説明

セルロース脂肪酸エステル組成物およびそれからなる繊維およびその製造方法

【課題】 高温染色を行った後も、優れた力学特性と発色性を維持することができ、特にポリエステル繊維との混繊、交編および交織に適したセルロース脂肪酸エステル組成物およびそれからなる繊維およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステル70〜97.5重量%、分子内に水酸基を2以上有する可塑剤2〜25重量%、無水カルボン酸を含む共重合体0.5〜10重量%とを少なくとも含んでなることを特徴とするセルロース脂肪酸エステル組成物であり、このセルロース脂肪酸エステル組成物を溶融紡糸することにより繊維を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温染色を行った後も、優れた力学特性と発色性を維持することができ、特にポリエステル繊維との混繊、交編および交織に適した繊維のためのセルロース脂肪酸エステル組成物およびそれからなる繊維とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステルやセルロースエーテルなどのセルロース系材料は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス系材料として、また自然環境下にて生分解可能な材料として、昨今、大きな注目を集めつつある。加えて、セルロース系材料は屈折率が低いため、それを繊維にした場合には鮮明発色性に優れるという長所も併せ持っている。
【0003】
セルロース系繊維は、溶融紡糸法によって繊維化することはできないため、溶媒を使用する湿式あるいは乾式の製糸方法によって製造されているが、この溶媒には有害なものが多く環境負荷が懸念される。また、溶液紡糸では生産速度が遅く、溶媒の回収による費用増加もあるためコストが高いことも課題である。
【0004】
このため環境負荷の低減および生産性向上を目的として、セルロース脂肪酸エステルを溶融紡糸して繊維を得て、分散染料で染色することにより、発色性に優れた繊維を得る技術が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、セルロース脂肪酸エステルからなる繊維は、それを高温で染色すると、繊維として使用できないほど強度および伸度が大幅に低下するため、ポリエステル繊維などとの同浴染色はできないという課題があった。ちなみに、特許文献1の実施例において、セルロース脂肪酸エステル繊維の染色温度は90℃であり、ポリエチレンテレフタレートの染色温度は130℃である。
【0005】
また別に、溶融紡糸可能なセルロース脂肪酸エステルの一つであるセルロースアセテートプロピオネートを含む組成物に関し、「その他有機系の生分解促進剤、滑剤、耐電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、つや消し剤等の添加剤を配合することは何らさしつかえない」という技術が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この提案では、本発明のように、ある特定の無水カルボン酸を含む共重合体の添加による高温染色における力学特性改善については、何ら示唆されていない。
【特許文献1】特開2004−169242号公報(第5〜8頁)
【特許文献2】特開2004−182979号公報(第10頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、高温染色を行った後も、優れた力学特性と発色性を維持することができ、特にポリエステル繊維との混繊、交編および交織に適した繊維のためのセルロース脂肪酸エステル組成物、およびそれからなる繊維とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のポリマーをセルロース脂肪酸エステルに加えることにより、高温染色後の強度と伸度の大幅な低下を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記の構成を有するものである。
【0008】
本発明の第1の発明は、アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステル70〜97.5重量%と分子内に水酸基を2以上有する可塑剤2〜25重量%と無水カルボン酸を含む共重合体0.5〜10重量%とを少なくとも含んでなることを特徴とするセルロース脂肪酸エステル組成物である。
【0009】
本発明のセルロース脂肪酸エステル組成物の好ましい態様によれば、セルロース脂肪酸エステル組成物の260℃、120s−1での溶融粘度は5〜500Pa・sの範囲である。本発明のセルロース脂肪酸エステル組成物の好ましい態様によれば、前記の無水カルボン酸を含む共重合体は、無水カルボン酸を8〜50重量%共重合している。
【0010】
また、本発明の第2の発明は、アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステル70〜97.5重量%、分子内に水酸基を2以上有する可塑剤2〜25重量%、無水カルボン酸を含む共重合体0.5〜10重量%とを少なくとも含むことを特徴とするセルロース脂肪酸エステル組成物からなる繊維である。
【0011】
また、本発明の第3の発明は、アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステル70〜97.5重量%、分子内に水酸基を2以上有する可塑剤2〜25重量%、無水カルボン酸を含む共重合体0.5〜10重量%とを少なくとも含むセルロース脂肪酸エステル組成物を溶融紡糸することを特徴とするセルロース脂肪酸エステル繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱流動性および曳糸性に優れており、溶融紡糸による繊維化が容易であるセルロース脂肪酸エステル組成物が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、高温染色を行った後も、優れた力学特性と発色性を維持することができ、特にポリエステル繊維との混繊、交編および交織に適しているセルロース脂肪酸エステル組成物からなる繊維が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、セルロース脂肪酸エステル組成物からなる優れた特性を持つ繊維を、生産性が高く環境負荷が低い方法で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のセルロース脂肪酸エステル組成物についてさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明のセルロース脂肪酸エステル組成物は、無水カルボン酸を含む共重合体を0.5〜10重量%の範囲で含有するものである。無水カルボン酸を含む共重合体の含有量が0.5重量%以上では、繊維としたときの高温染色時の強度および伸度低下の改善効果が大きく、また、その含有量が10重量%以下では、曳糸性が十分となり、十分な伸度を有する繊維を得ることができる。セルロース脂肪酸エステル組成物における、無水カルボン酸を含む共重合体の組成物全体に対する含有量は、1重量%以上が好ましい。また、5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。
【0017】
本発明で用いられる無水カルボン酸を含む共重合体は、主鎖に無水カルボン酸を含む共重合ポリマーであり、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、アクリル酸エステル、オレフィンから選ばれる少なくとも1種以上と無水カルボン酸の共重合体であることが好ましい。また、共重合に用いる無水カルボン酸は無水マレイン酸であることが好ましい。
【0018】
本発明で好ましく用いられる無水カルボン酸を含む共重合体中の無水カルボン酸の共重合比率は流動性、得られる繊維の伸度および高温染色時の強伸度低下改善の観点から、8〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜30重量%であり、さらに好ましくは10〜20重量%である。
【0019】
無水カルボン酸を含む共重合体としては、例えば市販のものとしては、スチレンと無水マレイン酸からなる共重合体である「“Dylark”(登録商標)」(NOVA chemicals社製品)などが知られており、本発明ではこれらを好適に用いることができる。
【0020】
本発明の効果は無水カルボン酸を含む共重合体を用いることにより発現する。その理由は定かではないが、無水カルボン酸を含む共重合体は、セルロース脂肪酸エステルの可塑剤である分子内に少なくとも水酸基を2以上有する可塑剤と相互作用を有し、セルロース脂肪酸エステルの繊維構造形成を阻害するためと推測される。
【0021】
本発明のセルロース脂肪酸エステル組成物は、またセルロース脂肪酸エステルを70〜97.5重量%の範囲で含有するものである。セルロース脂肪酸エステルの含有量が70重量%以上では、セルロース脂肪酸エステル組成物からなる繊維が持つ鮮明発色性と吸湿性など効果的に発現され、また97.5重量%以下で、無水カルボン酸を含む共重合体と分子内に少なくとも水酸基を2以上有する可塑剤による高温染色時の共伸度低下の改善効果が顕著に発現される。
【0022】
本発明で用いられるセルロース脂肪酸エステルはアシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18のセルロース脂肪酸エステルである。アシル基の少なくとも一部を炭素数3〜18とすることにより、熱流動性が向上し、分子内に少なくとも水酸基を2以上有する可塑剤、無水カルボン酸を含む共重合体との混練が可能となるのである。
【0023】
アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステルの具体例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレートおよびセルロースブチレートなどを例示することができるが、なかでもセルロースにアシル基の炭素数が2であるアセチル基と炭素数が3であるプロピオニル基が結合したセルロースアセテートプロピオネートおよびセルロースにアシル基の炭素数が2であるアセチル基と炭素数が4であるブチリル基が結合したセルロースアセテートブチレートは、適度な吸湿性や良好な力学特性を有するため、本発明では特に好ましく用いられる。
【0024】
セルロース脂肪酸エステルとして、セルロースアセテートプロピオネートおよび/またはセルロースアセテートブチレートを用いる場合、セルロース脂肪酸エステルの全置換度(DSace+DSacy)は下記式(I)を満たすことが好ましい。すなわち、セルロース脂肪酸エステルの全置換度(DSace+DSacy)が2.0以上2.9以下の範囲にあれば溶融成形に必要な組成物の熱流動性が良好であるため、溶融成形時の着色を防止することができ色調が良好な繊維特性を有する繊維が得られて好ましい。セルロース脂肪酸エステルの全置換度は、より好ましくは2.5以上であり、2.8以下である。
(I)2.9≧DSace+DSacy≧2.0
セルロースエステルの耐熱性の点から、アセチル基の置換度(DSace)とアシル基の置換度(DSacy)は無水カルボン酸を含む共重合体及び分子内に少なくとも水酸基を2以上有する可塑剤との混練性に優れ、かつ繊維および布帛とした場合でも熱軟化温度が高く、適度な吸湿性を有するものとなるため、下記式(II)、(III)を満たすことが好ましい。
(II)1.5≦DSace≦2.5
(III)0.5≦DSacy≦1.5
アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステルの重量平均分子量(Mw)は5.0万〜25.0万であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)が5.0万以上の場合、溶融紡糸して得られるセルロース脂肪酸エステル組成物からなる繊維の機械的特性(特に強度)が高くなり好ましい。また、重量平均分子量(Mw)が25.0万以下で、溶融粘度が下がり、溶融紡糸法による安定した繊維化を行なうことができるため好ましい。良好な機械的特性と安定した溶融紡糸性の観点から、重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは6.0万〜22.0万であり、更に好ましくは8.0万〜20.0万である。重量平均分子量(Mw)とは、GPC測定により算出した値をいい、実施例にて詳細に説明する。
【0025】
本発明のセルロース脂肪酸エステル組成物は、その流動性を高めること及び無水カルボン酸を含む共重合体との相互作用により、高温染色時の強伸度低下を抑制することを目的に分子内に少なくとも水酸基を2以上有する可塑剤2〜25重量%を含む。可塑剤量は、熱流動性の制御および得られる繊維がセルロース脂肪酸エステルとしての特性を維持するという観点から組成物全体に対して5重量%〜20重量%の範囲であることが好ましい。また、可塑剤量は10重量%以上がより好ましく、15重量%以上がより好ましい。
【0026】
本発明で用いられる可塑剤は水溶性可塑剤であることが好ましい。水溶性とは、20〜100℃の温度の水に1重量%以上(10g/L)溶解することをいう。水溶性可塑剤を含んでなるセルロース混合脂肪酸エステル組成物からなる繊維は、衣服等の最終製品になるまでのいずれかの工程中において、有機溶剤を用いなくても水中で水溶性可塑剤を除去することが可能であり、その場合最終製品の耐熱性が向上するという大きな利点を有している。
【0027】
可塑剤としては、セルロース脂肪酸エステルとの相溶性が良く、無水カルボン酸を含む共重合体との相互作用を持つことができる、分子内に水酸基を2以上有する化合物を用いる。可塑剤は分子内に水酸基を5以下有することで無水カルボン酸を含む共重合体との相互作用による溶融粘度の上昇を抑制することができるため好ましい。さらに好ましくは3以下である。可塑剤はグリセリン骨格を有したエステル化合物やポリアルキレングリコール、カプロラクトン系化合物などが好ましく用いられ、ポリアルキレングリコールが特に好ましい。
【0028】
具体的なグリセリン骨格を有したエステル化合物としては、グリセリンステアレート、グリセリンパルミテート、グリセリンラウレート、グリセリンカプレート、グリセリンオレート、ジグリセリンジアセテート、ジグリセリンジプロピオネート、ジグリセリンジブチレート、ジグリセリンジカプリレートおよびジグリセリンジラウレートなどが挙げられるが、これらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0029】
ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、平均分子量が好ましくは200〜4000であるポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどが挙げられるが、これらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。ポリアルキレングリコールの平均分子量は400〜1000がより好ましい。
【0030】
また、本発明のセルロース脂肪酸エステル組成物は、安定した溶融紡糸を可能とするため、適度な流動性を有している必要があり、260℃、120s−1での溶融粘度が好ましくは5〜500Pa・sの範囲であり、より好ましくは10〜300Pa・sの範囲であり、さらに好ましくは50〜250Pa・sの範囲である。260℃、120s−1での溶融粘度は、毛管形レオメーターで求める値であり、実施例で詳細に説明する。
【0031】
本発明のセルロース脂肪酸エステル組成物は、ホスファイト系着色防止剤を含有していることが好ましい。ホスファイト系着色防止剤を含有している場合、紡糸温度が高い範囲においても着色防止効果が非常に顕著であり、得られる繊維の色調が良好になる。
【0032】
具体的なホスファイト系着色防止剤の具体例としては、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル−4−メチル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、ビス(2.6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2−t―ブチル−4−クミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(4−t−ブチル−2−クミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2.6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2.4−ジ−t−ブチル−6−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましいがこれに限定されない。
【0033】
ホスファイト系着色防止剤の配合量は、セルロース脂肪酸エステル組成物に対して0.005重量%〜0.5重量%の範囲であることが好ましい。配合量を0.005重量%以上とすることで加熱時のセルロース脂肪酸エステル組成物の着色を抑制することができる。ホスファイト系着色防止剤の配合量は、より好ましくは0.01重量%以上であり、さらに好ましくは0.05重量%以上である。一方、ホスファイト系着色防止剤の配合量を0.5重量%以下とすることにより、セルロースエステルの分子鎖を切断し重合度を低下することによる劣化を抑制することができ、得られる繊維の機械的特性が良好となる。ホスファイト系着色防止剤の配合量は、より好ましくは0.3重量%以下であり、さらに好ましくは0.2重量%以下である。
【0034】
本発明のセルロース脂肪酸エステル組成物は、上述した成分以外にも、アシル基が異なる脂肪酸エステルを含む他の樹脂や、各種の添加剤、例えば、艶消し剤、消臭剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、酸化防止剤、着色顔料、静電剤、抗菌剤等酸化防止剤、難燃剤および滑剤等の添加剤を含んでいても構わない。
【0035】
次に、本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維について説明する。
【0036】
本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維は、アシル基の一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステル70〜97.5重量%、分子内に少なくとも水酸基を2以上有する可塑剤2〜25重量%、無水カルボン酸を含む共重合体0.5〜10重量%を少なくとも含むセルロース脂肪酸エステル組成物からなるものである。本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維は、このようなセルロース脂肪酸エステル組成物を用いることで、高温染色を行った後も、優れた力学特性と発色性を維持することができる。セルロース脂肪酸エステル、分子内に水酸基を2以上有する可塑剤および無水カルボン酸を含む共重合体の詳細は前述した組成物と同じである。
【0037】
また、本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維は、前述したホスファイト系着色防止剤を含んでいても構わず、発明の主旨を損ねない範囲でその他の樹脂や添加剤を含んでいても構わない。
【0038】
セルロース脂肪酸エステル繊維の単繊維繊度は、0.1〜20dtexであることが好ましく、単繊維繊度がこの範囲であれば、染色により鮮明で深みのある発色性が得られ、かつ繊維としてのソフト感にも優れている。本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維は、この単繊維繊度であれば、モノフィラメントでもマルチフィラメントでも良く、また、長繊維以外に短繊維(ステープル)でも構わない。
【0039】
また、本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維は、繊維の断面形状に関して特に制限がなく、真円状の円形断面であっても良いし、また、多葉形、扁平形、楕円形、W字形、S字形、X字形、H字形、C字形、田字形、井桁形および中空などの異形断面糸でも良い。
【0040】
本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維の物性は、特に限定されるものではないが、高次加工での工程通過性などの観点から、強度0.5〜2.0cN/dtexが好ましく、0.8cN/dtex以上2.0cN/dtex以下がさらに好ましい。また、伸度が8〜60%であることが好ましく、10%以上がさらに好ましい。
【0041】
また、本発明の120℃の染色浴で染色を行った後のセルロース脂肪酸エステル繊維の物性は、特に限定されるものではないが、衣類等で実用に耐えうる物性を有するという観点から、強度0.5〜2.0cN/dtexが好ましく、0.8cN/dtex以上2.0cN/dtex以下がさらに好ましい。また、伸度が8〜60%であることが好ましく、10%以上60%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維は、一般の繊維と同様に延伸や仮撚などの加工が可能である。また、製織や製編についても、一般の繊維と同等に扱うことができる。
【0043】
本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維は、高温染色が可能であるため、特にポリエステル繊維との混用が可能である点が大きな特徴である。他種繊維の混用の形態としては、混繊、混紡、交織および交編などの手法が採用される。従来のセルロース繊維は、熱軟化性に乏しく、加熱加工に適さなかったが、本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維はそれが可能であるため、混繊仮撚加工などが可能であるという利点を有している。
【0044】
本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維について、染色方法は特に制限されず、チーズ染色、液流染色およびドラム染色などの手法を採用することができる。染料はアセテート用およびポリエステル用分散染料を好適に用いることができる。染色温度も特に限定されないが80〜140℃の温度であれば、発色性と力学特性に優れた繊維または布帛を得ることができる。
【0045】
次に、本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維の製造方法について説明する。
【0046】
ポリマーとしてはアシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステル70〜97.5重量%、分子内に水酸基を2以上有する可塑剤2〜25重量%、無水カルボン酸を含む共重合体0.5〜10重量%とを少なくとも含むセルロース脂肪酸エステル組成物が用いられる。これらの成分は、例えば、2軸混練機などを用いて、溶融紡糸を行う前に混練しても構わないし、溶融紡糸を行う際にスタティックミキサーなどを用いて混合しても構わない。セルロース脂肪酸エステル、分子内に水酸基を2以上有する可塑剤、無水カルボン酸を含む共重合体の詳細は、前述した本発明のセルロース脂肪酸エステル組成物と同じである。
【0047】
また、このセルロース脂肪酸エステル組成物は、前述したホスファイト系着色防止剤を含んでいても構わず、発明の効果を損ねない範囲でその他の樹脂や添加剤を含んでいても構わない。
【0048】
本発明では、溶融紡糸を行う前に、このセルロース脂肪酸エステル組成物を乾燥させ、組成物の含水分率を0.03〜0.3%としておくことが好ましい。含水分率が0.03%以上にすることで、組成物の乾燥後の取り扱いが容易になり好ましい。含水分率が0.3%以下である場合、溶融紡糸時、水分により発泡することもなく、安定して紡糸を行うことができ、得られるマルチフィラメント等の繊維の機械的特性も良好となる。含水分率は、より好ましくは0.2%以下であり、さらに好ましくは0.1%以下であり、最も好ましくは0.08%以下である。
【0049】
本発明では、このセルロース脂肪酸エステル組成物を、溶融紡糸して繊維を得ることができる。溶融紡糸を行うことにより、セルロース脂肪酸エステル組成物の溶融状態から冷却固化に至るまでに十分に発達した繊維構造を形成させることが可能となり、加えて環境負荷が小さく、生産性にも優れる。溶融紡糸の方法としては、例えば、エクストルーダーを用いた押出などを好適な手段として採用することができる。
【0050】
溶融紡糸における紡糸温度は220℃〜280℃の範囲であることが好ましい。紡糸温度を220℃以上とすることにより、紡糸口金より吐出された繊維糸条の伸長粘度が十分に低下するため、メルトフラクチャー(紡糸口金孔通過時においてポリマーの剪断応力が高いと流線乱れが発生し、紡糸口金より吐出された糸条の形状が不規則になる現象)起因の短ピッチの周期斑が現れず、均一な繊維を得ることができる。更には紡糸口金より吐出された繊維糸条の細化過程がスムーズになるため、繊維特性が良好となり、また紡糸張力が過度に高くならないため糸切れが多発せず、製糸性が安定する。また、紡糸温度を280℃以下とすることにより、セルロース脂肪酸エステル組成物の熱分解を抑制することができるため、得られる繊維の分子量低下による機械的特性不良や着色による品位悪化が発生しない。紡糸温度は、より好ましくは230℃〜270℃であり、さらにより好ましくは240℃〜260℃である。
【0051】
紡糸された繊維の引取方法は、特に制限されるものではなく、回転するローラーを用いて引き取っても良いし、ネットなどで捕集しても構わない。ローラーを用いて引き取る場合の紡糸速度は500m/min〜3000m/minであることが好ましい。紡糸速度を500m/min〜3000m/minとすることにより、発達した繊維構造を形成することが可能となり、繊維特性に優れた繊維を得ることができる。紡糸速度は、より好ましくは1000m/min〜2500m/minである。また、繊維を引き取った後に連続して延伸を施し、巻き取っても構わない。
【0052】
本発明によって得られるセルロース脂肪酸エステル繊維の物性は、特に限定されるものではないが、高次加工での工程通過性などの観点から、強度0.5〜2.0cN/dtexが好ましく、0.8cN/dtex以上2.0cN/dtex以下がさらに好ましい。また、伸度が8〜60%であることが好ましく、10%以上60%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維の製造方法に関して最も好適な例は、アセチル基の置換度(DSace)が1.8〜2.4であり、プロピオニル基の置換度(DSacy)が0.5〜0.8であり、重量平均分子量が8万〜20万のセルロースアセテートプロピオネート70〜85重量%、平均分子量が200〜4000であるポリエチレングリコール10〜25重量%、無水カルボン酸を含む共重合体0.5〜10重量%およびホスファイト系着色防止剤0.05〜0.2重量%を2軸エクストルーダーにより200〜240℃の温度で溶融混練し、ペレット化した後、乾燥し、エクストルーダータイプの紡糸機によって、紡糸温度240〜260℃、引取速度1000〜2500m/minで溶融紡糸を行い、油剤を付着させた後巻き取ってパッケージとなし繊維とすることである。
【0054】
本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維は衣料用繊維、産業用繊維および不織布などとして用いることができ、特にポリエステルとの混繊、交編および交織により婦人・紳士衣料やスポーツシャツなどの用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。実施例中の各特性値は、次の方法で求めたものである。
【0056】
(A)セルロース脂肪酸エステルの置換度
乾燥したセルロース混合脂肪酸エステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
【0057】
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/
[{1−(Mwace−(16.00+1.01))×TA}+{1−(Mwacy−(16.00+1.01))×TA}×(Acy/Ace)]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の置換度
DSacy:炭素数3以上のアシル基の置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:炭素数3以上のカルボン酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と炭素数3以上のカルボン酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量。
【0058】
(B)GPCによる重量平均分子量(Mw)測定
セルロース脂肪酸エステルの濃度が0.15重量%となるようにテトラヒドロフランに完全に溶解させ、GPC測定用試料とした。このGPC測定用試料を用い、下記の条件のもと、Waters2690でGPC測定を行い、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。なお測定回数は3回であり、その平均値をMwとした
・カラム :東ソー製TSK gel GMHHR−Hを2本連結
・検出器 :Waters2410 示差屈折計RI
・移動層溶媒:テトラヒドロフラン
・流速 :1.0mL/分
・注入量 :200μL。
【0059】
(C)260℃、120s−1での溶融粘度
東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、L=40mm、D=1mmのダイにて、温度260℃、120s−1(ヘッドスピード10mm/min)で測定した値(Pa・s)をそのまま用いた。なお、樹脂は測定前に80℃の温度にて8hrの減圧乾燥を行い、測定時には熱劣化の影響を避けるため樹脂の充填開始後10min以内に測定を行った。
【0060】
(D)単繊維繊度
長さ100mのかせを作り、重量を測定し100倍することでマルチフィラメントのトータル繊度を測定し、これを単繊維数で除して単繊維繊度を求めた。
【0061】
(E)強伸度
温度20℃、湿度65%の環境下において、島津製作所製オートグラフAG−50NISMS形を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重の示す点の応力(cN)を繊度(dtex)で除した値を強度(cN/dtex)とした。またそのときの伸度を伸度(%)とした。なお測定回数は5回であり、その平均値を強度と伸度とした。
【0062】
(F)強伸度評価
強度が0.8以上2.0cN/dtex以下を○、0.5以上0.8cN/dtex未満を△、0.5cN/dtex未満を×とした。また、伸度が10.0以上60.0%以下を○、8.0以上10%未満を△、8%未満を×とした。△、○が本発明において、問題のないレベルである。
【0063】
[合成例1]
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ、相対粘度13.8)100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃の温度で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、温度が40℃を超えるときは、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃の温度で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃の温度で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル基およびプロピオニル基の平均置換度は各々2.0と0.7であり、重量平均分子量(Mw)は17.8万であった。
【0064】
[合成例2]
セルロースとして相対粘度7.5のものを用い、最終の加熱攪拌を1.5時間行うこと以外は合成例1と同様の手法でセルロースアセテートプロピオネートを得た。アセチル基およびプロピオニル基の平均置換度は各々1.9と0.6であり、重量平均分子量(Mw)は8.2万であった。
【0065】
[合成例3]
反応容器にスチレン104g及び無水マレイン酸1gを添加して攪拌を行い80度で加熱攪拌を行った。ベンゾイルパーオキサイド2.5gのトルエン(17g)溶液と無水マレイン酸15gのトルエン(140g)溶液を13時間かけて連続的に添加した。重合開始13時間後に反応液から未反応物及び溶媒を減圧下でのぞき、スチレンと無水マレイン酸の共重合体(無水マレイン酸含量12重量%)を得た。
【0066】
実施例1
合成例1で製造したセルロースアセテートプロピオネート79.5重量%とスチレン無水マレイン酸共重合体(NOVA chemicals社製「Dylark(登録商標)332」、無水マレイン酸共重合率15重量%)3.0重量%および平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)17.4重量%さらにホスファイト系着色防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーにて230℃の温度で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース脂肪酸エステル組成物ペレットを得た。このペレットの260℃、120s−1での溶融粘度は265Pa・sであった。
【0067】
このペレットを80℃の温度で8時間の真空乾燥を行い(乾燥後の含水分率は600ppm)、紡糸温度260℃にて吐出量10.0g/minの条件で0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を12ホール有した口金より紡出した。この紡出糸条を、温度25℃、風速0.25m/secの冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、1000m/minで回転する第1ゴデットローラーにて引き取った後ワインダーにて巻き取った。製糸性は良好であり、糸切れは発生しなかった。
【0068】
得られた繊維の物性を表1に示すが、良好な強伸度を有していた。この繊維を用いて幅約10cmの筒編みを作製し、70℃×20minの精練の後、160℃×2minの中間セットを行った。これらの工程中に糸のほつれや穴あきは認められず、工程通過性は良好であった。
【0069】
染色は下記の条件で行い、染色後、60℃×20minの還元洗浄を行い、水洗・乾燥した。
・染料 Kayalon Polyester Blue EBL−E
・染料濃度 1.0%owf 、 浴比 1:30
・染色温度 120℃ 、 染色時間 60min
得られた布帛は深い青色を呈していた。また、力学特性を表1に示すが、良好な強伸度を有していた。
【0070】
実施例2
合成例1で製造したセルロースアセテートプロピオネート77.9重量%とスチレン無水マレイン酸共重合体(NOVA chemicals社製「Dylark(登録商標)332」)5.0重量%および平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)17.0重量%を用いたこと以外は、実施例1と同様の手法でセルロース脂肪酸エステル組成物ペレットを得た。このペレットの260℃、120s−1での溶融粘度は265Pa・sであった
これらのペレットを用いて、実施例1と同様の手法で溶融紡糸を行った。製糸性は良好であり、糸切れは発生しなかった。得られた繊維の物性を表1に示すが、良好な強伸度を有していた。
【0071】
これらの繊維を用いて実施例1と同様の手法で筒編みを作製し、染色を行った。工程途中でのほつれ、穴あきは発生せず、得られた布帛は深い青色を呈していた。また、力学特性を表1に示すが、良好な強伸度を有していた。
【0072】
実施例3
合成例3で製造したスチレン無水マレイン酸共重合体を用いたこと以外は、実施例1と同様の組成および手法でセルロース脂肪酸エステル組成物ペレットを得た。このペレットの260℃、120s−1での溶融粘度は145Pa・sであった。
【0073】
これらのペレットを用いて、実施例1と同様の手法で溶融紡糸を行った。製糸性は良好であり、糸切れは発生しなかった。得られた繊維の物性を表1に示すが、良好な強伸度を有していた。
【0074】
これらの繊維を用いて実施例1と同様の手法で筒編みを作製し、染色を行った。工程途中でのほつれ、穴あきは発生せず、得られた布帛は深い青色を呈していた。また、力学特性を表1に示すが、良好な強伸度を有していた。
【0075】
実施例4
合成例2で製造したセルロースアセテートプロピオネートを用いたこと以外は、実施例1と同様の組成および手法でセルロース脂肪酸エステル組成物ペレットを得た。このペレットの260℃、120s−1での溶融粘度は45Pa・sであった。
【0076】
これらのペレットを用い、紡糸温度を250℃としたこと以外は、実施例1と同様の手法で溶融紡糸を行った。製糸性は良好であり、糸切れは発生しなかった。得られた繊維の物性を表1に示すが、良好な強伸度を有していた。
【0077】
これらの繊維を用いて実施例1と同様の手法で筒編みを作製し、染色を行った。工程途中でのほつれ、穴あきは発生せず、得られた布帛は深い青色を呈していた。また、力学特性を表1に示すが、良好な強伸度を有していた。
【0078】
比較例1
合成例1で製造したセルロースアセテートプロピオネート82.0重量%および平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)17.9重量%さらにホスファイト系着色防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を実施例1と同様の方法で混練し、セルロース脂肪酸エステル組成物ペレットを得た。このペレットの260℃、120s−1での溶融粘度は260Pa・sであった。
【0079】
このペレットを用いて、実施例1と同様の手法で溶融紡糸を行った。製糸性は良好であり、糸切れは発生しなかった。得られた繊維の物性を表1に示すが、良好な強伸度を有していた。
【0080】
この繊維を用いて実施例1と同様の手法で筒編みを作製し、染色を行った。しかし染色後の布帛には穴が空いており、得られた布帛はやや白っぽい青色であった。また力学特性を表1に示すが、強伸度は大きく低下しており布帛を手で引っ張るとすぐに裂けてしまう状態であった。
【0081】
比較例2
無水マレイン酸を含む共重合体を加えることなく、ポリスチレンである旭化成社製「“スタイロン”(登録商標)685」を用いたこと以外は、実施例1と同様の手法でセルロース脂肪酸エステル組成物ペレットを得た。このペレットの260℃、120s−1での溶融粘度は240Pa・sであった。
【0082】
このペレットを用いて、実施例1と同様の手法で溶融紡糸を行った。製糸性は良好であり、糸切れは発生しなかった。得られた繊維の物性を表1に示すが、良好な強伸度を有していた。
【0083】
この繊維を用いて実施例1と同様の手法で筒編みを作製し、染色を行った。しかしながら、染色後の布帛には穴が空いており、得られた布帛はやや白っぽい青色であった。また、力学特性を表1に示すが、強伸度は大きく低下しており布帛を手で引っ張るとすぐに裂けてしまう状態であった。
【0084】
比較例3
可塑剤として分子内に水酸基を持たないポリエチレングリコールジメチルエステルを用いた以外は、実施例1と同様の手法でセルロース脂肪酸エステル組成物ペレットを得た。このペレットの260℃、120s−1での溶融粘度は260Pa・sであった。
【0085】
このペレットを用いて、実施例1と同様の手法で溶融紡糸を行った。製糸性は良好であり、糸切れは発生しなかった。得られた繊維の物性を表1に示すが、良好な強伸度を有していた。
【0086】
この繊維を用いて実施例1と同様の手法で筒編みを作製し、染色を行った。しかしながら、染色後の布帛には穴が空いており、得られた布帛はやや白っぽい青色であった。また、力学特性を表1に示すが、強伸度は大きく低下しており布帛を手で引っ張るとすぐに裂けてしまう状態であった。
【0087】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のセルロース脂肪酸エステル繊維は、衣料用繊維、産業用繊維および不織布などとして用いることができ、高温染色が可能であることから特に衣料用繊維として、ポリエステルなどとの混繊、交織および交編に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステル70〜97.5重量%、分子内に水酸基を2以上有する可塑剤2〜25重量%、無水カルボン酸を含む共重合体0.5〜10重量%を少なくとも含んでなることを特徴とするセルロース脂肪酸エステル組成物。
【請求項2】
260℃、120s−1での溶融粘度が5〜500Pa・sの範囲であることを特徴とする請求項1記載のセルロース脂肪酸エステル組成物。
【請求項3】
無水カルボン酸を含む共重合体が無水カルボン酸を8〜50重量%共重合していることを特徴とする請求項1または2記載のセルロース脂肪酸エステル組成物。
【請求項4】
アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステル70〜97.5重量%、分子内に水酸基を2以上有する可塑剤2〜25重量%、無水カルボン酸を含む共重合体0.5〜10重量%とを少なくとも含んでなることを特徴とするセルロース脂肪酸エステル組成物からなる繊維。
【請求項5】
アシル基の少なくとも一部が炭素数3〜18であるセルロース脂肪酸エステル70〜97.5重量%、分子内に水酸基を2以上有する可塑剤2〜25重量%、無水カルボン酸を含む共重合体0.5〜10重量%とを少なくとも含むセルロース脂肪酸エステル組成物を溶融紡糸することを特徴とするセルロース脂肪酸エステル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2007−169504(P2007−169504A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370306(P2005−370306)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/溶融紡糸により得られる天然物由来新規繊維の研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】