説明

セルロース系不織布及びその製造方法

【課題】 皮膚に当接して使用したとき、皮膚への摩擦抵抗が少なく、表面のざらつきも少なく、滑るような感じで拭き取れ、かつ毛羽立ちの少ないセルロース系不織布及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 セルロース系繊維を含む繊維ウェブに水流交絡処理を施して水流交絡不織布を作製し、前記不織布の水分率を3〜40質量%にして、前記不織布の少なくとも片面に平滑加工を施すことにより、不織布表面に繊維の長さ方向において少なくとも一部分に湾曲部を有するセルロース系繊維を含むセルロース系不織布を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に当接して使用するのに好適であり、ドライ状またはウエット状で用いることができるセルロース系不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、口紅やファンデーション,アイシャドウなどのクレンジング用不織布としては、コットンを使用した水流交絡不織布が用いられている。或いは、特開平10−237750号公報(特許文献1)では、親水性繊維,ポリエステル繊維,及び熱接着性繊維を混綿した対人向けワイパー用不織布が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−237750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの不織布には、以下の問題がある。例えば、コットン繊維を使用した水流交絡不織布は、吸水性は十分ありボリュームもあるものの、皮膚に当接するように使用した時の皮膚への摩擦抵抗が大きく、また不織布表面にざらつきがあるため、使用した時チクチク感があり、皮膚への負担が大きい。また、繊維同士が水流交絡しているだけであり、従って皮膚を擦ったときに不織布表面に毛羽立ちが生じ易い。また、特許文献1では、上記不織布に比べて摩擦抵抗の少ないレーヨン繊維,ポリエステル繊維に、熱接着性複合繊維を混綿しているので、使用した時の摩擦抵抗が低減され、皮膚への負担は改善されている。また、熱接着性繊維を使用しているので、表面の毛羽立ちも改善されている。しかしながらその反面、熱接着性繊維を使用しているために、不織布の風合は硬くなる傾向にあり、熱接着温度によっては表面もざらつく傾向にあるので、結果的には使用時の摩擦抵抗が大きくなり、拭いた時皮膚への負担が大きくなってしまうことがあった。
【0005】
従って、使用時、皮膚への摩擦抵抗が少なく、表面のざらつきも少なく、滑るような感じで拭き取れ、かつ毛羽立ちの少ない不織布が未だ得られていないのが実情である。本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、表面のざらつきが少なく、毛羽立ちの少ないセルロース系不織布及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のセルロース系不織布は、セルロース系繊維を含む水流交絡不織布であって、前記不織布の表面には繊維の長さ方向において少なくとも一部分に湾曲部を有するセルロース系繊維を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明のウエット状セルロース系不織布は、前記セルロース系不織布に、湿潤剤を不織布質量に対し100質量%以上含浸されてなることを特徴とする。
【0008】
本発明のセルロース系不織布の製造方法は、セルロース系繊維を含む繊維ウェブに水流交絡処理を施して水流交絡不織布を作製し、
前記不織布の水分率を3〜40質量%にして、前記不織布の少なくとも片面に平滑加工を施すことを特徴とする。
【0009】
本発明のウエット状セルロース系不織布の製造方法は、セルロース系繊維を含む繊維ウェブに水流交絡処理を施して、水流交絡不織布を作製し、
前記不織布の水分率を、セルロース系繊維の公定水分率以上、40質量%以下にして、平滑加工を施した後、前記不織布に湿潤剤を100質量%以上含浸して不織布の厚みを膨張させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセルロース系不織布は、セルロース系繊維を含んでいるので、水流交絡で良く交絡し、柔らかく、また、不織布の表面には、繊維の長さ方向において少なくとも一部分に湾曲部を有するセルロース系繊維を含むので、不織布表面が平滑でざらつきが少なく、かつ毛羽立ちが少ない。
【0011】
本発明のウエット状セルロース系不織布は、前記セルロース系不織布に、湿潤剤を不織布質量に対し100質量%以上含浸させることにより、平滑化によって硬くなった風合いが平滑性を保持しつつ柔軟になり、所望の湿潤剤を対象面に付与することができる。
【0012】
本発明のセルロース系不織布は、皮膚に当接して使用する対人用セルロース系不織布として用いることができる。
【0013】
本発明のセルロース系不織布は、水流交絡不織布の水分率を3〜40質量%にして平滑加工することにより、容易に得ることができる。このような不織布は、ドライ状及び/又はウエット状のいずれの用途にも使用することができる。
【0014】
本発明のウエット状セルロース系不織布は、水流交絡不織布の水分率をセルロース系繊維の公定水分率以上、40質量%以下にして平滑加工を施した後、前記不織布に湿潤剤を含浸することにより、過剰に平滑化して風合いが硬くなった不織布であっても不織布の厚みを膨張させて平滑性を保持したまま風合いを柔軟に回復させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のセルロース系不織布は、セルロース系繊維を含む繊維ウェブに水流交絡した不織布であって、前記不織布の表面には繊維の長さ方向において少なくとも一部分に湾曲部を有するセルロース系繊維を含んだ構造である。このような構造をとることにより、平滑でざらつきが少なく、かつ毛羽立ちが少ない不織布が得られる。
【0016】
本発明で言う「湾曲部」とは、繊維の長さ方向にヘアピン形状やU字形状などのカーブした湾曲状の部分を有するものであり、このカーブを描いている繊維のカーブの開始点2箇所から接線を引き、それら2本の接線の交点の角度をαとした時に、その角度αが120度以下のものを湾曲部とする。このような形状は、セルロース系繊維が自然に捲縮している形状、及び再生繊維のように機械的に捲縮を与えた形状とは異なるものであり、いずれの場合も、通常は繊維ウェブを作製する工程で捲縮が伸ばされてしまい、得られた不織布の状態では、セルロース系繊維の長さ方向はほぼ直線状の形状となり、本発明でいう「湾曲部」は存在しない。
【0017】
前記湾曲部は、次のようにして確認することができる。不織布表面を倍率300倍に拡大した走査型電子顕微鏡写真(以下「電顕写真」という)において、縦300μm、横400μmの範囲内にセルロース系繊維の長さ方向に、ヘアピン形状やU字形状等を有する部分が少なくとも一部分存在しているとよい。湾曲部の個数は、少なくとも1個あることが好ましい。より好ましい湾曲部の個数は、ドライ状のセルロース系不織布として使用する場合、1〜6個であり、ウェット状セルロース系不織布として使用する場合、1〜15個である。なお、不織布表面は、電顕写真の中で繊維形状が認められる範囲をいう。
【0018】
前記セルロース系繊維は、コットン,麻等の天然繊維、ビスコースレーヨン,キュプラ,及び溶剤紡糸セルロースなどの再生繊維、アセテート等の半合成繊維のうち、少なくとも1種類から選択して選ばれる。好ましくは、ビスコースレーヨンや溶剤紡糸セルロースなどの再生繊維であり、最も好ましいのは溶剤紡糸セルロース繊維である。溶剤紡糸セルロース繊維としては、例えば、商品名「テンセル」(品番HS−260,テンセル社製)、商品名「リヨセル」(レンチング社製)などが挙げられる。溶剤紡糸セルロース繊維は、繊維の摩擦抵抗が少なく、また繊維断面が円形であるので、更にその効果が大きく、ドライ及びウエット時の肌への摩擦抵抗が少ないので好ましい。
【0019】
前記セルロース系繊維の繊維長は、特に限定されず繊維ウェブの製法により適宜設定される。また、前記セルロース系繊維の繊度については、0.5〜3.5dtexであることが好ましい。0.5dtexより細いと繊維ウェブの製造工程性が悪くなり、3.5dtexより太いと不織布表面のざらつきが大きくなるからである。
【0020】
前記セルロース系繊維の含有量は、50質量%以上が望ましい。50質量%未満であるとセルロース系繊維の量が少なくなるため、繊維の交絡が不十分となり、また、不織布表面の湾曲部も少なくなり、表面平滑性が悪くなるからである。
【0021】
前記水流交絡不織布は、前記セルロース系繊維以外に、例えば合成繊維が含まれていても良い。合成繊維はボリュームを与えたり、毛羽立ちを抑制したり、或いは、風合を調整するのに都合良く用いられる。単一繊維としては、ポリエステル系,ポリオレフィン系,ポリアミド系,アクリル系などがあるが、いずれであっても良い。例えば目付が低く薄い場合には、ポリエチレンテレフタレートなどの単一繊維を適度に混綿してやれば良い。
【0022】
複合合成繊維については、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン,ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート/エチレン−プロピレン共重合体,ポリプロピレン/ポリエチレン,ポリプロピレン/エチレン−プロピレン共重合体からなる芯鞘型複合繊維,偏芯芯鞘型複合繊維,ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン,ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート/エチレン−プロピレン共重合体,ポリプロピレン/ポリエチレン,ポリプロピレン/エチレン−プロピレン共重合体,ポリエチレンテレフタレート/ナイロンからなる分割型複合繊維などが用いられるがいずれであっても良い。例えば、毛羽立ちを抑制したい場合には、風合いが損なわれない程度に熱接着性繊維を適度に混綿してやれば良い
【0023】
前記合成繊維の繊度及び繊維長については、風合い,毛羽立ち,不織布表面平滑性等の条件を満足する範囲内であれば、特に限定されるものではない。
【0024】
前記セルロース系繊維をシート状に形成する手段は、特に限定されず、例えばパラレルウェブ,クロスウェブ,セミランダムウェブ,ランダムウェブのいずれかであっても良いし、エアレイドウェブであっても良い。また、2種類以上併用したものであっても良い。
【0025】
前記不織布の密度は、ドライ状で使用する場合、2.94cN/cm2荷重時の厚みにおいて、0.09〜0.3g/cm3であることが望ましい。より好ましい範囲は、0.09〜0.25g/cm3の範囲であり、最も好ましい範囲は、0.1〜0.2g/cm3である。0.09g/cm3未満であると不織布表面が十分に平滑にはならず、ざらつく場合があり、0.3g/cm3よりも大きいと、不織布表面は平滑であるが風合いが硬くなる傾向にある。一方、ウエット状で使用する場合は、後述する方法によれば、平滑で風合いが硬くても平滑性を保持しつつ柔軟にすることができるので、0.3〜0.8g/cm3であっても皮膚に当接して使用する対人用不織布として用いることができる。
【0026】
前記不織布の剛軟度は、ドライ状で使用する場合、不織布の機台流れ方向(MD方向)で15〜70gの範囲であることが好ましい。より好ましい範囲は、15〜50gの範囲であり、最も好ましい範囲は、15〜40gである。15g未満であると不織布の表面がざらつく傾向にあり、70gよりも大きいと風合いが硬くなる傾向にある。
【0027】
前記セルロース系不織布には、湿潤剤を不織布質量に対し100質量%以上含浸させてウエット状セルロース系不織布とすることができる。好ましい湿潤剤の含有率の範囲は、150質量%以上で、上限については、用途により適宜決定すればよい。例えばウエットワイパーのような場合は、不織布質量に対し、150〜400質量%の湿潤剤を含浸させればよいし、フェイスマスクのような場合は、700〜2000質量%の湿潤剤を含浸してやればよい。
【0028】
前記湿潤剤としては、例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの湿潤成分、アルコール成分、抗菌剤,防かび剤など薬剤成分、保湿成分,クレンジング成分,制汗成分,香り成分,美白成分,血行促進成分,紫外線防止成分,痩身成分等の化粧料を含浸することができる。
【0029】
次に、本発明のセルロース系不織布の製造方法について説明する。本発明のセルロース系不織布は、セルロース系繊維を含む繊維ウェブに水流交絡処理を施して、水流交絡不織布を作製し、前記不織布の水分率を3〜40質量%にして、前記不織布の少なくとも片面に平滑加工を施すことにより得ることができる。本発明のセルロース系不織布を得るためには、水分率の調整が重要であり、上記範囲内で平滑加工することにより、ドライ状及び/又はウエット状で様々な用途に使用することができる。本発明のセルロース系不織布は所定の水分率を含んだ状態で平滑加工したときに、何らかの作用が生じて長さ方向に湾曲部が形成される。湾曲部は、水分率が大きくなればなるほど、及び平滑加工条件が強くなればなるほど増加する傾向にある。
【0030】
前記水流交絡処理における処理条件は、不織布の目付や毛羽立ちの状態などに応じて適宜設定すればよい。例えば、目付が40〜80g/m2の場合、孔径0.05〜0.3mmのオリフィスが0.5〜1.5mmの間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa〜8MPaの範囲で水流を繊維ウェブの表裏側からそれぞれ1〜4回噴射すると良い。
【0031】
水流交絡処理の後、一旦完全に乾燥させてもよく、乾燥条件の調整、絞りロール、吸引等で後述する水分率に調整してもよい。また、セルロース系繊維以外に熱接着性繊維が含まれている場合は、乾燥のみを行っても良いし、熱接着処理を同時に行っても良い。例えば、熱接着繊維として複合繊維を用いる場合は、熱接着処理は、低融点成分の融点以上,高融点成分の融点以下の範囲で行うと良い。
【0032】
平滑加工前の水流交絡不織布の水分率は、3〜40質量%に調整される。例えば、本発明のセルロース系不織布をドライ状で使用する場合は、3質量%以上、セルロース系繊維の公定水分率未満であることが好ましい。より好ましくは、3〜9質量%である。上記範囲の水分率で平滑加工することにより、不織布の表面にざらつきがなく、毛羽立ちが少なくなり、例えば皮膚に当接して使用する対人用不織布として用いることができる。上述した水分率の範囲であれば、ウエット状であっても当然使用することができる。
【0033】
一方、本発明のセルロース系不織布は、ドライ状では硬くてもウエット状であれば使用できる場合がある。ウエット状で使用する場合、不織布の水分率は、公定水分率以上、40質量%以下であってもよい。好ましい水分率の範囲は、公定水分率以上25質量%以下である。水分率が、40質量%より多いと不織布の乾燥が不十分となり厚みは薄くなるが平滑性が不十分な恐れがあるからである。なお、水分率は、JIS−L−1096の6.9に準じて測定することができる。公定水分率は、JIS−L−1096に記載されている値が用いられる。
【0034】
前記水分率の調整は、セルロース系繊維の公定水分率に満たない範囲の場合、例えば温調室にて不織布の水分調整を行い、平滑加工を行うと良い。一方、セルロース系繊維の公定水分率より多い水分を含ませる場合は、例えば平滑加工機の直前に加湿器或いは噴霧器を設置して水分調整を行うと良い。
【0035】
平滑加工は、例えば所定間隔を存して対峙させた一対のロールの対向面間に連続的に供給し、この一対のフラットロールによって加工されることをいう。一対のロールは、メタルロール/メタルロール,メタルロール/コットンロール,メタルロール/ペーパーロールなどいずれであっても良く、これらのロールに限定されるものではない。また、メタルロールの加熱温度は、平滑加工を行う不織布に含まれる水分の量により決定される。即ち、水分がセルロース系繊維の公定水分率に満たない場合は、メタルロールに温度をかけないか、或いは例えば100℃以下の低温で加工することで、適度な厚みと表面平滑性のある不織布に加工できる。セルロース系繊維の公定水分率より多い場合は、メタルロールの加熱温度を上げて実施すれば、ざらつきのない表面平滑性の有する不織布が得られる。また、平滑加工は前記のように線でプレスを行うものが通常よく用いられるが、面プレスで行っても良く、特にこの方法に限定されるものではない。
【0036】
前記平滑加工は、生産性を考慮すると、フラットロール加工であり、その線圧が100〜700N/cmであることが好ましい。より好ましい範囲は、100〜600N/cmであり、最も好ましい範囲は100〜500N/cmである。線圧が100N/cm未満であると、不織布表面がざらつき毛羽立つ傾向にあり、700N/cmより大きいと、不織布表面は平滑であるが、薄くて風合いは少し硬くなる傾向になるからである。
【0037】
平滑加工における不織布との接触温度が、10〜120℃であることが望ましい。より好ましい範囲は、40〜120℃であり、最も好ましい範囲は70〜110℃である。10℃未満であると、不織布表面のざらつきが残る傾向にあり、120℃を越えると、不織布表面が硬くなる傾向にある。
【0038】
平滑加工前の不織布の厚み(T0)に対する平滑加工後の不織布の厚み(T)の厚み変化率(T/T0)は、2.94cN/cm2荷重時の厚みにおいて40〜80%であることが好ましい。この範囲で加工された不織布は、ウエット状及びドライ状のどちらでも使用することができる。厚み変化率が40%未満であると、不織布表面は平滑であるが、薄くて風合いは少し硬くなる傾向にあり、80%以上であると、平滑化が不十分で表面がざらつき、毛羽立ちもする傾向にある。
【0039】
本発明のウエット状セルロース系不織布は、セルロース系繊維を含む繊維ウェブに水流交絡処理を施して、水流交絡不織布を作製し、前記不織布の水分率を、セルロース系繊維の公定水分率以上、40質量%以下にして、平滑加工を実施し、前記不織布に湿潤剤を100質量%以上含浸させることでも得ることができる。上述したように、平滑加工して平滑化はされるが風合いが硬くなってドライ状対人用不織布として使用するのが難しい場合であっても、湿潤剤を含浸させることにより、不織布の厚みを膨張されて柔軟性が回復し、ウエット状対人用不織布として用いることができる。特に上記水分率に調整することにより、セルロース系繊維の湾曲部が増加して平滑化が進み、不織布表面にざらつきがなく、毛羽立ちの少ない不織布が得られる。より好ましい水分率の範囲は、セルロース系繊維の公定水分率以上、25質量%以下である。
【0040】
上記水分率で平滑加工した不織布の密度は、2.94cN/cm2荷重時の厚みにおいて、0.25〜0.8g/cm3であることが好ましい。この範囲にある不織布は、ドライ状で使用する場合は、風合いは硬いが平滑性が非常に優れており、ウエット状にした際に、平滑性は保持されて、風合いは柔軟性が回復する。
【0041】
本発明のウエット状セルロース系不織布において、平滑加工後の厚み(T)に対する湿潤剤を不織布質量に対して200質量%含浸した後の不織布の厚み(TW)の厚み膨張率(TW/T)は、2.94cN/cm2荷重時の厚みにおいて500%以下であることが好ましい。500%を超えると、風合いの柔軟性が回復しないことがある。下限は特に限定されないが、平滑性をより要求される用途であれば、200%以上であることが好ましい。
【実施例】
【0042】
次に実施例により、本発明を更に詳しく説明する。尚、実施例における評価方法は、以下の方法に従って評価した。
【0043】
(厚み)
厚み測定器(商品名:THICKNESS GAUGE モデルCR−60A 株式会社大栄科学精機製作所製)を用い、試料1cm2あたり2.94cNの荷重を加えた状態で測定した。
【0044】
(水分率)
JIS−L−1096の6.9に準じ次の式によって水分率(質量%)を求めた。
水分率(質量%)={(乾燥前の質量−絶乾質量)/ 絶乾質量} ×100
【0045】
(剛軟度)
ハンドルオメーター(型式HOM−200 株式会社大栄科学精機製作所製)を用いて測定した。より具体的には、20×20cmの試験片のMD方向を幅20mmのスリット上にスリットと直角になるようにセットし、試験片から6.7cm(試験幅の1/3)の位置をペネトレーターのブレードを8mm下降させ、この時の抵抗値を剛軟度としてN=3の平均値で評価した。
【0046】
(表面平滑性)
MD方向210mm,CD方向210mmに切断した不織布を準備し、モニター5名で手の甲を拭いた時の表面平滑性の官能評価を4段階で実施した。
4:ざらつきが全くない
3:少しざらつくが気にならない
2:ざらつきが少し気になる
1:ざらついている
【0047】
(拭き心地性評価)
MD方向100mm,CD方向150mmに切断した不織布に、不織布重量に対し水分を200%含浸させたものを用意し、モニター5名で顔を拭いた時の拭き心地を4段階で実施した。
4:表面がすべすべしており、軽く拭けて拭き心地も非常に良い
3:すべすべ感はやや落ちるが、軽く拭けて拭き心地も非常に良い
2:少しざらつき感があるが、軽く拭けて拭き心地はまずまずである
1:少しざらつき感があり、拭き心地があまり良くない
【0048】
(実施例1)繊度1.7dtex、繊維長38mmの溶剤紡糸セルロース繊維(テンセル社製、商品名テンセル、品番HS−260)を90質量%、繊度2.2dtex、繊維長51mmのポリプロピレン/ポリエチレン分割繊維(大和紡績(株)製)を10%とを混綿し、パラレルカード機を用いて目付が60g/m2のカードウェブを作製した。次いでこのカードウェブを縦糸の繊径0.132mm、横糸の繊径0.132mm、メッシュ数が90メッシュの平織り構造の支持体に載置し、孔径0.12mm,のオリフィスが0.6mm間隔で設けられているノズルから水圧2.0MPa,4.0MPaの高圧水流をそれぞれ1回噴射した後、反転させ、4.0MPaの高圧水流を1回噴射して水流交絡処理を行った。そして140℃で乾燥処理を行った。次いで温調室にて水分調整を行い、水分率が5.0質量%の水流交絡不織布を得た。前記水分を含んだ不織布を表面温度が90℃,線圧400N/cmのスチール/コットンのフラット熱ロール加工機を用いて、平滑加工を施し、本発明のセルロース系不織布を得た。得られたセルロース系不織布の表面を倍率300倍に拡大して電顕写真で確認したところ、縦300μm、横400μmの範囲内に湾曲部が2個であった。
【0049】
(実施例2)実施例1と同様の方法で、カードウェブを作製し、水分率が9.0質量%であること以外は、実施例1と同様の方法で水分を含んだ不織布を得た。前記不織布を表面温度が90℃,線圧200N/cmのスチール/コットンのフラット熱ロール加工機を用いて、平滑加工を施し、本発明のセルロース系不織布を得た。図1に、得られたセルロース系不織布表面の電顕写真を示す(300倍)。写真中のヘアピン形状或いはU字形状に湾曲した白字で囲んだ部分が湾曲部である。縦300μm、横400μmの範囲内に120度以下の湾曲部は4個あった。
【0050】
(実施例3)実施例1と同様の方法で、カードウェブを作製し、水分率を18質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で水分を含んだ不織布を得た。前記不織布を表面温度が110℃,線圧400N/cmのスチール/コットンのフラット熱ロール加工機を用いて、平滑加工を施し、本発明のセルロース系不織布を得た。図2に、得られたセルロース系不織布表面の電顕写真を示す(300倍)。写真中のヘアピン形状或いはU字形状に湾曲した白字で囲んだ部分が湾曲部である。縦300μm、横400μmの範囲内に120度以下の湾曲部は11個あった。
【0051】
上記実施例1〜3で作製された不織布の性能を表1に示す。
【0052】
(比較例1)実施例1と同様の方法で、カードウェブを作製し、水分率が1.5質量%であること以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。前記不織布を表面温度が90℃,線圧 600N/cmのスチール/コットンのフラット熱ロール加工機を用いて、平滑加工を施し不織布を得た。得られた不織布表面を倍率300倍に拡大した時、所定の範囲内での湾曲部は存在しなかった。
【0053】
(比較例2)市販のコットンスパンレース(ユニチカ(株)製、商品名「コットエース」)を用意した。
【0054】
上記比較例1,2で作製された不織布の性能を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例1〜3で得られたセルロース系不織布は、風合いが柔らかく、不織布表面に湾曲部を有しているので、表面が平滑で拭き心地も非常に良いものであった。比較例1においては、不織布表面に湾曲部を有していなかったので、表面にややざらつきがあり、拭き心地がやや劣っていた。比較例2においては、不織布表面がざらついており、拭き心地はあまり良くなかった。
【0057】
(実施例4)実施例1と同様の方法で、カードウェブを作製し、水分率が2.0質量%であること以外は、実施例1と同様の方法で水分を含んだ不織布を得た。前記不織布を、表面温度が60℃,線圧 300N/cmのスチール/コットンのフラット熱ロール加工機を用いて、平滑加工を施した後、前記不織布に、水を不織布質量に対して200質量%含浸させ、本発明のウエット状セルロース系不織布を得た。得られたセルロース系不織布の表面を倍率300倍に拡大して電顕写真で確認したところ、縦300μm、横400μmの範囲内に湾曲部が2個であった。
【0058】
(実施例5)実施例1と同様の方法で、カードウェブを作製し、水分率が9.0質量%であること以外は、実施例1と同様の方法で水分を含んだ不織布を得た。前記不織布を、表面温度が60℃,線圧 300N/cmのスチール/コットンのフラット熱ロール加工機を用いて、平滑加工を施した後、前記不織布に、水を不織布質量に対して200質量%含浸させ、本発明のウエット状セルロース系不織布を得た。得られたセルロース系不織布の表面を倍率300倍に拡大して電顕写真で確認したところ、縦300μm、横400μmの範囲内に湾曲部が3個であった。
【0059】
(実施例6)実施例1と同様の方法で、カードウェブを作製し、水分率が18質量%であること以外は、実施例1と同様の方法で水分を含んだ不織布を得た。前記不織布を、表面温度が60℃,線圧 300N/cmのスチール/コットンのフラット熱ロール加工機を用いて、平滑加工を施した後、前記不織布に、水を不織布質量に対して200質量%含浸させ、本発明のウエット状セルロース系不織布を得た。得られたセルロース系不織布の表面を倍率300倍に拡大して電顕写真で確認したところ、縦300μm、横400μmの範囲内に湾曲部が9個であった。
【0060】
(実施例7)実施例1と同様の方法で、カードウェブを作製し、水分率が18質量%であること以外は、実施例1と同様の方法で水分を含んだ不織布を得た。前記不織布を、表面温度が60℃,線圧 600N/cmのスチール/コットンのフラット熱ロール加工機を用いて、平滑加工を施した後、前記不織布に、水を不織布質量に対して200質量%含浸させ、本発明のウエット状セルロース系不織布を得た。得られたセルロース系不織布の表面を倍率300倍に拡大して電顕写真で確認したところ、縦300μm、横400μmの範囲内に湾曲部が7個であった。
【0061】
上記実施例4〜7で作製された不織布の性能を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例4〜6で得られたセルロース系不織布は、風合いが柔らかく、不織布表面に湾曲部を有しているので、不織布表面が平滑で拭き心地も非常に良いものであった。実施例7で得られた不織布は、風合いは硬いが、不織布表面に湾曲部を有しているので、不織布表面が非常に平滑であった。また、ウエット状態にすると、不織布の膨張により厚みが膨張し、柔軟性が回復するので拭き心地は非常に良かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のセルロース系不織布は、不織布表面にざらつきが無く、平滑性が優れているので、口紅やファンデーション,アイシャドウなどのクレンジングシート,制汗シート,UV,虫除けなどの肌ケアシートなど、ドライ状及びウエット状で皮膚に当接して使用し得る対人用不織布として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例2におけるセルロース系不織布表面の電顕写真(300倍)である。
【図2】本発明の実施例3におけるセルロース系不織布表面の電顕写真(300倍)である。
【図3】従来のセルロース系不織布表面の電顕写真(300倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維を含む水流交絡不織布であって、前記不織布の表面には繊維の長さ方向において少なくとも一部分に湾曲部を有するセルロース系繊維を含むセルロース系不織布。
【請求項2】
前記不織布の表面が、平滑化されている、請求項1に記載のセルロース系不織布。
【請求項3】
前記セルロース系繊維が、再生繊維である、請求項1または2に記載のセルロース系不織布。
【請求項4】
前記再生繊維が、溶剤紡糸セルロース繊維である、請求項3に記載のセルロース系不織布。
【請求項5】
前記湾曲部が、不織布表面を倍率300倍に拡大したとき、縦300μm、横400μmの範囲内に少なくとも1個存在する、請求項1〜4いずれかに記載のセルロース系不織布。
【請求項6】
不織布密度が、2.94cN/cm2荷重時の厚みにおいて0.09〜0.3g/cm3である、請求項1〜5いずれかに記載のセルロース系不織布。
【請求項7】
JIS−L−1096の6.19.5 E法(ハンドルオメーター法)に準じて測定される不織布剛軟度が、不織布の機台流れ方向(MD方向)で15〜70gである、請求項1〜6いずれかに記載のセルロース系不織布。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のセルロース系不織布に、湿潤剤を不織布質量に対し100質量%以上含浸されてなるウエット状セルロース系不織布。
【請求項9】
請求項1〜8いずれかに記載のセルロース系不織布を皮膚に当接して使用し得る、対人用セルロース系不織布。
【請求項10】
セルロース系繊維を含む繊維ウェブに水流交絡処理を施して水流交絡不織布を作製し、
前記不織布の水分率を3〜40質量%にして、前記不織布の少なくとも片面に平滑加工を施すセルロース系不織布の製造方法。
【請求項11】
平滑加工前の不織布の厚み(T0)に対する平滑加工後の不織布の厚み(T)の厚み変化率(T/T0)が、2.94cN/cm2荷重時の厚みにおいて40〜80%である、請求項10に記載のセルロース系不織布の製造方法。
【請求項12】
前記平滑加工がフラットロール加工であり、その線圧が100〜700N/cmである、請求項10または11に記載のセルロース系不織布の製造方法。
【請求項13】
平滑加工における不織布との接触温度が、10〜120℃である、請求項10〜12いずれかに記載のセルロース系不織布の製造方法。
【請求項14】
前記不織布の水分率が、3質量%以上、セルロース系繊維の公定水分率未満である、請求項10〜13いずれかに記載のセルロース系不織布の製造方法。
【請求項15】
前記不織布の水分率が、3〜9質量%である、請求項10〜13いずれかに記載のセルロース系不織布の製造方法。
【請求項16】
セルロース系繊維を含む繊維ウェブに水流交絡処理を施して、水流交絡不織布を作製し、
前記不織布の水分率を、セルロース系繊維の公定水分率以上、40質量%以下にして、平滑加工を施した後、前記不織布に湿潤剤を100質量%以上含浸して不織布の厚みを膨張させるウエット状セルロース系不織布の製造方法。
【請求項17】
前記不織布の水分率が、セルロース系繊維の公定水分率以上、25質量%以下である、請求項16に記載のウエット状セルロース系不織布の製造方法。
【請求項18】
平滑加工後(湿潤剤含浸前)の不織布密度が、2.94cN/cm2荷重時の厚みにおいて、0.25〜0.8g/cm3である、請求項16または17に記載のウエット状セルロース系不織布の製造方法。
【請求項19】
平滑加工後の厚み(T)に対する湿潤剤を含浸した後の不織布の厚み(TW)の厚み膨張率(TW/T)が、2.94g/cm2荷重時の厚みにおいて200〜500%である、請求項16〜18のいずれかに記載のウエット状セルロース系不織布の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−57211(P2006−57211A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241712(P2004−241712)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】