説明

セルローストリアセテートの溶解方法及び装置

【課題】 溶解槽を耐圧容器とすることなく、溶解槽を大気圧に保ち、セルローストリアセテートを溶剤中に均一に溶解することが可能となる。本発明により得られるセルローストリアセテート溶液は、未溶解物の少ないアセテート繊維の紡糸原液として適したものである。
【解決手段】 セルローストリアセテートを溶剤に溶解する際に、溶解槽内の気相部を溶剤の沸点以下に保ち、気化した溶剤を溶解槽へ戻しながら溶解を行うセルローストリアセテートの溶解方法及び、溶解槽内の気相部を溶剤の沸点以下に保つ装置と、溶解槽から気化した溶剤を溶解槽へ戻す冷却装置を備えたセルローストリアセテートの溶解装置にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアセテートの溶解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースアセテートを溶剤に溶解する方法として、特許文献1に記載されているように、高温加圧溶解法が一般的であった。
【特許文献1】特開2002−3643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この方法では溶解槽として耐圧容器が必要となるが、耐圧容器は設置費用が大きく、かつ運転操作が煩雑になることが問題であった。
【0004】
本発明は、溶解槽を耐圧容器とすることなく、十分な溶解性を備えた溶解方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の要旨は、セルローストリアセテートを溶剤に溶解する際に、溶解槽内の気相部を溶剤の沸点以下に保ち、気化した溶剤を溶解槽へ戻しながら溶解を行うセルローストリアセテートの溶解方法にある。
【0006】
本発明の第2の要旨は、溶解槽内の気相部を溶剤の沸点以下に保つ装置と、溶解槽から気化した溶剤を溶解槽へ戻す冷却装置を備えたセルローストリアセテートの溶解装置にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、溶解槽を耐圧容器とすることなく、溶解槽を大気圧に保ち、セルローストリアセテートを溶剤中に均一に溶解することが可能となる。本発明により得られるセルローストリアセテート溶液は、未溶解物の少ないアセテート繊維の紡糸原液として適したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明では、セルローストリアセテートを溶剤に溶解する際に、溶解槽内の気相部を溶剤の沸点以下に保つことが必要である。該気相部を溶剤の沸点以下に保つことで、溶解中の溶解槽内の圧力上昇を防ぎ、大気圧での溶解が可能となり、溶解槽を耐圧容器とする必要がなくなる。
【0009】
さらに本発明では、溶解中に気化した溶剤を溶解槽へ戻しながら溶解を行う
ことが必要である。セルローストリアセテートを溶解する過程で溶剤が気化すると、溶解槽内のセルロースアセテート溶液の濃度が所定の値より大きくなり、溶解性も低下してくる。このため本発明では、気化した溶剤を溶解槽へ戻すことにより、溶解槽内のセルロースアセテート溶液の濃度上昇、溶解性の低下を防ぐことが可能となる。
【0010】
なお、本発明におけるセルローストリアセテートとは平均酢化度が56.2%以上62.5%未満のものをいう。
【0011】
また、セルローストリアセテートの溶剤としては塩化メチレンとメタノールの混合液、塩化メチレンとエタノールの混合液、二塩化エチレンとエタノールの混合液、酢酸メチルなどが挙げられ溶解性、経済的な理由等から塩化メチレンとメタノールの混合液(混合比 91/9)が好ましい。
【0012】
なお、セルローストリアセテートを塩化メチレンとメタノールの混合液(混合比 91/9)に溶解する際、溶解槽内の気相部の温度は30〜39℃が好ましく、セルローストリアセテートの溶解性の面からは高い方がより好ましい。
【0013】
次に本発明のセルローストリアセテートの溶解装置について説明する。
【0014】
図1は、本発明のセルローストリアセテートの溶解装置の一例図である。本発明の溶解装置は、溶解槽内の気相部を溶剤の沸点以下に保つ装置と、溶解槽から気化した溶剤を溶解槽へ戻す冷却装置からなる。
【0015】
溶解槽内の気相部の溶剤を沸点以下に保つ装置とは、溶解槽1に設置された溶解槽内の温度を制御する装置であり、例えば流量を制御した水、温水等を流すことで温度調整可能なジャケット部分2が挙げられる。該気相部の温度は、例えば溶解槽1のベント接合部に設けた測温抵抗体5で測定し、ジャケット部分2に水、温水等を流すことで調整を行う。
【0016】
また、溶解槽から気化した溶剤を溶解槽へ戻す冷却装置とは溶解槽1のベントに接続した気化した溶剤を凝縮させる熱交換器3と、該熱交換器から溶解槽へ凝縮した溶剤を戻すラインからなる。
【0017】
該熱交換器から溶解槽へ溶剤を戻す際には、直接溶解槽へ戻しても良いが、
熱交換器と溶解槽の間に、貯液漕4を設けて凝縮した溶剤の温度を下げた後に、溶解槽へ戻すことが好ましい。
【0018】
なお、熱交換器3、貯液漕4などにはベントを接続して系内を大気圧に保つことが必要である。
【0019】
以下、実施例をあげて本発明をより具体的に説明する。また、評価方法は以下の方法で行った。各評価結果は表1に示した。
【0020】
(ケーキ濾過評価)セルローストリアセテート溶液をタンクに仕込み、濾材として粗布2枚(堀江繊維株式会社:粗布No.1125)を取り付けたフィルタープレス(濾過面積0.15m)に圧送して濾過を行い、所定時間までのフィルタープレス出側からの累積流量を計測した。尚、濾過時は室温を33±2℃に調温して評価を実施した。
【0021】
(溶液中の未溶解分評価)ケーキ濾過評価にてフィルタープレス出側から得られた濾過済み溶液に、混合比91/9の塩化メチレン/メタノールの混合溶剤を添加してセルローストリアセテートの濃度を1.4重量%に希釈し評価サンプルを得た。サンプル10cc当たりの未溶解粒子個数を液中微粒子計数器(リオン株式会社:型式KL−11)にて測定して溶液中の未溶解分を評価した。
【実施例1】
【0022】
セルローストリアセテート(ダイセル化学工業:平均酢化度61.3%、平均重合度300)(19.7重量%)、混合比91/9の塩化メチレン/メタノールの混合溶剤(79.55重量%)、濾過助剤(Weyerhaeuser社:M919)(0.75重量%)を攪拌機の付いた500Lの溶解槽に仕込み、溶解槽のジャケットに温水を通して溶解槽内の気相部を塩化メチレン/メタノール混合溶剤の沸点39.2℃未満である39℃に保ちセルローストリアセテートの溶解を行った。その間、溶解開始3時間までは蒸発した溶剤は溶解槽のベントラインに設けた熱交換器で凝縮させて溶解槽に戻した。その後は蒸発した溶剤は溶解槽へ戻さずに回収して、セルローストリアセテートの濃度が21.95重量%になるまで蒸発を継続させた。
【0023】
得られたセルローストリアセテート紡糸原液を用いてケーキ濾過評価と原液中の未溶解分評価を実施した。評価結果を表1、表2に示す。
【0024】
(比較例1)
実施例1と同様の仕込みを行った溶解槽を0.18MPaの加圧条件の下、攪拌を行い、溶解槽のジャケットに温水を通して溶解槽内の気相部を65℃に5時間保ちセルローストリアセテートの溶解を行った。その後、温度、圧力を保ったままセルローストリアセテートの濃度が21.95重量%になるまで溶剤を蒸発させ、溶解槽のベントラインの後に設けた熱交換器で余分な溶剤を凝縮させて回収した。得られたセルローストリアセテート紡糸原液を実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1、表2に示す。
【0025】
(比較例2)
溶解開始から3時間の間、蒸発した溶剤をベントラインに設けた熱交換器で凝縮させて溶解槽に戻すことを行わない以外は実施例1と同様にしてセルローストリアセテート紡糸原液を得た。得られたセルローストリアセテート紡糸原液を実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1、表2に示す。
【0026】
評価結果より実施例1による本発明では、比較例1による溶解槽を加圧し溶解槽内の気相部を溶剤の沸点以上として溶解を行う方法と比べて溶解性に遜色なく、本発明により溶解槽を耐圧容器とする必要がない利点がある。また比較例2に示すように溶解槽内の気相部を溶剤の沸点以下で溶解を行いながら気化した溶剤を戻さずに蒸発を継続する場合は多くの未溶解粒子が残存し、原液濾過負担が大きくなるため実用的ではない。
【表1】

【表2】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の溶解装置を示す一例図である。
【符号の説明】
【0028】
1 溶解槽
2 ジャケット
3 熱交換器
4 貯液槽
5 測温抵抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルローストリアセテートを溶剤に溶解する際に、溶解槽内の気相部を溶剤の沸点以下に保ち、気化した溶剤を溶解槽へ戻しながら溶解を行うセルローストリアセテートの溶解方法。
【請求項2】
溶解槽内の気相部を溶剤の沸点以下に保つ装置と、溶解槽から気化した溶剤を溶解槽へ戻す冷却装置を備えたセルローストリアセテートの溶解装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−63341(P2007−63341A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248599(P2005−248599)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】