説明

セレンの電気化学的測定方法及び装置

【課題】電気化学的手法によるセレン又はセレン化合物の検出・濃度測定を、簡便な操作及び装置で、高精度かつ高感度に行うことができる測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】試料溶液S中のセレンの濃度を、対電極3と、表面が酸素終端化された導電性ダイヤモンド電極2からなる作用電極とを用い電気化学的に測定するに際し、前記試料溶液SのpHを酸性に調整する工程、金の共存下で、前記導電性ダイヤモンド電極2の電位を負電位方向に変動させて、前記導電性ダイヤモンド電極2表面にセレンを電着させる電着工程、及び、前記導電性ダイヤモンド電極2の電位を正電位方向に掃引して、前記導電性ダイヤモンド電極2表面に電着したセレンを前記試料溶液中に溶出させる溶出工程を備えているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気化学的手法によるセレン又はセレン化合物の検出・濃度測定を、簡便な操作及び装置で、高精度かつ高感度に行うことができる測定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セレン(Se)は自然界に広く存在する元素であり、人体においてはグルタチオンペルオキシターゼの構成成分として抗酸化システムにおいて重要な役割を担っている。このため、セレンは微量レベルであれば人体にとって必須元素である。
【0003】
しかしながら、セレンには毒性もあり、過剰摂取すると、爪の変形や脱毛、胃腸障害、下痢、疲労感、焦燥感、末梢神経障害、皮膚症状等の症状を発する。更に、セレンをグラム単位で摂取すると、重症の胃腸障害、神経障害、心筋梗塞、急性の呼吸困難、腎不全等を引き起こす。
【0004】
このようなセレンは、水質汚濁防止法では排水基準が0.1mg/L以下に規制され、下水道法では水質基準が0.1mg/L以下に規制されている。このため、排水のセレンやセレン化合物の検出や濃度測定を、簡便かつ精度良く行う方法が求められている。
【0005】
従来、セレンを検出するには、水素化等の化学反応を伴う前処理を行った上で、原子吸光法やプラズマ発光分光分析(ICP)法が用いられている。
【0006】
また、セレンを電気化学的に検出する方法として、作用電極として金電極が用いられた方法が知られているが(非特許文献1)、セレンに由来する信号は、金等の金属電極では電位窓に近いので、この方法では厳密な定量は困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】土壌中の重金属等の簡易・迅速分析法(http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/chemical/attachement/10_%20heavymetals.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、電気化学的手法によるセレン又はセレン化合物の検出・濃度測定を、簡便な操作及び装置で、高精度かつ高感度に行うことができる測定方法及び装置を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係るセレンの電気化学的測定方法は、試料溶液中のセレンの濃度を、対電極と、表面が酸素終端化された導電性ダイヤモンド電極からなる作用電極とを用い電気化学的に測定する方法であって、前記試料溶液のpHを酸性に調整する工程、金の共存下で、前記導電性ダイヤモンド電極の電位を負電位方向に変動させて、前記導電性ダイヤモンド電極表面にセレンを電着させる電着工程、及び、前記導電性ダイヤモンド電極の電位を正電位方向に掃引して、前記導電性ダイヤモンド電極表面に電着したセレンを前記試料溶液中に溶出させる溶出工程を備えていることを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、酸性下の反応系に金を共存させた状態で、作用電極として表面が酸素終端化された導電性ダイヤモンド電極を用いることにより、100ppb以下の低濃度のセレンであっても、高感度に検出することができる。これは、酸性下ではセレンが安定し導電性ダイヤモンド電極に電着しやすくなる上に、金が電極反応の活性サイトとして触媒的に機能するので、更にセレンの電着が促進され、また、酸素終端化された導電性ダイヤモンド電極は大きな表面双極子モーメントを持つようになり、セレンのピーク電位の位置をシフトさせ、夾雑物質から分離して検出することが可能になるためであると考えられる。
【0011】
なお、pHは0.5〜1.5であることが好ましい。
【0012】
本発明で用いられる導電性ダイヤモンド電極としては、13族又は15族の元素の混入により導電性が付与されたダイヤモンド薄膜を有するものが挙げられ、なかでも、ホウ素、窒素、及び、リンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を混入したものが好ましく、特に、ホウ素を混入したボロンドープダイヤモンド電極が好適である。
【0013】
本発明において、金の共存下で、前記導電性ダイヤモンド電極表面にセレンを電着させるには、前記電着工程に先立って、前記試料溶液に金を添加するか、又は、前記導電性ダイヤモンド電極として、表面に予め金が電着されているものを使用すればよい。
【0014】
本発明に係るセレンの電気化学的測定方法は、例えば以下のような構成を有する測定装置によって実施することができる。金の共存下で、試料溶液中のセレンの濃度を電気化学的に測定するための装置であって、対電極、及び、セレンを電着させるための表面が酸素終端化された導電性ダイヤモンド電極からなる作用電極を内蔵するセルと、前記導電性ダイヤモンド電極の電位を負電位方向に変動させて、前記導電性ダイヤモンド電極表面にセレンを電着させる電位を供給し、次いで、前記導電性ダイヤモンド電極の電位を正電位方向に変動させて、前記導電性ダイヤモンド電極表面に電着したセレンを前記試料溶液中に溶出させる電位を供給する電位変動手段と、前記導電性ダイヤモンド電極の電位の変動に伴う電流変化を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された電流変化から、セレンの濃度を算出する情報処理装置と、を備えていることを特徴とする。このようなセレンの電気化学的測定装置もまた、本発明の1つである。
【0015】
本発明に係る電気化学的測定装置を用いて、金の共存下で、試料溶液中のセレンの濃度を電気化学的に測定するためには、手動で前記試料溶液に金を添加してもよいが、自動的に前記試料溶液に金を添加する金添加手段を備えていてもよく、又は、前記導電性ダイヤモンド電極が、表面に予め金が電着されているものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
このように本発明によれば、電気化学的反応を利用してセレンの検出・濃度測定を行う際に、酸性下の反応系に金を共存させた状態で、作用電極として表面が酸素終端化された導電性ダイヤモンド電極を用いることにより、簡便な操作及び装置で、高精度かつ高感度に、再現性良くセレンの検出・濃度測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気化学的測定装置の概要図である。
【図2】表面が酸素終端化されたボロンドープダイヤモンド電極を用いて、セレン溶液の電気化学的測定を行い得られたボルタモグラムである。
【図3】表面が酸素終端化されていないボロンドープダイヤモンド電極を用いて、セレン溶液の電気化学的測定を行い得られたボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態に係る電気化学的測定装置1は、図1に模式的に示すように、電気化学的測定用のバッチセルを用いたものである。
【0020】
本実施形態に係る電気化学的測定装置1は、表面が酸素終端化されたボロンドープダイヤモンド電極2、対電極3及び参照電極4と、これら3本の電極が内蔵された測定セル5と、を備えており、ボロンドープダイヤモンド電極2、対電極3及び参照電極4は、ポテンショガルバノスタット7に接続され、更にポテンショガルバノスタット7には情報処理装置8が接続されている。また、測定セル5には、試料溶液Sを攪拌する攪拌子6が設けられている。
【0021】
以下に各部を説明する。
ボロンドープダイヤモンド電極2は、絶縁体であるダイヤモンドにホウ素が混入されることにより導電性が付与されたものであり、電気化学的測定装置1において作用電極として機能するものである。高濃度でホウ素をドープしたボロンドープダイヤモンド電極2は、電位窓が広く(酸化電位及び還元電位が広い)、他の電極材料と比較してバックグラウンド電流が低く、酸化還元種に対して感度が高く、金や白金等に比べて電極表面に物理的吸着が生じにくいため酸素・水素発生以外のピークが出にくい、といった優れた性質を有している。また、ボロンドープダイヤモンド電極2は、化学的耐久性、機械的耐久性、電気伝導度、耐腐食性等にも優れている。更に、ボロンドープダイヤモンド電極2はその硬度から化学的・物理的な洗浄を行ないやすく、電極表面を清浄な状態に維持しやすいという利点も有する。
【0022】
ダイヤモンドに導電性を付与するために混入するホウ素の添加量は、ダイヤモンドに導電性を付与できる範囲で適宜決定されればよいが、例えば1×10−2〜10−6Ωcm程度の導電性を与える量であることが好ましい。
【0023】
ボロンドープダイヤモンドそれ自体を基材の支持によらず電極とすることも可能であるが、基材上にボロンドープダイヤモンドの薄膜を形成し、この薄膜に導線を接続させ、電極とすることが好ましい。前記基材としては、Si(例えば、単結晶シリコン)、Mo、W、Nb、Ti、Fe、Au、Ni、Co、Al、SiC、Si、ZrO、MgO、黒鉛、単結晶ダイヤモンド、cBN、石英ガラス等が挙げられ、なかでも単結晶シリコン、Mo、W、Nb、Ti、SiC、単結晶ダイヤモンドが好適に用いられる。
【0024】
ボロンドープダイヤモンド薄膜の厚さは特に限定されないが、1〜100μm程度であることが好ましく、より好ましくは5〜50μm程度である。
【0025】
ボロンドープダイヤモンド電極2の形状としては、棒状又は平面状のいずれでもよい。
【0026】
本実施形態で用いるボロンドープダイヤモンド電極2は、表面が酸素終端化されているものである。ボロンドープダイヤモンド電極2の表面を酸素終端化する方法としては特に限定されないが、例えば、ボロンドープダイヤモンド電極2を陽極酸化する方法が挙げられる。ボロンドープダイヤモンド電極2を陽極酸化する方法としては、空気中に放置する方法、薬品による処理、電気化学的処理等の各種方法を用いることができるが、例えば、アズ・グローン(as grown;基板上に結晶を成長させたままで、その後表面処理等の手を加えていない)状態のボロンドープダイヤモンド電極に3.0Vの電圧を印加して0.1M過酸素酸(HClO)中に10分漬けることにより、陽極酸化することができる。また、その他、酸素プラズマにより処理する等、その他種々の方法によっても酸素終端化することが可能である。
【0027】
対電極3は電解電流を補償するものであり、例えば、白金、炭素、ステンレス、金、ダイヤモンド、SnO等からなる電極を用いることができる。
【0028】
参照電極4としては公知のものを利用することができ、例えば、銀塩化銀電極、カロメル電極、標準水素電極、水素パラジウム電極等を用いることができる。
【0029】
測定セル5は、その内部に試料溶液Sを貯留し、当該試料溶液Sがボロンドープダイヤモンド電極2、対電極3及び参照電極4と接触できるよう構成されているものである。測定セル5は、その内部に試料溶液Sを貯留することができれば材質は特に限定されないが、例えば、できるだけ不純物の溶出を抑えられるポリテトラフルオロエチレン等の樹脂製であることが好ましい。
【0030】
撹拌子6は、測定セル5に貯留された試料溶液Sを撹拌するものである。撹拌子6が試料溶液Sを攪拌することによって、ボロンドープダイヤモンド電極2にセレン及び金を電着させる際の効率が向上する。撹拌子6は、その羽の形状や材質、羽の動作方法は特に限定されないが、試料溶液Sの充分な攪拌が可能であり、かつ不純物や微粉末等の発生や、電極表面からの気泡発生をできるだけ抑制できるものが好ましく、例えば、十字型攪拌子が好適に用いられる。
【0031】
ポテンショガルバノスタット7は、ボロンドープダイヤモンド電極2の電位を参照電極4に対して一定にした状態で、ボロンドープダイヤモンド電極2と対電極3との間に発生した電流を検出し、その検出信号を情報処理装置8に伝達するものである。ポテンシオスタット7は、電位を一定に保つ機能のほか、電位を一定速度で走査したり、指定した電位に一定時間ごとにステップしたりする機能を持つ。これらの機能は、1台に搭載する必要はなく、例えば電位保持機能と電位走査機能が別体に設けてあってもよい。
【0032】
情報処理装置8は、CPUや、メモリ、入出力チャンネル、キーボード等の入力手段、ディスプレイ等の出力手段、A/D変換器、D/A変換器等を備えた汎用乃至専用のものであり、前記CPU及びその周辺機器が、前記メモリの所定領域に格納されたプログラムに従って協働動作することにより、ポテンショガルバノスタット7で検出された信号が解析され、セレンの検出、濃度測定が行われる。なお、情報処理装置8は、物理的に一体である必要はなく、有線又は無線により複数の機器に分割されていてもよい。
【0033】
次に電気化学的測定装置1を用いてストリッピングボルタンメトリーによりセレンを検出する方法について説明する。まず、測定対象のセレンを含有しないキャリア溶液のみを測定セル5に注入し、いわゆるバックグラウンド電流をできるだけ小さくし、かつ安定させる。次に、セレンを含有する試料溶液SにHClを0.1Mとなるように加えpHを1にする。更に、金イオンの濃度が75〜250ppb程度になるようにAuCl(塩酸中で[AuClとして存在)等の金化合物を添加する。なお、当該金は電極反応の活性サイトとして触媒的に機能するものである。このように調整した後の試料溶液Sを測定セル5に注入する。
【0034】
試料溶液Sを攪拌しながら、ポテンシオスタット7を用いてボロンドープダイヤモンド電極2の電位を負電位の方向に変動させて、電位を−0.4Vにすることにより、セレン及び金をボロンドープダイヤモンド電極2の表面に電着させる。そして、電位を−0.4Vにした後は、しばらくの間ボロンドープダイヤモンド電極2の電位を−0.4Vに保持することによりセレンを濃縮し充分に電着させることができる。
【0035】
ボロンドープダイヤモンド電極2の表面にセレン及び金が電着したら、撹拌子6を停止し、ポテンシオスタット7により、ボロンドープダイヤモンド電極2の電位を−0.4Vから正電位方向に+1.4Vまで掃引して、セレンを試料溶液S中に溶出させる。すると、セレンの溶出に伴い電流が発生する。
【0036】
このような電気化学的反応によって発生した電流値(電気信号)はポテンシオスタット7に伝達され各電極における信号の制御・検出が行われる。ポテンシオスタット7で検出された信号は情報処理装置8に送信され、予め作成されたセレンの濃度と電流値との検量線と、得られた電流値とが対比されて、試料溶液中のセレン濃度が算出される。
【0037】
電位の掃引が終わったあと、ボロンドープダイヤモンド電極2の電位を+1.0Vで保持することにより、電着した金及び残留セレンは溶出するので、ボロンドープダイヤモンド電極2を測定前の状態に戻して再生することができ、同じ電極を繰り返し使用することが可能となる。ボロンドープダイヤモンド電極2の再生は、一定電位の保持のみだけでなく、広い電位で繰り返し掃引を行うことによっても可能である。
【0038】
以上のようにして電気化学的測定装置1を用いてストリッピングボルタンメトリーによりセレンを検出したボルタモグラムを図2に示し、比較のために表面が酸素終端化されていないボロンドープダイヤモンド電極を用いた以外は図2と同様にして得られたボルタモグラムを図3に示す。なお、いずれもセレン100ppbと金250ppbとを含有する試料溶液Sを用いてサイクリックボルタンメトリーを行った。
【0039】
図2及び図3に示す結果より、表面が酸素終端化されたボロンドープダイヤモンド電極2を用いると、セレンに由来するピークと金に由来するピークとを明瞭に分離することができるが、表面が酸素終端化されていないボロンドープダイヤモンド電極を用いた場合は、セレンに由来するピークと金に由来するピークとを明瞭に分離することができなかった。
【0040】
このように構成された本実施形態によれば、酸性下の反応系に金を共存させた状態で、作用電極として表面が酸素終端化されたボロンドープダイヤモンド電極2を用いることにより、酸性下ではセレンが安定してボロンドープダイヤモンド電極2に電着しやすくなる上に、金が電極反応の活性サイトとして触媒的に機能するので、更にセレンの電着が促進され、また、酸素終端化されたボロンドープダイヤモンド電極2は大きな表面双極子モーメントを持つようになり、セレンのピーク電位の位置をシフトさせ、夾雑物質から分離して検出することが可能となるので、100ppb以下の低濃度のセレンであっても、高感度に検出することができる。
【0041】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0042】
例えば、試料溶液Sに金を添加する代わりに、ボロンドープダイヤモンド電極2として、酸素終端化処理後、表面に予め金を電着したボロンドープダイヤモンド電極(BDD−Au電極)を用いてもよい。なお、この際、金の電着量は、金がボロンドープダイヤモンド電極の表面全体を覆うのではなく、ボロンドープダイヤモンドの地肌が見える程度の量とするのが好ましい。この様にすることによってボロンドープダイヤモンドの特質を保持しながら、セレンの電極反応を促進することができる。これに対して、金がボロンドープダイヤモンドの表面を全部覆っていると、ボロンドープダイヤモンドの特性が発揮されず、感度が低くなる。
【0043】
また、測定セル5に自動的に金化合物を供給する自動金供給機が設けられていてもよい。
【0044】
更に、測定セル5はバッチ型に限定されず、ストップドフロー型の測定セル5を有する電気化学的測定装置1を使用してもよい。
【0045】
また、前記実施形態に係る電気化学的測定装置1は、ボロンドープダイヤモンド電極2、対電極3及び参照電極4が備わった三電極法による測定を行うものであるが、本発明に係る測定方法を実施するための電気化学的測定装置1としては、ボロンドープダイヤモンド電極2及び対電極3のみを備えた二電極法によるものであってもよい。三電極法の方が、ボロンドープダイヤモンド電極2と対電極3との間に印加する電圧の絶対値を制御することができるので、精度及び感度の高い測定を行うことが可能であるが、二電極法によれば、用いる電極がボロンドープダイヤモンド電極2及び対電極3の2電極ですむので、測定セル5の構造を単純化、小型化することができ、測定セル5をチップ化し使い捨てとすることも可能で、より簡便な測定を行いうる。
【0046】
その他、電気化学的測定装置1は、上述のセレンの電気化学的測定が実施可能なものであれば、専用装置であっても汎用装置を組み合わせたものであってもよく、装置の形状や、セル容量、電極サイズ等は特に限定されない。
【0047】
試料溶液Sへの金の添加や、pHの調整は、試料溶液Sを測定セル5に注入する前に予め行わなくとも良く、測定セル5中で行っても良い。また、電気化学的測定装置1は、試料溶液Sを測定セル5に注入する前に金の添加や、pHの調整を行う調整槽を別途有していてもよい。
【0048】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0049】
1・・・電気化学的測定装置
2・・・ボロンドープダイヤモンド電極
3・・・対電極
4・・・参照電極
5・・・測定セル
6・・・撹拌子
7・・・ポテンシオスタット
8・・・情報処理装置
S・・・試料溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液中のセレンの濃度を、対電極と、表面が酸素終端化された導電性ダイヤモンド電極からなる作用電極とを用い電気化学的に測定する方法であって、
前記試料溶液のpHを酸性に調整する工程、
金の共存下で、前記導電性ダイヤモンド電極の電位を負電位方向に変動させて、前記導電性ダイヤモンド電極表面にセレンを電着させる電着工程、及び、
前記導電性ダイヤモンド電極の電位を正電位方向に掃引して、前記導電性ダイヤモンド電極表面に電着したセレンを前記試料溶液中に溶出させる溶出工程を備えていることを特徴とするセレンの電気化学的測定方法。
【請求項2】
前記電着工程に先立って、前記試料溶液に金を添加する工程を備えている請求項1記載のセレンの電気化学的測定方法。
【請求項3】
前記導電性ダイヤモンド電極が、表面に予め金が電着されているものである請求項1記載のセレンの電気化学的測定方法。
【請求項4】
前記導電性ダイヤモンド電極が、ボロンドープダイヤモンド電極である請求項1、2又は3記載の電気化学的測定方法。
【請求項5】
金の共存下で、試料溶液中のセレンの濃度を電気化学的に測定するための装置であって、
対電極、及び、セレンを電着させるための表面が酸素終端化された導電性ダイヤモンド電極からなる作用電極を内蔵するセルと、
前記導電性ダイヤモンド電極の電位を負電位方向に変動させて、前記導電性ダイヤモンド電極表面にセレンを電着させる電位を供給し、次いで、前記導電性ダイヤモンド電極の電位を正電位方向に変動させて、前記導電性ダイヤモンド電極表面に電着したセレンを前記試料溶液中に溶出させる電位を供給する電位変動手段と、
前記導電性ダイヤモンド電極の電位の変動に伴う電流変化を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された電流変化から、セレンの濃度を算出する情報処理装置と、を備えていることを特徴とする電気化学的測定装置。
【請求項6】
前記試料溶液に金を添加する金添加手段を備えている請求項5記載の電気化学的測定装置。
【請求項7】
前記導電性ダイヤモンド電極が、表面に予め金が電着されているものである請求項5記載の電気化学的測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−24581(P2013−24581A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156441(P2011−156441)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り http://www.hindawi.com/journals/ijelc/aip/758708/平成23年5月22日
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)