配列等に基づいて、各種態様の遺伝子を取得することができる。
【0056】
各種態様の酵素を遺伝子工学的に取得するための形質転換体を得るのにあたり、既出のMolecular Cloning等に記載されている方法を適宜参照し、従来公知の各種方法、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。
【0057】
上記形質転換体の宿主は、特に限定しないで、各種原核微生物や真核微生物を用いることができるが、遺伝子組み換え系と発酵技術の確立した酵母や麹菌を好ましく用いることができる。宿主がBGLを産生するものである場合、その発現が抑制されていてもよい。すなわち、内在性BGL遺伝子を有するが当該遺伝子が破壊されている宿主を用いるか、あるいは内在性BGL遺伝子を有しない宿主(例えば、後述するセルラーゼ非生産微生物など)を用いることができる。BGLは、既に説明したように、生産物阻害によりセルロース分解を抑制するからである。こうした形質転換体は、本組成物、特に、セルロースをオリゴマーにまで低分子化するための本組成物用として好ましい。特定遺伝子の破壊は、当業者であれば適宜実施できる。
【0058】
宿主は、セルラーゼ非生産微生物を用いることが好ましい。セルラーゼ非生産微生物とは、セルラーゼ遺伝子をゲノム上に有していない微生物のほか、当該遺伝子を有していてもその発現量及び発現形態(発現が誘導される条件など)を考慮すると、実質的にセルラーゼを生産していないといえる程度の微生物が包含される。セルラーゼ非生産微生物は、外来遺伝子として導入するCBHやEGの発現量を調節して高発現させやすいという利点がある。すなわち、好適な組合せ以外のセルラーゼが生産されないため、本明細書において意図する、セルロースの分解に好適なセルラーゼのみをできるだけ多く発現させることができる。こうした形質転換体は、強力な相乗効果を発揮可能なセルラーゼ組成物の製造に有利である。
【0059】
セルラーゼ非生産微生物としては、例えば、Saccharomyces cerevisiae等のSaccharomyces属の酵母、Schizosaccharomyces pombe,等のSchizosaccharomyces属の酵母、Candida shehatae等のCandida属の酵母、Pichia stipitis等のPichia属の酵母、Hansenula属の酵母、Trichosporon属の酵母、Brettanomyces属の酵母、Pachysolen属の酵母、Yamadazyma属の酵母、Kluyveromyces marxianus, Kluveromyces lactis等のKluveromyces属の酵母が挙げられる。酵母は、セルラーゼ遺伝子をゲノム上に有していない微生物である。
【0060】
セルラーゼ非生産微生物としては、また、Aspergillus oryzaeなどの工業的に利用されている各種麹菌を用いることが好ましい。また、Aspergillus oryzaeを始めとするAspergillus 属菌としては、Aspergillus aculeatus、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae、Aspergillus awamori、Aspergillus nidulans、Aspergillus kawachi、Aspergillus saitoi等が挙げられる。麹菌は、セルラーゼ遺伝子をゲノム上に有してはいるが、その発現が抑制されているか特殊な誘導条件下において発現されるに過ぎない微生物である。したがって、本明細書に開示されるセルラーゼを生産するにあたって、麹菌の内在性のセルラーゼ遺伝子の発現の影響が実質的にない。なお、条件によって内在性セルラーゼ遺伝子が発現する場合であっても必要に応じて内在性セルラーゼ遺伝子を破壊すればよい。
【0061】
このように、本明細書に開示されるセルラーゼ等を生産する形質転換体においては、本明細書における開示において好適とされる組合せ以外の内在性のセルラーゼ遺伝子の発現が抑制されていることが好ましいが、本明細書に開示されるセルラーゼ等の組み合わせの相乗効果を阻害しない範囲で当該遺伝子の発現は許容される。
【0062】
上記形質転換体においては、こうした組合せのセルラーゼ等を細胞内に発現するようにしてもよいし、細胞表層に保持する又は細胞外に分泌するように構築してもよい。細胞表層に保持する形態又は細胞外に分泌する形態であれば、形質転換体又は培養上清をそのままセルラーゼ組成物として利用できる。細胞外に分泌する形態は、培養上清から酵素を取得するのにも有利である。
【0063】
本明細書に開示されるセルラーゼの生産方法の一態様として、セルラーゼ等のタンパク質の生産方法であって、1又は2以上のタンパク質をコードする遺伝子をセルラーゼ非生産微生物に導入してセルラーゼ非生産微生物で前記酵素を生産する工程、を備える態様が挙げられる。セルラーゼ非生産微生物は、外来タンパク質を生産するための良好な宿主となりうる。特に、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチン分解酵素など植物細胞壁の構成成分を代謝するセルロース生産生物由来のタンパク質の生産に好適であり、なかでも、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ及びペクチン分解酵素等のセルロースの分解に寄与するタンパク質であることが好ましい。セルロース生産微生物としては、特に限定しないが、例えば、P. chrysosporium、B. subtilisやO. sativa等が挙げられる。また、発現に好適なセルラーゼの種類は特に限定しないが、GHF6、GHF7に属するCBH、GHF5、9、12等に属するEGのほか、キシラナーゼが挙げられる。例えば、P. chrysosporium由来のGHF6又は7に属するCBH I、CBH II、B. subtilis由来のグルクロノキシランキシラノヒドロラーゼ、GHF9に属するO. sativa由来のEG、GHF12に属するP. chrysosporium由来のEGが挙げられる。
【0064】
セルラーゼ非生産微生物としては、すでに説明した微生物を使用できるが、Aspergillus属菌や酵母を用いることが好ましい。本生産方法によれば、Aspergillus属菌を宿主とするために、外来性のセルラーゼを効率的に生産することができる。また、上記各種の属に由来するタンパク質は、そのままのコドンではAspergillus属菌における生産量が少ないが、宿主Aspergillus 属のコドン使用頻度に基づき、使用頻度の高いコドンをGC含量やATGC比率を調製しつつ用いることでその生産量を顕著に高めることができる。Aspergillus属のコドン使用頻度は、宿主となるAspergillus 属菌に適合したものを用いることが好ましい。例えば、Aspergillus oryzaeについては、財団法人かずさディー・エヌ・エー研究所の遺伝暗号使用頻度データベース(Codon Usage Database)のサイト(http://www.kazusa.or.jp/codon/)において開示されるものを用いることができる。また、
【0065】
以上のことから、本明細書に開示されるセルラーゼ非生産微生物の形質転換体の一態様として、以下の外来タンパク質;Phanerochaete属に由来するGHF6に属する1又は2以上のCBH等のセルラーゼ、Phanerochaete属に由来するGHF7に属する1又は2以上のCBH等のセルラーゼ、Phanerochaete属に由来するGHF12に属する1又は2以上のEG等のセルラーゼ、Oryza属に由来するGHF9に属するEG等のセルラーゼ、及びBacillus属に由来するヘミセルラーゼからなる群から選択される1又は2以上のタンパク質をコードする遺伝子を発現するための発現ベクターで形質転換された形質転換体が提供される。前記セルラーゼ非生産微生物は酵母であってもよく、Aspergillus属菌であってもよい。Aspergillus属菌とのとき、Aspergillus属菌におけるコドン使用頻度に基づき、高い使用頻度のコドンを用いて改変した遺伝子を発現するための発現ベクターを用いて形質転換して得られる、形質転換体とすることが好ましい。
【0066】
(セルロースの低分子化物の生産方法)
本明細書に開示される、セルロースの低分子化物の生産方法は、本明細書に開示されるセルラーゼ組成物を用いて、セルロースを分解する工程、を備えることができる。本方法によれば、効率的にセルロースを低分子化し、セルロースオリゴマー又はグルコースを生産できる。なお、グルコースまで低分子化するには、β−グルコシダーゼを用いることが好ましい。
【0067】
低分子化工程においてセルロースを効率的にセルロースオリゴマーにまで分解するには、BGLの実質的な非存在下でセルロースを分解することが好ましい。こうすることで、BGLによる生産物阻害の影響を回避又は抑制できる。なお、「BGLの実質的な非存在下」とは、BGLが存在しないほか、BGLによる生産物阻害を回避又は抑制できる範囲でBGLが存在していてもよい、ことを意味している。セルロースオリゴマーを得るためには、BGLはこの酵素反応系内に存在しないことが好ましい。
【0068】
低分子化工程は、BGLの非存在下、BGLを実質的に含まない本組成物を用いて得られた分解産物に対して、BGLを供給して分解する工程とすることができる。こうすることで、効率的にセルロースをグルコースにまで分解できる。
【0069】
本発明の生産方法で用いる本組成物に含有する各酵素の組み合わせは、本組成物として提供されていてもよいし、こうした酵素を細胞外に分泌発現(細胞表層提示形態を含む)する1又は2以上の形質転換体の組み合わせとして提供されていてもよいし、これらの組み合わせで提供されていてもよい。形質転換体は、2以上の酵素を共発現するものであってもよい。
【0070】
セルロースは、セルロース以外の併存成分を含むセルロース含有材料の形態であってもよい。また、セルロースは、水熱処理やイオン液体による前処理が施されていてもよい。
【0071】
(有用物質生産方法)
本明細書に開示される、微生物の発酵により有用物質を生産する方法であって、少なくとも、本組成物を用いて、セルロースを前記微生物が利用可能な炭素源にまで分解する工程と、前記炭素源を前記微生物により発酵して前記有用物質を生産する工程と、を備えることができる。本生産方法によれば、セルロースの分解に好適な組み合わせの組成物によってセルロースが効率的に分解されるため、低コストで糖化工程を実施でき、その結果、低コストでセルロースから有用物質を生産できる。
【0072】
上記分解工程は、セルロースをオリゴマーまで低分子化する場合には、BGLの実質的な非存在下で実施すればよい。一方、すでに説明したように、グルコースにまで低分子化する場合には、BGLの存在下に実施する。なお、後述するように、有用物質の生産工程において、BGLを表層提示する酵母等を用いる場合、分解工程では、BGLの実質的な非存在下で実施することが好ましい。なお、上記分解工程は、本明細書に開示されるセルロースの低分子化物の生産方法における分解工程における各種態様を包含する。
【0073】
上記有用物質の生産工程で用いる微生物は、特に限定しないが、酵母などのエタノール生産微生物や乳酸菌などの有機酸生産微生物が挙げられる。これらはいずれも人工的に取得された微生物であってもよい。例えば、グルコースからの代謝系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子組換えにより置換、追加等して得られる本来の代謝物でない化合物を産生可能に遺伝子工学的に改変したものであってもよい。このような微生物を用いることで、例えば、イソプレノド合成経路の追加によるファインケミカル(コエンザイムQ10、ビタミン及びその原料等)、解糖系の改変によるグリセリンの生産、プラスチック・化成品原料を生産するなどのバイオリファイナリー技術に適用できる。有用物質としては特に限定しないが、グルコースを利用して微生物が生成可能なものが好ましい。上記したように、バイオリファイナリー技術全般にわたる物質を対象とすることができる。なお、本明細書において、「有機酸」とは、酸性を示す有機化合物であって、遊離の酸あるいはその塩である。「有機酸」が備える酸性基としては、カルボンキシル基であることが好ましい。このような「有機酸」としては、乳酸、酪酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、アジピン酸などが挙げられる。これらの「有機酸」は、D体、L体のほか、DL体であってもよい。「有機酸」は好ましくは、乳酸である。
【0074】
上記有用物質の生産工程で用いる微生物は、上記組成物によるセルロースに由来する部分分解物を炭素源として利用可能にBGLを細胞外に発現する微生物であることが好ましい。こうすることで、該有用物質の生産工程を、上記分解工程を同一工程として実施できる。すなわち、糖化と発酵とを同一工程で実施できる。グルコースによる生産物阻害を回避して、効率的にセルロースを糖化しつつ発酵して微生物によって有用物質を生産できる。BGLを細胞外に発現する微生物は、好ましくはBGLを細胞表層提示している。またセルロースに由来する部分分解物は、セルロースのオリゴマーやセロビオースが挙げられる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に述べる遺伝子組換え操作は既出のMolecular Cloningに従い行った。
【実施例1】
【0076】
(麹菌発現プラスミドの構築)
<niaD遺伝子の大腸菌ベクターへの組み込み>
麹菌Aspergillus oryzae由来の硝酸還元酵素遺伝子niaD(配列番号20)をPst I-Hind III 断片となるように、プライマーA(配列番号21)と、プライマーB(配列番号22)を用いて麹菌ゲノムDNAを鋳型としてLA-Taq(タカラバイオ社)を用いてよりPCR(96℃(5分間)を1サイクル、96℃(20秒間)、60℃(30秒間)及び72℃(5分間)を30サイクル、72℃(7分間)を1サイクル)により増幅した。
【0077】
得られたPCR増幅産物を制限酵素Pst I-Hind IIIを用いて37℃で処理後、アガロースゲル電気泳動で切り出した。切り出しは、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いた。大腸菌プラスミドpUC119(タカラバイオ社)にDNA ligation Kit(タカラバイオ社)を用いてライゲーションし、大腸菌(E. coli)JM109株に形質転換した。その結果、niaDマーカーがサブクロニーニングされたプラスミドpNIA2を得た。プラスミドpNIA2は、PstI、SalI部位の両方に遺伝子をunique siteとして遺伝子を導入できるように構成されている。
【0078】
<glaBターミネーターの組み込み>
麹菌由来glaBターミネーター(配列番号23)の遺伝子のpNI2への挿入を試みた。プライマーC(配列番号24)とプライマーD(配列番号25)とを用いて、麹菌ゲノムのDNAを鋳型としてLA-Taq(タカラバイオ社)を用いてよりPCR(96℃(5分間)を1サイクル、96℃(20秒間)、60℃(30秒間)及び72℃(5分間)を30サイクル、72℃(7分間)を1サイクル)により増幅した。
【0079】
得られたPCR増幅産物を制限酵素SalI-XhoIを用いて37℃で処理後、アガロースゲル電気泳動で切り出した。切り出しは、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いた。大腸菌プラスミドpNIA2のSalI部位にDNA ligation Kit(タカラバイオ社)を用いてライゲーションし、大腸菌(E. coli)JM109株に形質転換した。その結果、slaBターミネーターがサブクロニーニングされたプラスミドpNIATを得た。プラスミドpNIATは、PstI、SalI部位の両方に遺伝子をunique siteとして遺伝子を導入できるように構成されている。
【0080】
<sodMプロモーターの組み込み>
麹菌由来のsodMプロモーター(配列番号26)の遺伝子のpNIA2への挿入を試みた。プライマーE(配列番号27)とプライマーF(配列番号28)とを用いて、麹菌ゲノムのDNAを鋳型としてLA-Taq(タカラバイオ社)を用いてよりPCR(96℃(5分間)を1サイクル、96℃(20秒間)、60℃(30秒間)及び72℃(5分間)を30サイクル、72℃(7分間)を1サイクル)により増幅した。
【0081】
得られたPCR増幅産物を制限酵素SalI-PstIを用いて37℃で処理後、アガロースゲル電気泳動で切り出した。切り出しは、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いた。大腸菌プラスミドpNIATのPstI-SalI部位にDNA ligation Kit(タカラバイオ社)を用いてライゲーションし、大腸菌(E. coli)JM109株に形質転換した。その結果、sodMターミネーターがサブクロニーニングされたプラスミドpNMBを得た。プラスミドpNMBは、SalI部位に麹菌で発現させたいタンパク質をコードする遺伝子をunique siteとして遺伝子を導入できるように構成されている。
【0082】
<目的遺伝子の組込み>
(1)ベクターの調製
pNMBを制限酵素SalIを用いて37℃で処理後、dNTPを最終10mMとなるように添加してT4DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)を用いて37℃で1時間処理した。さらに、バクテリア由来のアルカリホスファターゼ(タカラバイオ社)を用いて50℃で30分反応させた。得られた反応物をPCRクリーンアップカラム(プロメガ社)で処理溶出させベクターとした。
(2)インサートの調製
表1に示す麹菌で発現させたいタンパク質をコードする遺伝子を目的遺伝子として、上記ベクターにサブクローニングするインサートとした。目的遺伝子の開始コドンから下流30bpのセンス鎖のプライマー(5’末端をリン酸化)と、目的遺伝子の終止コドンから上流30bpのアンチセンス鎖のプライマー(5’末端をリン酸化)を用いて、目的遺伝子の起源生物由来のゲノムDNAを鋳型として、pfu Taqポリメラーゼ(東洋紡績)を用いてPCR(96℃(5分間)を1サイクル、96℃(20秒間)、60℃(30秒間)及び72℃(5分間)を30サイクル、72℃(7分間)を1サイクル)により増幅した。得られたPCR断片を、PCRクリーンアップカラム(プロメガ社)で処理溶出させ、インサートとした。
【0083】
【表1】
【0084】
(3)ベクターとインサートのライゲーション
モル数でベクター:インサート=1:20となるように添加して、DNA ligation Kit(タカラバイオ社)を用いてライゲーションし、大腸菌(E. coli)JM109株に形質転換した。形質転換体からプラスミドを調製し、目的遺伝子の読み枠がsodMプロモーターと正方向にサブクローニングされた遺伝子断片を目的遺伝子発現プラスミドとして調製した。
【実施例2】
【0085】
(目的遺伝子発現株の調製)
本実施例では、表1に示す酵素遺伝子発現株を作成した。定法であるPEG-カルシウム法(Mol. Gen. Genet., 218, 99-104(1989))により、上記目的遺伝子発現プラスミドを用いて、A. oryzaeのniaD変異株式会社(独立行政法人産業科学総合技術研究所特許生物寄託センターにFERM P-17707として寄託されている。)を形質転換した。硝酸を単一窒素源とするツアペクドックス(Czapek-Dox)培地(2%グルコース、0.1%リン酸1水素2カリウム、0.05%塩化カリウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.001%硫酸鉄、0.3%硝酸ナトリウム)で生育できる株を選択することにより、目的遺伝子発現プラスミドを保持する形質転換体を複数得た。
【実施例3】
【0086】
(目的遺伝子産物の調製)
実施例2で作製した酵素遺伝子を発現する形質転換体を、ポテトデキストロース培地で胞子形成させ、滅菌水で胞子を回収した。500ml容三角フラスコに入った100mlGPY液体培地(2%グルコース、1%ポリペプトン、0.5%イーストエキストラクト、0.1%リン酸1水素2カリウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.001%硫酸鉄、0.3%硝酸ナトリウム)に最終胞子濃度1×106/mlとなるように、植菌した。30℃で3日間の液体培養で目的遺伝子産物が培地中に分泌発現し、当該培養液を酵素サンプルとした。こうして取得した酵素サンプル液を用いて、SDS−PAGEによるタンパク質発現量の見積もりを行った結果を表2に示す。
【表2】
【実施例4】
【0087】
(水熱処理後の稲ワラ由来のセルロースの市販酵素製剤と本組成物による分解評価)
200℃で30分間加熱する水熱処理後の稲ワラのセルロース画分に50mM酢酸バッファー(pH5.0)、組成物1を12mg/gバイオマスとなるように加えて、45℃で0〜48時間後に、溶液中のグルコース濃度を液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。ポジティブコントロールとしては、市販の酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を、12mg/gバイオマスとなるように添加したものを用いた。
(組成物1)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 5%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 50%
GHF5に属するAspergillus oryzae由来のEG 10%
GHF12に属するAspergillus oryzae由来のEG 30%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
【0088】
最終産物としてのグルコースを液体クロマトグラフィーで測定するために、市販酵素製剤にはメーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加し、オリゴマー化したセルロースをすべてグルコースに変換した。同様に、酵素組成物の反応液にも、同様のBGLを添加して、グルコース量を測定した。糖化結果を図1に示す。図1に示すように、酵素組成物は、市販酵素製剤と同等の糖化効果があることがわかった。
【実施例5】
【0089】
(イオン液体処理後のユーカリ由来セルロースの市販酵素製剤と酵素組成物による分解評価)
イオン液体によるユーカリの前処理は、以下の通り行った。イオン液体1-Ethyl-3-methylimidazoliumacetate(以下、[Emim][Ac]と称す)1.0g(関東化学社)をバイアル瓶に採取し、これに30mgのバイオマス試料を加えた。バイオマスとしては、カッターミルで破砕処理した粒径250μgのユーカリ粉末を使用した。上記試料を120℃にて1時間、静置条件下にて処理後、15mlの滅菌水を加え洗浄した。更に10mlの50mM酢酸バッファーpH5.0で洗浄し、以下の実験に用いた。イオン液体処理後のユーカリ由来のセルロース画分に、50mM酢酸バッファーpH5.0、酵素組成物を10mg/gバイオマスとなるように添加し、50℃で0〜24時間の反応後に溶液のグルコース濃度を液体クロマトグラフィーにより測定した。ポジティブコントロールとして、市販酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を10mg/gバイオマスとなるように添加したものを用いた。酵素組成物は以下のとおりであった。
(組成物1)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 5%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 50%
GHF5に属するAspergillus oryzae由来のEG 10%
GHF12に属するAspergillus oryzae由来のEG 30%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
(組成物2)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 5%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 50%
GHF5に属するTrichoderma reesei由来のEG 40%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
【0090】
最終産物としてグルコースをHPLCにて測定するために、市販酵素製剤には、メーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。同様に、酵素組成物反応液にも、同量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。結果は、図2に示すように、酵素組成物を添加した場合、添加後の早い段階(7時間目まで)においてはグルコース生成量が高く、4時間目では、市販酵素製剤と比較して組成物1では約2倍、組成物2では1.5倍程度、高い糖化能を示した。24時間目のグルコース生成量は、市販酵素製剤と同等であった。添加後の早い段階での糖化が効率よく行われていることから、水熱処理した稲ワラよりも、イオン液体処理したユーカリの方が、セルラーゼがアタックしやすい状態のセルロースが多く出ていることが推測された。また、組成物1と2とを比較すると、組成物1の方が活性が高いことより、Aspergillus oryzae由来のGHF5,12のEGが、GHF5のTrichoderma reesei由来EGよりも添加効果が高いことがわかった。
【実施例6】
【0091】
(酵素組成物中のEGの種類の比較評価)
水熱処理後の稲ワラのセルロース画分に50mM酢酸バッファーpH5.0、実施例5で用いた組成物1,2を、10mg/gバイオマスとなるように添加し、50℃で0〜24時間の反応後に溶液のグルコース濃度をHPLCにより測定した。ポジティブコントロールとして、市販酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を10mg/gバイオマスとなるように添加したものを用いた。
【0092】
最終産物としてグルコースをHPLCにて測定するために、市販酵素製剤には、メーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。同様に、酵素組成物反応液にも、同量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。結果は、図3に示すように、酵素カクテルを添加した場合、添加後の早い段階(7時間目まで)においてはグルコース生成量は市販酵素製剤と比較して若干低いが、カクテル1の24時間目のグルコース生成量は、市販酵素製剤よりも高かった。また、組成物1と2とを比較すると、組成物1の方が活性が高いことより、Aspergillus oryzae由来のGHF5,12のEGが、GHF5のTrichoderma reesei由来EGよりも添加効果が高いことがわかった。
【実施例7】
【0093】
(酵素組成物中のCBH量の比較評価)
水熱処理後の稲ワラのセルロース画分に、50mM酢酸バッファーpH5.0、以下の組成物1、3を、12mg/gバイオマスとなるように添加し、45℃で0〜24時間の反応後に溶液のグルコース濃度をHPLCにより測定した。ポジティブコントロールとして、市販酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を12mg/gバイオマスとなるように添加したものを用いた。酵素組成物の組成物は以下のとおりであった。
(組成物1)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 5%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 50%
GHF5に属するAspergillus oryzae由来のEG 10%
GHF12に属するAspergillus oryzae由来のEG 30%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
(組成物3)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 10%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 50%
GHF5に属するAspergillus oryzae由来のEG 10%
GHF12に属するAspergillus oryzae由来のEG 25%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
【0094】
最終産物としてグルコースをHPLCにて測定するために、市販酵素製剤には、メーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。同様に、酵素組成物反応液にも、同量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。結果は図4に示すように、組成物1では、組成物3よりもグルコース生成量が多いことからGHF6のP. chrysosporium由来のCBHの割合が5%よりも10%のときの方が糖化能力が高いことがわかった。
【実施例8】
【0095】
(酵素組成物中のCBHの種類の比較評価)
(酵素組成物中のCBH量の比較評価)
水熱処理後の稲ワラのセルロース画分に、50mM酢酸バッファーpH5.0、以下の組成物4を22、44、及び90mg/gバイオマスとなるように添加し、組成物5を90mg/gバイオマスとなるように添加し、45℃で0〜48時間の反応後に溶液のグルコース濃度をHPLCにより測定した。ポジティブコントロールとして、市販酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を12mg/gバイオマスとなるように添加したものを用いた。酵素組成物の組成物は以下のとおりであった。
(組成物4)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 5%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 40%
GHF5に属するTrichoderma reesei由来のEG 55%
(組成物5)
GHF6に属するAspergillus oryzae由来のCBH 5%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 40%
GHF5に属するTrichoderma reesei由来のEG 55%
【0096】
最終産物としてグルコースをHPLCにて測定するために、市販酵素製剤には、メーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。同様に、酵素組成物反応液にも、同量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。結果は図5に示すように、組成物4を添加した場合では、酵素量の増加に伴い、グルコース生成量が増加し組成物4及び5に関して90mg/g添加量で比較すると、組成物4の方が活性が高かったまた、組成物5(90mg/g添加時)のグルコース生成量は、組成物4(44mg/g添加時)と同等であり、組成物5は、組成物4の約半分程度の活性しかないことがわかった。組成物4と5とでは、GHF6のCBHが相違しており、Aspergillus oryzae由来CBHよりもPhanerochaete chrysosporium由来CBH添加時のセルロース分解活性が高いことがわかった。
【実施例9】
【0097】
(グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼの添加効果)
水熱処理後の稲ワラのセルロース画分に、50mM酢酸バッファーpH5.0、以下の組成物6、7を、12mg/gバイオマスとなるように添加し、45℃で0〜24時間の反応後に溶液のグルコース濃度をHPLCにより測定した。ポジティブコントロールとして、市販酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を12mg/gバイオマスとなるように添加したものを用いた。酵素組成物の組成物は以下のとおりであった。
(組成物6)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 10%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 40%
GHF5に属するAspergillus oryzae由来のEG 15%
GHF12に属するAspergillus oryzae由来のEG 30%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
(組成物7)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 10%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 40%
GHF5に属するAspergillus oryzae由来のEG 15%
GHF12に属するAspergillus oryzae由来のEG 25%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
GHF30に属するB. subtilis由来のグルクロノキシランキシラノヒドロラーゼ 5%
【0098】
最終産物としてグルコースをHPLCにて測定するために、市販酵素製剤には、メーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。同様に、酵素組成物反応液にも、同量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。結果は図6に示すように、組成物7では組成物6よりもグルコース生成量が多いことから、GHF30のBacillus subtilis由来グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼの添加により、更に糖化効率が向上することが示された。
【実施例10】
【0099】
(各種ヘミセルロースの添加効果)
水熱処理後の稲ワラのセルロース画分に、市販酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を200mg/gバイオマスとなるように添加し、さらに表1に記載のAspergillus oryzae由来のペクチン酸リアーゼ以降の各種酵素を発現する各種Aspergillus oryzae形質転換体の培養上清を2%(w/v)となるように添加し、50℃で反応後に溶液のグルコース濃度をHPLCにより測定した。
【0100】
最終産物としてグルコースをHPLCにて測定するために、市販酵素製剤には、メーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。ポジティブコントロールとして同様に、市販酵素製剤とBGLと2%市販キシラナーゼ(Trichoderma reesei由来のHampton社)を添加したもの、および市販酵素製剤とBGLを添加したものを用いた。結果を、図7〜11に示す。
【0101】
図7〜11に示すように、グルコース生成量の大きいものは、OsEG、Aoxyn139、BsGX、Aoxyn887、AoPL19、Aoabf18,20,22であった。また、添加効果が最も高かったOsEG(GHF9に属するイネ由来EG)について、市販酵素製剤(200mg/g及び400mg/gバイオマス)、本発明者らすでに添加効果を確認しているPcCBH2と比較した結果を図12に示す。図12に示すように、2%のOsEGの添加により、グルコース生成量は、市販酵素製剤2倍量の400mg/gバイオマスとなるように添加した場合と同等の効果を示すことがわかった。これはPcCBH2添加時の効果と同等であった。
【実施例11】
【0102】
(異種タンパク質のAspergillus属で使用頻度の高いコドンへの変換による生産量の向上)
麹菌による異種タンパク質の発現は、同種のタンパク質を発現する場合と比較すると困難であることが知られている。Phanerochaete chrysosporium由来のCBHをPhanerochaete chrysosporiumの塩基配列のまま麹菌で発現すると、培養上清のSDS−PAGEによるタンパク質発現量の見積もりを行ったところ、GHF6のPhanerochaete chrysosporium由来のCBHでは、0.1mg/L以下、GHF7の同由来のCBHでは、約1mg/Lであった。GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来CBHにつき、図13に示す、かずさディー・エヌ・エー研究所の遺伝子暗号使用頻度データベース(http://www.kazusa.or.jp/codon/)から取得したAspergillus属において用いられているコドン使用頻度及びGC含量(50%以上55%以下程度)とA/T/G/C比率(各25±4%程度)とを考慮して選択されたコドン(図13Aにおいて着色部分にて示すコドン)で改変した塩基配列からなるDNA(配列番号29)を用いて異種タンパク質を発現させた結果、29mg/Lの生産量を示した。すなわち、生産量は約290倍に向上した。また、GHF6に属するO. sativa由来のEG、B. subtilis由来のグルクロノキシランキシラノヒドロラーゼについても、それぞれAspergillus属で使用されるコドンにおいて同様にして選択されたコドン(図13B及びCにおいて着色部分にて示すコドン)で改変した塩基配列からなるDNA(それぞれ配列番号30、配列番号31)を用いてタンパク質を発現させた結果、それぞれ、134mg/L、89mg/Lの生産量を示した。これらの結果から、この種のタンパク質について、Aspergillus属におけるコドン使用頻度に基づく塩基配列の改変が有効であることがわかった。
【0103】
(酵母によるセルラーゼの生産)
Phanerochaete chrysosporium由来CBH2をPCRで増幅し、酵母分泌発現ベクターであるpRS436GAPSSRGにサブクローニングした。pRS436GAPSSRG はTDH3プロモーター下流に、分泌シグナルを持ち菌体外に酵素を分泌する事が可能である。本ベクターを酵母(MT8-2株)に形質転換し、SD-URA寒天培地(yeast nitrogen base without amino acids without ammonium sulfate 1.7g、カザミノ酸5g、アミノ酸mix、グルコース20g、寒天20g、脱イオン水1000ml)で30℃、3日間培養した。生育したコロニーをSD-URA液体培地(yeast nitrogen base without amino acids without ammonium sulfate 1.7g、カザミノ酸5g、-URAアミノ酸mix 0.77g、グルコース20g、脱イオン水1000ml)に植菌し、30℃、20時間培養した菌液を前培養液とした。本培養はファーメンターを用いてpHを5.5で維持しながら培養を行った。SD-URA液体培地500mlに前培養液をOD600=0.1になる様に植菌し、25℃、3日間培養した。培養上清を回収し、硫安濃度70%で硫安沈澱を行った。硫安沈澱後のタンパク質をバッファー(1M硫安、0.1MTris(pH7.0))で溶解し、限外濾過で完全にバッファー置換したサンプルを精製用サンプルとした。同バッファーで膨潤したアビセル溶液(アビセル10g、バッファー40ml)2mlをカラムに詰めアビセルカラムを作製した。ペリスタポンプを用いて、1ml/分の流速でサンプルをカラムへ流した。その後、同バッファー20ml(流速1ml/分)で洗浄し、滅菌水で溶出した(流速1ml/分)。1mlずつ回収した画分を、SDS-PAGE、CMCハロアッセイで確認した結果、活性型のPcCBH2をほぼ単一バンドまで濃縮、精製出来た。バイオラッド社のプロテインアッセイキットにより蛋白量を測定した。PSC分解の比活性は、麹菌で生産したPcCBH2とほぼ同等であった。また、T. reesei由来のGHF5のEG、GHF12のEG、GHF6のCBH、GHF7のCBH、P. chrysosporium由来のGHF12のEG、GHF7のCBH等につても同様に酵母において活性型で分泌できることがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0104】
配列番号21,22,24,25,27,28:プライマー
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスに含まれるセルロースを有効利用するためのセルラーゼ組成物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有限である石油資源を代替するものとして、植物の光合成作用に由来するバイオマスへの期待が高まってきており、バイオマスをエネルギーや各種材料に利用するための各種の試みがなされている。なかでも、セルロースの利用が期待されている。セルロースは、糖であるグルコースがβ−1,4グリコシド結合によって縮合した高分子化合物であり、分子間水素結合により強固な結晶構造を構成している。
【0003】
現在、提供されているセルロース分解用のセルラーゼ製剤として、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)由来の酵素製剤が知られている。また、ヘミセルロース等を分解するヘミセルラーゼも各種知られている(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tung M-Y, et al, Applied Biochem. Biotechnol. 136(2007), 1-16
【非特許文献2】K. Nishitani et al., J. Bio. Chem. Vol. 266, No.10, 65369-6543, 1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイオマスの実用的な利用には、単糖まで分解する糖化工程の低コスト化が大きなボトルネックとなっている。セルロースを効率よく単糖まで分解(糖化)するには、少なくとも3つのタイプのセルロース分解酵素(セルラーゼ)が必要であり、それらが協働して作用することによって初めて可能になると考えられている(以下、こうした効果を相乗効果という。)。この3つのタイプのセルラーゼは、高分子のセルロースに対して作用するエキソ型(末端から2糖づつ切断する)のセロビオヒドロラーゼ(CBH)と、エンド型(ランダムに切断する)のエンドグルカナーゼ(EG)と、これらの酵素によりある程度オリゴマー化されたものを単糖まで分解するβ−グルコシダーゼ(BGL)である。効率的な糖化工程の実現には、最大の相乗効果を発揮するセルラーゼの組み合わせを確立することが重要である。なかでも、CBHとEGとの組み合わせが重要である。
【0006】
しかしながら、上記従来のセルラーゼ製剤は、Trichoderma reesei(トリコデルマ・リーゼイ)の生産するタンパク質精製物に過ぎず、すべてのセルラーゼがT. reesei由来の酵素製剤であるほか、不要なタンパク質も含んでいる。また、T. reeseiは、遺伝子組換え系が十分に確立されていないため、遺伝子組換えによる酵素の種類や発現量の制御による改変は困難である。さらに、T. reesei以外の微生物由来のセルラーゼのバイオマス分解への利用は各種検討されているものの人工的なセルラーゼの組み合わせによって、従来のセルラーゼ製剤と同等以上のセルロース分解活性を得るのは極めて困難であった。
【0007】
また、実バイオマス中にはセルロースに加えてヘミセルロース等が併存するため、前処理後のバイオマスに存在する可能性のあるヘミセルロース等をヘミセルラーゼ等で処理することも考えられるが、個々のヘミセルラーゼの糖化に対する有効性は確認されていない。
【0008】
そこで、本明細書の開示は、セルロースの分解に適したCBHとEGの組み合わせを含むセルラーゼ組成物及びその利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、T. reesei及びT. reesei以外の複数の生物に由来する各種のセルラーゼ、特に、CBHとEGとの組み合わせについて詳細な検討を行った。その結果、特定のGHFに属するCBHとEGとを組み合わせることが重要であることがわかった。さらに、セルラーゼによるセルロースの分解効率の向上のためには、ある種のヘミセルラーゼなどが有効であることを初めて見出した。本明細書の開示によれば、これらの知見に基づき以下の手段が提供される。
【0010】
本明細書の開示によれば、GHF6に属する1又は2以上の第1のセロビオヒドロラーゼと、GHF7に属する1又は2以上の第2のセロビオヒドロラーゼと、GHF5に属する1又は2以上の第1のエンドグルカナーゼと、を含み、さらに、以下の酵素(a)〜(e)からなる群から選択される1又は2以上を含有する、セルローゼ組成物が提供される。
(a)GHF9に属する1又は2以上の第2のエンドグルカナーゼ
(b)1又は2以上のペクチン酸リアーゼ
(c)1又は2以上のキシラナーゼ
(d)1又は2以上のアラビノフラノシダーゼ
(e)1又は2以上のグルクロノキシランキシラノヒドロラーゼ
【0011】
前記第1のセロビオヒロドラーゼは、Phanerochaete chrysosporium(P. chrysosporium,ファネロケーテ・クリソスポリウム)及びAspergillus oryzae(A.oryzae、アスペルギルス・オリゼ)からなる群から選択される1又は2以上の生物に由来するセロビオヒドロラーゼを含むことが好ましい。なかでも、前記第1のセロビオヒドロラーゼは、P. chrysosporiumに由来するセロビオヒドロラーゼを含むことが好ましい。
【0012】
前記第2のセロビオヒドロラーゼは、Aspergillus niger(A. niger,アスペルギルス・ニガー)、Aspergillus aculeatus(A. aculeatus,アスペルギルス・アキュリータス)及びA.oryzaeからなる群から選択される1又は2以上の生物に由来するセロビオヒドロラーゼを含むことが好ましい。なかでも、前記第2のセロビオヒドロドラーゼは、A. nigerに由来するセロビオヒドロラーゼを含むことが好ましい。
【0013】
前記第1のエンドグルカナーゼは、A.oryzae及びTrichoderma reesei(T. reesei,トリコデルマ・リーゼイ)に属する生物に由来するエンドグルカナーゼを含むことが好ましい。また、前記第2のエンドグルカナーゼは、Oryza sativa(O. sativa,イネ)に属する生物に由来するエンドグルカナーゼを含むことが好ましい。
【0014】
さらに、GHF12に属する1又は2以上の第3のエンドグルカナーゼを含有することが好ましい。前記第3のエンドグルカナーゼは、P. chrysosporium、A. oryzae及びT. reeseiからなる群から選択される1又は2以上の生物に由来することが好ましい。上記組成物においては、前記第2のエンドグルカナーゼと前記第3のエンドグルカナーゼとを含有することが好ましい。
【0015】
前記組成物において、セロビオヒドロラーゼが、GHF6に属する1又は2以上の第1のセロビオヒドロラーゼと、GHF7に属する1又は2以上の第2のセロビオヒドロラーゼと、からなり、エンドグルカナーゼが、1又は2以上のGHF5に属する第1のエンドグルカナーゼと、GHF9に属する1又は2以上の第2のエンドグルカナーゼと、GHF12に属する1又は2以上の第3のエンドグルカナーゼと、からなる組成物も提供される。
【0016】
β−グルコシダーゼを実質的に含有しない前記組成物も提供される。
【0017】
本明細書の開示によれば、酵素の生産方法であって、Phanerochaete属に由来するセルラーゼ、Oryza 属に由来するセルラーゼ及びBacillus属に由来するヘミセルラーゼからなる群から選択される1又は2以上の酵素をコードする遺伝子をセルラーゼ非生産微生物に導入して前記セルラーゼ非生産微生物で前記酵素を生産する工程、を備える方法が提供される。前記セルラーゼ非生産微生物は、Aspergillus属菌であり、前記遺伝子は、Aspergillus属菌におけるコドン使用頻度に基づいて改変されていることが好ましい。前記セルラーゼ非生産微生物は酵母であってもよい。
【0018】
本明細書の開示によれば、セルラーゼ非生産微生物の形質転換体であって、
以下のタンパク質;
Phanerochaete属に由来するGHF6に属する1又は2以上のセルラーゼ、
Phanerochaete属に由来するGHF7に属する1又は2以上のセルラーゼ、
Phanerochaete属に由来するGHF12に属する1又は2以上のセルラーゼ、
Oryza属に由来するGHF9に属する1又は2以上のセルラーゼ、及び
Bacillus属に由来するヘミセルラーゼ、
からなる群から選択される1又は2以上のタンパク質をコードする遺伝子を発現させるための発現ベクターで形質転換して得られる、形質転換体が提供される。前記セルラーゼ非生産微生物は、Aspergillus属菌であって、前記遺伝子は、前記Aspergillus属菌でのコドン使用頻度に基づいて改変した遺伝子であってもよく、前記セルラーゼ非生産微生物は酵母であってもよい。前記形質転換体は、前記タンパク質を細胞外に分泌又は細胞表層に提示することが好ましい。
【0019】
本明細書の開示によれば、セルロースの低分子化物の生産方法であって、上記いずれかに記載のセルラーゼ組成物を用いて、前記セルロースを分解する工程、を備える、方法が提供される。
【0020】
本明細書の開示によれば、微生物の発酵により有用物質を生産する方法であって、少なくとも、上記いずれかに記載のセルラーゼ組成物を用いて、セルロースを前記微生物が利用可能な炭素源にまで分解する工程と、前記炭素源を前記微生物により発酵して前記有用物質を生産する工程と、を備える、方法が提供される。前記微生物は、前記セルロースに由来する部分分解物を炭素源として利用可能にβ−グルコシダーゼを細胞外に分泌又は細胞表層に提示する微生物であることが好ましい。さらに、前記微生物は、酵母であり、前記有用物質はエタノールとすることができる。
【0021】
前記セルロースは、少なくともセルロースを含有するセルロース含有材料を前処理して得られるセルロース画分としてもよく、前処理は、水熱処理であってもよいしイオン液体に浸漬するなどの処理であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本明細書の開示によれば、セルロース分解活性の良好なCBHとEGの組み合わせを含むセルロース分解用の酵素組成物及びその利用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】水熱処理後の稲ワラ由来セルロースの糖化結果を示す図である。
【図2】イオン液体処理後のユーカリ由来セルロースの糖化結果を示す図である。
【図3】セルラーゼ組成物中のEGの種類の比較評価結果を示す図である。
【図4】セルラーゼ組成物中のCBH量の比較評価結果を示す図である。
【図5】セルラーゼ組成物中のCBHの種類の比較評価結果を示す図である。
【図6】グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼの添加効果を示す図である。
【図7】O. sativa由来のEG及び市販キシラナーゼの添加効果を示す図である。
【図8】A. oryzae由来のキシラナーゼ及びB. subtilis由来グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼの添加効果を示す図である。
【図9】A. oryzae由来のキシラナーゼの添加効果を示す図である。
【図10】A. oryzae由来のペクチン酸リアーゼの添加効果を示す図である。
【図11】A. oryzae由来のアラビノフラノシダーゼの添加効果を示す図である。
【図12】O. sativa由来のEGの添加効果を示す図である。
【図13A】Aspergillus oryzaeのコドン使用頻度及び改変に用いたコドンを示す図である。
【図13B】Aspergillus oryzaeのコドン使用頻度及び改変に用いたコドンを示す図である。
【図13C】Aspergillus oryzaeのコドン使用頻度及び改変に用いたコドンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書の開示は、セルラーゼ組成物、セルラーゼ等の酵素の生産方法、形質転換体、セルロースの分解産物の生産方法及び有用物質の生産方法に関する。本明細書に開示されるセルラーゼ組成物は、GHF6に属する1又は2以上の第1のCBHと、GHF7に属する1又は2以上の第2のCBHと、1又は2以上のGHF5に属する第1のEGと、を含むとともに、さらに、一定範囲のセルローゼ及びヘミセルローゼから選択される1又は2以上の酵素を含有している。かかる組成は、セルロースの分解のため、特に、水熱処理やイオン液体などによる所定の前処理を施したセルロース含有材料中のセルロースの分解のために、人為的に組み合わされたものであることから、セルロース含有材料の工業的な糖化工程において、セルロースを効率的に分解することができる。したがって、セルロース含有材料の糖化にあたって、従来提供されているセルロース分解のための酵素製剤と同等あるいはそれ以上のセルロース分解活性をも容易に得ることができる。
【0025】
また、セルラーゼ等の生産にあたっては、Phanerochaete属に由来するセルラーゼ、Oryza 属に由来するセルラーゼ及びBacillus属に由来するヘミセルラーゼ及びからなる群から選択される1又は2以上の酵素をコードする遺伝子をセルラーゼ非生産微生物に導入して前記セルラーゼ非生産微生物で前記酵素を生産することが好ましい。
【0026】
以下、本明細書の開示に含まれる種々の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において用いる「GHF(Glycoside Hydrolase Family)」とは、CAZy(Carbohydrate active Enzymes)のホームページ(http://www.cazy.org/fam/acc_GH.html)において提供される、グリコシド加水分解酵素の分類である。
【0027】
(セルラーゼ組成物)
本組成物は、GHF6に属する1又は2以上の第1のCBHと、GHF7に属する1又は2以上の第2のCBHと、GHF5に属する1又は2以上の第1のEGと、少なくとも含有している。さらに、GHF12に属する1又は2以上の第3のEGを含んでいていてもよい。
【0028】
(第1のセロビオヒドロラーゼ(CBH))
第1のCBHは、GHF6に属するCBHである。GHF6に属するCBHは、一般に、セルロースをその非還元末端から切断してセロビオースを生成するII型(CBH II)であるとされている。GHF6に属するCBHとしては、各種微生物に由来するものが知られている(http://www.cazy.org/fam/GH6.html)。第1のCBHとしては、例えば、P. chrysosporium、A. oryzae及びT. reeseiに由来するCBHが挙げられる。
【0029】
本明細書において、例えば、「P. chrysosporiumに由来するCBH」とは、P. chrysosporiumに分類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい。)が生産するCBH又は当該微生物の生産するタンパク質をコードする遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたCBHをいう。したがって、P. chrysosporiumから取得したCBHをコードする遺伝子(又はその改変遺伝子)を導入した形質転換体によって生産された組換体タンパク質であるCBHも、P. chrysosporiumに由来するCBHに該当する。したがって、「P. chrysosporiumに由来するCBH」には、P. chrysosporiumと同属で異種の菌株や同種で他の菌株からそれぞれ取得されるCBHが含まれる。同様のことが「A. oryzaeに由来するCBH」に適用される。また、本明細書に開示される同様の表現についても上記と同様に定義される。
【0030】
例えば、P. chrysosporiumに由来する配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるPcCBH2が挙げられる。また、A. oryzaeに由来する配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるAoCBH2Aが挙げられる。さらに、第1のCBHとしては、こうした公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様のCBHを含めることができる。かかるCBHについては後段で説明する。第1のCBHは、以上の各種のCBHのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
(第2のセロビオヒドロラーゼ(CBH))
第2のCBHは、GHF7に属するCBHである。GHF7に属するCBHは、一般に、セルロースをその還元末端から切断してセロビオースを生成するI型(CBH I)であるとされている。GHF7に属するCBHとしては、各種微生物に由来するものが知られている(http://www.cazy.org/fam/GH7.html)。なかでも、A. niger、A. aculeatus、P. chrysosporium及びT. reeseiに由来するCBHから選択される1又は2以上とすることができる。さらに、第2のCBHとしては、A. nigerに由来する配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるAncbhA、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるAncbhBが挙げられる。また、A. aculeatusに由来する配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるAaCBHIが挙げられる。また、P. chrysosporiumに由来する配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるPcCBH7Cが挙げられる。なかでも、A. nigerに由来するCBHを好ましく用いることができる。さらに、第2のCBHとしては、こうした公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様のCBHを含めることができる。かかるCBHについては後段で説明する。第2のCBHは、以上の各種のCBHのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
(第1のエンドグルカナーゼ(EG))
第1のEGは、GHF5に属するEGである。GHF5に属する第1のEGとしては、各種微生物に由来するものが知られている(http://www.cazy.org/fam/GH5.html)。なかでも、T. reesei及びA. oryzaeに由来するEGから選択される1又は2以上とすることができる。さらに、第1のEGとしては、例えば、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるA. oryzaeに由来するAocelE及び配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるT. reeseiに由来するTrEG IIが挙げられる。さらに、第1のEGとしては、こうした公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様のEGを含めることができる。かかるEGについては後段で説明する。第1のEGは、以上の各種のEGのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
(追加の酵素)
本組成物は、以下に順次説明する酵素から選択される1又は2以上の酵素を含有することができる。これらの酵素のいずれかを含有することで、第1のCBH、第2のCBH及び第1のEGの組み合わせによるセルロースの分解活性を効果的に増強することができる。植物細胞壁の構成成分であるセルロース、ヘミセルロース及びペクチンの分解に寄与する酵素は多数知られている。本明細書に開示されるセルラーゼ組成物に追加される酵素は、いずれもセルロースやヘミセルロース等の分解に寄与するものであるが、第1のCBH、第2のCBH及び第1のEGに対して組み合わせること及び組み合わせた際の効果については報告されていない。したがって、これらの各酵素及びその2以上の組み合わせは、第1のCBH、第2のCBH及び第1のEGを含む酵素組成物に対する有効な増強剤としての用途を有している。
【0034】
(GHF9に属する第2のエンドグルカナーゼ(EG))
第2のEGは、GHF9に属するEGである。GHF9に属する第2のEGとしては、各種生物に由来するものが知られている(http://www.cazy.org/fam/GH9.html)。第2のEGは、セルロース等分解酵素のなかでも、好ましい増強剤である。第1のCBH、第2のCBH及び第1のEGさらには第3のEGと直接的にセルロース分解に際して相乗効果を発揮することができる。第2のEGは、好ましくは、植物由来であり、なかでも、イネ属植物(O. sativaなど)に由来するEGであることがより好ましい。第2のEGとしては、例えば、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるO. sativaに由来するEGが挙げられる。さらに、第2のEGとしては、こうした公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様のEGを含めることができる。かかるEGについては後段で説明する。第2のEGは、以上のEGのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
また、本明細書に開示される組成物が第2のEGを含有する場合には、併せて後述する第3のEGを含有することが好ましい。本組成物が第1〜第3のEGを含有することで、第1のCBH及び第2のCBHとより好ましい相乗効果を発揮できる。
【0036】
(ペクチン酸リアーゼ)
ペクチン酸リアーゼ(EC4.2.2.2.)は、ペクチンに含まれる(1,4)-α-D−ガラクツロナンを脱離的に開裂して、非還元末端に4-デオキシ-α-D-ガラクト-4-エヌロノシル基を生成する酵素であり、ペクチン分解酵素に包含される酵素である。ペクチン酸リアーゼは、各種生物に由来するものが知られているが、なかでも、A. oryzaeに由来するペクチン酸リアーゼが挙げられる。ペクチン酸リアーゼとしては、例えば、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるA. oryzaeに由来するAoPL19が挙げられる。ペクチン酸リアーゼとしては、公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様の酵素を含めることができる。かかる酵素については後段で説明する。ペクチン酸リアーゼは、以上の各種のペクチン酸リアーゼのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
(キシラナーゼ)
キシラナーゼ(EC3.2.1.8.)は、ヘミセルロースの構成成分であるβ-1,4-D-キシランのβ-1,4結合を加水分解する酵素であり、ヘミセルラーゼに包含される酵素である。キシラナーゼは、各種生物に由来するものが知られているが、なかでも、A. oryzaeに由来するキシラナーゼが挙げられる。キシラナーゼとしては、例えば、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるA. oryzaeに由来するAoxyn887、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるA. oryzaeに由来するAoxyn139が挙げられる。キシラナーゼとしては、公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様の酵素を含めることができる。かかる酵素については後段で説明する。キシラナーゼは、以上の各種のキシラナーゼのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
(アラビノフラノシダーゼ)
アラビノフラノシダーゼ(EC.3.2.1.55)は、ヘミセルロースの構成成分であるアラビノキシランやアラビナンなどのアラビノシドの非還元末端のアラビノフラノシドを加水分解で切り離す酵素であり、ヘミセルラーゼに包含される酵素である。アラビノフラノシダーゼは、各種生物に由来するものが知られているが、なかでも、A. oryzaeに由来するアラビノフラノシダーゼが挙げられる。アラビノフラノシダーゼとしては、例えば、配列番号13、14及び15でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるA. oryzaeに由来するアラビノフラノシダーゼ(Aoabf20、Aoabf22、Aoabf18)が挙げられる。アラビノフラノシダーゼとしては、公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様の酵素を含めることができる。かかる酵素については後段で説明する。アラビノフラノシダーゼは、以上の各種のアラビノフラノシダーゼのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
(グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼ)
グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼは、ヘミセルロースの構成成分であるグルクロノキシランのβ-1,4結合を加水分解する酵素であり、ヘミセルラーゼに包含される酵素である。グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼは、各種生物に由来するものが知られているが、なかでも、B. subtilisに由来するものが挙げられる。グルクロノキシランキシラノハイドロラーゼとしては、例えば、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるB. subtilisに由来するものが挙げられる。グルクロノキシランキシラノハイドロラーゼとしては、公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様の酵素を含めることができる。かかる酵素については後段で説明する。グルクロノキシランキシラノハイドロラーゼは、以上の各種のグルクロノキシランキシラノハイドロラーゼのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
(第3のエンドグルカナーゼ(EG))
本組成物は、第1のCBH、第2のCBH及び第1のEGに加えて、GHF12に属する第3のエンドグルカナーゼを含有していてもよい。GHF12に属する第3のEGとしては、各種生物に由来するものが知られている(http://www.cazy.org/fam/GH12.html)。なかでも、A. oryzaeに由来するEG、T. reeseiに由来するEG及びP. chrysosporiumに由来するEGから選択される1又は2以上とすることができる。好ましくは、A.oryzaeに由来するEGである。さらに、第3のEGとしては、例えば、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるA.oryzaeに由来するAocelA、配列番号18で表されるアミノ酸配列からなるT. reeseiに由来するTrEG III及び配列番号19(特開2009-247434号公報における配列番号2、なお、当該公報に開示される配列番号4〜8のアミノ酸配列からなるEGでもよい。)で表されるアミノ酸配列からなるP. chrysosporiumに由来するPcEG IIIが挙げられる。なお、さらに、第3のEGとしては、こうした公知の配列情報に基づいて取得できる他の態様のEGを含めることができる。かかるEGについては後段で説明する。第3のEGは、以上の各種のEGのなかから1又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
なお、本組成物に用いるのに好ましい酵素は、当該酵素について特定されたある種のアミノ酸配列などの公知又は新規の配列情報と一定の関係を有するとともに、それぞれ固有の酵素活性を有するタンパク質であってもよい。
【0042】
こうした酵素の一態様としては、例えばある酵素について開示される特定のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。各アミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換若しくは付加は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、1個以上10個以下程度である。より好ましくは、1個以上5個以下である。アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のグループ内での置換が挙げられる。(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)。
【0043】
他の一態様としては、ある酵素について開示される特定のアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつセルラーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。同一性は好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは、90%以上であり、一層好ましくは95%以上である。最も好ましくは、98%以上である。
【0044】
本明細書において同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性 ”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
【0045】
さらに他の一態様として、ある酵素について開示される特定のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、固有のセルラーゼ活性を有するタンパクが挙げられる。ストリンジェントな条件とは、たとえば、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、塩基配列の同一性が高い核酸、すなわち、所定の塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。なお、以上のことから、さらなる他の一態様として、所定の塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列を有するDNAによってコードされ、セルラーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0046】
本組成物は、第1のCBH、第2のCBH、第1のEG及び第2のEGのみを含有するものであってもよく、これらの酵素を各1種類ずつのみ含有するものであってもよい。また、第1のCBH、第2のCBH、第1のEG、第2のEG及び第3のEGのみを含有するものであってもよく、これらの各酵素を各1種類ずつのみ含有するものであってもよい。本組成によれば、これらのCBH及びEGがセルロース分解に対して良好な相乗効果を発揮できるため、こうした最小限のセルラーゼ組成であるにも関わらず、効果的にセルロースを分解することができ、糖化工程の低コスト化に寄与できる。
【0047】
本組成物において、第1のCBH、第2のCBH、第1のEG及び第3のEGを、いずれもT. reesei由来としてもよい。典型的には、これらの酵素を、商業的に入手可能なT. reesei由来のセルラーゼ製剤としてもよい。本組成物における上記各種の追加酵素は、T. reesei由来のセルラーゼ製剤についても有効に作用することができる。
【0048】
本組成物は、β−グルコシダーゼ(BGL)を含有していてもよいし、実質的に含有していなくてもよい。本発明の酵素製剤が、BGLを実質的に含有していない場合、BGLにより生成されるグルコースがCBH等の他のセルラーゼに対して生産物阻害を生じない点において好ましい。したがって、BGLを実質的に含有しない酵素製剤であれば、確実に生産物阻害を回避して、本発明者らが評価系で確認したセルロース分解の相乗効果を組成物においても得ることができる。また、セルロースをセロビオース等の部分分解物を効率的に生産することができる。さらに、特に、例えば、糖化と発酵とを同時進行させるCBP(連結バイオプロセス(糖化発酵同時進行))に本組成物を用いる場合においてBGLを表層提示した発酵微生物を用いる場合には、BGLを実質的に含有しない組成であるのが有利である。
【0049】
なお、実質的にBGLを含有しないとは、BGLを含有しないほか、BGLによる生産物阻害を回避又は抑制できる範囲のBGL量を含んでいてもよいことを意味している。本組成物は、好ましくは、BGLを含有していない。BGLを実質的に含有しない本組成物は、例えば、内在性のBGL遺伝子を保持しない微生物(酵母など)や内在性のBGL遺伝子を有するが当該遺伝子の発現が実質的に低い微生物や破壊した微生物(麹菌など)に対して、本明細書に開示される各種酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換体の培養物(培養上清)から容易に得ることができる。
【0050】
本組成物は、上記した各種酵素を、それぞれ精製したものとして含有していてもよいし、培養上清等、未精製タンパク質として他タンパク質やその他の成分を含んだものであってもよい。また、その製剤形態は、特に限定されず、固形製剤(粉末(凍結乾燥体等)、タブレット等、顆粒等)であってもよいし、溶液(流通時においては凍結体であることが好ましい。)であってもよい。
【0051】
本明細書に開示される組成物は、セルロース分解用である。本明細書において、セルロースは、グルコースがβ-1,4-グルコシド結合により重合した重合体及びその誘導体が挙げられる。グルコースの重合度は特に限定しない。また、誘導体としては、カルボキシメチル化、アルデヒド化、若しくはエステル化などの誘導体が挙げられる。また、セルロースは、その部分分解物を含むものであってもよい。さらに、セルロースは、配糖体であるβ−グルコシド、リグニン及び/又はヘミセルロースとの複合体であるリグノセルロース、さらにペクチンなどとの複合体であってもよい。セルロース は、結晶性セルロースであってもよいし、非結晶性セルロースであってもよい。セルロースの由来も特に限定しないで、天然由来のものでも、人為的に合成したものでもよい。
【0052】
セルロースは、通常、セルロースの他に併存成分を含むセルロース含有材料として分解に供される。セルロース含有材料は、少なくともセルロースを含んでいれば足り、綿や麻などの天然繊維品、レーヨン、キュプラ、アセテート、リヨセルなどの再生繊維品、稲ワラ、籾殻、木材チップなどのリグノセルロース系の農産廃棄物などのいわゆる実バイオマスであってもよいし、その前処理物であってもよい。また、セルロースは、前処理されたセルロース又はセルロース含有材料であってもよい。前処理とは、例えば、セルロースとともにリグニンやヘミセルロースが併存する状態の材料に対して、それらの複合状態を緩和するあるいは解除するような処理又は結晶性セルロースの結晶性を低下させるような処理が挙げられる。このような処理としては、例えば、水熱処理やイオン液体による処理が挙げられる。水熱処理としては、例えば、180℃〜240℃の温度で、30分から90分程度処理することが挙げられる。また、イオン液体による処理としては、60℃〜150℃で30分から2時間程度、疎水性又は親水性イオン液体に浸漬するなどの処理等が挙げられる。
【0053】
本組成物は、水熱処理やイオン液体による前処理が施されたバイオマス材料に好適である。ある程度の複合形態が緩和されたセルロース材料に対して、本組成の酵素組成が相乗的に作用してセルロースの分解活性を高めることができる。
【0054】
(セルラーゼ組成物の生産方法)
本組成物の生産方法は特に限定されない。例えば、各種酵素をそれぞれ準備し混合してもよいし、2以上の酵素を共発現する形質転換体を培養して得られる培養上清等の培養物から製造する形態であってもよい。さらに、これらを適宜組み合わせる形態であってもよい。
【0055】
これらの各種酵素は、公知のタンパク質合成方法あるいは遺伝子工学的に合成できる。例えば、適当な宿主微生物に上記酵素をコードする遺伝子を導入して形質転換した形質転換体で発現させることができる。こうした遺伝子は、例えば、特定の酵素をコードする塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いて、所定の酵母から抽出したDNA、各種cDNAライブラリー又はゲノムDNAライブラリー等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また、上記ライブラリー等由来の核酸を鋳型とし、各種酵素の遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいは酵素の遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。さらにまた、変異を導入した態様の酵素に対応する遺伝子は、例えば、酵素のアミノ酸配列をコードするDNAを、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって取得することができる。このような手法としては、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法が挙げられ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(タカラバイオ社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。そのほか、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、酵素について開示される塩基配列等に基づいて、各種態様の遺伝子を取得することができる。
【0056】
各種態様の酵素を遺伝子工学的に取得するための形質転換体を得るのにあたり、既出のMolecular Cloning等に記載されている方法を適宜参照し、従来公知の各種方法、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。
【0057】
上記形質転換体の宿主は、特に限定しないで、各種原核微生物や真核微生物を用いることができるが、遺伝子組み換え系と発酵技術の確立した酵母や麹菌を好ましく用いることができる。宿主がBGLを産生するものである場合、その発現が抑制されていてもよい。すなわち、内在性BGL遺伝子を有するが当該遺伝子が破壊されている宿主を用いるか、あるいは内在性BGL遺伝子を有しない宿主(例えば、後述するセルラーゼ非生産微生物など)を用いることができる。BGLは、既に説明したように、生産物阻害によりセルロース分解を抑制するからである。こうした形質転換体は、本組成物、特に、セルロースをオリゴマーにまで低分子化するための本組成物用として好ましい。特定遺伝子の破壊は、当業者であれば適宜実施できる。
【0058】
宿主は、セルラーゼ非生産微生物を用いることが好ましい。セルラーゼ非生産微生物とは、セルラーゼ遺伝子をゲノム上に有していない微生物のほか、当該遺伝子を有していてもその発現量及び発現形態(発現が誘導される条件など)を考慮すると、実質的にセルラーゼを生産していないといえる程度の微生物が包含される。セルラーゼ非生産微生物は、外来遺伝子として導入するCBHやEGの発現量を調節して高発現させやすいという利点がある。すなわち、好適な組合せ以外のセルラーゼが生産されないため、本明細書において意図する、セルロースの分解に好適なセルラーゼのみをできるだけ多く発現させることができる。こうした形質転換体は、強力な相乗効果を発揮可能なセルラーゼ組成物の製造に有利である。
【0059】
セルラーゼ非生産微生物としては、例えば、Saccharomyces cerevisiae等のSaccharomyces属の酵母、Schizosaccharomyces pombe,等のSchizosaccharomyces属の酵母、Candida shehatae等のCandida属の酵母、Pichia stipitis等のPichia属の酵母、Hansenula属の酵母、Trichosporon属の酵母、Brettanomyces属の酵母、Pachysolen属の酵母、Yamadazyma属の酵母、Kluyveromyces marxianus, Kluveromyces lactis等のKluveromyces属の酵母が挙げられる。酵母は、セルラーゼ遺伝子をゲノム上に有していない微生物である。
【0060】
セルラーゼ非生産微生物としては、また、Aspergillus oryzaeなどの工業的に利用されている各種麹菌を用いることが好ましい。また、Aspergillus oryzaeを始めとするAspergillus 属菌としては、Aspergillus aculeatus、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae、Aspergillus awamori、Aspergillus nidulans、Aspergillus kawachi、Aspergillus saitoi等が挙げられる。麹菌は、セルラーゼ遺伝子をゲノム上に有してはいるが、その発現が抑制されているか特殊な誘導条件下において発現されるに過ぎない微生物である。したがって、本明細書に開示されるセルラーゼを生産するにあたって、麹菌の内在性のセルラーゼ遺伝子の発現の影響が実質的にない。なお、条件によって内在性セルラーゼ遺伝子が発現する場合であっても必要に応じて内在性セルラーゼ遺伝子を破壊すればよい。
【0061】
このように、本明細書に開示されるセルラーゼ等を生産する形質転換体においては、本明細書における開示において好適とされる組合せ以外の内在性のセルラーゼ遺伝子の発現が抑制されていることが好ましいが、本明細書に開示されるセルラーゼ等の組み合わせの相乗効果を阻害しない範囲で当該遺伝子の発現は許容される。
【0062】
上記形質転換体においては、こうした組合せのセルラーゼ等を細胞内に発現するようにしてもよいし、細胞表層に保持する又は細胞外に分泌するように構築してもよい。細胞表層に保持する形態又は細胞外に分泌する形態であれば、形質転換体又は培養上清をそのままセルラーゼ組成物として利用できる。細胞外に分泌する形態は、培養上清から酵素を取得するのにも有利である。
【0063】
本明細書に開示されるセルラーゼの生産方法の一態様として、セルラーゼ等のタンパク質の生産方法であって、1又は2以上のタンパク質をコードする遺伝子をセルラーゼ非生産微生物に導入してセルラーゼ非生産微生物で前記酵素を生産する工程、を備える態様が挙げられる。セルラーゼ非生産微生物は、外来タンパク質を生産するための良好な宿主となりうる。特に、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチン分解酵素など植物細胞壁の構成成分を代謝するセルロース生産生物由来のタンパク質の生産に好適であり、なかでも、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ及びペクチン分解酵素等のセルロースの分解に寄与するタンパク質であることが好ましい。セルロース生産微生物としては、特に限定しないが、例えば、P. chrysosporium、B. subtilisやO. sativa等が挙げられる。また、発現に好適なセルラーゼの種類は特に限定しないが、GHF6、GHF7に属するCBH、GHF5、9、12等に属するEGのほか、キシラナーゼが挙げられる。例えば、P. chrysosporium由来のGHF6又は7に属するCBH I、CBH II、B. subtilis由来のグルクロノキシランキシラノヒドロラーゼ、GHF9に属するO. sativa由来のEG、GHF12に属するP. chrysosporium由来のEGが挙げられる。
【0064】
セルラーゼ非生産微生物としては、すでに説明した微生物を使用できるが、Aspergillus属菌や酵母を用いることが好ましい。本生産方法によれば、Aspergillus属菌を宿主とするために、外来性のセルラーゼを効率的に生産することができる。また、上記各種の属に由来するタンパク質は、そのままのコドンではAspergillus属菌における生産量が少ないが、宿主Aspergillus 属のコドン使用頻度に基づき、使用頻度の高いコドンをGC含量やATGC比率を調製しつつ用いることでその生産量を顕著に高めることができる。Aspergillus属のコドン使用頻度は、宿主となるAspergillus 属菌に適合したものを用いることが好ましい。例えば、Aspergillus oryzaeについては、財団法人かずさディー・エヌ・エー研究所の遺伝暗号使用頻度データベース(Codon Usage Database)のサイト(http://www.kazusa.or.jp/codon/)において開示されるものを用いることができる。また、
【0065】
以上のことから、本明細書に開示されるセルラーゼ非生産微生物の形質転換体の一態様として、以下の外来タンパク質;Phanerochaete属に由来するGHF6に属する1又は2以上のCBH等のセルラーゼ、Phanerochaete属に由来するGHF7に属する1又は2以上のCBH等のセルラーゼ、Phanerochaete属に由来するGHF12に属する1又は2以上のEG等のセルラーゼ、Oryza属に由来するGHF9に属するEG等のセルラーゼ、及びBacillus属に由来するヘミセルラーゼからなる群から選択される1又は2以上のタンパク質をコードする遺伝子を発現するための発現ベクターで形質転換された形質転換体が提供される。前記セルラーゼ非生産微生物は酵母であってもよく、Aspergillus属菌であってもよい。Aspergillus属菌とのとき、Aspergillus属菌におけるコドン使用頻度に基づき、高い使用頻度のコドンを用いて改変した遺伝子を発現するための発現ベクターを用いて形質転換して得られる、形質転換体とすることが好ましい。
【0066】
(セルロースの低分子化物の生産方法)
本明細書に開示される、セルロースの低分子化物の生産方法は、本明細書に開示されるセルラーゼ組成物を用いて、セルロースを分解する工程、を備えることができる。本方法によれば、効率的にセルロースを低分子化し、セルロースオリゴマー又はグルコースを生産できる。なお、グルコースまで低分子化するには、β−グルコシダーゼを用いることが好ましい。
【0067】
低分子化工程においてセルロースを効率的にセルロースオリゴマーにまで分解するには、BGLの実質的な非存在下でセルロースを分解することが好ましい。こうすることで、BGLによる生産物阻害の影響を回避又は抑制できる。なお、「BGLの実質的な非存在下」とは、BGLが存在しないほか、BGLによる生産物阻害を回避又は抑制できる範囲でBGLが存在していてもよい、ことを意味している。セルロースオリゴマーを得るためには、BGLはこの酵素反応系内に存在しないことが好ましい。
【0068】
低分子化工程は、BGLの非存在下、BGLを実質的に含まない本組成物を用いて得られた分解産物に対して、BGLを供給して分解する工程とすることができる。こうすることで、効率的にセルロースをグルコースにまで分解できる。
【0069】
本発明の生産方法で用いる本組成物に含有する各酵素の組み合わせは、本組成物として提供されていてもよいし、こうした酵素を細胞外に分泌発現(細胞表層提示形態を含む)する1又は2以上の形質転換体の組み合わせとして提供されていてもよいし、これらの組み合わせで提供されていてもよい。形質転換体は、2以上の酵素を共発現するものであってもよい。
【0070】
セルロースは、セルロース以外の併存成分を含むセルロース含有材料の形態であってもよい。また、セルロースは、水熱処理やイオン液体による前処理が施されていてもよい。
【0071】
(有用物質生産方法)
本明細書に開示される、微生物の発酵により有用物質を生産する方法であって、少なくとも、本組成物を用いて、セルロースを前記微生物が利用可能な炭素源にまで分解する工程と、前記炭素源を前記微生物により発酵して前記有用物質を生産する工程と、を備えることができる。本生産方法によれば、セルロースの分解に好適な組み合わせの組成物によってセルロースが効率的に分解されるため、低コストで糖化工程を実施でき、その結果、低コストでセルロースから有用物質を生産できる。
【0072】
上記分解工程は、セルロースをオリゴマーまで低分子化する場合には、BGLの実質的な非存在下で実施すればよい。一方、すでに説明したように、グルコースにまで低分子化する場合には、BGLの存在下に実施する。なお、後述するように、有用物質の生産工程において、BGLを表層提示する酵母等を用いる場合、分解工程では、BGLの実質的な非存在下で実施することが好ましい。なお、上記分解工程は、本明細書に開示されるセルロースの低分子化物の生産方法における分解工程における各種態様を包含する。
【0073】
上記有用物質の生産工程で用いる微生物は、特に限定しないが、酵母などのエタノール生産微生物や乳酸菌などの有機酸生産微生物が挙げられる。これらはいずれも人工的に取得された微生物であってもよい。例えば、グルコースからの代謝系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子組換えにより置換、追加等して得られる本来の代謝物でない化合物を産生可能に遺伝子工学的に改変したものであってもよい。このような微生物を用いることで、例えば、イソプレノド合成経路の追加によるファインケミカル(コエンザイムQ10、ビタミン及びその原料等)、解糖系の改変によるグリセリンの生産、プラスチック・化成品原料を生産するなどのバイオリファイナリー技術に適用できる。有用物質としては特に限定しないが、グルコースを利用して微生物が生成可能なものが好ましい。上記したように、バイオリファイナリー技術全般にわたる物質を対象とすることができる。なお、本明細書において、「有機酸」とは、酸性を示す有機化合物であって、遊離の酸あるいはその塩である。「有機酸」が備える酸性基としては、カルボンキシル基であることが好ましい。このような「有機酸」としては、乳酸、酪酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、アジピン酸などが挙げられる。これらの「有機酸」は、D体、L体のほか、DL体であってもよい。「有機酸」は好ましくは、乳酸である。
【0074】
上記有用物質の生産工程で用いる微生物は、上記組成物によるセルロースに由来する部分分解物を炭素源として利用可能にBGLを細胞外に発現する微生物であることが好ましい。こうすることで、該有用物質の生産工程を、上記分解工程を同一工程として実施できる。すなわち、糖化と発酵とを同一工程で実施できる。グルコースによる生産物阻害を回避して、効率的にセルロースを糖化しつつ発酵して微生物によって有用物質を生産できる。BGLを細胞外に発現する微生物は、好ましくはBGLを細胞表層提示している。またセルロースに由来する部分分解物は、セルロースのオリゴマーやセロビオースが挙げられる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に述べる遺伝子組換え操作は既出のMolecular Cloningに従い行った。
【実施例1】
【0076】
(麹菌発現プラスミドの構築)
<niaD遺伝子の大腸菌ベクターへの組み込み>
麹菌Aspergillus oryzae由来の硝酸還元酵素遺伝子niaD(配列番号20)をPst I-Hind III 断片となるように、プライマーA(配列番号21)と、プライマーB(配列番号22)を用いて麹菌ゲノムDNAを鋳型としてLA-Taq(タカラバイオ社)を用いてよりPCR(96℃(5分間)を1サイクル、96℃(20秒間)、60℃(30秒間)及び72℃(5分間)を30サイクル、72℃(7分間)を1サイクル)により増幅した。
【0077】
得られたPCR増幅産物を制限酵素Pst I-Hind IIIを用いて37℃で処理後、アガロースゲル電気泳動で切り出した。切り出しは、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いた。大腸菌プラスミドpUC119(タカラバイオ社)にDNA ligation Kit(タカラバイオ社)を用いてライゲーションし、大腸菌(E. coli)JM109株に形質転換した。その結果、niaDマーカーがサブクロニーニングされたプラスミドpNIA2を得た。プラスミドpNIA2は、PstI、SalI部位の両方に遺伝子をunique siteとして遺伝子を導入できるように構成されている。
【0078】
<glaBターミネーターの組み込み>
麹菌由来glaBターミネーター(配列番号23)の遺伝子のpNI2への挿入を試みた。プライマーC(配列番号24)とプライマーD(配列番号25)とを用いて、麹菌ゲノムのDNAを鋳型としてLA-Taq(タカラバイオ社)を用いてよりPCR(96℃(5分間)を1サイクル、96℃(20秒間)、60℃(30秒間)及び72℃(5分間)を30サイクル、72℃(7分間)を1サイクル)により増幅した。
【0079】
得られたPCR増幅産物を制限酵素SalI-XhoIを用いて37℃で処理後、アガロースゲル電気泳動で切り出した。切り出しは、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いた。大腸菌プラスミドpNIA2のSalI部位にDNA ligation Kit(タカラバイオ社)を用いてライゲーションし、大腸菌(E. coli)JM109株に形質転換した。その結果、slaBターミネーターがサブクロニーニングされたプラスミドpNIATを得た。プラスミドpNIATは、PstI、SalI部位の両方に遺伝子をunique siteとして遺伝子を導入できるように構成されている。
【0080】
<sodMプロモーターの組み込み>
麹菌由来のsodMプロモーター(配列番号26)の遺伝子のpNIA2への挿入を試みた。プライマーE(配列番号27)とプライマーF(配列番号28)とを用いて、麹菌ゲノムのDNAを鋳型としてLA-Taq(タカラバイオ社)を用いてよりPCR(96℃(5分間)を1サイクル、96℃(20秒間)、60℃(30秒間)及び72℃(5分間)を30サイクル、72℃(7分間)を1サイクル)により増幅した。
【0081】
得られたPCR増幅産物を制限酵素SalI-PstIを用いて37℃で処理後、アガロースゲル電気泳動で切り出した。切り出しは、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いた。大腸菌プラスミドpNIATのPstI-SalI部位にDNA ligation Kit(タカラバイオ社)を用いてライゲーションし、大腸菌(E. coli)JM109株に形質転換した。その結果、sodMターミネーターがサブクロニーニングされたプラスミドpNMBを得た。プラスミドpNMBは、SalI部位に麹菌で発現させたいタンパク質をコードする遺伝子をunique siteとして遺伝子を導入できるように構成されている。
【0082】
<目的遺伝子の組込み>
(1)ベクターの調製
pNMBを制限酵素SalIを用いて37℃で処理後、dNTPを最終10mMとなるように添加してT4DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)を用いて37℃で1時間処理した。さらに、バクテリア由来のアルカリホスファターゼ(タカラバイオ社)を用いて50℃で30分反応させた。得られた反応物をPCRクリーンアップカラム(プロメガ社)で処理溶出させベクターとした。
(2)インサートの調製
表1に示す麹菌で発現させたいタンパク質をコードする遺伝子を目的遺伝子として、上記ベクターにサブクローニングするインサートとした。目的遺伝子の開始コドンから下流30bpのセンス鎖のプライマー(5’末端をリン酸化)と、目的遺伝子の終止コドンから上流30bpのアンチセンス鎖のプライマー(5’末端をリン酸化)を用いて、目的遺伝子の起源生物由来のゲノムDNAを鋳型として、pfu Taqポリメラーゼ(東洋紡績)を用いてPCR(96℃(5分間)を1サイクル、96℃(20秒間)、60℃(30秒間)及び72℃(5分間)を30サイクル、72℃(7分間)を1サイクル)により増幅した。得られたPCR断片を、PCRクリーンアップカラム(プロメガ社)で処理溶出させ、インサートとした。
【0083】
【表1】
【0084】
(3)ベクターとインサートのライゲーション
モル数でベクター:インサート=1:20となるように添加して、DNA ligation Kit(タカラバイオ社)を用いてライゲーションし、大腸菌(E. coli)JM109株に形質転換した。形質転換体からプラスミドを調製し、目的遺伝子の読み枠がsodMプロモーターと正方向にサブクローニングされた遺伝子断片を目的遺伝子発現プラスミドとして調製した。
【実施例2】
【0085】
(目的遺伝子発現株の調製)
本実施例では、表1に示す酵素遺伝子発現株を作成した。定法であるPEG-カルシウム法(Mol. Gen. Genet., 218, 99-104(1989))により、上記目的遺伝子発現プラスミドを用いて、A. oryzaeのniaD変異株式会社(独立行政法人産業科学総合技術研究所特許生物寄託センターにFERM P-17707として寄託されている。)を形質転換した。硝酸を単一窒素源とするツアペクドックス(Czapek-Dox)培地(2%グルコース、0.1%リン酸1水素2カリウム、0.05%塩化カリウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.001%硫酸鉄、0.3%硝酸ナトリウム)で生育できる株を選択することにより、目的遺伝子発現プラスミドを保持する形質転換体を複数得た。
【実施例3】
【0086】
(目的遺伝子産物の調製)
実施例2で作製した酵素遺伝子を発現する形質転換体を、ポテトデキストロース培地で胞子形成させ、滅菌水で胞子を回収した。500ml容三角フラスコに入った100mlGPY液体培地(2%グルコース、1%ポリペプトン、0.5%イーストエキストラクト、0.1%リン酸1水素2カリウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.001%硫酸鉄、0.3%硝酸ナトリウム)に最終胞子濃度1×106/mlとなるように、植菌した。30℃で3日間の液体培養で目的遺伝子産物が培地中に分泌発現し、当該培養液を酵素サンプルとした。こうして取得した酵素サンプル液を用いて、SDS−PAGEによるタンパク質発現量の見積もりを行った結果を表2に示す。
【表2】
【実施例4】
【0087】
(水熱処理後の稲ワラ由来のセルロースの市販酵素製剤と本組成物による分解評価)
200℃で30分間加熱する水熱処理後の稲ワラのセルロース画分に50mM酢酸バッファー(pH5.0)、組成物1を12mg/gバイオマスとなるように加えて、45℃で0〜48時間後に、溶液中のグルコース濃度を液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。ポジティブコントロールとしては、市販の酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を、12mg/gバイオマスとなるように添加したものを用いた。
(組成物1)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 5%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 50%
GHF5に属するAspergillus oryzae由来のEG 10%
GHF12に属するAspergillus oryzae由来のEG 30%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
【0088】
最終産物としてのグルコースを液体クロマトグラフィーで測定するために、市販酵素製剤にはメーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加し、オリゴマー化したセルロースをすべてグルコースに変換した。同様に、酵素組成物の反応液にも、同様のBGLを添加して、グルコース量を測定した。糖化結果を図1に示す。図1に示すように、酵素組成物は、市販酵素製剤と同等の糖化効果があることがわかった。
【実施例5】
【0089】
(イオン液体処理後のユーカリ由来セルロースの市販酵素製剤と酵素組成物による分解評価)
イオン液体によるユーカリの前処理は、以下の通り行った。イオン液体1-Ethyl-3-methylimidazoliumacetate(以下、[Emim][Ac]と称す)1.0g(関東化学社)をバイアル瓶に採取し、これに30mgのバイオマス試料を加えた。バイオマスとしては、カッターミルで破砕処理した粒径250μgのユーカリ粉末を使用した。上記試料を120℃にて1時間、静置条件下にて処理後、15mlの滅菌水を加え洗浄した。更に10mlの50mM酢酸バッファーpH5.0で洗浄し、以下の実験に用いた。イオン液体処理後のユーカリ由来のセルロース画分に、50mM酢酸バッファーpH5.0、酵素組成物を10mg/gバイオマスとなるように添加し、50℃で0〜24時間の反応後に溶液のグルコース濃度を液体クロマトグラフィーにより測定した。ポジティブコントロールとして、市販酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を10mg/gバイオマスとなるように添加したものを用いた。酵素組成物は以下のとおりであった。
(組成物1)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 5%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 50%
GHF5に属するAspergillus oryzae由来のEG 10%
GHF12に属するAspergillus oryzae由来のEG 30%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
(組成物2)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 5%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 50%
GHF5に属するTrichoderma reesei由来のEG 40%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
【0090】
最終産物としてグルコースをHPLCにて測定するために、市販酵素製剤には、メーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。同様に、酵素組成物反応液にも、同量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。結果は、図2に示すように、酵素組成物を添加した場合、添加後の早い段階(7時間目まで)においてはグルコース生成量が高く、4時間目では、市販酵素製剤と比較して組成物1では約2倍、組成物2では1.5倍程度、高い糖化能を示した。24時間目のグルコース生成量は、市販酵素製剤と同等であった。添加後の早い段階での糖化が効率よく行われていることから、水熱処理した稲ワラよりも、イオン液体処理したユーカリの方が、セルラーゼがアタックしやすい状態のセルロースが多く出ていることが推測された。また、組成物1と2とを比較すると、組成物1の方が活性が高いことより、Aspergillus oryzae由来のGHF5,12のEGが、GHF5のTrichoderma reesei由来EGよりも添加効果が高いことがわかった。
【実施例6】
【0091】
(酵素組成物中のEGの種類の比較評価)
水熱処理後の稲ワラのセルロース画分に50mM酢酸バッファーpH5.0、実施例5で用いた組成物1,2を、10mg/gバイオマスとなるように添加し、50℃で0〜24時間の反応後に溶液のグルコース濃度をHPLCにより測定した。ポジティブコントロールとして、市販酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を10mg/gバイオマスとなるように添加したものを用いた。
【0092】
最終産物としてグルコースをHPLCにて測定するために、市販酵素製剤には、メーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。同様に、酵素組成物反応液にも、同量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。結果は、図3に示すように、酵素カクテルを添加した場合、添加後の早い段階(7時間目まで)においてはグルコース生成量は市販酵素製剤と比較して若干低いが、カクテル1の24時間目のグルコース生成量は、市販酵素製剤よりも高かった。また、組成物1と2とを比較すると、組成物1の方が活性が高いことより、Aspergillus oryzae由来のGHF5,12のEGが、GHF5のTrichoderma reesei由来EGよりも添加効果が高いことがわかった。
【実施例7】
【0093】
(酵素組成物中のCBH量の比較評価)
水熱処理後の稲ワラのセルロース画分に、50mM酢酸バッファーpH5.0、以下の組成物1、3を、12mg/gバイオマスとなるように添加し、45℃で0〜24時間の反応後に溶液のグルコース濃度をHPLCにより測定した。ポジティブコントロールとして、市販酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を12mg/gバイオマスとなるように添加したものを用いた。酵素組成物の組成物は以下のとおりであった。
(組成物1)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 5%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 50%
GHF5に属するAspergillus oryzae由来のEG 10%
GHF12に属するAspergillus oryzae由来のEG 30%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
(組成物3)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 10%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 50%
GHF5に属するAspergillus oryzae由来のEG 10%
GHF12に属するAspergillus oryzae由来のEG 25%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
【0094】
最終産物としてグルコースをHPLCにて測定するために、市販酵素製剤には、メーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。同様に、酵素組成物反応液にも、同量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。結果は図4に示すように、組成物1では、組成物3よりもグルコース生成量が多いことからGHF6のP. chrysosporium由来のCBHの割合が5%よりも10%のときの方が糖化能力が高いことがわかった。
【実施例8】
【0095】
(酵素組成物中のCBHの種類の比較評価)
(酵素組成物中のCBH量の比較評価)
水熱処理後の稲ワラのセルロース画分に、50mM酢酸バッファーpH5.0、以下の組成物4を22、44、及び90mg/gバイオマスとなるように添加し、組成物5を90mg/gバイオマスとなるように添加し、45℃で0〜48時間の反応後に溶液のグルコース濃度をHPLCにより測定した。ポジティブコントロールとして、市販酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を12mg/gバイオマスとなるように添加したものを用いた。酵素組成物の組成物は以下のとおりであった。
(組成物4)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 5%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 40%
GHF5に属するTrichoderma reesei由来のEG 55%
(組成物5)
GHF6に属するAspergillus oryzae由来のCBH 5%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 40%
GHF5に属するTrichoderma reesei由来のEG 55%
【0096】
最終産物としてグルコースをHPLCにて測定するために、市販酵素製剤には、メーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。同様に、酵素組成物反応液にも、同量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。結果は図5に示すように、組成物4を添加した場合では、酵素量の増加に伴い、グルコース生成量が増加し組成物4及び5に関して90mg/g添加量で比較すると、組成物4の方が活性が高かったまた、組成物5(90mg/g添加時)のグルコース生成量は、組成物4(44mg/g添加時)と同等であり、組成物5は、組成物4の約半分程度の活性しかないことがわかった。組成物4と5とでは、GHF6のCBHが相違しており、Aspergillus oryzae由来CBHよりもPhanerochaete chrysosporium由来CBH添加時のセルロース分解活性が高いことがわかった。
【実施例9】
【0097】
(グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼの添加効果)
水熱処理後の稲ワラのセルロース画分に、50mM酢酸バッファーpH5.0、以下の組成物6、7を、12mg/gバイオマスとなるように添加し、45℃で0〜24時間の反応後に溶液のグルコース濃度をHPLCにより測定した。ポジティブコントロールとして、市販酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を12mg/gバイオマスとなるように添加したものを用いた。酵素組成物の組成物は以下のとおりであった。
(組成物6)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 10%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 40%
GHF5に属するAspergillus oryzae由来のEG 15%
GHF12に属するAspergillus oryzae由来のEG 30%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
(組成物7)
GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来のCBH 10%
GHF7に属するAspergillus niger由来のCBH 40%
GHF5に属するAspergillus oryzae由来のEG 15%
GHF12に属するAspergillus oryzae由来のEG 25%
GHF9に属するOryza sativa由来のEG 5%
GHF30に属するB. subtilis由来のグルクロノキシランキシラノヒドロラーゼ 5%
【0098】
最終産物としてグルコースをHPLCにて測定するために、市販酵素製剤には、メーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。同様に、酵素組成物反応液にも、同量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。結果は図6に示すように、組成物7では組成物6よりもグルコース生成量が多いことから、GHF30のBacillus subtilis由来グルクロノキシランキシラノヒドロラーゼの添加により、更に糖化効率が向上することが示された。
【実施例10】
【0099】
(各種ヘミセルロースの添加効果)
水熱処理後の稲ワラのセルロース画分に、市販酵素製剤(Sigma社のセルクラストC2730)を200mg/gバイオマスとなるように添加し、さらに表1に記載のAspergillus oryzae由来のペクチン酸リアーゼ以降の各種酵素を発現する各種Aspergillus oryzae形質転換体の培養上清を2%(w/v)となるように添加し、50℃で反応後に溶液のグルコース濃度をHPLCにより測定した。
【0100】
最終産物としてグルコースをHPLCにて測定するために、市販酵素製剤には、メーカー推奨量である1/5量のBGL(Novo188)を添加してグルコース量を測定した。ポジティブコントロールとして同様に、市販酵素製剤とBGLと2%市販キシラナーゼ(Trichoderma reesei由来のHampton社)を添加したもの、および市販酵素製剤とBGLを添加したものを用いた。結果を、図7〜11に示す。
【0101】
図7〜11に示すように、グルコース生成量の大きいものは、OsEG、Aoxyn139、BsGX、Aoxyn887、AoPL19、Aoabf18,20,22であった。また、添加効果が最も高かったOsEG(GHF9に属するイネ由来EG)について、市販酵素製剤(200mg/g及び400mg/gバイオマス)、本発明者らすでに添加効果を確認しているPcCBH2と比較した結果を図12に示す。図12に示すように、2%のOsEGの添加により、グルコース生成量は、市販酵素製剤2倍量の400mg/gバイオマスとなるように添加した場合と同等の効果を示すことがわかった。これはPcCBH2添加時の効果と同等であった。
【実施例11】
【0102】
(異種タンパク質のAspergillus属で使用頻度の高いコドンへの変換による生産量の向上)
麹菌による異種タンパク質の発現は、同種のタンパク質を発現する場合と比較すると困難であることが知られている。Phanerochaete chrysosporium由来のCBHをPhanerochaete chrysosporiumの塩基配列のまま麹菌で発現すると、培養上清のSDS−PAGEによるタンパク質発現量の見積もりを行ったところ、GHF6のPhanerochaete chrysosporium由来のCBHでは、0.1mg/L以下、GHF7の同由来のCBHでは、約1mg/Lであった。GHF6に属するPhanerochaete chrysosporium由来CBHにつき、図13に示す、かずさディー・エヌ・エー研究所の遺伝子暗号使用頻度データベース(http://www.kazusa.or.jp/codon/)から取得したAspergillus属において用いられているコドン使用頻度及びGC含量(50%以上55%以下程度)とA/T/G/C比率(各25±4%程度)とを考慮して選択されたコドン(図13Aにおいて着色部分にて示すコドン)で改変した塩基配列からなるDNA(配列番号29)を用いて異種タンパク質を発現させた結果、29mg/Lの生産量を示した。すなわち、生産量は約290倍に向上した。また、GHF6に属するO. sativa由来のEG、B. subtilis由来のグルクロノキシランキシラノヒドロラーゼについても、それぞれAspergillus属で使用されるコドンにおいて同様にして選択されたコドン(図13B及びCにおいて着色部分にて示すコドン)で改変した塩基配列からなるDNA(それぞれ配列番号30、配列番号31)を用いてタンパク質を発現させた結果、それぞれ、134mg/L、89mg/Lの生産量を示した。これらの結果から、この種のタンパク質について、Aspergillus属におけるコドン使用頻度に基づく塩基配列の改変が有効であることがわかった。
【0103】
(酵母によるセルラーゼの生産)
Phanerochaete chrysosporium由来CBH2をPCRで増幅し、酵母分泌発現ベクターであるpRS436GAPSSRGにサブクローニングした。pRS436GAPSSRG はTDH3プロモーター下流に、分泌シグナルを持ち菌体外に酵素を分泌する事が可能である。本ベクターを酵母(MT8-2株)に形質転換し、SD-URA寒天培地(yeast nitrogen base without amino acids without ammonium sulfate 1.7g、カザミノ酸5g、アミノ酸mix、グルコース20g、寒天20g、脱イオン水1000ml)で30℃、3日間培養した。生育したコロニーをSD-URA液体培地(yeast nitrogen base without amino acids without ammonium sulfate 1.7g、カザミノ酸5g、-URAアミノ酸mix 0.77g、グルコース20g、脱イオン水1000ml)に植菌し、30℃、20時間培養した菌液を前培養液とした。本培養はファーメンターを用いてpHを5.5で維持しながら培養を行った。SD-URA液体培地500mlに前培養液をOD600=0.1になる様に植菌し、25℃、3日間培養した。培養上清を回収し、硫安濃度70%で硫安沈澱を行った。硫安沈澱後のタンパク質をバッファー(1M硫安、0.1MTris(pH7.0))で溶解し、限外濾過で完全にバッファー置換したサンプルを精製用サンプルとした。同バッファーで膨潤したアビセル溶液(アビセル10g、バッファー40ml)2mlをカラムに詰めアビセルカラムを作製した。ペリスタポンプを用いて、1ml/分の流速でサンプルをカラムへ流した。その後、同バッファー20ml(流速1ml/分)で洗浄し、滅菌水で溶出した(流速1ml/分)。1mlずつ回収した画分を、SDS-PAGE、CMCハロアッセイで確認した結果、活性型のPcCBH2をほぼ単一バンドまで濃縮、精製出来た。バイオラッド社のプロテインアッセイキットにより蛋白量を測定した。PSC分解の比活性は、麹菌で生産したPcCBH2とほぼ同等であった。また、T. reesei由来のGHF5のEG、GHF12のEG、GHF6のCBH、GHF7のCBH、P. chrysosporium由来のGHF12のEG、GHF7のCBH等につても同様に酵母において活性型で分泌できることがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0104】
配列番号21,22,24,25,27,28:プライマー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GHF6に属する1又は2以上の第1のセロビオヒドロラーゼと、GHF7に属する1又は2以上の第2のセロビオヒドロラーゼと、GHF5に属する1又は2以上の第1のエンドグルカナーゼと、
を含み、さらに、以下の酵素;
(a)GHF9に属する1又は2以上の第2のエンドグルカナーゼ、
(b)1又は2以上のペクチン酸リアーゼ、
(c)1又は2以上のキシラナーゼ、
(d)1又は2以上のアラビノフラノシダーゼ、
(e)1又は2以上のグルクロノキシランキシラノヒドロラーゼからなる群から選択される1又は2以上の酵素を含有する、セルラーゼ組成物。
【請求項2】
前記第1のセロビオヒドロラーゼが、Phanerochaete chrysosporium(P. chrysosporium,ファネロケーテ・クリソスポリウム)及びAspergillus oryzae(A.oryzae、アスペルギルス・オリゼ)からなる群から選択される1又は2以上の生物に由来するセロビオヒドロラーゼである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第1のセロビオヒドロラーゼが、P. chrysosporiumに由来するセロビオヒドロラーゼである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記第2のセロビオヒドロラーゼが、Aspergillus niger(A. niger,アスペルギルス・ニガー)、Aspergillus aculeatus(A. aculeatus,アスペルギルス・アキュリータス)及びA.oryzaeからなる群から選択される1又は2以上の生物に由来するセロビオヒドロラーゼである、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記第2のセロビオヒドロラーゼは、A. nigerに由来するセロビオヒドロラーゼを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記第1のエンドグルカナーゼは、A.oryzae及びTrichoderma reesei(T. reesei,トリコデルマ・リーゼイ)に属する生物に由来するエンドグルカナーゼである、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記第2のエンドグルカナーゼが、Oryza sativa(O. sativa,イネ)に属する生物に由来するエンドグルカナーゼである、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
さらに、GHF12に属する1又は2以上の第3のエンドグルカナーゼを含有する、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記第3のエンドグルカナーゼが、P. chrysosporium、A.oryzae及びT. reeseiからなる群から選択される1又は2以上の生物に由来するエンドグルカナーゼである、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記第2のエンドグルカナーゼと前記第3のエンドグルカナーゼとを含有する、請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
セロビオヒドロラーゼが、GHF6に属する1又は2以上の前記第1のセロビオヒドロラーゼと、GHF7に属する1又は2以上の第2のセロビオヒドロラーゼと、からなり、
エンドグルカナーゼが、1又は2以上のGHF5に属する前記第1のエンドグルカナーゼと、GHF9に属する1又は2以上の前記第2のエンドグルカナーゼと、からなる、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
セロビオヒドロラーゼが、GHF6に属する1又は2以上の前記第1のセロビオヒドロラーゼと、GHF7に属する1又は2以上の前記第2のセロビオヒドロラーゼと、からなり、
エンドグルカナーゼが、1又は2以上のGHF5に属する前記第1のエンドグルカナーゼと、GHF9に属する1又は2以上の前記第2のエンドグルカナーゼと、GHF12に属する1又は2以上の前記第3のエンドグルカナーゼと、からなる、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
β−グルコシダーゼを実質的に含有しない、請求項1〜12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
酵素の生産方法であって
Phanerochaete属に由来するセルラーゼ、Oryza 属に由来するセルラーゼ及びBacillus属に由来するヘミセルラーゼからなる群から選択される1又は2以上の酵素をコードする遺伝子をセルラーゼ非生産微生物に導入して前記セルラーゼ非生産微生物で前記酵素を生産する工程、
を備える方法。
【請求項15】
前記セルラーゼ非生産微生物は、Aspergillus属菌であり、前記遺伝子は、Aspergillus属菌におけるコドン使用頻度に基づいて改変されている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記セルラーゼ非生産微生物は酵母である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
セルラーゼ非生産微生物の形質転換体であって、
以下のタンパク質;
Phanerochaete属に由来するGHF6に属する1又は2以上のセルラーゼ、
Phanerochaete属に由来するGHF7に属する1又は2以上のセルラーゼ、
Phanerochaete属に由来するGHF12に属する1又は2以上のセルラーゼ、
Oryza属に由来するGHF9に属する1又は2以上のセルラーゼ、及び
Bacillus属に由来するヘミセルラーゼ、
からなる群から選択される1又は2以上のタンパク質をコードする遺伝子を発現させるための発現ベクターで形質転換して得られる、形質転換体。
【請求項18】
前記セルラーゼ非生産微生物は、Aspergillus属菌であって、前記遺伝子は、前記Aspergillus属菌でのコドン使用頻度に基づいて改変した遺伝子である、請求項17に記載の形質転換体。
【請求項19】
前記セルラーゼ非生産微生物は酵母である、請求項17に記載の形質転換体。
【請求項20】
前記タンパク質を細胞外に分泌又は細胞表層に提示する、請求項17〜19のいずれかに記載の形質転換体。
【請求項21】
セルロースの低分子化物の生産方法であって、
請求項1〜13のいずれかに記載のセルラーゼ組成物を用いて、前記セルロースを分解する工程、
を備える、方法。
【請求項22】
微生物の発酵により有用物質を生産する方法であって、
少なくとも、請求項1〜13のいずれかに記載のセルラーゼ組成物を用いて、セルロースを前記微生物が利用可能な炭素源にまで分解する工程と、
前記炭素源を前記微生物により発酵して前記有用物質を生産する工程と、
を備える、方法。
【請求項23】
前記微生物は、前記セルロースの部分分解物を炭素源として利用可能にβ−グルコシダーゼを細胞外に分泌又は細胞表層に提示する微生物である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記セルロースは、少なくともセルロースを含むセルロース含有材料を前処理して得られるセルロースを含む画分である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記前処理は、水熱処理又はイオン液体による処理である、請求項24に記載の方法。
【請求項1】
GHF6に属する1又は2以上の第1のセロビオヒドロラーゼと、GHF7に属する1又は2以上の第2のセロビオヒドロラーゼと、GHF5に属する1又は2以上の第1のエンドグルカナーゼと、
を含み、さらに、以下の酵素;
(a)GHF9に属する1又は2以上の第2のエンドグルカナーゼ、
(b)1又は2以上のペクチン酸リアーゼ、
(c)1又は2以上のキシラナーゼ、
(d)1又は2以上のアラビノフラノシダーゼ、
(e)1又は2以上のグルクロノキシランキシラノヒドロラーゼからなる群から選択される1又は2以上の酵素を含有する、セルラーゼ組成物。
【請求項2】
前記第1のセロビオヒドロラーゼが、Phanerochaete chrysosporium(P. chrysosporium,ファネロケーテ・クリソスポリウム)及びAspergillus oryzae(A.oryzae、アスペルギルス・オリゼ)からなる群から選択される1又は2以上の生物に由来するセロビオヒドロラーゼである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第1のセロビオヒドロラーゼが、P. chrysosporiumに由来するセロビオヒドロラーゼである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記第2のセロビオヒドロラーゼが、Aspergillus niger(A. niger,アスペルギルス・ニガー)、Aspergillus aculeatus(A. aculeatus,アスペルギルス・アキュリータス)及びA.oryzaeからなる群から選択される1又は2以上の生物に由来するセロビオヒドロラーゼである、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記第2のセロビオヒドロラーゼは、A. nigerに由来するセロビオヒドロラーゼを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記第1のエンドグルカナーゼは、A.oryzae及びTrichoderma reesei(T. reesei,トリコデルマ・リーゼイ)に属する生物に由来するエンドグルカナーゼである、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記第2のエンドグルカナーゼが、Oryza sativa(O. sativa,イネ)に属する生物に由来するエンドグルカナーゼである、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
さらに、GHF12に属する1又は2以上の第3のエンドグルカナーゼを含有する、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記第3のエンドグルカナーゼが、P. chrysosporium、A.oryzae及びT. reeseiからなる群から選択される1又は2以上の生物に由来するエンドグルカナーゼである、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記第2のエンドグルカナーゼと前記第3のエンドグルカナーゼとを含有する、請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
セロビオヒドロラーゼが、GHF6に属する1又は2以上の前記第1のセロビオヒドロラーゼと、GHF7に属する1又は2以上の第2のセロビオヒドロラーゼと、からなり、
エンドグルカナーゼが、1又は2以上のGHF5に属する前記第1のエンドグルカナーゼと、GHF9に属する1又は2以上の前記第2のエンドグルカナーゼと、からなる、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
セロビオヒドロラーゼが、GHF6に属する1又は2以上の前記第1のセロビオヒドロラーゼと、GHF7に属する1又は2以上の前記第2のセロビオヒドロラーゼと、からなり、
エンドグルカナーゼが、1又は2以上のGHF5に属する前記第1のエンドグルカナーゼと、GHF9に属する1又は2以上の前記第2のエンドグルカナーゼと、GHF12に属する1又は2以上の前記第3のエンドグルカナーゼと、からなる、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
β−グルコシダーゼを実質的に含有しない、請求項1〜12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
酵素の生産方法であって
Phanerochaete属に由来するセルラーゼ、Oryza 属に由来するセルラーゼ及びBacillus属に由来するヘミセルラーゼからなる群から選択される1又は2以上の酵素をコードする遺伝子をセルラーゼ非生産微生物に導入して前記セルラーゼ非生産微生物で前記酵素を生産する工程、
を備える方法。
【請求項15】
前記セルラーゼ非生産微生物は、Aspergillus属菌であり、前記遺伝子は、Aspergillus属菌におけるコドン使用頻度に基づいて改変されている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記セルラーゼ非生産微生物は酵母である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
セルラーゼ非生産微生物の形質転換体であって、
以下のタンパク質;
Phanerochaete属に由来するGHF6に属する1又は2以上のセルラーゼ、
Phanerochaete属に由来するGHF7に属する1又は2以上のセルラーゼ、
Phanerochaete属に由来するGHF12に属する1又は2以上のセルラーゼ、
Oryza属に由来するGHF9に属する1又は2以上のセルラーゼ、及び
Bacillus属に由来するヘミセルラーゼ、
からなる群から選択される1又は2以上のタンパク質をコードする遺伝子を発現させるための発現ベクターで形質転換して得られる、形質転換体。
【請求項18】
前記セルラーゼ非生産微生物は、Aspergillus属菌であって、前記遺伝子は、前記Aspergillus属菌でのコドン使用頻度に基づいて改変した遺伝子である、請求項17に記載の形質転換体。
【請求項19】
前記セルラーゼ非生産微生物は酵母である、請求項17に記載の形質転換体。
【請求項20】
前記タンパク質を細胞外に分泌又は細胞表層に提示する、請求項17〜19のいずれかに記載の形質転換体。
【請求項21】
セルロースの低分子化物の生産方法であって、
請求項1〜13のいずれかに記載のセルラーゼ組成物を用いて、前記セルロースを分解する工程、
を備える、方法。
【請求項22】
微生物の発酵により有用物質を生産する方法であって、
少なくとも、請求項1〜13のいずれかに記載のセルラーゼ組成物を用いて、セルロースを前記微生物が利用可能な炭素源にまで分解する工程と、
前記炭素源を前記微生物により発酵して前記有用物質を生産する工程と、
を備える、方法。
【請求項23】
前記微生物は、前記セルロースの部分分解物を炭素源として利用可能にβ−グルコシダーゼを細胞外に分泌又は細胞表層に提示する微生物である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記セルロースは、少なくともセルロースを含むセルロース含有材料を前処理して得られるセルロースを含む画分である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記前処理は、水熱処理又はイオン液体による処理である、請求項24に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【公開番号】特開2011−182675(P2011−182675A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49427(P2010−49427)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)/セルロースエタノール高効率製造のための環境調和型統合プロセス開発」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)/セルロースエタノール高効率製造のための環境調和型統合プロセス開発」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】
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