説明

セルロースエステルフィルム、位相差フィルム、偏光板、及び液晶表示装置

【課題】製造時の工程汚染が少なく生産効率が高い優れたセルロースエステルフィルムを提供すること。該セルロースエステルフィルムを用いたヘイズが小さく、Re値及びRth値を所望の値に制御でき、経時での性能変化が小さい位相差フィルムを提供すること。該セルロースエステルフィルム及び位相差フィルムを用いた表示性能及び耐久性に優れた偏光板を提供すること。該偏光板を用いた表示品質の良好な液晶表示装置を提供すること。
【解決手段】少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸残基と少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸残基とを含む平均炭素数が5.5以上10.0以下のジカルボン酸残基と、少なくとも一種の平均炭素数が2.5以上7.0以下の脂肪族ジオール残基とを含む重縮合エステルを少なくとも一種含有するセルロースエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルム、位相差フィルム、偏光板、及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化銀写真感光材料、位相差フィルム、偏光板及び画像表示装置には、セルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ビニルポリマー、及び、ポリイミド等に代表されるポリマーフィルムが用いられている。これらのポリマーからは、平面性や均一性の点でより優れたフィルムを製造することができるため、光学用途のフィルムとして広く採用されている。例えば、適切な透湿度を有するセルロースエステルフィルムは、最も一般的なポリビニルアルコール(PVA)/ヨウ素からなる偏光子とオンラインで直接貼り合わせることが可能である。そのため、セルロースエステル、特にセルロースアセテートは偏光板の保護フィルムとして広く採用されている。
【0003】
透明ポリマーフィルムを、位相差フィルム、位相差フィルムの支持体、偏光板の保護フィルム、及び液晶表示装置のような光学用途に使用する場合、その光学異方性の制御は、表示装置の性能(例えば、視認性)を決定する上で非常に重要な要素となる。
【0004】
一方、光学用途に用いるセルロースエステルフィルムを製造する方法としては、溶液製膜法が広く利用されている。この場合には、製造する際には高速製膜適性を付与する目的で、可塑剤を添加することが好ましい。これは、可塑剤を添加することによって、溶液製膜時の乾燥の際に溶媒を短時間で揮発させることができるためである。しかしながら、通常用いられている可塑剤を含む透明ポリマーフィルムは、例えば、乾燥工程等で高温にて処理しようとすると可塑剤等の添加剤の析出による発煙が生じたり、揮散した油分等が製造機に付着することにより、動作の不具合が生じたり、ポリマーフィルムに汚れが付着して面状故障が発生する場合がある。このため、可塑剤を用いた透明ポリマーフィルムに対する製造条件や処理条件には自ずと制約があった。
【0005】
このため、ポリマー系の可塑剤が多く提案されているが(例えば特許文献1)、セルロースエステルとの相溶性が不十分で、フィルムヘイズが高く、表示装置としたときのコントラストが不十分である等の問題があった。また、セルロースエステルと相溶する添加剤であっても、長時間の経時でフィルムから析出し、光学フィルムとしての特性が劣化し、解決すべき課題であった。
特許文献3には炭素数の平均が2〜3.5であるグリコールと炭素数の平均が4〜5.5である(無水)2塩基酸とから得られるポリエステルポリオールを含有したセルロースエステルフィルムにおいて、面内レターデーションの値が30〜200nmで、厚さ方向のレターデーションの値が70〜400nmの範囲にあることを特徴とする延伸セルロースフィルムが開示されており、湿度安定性の向上が記述されている。
特許文献4及び5には、水蒸気透過速度、生分解性に優れたセルロースエステルフィルムの製造を目的とし、脂肪族−芳香族ポリエステルランダム共重合体を添加する技術が開示されている。
【0006】
一方、液晶表示装置において、視野角の拡大、画像着色の改良、及びコントラストの向上のため光学補償フィルムを使用することは広く知られた技術である。最も普及しているVA(Vertically Aligned)モード(垂直配向モード)、TN(Twisted Nematic)モード等では特に光学特性(例えばRe値及びRth値)を所望の値に制御できる位相差フィルムが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第05/061595号パンフレット
【特許文献2】特開昭61−276836号公報
【特許文献3】特開2006−64803号公報
【特許文献4】米国特許第6495656号明細書
【特許文献5】米国特許第6342304号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の特許文献3に記載のセルロースエステルフィルムは、光学用途として位相差フィルムに適応するには光学特性の発現性が不十分であり、高い光学異方性を要求するVAモード液晶表示装置への適用は困難であった。
また、特許文献2に記載のセルロースエステルフィルムは、ポリエステル又はポリエステルポリオールとセルロースエステルの相溶性が低く、製膜時又は加熱延伸時に可塑剤等の添加剤の析出(ブリードアウト)が生じる為生産効率が低く、実用化は困難であった。
また、特許文献4及び5に記載の化合物においても、分子量が大きく、相溶性が悪化するので満足できるものではなかった。
【0009】
本発明の目的は、製造時の工程汚染が少なく生産効率が高い優れたセルロースエステルフィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、上記セルロースエステルフィルムを用いたヘイズが小さく、Re値及びRth値を所望の値に制御でき、経時での性能変化が小さい位相差フィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、上記セルロースエステルフィルム及び位相差フィルムを用いた表示性能及び耐久性に優れた偏光板を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、上記偏光板を用いた表示品質の良好な液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、上記課題は以下の構成によって解決されることを見出した。
〔1〕
少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸残基と少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸残基とを含む平均炭素数が5.5以上10.0以下のジカルボン酸残基と、少なくとも一種の平均炭素数が2.5以上7.0以下の脂肪族ジオール残基とを含む重縮合エステルを少なくとも一種含有するセルロースエステルフィルム。
〔2〕
前記ジカルボン酸残基中の芳香族ジカルボン酸残基が40mol%以上である〔1〕に記載のセルロースエステルフィルム。
〔3〕
前記重縮合エステルの数平均分子量が500以上2000以下である〔1〕又は〔2〕に記載のセルロースエステルフィルム。
〔4〕
前記重縮合エステルがポリエステルポリオールである〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
〔5〕
前記重縮合エステルの末端が脂肪族モノカルボン酸残基である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
〔6〕
前記脂肪族モノカルボン酸残基が炭素数3以下の脂肪族モノカルボン酸のエステル形成誘導体である〔5〕に記載のセルロースエステルフィルム。
〔7〕
前記セルロースエステルフィルムがセルロースアシレートを含み、該セルロースアシレートのアシル置換度が2.00〜2.95である〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
〔8〕
前記セルロースアシレート100質量部に対し、前記重縮合エステルの含有量が5〜40質量部である〔7〕に記載のセルロースエステルフィルム。
〔9〕
前記セルロースエステルフィルムが幅方向に延伸されて得られたものであり、該延伸倍率が、搬送方向に対して垂直な方向に5%以上100%以下である〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
〔10〕
前記セルロースエステルフィルムは溶液流延製膜方法により製膜した後、延伸することにより製造したものである〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
〔11〕
前記溶液流延製膜が共流延により、同時又は逐次で多層流延製膜である〔10〕に記載のセルロースエステルフィルム。
〔12〕
下記式1及び2を満たすことを特徴とする、〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
式1:25nm≦|Re(590)|≦100nm
式2:50nm≦|Rth(590)|≦250nm
(上記式中、Re(590)及びRth(590)は、それぞれ25℃、60%RHで波長590nmの光で測定した面内レターデーション値及び厚み方向のレターデーション値である。)
〔13〕
膜厚が30〜100μmである、〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
〔14〕
偏光子の両側に保護フィルムを有する偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムである偏光板。
〔15〕
液晶セル及びその両側に配置された2枚の偏光板を含む液晶表示装置であって、該偏光板のうち少なくとも1枚が〔14〕に記載の偏光板である液晶表示装置。
〔16〕
前記液晶セルが、VAモードの液晶セルである〔15〕に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば製造時の工程汚染が少なく、ブリードアウトが生じにくく、生産効率が高く、面状が良好で、Re値及びRth値を所望の値に制御できる、優れたセルロースエステルフィルム、経時での性能変化が小さい位相差フィルム及び耐久性に優れた偏光板を提供することができる。また、上記フィルム又は偏光板を用いた表示品質の良好な液晶表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の位相差フィルムの製造方法の一例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)〜(数値2)」及び「(数値1)乃至(数値2)」という記載は「(数値1)以上(数値2)以下」の意味を表す。
【0014】
本発明のセルロースエステルフィルムは、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸と少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸とを含む平均炭素数が5.5以上10.0以下のジカルボン酸の混合物と、少なくとも一種の平均炭素数が2.5以上7.0以下の脂肪族ジオールとから得られる重縮合エステルを少なくとも一種含有する。
本発明のセルロースエステルフィルムは、上記重縮合エステルを含有することで、所望の光学特性を発現させることができる。
【0015】
〔重縮合エステル〕
本発明に係る重縮合エステルは、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸(芳香族ジカルボン酸とも呼ぶ)と少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸との混合物、例えば、炭素数の平均が5.5以上10.0以下のジカルボン酸と、少なくとも一種の平均炭素数が2.5以上7.0以下の脂肪族ジオールとから得られる。
【0016】
脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数の計算は、ジカルボン酸残基とジオール残基で個別に行う。
ジカルボン酸残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値を平均炭素数とする。例えば、アジピン酸残基とフタル酸残基が50モル%ずつから構成される場合は、平均炭素数7.0となる。
また、ジオール残基の場合も同様で、脂肪族ジオール残基の平均炭素数は、脂肪族ジオール残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値とする。例えばエチレングリコール残基50モル%と1,2−プロパンジオール残基50モル%から構成される場合は平均炭素数2.5となる。
【0017】
重縮合エステルの数平均分子量は500〜2000であることが好ましく、600〜1500がより好ましく、700〜1200がさらに好ましい。重縮合エステルの数平均分子量は600以上であれば揮発性が低くなり、セルロースエステルフィルムの延伸時の高温条件下における揮散によるフィルム故障や工程汚染を生じにくくなる。また、2000以下であればセルロースエステルとの相溶性が高くなり、製膜時及び加熱延伸時のブリードアウトが生じにくくなる。
本発明の重縮合エステルの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定、評価することができる。また、末端が封止のないポリエステルポリオールの場合、重量あたりの水酸基の量(以下、水酸基価)により算出することもできる。水酸基価は、ポリエステルポリオールをアセチル化した後、過剰の酢酸の中和に必要な水酸化カリウムの量(mg)を測定する。
【0018】
本発明にかかる芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との混合物としてのジカルボン酸は、炭素数の平均が5.5以上10.0以下のジカルボン酸である。より好ましくは5.6以上8以下である。
炭素数の平均が5.5以上であれば耐久性に優れた偏光板を得ることができる。炭素数の平均が10以下であればセルロースエステルへの相溶性が優れ、セルロースエステルフィルムの製膜過程でブリードアウトの発生を抑制することができる。
本発明に係る重縮合エステルは、可塑剤として用いることができる。
【0019】
(芳香族ジカルボン酸残基)
芳香族ジカルボン酸残基は、ジオールと芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルに含まれる。
本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−COーである。
本発明に用いる重縮合エステルの芳香族ジカルボン酸残基比率は40mol%以上であり、40mol%〜95mol%であることが好ましい。45mol%〜70mol%であることがより好ましく、50mol%〜70mol%であることが更に好ましい。
芳香族ジカルボン酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースエステルフィルムが得られ、耐久性に優れた偏光板を得ることができる。また、95mol%以下であればセルロースエステルとの相溶性に優れ、セルロースエステルフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくくすることができる。
【0020】
本発明に用いる芳香族ジカルボン酸は、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができる。フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、フタル酸、テレフタル酸がより好ましく、テレフタル酸がさらに好ましい。
重縮合エステルには混合に用いた芳香族ジカルボン酸により芳香族ジカルボン酸残基が形成される。
具体的には、芳香族ジカルボン酸残基は、フタル酸残基、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、より好ましくはフタル酸残基、テレフタル酸残基の少なくとも1種を含み、さらに好ましくはテレフタル酸残基を含む。
すなわち、重縮合エステルの形成における混合に、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸を用いることで、よりセルロースエステルとの相溶性に優れ、セルロースエステルフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいセルロースエステルフィルムとすることができる。また、芳香族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよい。2種用いる場合は、フタル酸とテレフタル酸を用いることが好ましい。
フタル酸とテレフタル酸の2種の芳香族ジカルボン酸を併用することにより、常温での重縮合エステルを軟化することができ、ハンドリングが容易になる点で好ましい。
重縮合エステルのジカルボン酸残基中のテレフタル酸残基の含有量は40mol%〜95mol%であることが好ましく、45mol%〜70mol%であることが好ましく、50mol%〜70mol%であることが好ましい。
テレフタル酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースエステルフィルムが得られる。また、95mol%以下であればセルロースエステルとの相溶性に優れ、セルロースエステルフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくくすることができる。
【0021】
(脂肪族ジカルボン酸残基)
脂肪族ジカルボン酸残基は、ジオールと脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルに含まれる。
本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−COーである。
本発明で好ましく用いられる脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
重縮合エステルには混合に用いた脂肪族ジカルボン酸より脂肪族ジカルボン酸残基が形成される。
ジカルボン酸残基は、平均炭素数が5.5以上10.0以下であることが好ましく、5.5〜8.0であることがより好ましく、5.5〜7.0であることがさらに好ましい。脂肪族ジオールの平均炭素数が7.0以下であれば化合物の加熱減量が低減でき、セルロースアシレートウェブ乾燥時のブリードアウトによる工程汚染が原因と考えられる面状故障の発生を防ぐことができる。また、脂肪族ジオールの平均炭素数が2.5以上であれば相溶性に優れ、重縮合エステルの析出が起き難く好ましい。
具体的には、コハク酸残基を含むことが好ましく、2種用いる場合は、コハク酸残基とアジピン酸残基を含むことが好ましい。
すなわち、重縮合エステルの形成における混合に、脂肪族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよく、2種用いる場合は、コハク酸とアジピン酸を用いることが好ましい。1種用いる場合は、コハク酸を用いることが好ましい。ジオール残基の平均炭素数を所望の値に調整することができ、セルロースエステルとの相溶性の点で好ましい。
【0022】
本発明において、ジカルボン酸は2種又は3種を用いることが好ましい。2種を用いる場合は脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを1種づつ用いることが必要であり、3種を用いる場合は脂肪族ジカルボン酸を1種と芳香族ジカルボン酸を2種又は脂肪族ジカルボン酸を2種と芳香族ジカルボン酸を1種用いることができる。ジカルボン酸残基の平均炭素数の値を調整しやすく、かつ芳香族ジカルボン酸残基の含有量を好ましい範囲とすることができ、偏光子の耐久性を向上し得るためである。
【0023】
(脂肪族ジオール)
脂肪族ジオール残基は、脂肪族ジオールとジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルに含まれる。
本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジオールHO−R−OHより形成されるジオール残基は−O−R−O−である。
重縮合エステルを形成するジオールとしては芳香族ジオール及び脂肪族ジオールが挙げられ、少なくとも脂肪族ジオールを含む。
重縮合エステルには平均炭素数が2.5以上7.0以下の脂肪族ジオール残基を含む。好ましくは平均炭素数が2.5以上4.0以下の脂肪族ジオール残基である。脂肪族ジオール残基の平均炭素数が3.0より大きいとセルロースエステルとの相溶性が低く、ブリードアウトが生じやすくなり、また、化合物の加熱減量が増大し、セルロースアシレートウェブ乾燥時の工程汚染が原因と考えられる面状故障が発生する。また、脂肪族ジオール残基の平均炭素数が2.0未満では合成が困難となるため、使用できない。
本発明に用いられる脂肪族ジオールとしては、アルキルジオール又は脂環式ジオール類を挙げることができ、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等があり、これらはエチレングリコールとともに1種又は2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0024】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンジオールの少なくとも1種であり、特に好ましくはエチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールの少なくとも1種である。2種用いる場合は、エチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールを用いることが好ましい。1,2−プロパンジオール、又は1,3−プロパンジオールを用いることにより重縮合エステルの結晶化を防止することができる。
重縮合エステルには混合に用いたジオールによりジオール残基が形成される。
ジオール残基はエチレングリコール残基、1,2−プロパンジオール残基、及び1,3−プロパンジオール残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレングリコール残基又は1,2−プロパンジオール残基であることがより好ましい。
脂肪族ジオール残基のうち、エチレングリコール残基が20mol%〜100mol%であることが好ましく、50mol%〜100mol%であることがより好ましい。
【0025】
(封止)
本発明の重縮合エステルの末端は封止がなくジオールあるいはカルボン酸のままであるか、さらにモノカルボン酸類又はモノアルコール類を反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。
封止に用いるモノカルボン酸類としては酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。封止に用いるモノアルコール類としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等が好ましく、メタノールが最も好ましい。重縮合エステルの末端に使用するモノカルボン酸類の炭素数が3以下であると、化合物の加熱減量が大きくならず、面状故障が発生しない。
本発明の重縮合エステルの末端はより好ましくは封止がなくジオール残基のままか、酢酸又はプロピオン酸による封止がさらに好ましい。
本発明にかかる重縮合エステルの両末端は封止、未封止を問わない。
縮合体の両末端が未封止の場合、重縮合エステルはポリエステルポリオールであることが好ましい。
本発明にかかる重縮合エステルの態様の一つとして脂肪族ジオール残基の炭素数が2.5以上7.0以下であり、縮合体の両末端は未封止である重縮合エステルを挙げることができる。
縮合体の両末端が封止されている場合、モノカルボン酸と反応させて封止することが好ましい。このとき、該重縮合エステルの両末端はモノカルボン酸残基となっている。本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばモノカルボン酸R−COOHより形成されるモノカルボン酸残基はR−CO−である。好ましくは脂肪族モノカルボン酸残基であり、モノカルボン酸残基が炭素数22以下の脂肪族モノカルボン酸残基であることがより好ましく、炭素数3以下の脂肪族モノカルボン酸残基であることがさらに好ましい。また、炭素数2以上の脂肪族モノカルボン酸残基であることが好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
本発明にかかる重縮合エステルの態様の一つとして脂肪族ジオール残基の炭素数が2.5より大きく7.0以下であり、縮合体の両末端はモノカルボン酸残基である重縮合エステルを挙げることができる。
重縮合エステルの両末端のモノカルボン酸残基の炭素数が3以下であると、揮発性が低下し、重縮合エステルの加熱による減量が大きくならず、工程汚染の発生や面状故障の発生を低減することが可能である。
即ち封止に用いるモノカルボン酸類としては脂肪族モノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸が炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸であることがより好ましく、炭素数2〜3の脂肪族モノカルボン酸であることがさらに好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸及びその誘導体等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。
封止に用いるモノカルボン酸は2種以上を混合してもよい。
本発明の重縮合エステルの両末端は酢酸又はプロピオン酸による封止が好ましく、酢酸封止により両末端がアセチルエステル残基(アセチル残基と称する場合がある)となることが最も好ましい。
両末端を封止した場合は常温での状態が固体形状となりにくく、ハンドリングが良好となり、また湿度安定性、偏光板耐久性に優れたセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0026】
以下の表1に本発明にかかる重縮合エステルの具体例A−1〜A−31、B−3、B−4、B−6、B−9、B−10及び本発明の範囲外の重縮合エステルの具体例B−1、B−2、B−5、B−7、B−8を記すが、これらに限定されるものではない。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明に係る重縮合エステルの合成は、常法によりジオールとジカルボン酸とのポリエステル化反応又はエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。また、本発明に係る重縮合エステルについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0029】
セルロースエステルフィルムにおける前記重縮合エステルの含有量は、セルロースエステル量に対し5乃至40質量%であることが好ましく、8乃至30質量%であることがさらに好ましく、10乃至25質量%であることが最も好ましい。
【0030】
本発明の重縮合体が含有する原料の脂肪族ジオール、ジカルボン酸エステル、又はジオールエステルのセルロースエステルフィルム中の含有量は、1質量%未満が好ましく、0.5質量%未満がより好ましい。ジカルボン酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、アジピン酸ジ(ヒドロキシエチル)、コハク酸ジ(ヒドロキシエチル)等が挙げられる。ジオールエステルとしては、エチレンジアセテート、プロピレンジアセテート等が挙げられる。
本発明で使用される重縮合エステルに含まれるジカルボン酸残基、ジオール残基、モノカルボン酸残基の各残基の種類及び比率はH−NMRを用いて通常の方法で測定することができる。通常、重クロロホルムを溶媒として用いることができる。
重縮合エステルの数平均分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて通常の方法で測定することができ、通常、ポリスチレンを標準資料として用いることができる。
重縮合エステルの水酸基価の測定は、日本工業規格 JIS K3342(廃止)に記載の無水酢酸法当を適用できる。重縮合体がポリエステルポリオールである場合は、水酸基価が50以上190以下であることが好ましく、50以上130以下であることがさらに好ましい。
【0031】
次に、光学補償フィルム、偏光板などに使用することができるセルロースエステルフィルムについて詳しく説明する。
【0032】
〔セルロースエステル〕
本発明のセルロースエステルフィルムにおいて、セルロースエステルとしては、セルロースエステル化合物、及び、セルロースを原料として生物的或いは化学的に官能基を導入して得られるエステル置換セルロース骨格を有する化合物が挙げられる。なお、本発明のセルロースエステルフィルムは、主成分として上述のセルロースエステルを含むことが好ましい。ここで、「主成分として」とは、単一のポリマーからなる場合には、そのポリマーのことを示し、複数のポリマーからなる場合には、構成するポリマーのうち、最も質量分率の高いポリマーのことを示す。
【0033】
前記セルロースエステルは、セルロースと酸とのエステルである。前記エステルを構成する酸としては、有機酸が好ましく、カルボン酸がより好ましく、炭素原子数が2〜22の脂肪酸がさらに好ましく、炭素原子数が2〜4の低級脂肪酸であるセルロースアシレートが最も好ましい。
【0034】
[セルロースアシレート原料綿]
本発明に用いられるセルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明のセルロースアシレートフィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0035】
[セルロースアシレート置換度]
次に上述のセルロースを原料に製造される本発明において好適なセルロースアシレートについて記載する。
【0036】
本発明に用いられるセルロースアシレートはセルロースの水酸基がアシル化されたもので、その置換基はアシル基の炭素数が2のアセチル基から炭素数が22のものまでいずれも用いることができる。本発明においてセルロースアシレートにおける、セルロースの水酸基への置換度の測定については特に限定されないが、セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸の結合度を測定し、計算によって置換度を得ることができる。測定方法としては、ASTM D−817−91に準じて実施することができる。
【0037】
セルロースエステルフィルムがセルロースアシレートから構成されていることが好ましい。セルロースの水酸基への置換度については特に限定されないが、該セルロースアシレートフィルムのアシル置換度が2.00〜2.95であることが好ましい。2.10〜2.80であることがより好ましく、2.20〜2.70であることが特に好ましく、2.30〜2.60であることが特に好ましい。
アシル置換度が2.00以上であれば湿度安定性、偏光板耐久性の点で十分であり、アシル置換度が2.95以下であれば有機溶媒への溶解性、重縮合体との相溶性に優れたセルロースエステルフィルムとすることができ好ましい。また、セルロースアシレートフィルムのアシル置換度が特に好ましい範囲であれば光学特性の面で優れるため好ましい。
【0038】
セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸のうち、炭素数2〜22のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく特に限定されず、単一でも2種類以上の混合物でもよい。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、又は芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましいアシル基としては、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、へプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、i−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどが好ましく、アセチル、プロピオニル、ブタノイルがより好ましい。更に好ましい基はアセチル、プロピオニルであり、最も好ましい基はアセチルである。
【0039】
[セルロースアシレートの重合度]
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であり、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400が更に好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度が該上限値以下であれば、セルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなりすぎることがなく流延によるフィルム作製が容易にできるので好ましい。重合度が該下限値以上であれば、作製したフィルムの強度が低下するなどの不都合が生じないので好ましい。粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法{宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105〜120頁(1962年)}により測定できる。この方法は特開平9−95538号公報にも詳細に記載されている。
【0040】
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜4.0であることが好ましく、2.0〜4.0であることがさらに好ましく、2.3〜3.4であることが最も好ましい。
【0041】
〔セルロースアシレートフィルムの製造〕
製造方法は、ドープを支持体上に流延し溶媒を蒸発させてセルロースエステルフィルムを形成する製膜工程、及びその後当該フィルムを延伸する延伸工程、さらにその後得られたフィルムを乾燥する乾燥工程、さらに、該乾燥工程終了後、150〜200℃の温度で1分以上熱処理する工程を有することが好ましい。
【0042】
(製膜工程)
本発明のフィルムの製造方法は、公知のセルロースエステルフィルムを作製する方法等を広く採用でき、ソルベントキャスト法により製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造することができる。
有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル及び炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−及びCOO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0043】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート及びペンチルアセテートが含まれる。
2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1又は2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0044】
一般的な方法でセルロースアシレート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温又は高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法及び装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特に、メチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧及び加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0045】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、
熱交換器等を用いて冷却する。
【0046】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレテートフィルムを製造することができる。
ドープは、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35質量%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延及び乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0047】
ドープは、表面温度が10℃以下のドラム又はバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラム又はバンドから剥ぎ取り、さらに100℃から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラム又はバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0048】
(添加剤)
本発明のセルロースエステルフィルムには、各調製工程において用途に応じた種々の低分子、高分子添加剤(例えば、劣化防止剤、紫外線防止剤、レターデーション(光学異方性)調節剤、剥離促進剤、可塑剤、赤外吸収剤、マット剤など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば融点が20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に劣化防止剤の混合などである。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はセルロースエステル溶液(ドープ)作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、セルロースエステル系樹脂層が多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。
【0049】
(劣化防止剤)
本発明のセルロースエステル溶液には公知の劣化(酸化)防止剤、例えば、フェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤の添加量は、セルロースエステル100質量部に対して、0.05〜5.0質量部を添加する。
【0050】
(紫外線吸収剤)
本発明のセルロースエステル溶液には、偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0051】
(レターデーション発現剤)
本発明ではレターデーション値を発現するため、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として用いることができる。
少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物は一様配向した場合に光学的に正の1軸性を発現することが好ましい。
少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物の分子量は、300ないし1200であることが好ましく、400ないし1000であることがより好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合、光学特性とくにReを好ましい値に制御するには、延伸が有効である。Reの上昇はフィルム面内の屈折率異方性を大きくすることが必要であり、一つの方法が延伸によるポリマーフィルムの主鎖配向の向上である。また、屈折率異方性の大きな化合物を添加剤として用いることで、さらにフィルムの屈折率異方性を上昇することが可能である。例えば上記の2つ以上の芳香環を有する化合物は、延伸によりポリマー主鎖が並ぶ力が伝わることで該化合物の配向性も向上し、所望の光学特性に制御することが容易となる。
【0052】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物としては、例えば特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2002−363343号公報に記載の棒状化合物、特開2005−134884及び特開2007−119737号公報に記載の液晶性化合物等が挙げられる。より好ましくは、上記トリアジン化合物又は棒状化合物である。
少なくとも2つの芳香環を有する化合物は2種以上を併用して用いることもできる。
【0053】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物の添加量はセルロースエステルに対して質量比で0.05%以上10%以下が好ましく、0.5%以上8%以下がより好ましく、1%以上5%以下がさらに好ましい。
(剥離促進剤)
セルロースエステルフィルムの剥離抵抗を小さくする添加剤としては界面活性剤に効果の顕著なものが多くみつかっている。好ましい剥離剤としては燐酸エステル系の界面活性剤、カルボン酸あるいはカルボン酸塩系の界面活性剤、スルホン酸あるいはスルホン酸塩系の界面活性剤、硫酸エステル系の界面活性剤が効果的である。また上記界面活性剤の炭化水素鎖に結合している水素原子の一部をフッ素原子に置換したフッ素系界面活性剤も有効である。
剥離剤の添加量はセルロースエステルに対して0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%が更に好ましく、0.1〜0.5質量%が最も好ましい。
【0054】
(可塑剤)
セルロースエステルフィルムは、一般的に、セルロースアセテートに比較して柔軟性に乏しく、フィルムに曲げ応力やせん断応力がかかると、フィルムに割れ等が生じ易い。また、光学フィルムとして加工する際に、切断部にひびが入りやすく、切り屑が発生しやすい。発生した切り屑は、光学フィルムを汚染し、光学的欠陥の原因となっていた。これらの問題点を改良するため、可塑剤を添加することができる。具体的には、フタル酸エステル系、トリメリット酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、正リン酸エステル系、酢酸エステル系、ポリエステル・エポキシ化エステル系、リシノール酸エステル系、ポリオレフィン系、ポリエチレングリコール系化合物を挙げることができる。
【0055】
使用できる可塑剤としては、常温、常圧、液状で、かつ沸点が200℃以上の化合物から選択することが好ましい。具体的な化合物名としては、脂肪族二塩基酸エステル系、フタル酸エステル系、ポリオレフィン系をあげることが出来る。
可塑剤の添加量としては、セルロースエステル系樹脂に対して、0.5〜40.0質量%、好ましくは1.0質量%〜30.0質量%、より好ましくは3.0%〜20.0質量%である。可塑剤の添加量がこれより少ないと可塑効果が不十分で、加工適性が向上しない。また、これ以上になると長時間経時した場合に、可塑剤ご分離溶出する場合が有り、光学的ムラ、他部品への汚染等が発生し、好ましくない。
【0056】
(高分子量添加剤)
本発明のフィルムには以下の高分子量添加剤を用いてもよい。その化合物中に繰り返し単位を有するものであり、数平均分子量が700以上10000以下のものが好ましい。高分子量添加剤は、溶液流延法において、溶媒の揮発速度を速めたり、残留溶媒量を低減するために用いられる。
【0057】
ここで、本発明における高分子量添加剤の数平均分子量は、より好ましくは数平均分子量700以上10000未満であり、さらに好ましくは数平均分子量800〜8000であり、よりさらに好ましくは数平均分子量800〜5000であり、特に好ましくは数平均分子量1000〜5000である。このような範囲とすることにより、より相溶性に優れる。
【0058】
ポリエステル系ポリマー以外の高分子系添加剤
高分子系添加剤としては、スチレン系ポリマーおよびアクリル系ポリマーおよびこれら等の共重合体から選択され、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、アクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマーが好ましい。
【0059】
スチレン系ポリマー
スチレン系ポリマーは、好ましくは、一般式(I)で表される、芳香族ビニル系単量体から得られる構造単位である。
一般式(I)
【0060】
【化1】

【0061】
式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基、または極性基を表し、R4は全て同一の原子または基であっても、個々異なる原子または基であっても、互いに結合して、炭素環または複素環(これらの炭素環、複素環は単環構造でもよいし、他の環が縮合して多環構造を形成してもよい)を形成してもよい。
芳香族ビニル系単量体の具体例としては、スチレン;α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどのアルキル置換スチレン類;4−クロロスチレン、4−ブロモスチレンなどのハロゲン置換スチレン類;p−ヒドロキシスチレン、α−メチル−p−ヒドロキシスチレン、2−メチル−4−ヒドロキシスチレン、3,4−ジヒドロキシスチレンなどのヒドロキシスチレン類;ビニルベンジルアルコール類;p−メトキシスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、m−tert−ブトキシスチレンなどのアルコキシ置換スチレン類;3−ビニル安息香酸、4−ビニル安息香酸などのビニル安息香酸類;メチル−4−ビニルベンゾエート、エチル−4−ビニルベンゾエートなどのビニル安息香酸エステル類;4−ビニルベンジルアセテート;4−アセトキシスチレン;2−ブチルアミドスチレン、4−メチルアミドスチレン、p−スルホンアミドスチレンなどのアミドスチレン類;3−アミノスチレン、4−アミノスチレン、2−イソプロペニルアニリン、ビニルベンジルジメチルアミンなどのアミノスチレン類;3−ニトロスチレン、4−ニトロスチレンなどのニトロスチレン類;3−シアノスチレン、4−シアノスチレンなどのシアノスチレン類;ビニルフェニルアセトニトリル;フェニルスチレンなどのアリールスチレン類、インデン類などが挙げられるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。これらの単量体は、二種以上を共重合成分として用いてもよい。これらのうち、工業的に入手が容易で、かつ安価な点で、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0062】
アクリル系ポリマー
アクリル系ポリマーは、好ましくは、一般式(II)で表される、アクリル酸エステル系単量体から得られる構造単位である。
一般式(II)
【0063】
【化2】

【0064】
式中、R5〜R8は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基、または極性基を表す。
当該アクリル酸エステル系単量体の例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、tert−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)アクリル酸フェニル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸(2または4−クロロフェニル)、メタクリル酸(2または4−クロロフェニル)、アクリル酸(2または3または4−エトキシカルボニルフェニル)、メタクリル酸(2または3または4−エトキシカルボニルフェニル)、アクリル酸(oまたはmまたはp−トリル)、メタクリル酸(oまたはmまたはp−トリル)、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、メタクリル酸フェネチル、アクリル酸(2−ナフチル)、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(4−メチルシクロヘキシル)、メタクリル酸(4−メチルシクロヘキシル)、アクリル酸(4−エチルシクロヘキシル)、メタクリル酸(4−エチルシクロヘキシル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。これらの単量体は、2種以上を共重合成分として用いてもよい。これらのうち、工業的に入手が容易で、かつ安価な点で、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、tert−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものが好ましい。
【0065】
共重合体
共重合体は、一般式(I)で表される芳香族ビニル系単量体および一般式(II)で表されるアクリル酸エステル系単量体から得られる構造単位を少なくとも1種含むものが好ましい。
一般式(I)
【0066】
【化3】

【0067】
式中、R1〜R4は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基、または極性基を表し、R4は全て同一の原子または基であっても、個々異なる原子または基であっても、互いに結合して、炭素環または複素環(これらの炭素環、複素環は単環構造でもよいし、他の環が縮合して多環構造を形成してもよい)を形成してもよい。
一般式(II)
【0068】
【化4】

【0069】
式中R5〜R8は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基、または極性基を表す。
また、共重合組成を構成する上記以外の構造として、前記単量体と共重合性に優れたものであることが好ましく、例として、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、シス−1−シクロヘキセン−1,2−無水ジカルボン酸、3−メチル−シス−1−シクロヘキセン−1,2−無水ジカルボン酸、4−メチル−シス−1−シクロヘキセン−1,2−無水ジカルボン酸等の酸無水物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル基含有ラジカル重合性単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、トリフルオロメタンスルホニルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミド結合含有ラジカル重合性単量体;酢酸ビニルなどの脂肪酸ビニル類;塩化ビニル、塩化ビニリデンなどの塩素含有ラジカル重合性単量体;1,3−ブタジエン、イソプレン、1,4−ジメチルブタジエン等の共役ジオレフィン類をあげることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。この中で特に、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体が特に好ましい。
【0070】
(マット剤微粒子)
本発明のセルロースエステルフィルムは、マット剤として微粒子を含有することが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/Lが好ましく、100〜200g/Lがさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)35頁〜36頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースエステルフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【0071】
(共流延)
本発明のセルロースエステルフィルムは、溶液流延製膜方法により製膜した後、延伸することにより製造したものであることが好ましい。また、溶液流延製膜が共流延により、同時又は逐次で多層流延製膜であることが好ましい。所望のレターデーション値を有するフィルムとすることができるためである。
本発明では得られたセルロースエステル溶液を、金属支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に単層液として流延してもよいし、2層以上の複数のセルロースエステル液を流延してもよい。複数のセルロースエステル溶液を流延する場合、金属支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースエステルを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、特開平11−198285号の各公報などに記載の方法が適応できる。また、2つの流延口からセルロースエステル溶液を流延することによってもフィルム化することでもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、特開平6−134933号の各公報に記載の方法で実施できる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースエステル溶液の流れを低粘度のセルロースエステル溶液で包み込み、その高,低粘度のセルロースエステル溶液を同時に押出すセルロースエステルフィルム流延方法でもよい。更に又、特開昭61−94724号、特開昭61−94725号の各公報に記載の外側の溶液が内側の溶液よりも貧溶媒であるアルコール成分を多く含有させることも好ましい態様である。
【0072】
あるいは、また、2個の流延口を用いて、第一の流延口により金属支持体に成型したフィルムを剥離し、金属支持体面に接していた側に第二の流延を行なうことでより、フィルムを作製することでもよく、例えば特公昭44−20235号公報に記載されている方法である。流延するセルロースエステル溶液は同一の溶液でもよいし、異なるセルロースエステル溶液でもよく特に限定されない。複数のセルロースエステル層に機能を持たせるために、その機能に応じたセルロースエステル溶液を、それぞれの流延口から押出せばよい。さらの本発明のセルロースエステル溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光層など)を同時に流延することも実施しうる。
【0073】
従来の単層液では、必要なフィルム厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースエステル溶液を押出すことが必要であり、その場合セルロースエステル溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良であったりして問題となることが多かった。この解決として、複数のセルロースエステル溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に金属支持体上に押出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースエステル溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができた。
【0074】
共流延の場合、内側と外側の厚さは特に限定されないが、好ましくは外側が全膜厚の1〜50%であることが好ましく、より好ましくは2〜30%の厚さである。ここで、3層以上の共流延の場合は金属支持体に接した層と空気側に接した層のトータル膜厚を外側の厚さと定義する。
【0075】
共流延の場合、置換度の異なるセルロースアシレート溶液を共流延して、積層構造のセルロースエステルフィルムを作製することもできる。例えば、TAC層/DAC層/TAC層といった構成のセルロースエステルフィルムを作ることも、DAC層/TAC層/DAC層といった構成のセルロースエステルフィルムを作ることも出来る。また、前述の可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加物濃度が異なるセルロースエステルアシレート溶液を共流延して、積層構造のセルロースエステルフィルムを作製することもできる。例えば、マット剤は、表面層に多く、又は表面層のみに入れることが出来る。可塑剤、紫外線吸収剤は表面層よりも内部層に多くいれることができ、内部層のみにいれてもよい。又、内部層と表面層で可塑剤、紫外線吸収剤の種類を変更することもでき、例えば表面層に低揮発性の可塑剤及び/又は紫外線吸収剤を含ませ、内部層に可塑性に優れた可塑剤、或いは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することもできる。また、剥離剤を金属支持体側の表面層のみ含有させることも好ましい態様である。また、冷却ドラム法で金属支持体を冷却して溶液をゲル化させるために、表面層に貧溶媒であるアルコールを内部層より多く添加することも好ましい。表面層と内部層のTgが異なっていても良く、表面層のTgより内部層のTgが低いことが好ましい。又、流延時のセルロースエステルを含む溶液の粘度も表面層と内部層で異なっていても良く、表面層の粘度が内部層の粘度よりも小さいことが好ましいが、内部層の粘度が表面層の粘度より小さくてもよい。
【0076】
(乾燥工程、延伸工程)
ドラムやベルト上で乾燥され、剥離されたウェブの乾燥方法について述べる。ドラムやベルトが1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロール群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップ等で把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送される。乾燥は、搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法によって行われる。急速な乾燥は、形成されるフィルムの平面性を損なう恐れがあるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。収縮は、高温度で乾燥するほど大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように、乾燥の全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンタ−方式)が好ましい。上記乾燥工程における乾燥温度は、100〜145℃であることが好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なるが、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。本発明のフィルムの製造では、支持体から剥離したウェブ(フィルム)を、ウェブ中の残留溶媒量が120質量%未満の時に延伸することが好ましい。
【0077】
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。ウェブ中の残留溶媒量が多すぎると延伸の効果が得られず、また、少なすぎると延伸が著しく困難となり、ウェブの破断が発生してしまう場合がある。ウェブ中の残留溶媒量のさらに好ましい範囲は70質量%以下であり、より好ましくは10質量%〜50質量%、特に好ましくは12質量%〜35質量%である。また、延伸倍率が小さすぎると十分な位相差が得られず、大きすぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
延伸倍率は、1.05〜1.5であることが好ましく、1.15〜1.4であることがより好ましい。
また、延伸は縦方向に行っても横方向に行っても両方向に行ってもよく、好ましくは少なくとも縦方向に行う。本発明のセルロースエステルフィルムは幅方向に延伸されて得られたものであり、該延伸倍率が、搬送方向に対して垂直な方向に5%以上100%以下であることが好ましい。延伸倍率を5%以上とすることにより、より適切にReを発現させることができ、ボーイングを良好なものとすることができる。また、延伸倍率を50%以下とすることにより、ヘイズを低下させることができる。
本発明では、溶液流延製膜したものは、特定の範囲の残留溶媒量であれば高温に加熱しなくても延伸可能であるが、乾燥と延伸を兼ねると、工程が短くてすむので好ましい。しかし、ウェブの温度が高すぎると、可塑剤が揮散するので、室温(15℃)〜145℃以下の範囲が好ましい。また、互いに直交する2軸方向に延伸することは、フィルムの屈折率Nx、Ny、Nzを本発明の範囲に入れるために有効な方法である。例えば流延方向に延伸した場合、幅方向の収縮が大きすぎると、Nzの値が大きくなりすぎてしまう。この場合、フィルムの幅収縮を抑制あるいは、幅方向にも延伸することで改善できる。幅方向に延伸する場合、幅手で屈折率に分布が生じる場合がある。これは、例えばテンター法を用いた場合にみられることがあるが、幅方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、いわゆるボーイング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、流延方向に延伸することで、ボーイング現象を抑制でき、幅手の位相差の分布を少なく改善できるのである。さらに、互いに直交する2軸方向に延伸することにより得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。光学フィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなる。光学フィルムの膜厚変動は、±3%、さらに±1%の範囲とすることが好ましい。以上の様な目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ1.2〜2.0倍、0.7〜1.0倍の範囲とすることが好ましい。ここで、一方の方向に対して1.2〜2.0倍に延伸し、直交するもう一方を0.7〜1.0倍にするとは、フィルムを支持しているクリップやピンの間隔を延伸前の間隔に対して0.7〜1.0倍の範囲にすることを意味している。
【0078】
一般に、2軸延伸テンターを用いて幅手方向に1.2〜2.0倍の間隔となるように延伸する場合、その直角方向である長手方向には縮まる力が働く。
したがって、一方向のみに力を与えて続けて延伸すると直角方向の幅は縮まってしまうが、これを幅規制せずに縮まる量に対して、縮まり量を抑制していることを意味しており、その幅規制するクリップやピンの間隔を延伸前に対して0.7〜1.0倍の範囲に規制していることを意味している。このとき、長手方向には、幅手方向への延伸によってフィルムが縮まろうとする力が働いている。長手方向のクリップあるいはピンの間隔をとることによって、長手方向に必要以上の張力がかからないようにしているのである。ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸が行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0079】
(熱処理工程)
本発明のフィルムの製造方法は乾燥工程終了後に熱処理工程を設けることが好ましい。当該熱処理工程における熱処理は乾燥工程終了後に行われればよく、延伸/乾燥工程後直ちに行って良いし、あるいは乾燥工程終了後に後述する方法で一旦巻き取った後に、熱処理工程だけを別途設けても良い。本発明においては乾燥工程終了後に一旦、室温〜100℃以下まで冷却した後において改めて前記熱処理工程を設けることが好ましい。これは熱寸法安定性のより優れたフィルムを得られる点で有利であるからである。同様の理由で熱処理工程直前において残留溶媒量が2質量%未満、好ましくは0.4質量%未満まで乾燥されていることが好ましい。
このような処理によりフィルムの収縮率を小さくできる理由は明確ではないが、延伸工程にて延伸される処理を経たフィルムにおいては、延伸方向の残留応力が大きいため、熱処理によって前記残留応力が解消されることにより、熱処理温度以下の領域での収縮力が低減されるものと推定される。
【0080】
熱処理は、搬送中のフィルムに所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法により行われる。
熱処理は150〜200℃の温度で行うことが好ましく、160〜180℃の温度で行うことがさらに好ましい。また、熱処理は1〜20分間行うことが好ましく、5〜10分間行うことがさらに好ましい。
熱処理温度が200℃を超えて長時間加熱すると、フィルム中に含まれる可塑剤の飛散量が増大するため問題となる場合がある。
【0081】
なお前記熱処理工程において、フィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。この収縮を可能な限り抑制しながら熱処理することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましく、幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンター方式)が好ましい。さらに、フィルムの幅方向及び搬送方向に、それぞれ0.9倍〜1.5倍に延伸することが好ましい。
【0082】
得られたフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。以上の様にして得られた光学フィルムロールは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲であることが好ましい。又は、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±0.1度以内であることが好ましい。あるいはフィルムの幅手方向に対して±0.1度以内であることが好ましい。
【0083】
[加熱水蒸気処理]
また、延伸処理されたフィルムは、その後、100℃以上に加熱された水蒸気を吹き付けられる工程を経て製造されても良い。この水蒸気の吹付け工程を経ることにより、製造されるセルロースアシレートフィルムの残留応力が緩和されて、寸度変化が小さくなるので好ましい。水蒸気の温度は100℃以上であれば特に制限はないが、フィルムの耐熱性などを考慮すると、水蒸気の温度は、200℃以下となる。
【0084】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。本発明のセルロースエステルフィルムの製造に用いる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0085】
[セルロースエステルフィルムの表面処理]
セルロースエステルフィルムは、表面処理を施すことが好ましい。具体的方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理又は紫外線照射処理が挙げられる。また、特開平7−333433号公報に記載のように、下塗り層を設けることも好ましい。
フィルムの平面性を保持する観点から、これら処理においてセルロースエステルフィルムの温度をTg(ガラス転移温度)以下、具体的には150℃以下とすることが好ましい。
偏光板の透明保護膜として使用する場合、偏光子との接着性の観点から、酸処理又はアルカリ処理、すなわちセルロースエステルに対する鹸化処理を実施することが特に好ましい。
表面エネルギーは55mN/m以上であることが好ましく、60mN/m以上75mN/m以下であることが更に好ましい。
【0086】
以下、アルカリ鹸化処理を例に、具体的に説明する。
セルロースエステルフィルムのアルカリ鹸化処理は、フィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。
アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオン濃度は0.1乃至3.0モル/リットルの範囲にあることが好ましく、0.5乃至2.0モル/リットルの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温乃至90℃の範囲にあることが好ましく、40乃至70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0087】
固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、及び吸着法により求めることができる。本発明のセルロースエステルフィルムの場合、接触角法を用いることが好ましい。
具体的には、表面エネルギーが既知である2種の溶液をセルロースエステルフィルムに滴下し、液滴の表面とフィルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフィルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフィルムの表面エネルギーを算出できる。
【0088】
(膜厚)
本発明のセルロースエステルフィルムの膜厚は20μm〜180μmが好ましく、20μm〜100μmがより好ましく、20μm〜80μmがさらに好ましい。膜厚が20μm以上であれば偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール抑制の点で好ましい。また、本発明のセルロースエステルフィルムの膜厚むらは、搬送方向及び幅方向のいずれも0〜2%であることが好ましく、0〜1.5%がさらに好ましく、0〜1%であることが特に好ましい。
【0089】
(フィルムのレターデーション)
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、及び面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx,ny,nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0090】
本発明のセルロースエステルフィルムは偏光板の保護フィルムとして好ましく用いられ、特に、様々な液晶モードに対応した位相差フィルムとしても好ましく用いることができる。本発明の位相差フィルムは本発明のセルロースエステルフィルムを含む。
本発明のセルロースエステルフィルムを位相差フィルムとして用いる場合、590nmで測定したReは30〜200nmのものが好ましく、30〜150nmのものがより好ましく、40〜100nmのものがさらに好ましい。Rthは70〜400nmのものが好ましく、100〜300nmのものがより好ましく、100〜250nmのものがさらに好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルムは下記式1及び式2を満たすことが好ましい。
式1:25nm≦|Re(590)|≦100nm
式2:50nm≦|Rth(590)|≦250nm
(式中、Re(590)及びRth(590)は、それぞれ25℃、60%RHで波長590nmの光で測定した面内レターデーション値及び厚み方向のレターデーション値である。)
下記式1’ 及び式2’を満たすことがより好ましい。
式1’: 40nm≦|Re(590)|≦100 nm
式2’: 100nm≦|Rth(590)|≦250nm
Re(590)及びRth(590)が上記の式1を満たすことで位相差フィルムとしてより好ましく用いることができる。
【0091】
セルロースエステルフィルムのより好ましい光学特性は液晶モードによって異なる。
VAモード用としては590nmで測定したReは30〜200nmのものが好ましく、30〜150nmのものがより好ましく、40〜100nmのものがさらに好ましい。Rthは70〜400nmのものが好ましく、100〜300nmのものがより好ましく、100〜250nmのものがさらに好ましい。
TNモード用としては590nmで測定したReは0〜100nmのものが好ましく、20〜90nmのものがより好ましく、50〜80nmのものがさらに好ましい。Rthは20〜200nmのものが好ましく、30〜150nmのものがより好ましく、40〜120nmのものがさらに好ましい。
TNモード用では前記レターデーション値を有するセルロースエステルフィルム上に光学異方性層を塗布して光学補償フィルムとして使用できる。
【0092】
(フィルムのヘイズ)
本発明のセルロースエステルフィルムのヘイズは、0.01〜2.0%であることが好ましい。より好ましくは0.05〜1.5%であり、0.1〜1.0%であることがさらに好ましい。光学フィルムとしてフィルムの透明性は重要である。ヘイズの測定は、ヘイズメーター“HGM−2DP”{スガ試験機(株)製}を用いJIS K−6714に従って測定することができる。
【0093】
(分光特性、分光透過率)
セルロースエステルフィルムの試料13mm×40mmを、25℃、60%RHで分光光度計“U−3210”{(株)日立製作所}にて、波長300〜450nmにおける透過率を測定することができる。傾斜幅は72%の波長−5%の波長で求めることができる。限界波長は、(傾斜幅/2)+5%の波長で表し、吸収端は、透過率0.4%の波長で表すことができる。これより380nm及び350nmの透過率を評価することができる。
本発明のセルロースエステルフィルムは、偏光板の液晶セルに面した保護フィルムの対向側に用いる場合には、上記方法により測定した波長380nmにおける分光透過率が45%以上95%以下であり、かつ波長350nmにおける分光透過率が10%以下であることが好ましい。
【0094】
(ガラス転移温度)
本発明のセルロースエステルフィルムのガラス転移温度は120℃以上が好ましく、更に140℃以上が好ましい。
ガラス転移温度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定したときにフィルムのガラス転移に由来するベースラインが変化しはじめる温度と再びベースラインに戻る温度との平均値として求めることができる。
また、ガラス転移温度の測定は、以下の動的粘弾性測定装置を用いて求めることもできる。本発明のセルロースエステルフィルム試料(未延伸)5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA−225(アイティー計測制御(株)製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜250℃、周波数1Hzで測定し、縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度(℃)をとった時に、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に見受けられる貯蔵弾性率の急激な減少を固体領域で直線1を引き、ガラス転移領域で直線2を引いたときの直線1と直線2の交点を、昇温時に貯蔵弾性率が急激に減少しフィルムが軟化し始める温度であり、ガラス転移領域に移行し始める温度であるため、ガラス転移温度Tg(動的粘弾性)とする。
【0095】
(フィルムの平衡含水率)
本発明のセルロースエステルフィルムの平衡含水率は、偏光板の保護膜として用いる際、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーとの接着性を損なわないために、膜厚のいかんに関わらず、25℃、80%RHにおける平衡含水率が、0〜4%であることが好ましい。0.1〜3.5%であることがより好ましく、1〜3%であることが特に好ましい。平衡含水率が4%以下であれば、光学補償フィルムの支持体として用いる際に、レターデーションの湿度変化による依存性が大きくなりすぎることがなく好ましい。
含水率の測定法は、本発明のセルロースエステルフィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置“CA−03”及び“VA−05”{共に三菱化学(株)製}にてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0096】
(フィルムの透湿度)
フィルムの透湿度は、JIS Z−0208をもとに、60℃、95%RHの条件において測定することができる。
透湿度は、セルロースエステルフィルムの膜厚が厚ければ小さくなり、膜厚が薄ければ大きくなる。そこで膜厚の異なるサンプルでは、基準を80μmに設け換算する必要がある。膜厚の換算は、下記数式に従って行うことができる。
数式:80μm換算の透湿度=実測の透湿度×実測の膜厚(μm)/80(μm)
【0097】
透湿度の測定法は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4 共立出版)の285頁〜294頁「蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)」に記載の方法を適用することができる。
【0098】
本発明のセルロースエステルフィルムの透湿度は、400〜2000g/m・24hであることが好ましい。400〜1800g/m・24hであることがより好ましく、400〜1600g/m・24hであることが特に好ましい。透湿度が2000g/m・24h以下であれば、フィルムのRe値、Rth値の湿度依存性の絶対値が0.5nm/%RHを超えるなどの不都合が生じることがなく、好ましい。
【0099】
(フィルムの寸度変化)
本発明のセルロースエステルフィルムの寸度安定性は、60℃、90%RHの条件下に24時間静置した場合(高湿)の寸度変化率、及び90℃、5%RHの条件下に24時間静置した場合(高温)の寸度変化率が、いずれも0.5%以下であることが好ましい。
より好ましくは0.3%以下であり、さらに好ましくは0.15%以下である。
【0100】
(フィルムの弾性率)
本発明のセルロースエステルフィルムの弾性率は、200〜500kgf/mmであることが好ましく、より好ましくは240〜470kgf/mmであり、さらに好ましくは270〜440kgf/mmである。具体的な測定方法としては、東洋ボールドウィン(株)製万能引っ張り試験機“STM T50BP”を用い、23℃、70RH%雰囲気中、引張速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
【0101】
(セルロースエステルフィルムの構成)
本発明のセルロースエステルフィルムは単層構造であっても複数層から構成されていても良いが、単層構造であることが好ましい。ここで、「単層構造」のフィルムとは、複数のフィルム材が貼り合わされているものではなく、一枚のセルロースエステルフィルムを意味する。そして、複数のセルロースエステル溶液から、逐次流延方式や共流延方式を用いて一枚のセルロースエステルフィルムを製造する場合も含む。
【0102】
この場合、添加剤の種類や配合量、セルロースエステルの分子量分布やセルロースエステルの種類等を適宜調整することによって厚み方向に分布を有するようなセルロースエステルフィルムを得ることができる。また、それらの一枚のフィルム中に光学異方性部、防眩部、ガスバリア部、耐湿性部などの各種機能性部を有するものも含む。
【0103】
[位相差フィルム]
本発明のセルロースエステルフィルムは、位相差フィルムとして用いることができる。なお、「位相差フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、位相差フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
本発明の透明セルロースエステルフィルムを用いることで、Re値及びRth値を自在に制御した位相差フィルムを容易に作製することができる。
【0104】
本発明の位相差フィルムは本発明のセルロースエステルフィルム上に少なくとも一種の液晶性化合物を含有する光学異方性層を有する。また、本発明のセルロースエステルフィルムを複数枚積層したり、本発明のセルロースエステルフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して位相差フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
【0105】
また、場合により、本発明のセルロースエステルフィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて位相差フィルムとして使用することもできる。本発明の位相差フィルムに適用される光学異方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つセルロースエステルフィルムから形成してもよいし、本発明のセルロースエステルフィルムから形成してもよい。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物又は棒状液晶性化合物が好ましい。
【0106】
(ディスコティック液晶性化合物)
本発明において前記液晶性化合物として使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(例えば、C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang et al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
【0107】
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基の間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0108】
[偏光板]
本発明の偏光板は、偏光子の両側に保護フィルムを有する偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が本発明のセルロースエステルフィルム又は本発明の位相差フィルムである。すなわち、本発明のフィルムは、偏光板用保護フィルムに用いられる。偏光板は前述の如く、偏光子の少なくとも一方の面に保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロ−スエステルフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコ−ル水溶液が好ましく用いられる。
特に本発明のフィルムを用いた偏光板は高温高湿条件下での劣化が少なく、長期間安定した性能を維持することができる。
【0109】
本発明の偏光板は、本発明のフィルムを有することを特徴とする。本発明のフィルムを偏光板用保護フィルムとして用いる場合、偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルム/液晶セル/本発明の偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成、もしくは偏光板用保護フィルム/偏光子/本発明の偏光板用保護フィルム/液晶セル/本発明の偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成で好ましく用いることができる。特に、TN型、VA型、OCB型などの液晶セルに貼り合わせて用いることによって、さらに視野角に優れ、着色が少ない視認性に優れた表示装置を提供することができる。
【0110】
〔液晶表示装置〕
本発明の液晶表示装置は、液晶セル及びその両側に配置された2枚の偏光板を含む液晶表示装置であって、該偏光板のうち少なくとも1枚が本発明の偏光板である。
本発明の液晶表示装置は、液晶セルが、VAモード又はTNモードの液晶セルであることが好ましく、VAモードセルであることが、本発明のフィルムが前記好ましい範囲のRe及びRthを発現する観点から特に好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルム、該フィルムを用いた偏光板は、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Super Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)及びHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。
【0111】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。
VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(シャープ技報第80号11頁)及び(4)SURVAIVALモードの液晶セル(月刊ディスプレイ5月号14頁(1999年))が含まれる。
【0112】
VAモードの液晶表示装置は、液晶セル及びその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。本発明における透過型液晶表示装置の一つの態様では、本発明のフィルムは、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。
【0113】
本発明の透過型液晶表示装置の別の態様では、液晶セルと偏光子との間に配置される偏光板の透明保護フィルムとして、本発明のフィルムからなる光学補償シートが用いられる。一方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)保護フィルムのみに上記の光学補償シートを用いてもよいし、あるいは双方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)二枚の保護フィルムに、上記の光学補償シートを用いてもよい。一方の偏光板のみに上記光学補償シートを使用する場合は、液晶セルのバックライト側偏光板の液晶セル側保護フィルムとして使用するのが特に好ましい。液晶セルへの張り合わせは、本発明のフィルムはVAセル側にすることが好ましい。保護フィルムは通常のセルロースエステルフィルムでも良く、本発明のフィルムより薄いことが好ましい。例えば、40〜80μmが好ましく、市販のKC4UX2M(コニカオプト株式会社製40μm)、KC5UX(コニカオプト株式会社製60μm)、TD80(富士フイルム製80μm)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0114】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0115】
(セルロースアシレートの調製)
表2に記載のアシル基の種類、置換度の異なるセルロースアシレートを調製した。これは、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することでアシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。なお、表中のセルロースアシレートの種類における、置換基B中のBuは、ブチリル基、Prはプロピオニル基を表す。
【0116】
【表2】

【0117】
[セルロースアシレートフィルムの製膜]
以下に示すセルロースアシレートドープを用い、溶液流延法によりフィルムを製膜し、実施例1から33に使用した。
(セルロースアシレートドープA)
セルロースアシレート樹脂:表2に記載の置換基、置換度のもの 100質量部
添加剤A:表1に記載のもの 表3に記載の量(単位:質量部)
化合物A 4質量部
ジクロロメタン 406質量部
メタノール 61質量部
【0118】
【化5】

【0119】
ドープAにはセルロースアシレート100質量部に対して微粒子であるマット剤(AEROSIL R972、日本エアロジル(株)製、2次平均粒子サイズ1.0μm以下)0.13質量部となる様にマット剤分散液を混合、攪拌した。
【0120】
(セルロースアシレートドープB)
【0121】
セルロースアシレートドープAに下記化合物Aを4質量部添加しない他はセルロースアシレートドープAと同様の方法によりセルロースアシレートドープBを作製し、実施例7以降及び比較例で使用した。
【0122】
(溶液流延法)
上記の組成をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解した後、平均孔径34μmのろ紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過し、セルロースアシレートドープを調製した。ドープをバンド流延機にて流延した。残留溶剤量が約30質量%でバンドから剥ぎ取ったフィルムをテンターにより140℃の熱風を当てつつ、幅方向に30%延伸を行った。その後テンター搬送からロール搬送に移行し、さらに120℃から150℃で乾燥し巻き取った。このときのフィルム厚みは表3に示した。
【0123】
(レターデーション値の測定)
作製したセルロースアシレートフィルムを、25℃・60%RHで2時間以上調湿し、複屈折測定装置(KOBRA 21ADH、王子計測器(株)製)を用いて、25℃、相対湿度60%で波長590nmにおけるRe値及びRth値を測定し、表3に示した。
【0124】
(内部ヘイズ)
ヘイズの測定は、本発明のセルロースエステルフィルム試料40mm×80mmを、25℃、60%RHでヘイズメーター“HGM−2DP”{スガ試験機(株)製}を用いJIS K−6714に従って測定し、表3に示した。
【0125】
(耐久性)
得られたセルロースアセテートフィルムをロール状に巻き取り、この元巻きから100mm×100mmのサイズを裁断し、フィルムを60℃・相対湿度90%で500時間経時後の添加剤の析出(ブリードアウト)状況を目視で行い下記の評価基準に従い評価し、表3に示した。
◎:全く変化なく良好
○:100倍の顕微鏡で析出がわずかに見られるが良好
△:100倍の顕微鏡で析出が一部に見られるが実用上問題ない
▲:添加剤の析出が観察され、ヘイズが上昇、コントラストが低下する
×:添加剤の析出が激しく、実用上使用できない
【0126】
【表3】

【0127】
表3より明らかなように本発明にかかる重縮合エステルを用いた場合(実施例1〜33)、経時による耐久性に優れ、かつ、高いRe、Rthを有し位相差フィルムに好適なセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
また、本発明の範囲外の重縮合エステルを用いた場合(比較例1〜5)、Re、Rthは好ましい値に調整可能であるが、経時による添加剤の析出(ブリードアウト)が観察され面状故障及び耐久性の点で不十分であった。
【0128】
実施例34
(共流延フィルム)
実施例7と同様に表4のドープを作製した。図1に示すように、走行する流延バンド85の上に流延ダイ89から下記3種類のドープを共に流延した。ここで、各ドープの流延量を調整することにより内部層を最も厚くし、結果的に延伸後のフィルムの膜厚は内部層が55μm、表面層A及びB層がそれぞれ2.5μmとなるように同時多層流延を行い流延膜70を形成させた。残留溶剤量が約30質量%でバンドから剥ぎ取ったフィルムをテンターにより140℃の熱風を当てつつ幅方向に30%延伸を行った。その後テンター搬送からロール搬送に移行し、さらに120℃から150℃で乾燥し巻き取った。レターデーション値、内部ヘイズ及び耐久性を上記に従い測定し、表4に示した。
【0129】
【表4】

【0130】
表4より明らかなように本発明にかかる重縮合エステルを用いたセルロースアシレートフィルムは内部ヘイズが低く、経時による耐久性に優れ、かつ、高いRe、Rth有し位相差フィルムに好適なセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0131】
実施例35 比較例6〜7
(偏光板の作成)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。
実施例7及び比較例1〜2のフィルムをポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の片側に貼り付けた。なお、ケン化処理は以下のような条件で行った。1.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を調製し、55℃に保温した。0.005mol/Lの希硫酸水溶液を調製し、35℃に保温した。作製したセルロースアシレートフィルムを上記の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した後、水に浸漬し水酸化ナトリウム水溶液を十分に洗い流した。次いで、上記の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
市販のセルローストリアシレートフィルム(フジタックTD80UF、富士フィルム(株)製)にケン化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の反対側に貼り付け、70℃で10分以上乾燥した。偏光子の透過軸とセルロースアシレートフィルムの遅相軸とは平行になるように配置した。偏光子の透過軸と市販のセルローストリアシレートフィルムの遅相軸とは直交するように配置した。
実施例35の偏光板について60℃・相対湿度90%で500時間経時後の添加剤の析出(ブリードアウト)状況を目視で行い、耐久性に優れることが確認できた。比較例6〜7の偏光板では添加剤の析出(ブリードアウト)が観察され実用上使用できない範囲であり、耐久性は不十分であった。
【0132】
実施例36
(VAパネルへの実装)
上記の垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置の上側偏光板と、下側偏光板(バックライト側)に上記実施例35のセルロースアセテートフィルムを備えた偏光板を、セルロースアセテートフィルムが液晶セル側となるように設置した。上側偏光板及び下側偏光板は粘着剤を介して液晶セルに貼りつけた。上側偏光板の透過軸が上下方向に、そして下側偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。
液晶セルに55Hzの矩形波電圧を印加した。白表示5V、黒表示0Vのノーマリーブラックモードとした。黒表示の方位角45度、極角60度方向視野角における黒表示透過率(%)及び、方位角45度極角60度と方位角180度極角60度との色ずれを求めた。
また、透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比として、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない極角範囲)を測定した。
作製した液晶表示装置を観察した結果、本発明のフィルムを用いた液晶パネルは正面方向及び視野角方向のいずれにおいても、ニュートラルな黒表示が実現できていた。
また、視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない極角範囲)は上下左右で極角80°以上であり、黒表示時の色ずれも0.02未満であり良好な結果を得た。
【符号の説明】
【0133】
70 流延膜
85 流延バンド
86a 回転ローラ
89 流延ダイ
120 内部層用ドープ
121 表面A層用ドープ
122 表面B層用ドープ
120a 内部層
121a 表面A層
122a 表面B層
t1 内部層膜厚
t2 表面A層膜厚
t3 表面B層膜厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸残基と少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸残基とを含む平均炭素数が5.5以上10.0以下のジカルボン酸残基と、少なくとも一種の平均炭素数が2.5以上7.0以下の脂肪族ジオール残基とを含む重縮合エステルを少なくとも一種含有するセルロースエステルフィルム。
【請求項2】
前記ジカルボン酸残基中の芳香族ジカルボン酸残基が40mol%以上である請求項1に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項3】
前記重縮合エステルの数平均分子量が500以上2000以下である請求項1又は2に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項4】
前記重縮合エステルがポリエステルポリオールである請求項1〜3のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項5】
前記重縮合エステルの末端が脂肪族モノカルボン酸残基である請求項1〜3のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項6】
前記脂肪族モノカルボン酸残基が炭素数3以下の脂肪族モノカルボン酸のエステル形成誘導体である請求項5に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項7】
前記セルロースエステルフィルムがセルロースアシレートを含み、該セルロースアシレートのアシル置換度が2.00〜2.95である請求項1〜6のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項8】
前記セルロースアシレート100質量部に対し、前記重縮合エステルの含有量が5〜40質量部である請求項7に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項9】
前記セルロースエステルフィルムが幅方向に延伸されて得られたものであり、該延伸倍率が、搬送方向に対して垂直な方向に5%以上100%以下である請求項1〜8のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項10】
前記セルロースエステルフィルムは溶液流延製膜方法により製膜した後、延伸することにより製造したものである請求項1〜9のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項11】
前記溶液流延製膜が共流延により、同時又は逐次で多層流延製膜である請求項10に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項12】
下記式1及び2を満たすことを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
式1:25nm≦|Re(590)|≦100nm
式2:50nm≦|Rth(590)|≦250nm
(上記式中、Re(590)及びRth(590)は、それぞれ25℃、60%RHで波長590nmの光で測定した面内レターデーション値及び厚み方向のレターデーション値である。)
【請求項13】
膜厚が30〜100μmである、請求項1〜12のいずれかに記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項14】
偏光子の両側に保護フィルムを有する偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が請求項1〜13のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムである偏光板。
【請求項15】
液晶セル及びその両側に配置された2枚の偏光板を含む液晶表示装置であって、該偏光板のうち少なくとも1枚が請求項14に記載の偏光板である液晶表示装置。
【請求項16】
前記液晶セルが、VAモードの液晶セルである請求項15に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−12186(P2011−12186A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158264(P2009−158264)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】