説明

センシング装置

【課題】試料中の被検出物質を高精度かつ再現性高く検出することができるセンシング装置を提供することを目的とする。
【解決手段】プリズムと、プリズムの一面上に配置された金属膜と、プリズムの一面上に配置され、金属膜上に試料を供給する流路が形成された基板と、光を射出する光源と、光路上に配置され、光源から射出された光を集光する集光レンズ及び光源から射出された光をP偏光方向に偏光する偏光フィルタを有し、光源から射出された光を、プリズムと金属膜との境界面で全反射する角度でプリズムに入射させる入射光光学系と、金属膜の光を検出する光検出手段とを有し、入射光光学系は、さらに、プリズムに入射する光の強度分布の最高強度と最低強度との差を小さくする光強度分布調整部する構成とすることで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場を利用して被検出物質を検出するセンシング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定(生体分子反応の測定)等において被検出物質を高感度かつ容易に検出(または測定)する方法としては、特定波長の光により励起され蛍光を発する蛍光物質(つまり、蛍光性を有する物質)からの蛍光を検出することで、被検出物質を検出(または測定)する蛍光法がある。
この蛍光法は、例えば、被検出物質が蛍光物質の場合は、被検出物質を含むと考えられる検査対象試料に特定波長の励起光を照射し、そのときの蛍光を検出することによって被検出物質の存在を確認する方法である。
また、蛍光法は、被検出物質が蛍光物質ではない場合も、被検出物質と特異的に結合する特異的結合物質を蛍光物質で標識し、この特異的結合物質を被検出物質に結合させ、その後上記と同様にして、蛍光(具体的には、被検出物質と結合した特異的結合物質を標識する蛍光物質の蛍光)を検出することにより、被検出物質の存在を確認することができる。
【0003】
また、蛍光法を用いて被検出物質をさらに高感度に検出する方法としては、蛍光物質を励起させるために金属膜の表面プラズモン共鳴による増強電場を利用する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3)。
【0004】
特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載された方法は、いずれも、蛍光物質により標識された被検出物質を金属膜の近傍に配置した状態で、金属薄膜とプリズム(半円柱プリズム、三角形ガラスプリズム)との境界面に、プラズモン共鳴条件を満たす角度(プラズモン共鳴角)で光を入射させて金属薄膜に増強された電場を発生させ、金属薄膜近傍にある物質を強く励起し、蛍光を増幅させるというものであり、表面プラズモン増強蛍光(以下「SPF」ともいう。)を利用した蛍光検出法である。
【0005】
ここで、特許文献2に記載されているように、表面プラズモンの電場は、金属表面に強く局在し、かつ、金属表面からの距離に応じて指数関数的に減衰するため、金属表面に吸着固定されている蛍光標識抗体(つまり蛍光物質)のみを選択的かつ高確率で励起することができる。これにより、特許文献2に記載されているように、SPFを利用した蛍光検出法を用いることで、界面から離れた位置にある妨害物質の影響を最小限に抑制することができ、高精度に被検出物質を検出することも可能になる。
【0006】
また、特許文献2及び特許文献3は、金属膜が載置されたプリズムの角度を調整する回転機構を設け、この回転機構によりプリズムの角度を調整することで、光源から射出された光を最適なプラズモン共鳴角でプリズムに入射させることが記載されている。
【0007】
また、表面プラズモン増強効果を利用して、被検出物質を検出する方法としては、表面プラズモンにより励起された蛍光を検出する方法以外にも散乱光を検出する方法がある。
特許文献4には、プリズムの表面に金属膜と、金属膜の表面に配置された抗原・抗体反応により被検出物質をトラップする機能薄膜と、この機能薄膜に触れる状態で試料液を供給するフローセルとを有する表面プラズモンセンサが記載されている。
この表面プラズモンセンサは、金属膜上に表面プラズモン増強効果を利用して励起された表面プラズモンの電場が、機能薄膜に存在している被検出物質により乱されることで生じる散乱光を検出することで、被検出物質を検出している。このように、蛍光ではなく、散乱光を検出する方法でも、被検出物質を検出することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2002−62255号公報
【特許文献2】特開2001−21565号公報
【特許文献3】特開2002−257731号公報
【特許文献4】特開平10−78390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、表面プラズモンのプラズモン共鳴条件は、照明光の波長、金属膜への入射角、プリズムの屈折率や凹凸、金属膜の誘電率、厚みや粗密度、金属膜上に配置される試料の種類、状態、等により変化する。しかしながら、最大の増強度で再現性よく検出をするために、特許文献2及び3に記載されているような、回転機構を設け、基板及びプリズムを回転させ、最適角度を検出する方法では、装置コストが高くなり、また、最適角度を検出している感に、金属膜上の蛍光物質の蛍光量が減少していくという問題があった。
また、光の入射角度を調整する機構を設ける代わりに、上記の物理定数や位置関係を保障(一定状態に維持)するための温度調整と、各部材の形状を同一にすることも考えられるが、装置や、チップの製造設備が高価となり、特に低コスト化の要求が厳しい血液診断用途では受け入れられない。
こういった問題が、プラズモンを用いたセンシング装置の実用化の実現を阻む要因だった。
【0010】
これに対して、特許文献1〜3に記載したようなSPFを利用した蛍光検出法、及び、特許文献4に記載した被検出物質が表面プラズモンを乱すことで生じる散乱光を検出する検出法では、特許文献1に記載されているように、光源から射出された光をレンズ等で集光し所定の角度幅の光にして、金属膜に入射させ、その収束角度内での角度調整を不要とすることでコストダウンを図っている。
【0011】
しかしながら、光源から射出される光は、光束の位置(例えば、光束中心からの距離)によって光の強度が変化する(つまり、強度分布がある)ため、表面プラズモン共鳴が発生する角度が変化することで、表面プラズモンがつくる電場の強度が変化してしまうという問題がある。
また、蛍光物質による蛍光は、同一の蛍光物質であっても表面プラズモンがつくる電場の強度によって変化するため、表面プラズモンがつくる電場の強度が変化してしまうと、同一、同量の蛍光物質であっても蛍光の光量が変化し検出値が変化してしまうため、検出の精度が下がり、再現性が低下するという問題がある。
また、表面プラズモンがつくる電場を利用して被検出物質を検出する場合に限らず、検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場を利用して被検出物質を検出する場合にも、同様の問題がある。
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術に基づく問題点を解消し、試料中の被検出物質を高精度かつ再現性高く検出することができるセンシング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場を利用して試料内の被検出物質を検出するセンシング装置であって、プリズムと、前記プリズムの一面上に配置された金属膜と、前記プリズムの一面上に配置され、前記金属膜上に試料を供給する流路が形成された基板と、光を射出する光源と、前記光源から射出される光を、前記プリズムと前記金属膜との境界面で全反射する角度で前記プリズムに入射させる入射光光学系と、前記金属膜近傍で発生した光を検出する光検出手段とを有し、前記入射光光学系は、さらに、前記プリズムに入射する光の強度分布の最高強度と最低強度との差を小さくする光強度分布調整部することを特徴とするセンシング装置を提供するものである。
【0014】
また、前記光強度分布調整部は、前記光源から射出される光の光路上に配置され、前記光源から射出される光の一部を遮断する光遮断部材からなることが好ましい。
また、前記光遮断部材は、前記光源から射出される光の最大強度の98%以下の強度となる領域の光を遮断することが好ましい。
【0015】
また、前記光強度分布調整部は、前記光源から射出される光の光路上に配置され、前記光源から射出される光束の中心から離れるに従って光学濃度が低くなる吸収フィルタを有することも好ましい。
【0016】
また、前記光検出手段の検出結果に基づいて、前記試料内の前記被検出物質の濃度を算出する算出手段を有することが好ましい。
また、前記被検出物質は、蛍光性を有する物質、または、蛍光性を有する物質で標識された物質であることが好ましい。
また、前記被検出物質は、強散乱体である金属粒子であることも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光強度分布調整部により、プリズムに入射する光、つまり、プリズムと金属膜との境界面に到達する光の強度分布の最高強度と最低強度との差を小さくすることで、より大きな増強場が発生する共鳴角(例えば、プラズモン共鳴角)が異なる角度となった場合でも境界面に光が入射することで発生する増強場の強度を均一にすることができる。このように発生する増強場の強度を均一にできることで、高い再現性でかつ高精度に試料中の被検出物質を検出することができる。
また、共鳴角が異なる角度でも再現性の高い検出ができることで、設計誤差の許容範囲を大きくすることができ、装置コストや基板コストを安価にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係るにセンシング装置について、添付の図面に示す実施形態を基に詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明のセンシング装置の一実施形態であるセンシング装置10の概略構成を示すブロック図であり、図2(A)は、図1に示したセンシング装置10の光源12、入射光光学系14、サンプルユニット16の概略構成を示す上面図であり、図2(B)は、図2(A)のB−B線断面図である。また、図3は、図2(A)及び(B)に示すサンプルユニット16の金属膜40の一部を拡大して示す拡大模式図である。
【0020】
図1、図2(A)及び(B)に示すようにセンシング装置10は、基本的に、所定波長の光を射出する光源12と、光源12から射出された光(以下「励起光」ともいう。)を導光し集光する入射光光学系14と、被検出物質84を含有する試料(つまり測定対象)82を保持し、入射光光学系14により集光された光が入射されるサンプルユニット16と、サンプルユニット16の測定位置から射出される光を検出する光検出手段18と、光検出手段18の検出結果に基づいて被検出物質を検出する(つまり、光検出手段18で検出した信号をデジタル化し被検出物質の有無、濃度を判断する)算出手段20とを有し、試料82に含有されている被検出物質84を検出(及び測定)する。
また、センシング装置10は、さらに、励起光を変調するファンクションジェネレータ(以下「FG」ともいう。)24と、FG24で発生された電圧に比例した電流を光源12に流す光源ドライバ26とを有する。
ここで、FG24は、High、Lowの電圧の繰り返しクロックを発生する信号発生器である。FG24が信号を光源ドライバ26に流し、光源ドライバ26がその電圧に比例した電流を光源12に流すことで、光源12は、クロックに応じて変調された光を発光する。また、FG24のクロックは、ロックインアンプ64に接続されており、ロックインアンプ64は、FG24から流されるクロックと同期した信号のみを光検出手段18の出力から取り出す。
また、図示は省略したが、センシング装置10の各部は互いの位置関係を固定するために支持機構により支持されている。
【0021】
光源12は、所定波長の光を出射する半導体レーザである。
【0022】
入射光光学系14は、コリメータレンズ30と、シリンドリカルレンズ32と、偏光フィルタ34と、遮光板36とを有し、励起光の光路において、光源12側からコリメータレンズ30、シリンドリカルレンズ32、遮光板36、偏光フィルタ34の順で配置されている。したがって、光源12から射出された光は、コリメータレンズ30、シリンドリカルレンズ32、遮光板36、偏光フィルタ34をこの順で透過し、その後、サンプルユニット16に入射する。
【0023】
コリメータレンズ30は、光源12から射出され、所定角度で放射状に拡散する光を平行光に変換する。
シリンドリカルレンズ32は、図2(A)及び(B)に示すように、後述するサンプルユニットの流路の長手方向に平行な方向が軸方向となる柱状レンズであり、コリメータレンズ30により平行光とされた光を柱状の軸に垂直な面(図2(B)に示す面と平行な面)のみに集光させる。
偏光フィルタ34は、透過した光を後述するサンプルユニット16の反射面に対してp偏光となる方向に偏光するフィルタである。
【0024】
遮光板36は、コリメータレンズ30とシリンドリカルレンズ32との間の励起光の光路上に配置され、励起光の光束の中心を中心とした穴が形成されている板状の部材である。遮光板36は、光を透過しない材料で形成されている。
遮光板36は、光源12から射出された光のうち、励起光の光束の中心から所定距離以外離れた光(遮光板36の穴よりも外側の光)を遮る。つまり、遮光板36は、光源12から射出され一定角度の光で発散する光のうち、一定角度以上で発散した光(光束の中心から一定距離以上離れた光)を遮り、一定角度より小さい角度の光(光束の中心から一定距離以内にある光)のみを通過させる。
【0025】
次に、サンプルユニット16は、プリズム38と、金属膜40と、基板42と、透明カバー44を有し、プリズム38の一面に形成された金属膜40上に被検出物質84を含有する試料82が載置する。
【0026】
プリズム38は、断面が二等辺三角形となる略三角柱形状(正確には、二等辺三角形の各頂点部分を二等辺三角形の底面に垂直または平行に切断した六角柱形状)のプリズムであり、光源12から射出され入射光光学系14で集光される光の光路上に配置されている。
プリズム38は、入射光光学系14で集光された光が、3つの側面のうち二等辺三角形の2つの斜辺のうちの1つの辺で構成される面から入射する向きで配置されている。
プリズム38は、公知の透明樹脂や光学ガラスで形成することができ、例えば、日本ゼオン株式会社製ZEONEX(登録商標)330R(屈折率1.50)を材料として形成することができる。また、プリズム38は、コストをより低くすることができるため、光学ガラスよりも樹脂で形成することが好ましく、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)等の樹脂で形成することが好ましい。
プリズム38は、このような構成であり、入射光光学系14で集光された光を、二等辺三角形の2つの斜辺のうちの1つの辺で構成される面から入射させ、二等辺三角形の底辺で構成される面で反射し、二等辺三角形の2つの斜辺のうちの他方の辺で構成される面から射出する。
【0027】
金属膜40は、プリズム38の二等辺三角形の底辺で構成される面の一部(具体的には、プリズム38に入射した光が照射される領域を含む領域)に形成された金属の薄膜である。
ここで、金属膜40に用いる材料としては、Au、Ag、Cu、Pt、Ni、Al等の金属を用いることができる。なお、試料として液体を用いる場合は、液体との反応を抑制するためにAu、Ptを用いること好ましい。
また、金属膜40の形成方法としては、種々の方法を用いることができ、例えば、スパッタ、蒸着、めっき等によりプリズム38上に形成することができる。
また、図3に示すように、金属膜40の表面には、被検出物質84と特定的に結合する特異的結合物質である1次抗体80が固定されている。
【0028】
基板42は、プリズム38の二等辺三角形の底辺で構成される面に配置された板状部材であり、金属膜40に試料82を供給する流路45が形成されている。
流路45は、金属膜40を横断して形成された直線状の線状部46と、線状部46の一方の端部に形成され、測定時に試料82が供給される液溜りとなる始端部47と、線状部46の他方の端部に形成され、始端部47に供給され線状部46を通過した試料82が到着する液溜りとなる終端部48とで構成される。
また、金属膜40よりも始端部47側の線状部46には、蛍光物質86によって標識された二次抗体88が載置された二次抗体載置領域49が設けられている。
ここで、二次抗体88とは、被検出物質84と特定的に結合する特異的結合物質である。
【0029】
透明カバー44は、基板42のプリズム38と接している面とは反対側の面に接合された透明な板状の部材である。透明カバー44は、基板42のプリズム38と接している面とは反対側の面を塞ぐことで、基板42に形成された流路45を密閉している。
また、透明カバー44は、流路45の始端部47に対応する部分及び流路45の終端部48に対応する部分に開口が形成されている。また、透明カバー44は、始端部47(さらには終端部48)に対応する位置に形成した開口に開閉可能な蓋を設けてもよい。
サンプルユニット16は、基本的に以上のような構成である。ここで、プリズム38と、金属膜40と基板42とは、一体で形成することが好ましい。
【0030】
ここで、光源12と入射光光学系14とサンプルユニット16とは、入射光光学系14からプリズム38に入射した光をプリズム38と金属膜40との境界面で全反射させてプリズムの他方の面から射出させる位置関係で配置されている。
【0031】
光検出手段18は、検出光光学系50と、フォトダイオード(以下「PD」という。)52と、フォトダイオードアンプ(以下「PDアンプ」という。)54とを有し、サンプルユニット16の金属膜40上の光(つまり、金属膜40上にある試料82から射出される光)を検出する。
【0032】
検出光光学系50は、第1レンズ56と、カットフィルタ58と、第2レンズ60と、これらを支持する支持部62とを有し、金属膜40上(より正確には金属膜40の近傍)から射出されている光を集光し、PD52に入射させる。
【0033】
第1レンズ56は、コリメータレンズであり、金属膜40に対向して配置されており、金属膜40上で発光し、第1レンズ56に到達した光を平行光にする。
カットフィルタ58は、励起光と同一波長の光を選択的にカットし、励起光と異なる波長の光(例えば、蛍光物質86に起因する蛍光等)を通過させる特性を有するフィルタであり、第1レンズ56で平行光とされた光のうち、励起光と異なる波長の光のみを通過させる。
第2レンズ60は、集光レンズであり、カットフィルタ58を透過した光を集光し、PD52に入射入射させる。
支持部62は、第1レンズ56と、カットフィルタ58と、第2レンズ60と互いに所定間隔離間させて一体的に保持する保持部材である。
【0034】
PD52は、受光した光を電気信号に変換する光検出器であり、第2レンズ60で集光され、入射した光を電気信号に変換する。またPD52は、変換した電気信号を検出信号としてPDアンプ54に送る。
PDアンプ54は、検出信号を増幅する増幅器であり、PD52から送られた検出信号を増幅し、算出手段20に送る。
【0035】
算出手段20は、ロックインアンプ64とPC(つまり演算部)66とを有し、検出信号から被検出対象の質量、濃度等を算出する。
【0036】
ロックインアンプ64は、検出信号のうち参照信号と等しい周波数成分を増幅する増幅器であり、PDアンプ54により増幅された検出信号のうち、FG24から送られた参照信号と同期する信号成分を増幅する。ロックインアンプ64で増幅された検出信号は、PC66に流される(出力される)。
【0037】
PC66は、ロックインアンプ64から供給された検出信号をデジタル信号に変換し、変換した信号に基づいて、試料中の被検出物質の濃度を検出する。ここで、試料中の被検出物質の濃度は、被検出物質の個数と液量との関係から算出することができる。また、被検出物質の個数は、個数既知の被検出物質を用いて検出信号の強度と被検出物質の個数との関係を算出し検量線を作成しておくことで算出することができる。なお、サンプルユニット16の基板42の流路45に供給する試料の液量を一定量とすること(または、一定量となるように設計すること)で、簡単かつ正確に濃度を算出することができる。
センシング装置10は、基本的に以上のような構成である。
【0038】
以下、センシング装置10の作用について説明することで本発明をより詳細に説明する。図4(A)〜(C)は、それぞれ、サンプルユニット16での試料82の流れを示す説明図であり、図5は、試料82が到達した金属膜40の一部を拡大して示す拡大模式図である。
【0039】
まず、図4(A)に示すように、サンプルユニット16の基板42の流路45の始端部47に、被検出物質84を含有する試料82を滴下する。
始端部47に滴下された試料82は、毛細管形状により、線状部46及びガラスカバー44で形成された管の中を終端部48に向けて移動する。
【0040】
始端部47から終端部48に向けて線状部46を移動する試料82は、図4(B)に示すように、線状部46の二次抗体載置領域49に到達する。試料82が二次抗体載置領域49に到達すると、試料82に含有されている被検出物質84と二次抗体載置領域49に載置されている二次抗体88との間で抗原抗体反応がおき、被検出物質84と二次抗体88とが結合する。また、この二次抗体88は、蛍光物質86により標識されているため、二次抗体88と結合した被検出物質84は、蛍光物質86により標識された状態となる。
【0041】
二次抗体載置領域49を通過した試料82は、線状部をさらに終端部48側に移動し、金属膜40に到達する。試料82が金属膜40に到達すると、図5に示すように、試料82に含有されている被検出物質84と金属膜40上に固定されている一次抗体80との間で抗原抗体反応がおき、被検出物質84が一次抗体80に捕捉される。ここで、一次抗体80に捕捉された被検出物質84は、二次抗体載置領域49で蛍光物質86により標識された状態であるため、被検出物質84を捕捉した一次抗体80は、蛍光物質86で標識された状態となる。つまり、被検出物質84は、一次抗体80と二次抗体88とでサンドイッチされた状態となる。
【0042】
金属膜40を通過した試料82は、終端部48まで移動する。また、一次抗体80により捕捉されなかった被検出物質84、被検出物質84に結合されなかった二次抗体88及び蛍光物質86も試料82とともに終端部48まで移動する。
これにより、図4(C)に示すように、金属膜40上に、二次抗体88と結合することで蛍光物質86により標識され、かつ一次抗体80に捕捉された被検出物質84が残った状態となる。
【0043】
このように、金属膜40上に蛍光物質86により標識された二次抗体88と被検出物質84と固定化された一次抗体80のみが残った状態となったら、金属膜40に励起光を照射する。
具体的には、FG24で決定された強度変調信号に基づいて光源ドライバ26から流れる電流に基づいて、光源12から励起光を射出させる。励起光は、光源12から射出された後、入射光光学系14により、コリメータレンズ30より平行光とされ、遮光板36により一部の励起光が遮断され、その後、シリンドリカルレンズ32により一方向のみ集光され、偏光フィルタ34により偏光される。
入射光光学系14を通過した光は、プリズム38に入射され、所定の角度幅の光としてプリズム38と金属膜40との境界面に到達し、プリズム38と金属膜40との境界面で全反射され、プリズム38から射出される。なお、シリンドリカルレンズ32は、プリズム38と金属膜40との境界面を一定距離越えた位置が焦点となるように集光する。
また、コリメータレンズ30により生成された平行光を、シリンドリカルレンズ32により一方向のみに集光することで、プリズム38と金属膜40との境界面の線状部46の延在方向に平行な方向には、同一角度の光を入射することができる。
【0044】
励起光がプリズム38と金属膜40との境界面で全反射されることで、金属膜40の流路45側の面(プリズム38側とは反対側の面)で、に、エバネッセント波が滲み出し、このエバネッセント波により、金属膜40中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜40の表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。
このとき、所定の角度幅で入射された励起光のうち、プリズム38と金属膜40との境界面に所定角度(具体的には、プラズモン共鳴条件を満たす角度)した入射した励起光により発生した、エバネッセント波と表面プラズモンとが共鳴し、表面プラズモン共鳴(プラズモン増強効果)が発生する。このように、表面プラズモン共鳴(プラズモン増強効果)が発生した領域では、より強い電場増強が形成される。ここで、プラズモン共鳴条件とは、入射された光により発生したエバネッセント波の波数ベクトルと、表面プラズモンの端数とが等しくなり、波数整合が成立する条件であり、上述したように、試料の種類、試料の状態、金属膜の厚み、密度、励起光の波長、入射角度等種々の条件に基づいて決まる。なお、本発明において、プラズモン共鳴角及び励起光の入射角は、金属面に垂直な線とのなす角である。
【0045】
このとき、エバネッセント波の滲み出している領域において蛍光物質86がある場合、励起されて蛍光を発生させる。また、エバネッセント波が染み出している領域とほぼ同等の領域に存在する表面プラズモンによる電場増強の効果、特に、表面プラズモン共鳴により増強された電場増強の効果により、この蛍光が増強される。
なお、エバネッセント波の滲み出し領域外の蛍光物質は励起されないため、蛍光を発生させない。
このようにして、金属膜40上に固定された被検出物質84を標識する蛍光物質86の蛍光は、励起され、増強される。
蛍光物質86から射出された光は、光検出手段18の第1レンズ56に入射し、カットフィルタ58を透過し、第2レンズ60で集光され、PD52に入射され電気信号に変換される。また、第1レンズ56に入射した光のうち励起光は、カットフィルタ58を透過できないため、励起光成分は、PD52まで到達しない。
【0046】
PD52で生成された電気信号は、検出信号として、PDアンプ54で増幅され、ロックインアンプ64で、参照信号と同期する信号成分を増幅する。これにより、励起光に起因して発生した光を増幅することができるため、その他のノイズ成分(例えば、部屋の蛍光灯、装置内のセンサーの光など、検出光光学系50以外からPD52に入射した光や、PDで発生する暗電流)と蛍光物質86から射出された光とを確実に識別することができる。
ロックインアンプ64で増幅された検出信号は、PC66に送られる。
PC66は、信号をA/D変換し、あらかじめ記憶していた検量線に基づき、被検出物質84の算出結果から、試料82中の被検出物質84の濃度を検出する。
センシング装置10は、以上のようにして、試料82中の被検出物質84の濃度を検出する。
【0047】
ここで、図6は、励起光と遮光板との関係を示す模式図であり、図7は、測定領域と検査光に入射する光との関係を示すグラフであり、図8(A)及び(B)は、それぞれ従来の励起光の強度と表面プラズモン共鳴の発生条件との関係を示す模式図である。
【0048】
センシング装置10によれば、入射光光学系14に励起光の一部(具体的には励起光の光束中心から一定距離以上離れた光)を遮断する遮光板36を設けることで、図6に示すように、励起光のうち、光束中心付近の強度の高い光(図6中実線部分の光)のみが遮光板36に形成された開口を透過し、その他の領域の強度の低い光(図6中点線部分の光)は、遮光板36により遮られる。
ここで、光源12から射出された光は、正規分布を有する光であるため、光源から射出された光をそのまま集光し励起光として入射させると、プリズムと金属面との境界面の測定領域(以下単に「測定領域」ともいう。)に入射する光は、図7中点線で示すように最高強度と最低強度の差がある光となる。
これに対して、センシング装置10は、遮光板36を設けることで、プリズム38と金属膜40との境界面に到達する励起光を、図7中実線で示すように、強度分布の小さい光とすることができる。つまり、最高強度と最低強度の差が小さい光とすることができる。
【0049】
このように、測定領域に強度分布の差が少ない励起光を入射することができることで、サンプルユニット毎にプラズモン共鳴角が変化した(もしくはずれた)場合でも、励起光の強度に差がないため、実質的に同じ強度の(つまり、強度差の少ない)増強電場(より正確には、表面プラズモンに起因して発生する増強電場)を発生させることができる。
より詳細に説明すると、入射角度によって正規分布のように強度に差がある光を励起光として用いる場合は、プラズモン共鳴角により、表面プラズモン共鳴に寄与する励起光の強度が大きく変化する。
ここで、図8(A)は、励起光を正規分布の強度分布の光とし、光励起光の光束の中心付近の光がプラズモン共鳴角θ1と一致した場合の励起光の強度分布90とプリズム38と金属膜40との境界面で全反射された後の光の強度分布92を示し、図8(B)は、励起光を正規分布の強度分布の光とし、励起光の光束の中心から離れた位置の光がプラズモン共鳴角θ2と一致した場合の励起光の強度分布90’とプリズム38と金属膜40との境界面で全反射された後の光の強度分布92’を示す。
図8(A)に示すように、プラズモン共鳴角θ1で入射した光で表面プラズモン共鳴が発生する場合は強度分布90のうち頂点付近の強度の光(図8(A)中丸で示す強度の光)が表面プラズモン共鳴に変換される光となる。また、図8(B)に示すように、プラズモン共鳴角θ2で入射した光で表面プラズモン共鳴が発生する場合は、強度分布90’のうち中腹付近の強度の光(図8(B)中丸で示す強度の光)が表面プラズモン共鳴に変換される光となる。このため、表面プラズモン共鳴に寄与する光の強度が大きく異なる値となる。そのため、強度分布92と強度分布92’に示すように、反射光の強度分布も、強度分布92の方が強度分布92’よりも大きく減少している。つまり、プラズモン共鳴角θ1の方がプラズモン共鳴角θ2の場合よりも表面プラズモン共鳴に寄与し、表面プラズモンに変換されるエネルギーが多くなる。
このように、表面プラズモン共鳴に変換される光の強度が大きく異なるため、表面プラズモンの強度も大きく異なる。具体的には、図8(A)に示す場合の方が図8(B)に示す場合よりも表面プラズモンの強度が大きくなる。
これに対して、センシング装置10は、励起光の強度に差がない(正確には、励起光の強度の差が少ない)ため、つまり、励起光の光束の中心付近の光と、励起光の光束の中心から離れた位置の光との強度に差がないため、励起光のうちいずれ角度の光がプラズモン共鳴角の光となっても、表面プラズモン共鳴に寄与する励起光のエネルギーの量の差を小さくし、金属膜上に発生する表面プラズモンの強度の差を小さくし、金属膜上に発生する増強電場の強度を実質的に均一にすることができる。
【0050】
このように、プラズモン共鳴角の角度によらず、金属膜上に発生する増強電場の強度を実質的に均一にできることで、蛍光物質の蛍光を増強する増強電場を一定にすることができる。したがって、プラズモン共鳴角の角度が異なるサンプルユニットで測定した場合でも、被検出物質の個数、濃度に対する検出信号の強度が一定となる。
これにより、再現性の高い測定をすることができ、被検出物質の個数、濃度を正確に検出(もしくは測定)することができる。
また、プラズモン共鳴角を検出する必要がないため、短時間で検出することができる。また、条件設定のために、測定前に蛍光物質を励起することもないため、発光される光の強度が低下することも防止できる。
【0051】
また、プラズモン共鳴角は、金属膜上に配置される試料や、被検出物質によっても変化するが、本発明のセンシング装置のよれば、一定の角度幅の光を、差のない強度で入射できることで、異なる試料、被検出物質を用いてプラズモン共鳴角が変化した場合も角度調節することなく、同一の装置で検出することができる。
例えば、1つのセンシング装置で、試料として尿を用い尿の中の被検出物質を検出することも、試料として血液を用い、血液の中の被検出物質を検出することもできる。
このように本発明によれば、検出する対象もより多くすることができる。また、プラズモン共鳴角によらず、金属膜上に発生する増強電場の強度を一定にすることができるため、検出物質によって、検出精度にバラツキが生じることを防止できる。
【0052】
以下、具体的実施例とともにより詳細に説明する。
ここで、図9は、試料として全血、尿を用いた時の入射角度と増強度との関係を示すグラフであり、図10は、図9の2種のサンプルの最適入射角の中間の角度である75.5度)で入射した時に増強度が最大となるサンプルの入射角度と増強度との関係を示すグラフであり、図11は、励起光(入射光)の境界面への入射角度と励起光の強度との関係を示すグラフである。
【0053】
例えば、サンプルユニットを基本的に同様の構成(プリズムは、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)を用いて作製)で作製した場合、全血と尿は、個体差・体調差により、サンプルユニットの屈折率が1.335から1.36までの範囲でばらつく。
サンプルユニットの屈折率が1.335の時と、1.36の時では、励起光の波長を656nmとすると、光の入射角度と表面プラズモン増強度(つまり、入射した光のうち表面プラズモンに変換される割合)との関係が、図9に示すように変化する。具体的には、屈折率が1.335の場合は、最適なプラズモン共鳴角(増強度が最も高くなる入射角)が73.3°となり、屈折率が1.36の場合は、最適なプラズモン共鳴角が、77.67°となり、最適なプラズモン共鳴角が約4.3°変化する。
【0054】
このように、試料の個体差、種類の差によって、最適なプラズモン共鳴角(つまり、最適な入射角度)が変化するため、常に同じ1つの角度で励起光を入射させると、図9及び図10に示すように、表面プラズモン増強の強度(増強度)が変化してしまう。具体的には、図9及び図10に示すように、サンプルユニットのばらつきの範囲内において、増強度が最も高くなる場合と最も低くなる場合とで約50%の差が生じる。そのため、同一角度の光を入射させても試料の個体差、種類の差により表面プラズモンの強度が大きく変化する。したがって、金属膜上に発生する増強電場の強度が変化する。
また、上述したように光源から射出された光を所定角度幅で入射させた場合も角度により光の強度が異なるため、サンプルユニットの最適なプラズモン共鳴角によって金属膜上に発生する増強電場の強度が変化してしまう。
【0055】
これに対して、例えば、センシング装置10の光源12として、波長λ=656nm、80mWの光を、半値全幅が、接合に平行な方向に9.5°、接合に垂直な方向(本実施形態では、シリンドリカルレンズ32で集光される側の方向)に17°の放射角で射出するLD(レーザダイオード、三菱電機社製、ML101J21)を用い、コリメータレンズ30として、直径D=30mm、レンズ中心から焦点距離f=100mm、のコリメータレンズ(シグマ光機社製、SLB−30−100PM)を用い、シリンドリカルレンズ32して、軸方向の長さ及び光束(もしくは光軸)に直交しかつ軸に直交する方向の長さを約4.72mm、レンズ中心から焦点距離f=30mmのシリンドリカルレンズ(シグマ光機社製、CLB−1010−30PM)を用い、遮光板36として、Φ5.0mmの穴が開口された遮光板36を用いる構成とする。さらに、光源12とコリメータレンズ30の端面との距離を100mmとした。
光源12から射出された光はコリメータレンズ30に到達時に半値全幅が50.8664mmの光となり、光軸中心の一部が平行光とされる。さらに、平行光とされた光のうち、遮光板36のΦ=5mmの穴を透過した光のみがシリンドリカルレンズ30で集光され、プリズム38と金属膜40との境界面に入射される。
【0056】
センシング装置10を上記構成とすることで、プリズム38と金属膜40との境界面に入射する光を、集光角が約9°の光とすることができる。これにより、図11に示すような、73.3°と77.67°との略中間角である75.5°を中心として、少なくとも72°から80°の入射光を境界面に入射させることができる。
また、遮光板36によりΦ5.0mmの穴を通過する光以外は遮断することで、光束の中心近傍の強度の均一な光のみを用いることができるため、図11に示すように、最高強度と最低強度との差が2%の光とすることができる。つまり、プリズム38と金属膜40との境界面に入射する光を、光の最強の強度を1.0としたとき、励起光の最低の強度が0.98となる強度分布とすることができる。
【0057】
このように、本実施例によれば、遮光板を設けることで、最高強度と最低強度との差が2%で、かつ角度幅(つまい集光角)が9°の光を、プリズム38と金属膜40との境界面に入射させることができ、図9に示すように、試料、サンプルユニットによって最適なプラズモン共鳴角が約4.3°変化した場合でも、同一の条件で試料内の被検出物質に起因する蛍光を検出することができる。より具体的には、図9に示すように入射角度により増強度が変化しても、その増強度の高い領域の全ての角度成分の光を実質的に均一な強度で入射させることができるため、サンプルの最適な入射角度によらず、発生する表面プラズモンの強度を実質的に一定にすることができる。
【0058】
また、試料の状態以外のプラズモン共鳴角の変化、入射角のずれの原因である、光源から射出される光の角度ずれ、サンプルユニットの設置ずれ、寸法誤差、プリズムの屈折率差、熱による膨張、収縮は、いずれも1°以上ずれることは少ない。したがって、上記実施形態の光を入射させることで、上記要因のずれが生じた場合でも、同一の条件で試料内の被検出物質に起因する蛍光を検出することができる。例えば、光源12から射出される光が0.3度ずれても0.5%の誤差で収まり、プリズムの屈折率差が0.6度分ずれても1%の誤差で収まる。
以上より、本発明の効果は明らかである。
【0059】
また、プラズモン共鳴角の角度が異なるサンプルユニットで再現性の高い測定を可能となることで、サンプルユニットの許容誤差を大きくすることができるため、サンプルユニットを安価に製造することが可能となる。
【0060】
また、遮光板を設けるという簡単な構成で、被検出物質の数、試料中の被検出物質の濃度を正確に検出(もしくは測定)することが可能となるため、回転機構等を用いるよりも装置を安価にすることができる。
【0061】
ここで、本実施形態では、遮光板をコリメータレンズとシリンドリカルレンズとの間に配置したが、遮光板の配置位置は、光源とサンプルユニットとの間の励起光の光路上にであれば特に限定されず、コリメータレンズよりも光源側でもよく、また、シリンドリカルレンズよりもプリズム側でもよい。遮光板に形成する開口の大きさ(つまり、透過させる光の範囲)は、光路上の位置と、プリズムと金属膜との境界面に入射する光の最高強度と最低強度との差に応じて決定すればよい。
【0062】
また、遮光板は、上述した具体的実施例のように、光源から射出された光の最高強度に対して98%以下の強度の光を遮断するように配置することが好ましい。つまり、遮光板を透過した光は、最低強度が最高強度の98%の光となるようにすることが好ましい。遮光板で、最高強度に対して98%以下の光の強度を遮断することで、強度の差がより少ない励起光を生成することができ、より正確に被検出物質の検出、測定を行うことができる。
ここで、より正確に被検出物質の検出、測定を行うことができるため、遮光板により最高強度に対して98%以下の光の強度を遮断することが好ましいが、これは診断というアプリケーションの要求によって決まる仕様である。したがって、本発明はこれに限定されず、5%の誤差が許容できる用途に対しては、遮光板は、最高強度に対して95%以下の光の強度を遮断することで、一定強度の電場を形成することができるという本発明の効果を得ることはできる。
【0063】
ここで、センシング装置10では、励起光の強度分布を調整する光強度分布調整部として、遮光板を設け、励起光の強度分布を調整したが、本発明はこれに限定されない。
以下、図12及び図13を用いて本発明のセンシング装置の他の実施形態について説明する。ここで、図12は、本発明のセンシング装置の他の実施形態であるセンシング装置100の概略構成を示すブロック図であり、図13は、図12に示すセンシング装置100の逆ガウシアンフィルタ106を模式的に示す説明図(具体的には正面図とグラフ)である。
【0064】
ここで、センシング装置100は、入射光光学系102の構成を除いて他の構成は、図1に示すセンシング装置10と同様であるので同様の構成要素には、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略し、以下、センシング装置100に特有の点について重点的に説明する。
【0065】
図12に示すようにセンシング装置100は、基本的に、所定波長の光を射出する光源12と、入射光光学系102と、サンプルユニット16と、光検出手段18と、算出手段20とを有する。また、センシング装置100も、さらに、FG24と光源ドライバ26とを有する。
【0066】
入射光光学系102は、集光レンズ104と、逆ガウシアンフィルタ106と、偏光フィルタ34とを有する。入射光光学系102は、励起光の光路において、光源12側から集光レンズ104、逆ガウシアンフィルタ106、偏光フィルタ34の順で配置されている。したがって、光源12から射出された光は、集光レンズ104、逆ガウシアンフィルタ106、偏光フィルタ34をこの順で透過し、その後、サンプルユニット16に入射する。ここで、偏光フィルタ34は、上述したセンシング装置10の偏光フィルタ34と同様の構成であるので、その詳細な説明は省略する。
【0067】
集光レンズ104は、光源12から射出され、所定角度で放射状に拡散する光を集光させる。なお、集光レンズ104も、プリズム38と金属膜40との境界面を一定距離越えた位置が焦点となるように集光する。
【0068】
逆ガウシアンフィルタ106は、図13に示すように、光束の中心に近づくに従って正規分布状に光学濃度(OD)が高くなるフィルタ(つまり、光束の中心に近づくに従って透過率が低くなるフィルタ)であり、透過する励起光を、光束の中心に近づくに従ってより高い割合で吸収する。
ここで、励起光は光束の中心に近づくに従って強度が高くなる強度分布を有するため、光束の中心に近づくに従ってより高い割合で吸収することにより、励起光の強度分布を一定にすること(より正確には、強度分布の差を少なくすること)ができる。
【0069】
このように、光強度分布調整部として、逆ガウシアンフィルタを用いることでも励起光の強度分布を一定にすることができ、上記センシング装置10と同様の効果を得ることができる。
なお、逆ガウシアンフィルタを用いると、最高強度を下げるため、遮光板により一部の励起光を遮断した場合よりも、励起光の強度を低減させることになるが、遮光板を用いた場合よりもより均一の強度分布にすることが可能となる。
また、強度の高い光源は、比較的安価であるため、ガウシアンフィルタにより励起光の強度を均一化した場合でも安価に装置を作製することができる。
【0070】
以上、本発明に係るセンシング装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよい。
【0071】
例えば、光強度分布調整部として、遮光板と逆ガウシアンフィルタの両方を設け、遮光板で一定強度以下の光を遮断し、最高強度と最低強度の差を小さくした後に、逆ガウシアンフィルタを透過させることで、より強度差が小さい励起光とすることができる。また、遮光板により予め最高強度と最低強度の差を小さすることで、逆ガウシアンフィルタにより吸収する光の量を少なくすることができ、励起光の強度を高く維持することもできる。
【0072】
また、センシング装置10またはセンシング装置100では、入射光学系にシリンドリカルレンズまたは集光レンズを用い、光源から射出された光を集光したが、これに限定されず、光源から所定の放射角で射出された光を集光させずにプリズムと金属膜との境界面に入射させてもよい。このように、所定角度で放射する光を境界面に入射させる場合も、境界面に所定角度幅の光を入射させることができ、また、光強度分布調整部を設けることで、強度分布の小さい光とすることができ、上述した本発明の効果を得ることができる。
また、偏光フィルタも必ずしも設ける必要はなく、特に、光源としてレーザ光源を用いる場合は、光源から射出される光が偏光された光であるので、偏光フィルムは設けなくてもよい。
【0073】
また、上述した実施形態では、いずれも試料に含まれる被検出物質の個数または濃度を検出したが、本発明はこれに限定されず、試料に被検出物質が含有されるが否か(つまり、試料の中に被検出物質があるか否か)を検出してもよい。
【0074】
また、上述した実施形態では、いずれも蛍光物質に標識された二次抗体に被検出物質を結合させた状態で、金属膜上に発生する増強電場により増強された蛍光物質の蛍光を検出し、被検出物質を検出したが、被検出物質を蛍光物質により標識する方法は特に限定されず、例えば、被検出物質自体が蛍光物質である場合は、二次抗体を設ける必要はない。
また、本発明のセンシング装置は、金属膜上に被検出物質に付着(または近傍に配置)されている状態で表面プラズモンを発生させた場合に生じる散乱光を検出する方式のセンシング装置にも用いることができる。
ここで、このように散乱光を検出する場合は、被検出物質が、強散乱体である金属粒子であることが好ましい。言い換えれば、被検出物質が強散乱体である金属粒子である場合は、散乱光を検出することが好ましい。
被検出物質が強散乱体である金属粒子であることで、被検出物質をより確実に検出することができる。
【0075】
また、上述した実施形態では、いずれも金属膜の表面にエバネッセント波及び表面プラズモンを発生させ、さらに表面プラズモン共鳴を発生させることで、増強された電場を形成させたが本発明はこれに限定されず、増強電場が形成される面への光の入射角度によって増強度が変化する(つまり、所定の入射角で光が入射したときのみ増強場が変化する)種々の方式に用いることができる。例えば、プリズム上に金膜と厚み約1μmのSiO膜とを積層させ、所定角度で入射した光をSiO膜内で共振させることで増強された電場を形成する方式にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明のセンシング装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】(A)は、図1に示したセンシング装置の光源、入射光光学系、サンプルユニットの概略構成を示す上面図であり、(B)は、(A)のB−B線断面図である。
【図3】図2(A)及び(B)に示すサンプルユニットの金属膜の一部を拡大して示す拡大模式図である。
【図4】(A)〜(C)は、それぞれ、サンプルユニットでの試料の流れを示す説明図である。
【図5】試料が到達した金属膜の一部を拡大して示す拡大模式図である。
【図6】励起光と遮光板との関係を示す模式図である。
【図7】測定領域と検査光に入射する光との関係を示すグラフである。
【図8】(A)及び(B)は、それぞれ従来の励起光の強度と表面プラズモン共鳴の発生条件との関係を示す模式図である。
【図9】試料として全血、尿を用いた時の入射角度と増強度との関係を示すグラフである。
【図10】サンプルユニットの最適入射角とサンプルに所定の入射角で光を入射させたときの増強度との関係を示すグラフである。
【図11】励起光(入射光)の境界面への入射角度と励起光の強度との関係を示すグラフである。
【図12】本発明のセンシング装置の他の実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図13】図12に示すセンシング装置の逆ガウシアンフィルタを模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0077】
10、100 センシング装置
12 光源
14、102 入射光光学系
16 サンプルユニット
18 光検出手段
20 算出手段
24 ファンクションジェネレータ(FG)
26 光源ドライバ
30 コリメータレンズ
32 シリンドリカルレンズ
34 偏光フィルタ
36 遮光板
38 プリズム
40 金属膜
42 基板
44 透明カバー
45 流路
46 線状部
47 始端部
48 終端部
49 二次抗体載置領域
50 検出光光学系
52 フォトダイオード(PD)
54 フォトダイオードアンプ(PDアンプ)
56 第1レンズ
58 カットフィルタ
60 第2レンズ
62 支持部
64 ロックインアンプ
66 PC
80 一次抗体
82 試料
84 被検出物質
86 蛍光物質
88 二次抗体
106 逆ガウシアンフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場を利用して試料内の被検出物質を検出するセンシング装置であって、
プリズムと、
前記プリズムの一面上に配置された金属膜と、
前記プリズムの一面上に配置され、前記金属膜上に試料を供給する流路が形成された基板と、
光を射出する光源と、
前記光源から射出される光を、前記プリズムと前記金属膜との境界面で全反射する角度で前記プリズムに入射させる入射光光学系と、
前記金属膜近傍で発生した光を検出する光検出手段とを有し、
前記入射光光学系は、さらに、前記プリズムに入射する光の強度分布の最高強度と最低強度との差を小さくする光強度分布調整部することを特徴とするセンシング装置。
【請求項2】
前記光強度分布調整部は、前記光源から射出される光の光路上に配置され、前記光源から射出される光の一部を遮断する光遮断部材からなる請求項1に記載のセンシング装置。
【請求項3】
前記光遮断部材は、前記光源から射出される光の最大強度の98%以下の強度となる領域の光を遮断する請求項2に記載のセンシング装置。
【請求項4】
前記光強度分布調整部は、前記光源から射出される光の光路上に配置され、前記光源から射出される光束の中心から離れるに従って光学濃度が低くなる吸収フィルタを有する請求項1〜3のいずれかに記載のセンシング装置。
【請求項5】
前記光検出手段の検出結果に基づいて、前記試料内の前記被検出物質の濃度を算出する算出手段を有する請求項1〜4のいずれかに記載のセンシング装置。
【請求項6】
前記被検出物質は、蛍光性を有する物質、または、蛍光性を有する物質で標識された物質である請求項1〜5のいずれかに記載のセンシング装置。
【請求項7】
前記被検出物質は、強散乱体である金属粒子である請求項1〜5のいずれかに記載のセンシング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−204483(P2009−204483A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47613(P2008−47613)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】