説明

セントロイドを用いた大ゾーン間OD交通量逆推定方法及びプログラム

【課題】既存値である交通センサスデータを用いて、大ゾーン間OD交通量を高精度に逆推定する実用的な方法を提供する。
【解決手段】既存セントロイド間OD交通量からOD交通の内内比率及び外内比率と、セントロイド間目的地選択確率を算出し、既存セントロイド発生交通量と、前記OD交通の内内比率及び外内比率と、前記セントロイド間目的地選択確率と、所定のノード発生・集中分担率と、からノード間OD交通量を算出し、ノード間OD交通量を道路ネットワークに経路配分することでノード間OD別リンク利用確率を算出し、推定セントロイド発生交通量と、前記OD交通の内内比率及び外内比率と、前記セントロイド間目的地選択確率と、前記ノード発生・集中分担率と、からノード間OD交通量推定式を構成し、ノード間OD交通量推定式とノード間OD別リンク利用確率とに基づきリンク交通量推定式を構成する。リンク交通量実測値と前記リンク交通量推定式の差を最小化することにより、推定セントロイド発生交通量を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾーンの発生・集中交通量をセントロイドに集約して、大ゾーン間OD交通量を観測リンク交通量(道路区間交通量の観測値)から高精度に逆推定する方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
国土交通省所管の全国道路交通情勢調査(道路交通センサス調査と呼ばれている)では対象地域をゾーンに分割し、ゾーン間のOD(Origin-Destination)交通量が推定される。
【0003】
この交通センサスにおけるOD交通量は、サンプル抽出によるアンケート調査にもとづいて推定されているが、道路ネットワークの断面交通量で部分的に調整されるものの、現実道路交通量との適合性で問題が多い。
【0004】
そこで、このような事情に鑑み、本願発明者はゾーン別の発生・集中交通量を高精度に推定する方法に想到し、本願発明に先立って特許出願を行った(特許文献1)。特許文献1において開示されている発明では、現実の道路ネットワークと整合する形で、一つのノードに一つのゾーンが対応するように、対象地域を小ゾーンに分割し、全てのノードをゾーンにおける交通量の発生・集中点として扱う。そして、実際のリンク交通量の観測値から各ゾーンの発生交通量の推定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-128121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において開示されている方法を用いることにより、ノード間のOD交通量を高精度で推定することができる。しかし、この方法は小ゾーンをベースにしており、適用対象地域が広大な場合、未知変数が大量となるために計算が複雑になり、計算に時間が掛かる。そこで、本願発明者は、広大対象地域(大規模道路網)への適用を目的として、大ゾーンの発生・集中交通量をその大ゾーンを代表するセントロイドで集約して扱う、より実用的で、高精度の大ゾーン間OD交通量の逆推定方法を求めて鋭意研究を続けた結果、本発明に想到した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような過程でなされた本発明に係る交通量逆推定方法は、
a)既存交通センサスデータから得られるセントロイド間(大ゾーン間)OD交通量から、対象域内の各発生セントロイドのOD交通内内比率、対象域外の各発生ノード(流入ノード)のOD交通外内比率、セントロイド間目的地選択確率を算出し、
b)既存交通センサスデータから得られるセントロイド発生交通量と、前記OD交通内内比率と、前記OD交通外内比率と、前記セントロイド間目的地選択確率と、所定のノード発生分担率と、所定のノード集中分担率と、からノード間OD交通量を算出し、
c)各ノード間OD交通量を道路ネットワークに経路配分することでノード間OD別リンク利用確率を算出し、
d)リンク交通量観測時の推定セントロイド発生交通量と、前記OD交通内内比率と、前記OD交通外内比率と、前記セントロイド間目的地選択確率と、前記ノード発生分担率と、前記ノード集中分担率と、からノード間OD交通量推定式を構成し、
e)前記ノード間OD交通量推定式と前記ノード間OD別リンク利用確率とに基づきリンク交通量推定式を構成し、
f)リンク交通量実測値と、前記リンク交通量推定式との差を最小化することにより、推定セントロイド発生交通量を算出することを特徴としている(リンク交通量モデル)。
【0008】
現実の交通データでは、対象地域におけるOD交通の種別、すなわち、内内OD交通、内外OD交通、外内OD交通、外外OD交通、またODペアによってノード発生分担率およびノード集中分担率が異なることが考えられる。これらの前記ノード発生分担率及び前記ノード集中分担率の値は、後述するようにプローブカー等による実測値が得られる場合にはその現実値を用いるが、実測値が得られない場合には、OD交通の種類及びペアに関係なく、外生的に与える同一値を用いる。
【0009】
また、プローブカーデータを利用することが可能な場合には、より精度の高い推定を行うことが可能となる。この場合には、
プローブカーデータによる実測に基づいて得たOD交通内内比率、OD交通外内比率、ノード間目的地選択確率、ノード発生分担率、ノード間OD別リンク利用確率を用いる交通量逆推定方法であって、
推定セントロイド発生交通量(未知値)、OD交通内内比率、OD交通外内比率、ノード間目的地選択確率、ノード発生分担率、に基づきノード間OD交通量推定式を構成し、
前記ノード間OD交通量推定式と前記ノード間OD別リンク利用確率とに基づきリンク交通量推定式を構成し、
リンク交通量実測値と、前記リンク交通量推定式との差を最小化することにより、推定セントロイド発生交通量を算出する(プローブカーデータによる方法)。
【0010】
プローブカーデータを使用する場合、使用しない場合のいずれの場合においても、推定セントロイド発生交通量を算出するステップにおいて、リンク交通量実測値とリンク交通量推定式の差を最小化することに加え、既存の発生交通量パターンに基づくセントロイド発生交通量実測値とセントロイド発生交通量推定式の差を最小化することにより、推定セントロイド発生交通量を算出することができる(結合モデル)。これにより、観測リンク交通量にかなりの誤差がある場合でも、推定の精度の悪化を抑制することができる。
【0011】
算出された推定セントロイド発生交通量に対してセントロイド間目的地選択確率を乗算することにより、推定セントロイド間交通量を算出することができる。また、推定セントロイド間交通量に基づき、容易に推定ノード間OD交通量を算出することが出来る。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る交通量逆推定方法によれば、現実道路交通量に適合するように実際のリンク交通量(道路区間交通量)の観測値を用いてゾーン間OD交通量が逆推定することができ、従来のアンケート方式に比較して、推定精度の格段の向上が実現できる。
【0013】
本発明に係る交通量逆推定方法によれば、必要に応じて随時、OD交通量が高精度で推定できる。従って、道路計画の合理化や交通管理の効率化などが図れる。また、交通対策の事前事後評価、交通管理システムの高度化、継続交通量観測による交通量変動の特性解明、交通シミュレーションインプットデータの高精度化、GISデータとの結合による都市計画への適用、といった多岐に亘る応用が考えられると同時に、交通センサス調査の経費節減、将来交通量推定精度向上といった効果も得られる。さらに、本推定方法におけるセントロイド間OD交通量からノード間OD交通量への変換方法は、セントロイド間OD交通量の既存交通量配分方法の推定精度を格段に向上させる。
【0014】
本発明に係る交通量逆推定方法は、国土交通省所管の道路交通センサス調査のゾーン分割であるBゾーンサイズに限らず、どのようなゾーンサイズに対しても柔軟に適応可能である。故に、特許文献1に開示されているような従来のノードベース逆推定モデルよりも実用性が高い。また、未知変数がゾーン数だけとなるので、ノードベース逆推定モデルに比べて未知変数が格段に少なくて済み、対象地域が広大でも実際適用ができるというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るコンピュータシステムの要部構成を示すブロック図。
【図2】本発明に係る交通量逆推定方法の手順を示したフローチャート。
【図3】対象地域の道路ネットワークとゾーニングの説明図。
【図4】ネットワークにおけるセントロイドとノードの関係を示す説明図。
【図5】ノード発生分担率とノード集中分担率の例を示す説明図。
【図6】発生交通量のノードの分担率と分担量の例。
【図7】内内OD交通に関するセントロイド間OD交通量をノード間OD交通量に変換した値を示す表。
【図8】内外OD交通の発生分担交通量の例を示す説明図。
【図9】内外交通の発生交通量のノードの分担率と分担量を示す表。
【図10】図8に示す例に関し、内外OD交通をノード間交通量へ変換した値を示す表。
【図11】外内OD交通のノード集中分担率の例を示す説明図。
【図12】外内OD交通のノード間OD交通量への変換結果を示す表。
【図13】外外OD交通の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る交通量逆推定方法を実施する場合には、通常はパーソナルコンピュータ等のコンピュータシステムを利用して計算を行う。図1は、本発明の一実施形態に係るコンピュータシステム1の要部構成を示すブロック図である。コンピュータシステム1は、CPU2、メモリ3、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイや液晶ディスプレイから成る表示部4、文字・数字入力キー及び各種機能キーなどを備えているキーボードや、ポインティングデバイスであるマウスから成る入力部5、及び記憶部6が相互に接続されることにより構成されている。記憶部6はプログラムやデータなどが予め記憶されている磁気記録媒体、光学記録媒体、半導体メモリなどから成る記憶媒体を備えている。この記憶媒体は、記憶部6に対して固定的に設けられたものであってもよいし、着脱自在に設けられたものであってもよい。また、記憶部6には、OS(Operating System)6a、交通量推定プログラム6b、その他の各種情報が含まれている。なお、以下に示す各種処理および計算は、CPU2が交通量推定プログラム6bを実行することにより実現することができる。
【0017】
本発明に係る交通量逆推定方法では、図2に示すフローチャートに沿った処理を行うことにより、既に得られている交通センサスデータと、実際のリンク交通量の観測値とを用いて、後者の観測時点におけるゾーン間OD交通量を推定することができる。以下、本発明に係る交通量逆推定方法を実施する方法について詳細に説明する。
【0018】
本発明に係る交通量逆推定方法では、Bゾーン交通センサスデータを利用し、ゾーンごとにセントロイドの発生・集中交通量を各ゾーン内ノードに対し事前に分担させる。たとえば、セントロイドの発生・集中交通量を、当該ゾーンにおける各ノードの通過交通量や周辺の土地利用状況を考慮して、ノードに分担させることができる。最も簡便な方法は、セントロイドの発生・集中交通量を各ノードに均等に分担させる方法である。この方法ではセントロイドの発生・集中交通量をノードに分担させる作業に加えて、ノード発生・集中交通量をノード間OD交通量に変換する作業が別に必要となるが、ゾーン内ノードにセントロイド発生・集中交通量の分担率を与えることにより、ノード間OD交通量がセントロイド発生交通量の関数で記述できる。このことにより、逆推定モデルはセントロイド発生交通量のみを求める推定問題となる。よって、推定モデルにおける未知変数がBゾーンの数だけで済む。このため、広域の対象ネットワークに対しても実際適用が可能となる。
【0019】
<セントロイドにおける発生・集中交通量のノードへの分担方法>
セントロイドで取り扱われる発生交通量および集中交通量を、ゾーン内の主要ノードに分担させる方法を、簡単なネットワークを用いて説明する。OD交通量逆推定モデルの適用対象地域における道路ネットワークとゾーニング(ゾーン分割)が図3のように与えられているとする。この例では、対象地域が3個のゾーンで構成されており、ゾーン1ではノードが2個、ゾーン2ではノードが3個、ゾーン3ではノードが2個存在している。
【0020】
交通センサス調査ではBゾーンにもとづいて交通量データが集計されているので、図3の各ゾーンはBゾーンに対応しているとして考える。また、交通センサス調査における交通量配分(経路配分)では、ゾーンの発生・集中交通量はセントロイドのみで行われ、ノードは通過機能のみであるとされている。しかし、本発明の交通量逆推定方法を用いてBゾーンベースのOD交通量を高精度で推定するには、セントロイドの発生・集中交通量をノードに分担させるのが合理的である。それゆえ、本発明の交通量逆推定方法においては、ノードに通過機能とともに発生・集中機能を持たせることにする。
【0021】
交通センサスデータではBゾーンの発生・集中交通量はセントロイドで行われるとしている。各ゾーンにセントロイドを付与したのが図4であり、セントロイドとゾーン内ノードはダミーリンクで結合される。そして、セントロイドの発生・集中交通量はダミーリンクで結合されたノードで分担されるとする。
【0022】
セントロイドcからの発生交通量のゾーン内ノードciへの発生分担率をαci 、セントロイドdへの集中交通量のゾーン内ノードdjからの集中分担率をβdjとすると、次の(1),(2)式が成り立つ。
【数1】

【0023】
図5にノード発生分担率とノード集中分担率の例を示す。セントロイド1の発生交通量が1000であり、このうちノード11が800、ノード12が200を分担するようになっている。よって、ゾーン内のノード11と12への発生分担率は次のようになる:α11=8/10、α12=2/10。
【0024】
一方、セントロイド2の集中交通量は600、セントロイド3の集中交通量は400となっている。そして、ノード21、22、23の集中交通量はそれぞれ400、100、100、またノード31、32の集中交通量は300、100となっている。したがって、ゾーン2とゾーン3における各ゾーン内ノードの集中分担率は次のようになる:β21=4/6、β22=1/6、β23=1/6、β31=3/4、β32=1/4。
【0025】
セントロイドの発生交通量と集中交通量が、この発生分担率と集中分担率で以てノードに分担されることになる。発生ゾーン(発生セントロイド)cにおけるノードciの発生交通量をGCi、集中ゾーン(集中セントロイド)dにおけるノードdjの集中交通量をAdjとする。ゾーンcの発生交通量をOc、ゾーンdの集中交通量をQdとすると、発生ゾーン内のノードciが分担する発生交通量、集中ゾーン内のノードdjが分担する集中交通量はそれぞれ以下の式(3)及び(4)で与えられる。
【数2】

【0026】
図5の例ではゾーン1の発生交通量はO1=1000であるから、式(3)で示すと、ノードの分担発生交通量G1iは次のようになる。
G11=1000×8/10=800、G12=1000×2/10=200
【0027】
一方、ゾーン2とゾーン3の集中交通量はQ2=600とQ3=400であるから、それぞれのゾーン内ノードの分担集中交通量A2j及びA3jは、式(4)で示すと次のようになる。
A21=600×4/6=400、A22=A23=600×1/6=100
A31=400×3/4=300、A32=400×1/4=100
【0028】
現実の交通データでは対象地域におけるOD交通の種別、またODペアによってノードの発生分担率および集中分担率が異なることが考えられる。しかし、ここでは現実データがない場合の簡便的な方法として、ODの種別やペアに関係なく同一のノード分担率で与えることにする。プローブカーデータが利用できる場合は、OD交通の種別およびペアごとにノードの発生分担率と集中分担率が求められるので、その実際値を用いればよい。
【0029】
<セントロイド間OD交通量からノード間OD交通量への変換>
[対象域内から域内へのノード間OD交通量(内内OD交通量)]
ゾーン内のノード発生分担率とノード集中分担率が与えられると、これらを用いてセントロイド間OD交通量をノード間OD交通量に変換することができる。ここでは、セントロイド間OD交通およびノード間OD交通のいずれもOD交通種別ごとに取り扱うことにする。上で用いた図5の例は、対象地域における内内OD交通を示したものである。したがって、式(3)のセントロイド(ゾーン)cのゾーン内ノードciの内内OD交通に関する分担発生交通量GIciは、正確に記述すると次の式(5)のように記述される。
【数3】

ここで、添字Iは内内OD交通、τcはセントロイドcから発生するOD交通量の内内比率を表す。
【0030】
上の例におけるセントロイド1からゾーン内ノードへの分担発生交通量をまとめたのが図6である。この表において、C1はセントロイド(ゾーン)1 、N1iはセントロイド(ゾーン)1における分担ノードiを表している。
【0031】
ノードの分担集中交通量についても、正確にいえば、OD交通種別とODペア(発生セントロイド)を区別する必要がある。この場合、式(4)は次式(6)で表示される。
【数4】

しかし、ここでも簡便的な方法として、集中分担率βの値はOD交通種別とODペア(発生セントロイド)によって変わらないと仮定しているので、以後は添字のcとIを省略して、式(4)の記述を用いることにする。
【0032】
交通センサスデータではBゾーンベースのOD交通量、すなわち、セントロイド間OD交通量が集計されている。それゆえ、発生セントロイドcから集中セントロイドdへの目的選択確率mcdは既定値として求められる。ここで、セントロイド間OD交通量をノード間OD交通量に変換するために次のような仮定をする。すなわち、次式(7)に示すように、発生セントロイドの発生分担ノードciから集中セントロイドdへの目的地選択確率mci,dは、発生セントロイドcから集中セントロイドdへの目的地選択確率mcdと同一であるとする。この仮定は、現実からそれほど乖離することはないと思われる。
【数5】

【0033】
一方、目的地セントロイドdへの集中交通量は、ゾーン内ノードdjへ集中分担率βdjで分担される。したがって、発生ノードciから集中ノードdjへの目的地選択確率mcidjは次式(8)で求められる。
【数6】

【0034】
このようにして、セントロイド間OD交通量からノード間OD交通量へ変換が、式(5)と式(8)を用いて行える。すなわち、ノードciからノードdjへのノード間OD交通量Xcidjは次式(9)で与えられる。
【数7】

【0035】
上式(9)においてτc、Ocおよびmcdは既存交通センサスデータから与えられるので、αciとβdjを適切な方法で与えることにより、セントロイド間OD交通量からノード間OD交通量を作成することができる。したがって、OD交通量逆推定モデルにおいてはOcのみが未知変数となり、τc、mcd、αciおよびβdjは固定値として取り扱われることになる。
【0036】
この方法を用いて、図5の例の内内OD交通に関するセントロイド間OD交通量をノード間OD交通量に変換したのが図7に示す表である。図7には発生セントロイド1に関する目的地選択確率m1,d、ノードの集中分担率βdj、目的ゾーンにおけるセントロイド集中交通量Qdおよびノードの分担集中交通量Adjが示されている。
【0037】
[対象域内から域外へのノード間OD交通量(内外OD交通量)]
対象域内から域外へのノード間OD交通量は次のようにして求められる。ゾーン内における各ノードへの発生交通量の分担方法は先と同様である。ノードへの分担発生交通量が求まると、次は発生ノードから域外ノードへの目的地選択確率を求めなければならない。域内の発生分担ノードciから域外ノードlへの目的地選択確率nc,lは、先と同様に、域内の発生セントロイドから域外ノードへ集中交通量(外周ノードへの流出リンク交通量)への目的地選択確率nclと同じであると仮定する(式10)。これらの目的地選択確率は既存交通センサスのOD交通量データから求められる。
【数8】

【0038】
域内ノードciから域外ノードlへの内外OD交通量Yilは、内内OD交通の場合と同じようにして、内外OD交通に関係するセントロイド発生交通量OEcにノード分担率αciと目的地選択確率mcilを乗算することにより得られる(式11)。ここで、添字Eは内外OD交通を表している。
【数9】

【0039】
内外OD交通のノード発生分担交通量の例を示す説明図を図8に示す。道路ネットワークは図4と同じであり、ゾーン1のセントロイド1から域外への交通量600が発生するとしている。ノードの発生分担率は内内OD交通の場合と同じと考えるので、セントロイド1の発生交通量はノード11に480、ノード12に120がそれぞれ分担される。これを表形式で示したのが図9である。また、図8に示す例に関し、内外OD交通をノード間交通量へ変換した値を図10に表形式で示す。
【0040】
[対象域外から域内へのノード間OD交通量(外内OD交通量)]
Bゾーンベースでの交通センサスデータを用いることにより、域外外周ノードから域内セントロイドへのOD交通量は経路配分(等時間配分や時間比配分などによる交通量配分)をすることにより知ることができる。したがって、域外ノードkから域内セントロイドdへの目的地選択確率qkdは、既存交通センサスデータから求めることができる。セントロイド集中交通量のゾーン内ノードへの集中分担率βdjが上述のように求められるとすると、域外ノードkから域内ノードdjへの外内OD交通量Ukdjは次式(12)で求められる。
【数10】

ここで、Skは域外ノードの発生交通量(外周ノードから域内への流入交通量)、添字Iは外内OD交通、λkは域外ノードkから発生するOD交通量の外内比率を表す。
【0041】
外内OD交通のノード集中分担率の例を表す説明図を図11に示す。ここでは域外の外周ノードk=1から域内のセントロイドおよびノードへのOD交通を対象としており、セントロイドの集中交通量およびノードの分担集中交通量が示されている。また、ノードへの集中分担率が内内OD交通と同一であるとしたときのノード間OD交通量へ変換した結果を図12に表形式で示す。
【0042】
[対象域外から域外へのノード間OD交通量(外外OD交通量)]
域外ノードkから域外ノードlへのOD交通量(通過交通量)Wklは既存交通センサスデータで与えられる。この外外OD交通量に対応する目的地選択確率をrkl、域外ノードkからの発生交通量(外周ノードから域内への流入交通量)を(1-λ)SkあるいはSEkと表示すると、OD交通量Wklは次式(13)で示される。
【数11】

【0043】
図13に、外外OD交通(通過OD交通)の例を表す説明図を示す。この場合、SE1=(1-λk)S1=400、W12=300、W13=100、r12=3/4、r13=1/4である。
【0044】
<セントロイドベースでのOD交通量逆推定の計算方法>
Bゾーンベースでの既存交通センサスデータを用いることにより、上述の方法でセントロイド間OD交通量をノード間OD交通量に変換することができる。すなわち、ノード間の内内OD交通量は式(9)、内外OD交通量は式(11)で、Ocの推定値を投入することで求めることができる。また、ノード間の外内OD交通量は式(12)、外外OD交通は式(13)で、Skの現実交通量(外周ノードから対象域内への流入交通量)を投入することで求められる。セントロイドベースのOD交通量逆推定は、変換されたノード間OD交通量データに基づいて行うことになる。
なおこの方法は、既存交通量配分手法の推定精度を格段に改善させる。既存の方法は、ノード発生分担率とノード集中分担率を固定値とせず、セントロイドとノードを結ぶダミーリンクを使って、セントロイド間OD交通量を経路配分するため、非現実的なノード間OD交通量が形成されるという問題点がある。しかし、本方法では、ノード発生分担率とノード集中分担率を固定値として用いることにより、ノード間OD交通量の現実適合性が増すため、その経路配分結果も精度が向上する。
逆推定モデルでOD交通量を推定するとき、ノード間OD交通のリンク利用確率を与えなければならない。これにはいくつかの方法があるが、例えば、交通センサスデータから作成されたノード間OD交通量を、利用者均衡配分することによってOD別リンク利用確率を与えることができる。リンク利用確率が既知となると、OD交通種別ごとのリンクaの利用交通量は次のように求められる。
内内OD交通:
【数12】

内外OD交通:
【数13】

外内OD交通:
【数14】

外外OD交通:
【数15】

ここで、vaijはOD交通ijのリンクaの利用交通量、PaijはOD交通ijのリンクaの利用確率を表す。
【0045】
リンク交通量観測時のノード間OD交通量は推定値となるので、リンク利用交通量の推定値は上式から得ることができる。本発明における交通量逆推定方法においては、式(14)に示すように、これらのリンク交通量の推定値と観測される実際リンク交通量との間の差が最も小さくなるようにOD交通量を求める。本発明ではこれをリンク交通量モデルと呼ぶ。なお、両者の差を最小とする計算方法には、残差平方和を最小にする方法、重み付き誤差二乗和最小化やχ2値最小化などの方法がある。
【数16】

【0046】
上式(14)をノード間OD交通量の形に直して記述すると次の式(15)のように表示できる。
【数17】

【0047】

【数18】

【0048】
上記式(15)はリンク交通量のみの推定値と観測値を適合させているが、リンク交通量の適合に加えて、既存発生交通量パターンに基づいたセントロイド発生交通量の推定値と実際値を適合させる結合モデルも考えられる。結合モデル式は以下の式(17)のように表示される。
【数19】

【0049】
<プローブカーデータが利用できる場合>
プローブカーによるデータが利用できる場合は、OD交通内内比率、OD交通外内比率、ノード発生分担率、ノード間目的地選択確率およびリンク利用確率がすべて現実値で得られるので、より精度の高い推定をすることが可能となる。その場合、リンク交通量モデルの推定式は次の式(18)のように表示される。この方法では、現実データのノード間目的地選択確率がそのまま用いられ、ノード集中分担率が不要となる。
【数20】

【0050】
また、プローブカーデータが得られる場合も、式(19)のような結合モデル式を得ることができる。
【数21】

【0051】
<変数緩和型モデル>
上記実施例のモデルでは、セントロイド発生交通量Ocのみを未知変数としており、OD交通量の内内率τcと外内率λkを固定値として外生的に与えるとしている。しかし、OD交通量の内内率、外内率を未知変数とするモデル式も考えられる。便宜的に、前者を変数拘束型、後者を変数緩和型と呼ぶならば、変数緩和型のリンク交通量モデルと結合モデルはそれぞれ以下の式(20)、(21)のように示される。
【0052】
リンク交通量モデル:
【数22】

【0053】
結合モデル:
【数23】

この方法でOD交通内内比率τcを変数とすることは、セントロイド発生交通量Ocを、内内OD交通のOcIと内外OD交通のOcEに分けることになる。リンク交通量の観測時は、OD交通の内内比率τcと外内比率λkが変化していることが考えられる。τcを変数とすれば、対象域内のゾーン(セントロイド)から発生するOD交通量の内内比率と内外比率の変化を知ることができる。また、λkについても変数とすれば、対象域外ノードからの発生交通量(対象域への流入交通量)のOD交通外内比率とOD交通外外比率(OD交通通過比率)の変化を知ることができる。τcとλkの両方あるいは片方を未知変数とすることについては、モデルの利用目的によって決められる。
【0054】

【符号の説明】
【0055】
1…コンピュータシステム
2…CPU
3…メモリ
4…表示部
5…入力部
6…記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)既存交通センサスデータから得られるセントロイド間OD交通量から、対象域内の各発生セントロイドのOD交通内内比率、対象域外の各発生ノードのOD交通外内比率、セントロイド間目的地選択確率を算出し、
b)既存交通センサスデータから得られるセントロイド発生交通量と、前記OD交通内内比率と、前記OD交通外内比率と、前記セントロイド間目的地選択確率と、所定のノード発生分担率と、所定のノード集中分担率と、からノード間OD交通量を算出し、
c)各ノード間OD交通量を道路ネットワークに経路配分することでノード間OD別リンク利用確率を算出し、
d)リンク交通量観測時の推定セントロイド発生交通量と、前記OD交通内内比率と、前記OD交通外内比率と、前記セントロイド間目的地選択確率と、前記ノード発生分担率と、前記ノード集中分担率と、からノード間OD交通量推定式を構成し、
e)前記ノード間OD交通量推定式と前記ノード間OD別リンク利用確率とに基づきリンク交通量推定式を構成し、
f)リンク交通量実測値と、前記リンク交通量推定式との差を最小化することにより、推定セントロイド発生交通量を算出する
ことを特徴とする交通量逆推定方法。
【請求項2】
前記ノード発生分担率及び前記ノード集中分担率の値を固定とすることを特徴とする請求項1に記載の交通量逆推定方法。
【請求項3】
プローブカーデータから得られる実測に基づいて得たOD交通内内比率、OD交通外内比率、ノード間目的地選択確率、ノード発生分担率、ノード間OD別リンク利用確率を用いる交通量逆推定方法であって、
推定セントロイド発生交通量、OD交通内内比率、OD交通外内比率、ノード間目的地選択確率、ノード発生分担率、に基づきノード間OD交通量推定式を構成し、
前記ノード間OD交通量推定式と前記ノード間OD別リンク利用確率とに基づきリンク交通量推定式を構成し、
リンク交通量実測値と、前記リンク交通量推定式との差を最小化することにより、推定セントロイド発生交通量を算出する
ことを特徴とする交通量逆推定方法。
【請求項4】
推定セントロイド発生交通量を算出するステップにおいて、リンク交通量実測値とリンク交通量推定式の差を最小化することに加え、既存の発生交通量パターンに基づくセントロイド発生交通量実測値とセントロイド発生交通量推定式の差を最小化することにより、推定セントロイド発生交通量を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の交通量逆推定方法。
【請求項5】
前記OD交通内内比率、前記OD交通外内比率の少なくとも一方を変数にすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の交通量逆推定方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で算出された推定セントロイド発生交通量に前記セントロイド間目的地選択確率を乗算することにより、推定セントロイド間交通量を算出することを特徴とする交通量逆推定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で算出された推定セントロイド間交通量に基づき、推定ノード間OD交通量を算出することを特徴とする交通量逆推定方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法に係る処理をコンピュータに行わせるための交通量逆推定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−191890(P2010−191890A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38227(P2009−38227)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【特許番号】特許第4517166号(P4517166)
【特許公報発行日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(505407346)
【出願人】(502341122)株式会社福山コンサルタント (3)
【Fターム(参考)】