説明

セレンテラミド又はその類縁体の製造方法

【課題】高収率なセレンテラミド又はその類縁体の製造方法などが求められていた。
【解決手段】O−メチルセレンテラミン又はその類縁体を、4−メトキシフェニルアセチルハライド又はその類縁体に反応させることを含む、ジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体の製造方法。及び、ジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体を脱メチル化することを含む、セレンテラミド又はその類縁体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレンテラミド又はその類縁体の製造方法、及び緑色蛍光蛋白質(gFP)の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
生物発光に関与する蛋白質の一つに、カルシウム結合型発光蛋白質がある。この発光蛋白質は、Ca2+と特異的に結合し瞬間的に発光する。カルシウム結合型発光蛋白質は、酸素添加機能をもつ蛋白質と発光基質であるルシフェリンのペルオキシドを含む複合体である。カルシウム結合型発光蛋白質において、酸素添加機能をもつ蛋白質はアポ蛋白質とよばれる。また、ルシフェリンのペルオキシドは、セレンテラジンペルオキシド(2-hydroperoxycoelenterazine)である。このようなカルシウム結合型蛋白質としては、具体的には、イクオリン(aequorin)、クライティン−I(clytin-I)、クライティン−II(clytin-II)、マイトロコミン(mitrocomin)、及びオベリン(obelin)などの腔腸動物由来のものが知られている。
【0003】
このうち、イクオリンは、発光クラゲであるオワンクラゲ(Aequorea aequorea)から単離された発光蛋白質である(非特許文献1:Shimomura, In: Bioluminescence, Chemical principles and methods (2006) pp90-158, World Scientific Pub. Co.; 非特許文献2:Shimomura et al., (1962) J. Cell. Comp. Physiol. 59, pp223-240)。このイクオリンは、アポ蛋白質であるアポイクオリン(21.4kDa)とセレンテラジンのヒドロペルオキシドとの非共有結合性複合体である(非特許文献3: Head et al., (2000) Nature, 405 372-376)。アポイクオリンは、189のアミノ酸残基から構成される単純ポリペプチドであり、Ca2+結合部位に特徴的な3つのEFハンドモチーフを有する(非特許文献4:Inouye et al., (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 3154-3158)。Ca2+の存在下で、イクオリンは、分子内反応によって青い光を発し(λmax = 〜460 nm)、アポイクオリンとセレンテラミドとCO2とに分解する(非特許文献5: Shimomura & Johnson (1972) Biochemistry 11, 1602-1608.; 非特許文献6: Shimomura & Johnson (1973) Tetrahedron Lett. 2963-2966)。この分解により得られたCa2+結合アポイクオリンとセレンテラミドの複合体は、青色蛍光蛋白質(BFP)として知られている(非特許文献7: Shimomura & Johnson (1975) Nature 256, 236-238)。
【0004】
このBFPの蛍光発光スペクトルは、イクオリンの生物発光スペクトルと同一である(非特許文献8:Shimomura, Biochem. J. 306 (1995) 537-543; 非特許文献9: Inouye, FEBS Lett. 577 (2004) 105-110)。大腸菌より調製した組換えアポイクオリンは、EDTA及び還元試薬の存在下、セレンテラジン及び酸素と共にインキュベートすることにより、組換えイクオリンを再生することができる(非特許文献10:Inouye et al., (1986) Biochemistry 25: 8425-8429;非特許文献11: Inouye et al., (1989) J. Biochem., 105, 473-477)。この組換えイクオリンは、高度に精製されている(非特許文献12:Shimomura & Inouye (1999) Protein Express. Purif. 16, 91-95)。組換えイクオリンの発光特性は、天然のイクオリンの特性と一致している(非特許文献13:Shimomura et al., (1990) Biochem. J. 270 309-312)。イクオリン及び半合成イクオリンの結晶構造が解析され(非特許文献3:Head et al., Nature, 405 (2000) 372-376;非特許文献14:Toma et al., (2005) Protein Science 14:409-416)、イクオリンのEFハンドモチーフに対するMg2+の結合特性も、NMR分析によって調べられている(非特許文献15:Ohashi et al., (2005) J. Biochem. 138: 613-620)。
【0005】
最近、精製された組換えイクオリンからBFPが定量的に調製され(非特許文献9:Inouye, FEBS Lett. 577 (2004) 105-110;非特許文献16:Inouye & Sasaki, FEBS Lett. 580 (2006) 1977-1982)、このBFPが実質的な発光活性を有し、ルシフェラーゼのようにセレンテラジンの酸化を触媒するということが明らかとなった。このBFPの発光強度は、Ca2+結合アポイクオリンの発光強度の約10倍である(非特許文献9:Inouye, FEBS Lett. 577 (2004) 105-110)。すなわちこのBFPは、蛍光活性及びルシフェラーゼ活性を有する新規の二機能性蛋白質である。更に、BFPは、EDTAの処理により蛍光発光最大ピーク約470nmを有する緑色蛍光蛋白質(gFP)に変換される。gFPは、アポイクオリンとセレンテラミドとの非共有結合性複合体であり、還元試薬の非存在下25℃で、セレンテラジンのインキュベーションにより、イクオリンを再生することができる(非特許文献9:Inouye, FEBS Lett. 577 (2004) 105-110)。EDTA及びジチオスレイトール(DTT)の存在下、様々なセレンテラジンのアナログをBFP又はgFPと共にインキュベートすることにより、半合成イクオリンも調製可能である(非特許文献16:Inouye et al. & Sasaki, FEBS Lett. 580 (2006) 1977-1982)。更に、BFPのルシフェラーゼとしての発光活性は、セレンテラジン及びそのアナログを基質として、30〜300mMの濃度のイミダゾール添加によって活性化される(非特許文献17:Inouye & Sasaki (2007) Biochem. Biophys. Res. Commun. 354: 650-655)。しかし、BFP及びgFPの用途開発において、重要な基礎情報であるセレンテラジンへの酸素添加のための蛋白質触媒領域又はアミノ残基は解決されていない。これらの問題解決および用途開発において、容易に数十ミリグラムの量のBFP及びgFPを調製する必要がある。すなわち、アポイクオリンとセレンテラミドより高純度gFPを調製し、BFPへ変換する方法の確立が必須である。
【0006】
ここで、BFP及びgFPを製造するための原料となるセレンテラミドの製造方法として、下記式
【化1】

で表わされる化合物を、下記式
【化2】

で表わされるp-ヒドロキシフェニル酢酸に反応させることを含む、セレンテラミドの製造方法が知られている(非特許文献6:Shimomura & Johnson, Tetrahedron Lett. (1973) 2963-2966)。この方法における、セレンテラミドの収率は約50%である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Shimomura, In: Bioluminescence, Chemical principles and methods (2006) pp90-158, World Scientific Pub. Co.
【非特許文献2】Shimomura et al., (1962) J. Cell. Comp. Physiol. 59, pp223-240
【非特許文献3】Head et al., (2000) Nature, 405, 372-376
【非特許文献4】Inouye et al., (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 3154-3158
【非特許文献5】Shimomura & Johnson (1972) Biochemistry 11, 1602-1608
【非特許文献6】Shimomura & Johnson (1973) Tetrahedron Lett. 2963-2966
【非特許文献7】Shimomura & Johnson (1975) Nature 256, 236-238
【非特許文献8】Shimomura, (1995) Biochem. J. 306, 537-543
【非特許文献9】Inouye, (2004) FEBS Lett. 577, 105-110
【非特許文献10】Inouye et al., (1986) Biochemistry 25, 8425-8429
【非特許文献11】Inouye et al., (1989) J. Biochem., 105 473-477
【非特許文献12】Shimomura & Inouye(1999) Protein Express. Purif. 16, 91-95
【非特許文献13】Shimomura et al., (1990) Biochem. J. 270, 309-312
【非特許文献14】Toma et al., (2005) Protein Science 14, 409-416
【非特許文献15】Ohashi et al., (2005) J. Biochem. 138, 613-620
【非特許文献16】Inouye & Sasaki, (2006) FEBS Lett. 580, 1977-1982
【非特許文献17】Inouye & Sasaki, (2007) Biochem. Biophys. Res. Commun. 354, 650-655
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記状況において、高収率なセレンテラミド又はその類縁体の製造方法などが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、セレンテラミドを、O−メチルセレンテラミンからジ−O−メチルセレンテラミドを経由して合成する新しい合成経路を確立するなどし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下に示す、セレンテラミド又はその類縁体の製造方法などを提供する。
【0010】
(1)下記一般式(1)
【化3】

で表わされる化合物
(式中、
1は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
2は、アミノであり、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
を、
下記一般式(2)
【化4】

で表わされる化合物
(式中、
Xは、脱離基であり、
4は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
に反応させることを含む、
下記一般式(3)
【化5】

で表わされる化合物
(式中、R1、R3、及びR4は、前記の通りである。)
の製造方法。
(2)一般式(1)において、
1が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである、上記(1)に記載の方法。
(3)一般式(1)において、
3が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである、上記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)一般式(2)において、
Xが、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニルオキシ、ベンゼンスルホニルオキシ、トルエンスルホニルオキシ、又は(4−R4O)C64CCOO−(式中、R4は前記の通りである。)である、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)一般式(2)において、
4が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)一般式(1)で表わされる化合物が、下記化合物
【化6】

からなる群から選択される化合物である、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)一般式(2)で表わされる化合物が、下記化合物
【化7】

からなる群から選択される化合物である、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8)下記式
【化8】

で表わされる化合物を、下記式
【化9】

で表わされる化合物に反応させることを含む、下記式
【化10】

で表わされる化合物の製造方法。
(9)下記一般式(3)
【化11】

で表わされる化合物。
(式中、
1は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
4は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
(10)下記式
【化12】

で表わされる化合物。
(11)下記一般式(3)
【化13】

で表わされる化合物
(式中、
1は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
4は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
よりR1で示す基及びR4で示す基を脱離させることを含む、
下記一般式(4)
【化14】

で表わされる化合物
(式中、R3は前記の通りである。)
の製造方法。
(12)一般式(3)において、
1が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである、上記(11)に記載の方法。
(13)一般式(3)において、
3が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである、上記(11)又は(12)に記載の方法。
(14)一般式(3)において、
4が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである、上記(11)〜(13)のいずれか1項に記載の方法。
(15)一般式(3)で表わされる化合物が、下記化合物
【化15】

からなる群から選択される化合物である、上記(11)〜(14)のいずれか1項に記載の方法。
(16)下記式
【化16】

で表わされる化合物よりメチルを脱離させることを含む、下記式
【化17】

で表わされる化合物の製造方法。
(17)カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下において、
下記一般式(4)
【化18】

で表わされる化合物
(式中、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
を、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質に反応させることを含む、緑色蛍光蛋白質(gFP)の製造方法。
(18)カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下において、下記式
【化19】

で表わされる化合物を、アポイクオリンに反応させることを含む、緑色蛍光蛋白質(gFP)の製造方法。
(19)前記反応を、還元剤の存在下において行う、上記(17)又は(18)に記載の方法。
(20)下記一般式(1)
【化20】

で表わされる化合物
(式中、
1は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
2は、アミノであり、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
を、
下記一般式(2)
【化21】

で表わされる化合物
(式中、
Xは、脱離基であり、
4は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
に反応させて、
下記一般式(3)
【化22】

で表わされる化合物
(式中、R1、R3、及びR4は、前記の通りである。)
を生成する工程と、
カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンの存在下、一般式(3)で表わされる化合物を、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質に反応させることを含む、青色蛍光蛋白質(BFP)の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のある態様のセレンテラミド又はその類縁体の製造方法によれば、従来の方法と比較してセレンテラミド又はその類縁体を高収率で製造することができる。本発明の別の態様によれば、簡易にgFPをアポイクオリンより直接調製可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】アポイクオリン精製の各段階における蛋白質のSDS-PAGE分析結果を示す図である。(a)ニッケルキレートカラムを用いたアポイクオリンの精製の各段階。レーンM:分子量マーカー(TEFCO):β-ガラクトシダーゼ(116kDa)、ホスホリラーゼ b(97.4 kDa)、ウシ血清アルブミン(69.0 kDa)、グルタミン酸脱水素酵素(55.0 kDa)、乳酸脱水素酵素(36.5 kDa)、炭酸脱水酵素(29.0 kDa) 及びトリプシン阻害剤(20.1 kDa)。レーン1:粗抽出物から得られた12,000 gの上清(20μl)。レーン2:ニッケルキレートカラムを50mM Tris-HCl(pH7.6)で洗浄して得られた画分(20μl)。レーン3:0.1Mイミダゾールを含有する50mM Tris-HCl(pH7.6)を用いてニッケルキレートカラムから溶出した画分(20μl)。(b)0.1M酢酸を用いた処理によるアポイクオリンの精製。レーンM:分子量マーカー(TEFCO)。レーン1:精製されたアポイクオリン(5μg)。
【図2】還元性条件下でセレンテラミドを用いてインキュベートして得られたアポイクオリン由来再構成syn-gFPの蛍光スペクトルを示す図である。 10mM EDTAの存在下、1mM DTTを含有する1mlの50mM Tris-HCl(pH7.6)において、セレンテラミド(1μlのメタノールに溶解した1.2μg)と共に4℃で16時間、精製組換えアポイクオリン(50μg)をインキュベートした後、335nmで励起した蛍光スペクトル。
【図3】syn-gFP及びgFPの蛍光スペクトルの比較した図である。
【図4】セレンテラジンを基質としたsyn-BFP及びBFPの発光パターンを示す図である。
【図5】本発明のgFPの製造方法の一例を示す図である。
【図6】本発明の方法で製造したセレンテラミドから、BFP、gFP及びイクオリンなどを製造するためのスキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.セレンテラミド又はその類縁体の製造方法
本発明では、セレンテラミド又はその類縁体を、O−メチルセレンテラミン又はその類縁体からジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体を経由して製造する。本発明のセレンテラミド又はその類縁体の製造方法のいくつかの態様では、O−メチルセレンテラミン又はその類縁体からのセレンテラミド又はその類縁体の精製前の収率は、従来の製造方法よりも高く、例えば、55%以上、60%、65%以上、又は70%以上である。
【0014】
1.1.ジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体の製造
本発明は、ジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体(一般式(3)で表わされる化合物)を提供する。すなわち、本発明は、下記一般式(3)
【化23】

で表わされる化合物
(式中、
1は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
4は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
を提供する。
【0015】
一般式(3)中、R1で示される炭素数1〜3のアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、又はイソプロピルが挙げられる。R1で示される炭素数7〜10のアリールアルキルとしては、例えば、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルが挙げられる。本発明のいくつかの態様では、R1は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである。好ましくは、R1は、メチル、エチル、イソプロピル、又はベンジルである。
【0016】
一般式(3)中、R3で示される、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、又はシクロヘキシルメチルが挙げられる。R3で示される脂肪族環式基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、又はシクロヘキシルが挙げられる。R3で示される炭素数7〜10のアリールアルキルとしては、例えば、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルが挙げられる。本発明のいくつかの態様では、R3は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである。好ましくは、R3は、シクロヘキシルメチル、シクロペンチルメチル、又はベンジルである。
【0017】
一般式(3)中、R4で示される炭素数1〜3のアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、又はイソプロピルが挙げられる。R4で示される炭素数7〜10のアリールアルキルとしては、例えば、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルが挙げられる。本発明のいくつかの態様では、R4は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである。好ましくは、R4は、メチル、エチル、イソプロピル、又はベンジルである。
【0018】
本発明のいくつかの態様では、上記一般式(3)で表わされるジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体は、例えば、下記化合物からなる群から選択される化合物である。
【0019】
【化24】

【0020】
本発明の別の態様では、上記一般式(3)で表わされるジ−O−メチルセレンテラミド類縁体は、例えば、下記化合物からなる群から選択される化合物である。
【0021】
【化25】

【0022】
本発明のさらに別の態様では、上記一般式(3)で表わされるジ−O−メチルセレンテラミド類縁体は、例えば、下記化合物からなる群から選択される化合物である。
【0023】
【化26】

【0024】
本発明のさらに別の態様では、上記一般式(3)で表わされるジ−O−メチルセレンテラミド類縁体は、例えば、下記化合物からなる群から選択される化合物である。
【0025】
【化27】

【0026】
本発明のさらに別の態様では、上記一般式(3)で表わされるジ−O−メチルセレンテラミド類縁体は、例えば、下記化合物からなる群から選択される化合物である。
【0027】
【化28】

【0028】
本発明のいくつかの態様では、ジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体は、好ましくは、下記に示す化合物からなる群から選択される化合物である。
【0029】
【化29】

【0030】
本発明の別の態様では、ジ−O−メチルセレンテラミド類縁体は、好ましくは、下記に示す化合物からなる群から選択される化合物である。
【0031】
【化30】

【0032】
本発明のさらに別の態様では、ジ−O−メチルセレンテラミド類縁体は、好ましくは、下記に示す化合物からなる群から選択される化合物である。
【0033】
【化31】

【0034】
本発明のさらに別の態様では、ジ−O−メチルセレンテラミド類縁体は、好ましくは、下記に示す化合物からなる群から選択される化合物である。
【0035】
【化32】

【0036】
本発明のさらに別の態様では、ジ−O−メチルセレンテラミド類縁体は、好ましくは、下記に示す化合物からなる群から選択される化合物である。
【0037】
【化33】

【0038】
本発明の一つの態様では、ジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体は、下記に示すジ−O−メチルセレンテラミドである。
【0039】
【化34】

【0040】
また、本発明は、上記ジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体の製造方法を提供する。より具体的には、本発明は、O−メチルセレンテラミン又はその類縁体(一般式(1)で表わされる化合物)を、4−メトキシフェニルアセチルハライド又はその類縁体(一般式(2)で表わされる化合物)に反応させることを含む、上記ジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体(一般式(3)で表わされる化合物)の製造方法を提供する。すなわち、本発明は、下記一般式(1)
【化35】

で表わされる化合物
(式中、
1は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
2は、アミノであり、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
を、
下記一般式(2)
【化36】

で表わされる化合物
(式中、
Xは、脱離基であり、
4は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
に反応させることを含む、
下記一般式(3)
【化37】

で表わされる化合物
(式中、
1、R3、及びR4は、前記の通りである。)
の製造方法を提供する。
【0041】
一般式(1)又は一般式(2)中、R1、R3、及びR4は、前述の一般式(3)での説明の通りである。
【0042】
一般式(2)中、Xで示される脱離基としては、例えば、ハロゲン(例えば、塩素、臭素、若しくはヨウ素)、スルホン酸の反応性残基(例えば、メタンスルホニルオキシ、ベンゼンスルホニルオキシ、若しくはトルエンスルホニルオキシ)、又は酸無水物を形成せしめるアシルオキシ(例えば、(4-R4O)C64CH2COO-(式中、R4は前記の通りである。))が挙げられる。なかでもハロゲンが好ましく、特に塩素がより好ましい。
【0043】
上記一般式(1)で表わされるO−メチルセレンテラミン又はその類縁体として、例えば、下記化合物からなる群から選択される化合物を挙げることができる。
【0044】
【化38】

【0045】
O−メチルセレンテラミン又はその類縁体は、好ましくは、下記化合物からなる群から選択される化合物である。
【0046】
【化39】

【0047】
本発明の一つの態様では、O−メチルセレンテラミン又はその類縁体は、下記化合物である。
【0048】
【化40】

【0049】
一般式(1)で表わされるO−メチルセレンテラミン又はその類縁体は、公知の製造方法で製造することができ、或いは、市販のものを入手することができる。例えば、Kishi et al., Tetrahedron Lett., 13, 2747-2748 (1972)、又はAdamczyk et al., Org. Prep. Proced. Int., 33, 477-485 (2001)に記載の方法又はそれに準ずる方法で一般式(1)で表わされるO−メチルセレンテラミン又はその類縁体を製造することができる。
【0050】
また、上記一般式(2)で表わされる4−メトキシフェニルアセチルハライド又はその類縁体として、例えば、下記化合物からなる群から選択される化合物を挙げることができる。
【0051】
【化41】

【0052】
4−メトキシフェニルアセチルハライド又はその類縁体は、好ましくは、下記化合物からなる群から選択される化合物である。
【0053】
【化42】

【0054】
本発明の一つの態様では、4−メトキシフェニルアセチルハライド又はその類縁体は、下記に示す4−メトキシフェニルアセチルクロリドである。
【0055】
【化43】

【0056】
一般式(2)で表わされる4−メトキシフェニルアセチルハライド又はその類縁体は、公知の製造方法で製造することができ、或いは、市販のものを入手することができる。具体的には、いずれの化合物も、対応するカルボン酸に対して過剰の塩化チオニルを作用させて加熱還流した後、減圧濃縮するか、又は、ジクロロメタン溶媒中、触媒量のN、N-ジメチルホルムアミド(DMF)存在下、対応するカルボン酸に対して二塩化オキサリルを反応させた後、減圧濃縮するか、のいずれかの方法で製造することができる。また、4-メトキシフェニルアセチルクロリドはAldrich社から、4-ベンジルオキシフェニルアセチルクロリド、及び4-メトキシフェニル酢酸無水物は東京化成工業から、購入することができる。
【0057】
一般式(3)で表わされるジ-O-メチルセレンテラミド又はその類縁体は、一般式(1)で表わされるO-メチルセレンテラミン又はその類縁体と、一般式(2)で表わされる4-メトキシフェニルアセチルハライド又はその類縁体とを、例えば、有機溶媒中、塩基の存在下、又は塩基性有機溶媒中で反応させることで製造することができる。より具体的には、ジ-O-メチルセレンテラミドは、後述の実施例に記載の方法又はそれに準ずる方法を用いて製造することができる。
【0058】
ここで、本発明のジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体の製造方法において使用される有機溶媒又は塩基性有機溶媒は、種々のものを使用できるが、水系、又はアルコール類以外の有機溶媒又は塩基性有機溶媒が特に好ましい。有機溶媒又は塩基性有機溶媒は、例えば、ピリジン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、トルエン、ジオキサン、又はエーテル等であり、これらは単独で又は混合して使用することができる。
【0059】
本発明のジ-O-メチルセレンテラミド又はその類縁体の製造方法において使用される塩基は、特に限定されず、種々のものを使用できる。例えば、ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、ルチジン、又はコリジン等であり、これらは単独で又は混合して使用することができる。
【0060】
また、本発明のジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体の製造方法において、反応温度及び反応時間は、特に限定されないが、例えば、−20℃〜200℃で、1時間〜72時間、好ましくは、0℃〜100℃で、6時間〜36時間、より好ましくは、室温〜50℃で、12時間〜24時間である。
【0061】
本発明の一つの態様は、下記式
【化44】

で表わされるO−メチルセレンテラミンを、下記式
【化45】

で表わされる4−メトキシフェニルアセチルクロリドに反応させることを含む、下記式
【化46】

で表わされるジ−O−メチルセレンテラミドの製造方法を提供する。
【0062】
1.2.セレンテラミド又はその類縁体の製造
本発明は、さらに、ジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体(一般式(3)で表わされる化合物)よりR1で示す基及びR4で示す基を脱離させることを含む、セレンテラミド又はその類縁体(一般式(4)で表わされる化合物)の製造方法を提供する。すなわち、本発明は、下記一般式(3)
【化47】

で表わされる化合物
(式中、
1は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
4は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
よりR1で示す基及びR4で示す基を脱離させることを含む、
下記一般式(4)
【化48】

で表わされる化合物
(式中、R3は、前述の通りである。)
の製造方法を提供する。
【0063】
本発明のセレンテラミド又はその類縁体の製造方法において、一般式(3)で表わされるジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体は、前記で説明した通りである。ジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体として、例えば、前記本発明のジ−O−メチルセレンテラミド又はその類縁体の製造方法により製造した化合物を挙げることができる。
【0064】
本発明のセレンテラミド又はその類縁体の製造方法において、R1で示す基及びR4で示す基の脱離は通常の方法を用いて行うことができ、その脱離の方法は特に限定されない。例えば、メチルの脱離は、実施例に記載の方法又はそれに準ずる方法を用いて行うことができる。
【0065】
ここで、本発明のセレンテラミド又はその類縁体の製造方法において使用する溶媒は、種々のものを使用でき、非極性溶媒であるのが特に好ましい。溶媒は、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、トルエン、ジオキサン又はエーテル等であり、これらは単独で又は混合して使用することができる。
【0066】
また、本発明のセレンテラミド又はその類縁体の製造における反応温度及び反応時間は、特に限定されないが、例えば、−100℃〜200℃で、1時間〜72時間、好ましくは、−20℃〜100℃で、6時間〜36時間、より好ましくは、0℃〜50℃で、12時間〜24時間である。
【0067】
本発明の方法により製造される上記一般式(4)で表わされるセレンテラミド又はその類縁体として、例えば、下記化合物からなる群から選択される化合物を挙げることができる。
【0068】
【化49】

【0069】
セレンテラミド又はその類縁体は、好ましくは、下記化合物からなる群から選択される化合物である。
【0070】
【化50】

【0071】
本発明の一つの態様では、セレンテラミド又はその類縁体は、下記に示すセレンテラミドである。
【0072】
【化51】

【0073】
本発明の一つの態様は、下記式
【化52】

で表わされるジ−O−メチルセレンテラミドを脱メチル化することを含む、
下記式
【化53】

で表わされるセレンテラミドの製造方法を提供する。
【0074】
2.蛍光蛋白質
図6に示すように、緑色蛍光蛋白質(gFP)は、EDTA等のカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下、セレンテラミド又はその類縁体(一般式(4)で表わされる化合物)に、アポイクオリン等のアポ蛋白質を反応させることにより製造することができる。また、gFPにカルシウムイオンを加えることにより、青色蛍光蛋白質(BFP)を製造することができる。
【0075】
また、図6に示すように、BFPは、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンの存在下、セレンテラミド又はその類縁体にアポイクオリン等のアポ蛋白質を反応させることによっても製造することができる。また、EDTA等のカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下、gFPに、セレンテラジン又はその類縁体を反応させることで、イクオリン等のカルシウム結合型発光蛋白質を製造することも出来る。
【0076】
2.1.緑色蛍光蛋白質(gFP)
2.1.1.緑色蛍光蛋白質(gFP)の製造方法
本発明の緑色蛍光蛋白質(gFP)の製造方法において製造する緑色蛍光蛋白質(gFP)は、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質に、セレンテラミド又はその類縁体が配位した複合体である。gFPは、光の励起を受けて蛍光を発生することができる。
【0077】
本発明では、gFPを、セレンテラミド又はその類縁体から次のように製造する。すなわち、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下において、セレンテラミド又はその類縁体(例えば、一般式(4)で表わされる化合物)を、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質に反応させることで、gFPを製造する。
【0078】
本発明においてgFPを製造するのに用いるセレンテラミド又はその類縁体は、例えば、前記一般式(4)で表わされる化合物である。一般式(4)で表わされる化合物は前記で説明した通りである。セレンテラミド又はその類縁体として、例えば、前記本発明のセレンテラミド又はその類縁体の製造方法により製造した化合物を挙げることができる。
【0079】
本発明においてgFPを製造するのに用いるキレート剤は、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2若しくは3価のイオンと強く結合するものであれば良く、特に制限されない。キレート剤の例として、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)N,N,N′,N′−四酢酸(EGTA)、trans−1,2−ジアミノシクロヘキサンN,N,N′,N′−四酢酸(CyDTA)、又はN−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)等を挙げることができる。ここで、カルシウムイオンと置換可能な2価又は3価のイオンとは、カルシウムイオンに代えてカルシウム結合型発光蛋白質と反応させた場合に、発光反応を起こす2価又は3価のイオンのことである。つまり、カルシウム結合型発光蛋白質に対して、カルシウムイオンと同等の作用をするものである。カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価又は3価のイオンは、例えば、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン(Ba2+)、鉛イオン(Pb2+)、コバルトイオン(Co2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、カドミウムイオン(Cd2+)、イットリウムイオン(Y3+)、ランタンイオン(La3+)、サマリウムイオン(Sm3+)、ユウロピウムイオン(Eu3+)、ジスプロシウムイオン(Dy3+)、ツリウムイオン(Tm3+)、又はイットリビウムイオン(Yb3+)等を挙げることができる。これらのうち、2価の金属イオンが好ましい。より好ましくは遷移金属以外の2価の金属イオン、例えばCa2+、Sr2+、又はPb2+等である。
【0080】
gFPの製造のために用いるキレート剤の量は、gFP再生に影響しなければ、その濃度は特に制限されない。イオンアポイクオリン1molには、3molのカルシウムイオンが結合することが示されていることより、例えば、3mol 以上が好ましい。
【0081】
本発明においてgFPを製造するのに用いるカルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質は、例えば、アポイクオリン、アポクライティン−I、アポクライティン−II、アポオベリン、アポマイトロコミン、アポミネオプシン又はアポベルボイン等である。本発明のある態様では、アポ蛋白質は、アポイクオリン、アポクライティン−I、アポクライティン−II、アポオベリン、又はアポマイトロコミン等であり、例えば、アポイクオリンである。アポ蛋白質は、天然から採取したものであっても、遺伝子工学的に製造したものであってよい。さらに、アポ蛋白質は、gFPを形成できるものであれば、そのアミノ酸配列を天然のものから遺伝子組換え技術によって変異させたものであってもよい。
【0082】
天然から採取した発光蛋白質のアポ蛋白質(天然型アポ蛋白質)の塩基配列及びアミノ酸配列は、次の通りである。すなわち、天然型アポイクオリンの塩基配列を配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に示す。天然型アポクライティン−Iの塩基配列を配列番号3に、アミノ酸配列を配列番号4に示す。天然型アポクライティン−IIの塩基配列を配列番号5に、アミノ酸配列を配列番号6に示す。天然型アポマイトロコミンの塩基配列を配列番号7に、アミノ酸配列を配列番号8に示す。天然型天然型アポオベリンの塩基配列を配列番号9に、アミノ酸配列を配列番号10に示す。天然型アポベルボインの塩基配列を配列番号11に、アミノ酸配列を配列番号12に示す。
【0083】
組換え技術によって変異させたアポ蛋白質は、例えば、以下の(a)〜(c)からなる群から選択される蛋白質である。
【0084】
(a)天然型アポ蛋白質のアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつ、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質活性若しくは機能を有する蛋白質、
(b)天然型アポ蛋白質のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質活性若しくは機能を有する蛋白質、及び
(c)天然型アポ蛋白質の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質活性若しくは機能を有する蛋白質。
【0085】
上記「天然型アポ蛋白質」は、例えば、アポイクオリン、アポクライティン−I、アポクライティン−II、アポオベリン、アポマイトロコミン、アポミネオプシン、又はアポベルボイン等である。本発明のある態様では、アポ蛋白質は、アポイクオリン、アポクライティン−I、アポクライティン−II、アポオベリン、又はアポマイトロコミン等であり、好ましくは、アポイクオリンである。これらの天然型アポ蛋白質のアミノ酸配列又は塩基配列は、前記の通りである。
【0086】
上記「カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質活性又は機能」とは、例えば、アポ蛋白質がセレンテラジンのペルオキシド若しくはセレンテラジン類縁体のペルオキシドと結合してカルシウム結合型発光蛋白質を形成する活性又は機能を意味する。「蛋白質がセレンテラジンのペルオキシド若しくはセレンテラジン類縁体のペルオキシドと結合してカルシウム結合型発光蛋白質を形成する」とは、具体的には、(1)蛋白質が、セレンテラジンのペルオキシド若しくはセレンテラジン類縁体のペルオキシドと結合して発光蛋白質を形成すること、だけではなく(2)蛋白質が、酸素存在下に、セレンテラジン若しくはその誘導体と接触することにより、蛋白質とセレンテラジンのペルオキシド若しくはセレンテラジン類縁体のペルオキシドとを含有する発光蛋白質(複合体)を形成すること、をも意味する。ここで、「接触」とは、蛋白質とセレンテラジン又はその類縁体とを同一の反応系に存在させることを意味し、例えば、セレンテラジン又はその類縁体を収容した容器に蛋白質を添加すること、蛋白質を収容した容器にセレンテラジン又はその類縁体を添加すること、又は蛋白質とセレンテラジン又はその類縁体とを混合すること、などが含まれる。また、「セレンテラジン類縁体」は、セレンテラジンと同様に、アポ蛋白質として、イクオリン等のカルシウム結合型発光蛋白質を構成しうる化合物を指す。セレンテラジン又はその類縁体は、例えば、セレンテラジン、h−セレンテラジン、f−セレンテラジン、cl−セレンテラジン、n−セレンテラジン、cp−セレンテラジン、ch−セレンテラジン、hch−セレンテラジン、fch−セレンテラジン、e−セレンテラジン、ef−セレンテラジン、ech−セレンテラジン、又はhcp−セレンテラジン等である。これらのセレンテラジン又はその類縁体の入手方法は、後に記載する。
【0087】
上記「1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列」における「1〜複数個」の範囲は、例えば、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個である。欠失、置換、挿入若しくは付加したアミノ酸の数は、一般的に少ないほど好ましい。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。このような領域は、"Sambrook J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)"、 "Ausbel F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley and Sons (1987-1997)"、"Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)"、"Gene, 34, 315 (1985)"、"Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)"、又は"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)"等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。
【0088】
また、上記「90%以上の同一性を有するアミノ酸配列」における「90%以上」の範囲は、例えば、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上である。上記同一性の数値は、一般的に大きいほど好ましい。なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、BLAST(例えば、Altzshul S. F. et al., J. Mol. Biol. 215, 403 (1990)、など参照)等の解析プログラムを用いて決定できる。BLASTを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0089】
また、上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、天然型アポ蛋白質の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド又は天然型アポ蛋白質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの全部又は一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法又はサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチド(例えば、DNA)をいう。具体的には、コロニー或いはプラーク由来のポリヌクレオチドを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0mol/LのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(Saline-sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmol/L塩化ナトリウム、15mmol/Lクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドをあげることができる。
【0090】
ハイブリダイゼーションは、Sambrook J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)、Ausbel F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley and Sons (1987-1997)、又はGlover D. M. and Hames B. D., DNA Cloning 1: Core Techniques, A practical Approach, Second Edition, Oxford University Press (1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0091】
ここで言う「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%(w/v)SDS、50%(v/v)ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%(w/v)SDS、50%(v/v)ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5(w/v)%SDS、50%(v/v)ホルムアミド、50℃の条件である。条件を厳しくするほど、二本鎖形成に必要とする相補性が高くなる。具体的には、例えば、これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するポリヌクレオチド(例えば、DNA)が効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0092】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling Reagents(アマシャムファルマシア社製)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコールにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1% (w/v) SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。
【0093】
これ以外にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、BLAST等の解析プログラムにより、デフォルトのパラメータを用いて計算したときに、アポ蛋白質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと約60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、92%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.3%以上、99.5%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するDNAをあげることができる。なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、前述した方法を用いて決定できる。
【0094】
本発明のいくつかの態様において、アポ蛋白質は、全てのシステイン残基をセリン残基で置換したものである。gFPは、アポ蛋白質中のシステイン残基の遊離SH基が酸化されてS−S結合を生成すると、化学発光活性を失う。したがって、システイン残基がセリン残基で置換されS−S結合を生じることができなくなったアポ蛋白質は、化学発光活性をほとんど失わず、S−S結合を生じないため活性が持続する。
【0095】
gFPの製造のために用いるセレンテラミド又はその類縁体の量は、特に制限されないが、アポ蛋白質1molに対して、例えば、1mol〜5mol、好ましくは、1mol〜2mol、さらに好ましくは、1mol〜1.2molである。
【0096】
gFPの製造において、セレンテラミド又はその類縁体とアポ蛋白質との反応は、還元剤の存在下で行うのが好ましい。ここで用いる還元剤としては、例えば、ジチオトレイトール(DTT)、又はメルカプトエタノール等を挙げることができる。gFP再生に影響しなければ、gFPの製造のために用いる還元剤の量は、特に制限されないが、アポイクオリンには、3カ所のシステイン残基が存在することより、S-S 結合形成を防ぐ濃度であるのが好ましい。例えば、最終濃度が、1 mMジチオトレイトールや0.1%メルカプエタノールである。
【0097】
gFPの製造における反応温度及び反応時間は、特に限定されないが、例えば、0℃〜42℃で、0.1時間〜2時間、4℃〜37℃で、0.1時間〜2時間、又は4℃〜15℃で、0.1時間〜24時間である。
【0098】
このようにして得たgFPは、さらに精製に供しても良い。gFPの精製は、通常の分離・精製方法に従って行うことができる。分離・精製方法としては、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法、限外ろ過法などを単独で、又は適宜組み合わせて用いることができる。
【0099】
本発明のいくつかの態様は、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下において、下記式
【化54】

で表わされる化合物を、アポイクオリンに反応させることを含む、緑色蛍光蛋白質(gFP)の製造方法を提供する。本発明の一つの態様では、図5に示すように、EDTAの存在下、セレンテラミドをアポイクオリンに反応させることにより、gFPを製造する。
【0100】
2.1.2.緑色蛍光蛋白質(gFP)の利用
(1)レポーター蛋白質としての利用
gFPは、レポーター蛋白質としてプロモーターなどの転写活性の測定に利用することができる。例えば、アポ蛋白質をコードするポリヌクレオチドを、目的のプロモーター又は他の発現制御配列(例えば、エンハンサーなど)に融合したベクターを構築する。前記ベクターを宿主細胞に導入し、さらに、これに、セレンテラミド又はその類縁体を、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下で接触させることで、gFPを生成させ、gFPに由来する蛍光を検出することにより、目的のプロモーター又は他の発現制御配列の活性を測定することができる。
【0101】
(2)検出マーカとしての利用
gFPは、蛍光による検出マーカとして利用することができる。検出マーカは、例えば、イムノアッセイ又はハイブリダイゼーションアッセイなどにおける目的物質の検出に利用することができる。gFPを化学修飾法など通常用いられる方法により目的物質(蛋白質或いは核酸など)と結合させて使用することができる。このような検出マーカを用いた検出方法は、通常の方法によって行うことができる。また、本発明の検出マーカは、例えば、アポ蛋白質と目的物質との融合蛋白質として発現させ、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入し、さらに、これに、セレンテラミド又はその類縁体を、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下で接触させることでgFPを生成させること等によって、前記目的物質の分布を測定するために利用することもできる。このような目的物質などの分布の測定は、蛍光イメージング等の検出法などを利用して行うこともできる。なお、アポ蛋白質は、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入する以外に、細胞内で発現させて用いることもできる。
【0102】
(3)アミューズメント用品の材料
gFPは、アミューズメント用品の材料の蛍光材として好適に使用することができる。アミューズメント用品としては、たとえば、蛍光シャボン玉、蛍光アイス、蛍光飴、蛍光絵の具等があげられる。アミューズメント用品は、通常の方法によって製造することができる。
【0103】
2.2.青色蛍光蛋白質(BFP)
2.2.1.青色蛍光蛋白質(BFP)の製造方法
前記本発明の製造方法により製造したgFPに、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを加えることにより、青色蛍光蛋白質(BFP)を製造することができる。或いは、青色蛍光蛋白質(BFP)は、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンの存在下、前記本発明の方法により製造したセレンテラミド又はその類縁体(一般式(4)で表わされる化合物)に、カルシウム結合型アポ蛋白質を反応させることによっても製造することができる。本発明において製造する青色蛍光蛋白質(BFP)は、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質に、セレンテラミド又はその類縁体が配位した複合体である。BFPは、光の励起を受けて蛍光を発生することができるとともに、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンと反応して発光することもできる。
【0104】
「カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオン」は、前記の説明と同様である。BFPの製造のために用いるカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンの量は、特に制限されないが、BFPの製造のために用いるキレート剤の量は、BFP再生に影響しなければ、その濃度は特に制限されない。イオンアポイクオリン1molには、3molのカルシウムイオンが結合することが示されていることより、3mol 以上が好ましい。
【0105】
BFPの製造において、セレンテラミド又はその類縁体とアポ蛋白質との反応は、還元剤の存在下で行うのが好ましい。ここで用いる還元剤としては、例えば、ジチオトレイトール(DTT)、又はメルカプトエタノール等を挙げることができる。
BFP再生に影響しなければ、BFPの製造のために用いる還元剤の量は、特に制限されないが、アポイクオリンには、3カ所のシステイン残基が存在することより、S-S 結合形成を防ぐ濃度であるのが好ましい。例えば、最終濃度が、1 mMジチオトレイトール や0.1%メルカプエタノールである。
【0106】
BFPの製造における反応温度及び反応時間は、特に限定されないが、例えば、0℃〜42℃で、0.1時間〜2時間、4℃〜37℃で、0.1時間〜2時間、又は4℃〜15℃で、0.1時間〜24時間である。
【0107】
このようにして得たBFPは、さらに精製に供しても良い。BFPの精製は、通常の分離・精製方法に従って行うことができる。分離・精製方法としては、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法、限外ろ過法などを単独で、又は適宜組み合わせて用いることができる。
【0108】
2.2.2.青色蛍光蛋白質(BFP)の利用
(1)発光触媒としての利用
本発明のBFPは、発光基質に作用しそれを発光させるので、発光触媒として利用できる。そこで、本発明は、BFPに、セレンテラジン又はその類縁体を接触させることを含む、発光方法を提供する。ここで、「接触」とは、BFPとセレンテラジン又はその類縁体とを同一の反応系に存在させることを意味し、例えば、セレンテラジン又はその類縁体を収容した容器にBFPを添加すること、BFPを収容した容器にセレンテラジン又はその類縁体を添加すること、又はBFPとセレンテラジン又はその類縁体とを混合すること、などが含まれる。
【0109】
本発明の発光方法に用いる発光基質は、例えばセレンテラジン又はその類縁体である。「セレンテラジンの類縁体」とは、セレンテラジンと同様に、アポ蛋白質として、イクオリン等のカルシウム結合型発光蛋白質を構成しうる化合物を指す。発光基質として用いるセレンテラジン又はその類縁体は、例えば、セレンテラジン、h−セレンテラジン、f−セレンテラジン、cl−セレンテラジン、n−セレンテラジン、cp−セレンテラジン、ch−セレンテラジン、hch−セレンテラジン、fch−セレンテラジン、e−セレンテラジン、ef−セレンテラジン、ech−セレンテラジン、又はhcp−セレンテラジン等であり、好ましくは、セレンテラジン、h−セレンテラジン、又はe−セレンテラジンである。これらのセレンテラジン又はその類縁体は、例えば、Shimomura et al. (1988) Biochem.J. 251, 405-410、Shimomura et al. (1989) Biochem.J. 261, 913-920、又はShimomura et al. (1990) Biochem.J. 270,309-312に記載の方法又はそれに準ずる方法で製造することができる。或いは、チッソ株式会社、和光純薬社、又はプロメガ社等から各種市販されているので、これらの市販のものを、本発明の発光方法に用いても良い。
【0110】
これらのセレンテラジン及びその類縁体をBFPに接触させ、接触させたBFPの触媒作用によって、セレンテラジン又はその類縁体が対応するセレンテラミド又はその類縁体に酸化される際(この時、二酸化炭素が放出される)、発光が生じる。通常発光時間は、0.5〜3時間であるが、条件の選択により、発光時間を更に長時間とすることも、又は発光時間を更に短時間とすることも可能である。
【0111】
(2)レポーター蛋白質としての利用
BFPは、レポーター蛋白質としてプロモーターなどの転写活性の測定に利用することもできる。アポ蛋白質をコードするポリヌクレオチドを、目的のプロモーター又は他の発現制御配列(例えば、エンハンサーなど)に融合したベクターを構築する。前記ベクターを宿主細胞に導入し、さらに、これに、本発明の方法で製造したセレンテラミド又はその類縁体及びカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを接触させ、本発明の蛍光蛋白質に由来する蛍光を検出することにより、目的のプロモーター又は他の発現制御配列の活性を測定することができる。ここで、「接触」とは、宿主細胞とセレンテラミド又はその類縁体とカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンとを同一の培養系・反応系に存在させることを意味し、例えば、宿主細胞の培養容器にセレンテラミド又はその類縁体及びカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを添加すること、宿主細胞とセレンテラミド又はその類縁体とカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンとを混合すること、宿主細胞をセレンテラミド又はその類縁体及びカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンの存在下で培養することなどが含まれる。
【0112】
(3)検出マーカとしての利用
BFPは、蛍光による検出マーカとして利用することができる。本発明の検出マーカは、例えば、イムノアッセイ又はハイブリダイゼーションアッセイなどにおける目的物質の検出に利用することができる。BFPを化学修飾法など通常用いられる方法により目的物質(蛋白質或いは核酸など)と結合させて使用することができる。このような検出マーカを用いた検出方法は、通常の方法によって行うことができる。
【0113】
また、本発明の検出マーカは、例えば、アポ蛋白質と目的物質との融合蛋白質として発現させ、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入し、さらに、これに本発明の方法により製造したセレンテラミド又はその類縁体及びカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを接触させること等によって、前記目的物質の分布を測定するために利用することもできる。ここで、「接触」とは、細胞とセレンテラミド又はその類縁体とカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンとを同一の培養系・反応系に存在させることを意味し、例えば、細胞の培養容器にセレンテラミド又はその類縁体及びカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを添加すること、細胞とセレンテラミド又はその類縁体とカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンとを混合すること、宿主細胞をセレンテラミド又はその類縁体及びカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンの存在下で培養することなどが含まれる。
【0114】
このような目的物質などの分布の測定は、蛍光イメージング等の検出法などを利用して行うこともできる。なお、アポ蛋白質は、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入する以外に、細胞内で発現させて用いることもできる。
【0115】
(4)アミューズメント用品の材料
BFPは、光の励起をうけて蛍光を生じる。よって、BFPは、アミューズメント用品の材料の蛍光基材として好適に使用することができる。アミューズメント用品としては、たとえば、蛍光シャボン玉、蛍光アイス、蛍光飴、蛍光絵の具等があげられる。本発明のアミューズメント用品は、通常の方法によって製造することができる。
【0116】
3.カルシウム結合型発光蛋白質
図6に示すように、イクオリン等のカルシウム結合型発光蛋白質は、EDTA等のカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下、gFPに、セレンテラジン又はその類縁体を反応させることで、製造することが出来る。
【0117】
3.1.カルシウム結合型発光蛋白質の製造
本発明のカルシウム結合型発光蛋白質は、本発明のgFPから製造することができる。すなわち、本発明のカルシウム結合型発光蛋白質は、gFPに、発光基質であるセレンテラジン又はその類縁体を反応させることによって、得ることができる。
【0118】
gFPとセレンテラジン又はその類縁体の反応は、gFPとセレンテラジン又はその類縁体を接触させることにより行う。「接触」とは、本発明のgFPとセレンテラジン又はその類縁体とを同一の反応系に存在させることを意味し、例えば、セレンテラジン又はその類縁体を収容した容器に本発明のgFPを添加すること、本発明のgFPを収容した容器に本発明のセレンテラジン又はその類縁体を添加すること、又は本発明のgFPとセレンテラジン又はその類縁体とを混合すること、などが含まれる。
【0119】
本発明のカルシウム結合型発光蛋白質の製造に用いるセレンテラジン又はその類縁体は、例えば、セレンテラジン、h−セレンテラジン、f−セレンテラジン、cl−セレンテラジン、n−セレンテラジン、cp−セレンテラジン、ch−セレンテラジン、hch−セレンテラジン、fch−セレンテラジン、e−セレンテラジン、ef−セレンテラジン、ech−セレンテラジン、又はhcp−セレンテラジン等であり、好ましくは、セレンテラジン、h−セレンテラジン、又はe−セレンテラジンである。これらのセレンテラジン又はその類縁体の入手方法は、前記の通りである。
【0120】
カルシウム結合型発光蛋白質の製造のために用いるセレンテラジン又はその類縁体の量は、特に制限されないが、gFP 1molに対して、例えば、1.2 mol 以上である。
【0121】
カルシウム結合型発光蛋白質の製造における反応温度及び反応時間は、特に限定されないが、例えば、0℃〜42℃で、0.1時間〜2時間、4℃〜37℃で、0.1時間〜2時間、又は4℃〜15℃で、0.1時間〜24時間である。
【0122】
本発明の好ましい態様では、蛍光蛋白質とセレンテラジン又はその類縁体との反応を、還元剤の存在下において行う。このとき用いる還元剤は、例えば、ジチオトレイトール(DTT)、又はメルカプトエタノール等である。カルシウム結合型発光蛋白質の製造のために用いる還元剤の量は、再生に影響しなければ、特に制限されないが、アポイクオリンには、3カ所のシステイン残基が存在することより、S-S 結合形成を防ぐ濃度であるのが好ましい。例えば、最終濃度が、1 mMジチオトレイトールや0.1%メルカプエタノールである。
【0123】
3.2.カルシウム結合型発光蛋白質の利用
(1)カルシウムイオンの検出又は定量
本発明のカルシウム結合型発光蛋白質は、カルシウムイオンの作用によって発光する発光蛋白質(ホロ蛋白質)である。よって、本発明の発光蛋白質は、カルシウムイオンの検出又は定量に使用することができる。
【0124】
カルシウムイオンの検出又は定量を行う場合には、アポ蛋白質とセレンテラジン類縁体のペルオキシドとからなる発光蛋白質を使用する。発光蛋白質は、前述した方法に従って製造することができる。カルシウムイオンの検出又は定量は、検体溶液を直接発光蛋白質溶液に添加し、発生する発光を測定することにより行うことができる。或いは、検体溶液に発光蛋白質溶液を添加し、発生する発光を測定することにより、カルシウムイオンを検出又は定量することもできる。カルシウムイオンの検出は、例えば、検体溶液を直接発光蛋白質溶液に添加し、発生する発光を測定することにより行うことができる。或いは、検体溶液に発光蛋白質溶液を添加し、発生する発光を測定することによりカルシウムイオンを検出することもできる。
【0125】
カルシウムイオンの検出又は定量は、カルシウムイオンによる本発明の発光蛋白質の発光を、発光測定装置を用いて測定することにより行うことができる。発光測定装置としては、市販されている装置、例えば、Centro LB 960(ベルトールド社製)などを使用することができる。カルシウムイオン濃度の定量は、発光蛋白質を用いて、既知のカルシウムイオン濃度に対する発光標準曲線を作成することにより、測定可能である。
【0126】
(2)生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)法
本発明のカルシウム結合型発光蛋白質は、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)法による分子間相互作用の原理を利用した生理機能の解析や酵素活性の測定等の分析方法に利用することができる。
【0127】
例えば、本発明の発光蛋白質をドナー蛋白質として使用し、有機化合物又は蛍光蛋白質をアクセプター蛋白質として使用して、両者の間で生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)を起こすことにより蛋白質間の相互作用を検出することができる。本発明のある態様では、アクセプター蛋白質として使用する有機化合物は、Hoechist3342、Indo-1又はDAP1などである。本発明の別の態様では、アクセプター蛋白質として使用する蛍光蛋白質は、緑色蛍光蛋白質(GFP)、青色蛍光蛋白質(BFP)、変異GFP蛍光蛋白質又はフィコビリンなどである。本発明の好ましい態様において、解析する生理機能は、オーファン受容体(特にG蛋白質共役受容体)、アポトーシス、又は遺伝子発現による転写調節などである。また、本発明の好ましい態様において、分析する酵素は、プロテアーゼ、エステラーゼ又はリン酸化酵素などである。
【0128】
BRET法による生理機能の解析は、公知の方法で行うことができ、例えば、Biochem. J. 2005, 385, 625-637、又はExpert Opin. Ther Tarets, 2007 11: 541-556などに記載の方法に準じて行うことができる。また、酵素活性の測定も、公知の方法で行うことができ、例えば、Nat Methods 2006, 3:165-174、又はBiotechnol J. 2008, 3:311-324などに記載の方法に準じて行うことができる。
【0129】
なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。
【0130】
また、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を実施できる。発明を実施するための最良の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【実施例】
【0131】
[実施例1]
セレンテラミドの合成
【0132】
合成に使用した4-メトキシフェニルアセチルクロライド(Aldrich社)、BBr3の1.0M CH2Cl2溶液(Aldrich社)、及びその他のすべての化学試薬は市販のものであり、そのまま使用した。
分析用薄層クロマトグラフィー(TLC)には、あらかじめシリカゲルが塗布された(0.25mm)シリカゲルプレート(MERCK社、シリカゲル60 F254、カタログ番号1.05715.0009)を用いた。
分取カラムクロマトグラフィーには、シリカゲル(関東化学社、シリカゲル60N、球状、中性、カタログ番号37563-84)を使用した。
融点(Mp.)は、YANACO MP-J3を使用して測定した(未補正)。1H(300 MHz)核磁気共鳴スペクトル(NMRスペクトル)、および13C(75.5 MHz)NMRスペクトルは、Varian社製Gemini-300を用いてDMSO-d6(CIL社)中で測定した。1H NMRの化学シフトの基準には、測定溶媒であるDMSO-d 6中の残存非重水素化ジメチルスルホキシドのピークをδ2.49とした。13C NMRの化学シフトの基準には、測定溶媒であるDMSO-d6のピークをδ 39.7とし、それぞれ単位ppmで示した。また、結合定数(J)は単位Hzで示した。略号s、m及びbrはそれぞれ、singlet、multiplet及びbroadを表す。赤外分光(IR)スペクトルは、DRS-8000Aを備えた分光計SHIMADZU IRPrestige-21を用い、拡散反射法により測定し、吸収帯は単位cm-1で示した。高分解能質量分析(HRMS)は、電子衝撃イオン化(EI)法の条件下で、質量分析計JEOL JMS-700を用いて行った。
【0133】
セレンテラミドの合成スキーム
【化55】

【0134】
セレンテラミドジメチルエーテル(IV)
アルゴン雰囲気下、ピリジン中の2-アミノ-3-ベンジル-5-(4-メトキシフェニル)ピラジン(II)(セレンテラミンメチルエーテルともいう)(Kishi et al., Tetrahedron Lett., 13, 2747-2748(1972);Adamczyk et al., Org. Prep. Proced. Int., 33, 477-485(2001))(502 mg、1.72 mmol)の溶液(5 mL)に対し、4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)(21.1 mg、172 μmol)及び4-メトキシフェニルアセチルクロリド(III)(527 μL、3.45 mmol)を続けて室温で加え、混合物を同じ温度で22.5時間攪拌した。これに対し炭酸水素ナトリウム飽和水溶液(100 mL)を加え、ジクロロメタン(50 mL×3)を用いて混合物の抽出を行った。有機抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、減圧下で濃縮した。トルエン(20 mL×3)を用い、残留ピリジンを共沸して除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(85 g、ジクロロメタン/酢酸エチル=9/1)により精製し、淡黄色固体であるとしてセレンテラミドジメチルエーテル(IV)(617 mg、81.5%)を得た。酢酸エチルからの再結晶によって分析的に純粋なサンプルとして無色の固体を得た(全部で2回の再結晶により、458 mg、60.5%を得た)。
【0135】
Mp. 189.5-191 ℃; 1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ3.61 (s, 2H), 3.73 (s, 3H), 3.80 (s, 3H), 4.03 (s, 2H), 6.88-6.93 (AA'BB', 2H), 7.02-7.07 (2 ( AA'BB', 4H), 7.12-7.30 (m, 5H), 8.00-8.05 (AA'BB', 2H), 8.87 (s, 1H), 10.43 (s, 1H); 13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6) δ 41.6, 55.1, 55.3, 113.9 (2C), 114.5 (2C), 126.2, 127.5, 128.0 (2C), 128.1, 128.2 (2C), 129.0 (2C), 130.2 (2C), 137.1, 138.3, 143.7, 148.2, 150.5, 158.2, 160.7, 170.3; IR (KBr, cm-1) 698, 833, 1034, 1177, 1256, 1495, 1514, 1543, 1672, 2833, 2957, 3265; HRMS (EI) m/z 439.1898 (M+, C27H25N3O3 requires 439.1896)。
【0136】
セレンテラミド(I)
アルゴン雰囲気下、無水ジクロロメタン中、セレンテラミドジメチルエーテル(IV)(660 mg、1.50 mmol)の溶液(20 mL)を、0 ℃で10分かけて三臭化ホウ素(6.01 mL、6.01 mmol)の1.0 Mジクロロメタン溶液に加え、同じ温度で15分間、混合物を攪拌した。混合物を室温になるまで暖め、21時間攪拌し続けた。これに対し炭酸水素ナトリウム飽和水溶液(100 mL)を加え、混合物を減圧下で濃縮してジクロロメタンを除去した。残留懸濁水溶液をろ過し、回収した固体を真空で乾燥させ、淡黄色固体としてセレンテラミド(I)(570 mg、92.3))%)を得た。この純度のサンプルは、gFP及びBFPなどの製造において十分に利用することができる。
エタノールからの再結晶によって分析的に純粋なサンプルとして無色の固体を得た(103 mg、16.7%)。
【0137】
Mp. 242-243 ℃ (dec.); 1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 3.54 (s, 2H), 4.01 (s, 2H), 6.69-6.75 (AA'BB', 2H), 6.84-6.90 (AA'BB', 2H), 7.00-7.06 (AA'BB', 2H), 7.11-7.24 (m, 5H), 7.89-7.95 (AA'BB', 2H), 8.80 (s, 1H), 9.28 (br s, 1H), 9.85 (br s, 1H), 10.35 (s, 1H); 13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6) δ41.7, 115.2 (2C), 115.8 (2C), 125.7, 126.2, 126.6, 128.0 (2C), 128.2 (2C), 129.0 (2C), 130.2 (2C), 136.8, 138.4, 143.4, 148.6, 150.5, 156.2, 159.1, 170.5; IR (KBr, cm-1) 704, 1157, 1229, 1267, 1364, 1450, 1493, 1516, 1545, 1593, 1611, 1673, 3022, 3285, 3385; HRMS (EI) m/z 411.1582 (M+, C25H21N3O3 requires 411.1583)。
【0138】
[実施例2]
細菌細胞由来の組換えヒスチジン標識アポイクオリンの発現及び精製
組換えヒスチジン標識アポイクオリンは、大腸菌のペリプラズムに発現させた。使用した宿主株は、大腸菌WA802株(CGSC 5610)である。大腸菌WA802株に導入した組換えヒスチジン標識アポイクオリン発現ベクターpiP-His-HEを、piP-HEΔ2Eから構築した(Inouye & Sahara, Protein Express. Purifi. (2007) 53: 384-389 参照)。
【0139】
すなわち、piP-HEΔ2EをEcoRI及びHindIIIで切断した。そして、piP-HEΔ2EのEcoRI/HindIII部位に、6つのヒスチジン残基を含むヒスチジンタグリンカーセット(配列番号13:5'AAT TCC CAC CAT CAC CAT CAC CAT GGT A 3' 及び配列番号14:5'AG CTT ACC ATG GTG ATG GTG ATG GTG GG 3')を挿入した。これにより、プラスミドpiP-His-HEを作成した。このプラスミドは、リポ蛋白質(lpp)プロモーター及びlacオペレーターの制御下に、外膜蛋白質A (OmpA)のシグナルペプチド配列及び6個のヒスチジン残基を有する。
【0140】
アポイクオリンの発現に関しては、piP-His-HEを導入した大腸菌を、アンピシリン(50μg/ml)を含む10mlのLB培地中で、30℃で16時間増殖させ、これを、3Lの坂口フラスコ中の50μlの消泡剤(Disform CE475、日本油脂東京)を含有する400mlのLB培地に加えた。往復式振盪(170rpm/分)を行いながら37℃で18時間培養した後、5,000gで5分間の遠心分離を行い、1Lの培養液から細胞を回収した。回収した細胞を、90mlの50mM Tris-HCl(pH7.6)に懸濁した後、Branson社(コネチカット州ダンベリー)のモデル250 Sonifierを使用して超音波処理を行った。4℃、12,000gで20分間の遠心分離で得られた上清を、50mM Tris-HCl(pH7.6)でカラムを平衡化したニッケルキレートカラム(ファルマ社、1.5×4.0cm)に供した。140mlの50mM Tris-HCl(pH7.6)でカラムを洗浄し、0.1Mイミダゾールを含む50mM Tris-HCl (pH7.6) 100mlを用いて、吸着アポイクオリン蛋白質を溶出した。
【0141】
精製収率のまとめを表1に示した。1L の培養菌体からアポイクオリンを150 mg 得た。
【0142】
アポイクオリンの更なる精製は、0.1Mイミダゾールを用いてニッケルキレートカラムから溶出したアポイクオリン(26mg)を、10mM EDTA及び5mM ジチオスレイトールを含む30mM Tris-HCl(pH7.6) (TED緩衝液) 5mlに溶解し、4℃で18時間放置した。この混合液に100μlの0.1M酢酸を加えることにより、白色のアポイクオリンを含む沈殿物を生成させる。この白色沈殿物を、10,000 x gで10分間遠心分離を行うことによって回収した。得られた沈殿物を5mlのTED緩衝液に加え、されに8μlの25%アンモニウア溶液を加え溶解した後、不溶性の沈殿物を遠心分離によって除去し、その上清を精製アポイクオリンとした。
【0143】
[実施例3]
蛋白質分析
市販のキット(Bio-Rad社、カリフォルニア州リッチモンド)及び基準としてのウシ血清アルブミン(Pierce社、イリノイ州ロックフォード)を用い、Bradfordの色素結合法(Anal. Biochem. (1976)72, 248-254)によって、蛋白質の濃度を決定した。
また、Laemmli(Nature (1970) 227, 680-685)の記載の通りに、12%分離ゲル(テフコ株式会社、東京)を用い、還元性条件下でSDS-PAGE分析を行った。その結果、図1に示すように、本精製法によって得られた精製アポイクオリンの純度は95%以上であることが明らかとなった。
【0144】
[実施例4]
セレンテラミド及びアポイクオリンからの合成BFPの調製
10mM CaCl2及び1mM DTTを含む1mlの50mM Tris-HCl(pH 7.6)中、アポイクオリン(0.5mg、22nmol)及び10μlのセレンテラミド(無水メタノール中1.2μg/μl、29nmol)を混合し、この混合物を4℃で16時間静置することにより、合成BFP(syn-BFP)を調製した。続いて、遠心濃縮器Vivaspin 2(10,000 MWCO、Sartorius AG、ドイツ)を用いて4℃、5,000 x gで20分間処理し、混合物を0.1 mlまで濃縮した。濃縮された溶液は、長波UVランプ(366nm)の下で強い青色発光を示した。
【0145】
セレンテラミド及びアポイクオリンからの合成gFPの調製
アポイクオリン及びセレンテラミドからの合成gFP (syn-gFP)の調製に関しては、10mM EDTA及び 1mM DTTを含む1mlの50mM Tris-HCl(pH 7.6)中、アポイクオリン(0.5mg、22nmol)及び10μlのセレンテラミド(無水メタノール中1.2μg/μl、29nmol)を混合し、この混合物を4℃で16時間静置することにより、合成gFP(syn-gFP)を調製した。335nmで励起することにより、図2に示す蛍光発光スペクトルを得た。アポイクオリンとセレンテラミドにより、蛍光能を有するsyn-gFP の生成が確認された。
一方、syn-gFP及びsyn-BFP 調製溶液に、還元剤であるDTTが添加することにより、表2にまとめたように、syn-gFP及びsyn-BFPを短時間に、効率良く調製することができることが明らかとなった。
【0146】
[実施例5]
吸収スペクトル及び蛍光スペクトルの測定
Jasco(日本分光株式会社、東京)のV-560分光光度計(帯域幅:0.5nm、レスポンス:中程度、スキャン速度:100 nm/分)により、石英セル(光路長10mm)を用いて25℃で吸収スペクトルを測定した。また、JascoのFP-6500蛍光分光光度計(発光/励起帯域幅: 3 nm、レスポンス:0.5 sec、スキャン速度:1000nm/分)を用いて蛍光スペクトルを測定した。
得られたsyn-gFPの蛍光スペクトルは、図3に示すように、イクオリンより調製したgFPのスペクトルと一致した。また、表3に示すように、調製したsyn-BFPの吸収スペクトルにおける280 nmと330 nm の比率は、イクオリンより調製したBFPとほぼ同じかそれ以上の比を示すことから、同等物が作ることが可能となった。
【0147】
[実施例6]
発光活性のアッセイ
反応混合物(100μl)は、50mM Tris-HCl(pH7.6)-10mM CaCl2中にセレンテラジン(0.5μg、1μlのエタノール中に溶解)を含有していた。蛋白質溶液を加えることにより反応を開始させ(1μgのBFP及びsyn-BFP)、浜松ホトニクス社製のR4220P光電子増倍管を備えたアトー株式会社(東京)製のAB2200照度計を用いて、発光強度を1分間記録した。1ngの精製組換えイクオリンの最大強度(Imax)は、8.8×105 rlu(relative light units:相対発光量)を示した。
合成セレンテラミドを用いて調製したsyn-BFPは、図4に示すように、イクオリンより調製したBFPと同等の発光活性を有していた。
【0148】
【表1】

【0149】
【表2】

【0150】
【表3】

【0151】
[配列表フリーテキスト]
〔配列番号:1〕天然型アポイクオリンの塩基配列である。
〔配列番号:2〕天然型アポイクオリンのアミノ酸配列である。
〔配列番号:3〕天然型アポクライティン−Iの塩基配列である。
〔配列番号:4〕天然型アポクライティン−Iのアミノ酸配列である。
〔配列番号:5〕天然型アポクライティン−IIの塩基配列である。
〔配列番号:6〕天然型アポクライティン−IIのアミノ酸配列である。
〔配列番号:7〕天然型アポマイトロコミンの塩基配列である。
〔配列番号:8〕天然型アポマイトロコミンのアミノ酸配列である。
〔配列番号:9〕天然型アポオベリンの塩基配列である。
〔配列番号:10〕天然型アポオベリンのアミノ酸配列である。
〔配列番号:11〕天然型アポベルボインの塩基配列である。
〔配列番号:12〕天然型アポベルボインのアミノ酸配列である。
〔配列番号:13〕実施例で用いたヒスチジンタグリンカーセットの塩基配列である。
〔配列番号:14〕実施例で用いたヒスチジンタグリンカーセットの塩基配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化56】

で表わされる化合物
(式中、
1は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
2は、アミノであり、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
を、
下記一般式(2)
【化57】

で表わされる化合物
(式中、
Xは、脱離基であり、
4は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
に反応させることを含む、
下記一般式(3)
【化58】

で表わされる化合物
(式中、R1、R3、及びR4は、前記の通りである。)
の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)において、
1が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一般式(1)において、
3が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
一般式(2)において、
Xが、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニルオキシ、ベンゼンスルホニルオキシ、トルエンスルホニルオキシ、又は(4−R4O)C64CCOO−(式中、R4は前記の通りである。)である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
一般式(2)において、
4が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
一般式(1)で表わされる化合物が、下記化合物
【化59】

からなる群から選択される化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
一般式(2)で表わされる化合物が、下記化合物
【化60】

からなる群から選択される化合物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
下記式
【化61】

で表わされる化合物を、下記式
【化62】

で表わされる化合物に反応させることを含む、下記式
【化63】

で表わされる化合物の製造方法。
【請求項9】
下記一般式(3)
【化64】

で表わされる化合物。
(式中、
1は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
4は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
【請求項10】
下記式
【化65】

で表わされる化合物。
【請求項11】
下記一般式(3)
【化66】

で表わされる化合物
(式中、
1は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
4は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
よりR1で示す基及びR4で示す基を脱離させることを含む、
下記一般式(4)
【化67】

で表わされる化合物
(式中、R3は前記の通りである。)
の製造方法。
【請求項12】
一般式(3)において、
1が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
一般式(3)において、
3が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
一般式(3)において、
4が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジル、α−メチルベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、又は4−フェニルブチルである、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
一般式(3)で表わされる化合物が、下記化合物
【化68】

からなる群から選択される化合物である、請求項11〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
下記式
【化69】

で表わされる化合物よりメチルを脱離させることを含む、下記式
【化70】

で表わされる化合物の製造方法。
【請求項17】
カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下において、
下記一般式(4)
【化71】

で表わされる化合物
(式中、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
を、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質に反応させることを含む、緑色蛍光蛋白質(gFP)の製造方法。
【請求項18】
カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下において、下記式
【化72】

で表わされる化合物を、アポイクオリンに反応させることを含む、緑色蛍光蛋白質(gFP)の製造方法。
【請求項19】
前記反応を、還元剤の存在下において行う、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
下記一般式(1)
【化73】

で表わされる化合物
(式中、
1は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルであり、
2は、アミノであり、
3は、脂肪族環式基によって置換されていてもよい炭素数1〜7のアルキル、脂肪族環式基、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
を、
下記一般式(2)
【化74】

で表わされる化合物
(式中、
Xは、脱離基であり、
4は、炭素数1〜3のアルキル、又は炭素数7〜10のアリールアルキルである。)
に反応させて、
下記一般式(3)
【化75】

で表わされる化合物
(式中、R1、R3、及びR4は、前記の通りである。)
を生成する工程と、
カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンの存在下、一般式(3)で表わされる化合物を、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質に反応させることを含む、青色蛍光蛋白質(BFP)の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−180180(P2010−180180A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26757(P2009−26757)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「分子イメージング機器研究開発プロジェクト/新規悪性腫瘍分子プローブの基盤技術開発/分子プローブ要素技術の開発」委託開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】