説明

センサー装置および測定方法

【課題】広いpHの範囲において、測定対象物のpH変化を長期間測定することができるセンサー装置および測定方法を提供すること。
【解決手段】本発明のセンサー装置1は、不動態膜を形成する金属材料で構成された測定用電極3と、測定用電極3に対して離間して設けられた参照用電極4と、測定用電極3を覆うように設けられ、不動態膜と同一の材料で構成され、イオンに対する感応性を有する感応膜8と、参照用電極4を覆うように設けられ、イオンに対する感応性を実質的に有しない非感応膜9とを有し、pHの変化に伴って測定用電極3と参照用電極4との電位差が変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサー装置および測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
センサー装置としては、例えば、コンクリート中の鉄筋の腐蝕状態を測定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
施工直後のコンクリート構造物中のコンクリートは、通常、強アルカリ性を呈する。そのため、施工直後のコンクリート構造物中の鉄筋は、その表面に不動態膜が形成されるため、安定である。しかし、施工後に酸性雨や排気ガス等の影響を受けたコンクリート構造物は、コンクリートが徐々に酸性化していくため、鉄筋が腐食することとなる。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1に係るセンサー装置では、コンクリート構造物中の鉄筋と同種材料からなる細線をコンクリート構造物中に埋設し、腐蝕による細線の断線の有無を検知することにより、コンクリート中の鉄筋の腐蝕状況を予測する。
しかし、特許文献1に係るセンサー装置では、細線が腐蝕し始めてから断線するまでの間のコンクリート構造物中の鉄筋やコンクリートの状態(より具体的には、例えばpHや塩化物イオン濃度)を知ることができない。また、細線が腐蝕し始めてから断線するまでの間に、コンクリート構造物中の鉄筋の腐食が進行してしまう。そのため、コンクリート構造物中の鉄筋の腐蝕を完全には回避することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−153568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係るセンサー装置では、細線が切断されたタイミングにより、コンクリート構造物中の鉄筋の腐食が始まった時期を知ることは可能である。しかし、特許文献1に係るセンサー装置では、鉄筋が施工された後、腐食が始まるまでの期間、時間の経過とともに変化する鉄筋やコンクリートの状態を把握することはできないという課題があった。
本発明の目的は、鉄筋が施工された後、腐食が始まるまでの期間、測定対象物の状態変化を測定し、得られた情報をコンクリート構造物の計画的な保全に活用することができるセンサー装置および測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のセンサー装置は、不動態膜を形成する金属材料で構成された測定用電極と、
前記測定用電極に対して離間して設けられた参照用電極と、
前記測定用電極を覆うように設けられ、前記不動態膜と同一の材料で構成され、イオンに対する感応性を有する感応膜と、
前記参照用電極を覆うように設けられ、イオンに対する感応性を実質的に有しない非感応膜とを有し、
pHの変化に伴って前記測定用電極と前記参照用電極との電位差が変化することを特徴とする。
【0007】
このような本発明のセンサー装置によれば、測定用電極と参照用電極との電位差に基づいて、pHを測定することができる。
また、本発明では、感応膜が不動態膜と同一の材料で構成されているので、比較的広いpHの範囲において、化学的に安定である。そのため、比較的広いpHの範囲において安定的にpHを測定することができる。
【0008】
本発明のセンサー装置では、前記参照用電極は、前記測定用電極と同一または近似した金属材料で構成された基部と、前記基部を覆うように設けられた不動態膜とを有することが好ましい。
これにより、測定用電極と参照用電極との電位差に基づいて、pHをより高精度に測定することができる。
【0009】
本発明のセンサー装置では、前記金属材料は、鉄系材料であることが好ましい。
鉄系材料は安価で入手が容易である。
本発明のセンサー装置では、前記鉄系材料は、Alを含むことが好ましい。
Alを含むFe系合金は、比較的広いpHの範囲において不動態膜を安定的に形成する。そのため、測定用電極をコンクリート内のpH変化に耐え得るものとすることができる。
【0010】
本発明のセンサー装置では、前記感応膜は、FeAlで構成されていることが好ましい。
これにより、感応膜を比較的広いpHの範囲(pH4〜14)において安定的に存在させることができる。
本発明のセンサー装置では、前記非感応膜は、樹脂材料で構成されていることが好ましい。
これにより、簡単かつ確実に、非感応膜を形成することができる。
【0011】
本発明のセンサー装置では、前記測定用電極および前記参照用電極に対してそれぞれ離間して設けられた比較用電極を有することが好ましい。
これにより、pHをより高精度に測定することができる。
本発明のセンサー装置では、前記比較用電極は、貴金属で構成されていることが好ましい。
これにより、簡単かつ確実に、比較用電極を形成することができる。貴金属は化学的に安定であり、イオンに対する感応性が極めて低いとともに優れた導電性を有する。そのため、貴金属は比較用電極の構成材料として適している。
本発明のセンサー装置では、前記測定用電極と前記参照用電極との電位差を測定する機能を有する機能素子を有することが好ましい。
これにより、測定用電極と参照用電極との電位差に基づいて、pHをより高精度に測定することができる。
【0012】
本発明の測定方法は、本発明のセンサー装置の前記測定用電極および前記参照用電極を測定対象物内にそれぞれ埋設し、
前記測定用電極と前記参照用電極との電位差に基づいて、前記測定対象物の状態を測定することを特徴とする。
これにより、広いpHの範囲において、測定対象物のpH変化に伴う状態変化を測定することができる。
本発明の測定方法では、前記測定対象物は、コンクリートであることが好ましい。
これにより、コンクリートのpH変化に伴う状態変化を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るセンサー装置の使用状態の一例を示す図である。
【図2】図1に示すセンサー装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示す測定用電極、参照用電極、比較用電極および機能素子を説明するための平面図である。
【図4】図2に示す測定用電極、参照用電極および比較用電極を説明するための断面図(図3中のA−A線断面図)である。
【図5】図2に示す機能素子を説明するための断面図(図3中のB−B線断面図)である。
【図6】図2に示す機能素子に備えられた差動増幅回路を示す回路図である。
【図7】図2に示す機能素子に備えられた差動増幅回路を示す回路図である。
【図8】FeAlのpH−電位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のセンサー装置および測定方法の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
まず、本発明の第1実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るセンサー装置の使用状態の一例を示す図、図2は、図1に示すセンサー装置の概略構成を示すブロック図、図3は、図2に示す測定用電極、参照用電極、比較用電極および機能素子を説明するための平面図、図4は、図2に示す測定用電極、参照用電極および比較用電極を説明するための断面図(図3中のA−A線断面図)、図5は、図2に示す機能素子を説明するための断面図(図3中のB−B線断面図)、図6は、図2に示す機能素子に備えられた差動増幅回路を示す回路図、図7は、図2に示す機能素子に備えられた差動増幅回路を示す回路図、図8は、FeAlのpH−電位を示す図である。
なお、以下では、本発明のセンサー装置および測定方法をコンクリート構造物の品質測定に用いる場合を例に説明する。
【0015】
図1に示すセンサー装置1は、コンクリート構造物100の品質を測定するものである。
コンクリート構造物100は、コンクリート101内に複数の鉄筋102が埋設されている。そして、センサー装置1は、コンクリート構造物100のコンクリート101内の鉄筋102付近(鉄筋102とコンクリート101の外表面との間)に埋設されている。なお、センサー装置1は、コンクリート構造物100の打設する際に、コンクリート101の導入前に鉄筋に固定して埋め込んでもよいし、打設後に硬化したコンクリート101に穿孔して埋め込んでもよい。
【0016】
このセンサー装置1は、本体2と、その本体2上設けられた測定用電極3、参照用電極4および比較用電極7と、測定用電極3を覆う感応膜8と、参照用電極4を覆う非感応膜9とを有する。本実施形態では、測定用電極3、参照用電極4および比較用電極7は、コンクリート構造物100の外表面からの距離が互いに等しくなるように設置されている。また、測定用電極3、参照用電極4および比較用電極7は、それぞれ、電極面がコンクリート構造物100の外表面に平行または略平行となるように設置されている。そして、センサー装置1は、測定用電極3、参照用電極4および比較用電極7の電位に基づいて、pHを測定し得るように構成されている。
また、センサー装置1は、図2に示すように、測定用電極3、参照用電極4および比較用電極7に電気的に接続された機能素子51と、電源52と、温度センサー53と、通信用回路54と、アンテナ55と、発振器56とを有し、これらが本体2内に収納されている。
【0017】
以下、センサー装置1を構成する各部を順次説明する。
(本体)
本体2は、測定用電極3、参照用電極4、比較用電極7および機能素子51等を支持する機能を有する。
このような本体2は、図4および図5に示すように、測定用電極3、参照用電極4、比較用電極7および機能素子51を支持する基板21を有する。なお、基板21は、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56をも支持するが、図3〜5では、説明の便宜上、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56の図示を省略している。
【0018】
この基板21は、絶縁性を有する。基板21としては、特に限定されず、例えば、アルミナ基板、樹脂基板等の実装基板を用いることができる。
この基板21上には、例えばソルダーレジストのような絶縁性の樹脂組成物で構成された絶縁層23が設けられている。そして、この絶縁膜23を介して基板21上には、測定用電極3、参照用電極4、比較用電極7および機能素子51が実装されている。
【0019】
また、本体2は、機能素子51、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56を収納する機能を有する。
特に、本体2は、機能素子51、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56を液密的に収納するように構成されている。
具体的には、図4および図5に示すように、本体2は、封止部24を有する。この封止部24は、機能素子51、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56を封止する機能を有する。これにより、センサー装置1を水分やコンクリートの存在下に設置した場合に、機能素子51、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56の劣化を防止することができる。
【0020】
ここで、封止部24は、開口部241を有する(図3および図4参照)。これにより、封止部24が劣化を防止すべき部位を保護しつつ、センサー装置1が測定を行うことができる。
封止部24の構成材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂のような熱可塑性樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂のような熱硬化性樹脂等の各種樹脂材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
(測定用電極、参照用電極)
測定用電極3および参照用電極4は、図4に示すように、それぞれ、前述した本体2の外表面上(より具体的には基板21上)に設けられている。特に、測定用電極3および参照用電極4は、同一平面上に設けられている。そのため、測定用電極3および参照用電極4の設置環境の差が生じるのを防止することができる。
また、測定用電極3および参照用電極4は、互いに電位の影響を受けない程度(例えば数mm)に離間している。
【0022】
本実施形態では、測定用電極3および参照用電極4は、それぞれ、薄膜状をなしている。
このような測定用電極3の構成材料としては、特に限定されないが、FeまたはFeを含む合金(特に、Alを0.1〜3.5wt%含むFe系合金)、すなわち鉄系材料であるのが好ましい。鉄系材料は安価で入手が容易である。また、Alを0.1〜3.5wt%含むFe系合金は、比較的広いpHの範囲(pH4〜14)において不動態膜(FeAl)を安定的に形成する(図7参照)。そのため、測定用電極3上の感応膜8はコンクリート内のpH変化に長時間耐え得るものとすることができる。
【0023】
一方、参照用電極4は、図4に示すように、基部41と、その基部41を覆う不動態膜42とを有する。
基部41は、測定用電極3と同一または近似した金属材料で構成されている。また、不動態膜42は、基部41を構成する金属材料を不動態化した材料(金属酸化物)で構成されている。このような参照用電極4の表面には非感応膜9(pH非感応膜)が形成されている。これにより、参照用電極4の自然電位の挙動はpHに依存しない。従って、例えば、不動態膜42をFeAlで構成した場合、コンクリートのpHが4から14の広い範囲で、58mV/pHの良い感度を得ることができる。
このような参照用電極4は、前述した測定用電極3および感応膜8からなる構成と同じ構成を有する。そのため、測定用電極3と非感応膜9で覆われた参照用電極4との電位差に基づいて、pHをより高精度に測定することができる。
【0024】
このような測定用電極3および参照用電極4は、それぞれ、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング(低温スパッタリング)、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、金属箔の接合等により形成することができる。
【0025】
(比較用電極)
比較用電極7は、図4に示すように、前述した本体2の外表面上(より具体的には基板21上)に設けられている。また、比較用電極7は、前述した測定用電極3および参照用電極4と同一平面上に設けられている。
また、比較用電極7は、測定用電極3および参照用電極4に対して間隔を隔てて設けられている。また、比較用電極7は、測定用電極3との間の距離と、参照用電極4との間の距離が互いに等しくなるような形状をなしている。
このような比較用電極7の電位を基準として、測定用電極3および参照用電極4の電位を検知することができる。そして、その2つの電位の電位差により、測定用電極3と参照用電極4との電位差を検知することができる。これにより、pHをより高精度に測定することができる。
【0026】
本実施形態では、比較用電極7は、薄膜状をなしている。
このような比較用電極7は、化学的に安定で、かつ、導電性を有する材料で構成されている。かかる材料としては、特に限定されないが、例えば、Pt、Au、Ag等の金属材料(貴金属)を用いることができる。これにより、安定した基準電位を取得することができる。また、簡単かつ確実に、比較用電極7を形成することができる。貴金属は化学的に安定であり、イオンに対する感応性が極めて低いとともに優れた導電性を有する。そのため、貴金属は比較用電極7の構成材料として適している。
このような比較用電極7は、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング(低温スパッタリング)、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、金属箔の接合等により形成することができる。
【0027】
(感応膜)
感応膜8は、測定用電極3を覆うように設けられている。そして、感応膜8は、イオンの変化(pHの変化)に対する感応性を有する。これにより、測定用電極3の電位をpH変化に伴って変化させることができる。
この感応膜8は、前述した測定用電極3を構成する金属材料が形成する不動態膜と同一の材料(不動態化した材料)で構成されている。
【0028】
また、この感応膜8は、前述した参照用電極4の不動態膜42を構成する材料と同一または近似した材料で構成されている。
このような材料で構成された感応膜8は、比較的広いpHの範囲において、化学的に安定である。そのため、比較的広いpHの範囲において安定的にpHを測定することができる。
【0029】
また、感応膜8の厚さは、特に限定されないが、10nm以上200nm以下程度である。
このような感応膜8は、測定用電極3の表面を熱酸化処理や化学酸化処理等を施すことにより形成することができる。この場合、厚さ100〜200nmでより均一な感応膜8を形成することができる。
また、感応膜8は、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング(低温スパッタリング)、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、薄膜の接合等により形成することもできる。
【0030】
(非感応膜)
非感応膜9は、参照用電極4を覆うように設けられている。そして、非感応膜9は、イオンの変化(pHの変化)に対する感応性を実質的に有さない。これにより、イオンの変化に伴って参照用電極4の電位が変動するのを防止または抑制することができる。すなわち、非感応膜9はイオンの量が変化してもその影響を参照用電極4の電位に与えない。そのため、測定用電極3と参照用電極4との電位差は、pH変化に伴う測定用電極3の電位の変化量に応じたものとなる。ここで、「感応性を実質的に有さない」とは、感応性が全くないか、あるいは、感応性があったとしても、前述した感応膜8の感応性に対して著しく小さい(具体的には5%以下)ことを言う。
【0031】
このような非感応膜9の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、樹脂材料を用いることができる。樹脂材料は、pH変化に対して安定である。そのため、比較的広いpHの範囲において安定的にpHを測定することができる。また、簡単かつ確実に、非感応膜9を形成することができる。
かかる樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば2層以上の積層体として)用いることができる。
このような非感応膜9は、特に限定されないが、例えば、溶液を塗布乾燥する方法、モノマー溶液を塗布した後重合させる方法、薄膜の接合等により形成することができる。
【0032】
(機能素子)
機能素子51は、前述した本体2の内部に埋設されている。
この機能素子51は、測定用電極3と参照用電極4との電位差を測定する機能を有する。これにより、参照用電極4の電位に対する測定用電極3の電位の変化を検知することができる。そのため、測定用電極3と参照用電極4との電位差に基づいて、pHをより高精度に測定することができる。
また、機能素子51は、測定用電極3、参照用電極4および比較用電極7の電位に基づいて、測定対象物であるコンクリート構造物100の測定対象部位のpHを演算する機能をも有する。これにより、コンクリート構造物100のpH変化に伴う状態変化を検知することができる。
【0033】
このような機能素子51は、例えば、集積回路である。より具体的には、機能素子51は、例えば、MCU(マイクロコントロールユニット)であり、図2に示すように、CPU511と、A/D変換回路512と、差動増幅回路514とを有する。
より具体的に説明すると、機能素子51は、図5に示すように、基板513と、基板513上に設けられた複数のトランジスタ514a、514b、514cと、トランジスタ514a、514b、514cを覆う層間絶縁膜515a、515bと、配線および導体ポストを構成する導体部516a、516b、516c、516d、516e、516fと、保護膜25と、電極パッドを構成する導体部61、62、63とを有する。
【0034】
基板513は、例えばSOI基板であり、CPU511およびA/D変換回路512が形成されている。基板513としてSOI基板を用いることにより、トランジスタ514a〜514cをSOI型MOSFETとすることができる。
複数のトランジスタ514a、514b、514cは、それぞれ例えば電界効果トランジスタ(FET)であり、差動増幅回路514の一部を構成するものである。
【0035】
差動増幅回路514は、図6に示すように、3つのトランジスタ514a〜514cと、カレントミラー回路514dとで構成されている。
また、差動増幅回路514は、図7に示すように、演算増幅器201、202と、演算増幅器203とを有する。
演算増幅器201は、比較用電極7を基準として測定用電極3の電位を検出する。また、演算増幅器202は、比較用電極7を基準として参照用電極4の電位を検出する。また、演算増幅器203は、演算増幅器201の出力電位と演算増幅器202の出力電位との差を検出する。
【0036】
導体部516aは、その一端がトランジスタ514aのゲート電極に接続され、他端が前述した導体部516dに接続されている。導体部516dは、導体部61を介して測定用電極3に電気的に接続されている。これにより、トランジスタ514aのゲート電極と測定用電極3とが電気的に接続されている。そのため、測定用電極3の電位の変化に応じて、トランジスタ514aのドレイン電流が変化する。
【0037】
同様に、導体部516bは、その一端がトランジスタ514bのゲート電極に接続され、他端が前述した導体部516eに接続されている。導体部516eは、導体部62を介して参照用電極4に電気的に接続されている。これにより、トランジスタ514bのゲート電極と測定用電極4とが電気的に接続されている。そのため、参照用電極4の電位の変化に応じて、トランジスタ514bのドレイン電流が変化する。
また、導体部516cは、その一端がトランジスタ514cのゲート電極に接続され、他端が前述した導体部516fに接続されている。
【0038】
また、機能素子51は、導体部63を介して比較用電極7に電気的に接続されている。
また、機能素子51は、電源52からの通電により作動する。電源52は、機能素子51を動作可能な電力を供給できるものであれば、特に限定されず、例えば、ボタン型電池のような電池であってもよいし、圧電素子のような発電機能を有する素子を用いた電源ものであってもよい。
【0039】
また、機能素子51は、温度センサー53の検知温度情報を取得し得るように構成されている。これにより、測定部位の温度に関する情報も得ることができる。このような温度に関する情報を用いることにより、測定部位の状態をより正確に測定したり、測定部位の変化を高精度に予想したりすることができる。
温度センサー53は、測定対象物であるコンクリート構造物100の測定部位の温度を検知する機能を有する。このような温度センサー53としては、特に限定されず、例えば、サーミスター、熱電対等の公知の様々な種類の温度センサーを用いることができる。
【0040】
また、機能素子51は、通信用回路54を駆動制御する機能をも有する。例えば、機能素子51は、測定用電極3と参照用電極4との電位差に関する情報(以下、単に「電位差情報」ともいう)と、測定部位のpHに関する情報(以下、単に「pH情報」ともいう)とをそれぞれ通信用回路54に入力する。また、機能素子51は、温度センサー53によって検知された温度に関する情報(以下、単に「温度情報」ともいう)も併せて通信用回路54に入力する。
【0041】
通信用回路54は、アンテナ55に給電する機能(送信機能)を有する。これにより、通信用回路54は、入力された情報をアンテナ55を介して無線送信することができる。送信された情報は、コンクリート構造物100の外部に設けられた受信機(リーダー)で受信される。
この通信用回路54は、例えば、電磁波を送信するための送信回路、信号を変調する機能を有する変調回路等を有する。なお、通信用回路54は、信号の周波数を小さく変換する機能を有するダウンコンバータ回路、信号の周波数を大きく変換する機能を有するアップコンバータ回路、信号を増幅する機能を有する増幅回路、電磁波を受信するための受信回路、信号を復調する機能を有する復調回路等を有していてもよい。
【0042】
また、アンテナ55は、特に限定されないが、例えば、金属材料、カーボン等で構成され、巻線、薄膜等の形態をなす。
また、機能素子51は、発振器56からのクロック信号を取得し得るように構成されている。これにより、各回路の同期をとったり、各種情報に時刻情報を付加したりすることができる。
発振器56は、特に限定されないが、例えば、水晶振動子を利用した発振回路で構成されている。
【0043】
以上説明したように構成されたセンサー装置1を用いた測定方法(本発明の測定方法の一例)は、センサー装置1を測定対象物であるコンクリート構造物100内に埋設し、測定用電極3、参照用電極4および比較用電極7の電位に基づいて、コンクリート構造物100の状態を測定する。
これにより、感応膜8がイオンの量(水素イオン濃度)に応じて測定用電極3の電位を変化させる。一方、非感応膜9はイオンの量(水素イオン濃度)が変化してもその影響を参照用電極4の電位に与えない。そのため、測定用電極3と参照用電極4との電位差は、pH変化に伴う測定用電極3の電位の変化量に応じたものとなる。よって、測定用電極3と参照用電極4との電位差に基づいて、pHを測定することができる。
また、本発明では、感応膜が不動態膜と同一の材料で構成されているので、比較的広いpHの範囲において、化学的に安定である。そのため、比較的広いpHの範囲において安定的にpHを測定することができる。例えば、感応膜8をFeAlで構成した場合にはpH4からpH14の広範囲で、長期間、pHを安定して測定できる。
【0044】
以上、本発明のセンサー装置および測定方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、本発明のセンサー装置では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。また、例えば、本発明の測定方法では、任意の目的の工程が1または2以上追加されてもよい。
【0045】
また、前述した実施形態では測定用電極および参照用電極がそれぞれ基板上に設けられた場合を例に説明したが、これに限定されず、例えば、測定用電極および参照用電極は、例えば、センサー装置の本体の封止樹脂で構成された部分の外表面上に設けてもよい。
また、前述した実施形態では測定用電極および参照用電極がそれぞれ薄膜状をなす場合を例に説明したが、これに限定されず、測定用電極および参照用電極の形状は、それぞれ、例えば、ブロック状、線状等をなしていてもよい。また、前述した実施形態では測定用電極および参照用電極をそれぞれセンサー装置の本体の外表面に沿って設けているが、測定用電極および参照用電極をそれぞれセンサー装置の本体の外表面から突出させてもよい。
【0046】
また、前述した実施形態では機能素子がCPU、A/D変換回路および差動増幅回路を有する場合を例に説明したが、これに限定されず、例えば、機能素子には、ROM、RAM、各種駆動回路等の他の回路が組み込まれていてもよい。
また、前述した実施形態では測定用電極と参照用電極との電位差に関する情報をアクティブタグ通信により無線送信によりセンサー装置外部へ送信する場合を例に説明したが、これに限定されず、例えば、パッシブタグ通信を用いて情報をセンサー装置の外部へ送信してもよいし、有線により情報をセンサー装置の外部へ送信してもよい。
【0047】
また、前述した実施形態では機能素子51、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56を本体2内に収納し、これらを測定用電極3および参照用電極4とともに測定対処物であるコンクリート構造物100内に埋設する場合を例に説明したが、機能素子51、電源52、温度センサー53、通信用回路54、アンテナ55および発振器56を測定対象物の外部に設けてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1‥‥センサー装置 2‥‥本体 3‥‥測定用電極 4‥‥参照用電極 7‥‥比較用電極 8‥‥感応膜 9‥‥非感応膜 21‥‥基板 22b‥‥導体部 22c‥‥導体部 23‥‥絶縁層 24‥‥封止部 41‥‥基部 42‥‥不動態膜 43‥‥電極 51‥‥機能素子 52‥‥電源 53‥‥温度センサー 54‥‥通信用回路 55‥‥アンテナ 56‥‥発振器 61‥‥導体部 62‥‥導体部 63‥‥導体部 100‥‥コンクリート構造物 101‥‥コンクリート 102‥‥鉄筋 201、202、203‥‥演算増幅器 241‥‥開口部 511‥‥CPU 512‥‥変換回路 513‥‥基板 514‥‥差動増幅回路 514a‥‥トランジスタ 514b‥‥トランジスタ 514c‥‥トランジスタ 514d‥‥カレントミラー回路 515a、515b‥‥層間絶縁膜 516a‥‥導体部 516b‥‥導体部 516c‥‥導体部 516d‥‥導体部 516e‥‥導体部 516f‥‥導体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不動態膜を形成する金属材料で構成された測定用電極と、
前記測定用電極に対して離間して設けられた参照用電極と、
前記測定用電極を覆うように設けられ、前記不動態膜と同一の材料で構成され、イオンに対する感応性を有する感応膜と、
前記参照用電極を覆うように設けられ、イオンに対する感応性を実質的に有しない非感応膜とを有し、
pHの変化に伴って前記測定用電極と前記参照用電極との電位差が変化することを特徴とするセンサー装置。
【請求項2】
前記参照用電極は、前記測定用電極と同一または近似した金属材料で構成された基部と、前記基部を覆うように設けられた不動態膜とを有する請求項1に記載のセンサー装置。
【請求項3】
前記金属材料は、鉄系材料である請求項1または2に記載のセンサー装置。
【請求項4】
前記鉄系材料は、Alを含む請求項3に記載のセンサー装置。
【請求項5】
前記感応膜は、FeAlで構成されている請求項4に記載のセンサー装置。
【請求項6】
前記非感応膜は、樹脂材料で構成されている請求項1ないし5のいずれかに記載のセンサー装置。
【請求項7】
前記測定用電極および前記参照用電極に対してそれぞれ離間して設けられた比較用電極を有する請求項1ないし6のいずれかに記載のセンサー装置。
【請求項8】
前記比較用電極は、貴金属で構成されている請求項7に記載のセンサー装置。
【請求項9】
前記測定用電極と前記参照用電極との電位差を測定する機能を有する機能素子を有する請求項1ないし8のいずれかに記載のセンサー装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載のセンサー装置の前記測定用電極および前記参照用電極を測定対象物内にそれぞれ埋設し、
前記測定用電極と前記参照用電極との電位差に基づいて、前記測定対象物の状態を測定することを特徴とする測定方法。
【請求項11】
前記測定対象物は、コンクリートである請求項10に記載の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−198122(P2012−198122A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62765(P2011−62765)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】