説明

セルロース結合性ペプチドを使用する方法及びその生成物

【課題】セルロース結合性ペプチドを使用する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る方法は、セルロースとセルロース結合性ペプチドとを含有する溶液を調製する第一工程(S1)と、前記溶液をインキュベーションすることにより、前記セルロースを前記セルロース結合性ペプチドで処理するとともに、前記セルロース結合性ペプチドを切断して部分ペプチドを生成する第二工程(S2)と、処理された前記セルロース及び前記部分ペプチドの一方又は両方を回収する第三工程(S3)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース結合性ペプチドを使用する方法及びその生成物に関し、特に、セルロースとセルロース結合性ペプチドとの相互作用を利用する方法及びその生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、例えば、微生物のアルコール発酵によるバイオエタノールの製造において使用される糖の原料として期待されている。このセルロースに関連して、特許文献1には、ファージディスプレイペプチドライブラリーを使用したバイオパニングにより、セルロース結合性ペプチドを取得することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−94822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、セルロース結合性ペプチドの使用については未だ十分な検討がなされていない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、セルロース結合性ペプチドを使用する方法及びその生成物を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る方法は、セルロースとセルロース結合性ペプチドとを含有する溶液を調製する第一工程と、前記溶液をインキュベーションすることにより、前記セルロースを前記セルロース結合性ペプチドで処理するとともに、前記セルロース結合性ペプチドを切断して部分ペプチドを生成する第二工程と、処理された前記セルロース及び生成された前記部分ペプチドの一方又は両方を回収する第三工程と、を含むことを特徴とする。本発明によれば、セルロース結合性ペプチドを使用する方法を提供することができる。
【0007】
また、前記セルロース結合性ペプチドは、アミノ酸残基数が2〜30個の範囲内のペプチドであることとしてもよい。また、前記第一工程において所定量の前記セルロース結合性ペプチドを含有する前記溶液を調製し、前記第二工程において前記所定量の20%以上の前記セルロース結合性ペプチドが切断されるまで前記溶液をインキュベーションすることとしてもよい。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るセルロースは、前記いずれかの方法において、前記セルロースを前記セルロース結合性ペプチドで処理することにより製造されたことを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るペプチドは、前記いずれかの方法において、前記セルロース結合性ペプチドを切断することにより製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セルロース結合性ペプチドを使用する方法及びその生成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る方法の一例に含まれる主な工程を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る方法において実施されたバイオパニングの操作条件の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る方法において実施されたバイオパニングの操作についての説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る方法において実施されたバイオパニングにより選択されたペプチドの一例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る方法において実施されたバイオパニングにより選択されたペプチドの他の例を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る方法において実施されたバイオパニングにより選択されたペプチドの他の例を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る方法において実施されたバイオパニングにより選択されたペプチドの他の例を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る方法において実施されたインキュベーション及び回収の操作についての説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る方法においてC13ペプチドのHPLC解析により得られたクロマトグラムの一例を示す説明図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る方法においてC13ペプチドのMALDI−TOF MS解析により得られたマススペクトルの一例を示す説明図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る方法においてC13ペプチドのHPLC解析により得られたクロマトグラムの他の例を示す説明図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る方法においてC13ペプチドから生成された部分ペプチドを定量した結果の一例を示す説明図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る方法においてC13ペプチドから生成された部分ペプチドを定量した結果の他の例を示す説明図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る方法においてC32ペプチドのHPLC解析により得られたクロマトグラムの一例を示す説明図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る方法においてC32ペプチドのMALDI−TOF MS解析により得られたマススペクトルの一例を示す説明図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る方法においてC37ペプチドのHPLC解析により得られたクロマトグラムの一例を示す説明図である。
【図17】本発明の一実施形態に係る方法においてC37ペプチドのMALDI−TOF MS解析により得られたマススペクトルの一例を示す説明図である。
【図18】本発明の一実施形態に係る方法においてC39ペプチドのHPLC解析により得られたクロマトグラムの一例を示す説明図である。
【図19】本発明の一実施形態に係る方法においてC39ペプチドのMALDI−TOF MS解析により得られたマススペクトルの一例を示す説明図である。
【図20】本発明の一実施形態に係る方法においてC84ペプチドのHPLC解析により得られたクロマトグラムの一例を示す説明図である。
【図21】本発明の一実施形態に係る方法においてC84ペプチドのMALDI−TOF MS解析により得られたマススペクトルの一例を示す説明図である。
【図22】本発明の一実施形態に係る方法において5つのセルロース結合性ペプチドから生成された部分ペプチドの一例をまとめて示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る方法(以下、「本方法」という。)の一例に含まれる主な工程を示す説明図である。図1に示すように、本方法は、セルロースとセルロース結合性ペプチドとを含有する溶液を調製する第一工程(以下、「準備工程S1」という。)と、当該溶液をインキュベーションすることにより、当該セルロースを当該セルロース結合性ペプチドで処理するとともに、当該セルロース結合性ペプチドを切断して部分ペプチドを生成する第二工程(以下、「インキュベーション工程S2」という。)と、処理された当該セルロース及び生成された当該部分ペプチドの一方又は両方を回収する第三工程(以下、「回収工程S3」という。)と、を含む。
【0014】
準備工程S1においては、まず、セルロースと、セルロース結合性ペプチドと、を準備する。セルロースは、β−グルコースが1,4−β−グリコシド結合により直鎖状に重合して形成された高分子物質であり、一般に、結晶部分とアモルファス部分とを含む。
【0015】
本方法で使用されるセルロースは特に限られず、任意のものを適宜選択して使用することができる。すなわち、セルロースとしては、任意の結晶構造を有するものを使用することができる。
【0016】
具体的に、例えば、セルロースI型、セルロースII型、セルロースIII型、セルロースIV型からなる群より選択される1種又は2種以上を使用することができる。セルロースI型としては、セルロースIα型やセルロースIβ型を使用することができる。セルロースIII型としては、セルロースIII型やセルロースIIIII型を使用することができる。
【0017】
これらのうち、セルロース結合性ペプチドとの相互作用を効果的に実現できる点で、セルロースIII型を好ましく使用することができ、特にセルロースIII型を好ましく使用することができる。
【0018】
また、セルロースとしては、任意の結晶化度を有するものを使用することができる。すなわち、例えば、結晶化度が50%以上のセルロースを使用することができ、結晶化度が70%以上のセルロースを好ましく使用することができ、結晶化度が80%以上のセルロースをより好ましく使用することができ、結晶化度が90%以上のセルロースを特に好ましく使用することができる。
【0019】
具体的に、例えば、結晶化度が90%以上のセルロースIII型を好ましく使用することができ、特に結晶化度が90%以上のセルロースIII型を好ましく使用することができる。
【0020】
本発明の発明者らが独自に検討した結果、セルロースの結晶化度が高くなるほど、当該セルロースとセルロース結合性ペプチドとの相互作用をより効果的に実現することができるという知見が得られている。また、セルロースの結晶化度が低くなるほど、当該セルロースはセルロース分解酵素により分解されやすくなる傾向がある。
【0021】
セルロースの結晶化度は、例えば、X線回折により算出することができる。すなわち、セルロースの結晶化度は、例えば、所定のX線回折装置を用いて測定される広角X線回折プロファイル(もしくはデコンボリューション後のプロファイル)におけるピーク面積値の比率により算出することができる。
【0022】
本発明で使用されるセルロース結合性ペプチドは、溶液中でセルロースに結合して、当該セルロース結合性ペプチドと当該セルロースとの複合体を形成するペプチドである。すなわち、セルロース結合性ペプチドは、例えば、アミノ酸配列が互いに異なる複数種類のペプチドからなるペプチド群から、セルロースに対する結合能に基づいて選択されたペプチドである。
【0023】
ペプチド群としては、例えば、アミノ酸配列が互いに異なる複数種類のペプチドを含むペプチドライブラリーを使用することができる。すなわち、この場合、セルロース結合性ペプチドは、例えば、アミノ酸残基数が所定範囲内であってアミノ酸配列が互いに異なる複数種類のペプチドを含むペプチドライブラリーから選択することができる。ペプチドライブラリーは、アミノ酸残基数が所定範囲内の所定値である複数種類のペプチドを含むことができ、また、アミノ酸残基数が所定範囲内で互いに異なる複数種類のペプチドを含むこともできる。
【0024】
より具体的に、ペプチドライブラリーとしては、例えば、ファージディスプレイを利用したペプチドライブラリー(ファージディスプレイペプチドライブラリー)を好ましく使用することができる。ファージディスプレイペプチドライブラリーは、表面に提示したペプチドのアミノ酸配列が互いに異なる複数種類のファージを含むペプチドライブラリーである。ファージディスプレイペプチドライブラリーを構成するファージの種類は特に限られず、例えば、M13バクテリオファージやT7バクテリオファージを好ましく使用することができる。
【0025】
また、ペプチドライブラリーとしては、例えば、細胞表層に提示したペプチドのアミノ酸配列が互いに異なる複数種類の酵母や大腸菌等の微生物を含むペプチドライブラリーを使用することもできる。また、リボソームディスプレイペプチドライブラリー等、無細胞システムに基づくペプチドディスプレイを利用したペプチドライブラリーを使用することもできる。
【0026】
なお、ペプチドライブラリーに含まれるペプチドは、直鎖状のペプチドに限られず、例えば、環状のペプチドとすることもできる。すなわち、例えば、核酸のランダム領域の両端にシステイン残基を配置し、当該システイン残基の側鎖間でジスルフィド結合を形成することにより当該ランダム領域を環状構造にしたペプチドライブラリーを使用することもできる。
【0027】
ペプチドライブラリーからのセルロース結合性ペプチドの選択は、当該ペプチドライブラリーに含まれるペプチドのセルロースに対する結合能の高さに基づいて行うことができる。すなわち、例えば、ペプチドライブラリーに含まれる複数種類のペプチドとセルロースとを溶液中で混合し、当該複数種類のペプチドのうち、当該セルロースに結合し複合体を形成したペプチドをセルロース結合性ペプチドとして選択する。
【0028】
具体的に、セルロース結合性ペプチドは、例えば、ペプチドライブラリーを使用したバイオパニングにより選択することができる。すなわち、例えば、ファージその他の微生物やリボソーム等の提示媒体によるペプチドディスプレイを利用したペプチドライブラリーと、セルロースと、を混合し、当該セルロースに結合した当該提示媒体を選択的に回収し、回収された当該提示媒体が提示するペプチドをセルロース結合性ペプチドとして選択する。
【0029】
また、バイオパニングによってセルロースと複合体を形成する複数のペプチドが得られた場合には、当該複数のペプチドのうち、単一のパニングにおける出現頻度が2以上であるペプチド、又は操作条件の異なる複数のパニングにおいて出現したペプチドを、セルロース結合性ペプチドとして選択することもできる。この場合、さらに、セルロース以外の材料に結合する(当該材料と複合体を形成する)ペプチド以外のペプチドをセルロース結合性ペプチドとして選択することもできる。このような基準によれば、セルロースに特異的に結合するセルロース結合性ペプチドを確実に選択することができる。
【0030】
また、セルロース結合性ペプチドとしては、アミノ酸残基数が比較的小さいものを好ましく使用することができる。すなわち、例えば、セルロース結合性ペプチドは、アミノ酸残基数が2〜30個の範囲内のペプチドとすることができる。さらに、セルロース結合性ペプチドのアミノ酸残基数は、例えば、6〜20個の範囲とすることができ、好ましくは6〜14個の範囲とすることができ、より好ましくは7〜12個の範囲とすることができる。
【0031】
このため、セルロース結合性ペプチドをペプチドライブラリーから選択する場合には、アミノ酸残基数が上述の範囲であるペプチドを含むペプチドライブラリーを使用することが好ましい。すなわち、この場合、例えば、アミノ酸残基数が上述の範囲内である複数種類のペプチドを提示した提示媒体(ファージその他の微生物やリボソーム等)によるペプチドディスプレイを利用したペプチドライブラリーを好ましく使用することができる。
【0032】
具体的に、例えば、ランダムペプチドの鎖長が12−merや7−merである市販のファージディスプレイペプチドライブラリーを使用することができる。もちろん、ペプチドライブラリーは市販のものに限られず、公知の方法に基づいて、アミノ酸残基数が上述の範囲である任意のペプチドライブラリーを作製し使用することができる。
【0033】
準備工程S1においては、上述のようにして準備されたセルロースとセルロース結合性ペプチドとを含有する溶液(以下、「セルロース/ペプチド溶液」という。)を調製する。すなわち、セルロースとセルロース結合性ペプチドとを溶液中で混合する。
【0034】
セルロース/ペプチド溶液は、当該溶液中でセルロースとセルロース結合性ペプチドとが相互作用でき、且つ後述するように、当該溶液中で当該セルロース結合性ペプチドを切断できるものであれば特に限られない。
【0035】
すなわち、セルロース/ペプチド溶液は、例えば、セルロースとセルロース結合性ペプチドとを含有する水溶液とすることができる。この場合、溶媒としては、例えば、水や緩衝溶液を使用することができる。緩衝溶液は、緩衝剤を含有する水溶液であれば特に限られず、任意の組成のものを適宜選択して使用することができる。具体的に、例えば、酢酸緩衝溶液(例えば、50mM、pH5.0)、MES緩衝溶液(例えば、50mM、pH6.0〜7.0)、HEPES緩衝溶液(例えば、50mM、pH8.0)を使用することができる。これらの緩衝溶液は、所定の塩類(例えば、150〜1000mMのNaCl)を含有することもできる。また、セルロース/ペプチド溶液のpHは、例えば、4〜10の範囲とすることができる。
【0036】
セルロースとセルロース結合性ペプチドとの組み合わせは、相互作用する組み合わせであれば特に限られないが、当該相互作用を効果的に実現する上では、当該セルロースは、当該セルロース結合性ペプチドの選択に使用されたセルロースとすることが好ましい。換言すれば、セルロース/ペプチド溶液が含有すべき所定のセルロースを使用して、セルロース結合性ペプチドを選択することが好ましい。
【0037】
すなわち、例えば、セルロース結合性ペプチドが所定の結晶構造を有するセルロース(例えば、セルロースIII型)を使用してペプチドライブラリーから選択されたものである場合には、当該セルロース結合性ペプチドと、当該所定の結晶構造を有するセルロースと、を含有するセルロース/ペプチド溶液を調製することが好ましい。
【0038】
また、例えば、セルロース結合性ペプチドが所定の結晶化度を有するセルロース(例えば、結晶化度が90%以上のセルロース)を使用してペプチドライブラリーから選択されたものである場合には、当該セルロース結合性ペプチドと、当該所定の結晶化度を有するセルロースと、を含有するセルロース/ペプチド溶液を調製することが好ましい。
【0039】
なお、例えば、セルロース結合性ペプチドが所定の結晶構造を有するセルロース(例えば、セルロースIII型)を使用してペプチドライブラリーから選択されたものである場合であっても、当該セルロース結合性ペプチドと他の結晶構造を有するセルロース(例えば、セルロースI型)との相互作用は可能である。セルロース/ペプチド溶液は、1種又は2種以上のセルロースを含有することができ、1種又は2種以上のセルロース結合性ペプチドを含有することもできる。
【0040】
セルロース/ペプチド溶液に含有されるセルロース及びセルロース結合性ペプチドの濃度は、これらが相互作用する範囲であれば特に限られない。セルロース/ペプチド溶液におけるセルロースの濃度は、例えば、0.05〜2重量%の範囲とすることができ、好ましくは0.1〜0.5重量%の範囲とすることができる。セルロース/ペプチド溶液におけるセルロース結合性ペプチドの濃度は、例えば、0.1μM以上とすることができ、好ましくは0.1μM〜10mMの範囲とすることができ、より好ましくは1〜100μMの範囲とすることができる。なお、セルロース/ペプチド溶液におけるセルロース結合性ペプチドの濃度は、溶媒に溶解し得る範囲で可能な限り高めることができる。
【0041】
インキュベーション工程S2においては、準備工程S1で調製されたセルロース/ペプチド溶液をインキュベーションすることにより、セルロースをセルロース結合性ペプチドで処理するとともに、当該セルロース結合性ペプチドを切断して部分ペプチドを生成する。
【0042】
なお、部分ペプチドは、セルロース結合性ペプチドの主鎖を切断することによって生成されるペプチドである。すなわち、部分ペプチドは、セルロース結合性ペプチドを構成するアミノ酸間のペプチド結合を切断することにより生成される。セルロース結合性ペプチドの切断は、例えば、加水分解によって行うことができる。
【0043】
したがって、部分ペプチドは、セルロース結合性ペプチドを構成するアミノ酸配列から一部のアミノ酸が欠如したアミノ酸配列からなるペプチドである。部分ペプチドは、例えば、インキュベーション後のセルロース/ペプチド溶液の上清中に含有される。
【0044】
インキュベーションの条件は、セルロースをセルロース結合性ペプチドで処理し、且つセルロース結合性ペプチドを切断できる範囲であれば特に限られず、任意に設定することができる。
【0045】
すなわち、例えば、準備工程S1において所定量のセルロース結合性ペプチドを含有するセルロース/ペプチド溶液を調製した場合には、インキュベーション工程S2において、当該所定量の20%以上の当該セルロース結合性ペプチドが切断されるまで、当該セルロース/ペプチド溶液をインキュベーションする。
【0046】
具体的に、例えば、所定モル数(例えば、2nmol)のセルロース結合性ペプチドを含有するセルロース/ペプチド溶液をインキュベーションする場合には、当該所定モル数の20%のモル数(例えば、0.4nmol)の当該セルロース結合性ペプチドが切断されるまで、当該セルロース/ペプチド溶液を保持する。さらに、インキュベーション工程S2において切断するセルロース結合性ペプチドの量は、当初の量の20%以上に限られず、例えば、40%以上とすることができ、好ましくは60%以上とすることもできる。
【0047】
また、例えば、所定モル数(例えば、2nmol)のセルロース結合性ペプチドを含有するセルロース/ペプチド溶液をインキュベーションする場合には、当該所定モル数の20%のモル数(例えば、0.4nmol)の部分ペプチドが生成されるまで、当該セルロース/ペプチド溶液を保持することもできる。この場合も、インキュベーション工程S2において生成する部分ペプチドの量は、当初のセルロース結合性ペプチドの量の20%以上に限られず、例えば、40%以上とすることができ、好ましくは60%以上とすることもできる。
【0048】
また、セルロース/ペプチド溶液が、pHが4〜10の範囲である水溶液として調製された場合には、インキュベーションは、当該セルロース/ペプチド溶液を10時間以上保持することにより行うこともできる。この場合、インキュベーション時間は、さらに15時間以上とすることがで、好ましくは18時間以上とすることができ、より好ましくは24時間以上とすることもできる。
【0049】
セルロース/ペプチド溶液をインキュベーションする温度は、例えば、0〜50℃の範囲とすることができ、好ましくは10〜30℃の範囲とすることができる。
【0050】
インキュベーション工程S2におけるセルロース結合性ペプチドによるセルロースの処理は、例えば、当該セルロース結合性ペプチドを当該セルロースに作用させて、当該セルロースの特性を変化させることにより行うことができる。
【0051】
すなわち、例えば、セルロース結合性ペプチドをセルロースに結合させるとともに、当該セルロース結合性ペプチドを切断することにより、当該セルロース結合性ペプチドに由来する部分ペプチドが結合したセルロースを生成することができる。
【0052】
部分ペプチドをセルロースに結合させることにより、後述のとおり、例えば、当該セルロースの表面特性、分子の立体構造、分散性といった特性を向上させることができる。なお、このような処理により生成されるセルロースには、部分ペプチドに加えてセルロース結合性ペプチドが結合していてもよい。
【0053】
また、インキュベーション工程S2においては、セルロース結合性ペプチドの切断によって、部分ペプチドを効率よく生成することができる。すなわち、セルロース結合性ペプチドをセルロースに作用させることによって、当該セルロース結合性ペプチドの一部を構成する特定のアミノ酸配列からなる部分ペプチドを効率よく生成することができる。
【0054】
具体的に、例えば、セルロース結合性ペプチドを構成するアミノ酸配列のC末端側の一部、N末端側の一部、又はこれらの両方を切断することにより、当該アミノ酸配列から当該末端部分が除去された、より短いアミノ酸配列からなる部分ペプチドを生成することができる。このような部分ペプチドは、例えば、アミノ酸残基数が所定値であるセルロース結合性ペプチドから生成される場合、アミノ酸残基数が当該所定値未満であって当該所定値の半分以上であるペプチドとすることができる。
【0055】
なお、部分ペプチドが生成される機構は明らかではないが、例えば、セルロース結合性ペプチドがセルロースに結合することによって何らかの分解反応が起こり、当該セルロース結合性ペプチドが切断されるものと考えられる。この結果、例えば、インキュベーション工程S2においては、セルロース結合性ペプチドをセルロースに結合させ、次いで当該セルロース結合性ペプチドを切断することにより、当該セルロース結合性ペプチドの一部からなる部分ペプチドをセルロース/ペプチド溶液の上清中に遊離させるとともに、当該セルロース結合性ペプチドの他の一部からなる部分ペプチドが結合した当該セルロースを生成することができる。
【0056】
また、インキュベーション工程S2においては、インキュベーションの条件を、第一の条件から、当該第一の条件とは異なる第二の条件に切り替えることもできる。すなわち、例えば、第一の条件として、セルロースとセルロース結合性ペプチドとの相互作用に好ましい条件を採用し、第二の条件として、当該セルロース結合性ペプチドの切断に好ましい条件を採用する。
【0057】
具体的に、例えば、まず、セルロース/ペプチド溶液のpHを6〜8の範囲に調整して所定時間インキュベーションすることにより、セルロースに対するセルロース結合性ペプチドの効果的な結合を実現し、次いで、当該セルロース/ペプチド溶液のpHを4〜6の範囲又は8〜10の範囲に調整して所定時間インキュベーションすることにより、当該セルロース結合性ペプチドの効果的な切断(部分ペプチドの生成)を実現することができる。
【0058】
回収工程S3においては、上述のインキュベーション工程S2においてインキュベーションされたセルロース/ペプチド溶液から、処理されたセルロース及び生成された部分ペプチドの一方又は両方を回収する。
【0059】
処理されたセルロースを回収する方法は特に限られず、例えば、セルロース/ペプチド溶液を遠心し、遠心後の沈殿物を回収することにより行うことができる。また、他の公知の分離方法や精製方法によってもセルロースを回収することができる。
【0060】
部分ペプチドを回収する方法は特に限られず、例えば、セルロース/ペプチド溶液を遠心し、遠心後の上清を回収することにより行うことができる。また、他の公知の分離方法や精製方法によっても部分ペプチドを回収することができる。
【0061】
このように、本方法によれば、セルロース結合性ペプチドで処理されたセルロース又は当該セルロース結合性ペプチドの切断により生成された部分ペプチドの一方又は両方を製造することができる。
【0062】
すなわち、本方法によれば、セルロース結合性ペプチドを使用した処理によって、特性が向上したセルロースを製造することができる。具体的に、例えば、酵素による分解能が向上したセルロースを製造することができる。
【0063】
ここで、セルロースは、例えば、上述のとおり、バイオエタノールの製造において微生物が資化するための糖の原料として使用される。この場合、セルロースを所定の酵素で分解する糖化処理により、当該セルロースを構成する単糖であるβ−グルコースを製造する必要がある。しかしながら、一般に、セルロースは、その分子構造や結晶性に基づき、酵素により分解されにくい。
【0064】
この点、本方法においてセルロース結合性ペプチドにより処理されたセルロース(以下、「処理セルロース」という。)は、処理されていないセルロースに比べて、酵素により分解されやすくなっている。
【0065】
すなわち、例えば、処理セルロースは、部分ペプチドが結合していることによって、その表面に当該部分ペプチドに基づく電荷が付与されている。このため、処理セルロースは、処理されていないセルロースに比べて、溶液中における分散性が向上している。したがって、処理セルロースは、酵素による作用を受けやすくなっている。
【0066】
また、処理セルロースに結合している部分ペプチドは、セルロース結合性ペプチドより分子長さが短い。このため、部分ペプチドが結合した処理セルロースにおいては、セルロース結合性ペプチドが結合したセルロースに比べて、立体障害が低減されている。したがって、処理セルロースは、セルロース結合性ペプチドが結合したセルロースに比べて、酵素によるアクセスを受けやすく、分解されやすくなっている。また、処理セルロースにおいて酵素が作用する部分以外の部分を部分ペプチドにより被覆することにより、当該処理セルロースを当該酵素により分解しやすくすることができる。
【0067】
このように、本方法により製造される処理セルロースは、バイオエタノールの原料として好ましく使用することができる。
【0068】
そこで、本方法は、例えば、上述のようにして製造された処理セルロースを酵素により分解する工程をさらに含むこともできる。分解酵素は、セルロースを分解できるものであれば特に限られず、任意の1種又は2種以上の分解酵素を使用することができる。
【0069】
すなわち、例えば、1,4−β−グリコシド結合を加水分解により切断するセルラーゼを好ましく使用することができる。具体的に、例えば、エキソグルカナーゼ(セロビオヒドロラーゼ)及びエンドグルカナーゼの一方又は両方を使用することができる。
【0070】
酵素分解の条件は、酵素が作用する条件であれば特に限られず、例えば、pHが4〜6の範囲の弱酸性条件を使用することができる。すなわち、この酵素分解工程においては、例えば、処理セルロース及び分解酵素を含有する酢酸緩衝溶液(例えば、50mM、pH5.0)を調製し、当該溶液を所定温度で所定時間保持することにより、当該処理セルロースを分解することができる。
【0071】
なお、上述のように、インキュベーション工程S2において、セルロース/ペプチド溶液のpHを6〜8の範囲に調整してセルロースにセルロース結合性ペプチドを結合させ、次いで、当該セルロース/ペプチド溶液のpHを8〜10の範囲に調整してセルロース結合性ペプチドを切断した場合には、続く処理セルロースの酵素分解工程において、当該処理セルロース及び酵素を含有する溶液のpHを4〜6の範囲に調整することにより、当該処理セルロースの酵素分解を効率よく行うことができる。
【0072】
また、本方法によれば、特定のアミノ酸配列からなる部分ペプチドを製造することができる。すなわち、本方法においては、上述のとおり、予めアミノ酸配列が特定されたセルロース結合性ペプチドをセルロースに作用させることにより、当該アミノ酸配列のうち特定の一部からなる部分ペプチドを効率よく製造することができる。
【0073】
このような部分ペプチドの製造方法は、アミノ酸を順次結合させていくボトムアップのペプチド合成とは異なり、トップダウンによるペプチド製造方法であるといえる。このため、ボトムアップ合成のような煩雑な操作を経ることなく、簡便に、特定のアミノ酸配列からなる部分ペプチドを製造することができる。また、生成された部分ペプチドは、セルロース/ペプチド溶液の上清中に遊離するため、当該部分ペプチドの回収及びその後の精製を容易且つ確実に行うことができる。
【0074】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0075】
Wadaらの方法(Wada, M.; Nishiyama, Y.; Langan, L. Macromolecules 2006, 39, 2947-2952)に従い、セルロースIII型を調製した。シオグサ(Cladophora)を1MのNaOH水溶液に室温で一晩以上漬け置きした後、水道水で十分に洗浄した。次いで、得られた試料を、0.1Mの酢酸バッファーでpH4.5に調整した0.3%NaClO溶液に80℃で2時間漬け置きした後、水道水で十分に洗浄した。以上の操作を、試料の色が白くなるまで2又は3回繰返した。
【0076】
さらに、ホモジナイザー(Physcotron、Microtech)を用い、試料が十分に細かい断片になるまで粉砕した後、10000rpmで5分間遠心し、沈殿物を回収した。沈殿物を液体窒素で凍結し、一晩かけて湿り気がなくなるまで凍結乾燥した後、さらに105℃で3時間以上加熱して絶乾させた。
【0077】
こうして得られた約1gの試料を耐圧容器に入れて−13℃に冷却し、当該耐圧容器内にアンモニアガスを30分かけて充填した。この耐圧容器をオイルバスで140℃に加熱して超臨界流体を生成し(臨界点:132.4℃、11.28MPa)、当該耐圧容器内の圧力を15〜18MPaに維持して1時間反応させた。アンモニアを除去した後、得られた固体を濾過装置にセットし、アンモニア臭が消えるまで300〜500mLのメタノールで洗浄し、さらに約200mLのアセトンで洗浄した。この固体をビーカーに移し、一晩かけてアセトンが蒸発するまで放置した。
【0078】
得られた固体を適当量(ホモジナイズ後の回収量が100gの場合、300mL)の4MのHClに懸濁し80℃で8時間攪拌(500rpm)して加水分解した後、同量の蒸留水を加えて反応を停止した。反応後の溶液を10000rpmで5分間遠心し上清を除去した。沈殿物に蒸留水を加えて再分散し、再度10000rpmで5分間遠心し上清を除去した。この操作を上清が完全に中和されるまで3〜5回繰返した。
【0079】
沈殿物に蒸留水を加えて2000rpmで5分間遠心した。上清が白濁し固体が浮遊していることを確認し、上清を回収した。硫酸洗浄したガラスフィルターを用いて吸引濾過をし、濾液を回収した。こうして、セルロースIII型の懸濁液を得た。セルロース懸濁液は4℃で保存した。なお、セルロースIII型は、特開2008−161125号公報に記載の方法で調製することもできる。
【0080】
セルロース懸濁液中のセルロース濃度は、1mLの当該セルロース懸濁液を5mLのサンプル管に採取し、105℃で24時間乾燥させたのち重量を測定することにより決定した。
【0081】
得られたセルロースIII型の結晶化度は99.9%以上であった。この結晶化度は、X線回折装置(X-ray diffractometer RU-200BH、株式会社リガク)を用いた広角X線回折により得られたプロファイルにおけるピーク面積値の比率により算出した。
【実施例2】
【0082】
上述の実施例1において調製されたセルロースIII型と、ファージディスプレイペプチドライブラリーと、を使用してバイオパニングを実施することにより、セルロース結合性ペプチドを選択した。
【0083】
なお、試薬は、特に表記しない限り全て特級以上のものを使用した。いずれの試薬もさらなる精製を行わずに使用した。超純水は、Milli−Qシステム(Milli−Q Academic A-10、Millipore)で比抵抗値18.2MΩ・cm以上に精製した水を使用した。
【0084】
[ファージディスプレイペプチドライブラリー]ファージディスプレイペプチドライブラリーは、Ph.D.−12TM Phage Display Peptide Library(NEW ENGLAND BioLabs)を用いた。このファージライブラリーにおいては、M13ファージの非主要外殻タンパク質であるwild−typeのpIIIのN末端に、4−mer(GGGS)のスペーサーを介して直鎖の12残基のランダムなアミノ酸配列からなるペプチドが提示されている。理論的な計算上は2012(=4.096×1015)種類のペプチドが含まれるが、実際にはエレクトロポレーションの効率が低いため、このペプチドライブラリーにおいては、2.7〜2.8×10種類のアミノ酸配列が提示されている。操作は、ファージライブラリーKit付属のマニュアルを参考に一部操作を改変して行った。
【0085】
[滅菌精製水]超純水100mLを100mL広口メディウム瓶に採り、オートクレーブ(S-245、TOMY)を用いて121℃で20分の滅菌処理を施した後に室温で保存した。
【0086】
[Agarose Top]250mL広口メディウム瓶内で、Bacto Tryptone(Becton, Dickinson and Company:BD)2g、Bacto Yeast Extract(BD)1g、NaCl(nacalai tesqe)1g、Bacto Agar(BD)1.4g、塩化マグネシウム六水和物(nacalai tesque)0.1gを超純水(Millipore)200mLで溶かし、さらに4MのNaOH水溶液(nacalai tesque)50μLを加え、オートクレーブした後、室温で保存した。
【0087】
[Gly−HCl]Glycine(nacalai tesque)7.50gを超純水300mLに溶解させ、6MのHClを用いて当該水溶液のpHを2.2に調整した後、超純水で500mLにメスアップ後、0.22μmフィルター(Millex、Millipore)で濾過滅菌した。このGlycine−HCl(40mL)にウシ血清アルブミン(Bovine Serum Albumin:BSA)(018-15154, Lot. CER0068, Wako)40mg、フェノールレッド(nacalai tesque)4mgを加えて溶解させ、再度0.22μmフィルターで濾過滅菌し4℃で保存した。得られたGly−HCl溶液は、200mMのGlycine−HCl、1mg/mLのBSAを含有し、そのpHは2.2であった。
【0088】
[Tetracyclineストック溶液]エタノール(Spectrum grade、nacalai tesque)20mLにテトラサイクリン塩酸塩(Wako)100mgを溶解させ、1.7mLチューブに1mLずつ分注し、−20℃で遮光保存した。
【0089】
[IPTG/X−Galストック溶液]Isopropyl−1−thio−β−D−thiogaractopyranoside(IPTG、Wako)250mg、5−bromo−4−chloro−3−indolyl−β−D−galactopyranoside(X-Gal、Wako)200mgをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(Spectrum
grade、nacalai tesque)5.0mLに溶解させ、1.7mLチューブに1mLずつ分注し、−20℃で遮光保存した。
【0090】
[LB培地]500mL広口メディウム瓶にLB−Medium(capsules、Q・BIOgene)12個及び超純水480mL、4MのNaOH水溶液120μLを加えてオートクレーブした後、室温で保存した。
【0091】
[LB−Tet plate]250mL広口メディウム瓶にBacto Tryptoneを1g、Bacto Yeast Extractを0.5g、NaClを1g、Bacto Agarを1.5g、超純水100mLで溶かし、4NのNaOH水溶液25μLを加えてオートクレーブ後、温度が50℃以下になってからTetracyclineストック溶液400μLを加えた。この溶液を滅菌済みシャーレに分注し、室温で固化させた後、4℃で遮光保存し、1ヶ月以内に使用した。
【0092】
[LB/IPTG/X−Gal plate]250mL広口メディウム瓶にBacto Tryptoneを2g、Bacto Yeast Extractを1g、NaClを2g、Bacto Agarを3g、超純水200mLで溶かし、4MのNaOH水溶液50μLを加えてオートクレーブ後、50℃以下まで冷却し、IPTG/X−Galストック溶液200μLを加えた。この溶液を滅菌済みシャーレに分注し、室温で固化させた後、4℃で遮光保存し、4日以内に使用した。
【0093】
[10×TBS]Tris(hydoroxymethyl)aminomethane(nacalai tesuque)を30.4g、NaClを43.8g、超純水400mLに溶解させ、6MのHCl(nacalai tesque)でpHを7.5に調整した後、超純水で500mLにメスアップし、500mL広口メディウム瓶に移してオートクレーブ後、4℃で保存した。こうして500mMのTris−HCl及び1.5MのNaClを含有し、pHが7.5の10×TBSを調製した。1×TBSは10×TBSを超純水で10倍に希釈して調製し、オートクレーブ後に4℃で保存した。
【0094】
[1×TBS(0.1vol%Tween20、0.1%TBST)]40mLの1×TBSにTween20(polyoxyethylene sorbitan monolaurate)(nacalai tesque)40μLを加えた後、0.22μmフィルターで濾過滅菌後、室温で保存した。
【0095】
[1×TBS(0.05vol%Tween20、0.05%TBST)]40mLの1×TBSにTween20(nacalai tesque)20μLを加えた後、0.22μmフィルターで濾過滅菌後、室温で保存した。
【0096】
[1×TBS(20vol%EtOH、20%TBSE]40mLの1×TBSにethanol(nacalai tesque)10mLを加えた後、0.22μmフィルターで濾過滅菌後、室温で保存した。
【0097】
[酢酸水溶液(500mM)]酢酸(nacalai tesuque)15gを超純水400mLに溶解させ、超純水で500mLにメスアップし、500mL広口メディウム瓶に移してオートクレーブ後に4℃で保存した。
【0098】
[酢酸ナトリウム水溶液(500mM)]酢酸ナトリウム三水和物(nacalai tesuque)34gを超純水400mLに溶解させ、超純水で500mLにメスアップし、500mL広口メディウム瓶に移してオートクレーブ後に4℃で保存した。
【0099】
[1×AB(50mM Acetate buffer、pH5.0)]酢酸ナトリウム水溶液35.2mLを超純水400mLに溶解させ、酢酸水溶液でpH5.0に調整した後に超純水で500mLにメスアップし、500mL広口メディウム瓶に移してオートクレーブ後に4℃で保存した。
【0100】
[1×ABE(20vol%EtOH)]40mLの1×ABに10mLのethanol(nacalai tesque)を10mL加えた後、0.22μmフィルターで濾過滅菌後、室温で保存した。
【0101】
[1×ABT(0.05vol% Tween20)]40mLの1×ABにTween20 (nacalai tesque)20μLを加えた後、0.22μmフィルターで濾過滅菌後、室温で保存した。
【0102】
[5%NaNストック溶液]アジ化ナトリウム(nacalai tesque)50mgを15mLチューブに採り、滅菌精製水950μLに溶解させ4℃で保存した。
【0103】
[0.02%NaN/TBS]5%NaNストック溶液100μLを25mLの1×TBSに溶解させ、0.22μmフィルターで濾過滅菌し、室温で保存した。
【0104】
[PEG/NaCl]Polyethylene glycol(PEG#6000、nacalai tesque)を100.0g、NaClを73.0g、超純水330mLに溶解させ、超純水で500mLにメスアップした。500mL広口メディウム瓶に移し、オートクレーブした後渦を巻くように撹拌して均一に溶解させ、室温で保存した。
【0105】
[TBS/gelatin]ゼラチン(Wako)100mgを10mLの10×TBS及び90mLの超純水に溶解させ、オートクレーブ後、渦を巻くように攪拌して均一に溶解させて室温で保存した。
【0106】
[1M Tris−HCl buffer(pH9.1)]Tris(hydoroxymethyl)aminomethaneを30.4g、超純水200mLに溶解させ、6MのHClでpH9.1に調整し、超純水で250mLにメスアップし、オートクレーブ後4℃で保存した。
【0107】
[E.coli ER2738マスタープレート]1.7mLチューブにLB培地200μLを採り、滅菌済み爪楊枝を用いてEscherichia coli(E.coli)ER2738−80℃グリセロールストックから殖菌した。これをLB培地で100倍に希釈し、その100μLをLB−tet plateにプレーティングした。37℃で一晩培養した後、得られたマスタープレートを4℃で保存した。マスタープレートは調製後1ヶ月以内に使用した。
【0108】
[E.coli ER2738本培養液]LB培地5mLを試験管に採り、Tetracyclineストック溶液20μLを加えた。この溶液に滅菌済み爪楊枝を用いてE.coli ER2738マスタープレートのシングルコロニーを殖菌した。振盪培養器(BR-23FP、TAITEC)を用いて200rpm、37℃でOD660=0.5になるまで振盪培養し、得られたE.coli ER2738本培養液を4℃で保存した。E.coli ER2738本培養液は4日以内に使用した。
【0109】
[E.coli ER2738 O/N培養液]LB培地10mLを50mLチューブに採り、Tetracyclineストック溶液40μLを加えた。この溶液に滅菌済み爪楊枝を用いてE.coli ER2738マスタープレートのシングルコロニーを殖菌した。振盪培養器を用いて200rpm、37℃で一晩振盪培養し、得られたE.coli ER2738 O/N培養液を4℃で保存した。E.coli ER2738 O/N培養液は1週間以内に使用した。
【0110】
[バイオパニング]ファージディスプレイペプチドライブラリーとセルロースIII型とを使用して、バイオパニングを実施した。セルロースIII懸濁液(セルロース濃度:8.97mg/mL)をセルロース濃度が1mg/mLになるようにTBS又はABで希釈した。希釈後のセルロースIII懸濁液を室温で13000rpmにて1分間遠心し、セルロースを沈殿させ、上清を除去した。沈殿物にTBS又はABを1mL加えてセルロースを分散させ、室温で13000rpmにて1分間遠心し、セルロースを沈殿させて上清を除去した。この操作を3回繰り返し、セルロースをバッファーで洗浄、置換した。
【0111】
以下の操作は適宜条件変更し、Run1からRun15まで、15回のパニングを行った。ここでは、Run1ついて説明し、他のRunに関しては操作条件のみを図2に示す。また、バイオパニングの操作の概略を図3に示す。なお、Run1〜13は、操作を室温で行い、Run14及び15は全ての操作を4℃で行った。
【0112】
[(1)Affinity]ファージディスプレイペプチドライブラリーとセルロースIII型とを混合した。すなわち、ファージライブラリー溶液を1.5×1011pfu/mLになるようABで希釈して、これを上述のセルロースIII懸濁液に加えピペッティングし、得られた混合溶液を30分間静置した。静置後の混合溶液を室温にて13000rpmで1分間遠心し、その上清を除去した。
【0113】
[(2)Wash]得られた沈殿物を洗浄した。すなわち、沈殿物にABTを500μL加えピペッティングにより分散させた後、室温にて13000rpmで1分間遠心し、その上清を除去した。この操作を4回繰り返した。
【0114】
沈殿物にABを500μL加えて分散させ、この溶液を新たな1.7mLチューブに移し変え、室温にて13000rpmで1分間遠心し、その上清を除去した。再度、沈殿物にABを500μL加えセルロースを分散させ、室温にて13000rpmで1分間遠心して上清を除去する操作を4回繰り返した。
【0115】
沈殿物にABEを500μL加えて分散させ、この溶液を新たな1.7mLチューブに移し変え、室温にて13000rpmで1分間遠心し、その上清を除去した。再度、沈殿物にABEを500μL加えセルロースを分散させ、室温にて13000rpmで1分間遠心して上清を除去する操作を4回繰り返した。
【0116】
[(3)Elution]洗浄された沈殿物に含有されるファージを溶出した。すなわち、沈殿物にGly−HClを1mL加えてピペッティングし、得られた溶液を5分間静置した。静置後の溶液を室温にて13000rpmで1分間遠心し、その上清を新たな1.7mLチューブに採り、Tris−HCl buffer(pH9.1)を200μL加えて中和した。
【0117】
次に、ファージ溶液の濃縮を行った。すなわち、中和した溶液を限界濾過ユニット(Amicon Ultra-4、Millipore)に移し、25℃にて3500rpmで2分間遠心し、ファージ溶液を濃縮した。濃縮されたファージ溶液にTBSを1mL加えて遠心する操作を4回繰り返すことで(合計5回)、バッファー交換と同時にファージ溶液の濃縮を行った。なお、図2に示すように、この濃縮操作はRun1〜8において行い、Run9〜15では省略した。得られたファージ溶液を0.6mLチューブに移し、TBSで全量が200μLになるようにメスアップし、4℃で保存し、後述するファージプールの増幅及びタイタリングに用いた。
【0118】
次に、タイタリングを行った。すなわち、上述のようにして得られたファージ溶液をTBS/gelatinを用いて複数の各濃度に系列希釈し、分注したE.coli ER2738本培養液200μLに10μLずつ加えた。Agarose Topを電子レンジで溶解させ、3mLずつ分注し、ファージ溶液を全量加えた。これをあらかじめ37℃に温めておいたLB/IPTG/X−Gal plateに均一に重層させ、固化した後に37℃で12時間培養した。プレート上の青いプラークの個数よりファージ溶液の力価を算出した。
【0119】
[(4)Amplification]溶出されたファージを増幅させた。すなわち、50mLチューブにLB培地20mLを採り、E.coli ER2738 O/N培養液200μLと、上述の溶出操作で得たファージ溶液100μLと、を加えた。得られた溶液を300mLのバッフル付きフラスコに移して200rpm、37℃で5時間振盪培養した。
【0120】
[(5)Purification]増幅したファージを精製した。すなわち、培養後の溶液を新たな50mLチューブに移し、4℃にて3500rpm(2380G)で10分間遠心して菌体を分離した。50mLチューブに3.3mLのPEG/NaClを採り、この上清を加え穏やかに約100回転倒混和し、4℃で一晩静置した。静置後、この溶液を4℃にて3500rpm(2380G)で20分間遠心し、上清を除去した。
【0121】
得られたファージペレットを1mLのTBSに再度溶解させ、1.7mLチューブに移し、遠心機(AR015-24、TOMY)を用いて4℃にて13000rpm(15300G)で10分間遠心した。1.7mLチューブに150μLのPEG/NaClを採り、この上清を加え穏やかに約100回転倒混和し、4℃で1時間静置した。静置後、この溶液を4℃にて13000rpm(15300G)で10分間遠心し、上清を除去した。
【0122】
得られたファージペレットを200μLの0.02%NaN/TBSで溶解させ、この溶液を再度4℃にて13000rpm(15300G)で10分間遠心した。上清を新たな0.6mLチューブに移し、4℃で保存した。
【0123】
[(6)Cloning&DNA sequencing]精製されたファージをクローニングするとともに、そのDNA配列を解析した。すなわち、タイタリングに用いたプレートから滅菌済み爪楊枝を用いて、無作為に青いプラークをピックアップし、LB培地1mL及びE.coli ER2738 O/N培養液10μLを入れた1.7mLチューブに殖菌して、200rpm、37℃で5時間振盪培養した。
【0124】
増幅したファージを含む溶液を4℃にて13000rpm(15300G)で10分間遠心分離した。50mLチューブにLB培地20mL、E.coli ER2738 O/N培養液200μLとファージ溶液10μLを加えて200rpm、37℃で5時間振盪培養した。
【0125】
培養後、溶液を新たな50mLチューブに移し、4℃にて3500rpm(2380G)で10分間遠心して菌体を分離した。PEG/NaClを3.3mL採った50mLチューブに、この上清を加え穏やかに約100回転倒混和し、4℃で12時間静置した。静置後、溶液を4℃にて3500rpm(2380G)で20分間遠心し、上清を除去した。
【0126】
遠心分離により得られたファージペレットを1mLのTBSに再度溶解させ、1.7mLチューブに移し、4℃にて13000rpm(15300G)で10分間遠心した。PEG/NaClを150μL採った1.7mLチューブに、この上清を加え穏やかに約100回転倒混和し、4℃で1時間静置した。静置後、溶液を4℃にて13000rpm(15300G)で10分間遠心して上清を除去した。
【0127】
得られたファージペレットを200μLの0.02%NaN/TBSで溶解させ、再度4℃にて13000rpm(15300G)遠心した。新たな0.6mLチューブに上清を移し、4℃で保存した。
【0128】
ファージのssDNA抽出及び精製はQIAprep Spin M13 Kit(QIAGEN)を用い、Kit付属のプロトコールを一部改変して行った。1.7mLチューブにクローニングにより得られたファージ溶液を100μL採り、M13 Precipitation buffer(Buffer MP)を1.0μL加えてvortexにて混合した。
【0129】
2分以上静置した後にcollection tubeにセットしたQIAprep spin columの膜部分にBuffer MPで沈殿させた溶液をマウントし、遠心機(AR015-24、TOMY)を用いて、4℃にて8000rpm(5900G)で遠心した。さらにLysis and binding buffer(Buffer MLB)を0.7mL加えて4℃にて8000rpm(5900G)で遠心した。再びBuffer MLBを0.7mL加え遠心し、その後、Wash buffer(Buffer PE)を加えて4℃にて8000rpm(5900G)で遠心した。
【0130】
さらに遠心を行い余分な水分を除去した後で、新たな1.7mLチューブにカラムをセットし、滅菌精製水を50μLを加えて10分間静置した後に、4℃にて8000rpm(5900G)で遠心し、ssDNAを溶出させ、4℃で保存した。
【0131】
Sequence PCRはBigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、Kit付属のプロトコールを一部改変して行った。0.2mLのPCR用チューブにReady Reaction premix(Applied Biosystems)1.2μL、BigDye Sequencing Buffer(Applied Biosystems)0.6μL、1pmol/μL−96g3 Sequencing Primer溶液(5’-CCTCATAGTTAGCGTAACG-3’、SIGMA)0.96μL、BigDye Sequencing Buffer(Applied
Biosystems)0.6μL、滅菌精製水2.64μLを混合し、鋳型DNA溶液0.6μLを加えてスピンダウンした。
【0132】
Thermal cycler(PC-320、ASTEC)を用いて96℃、1分(96℃ 10秒、50℃ 5秒、60℃ 4分)]×25cyclesの条件でPCR反応をさせた。PCR反応終了後に再びスピンダウンし、新たな平底チューブに反応溶液を移して、125mMのEDTA(pH8.0)2μL、3MのNaOAc(pH5.2)2μLを順に加えた。さらに95%エタノール50μLを加え軽くvortexで混合した後、室温で15分間インキュベーションした。遠心機(AR002-64、TOMY)を用いて4℃にて13000rpm(15300G)で15分間遠心した。
【0133】
その後、上清を除去し、70%エタノール140μLを加えて4℃にて13000rpm(15300G)で15分間遠心した。再度上清を除去し、20分間遠心エバポレーター(Micro Vac MV-100、TOMY)で乾燥させる操作を液滴の除去が確認できるまで行い、DNAを得た。得られたDNAの塩基配列をApplied Biosystems 3130xl Genetic Analyzer(Applied Biosystems)で解析した。
【0134】
[結果]図4〜図7には、Run1〜Run15で選択されたペプチドのアミノ酸配列を示す。なお、ペプチドを構成するアミノ酸は、次のように1文字表記で示す。A:アラニン(Ala)、V:バリン(Val)、L:ロイシン(Leu)、I:イソロイシン(Ile)、P:プロリン(Pro)、F:フェニルアラニン(Phe)、W:トリプトファン(Trp)、M:メチオニン(Met)、G:グリシン(Gly)、S:セリン(Ser)、T:スレオニン(Thr)、C:システィン(Cys)、Q:グルタミン(Gln)、N:アスパラギン(Asn)、Y:チロシン(Tyr)、K:リシン(Lys)、R:アルギニン(Arg)、H:ヒスチジン(His)、D:アスパラギン酸(Asp)、E:グルタミン酸(Glu)。
【0135】
図4〜図7に示すように、各Runにおいて10〜28個のファージをクローニングした。ペプチド提示ファージの最大出現頻度は3であった(7−4−04)。また、出現頻度が2のクローンが10クローン得られた(1−5−07、2−5−11、3−4−01、4−4−29、5−4−04、5−4−13、6−4−03、7−4−09、8−4−14、13−4−40)。
【0136】
また、条件の異なるパニング間において、複数回出現する配列を提示したクローンが確認された(図4〜図7において、記号「*」と番号とを組み合わせた符号を付した配列)。これらの配列は、出現頻度は高くないもののセルロースIII型に対する結合性を示すファージ、又は何らかの(例えば、増殖速度が速い)理由により非特異的に濃縮したファージ、のいずれかである可能性が考えられた。
【0137】
また、図4〜図7において、記号「#」を付したペプチドは、既にセルロース以外のターゲットに対しアフィニティセレクションされたことが報告されているアミノ酸配列からなるペプチドである。このように様々なターゲットに対し濃縮されているアミノ酸配列は、非特異的な結合に基づき濃縮されたクローンである可能性が高いと考えられた。
【0138】
そこで、これらの点を考慮し、「出現頻度が2以上であるファージクローン又は条件の異なるパニングにおいて複数回出現したファージクローンのうち、そのアミノ酸配列が既に報告されていないペプチドを提示していること」を選択の基準としてクローンをピックアップした。
【0139】
その結果、アミノ酸配列が「ASITHFKSGKSH」であるペプチドを提示するクローン(2−5−11、3−4−01、4−4−23、5−4−04、8−4−21)、アミノ酸配列が「ALHHTTNVPRPA」であるペプチドを提示するクローン(3−4−05、10−4−6)、アミノ酸配列が「TQANAFSPAPRV」であるペプチドを提示するクローン(3−4−13、4−4−31)、アミノ酸配列が「QPFTTSLTPPAR」であるペプチドを提示するクローン(4−4−29)、及びアミノ酸配列が「TLAKMGLSPLHG」であるペプチドを提示するクローン(3−4−05、10−4−6)、アミノ酸配列が「TLAKMGLSPLHG」であるペプチドを提示するクローン(7−4−09)という5つのファージクローンが選択された。
【0140】
これらのクローンが出現したのはRun2〜5、7、8、10の7条件であり、特にアフィニティ時間が30分のRun3、4において比較的高い頻度で出現した。これはアフィニティ時間を長くすることにより、増殖速度が速いペプチドを排除し、より結合性の高いペプチドを提示するファージを選択的に濃縮できた結果と考えられた。
【実施例3】
【0141】
上述の実施例2で選択されたファージクローンが提示する5種類のセルロース結合性ペプチドと、セルロースIII型と、を使用して本方法を実施した。
【0142】
[セルロース結合性ペプチド]9−Fluorenylmethoxycarbonyl(Fmoc)固相合成法より、C末端アミド化ペプチドである5種類のセルロース結合性ペプチドを調製した。すなわち、C13ペプチド(NH−ASITHFKSGKSH−CONH、Mw=1297.66)、C32ペプチド(NH−ALHHTTNVPRPA−CONH、Mw=1311.69)、C37ペプチド(NH−TQANAFSPAPRV−CONH、Mw=1256.64)、C39ペプチド(NH−QPFTTSLTPPAR−CONH、Mw=1313.68)及びC84ペプチド(NH−TLAKMGLSPLHG−CONH、Mw=1222.66)を調製した。
【0143】
ここで、これらのセルロース結合性ペプチドの調製について説明する。なお、NovaSyn(登録商標) TGR resin(0.2mmol amino group/g of resin)、Fmocアミノ酸誘導体、及び2−(1H−benzotriazole−1−yl)−1,1,3,3−tetramethylaminium hexafluorophosphate(HBTU)はNovabiochemより購入した。N−hydroxybenzotiazole(HOBt)はペプチド研究所から購入した。N,N−diisopropylethylamine(DIEA)、N−methyl−2−pyrrolidone(NMP)、piperidine、trifluoroacetic acid(TFA)、N,N−dimethylformamide(DMF)はnacalai tesqueより購入した。triisopropylsilane(TIS)はWakoより購入した。
【0144】
50mLスクリュー管にHOBtを2.2g、HBTUを6.1g採り取り、0.45M HOBt/HBTUとなるようにDMFに溶解した。DIEAストック溶液は0.9MとなるようにNMPで希釈した。Kaiser test試薬はそれぞれ(a)8gフェノール/2mLエタノール、(b)10μL 20mMシアン化カリウム/2mLピリジン、(c)0.5ニンヒドリン/10mLエタノール、の組成で調製した。
【0145】
合成用カラム(PD-10 empty column、GE Healthcare BioSciences)にNovaSyn(登録商標) TGR resinを1バッチにつき約300mg秤量し、NMPを加えて転倒混和した後、NMPを除去した。この操作を再度行い、2mLのNMPを加えローテータを用いて15分間攪拌した後、NMPを除去した。
【0146】
10mLサンプル管にFmocアミノ酸誘導体を所定量秤量し、NMPと、0.45M HOBt/HBTU及び0.9M DIEAをそれぞれresinに対し3当量及び6当量となるように加えて溶解した。この際、液量が2mLになるようNMPの量を調整した。全量を合成用カラムに加え所定時間攪拌した後、反応液を除去した。2mLのNMPを加え転倒混和した後、NMPを除去する操作を5回繰り返し、樹脂を洗浄した。
【0147】
縮合の進行はKaiser Testによりチェックし、アミノ酸の導入を確認した。合成用カラムに2mLの20%Pyperidine(PPD)/NMPを加えて転倒混和した後、反応液を除去した。再度2mLの20%Pyperidine(PPD)/NMPを加えて15分間攪拌した後、反応液を除去した。2mLのNMPを加えて転倒混和した後、NMPを除去する操作を8回繰り返し、樹脂を十分に洗浄した。
【0148】
反応の進行をKaiser Testによりチェックし、Fmoc基の脱保護を確認した。以上の操作を繰り返し、所定のアミノ酸を順次縮合した。最後のアミノ酸のFmoc基を20%PPD/NMPにより除去し、2mLのNMPで8回洗浄後、さらに2mLのジクロロメタンで5回、2mLのメタノールで5回洗浄し、デシケーター内で4時間真空乾燥した。
【0149】
100mLナスフラスコに真空乾燥した樹脂を全量採り、75μLの超純水、75μLのTISを加えた。さらに2.85mLのTFAを加えて室温で2時間攪拌した。この間、反応開始後5分間は窒素ガスをバブリングした。ファルコンチューブにフィルターを用いて反応液を回収した。
【0150】
濾別した樹脂は2mLのTFAで洗浄し、洗浄液は濾液と合わせた。濾液に、氷上で十分冷却したジエチルエーテルを白色沈殿が十分に生じるまで加えた。沈殿懸濁液を2000rpmで2分間遠心した。上清をデカンテーションにより除去し、白色ペレットを得た。
【0151】
ペレットを30mLの冷ジエチルエーテルでピペッティングにより懸濁した後、同様に遠心し上清を除去する操作を4回繰り返し、ペレットを洗浄した。ペレットを氷上で5分間程度静置してペレット表面を乾燥させた後、さらにデシケーター内で2時間真空乾燥し、粗製物(白色固体)を得た。
【0152】
粗製物をオクタデシル化シリカゲルカラム(COSMOSIL 5C18-AR-300、20mm×250mm)を用いた高速液体クロマトグラフィー(ELITE LaChrom:Organizer、UV- detector L-2400、Pump L-2130、Fraction Collector L-5200、HITACHI hightechnologies)により精製した。
【0153】
粗精製物を超純水に溶解して調製したサンプル5mLを0.22μmフィルター(Millex GV、Millipore)で濾過した後にローディングし、流速6.0mL/minでフローした。溶離液はA液(1%アセトニトリル溶液/99%超純水/0.033%TFA溶液)及びB液(80%アセトニトリル溶液/20%超純水/0.033%TFA溶液)の2種類を用い、B液が1%/minで増加するグラジエントを設定した。検出は220nmのUV吸収により行い、目的物をフラクションコレクターを利用して分取した。
【0154】
30℃で10分間エバポレートすることにより有機溶媒を除去後、完全に水分が除去されるまで(24〜48時間)、凍結乾燥機(FD-1000、EYELA)を用いて凍結乾燥し、白色粉末を得た。
【0155】
生成物はMALDI−TOF MS(autflex II TOF/TOF、Bruker Daltoniks)による分子量測定により同定した。マトリックス溶液はProteoMassTM Peptide and Protein MALDI−MS calibration Kit(Sigma)に付属のα−Cyano−4−hydroxy−cinnamic acidをアセトニトリルに溶解して調製した。
【0156】
1μLのマトリックス溶液を測定用プレート(MTP384 target plate polished steel T F Part No.: 209520、Bruker Daltonics)の上にマウントし、風乾後、1μLの20pmol/μLペプチド溶液及びキット付属の内部標準液(Bradykinin fragment Mw=757.40、Angiotensin II (human) Mw=1046.54、P14R Mw=1533.86)を同様にマウントして結晶化するまで風乾した。測定条件はPositive modeとし、その他の条件は標準的な設定で行った。
【0157】
[1×AB]上述の実施例1と同様に、1×AB(50mM Acetate Buffer、pH5.0)を調製した。
【0158】
[1×ABS]30mLの1×ABに3MのNaClを8.34mL加え、1×ABで50mLにメスアップすることにより、1×ABS(50mM Acetate Buffer、500mM NaCl、pH5.0)を調製し、4℃で保存した。
【0159】
[10×MB]53.3gのMES(2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid、nacalai tesuque)を400mLの超純水に溶解させ、4MのNaOHでpHが6.0又は7.0となるように調製した後、超純水で500mLにメスアップすることにより、10×MB(500mM MES Buffer、pH6.0又は7.0)を調製し、500mL広口メディウム瓶に移して4℃で保存した。1×MBは、10×MBを超純水で10倍に希釈して調製し、4℃で保存した。
【0160】
[1×MBS]5mLの10×MBに3MのNaClを8.34mL加え、超純水で50mLにメスアップすることにより1×MBS(50mM MES Buffer、500mM NaCl、pH6.0又は7.0)を調製し、4℃で保存した。
【0161】
[10×HB]58.0gのHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid、nacalai tesuque)を超純水70mLに溶解させ、4MのNaOHでpHが8.0となるように調製した後、超純水で100mLにメスアップすることにより10×HB(500mM HEPES Buffer、pH8.0)を調製し、250mL広口メディウム瓶に移して4℃で保存した。1×MEPESはこの溶液を超純水で10倍に希釈して調製し、4℃で保存した。
【0162】
[1×HBS]5mLの10×HBに3MのNaClを8.34mL加え、超純水で50mLにメスアップすることにより1×HBS(50mM HEPES Buffer、500mM NaCl、pH8.0)を調製し、4℃で保存した。
【0163】
[HPLC及びMALDI−TOF MSを用いた解析]セルロースIII型とセルロース結合性ペプチドとを含有するセルロース/ペプチド溶液を調製するとともに、当該セルロース/ペプチド溶液をインキュベーションした。図8に、これらの操作の概要を示す。
【0164】
まず、1.7mLチューブに上述の実施例1で調製したセルロースIII型懸濁液を1mL採取し、遠心機(MX-301、TOMY)を用いて、室温にて15000rpmで10分間遠心した。次いで、セルロースIII型懸濁液の上清を660μL除去した後、50mMの酢酸緩衝液(acetate buffer)を660μL加えてピペッティングすることにより、セルロースIII型を酢酸緩衝液に再分散させた。この操作をもう一度行い、セルロースIII型を所定濃度で含有する酢酸緩衝液からなるセルロース溶液を調製した。
【0165】
一方、5種類のセルロース結合性ペプチドの各々を50mMの酢酸緩衝液100μLに溶解し、さらに酢酸緩衝液で希釈して、当該セルロース結合性ペプチドを所定濃度で含有する酢酸緩衝液からなるペプチド溶液を調製した。
【0166】
次いで、セルロース/ペプチド溶液を調製した。すなわち、所定量のセルロース溶液と所定量のペプチド溶液とを200μLのPCRチューブ内で混合し、0.5wt%のセルロースと10μMのセルロース結合性ペプチドとを含有する50mM酢酸緩衝液(pH5.0)からなるセルロース/ペプチド溶液を200μL調製した。
【0167】
さらに、セルロース/ペプチド溶液のインキュベーションを行った。すなわち、セルロース/ペプチド溶液を所定回数ピペッティングし、30℃で所定時間インキュベートした。
【0168】
そして、セルロース/ペプチド溶液から、部分ペプチドを含有する上清及び処理セルロースを含有する沈殿物をそれぞれ回収した。すなわち、インキュベート後、遠心機(MX-301、TOMY)を用いて、セルロース/ペプチド溶液を室温にて15000rpmで10分間遠心した。セルロース/ペプチド溶液の上清(以下、「上清サンプル」という。)を100マイクロL採取し、新しい96穴プレートのウェルに移した。一方、インキュベーション後のセルロース/ペプチド溶液を遠心して得られた、処理セルロースを含有する沈殿物を回収した。
【0169】
次に、採取された上清サンプルをHPLC及びMALDI−TOF MSにて解析した。各上清サンプルにつき解析は3回行った(n=3)。
【0170】
RP−HPLC(LC-20AD Prominence、SHIMAZU)に10μLの上清サンプルをローディングし、流速1.0mL/minでフローした。カラムはCOSMOSIL 5C18−AR−300 Packed Column(4.6mm×150mm、nacalai tesque)を用いた。溶離液はA液(100%超純水/0.1%TFA溶液)及びB液(100%アセトニトリル溶液/0.1%TFA溶液)の2種類を用いた。カラムオーブンは35℃とし、検出はコロナ荷電化粒子検出器(コロナCAD、ESA Biosciences)を用いた。
【0171】
また、比較のために、10μMのセルロース結合性ペプチドを含有しセルロースを含有しない50mM酢酸緩衝液(pH5.0)からなる対照溶液を調製した。そして、この対照溶液についても、同様にHPLC解析を行った。
【0172】
また、HPLCによる解析で使用後の上清サンプルの100μLを1.7mLチューブに採取した。Zip−Tip(ZTC18S、Millipore)に70%アセトニトリルを10μL採取し3回吸引、排出を行い湿潤化および脱気を行った。0.1%TFAで3回吸引、排出を行いZip−Tipを平衡化した。1.7mLチューブに採取しておいた上清サンプルを10μL採取し、別の新しい1.7mLチューブに移して、Zip−Tipへのサンプル吸着を行った。この操作を10回繰り返した。
【0173】
0.1%TFAを3回吸引、排出しZip−Tipを洗浄した。70%アセトニトリルを樹脂充填量の2倍まで吸引し、新たな1.7mLチューブで排出、吸引を3回繰り返した後に排出し、サンプルを溶出した。
【0174】
その後、MALDI−TOF MS(autflex II TOF/TOF、Bruker Daltoniks)を用いた解析を行い、上清サンプルに含有されていた物質の分子量測定を行った。測定条件は、上述の調製されたセルロース結合性ペプチドについて行った場合と同様であった。
【0175】
[結果]図9及び図10には、C13ペプチドとセルロースIII型とを24時間インキュベーションした後に採取された上清サンプルについて、HPLC解析で得られたクロマトグラム及びMALDI−TOF MS解析で得られたマススペクトルをそれぞれ示す。なお、図9においては、上清サンプルの解析結果を実線で示し、対照溶液の解析結果を点線で示している。
【0176】
図11には、C13ペプチドとセルロースIII型とを2時間、6時間、11時間、18時間又は24時間インキュベーションした後に採取された各上清サンプルと対照溶液とについて、HPLC解析で得られたクロマトグラムを示す。
【0177】
図12及び図13には、C13ペプチドとセルロースIII型とを2時間、6時間、11時間、18時間又は24時間インキュベーションした後に採取された各上清サンプルについて、当該各上清サンプルにおいて検出され帰属されたペプチドの含有量(nmol)を示す。なお、ペプチドの含有量は、上述のHPLC解析の結果及び検量線に基づいて算出した。すなわち、まず、MALDI−TOF MS解析により分解物として同定された化学構造をもつペプチドを、標準サンプルとして別個に化学合成した。次いで、このペプチドの系列希釈溶液(0.6−20μMの範囲の6種類のペプチド濃度)を調製した。そして、これらの溶液のHPLC解析を実施し、得られたクロマトグラムにおけるピーク面積値を算出した。算出されたピーク面積値と溶液中のペプチド濃度との相関関係を示すグラフを検量線として作成し、当該検量線として使用することで、分解物の生成量を算出した。
【0178】
図9に示すように、50mMの酢酸緩衝液(pH5.0)中において、C13ペプチドとセルロースIII型とを混合して30℃で24時間インキュベーションした後の上清サンプルのHPLCクロマトグラムにおいて、セルロースを含有しない対照溶液と比較して、当該C13ペプチドのピーク面積が顕著に減少した。このピーク面積の減少は、上清に残存するC13ペプチドの量が減少したことを示していると考えられた。
【0179】
さらに、図11に示すように、このC13ペプチドのピーク面積の減少は、セルロースとのインキュベーション時間に依存していた。すなわち、C13ペプチドのピーク面積は、インキュベーション時間が長くなるにつれて減少した。
【0180】
一方、図9及び図11に示すように、上清サンプル中には、対照溶液では検出されない、保持時間の異なるピークが複数観察された。実際、図10に示すように、MALDI−TOF MS解析により、上清サンプル中には、C13ペプチド由来の分解物と思われる複数の部分ペプチドが確認された。
【0181】
すなわち、上清サンプル中には、C13ペプチド(NH−ASITHFKSGKSH−CONH)に加え、当該C13ペプチドのC末端側のアミノ酸が2〜6個欠如した5種類の部分ペプチドが検出され帰属された。
【0182】
具体的に、C13ペプチドのC末端側のアミノ酸が2個欠如した部分ペプチドa(NH−ASITHFKSGK−COOH)、当該C13ペプチドのC末端側のアミノ酸が3個欠如した部分ペプチドb(NH−ASITHFKSG−COOH)、当該C13ペプチドのC末端側のアミノ酸が4個欠如した部分ペプチドc(NH−ASITHFKS−COOH)、当該C13ペプチドのC末端側のアミノ酸が5個欠如した部分ペプチドd(NH−ASITHFK−COOH)及び当該C13ペプチドのC末端側のアミノ酸が6個欠如した部分ペプチドe(NH−ASITHF−COOH)が生成されているのが確認された。
【0183】
そして、図12及び図13に示すように、上清サンプル中において、C13ペプチドの含有量はインキュベーション時間に伴い減少したのに対して、5種類の部分ペプチドa〜eの含有量はインキュベーション時間に伴い増加する傾向が見られた。すなわち、セルロース/ペプチド溶液の上清中においては、セルロース結合性ペプチドの切断が進行し、部分ペプチドが徐々に濃縮された。
【0184】
特に、部分ペプチドcの含有量は、他の部分ペプチドに比べて顕著に高く、インキュベーション時間の増加に伴い、略直線的に増加した。すなわち、C13ペプチドをセルロースIII型に作用させることにより、部分ペプチドcを選択的に効率よく生成することができた。
【0185】
また、インキュベーション時間が18時間の時点では、部分ペプチドの含有量は、当初添加されたC13ペプチドの量(2nmol)の25%(0.5nmol)以上に到達した。すなわち、18時間のインキュベーションによって、ペプチド/セルロース溶液における当初の量の25%以上のC13ペプチドが切断されたと考えられた。
【0186】
また、インキュベーション時間の経過に伴って、上清サンプル中に含有されるペプチドの総量(C13ペプチドの量と部分ペプチドの量との総和)が減少した。このことは、上清と分離されたセルロースIII型にC13ペプチド及び部分ペプチドの一方又は両方が結合し残存していることを示しているものと考えられた。
【0187】
このように、C13ペプチドとセルロースIII型との相互作用に伴って、当該C13ペプチドが当該セルロースIII型に結合するのみならず、当該C13ペプチドのペプチド結合の切断が進行した。
【0188】
図14及び図15には、C32ペプチドとセルロースIII型とを24時間インキュベーションした後に採取された上清サンプルについて、HPLC解析で得られたクロマトグラム及びMALDI−TOF MS解析で得られたマススペクトルをそれぞれ示す。なお、図14においては、上清サンプルの解析結果を実線で示し、対照溶液の解析結果を点線で示している。
【0189】
図14に示すように、上清サンプルのHPLCクロマトグラムにおいて、セルロースを含有しない対照溶液と比較して、C32ペプチドのピーク面積が顕著に減少した。
【0190】
そして、図15に示すように、MALDI−TOF MS解析により、上清サンプル中には、C32ペプチド由来の分解物と思われる複数の部分ペプチドが確認された。すなわち、上清サンプル中には、C32ペプチド(NH−ALHHTTNVPRPA−CONH)に加え、当該C32ペプチドのC末端側又はN末端側のアミノ酸が3〜4個欠如した3種類の部分ペプチドが検出され帰属された。
【0191】
具体的に、C32ペプチドのC末端側のアミノ酸が3個欠如した部分ペプチド(NH−ALHHTTNVP−COOH)、当該C32ペプチドのN末端側のアミノ酸が3個欠如した部分ペプチド(NH−HTTNVPRPA−CONH)、当該C32ペプチドのN末端側のアミノ酸が4個欠如した部分ペプチド(NH−TTNVPRPA−CONH)が生成されているのが確認された。
【0192】
図16及び図17には、C37ペプチドとセルロースIII型とを24時間インキュベーションした後に採取された上清サンプルについて、HPLC解析で得られたクロマトグラム及びMALDI−TOF MS解析で得られたマススペクトルをそれぞれ示す。なお、図16においては、上清サンプルの解析結果を実線で示し、対照溶液の解析結果を点線で示している。
【0193】
図16に示すように、上清サンプルのHPLCクロマトグラムにおいて、セルロースを含有しない対照溶液と比較して、C37ペプチドのピーク面積が顕著に減少した。すなわち、24時間のインキュベーションによって、C37ペプチドのピーク面積は消失した(ゼロ%)。
【0194】
一般に、ペプチドのセルロースに対する結合が、単純な吸着反応(平衡反応)に基づくだけであれば、当該ペプチドのピーク面積がゼロになることはない。したがって、C37ペプチドはセルロースIII型に吸着するだけでなく、さらに何らかの反応(例えば、分解)が進んでいると考えられた。なお、このような反応は、今回使用された5種類のセルロース結合性ペプチドの全てに共通して起こっているものと考えられた。
【0195】
そして、図17に示すように、MALDI−TOF MS解析により、上清サンプル中には、C37ペプチド由来の分解物と思われる複数の部分ペプチドが確認された。すなわち、上清サンプル中には、C37ペプチド(NH−TQANAFSPAPRV−CONH)に加え、当該C37ペプチドのC末端側又はN末端側のアミノ酸が3〜4個欠如した2種類のペプチドが検出され帰属された。
【0196】
具体的に、C37ペプチドのC末端側のアミノ酸が3個欠如した部分ペプチド(NH−TQANAFSPA−COOH)、当該C37ペプチドのN末端側のアミノ酸が4個欠如した部分ペプチド(NH−AFSPAPRV−CONH)が生成されているのが確認された。
【0197】
図18及び図19には、C39ペプチドとセルロースIII型とを24時間インキュベーションした後に採取された上清サンプルについて、HPLC解析で得られたクロマトグラム及びMALDI−TOF MS解析で得られたマススペクトルをそれぞれ示す。なお、図18においては、上清サンプルの解析結果を実線で示し、対照溶液の解析結果を点線で示している。
【0198】
図18に示すように、上清サンプルのHPLCクロマトグラムにおいて、セルロースを含有しない対照溶液と比較して、C39ペプチドのピーク面積が顕著に減少した。
【0199】
そして、図19に示すように、MALDI−TOF MS解析により、上清サンプル中には、C39ペプチド由来の分解物と思われる複数の部分ペプチドが確認された。すなわち、上清サンプル中には、C39ペプチド(NH−QPFTTSLTPPAR−CONH)に加え、当該C39ペプチドのN末端側のアミノ酸が1〜5個欠如した5種類のペプチドが検出され帰属された。
【0200】
具体的に、C39ペプチドのN末端側のアミノ酸が1個欠如した部分ペプチド(NH−PFTTSLTPPAR−CONH)、当該C39ペプチドのN末端側のアミノ酸が2個欠如した部分ペプチド(NH−FTTSLTPPAR−CONH)、当該C39ペプチドのN末端側のアミノ酸が3個欠如した部分ペプチド(NH−TTSLTPPAR−CONH)、当該C39ペプチドのN末端側のアミノ酸が4個欠如した部分ペプチド(NH−TSLTPPAR−CONH)、当該C39ペプチドのN末端側のアミノ酸が5個欠如した部分ペプチド(NH−SLTPPAR−CONH)が生成されているのが確認された。
【0201】
図20及び図21には、C84ペプチドとセルロースIII型とを24時間インキュベーションした後に採取された上清サンプルについて、HPLC解析で得られたクロマトグラム及びMALDI−TOF MS解析で得られたマススペクトルをそれぞれ示す。なお、図20においては、上清サンプルの解析結果を実線で示し、対照溶液の解析結果を点線で示している。
【0202】
図20に示すように、上清サンプルのHPLCクロマトグラムにおいて、セルロースを含有しない対照溶液と比較して、C84ペプチドのピーク面積が顕著に減少した。すなわち、24時間のインキュベーションによって、C84ペプチドのピーク面積は消失した(ゼロ%)。
【0203】
そして、図21に示すように、MALDI−TOF MS解析により、上清サンプル中には、C84ペプチド由来の分解物と思われる複数の部分ペプチドが確認された。すなわち、上清サンプル中には、C84ペプチド(NH−TLAKMGLSPLHG−CONH)に加え、当該C84ペプチドのN末端側のアミノ酸が3〜5個欠如した3種類のペプチドが検出され帰属された。
【0204】
具体的に、C84ペプチドのN末端側のアミノ酸が3個欠如した部分ペプチド(NH−KMGLSPLHG−CONH)、当該C84ペプチドのN末端側のアミノ酸が4個欠如した部分ペプチド(NH−MGLSPLHG−CONH)、当該C84ペプチドのN末端側のアミノ酸が5個欠如した部分ペプチド(NH−GLSPLHG−CONH)が生成されているのが確認された。
【0205】
図22には、5種類のセルロース結合性ペプチドの各々について、そのアミノ酸配列と、上述のようにMALDI−TOF MS解析に基づき確認された部分ペプチドのアミノ酸配列と、をまとめて示す。なお、図22に示された部分ペプチド以外に、未だ帰属できていない他の部分ペプチドが生成されている可能性があると考えられた。
【0206】
図22に示すように、本方法によって、セルロース結合性ペプチドを構成するアミノ酸配列の一部からなる特定の部分ペプチドをトップダウンで製造することができた。
【0207】
また、上清中に含有されている部分ペプチドとセルロース結合性ペプチドとの総量は、セルロース/ペプチド溶液に当初含有されていた当該セルロース結合性ペプチドの量の半分未満であった。
【0208】
したがって、セルロース結合性ペプチドのアミノ酸配列のうち、上清中に遊離した部分ペプチドのアミノ酸配列以外の部分からなる他の部分ペプチドは、セルロースIII型に結合して複合体を形成していると考えられた。
【符号の説明】
【0209】
S1 準備工程、S2 インキュベーション工程、S3 回収工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースとセルロース結合性ペプチドとを含有する溶液を調製する第一工程と、
前記溶液をインキュベーションすることにより、前記セルロースを前記セルロース結合性ペプチドで処理するとともに、前記セルロース結合性ペプチドを切断して部分ペプチドを生成する第二工程と、
処理された前記セルロース及び生成された前記部分ペプチドの一方又は両方を回収する第三工程と、
を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記セルロース結合性ペプチドは、アミノ酸残基数が2〜30個の範囲内のペプチドである
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一工程において所定量の前記セルロース結合性ペプチドを含有する前記溶液を調製し、
前記第二工程において前記所定量の20%以上の前記セルロース結合性ペプチドが切断されるまで前記溶液をインキュベーションする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法において、前記セルロースを前記セルロース結合性ペプチドで処理することにより製造された
ことを特徴とするセルロース。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法において、前記セルロース結合性ペプチドを切断することにより製造された
ことを特徴とする処理されたペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−24429(P2011−24429A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170627(P2009−170627)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】