セーラー服
【課題】衿ぐりのたるみや衿の型崩れ防止を含め衿全体の保型性を長期間維持することにより、心地よい着用感と美しいシルエットを実現できるセーラー服の提供を図る。
【解決手段】前身頃と後身頃と両身頃との間の首挿入穴の周囲に沿って取り付けられた衿20を備え、衿20は、前身頃と後身頃とに渡って衿ぐり22を含む位置に配設される肩部21と肩部21から前身頃に配設される衿先部24と肩部21から後身頃に垂下される衿垂れ部26を備えたセーラー服において、衿20は内面に表芯地32を備えた表衿布30と内面に裏芯地33を備えた裏衿布31とが周囲において縫着され、表芯地32と裏芯地33との何れか一方は衿全体に渡って配設された全面芯地34であり、表芯地32と裏芯地33との何れか他方は肩部21と衿垂れ部26に渡って配設されると共に衿先部24には配設されない部分芯地35であることを特徴とする。
【解決手段】前身頃と後身頃と両身頃との間の首挿入穴の周囲に沿って取り付けられた衿20を備え、衿20は、前身頃と後身頃とに渡って衿ぐり22を含む位置に配設される肩部21と肩部21から前身頃に配設される衿先部24と肩部21から後身頃に垂下される衿垂れ部26を備えたセーラー服において、衿20は内面に表芯地32を備えた表衿布30と内面に裏芯地33を備えた裏衿布31とが周囲において縫着され、表芯地32と裏芯地33との何れか一方は衿全体に渡って配設された全面芯地34であり、表芯地32と裏芯地33との何れか他方は肩部21と衿垂れ部26に渡って配設されると共に衿先部24には配設されない部分芯地35であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、セーラー服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
女子生徒の制服の一種であるセーラー服は、セーラーカラーと呼ばれる独特な形状を有する衿が特徴である。前がV字型形状で後ろが四角形状をなすこの衿は、前身頃の胸部から肩を経て後身頃の背中上部にまで至るものであり、他の衣服と比較して衣服全体に対する衿の割合が高い。
【0003】
このため、衿の自重による衿ぐりのたるみや衿の型崩れ等を生じ、衿が肩先や背中上部に与える負担による着用感の低下や着用時のシルエットの低下等を引き起こしていた。
【0004】
また、従来のセーラー服の衿は、その衿を構成する表衿と裏衿のうち、表衿の内面にのみ全体に芯地を取り付け裏衿には芯地を取り付けていないために衿の張りやコシが弱く、上記の衿ぐりのたるみや衿の型崩れ等が着用初期から生じる恐れがあった。さらに、度重なる洗濯やハンガーによる懸架保管等によって、衿ぐりのたるみや衿の型崩れ等が着用期間を通して進行していく恐れがあった。
【0005】
上記問題を解決するために、特許文献1においては、上述のように、従来のセーラー服の衿では表衿の内面にのみ取り付けられていた芯地を、表衿と裏衿の何れか一方の内面には全体に渡って芯地を取り付けると共に、他方の内面には肩から首筋に当たる部分の領域のみに芯地を取り付けることによって、衿の型崩れ、特に肩の落ち込みによる型崩れを抑える提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4493241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明はこのことに鑑み、衿ぐりのたるみや衿の型崩れ防止を含め衿全体の保型性を長期間維持することによって、心地よい着用感と着用時に美しいシルエットを実現することができるセーラー服を提供することを課題とする。特に、肩から背中上部に垂下された衿垂れ部の保型性を長期間維持することによって、心地よい着用感と着用時に美しいシルエットを実現することができるセーラー服の提供を図らんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願の請求項1に係る発明は、前身頃と、後身頃と、上記前身頃と上記後身頃との間の首挿入穴の周囲に沿わされて取り付けられた衿とを備え、上記衿は、上記前身頃と上記後身頃とに渡って衿ぐりを含む位置に配設される肩部と、上記肩部から上記前身頃の左右前面に配設される衿先部と、上記肩部から上記後身頃に垂下される衿垂れ部とを備えたセーラー服において、上記衿は、表衿布と裏衿布とがその周囲において縫着されたものであり、上記表衿布は、その内面に表芯地を備え、上記裏衿布は、その内面に裏芯地を備え、上記表芯地と裏芯地とのいずれか一方は、上記衿の実質的に全体に渡って配設された全面芯地であり、上記表芯地と裏芯地とのいずれか他方は、上記衿の肩部と上記衿垂れ部の双方に渡って配設されると共に上記衿先部には配設されない部分芯地であることを特徴とするセーラー服を提供する。
【0009】
また、本願の請求項2に係る発明は、上記衿垂れ部は下端の左右両側が直線同士の角になった角隅であり、上記部分芯地は左右の上記両角隅の部分には配設されていないことを特徴とする請求項1記載のセーラー服を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本願の請求項1の発明では、前身頃と後身頃との間の首挿入穴の周囲に沿わされて取り付けられる、肩部と、衿先部と衿垂れ部とからなる衿を備えたセーラー服において、表衿布と裏衿布とがその周囲において縫着されたこの衿を構成する表衿布と裏衿布との何れか一方の内面には、衿全体に芯地を配設する全面芯地を用い、表衿布と裏衿布との何れか他方の衿の内面には、肩部と衿垂れ部の双方に渡って芯地を配設するとともに衿先部に芯地を配設しない部分芯地を用いることによって、衿全体の保型性を長期間維持し、衿ぐりのたるみや衿の型崩れを防止するとともに心地よい着用感を与え、かつ、着用時に全体にバランスの整った美しいシルエットを実現することができるセーラー服を提供することができたものである。
本願の請求項2の発明では、請求項1の発明の効果に加え、衿垂れ部下端の左右両側に位置し、衿垂れ部下端とその左右両側とによって直線同士の角をなす角隅部分に、全面芯地を配設するが部分芯地を配設しないことにより、全面芯地と部分芯地とを共に配設することで生じると考えうる上記角隅部分の外方向への反り返りを防止することができる。よって、衿垂れ部の角隅部分の保型性を確保し、着用時に美しいシルエットを実現することができるセーラー服を提供することができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本願発明の一実施形態に係るセーラー服全体を示す斜視図である。
【図2】本願発明の一実施形態に係るセーラー服の衿を構成する衿布を示す説明図であり、(A)は表芯地として全面芯地が配設された表衿布の説明図、(B)は裏芯地として部分芯地が配設された裏衿布の説明図である。
【図3】本願発明の一実施形態に係るセーラー服の衿の衿先部の範囲を示す説明図である。
【図4】(A)〜(C)は、それぞれセーラー服の衿の形状の一例を示す説明図である。
【図5】(A)は、本願発明の実施例1において作製されたセーラー服、(B)は、本願発明の比較例1において作製されたセーラー服の保管テスト後の写真である。
【図6】本願発明の比較例1において作製されたセーラー服の自重による衿ぐりのたるみを示す説明図であり、(A)は肩部及び衿垂れ部を背面視した状態を示す説明図、(B)肩部周辺を平面視した状態を示す説明図である。
【図7】(A)は、本願発明の実施例1において作製されたセーラー服、(B)は、本願発明の比較例1において作製されたセーラー服の保管テスト後の写真である。
【図8】(A)は、本願発明の実施例1において作製されたセーラー服、(B)は、本願発明の比較例1において作製されたセーラー服の保管テスト後の写真である。
【図9】(A)本願発明の実施例2において作製されたセーラー服の衿、(B)本願発明の比較例2において作製されたセーラー服の衿の洗濯テスト後の写真である。
【図10】(A)本願発明の実施例2において作製されたセーラー服の衿、(B)本願発明の比較例2において作製されたセーラー服の衿の洗濯テスト後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づき本願発明の実施の形態の一例を取りあげてを説明する。
【0013】
セーラー服10は、図1に示すように、前身頃11と、後身頃12と、前身頃11と後身頃12との間の首挿入穴13の周囲に沿うようにして取り付けられた衿20と、前身頃11と後身頃12との間の袖ぐり14に取り付けられた袖40と、衿20にくぐらせて前で結ぶスカーフ41とから構成されている。衿20は、前身頃11と後身頃12とに渡って衿ぐり22を含む位置に配設される肩部21と、肩部21から前身頃11の左右前面に配設される衿先部24と、肩部21から後身頃12に垂下される衿垂れ部26とから構成され、従来のセーラー服の衿と同様、前がV字型形状を、後ろが四角形状をなしている。
【0014】
衿20は、表衿布30と、裏衿布31とがその周囲において縫着されて形成されており、表衿布30の裏面には表芯地32が、裏衿布31の裏面には裏芯地33がそれぞれ配設されている。図2(A)及び図2(B)に示すように、表衿布30の裏面には、表芯地32として衿20の実質的に全体に渡って配設される全面芯地34が、裏衿布31の裏面には、裏芯地33として衿先部24以外の肩部21と衿垂れ部26の双方に渡って部分的に配設される部分芯地35がそれぞれ接着して取り付けられている。衿20の構成と取り付けられた芯地32,33との関係をわかりやすくするために、図2(A)は表芯地32が取り付けられた表衿布30を表面側からみた説明図を示し、図2(B)は裏芯地33が取り付けられた裏衿布31を裏面側からみた説明図を示す。本実施形態においては、表衿布30の裏面に表芯地32として全面芯地34を、裏衿布31の裏面に裏芯地33として部分芯地35をそれぞれ接着して取り付けているが、表衿布30の裏面に表芯地32として部分芯地35を、裏衿布31の裏面に裏芯地33として全面芯地34をそれぞれ接着して取り付けてもよい。また、本実施形態においては、図2(B)に示すように、裏衿布31の裏面に接着して取り付けた部分芯地35のうち、衿垂れ部26下端である衿垂れ部26の底部28の左右両側に位置し、その左右両側にある衿垂れ部26の側部27と底部28とによって直線同士の角をなす角隅部29には芯地が取り付けられていない。部分芯地35が取り付けられていない衿垂れ部26の角隅部29の大きさや形状には特に制限はないが、一辺が4cm〜15cmの範囲の四角形や二等辺三角形等とすることが好ましく、二等辺三角形の斜辺を曲線とした形状としてもよい。
なお、図3に示すように、衿20における衿先部24の範囲としては、前身頃11と後身頃12との境界に取り付けられる衿ぐり22の位置を衿みつ22bとし、衿みつ22bから前身頃側(図3においては上側)の衿ぐり22までの距離Cを20cm未満、好ましくは10cm未満、より好ましくは3cm以上7cm未満となる左右の点を衿先点24aとし、次に、衿先点24aを通る水平な仮想線を引き、その水平な仮想線よりも前身頃側を少なくとも衿先部24とする。また、衿みつ22bを通る水平な仮想線を引き、その水平な仮想線から後身頃側(図3においては下側)に従来のセーラー服と同様の数cmの距離Sをおいた位置に衿ぐり中心22aを設ける。図3において、点線は衿の出来上がり線を、二点鎖線は仮想線をそれぞれ示し、出来上がり線における衿ぐり中心22a、衿みつ22b、衿先点24aを用いて、衿先部24の範囲を特定した。また、図3において、わかりやすくするために衿先部24を斜線で示した。
【0015】
表衿布30と裏衿布31の素材には特に制限はなく、制服として在学中着用するための一定強度や耐久性、対候性、通気性、撥水性、耐洗濯性等に優れた素材であれば、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系等の各種合成繊維や、綿、毛、ヤシ繊維、ジュート等の天然繊維からなる織編布、不織布等の種々の素材の布を使用することができる。また、表衿布30と裏衿布31とは、同素材の布を用いることが好ましい。芯地としては、しなやかで、かつ適度な張りとコシを有し、布と接着可能な芯地であれば特に制限はなく、基布としては、加工糸織物や複合糸織物などの織物や、編物、不織布等を使用することができる。また、芯地の接着剤の素材にも制限はなく、ポリアミドやポリエステル、ポリエチレン等の種々の素材の接着剤を使用することができる。
【0016】
また、衿20の形状、つまり、衿20をなす表衿布30及び裏衿布31の形状については特に制限はなく、本実施形態のように衿垂れ部26の下端である底部28の左右両側に角隅部29を備えた形状にするほか、角隅部29に丸みをもたせた曲線形状としてもよい。また、衿先部24の長さや形状、肩部21の肩幅の長さや形状等についても、本願発明の目的を逸脱しない範囲において適宜調整すればよい。図4に、衿20の形状の一例として、裏芯地33として部分芯地35を取り付けた裏衿布31を裏面側からみた説明図を示す。
【0017】
表芯地32又は裏芯地33を接着して取り付けられた表衿布30と裏衿布31は、それぞれ接着して取り付けられた表芯地32と裏芯地33とが内側になるよう重ね合わせて、その周囲を縫着することによって衿20を形成し、この衿20を前身頃11と後身頃12との間の首挿入穴13の周囲に沿うようにして取り付ける。より詳しくは、衿先部24の内側の側部25と肩部21の衿ぐり22を、前身頃11と後身頃12との間の首挿入穴13の周囲に沿うようにして取り付ける。衿20の両身頃11,12への取り付け方法には特に制限はなく、縫製によって取り付けてもよいし、衿20または首挿入穴13の周囲の何れか一方にボタンを備え、衿20または首挿入穴13の周囲の何れか他方にボタンホールを備えて、ボタンをボタンホールに係合することによって取り付けてもよい。
【0018】
上述のように、表衿布30の内面に表芯地32として衿20の実質的に全体に渡って全面芯地34が接着して取り付けられ、かつ裏衿布31の内面に裏芯地33として衿先部24以外の肩部21と衿垂れ部26の双方に渡って部分芯地35が接着して取り付けられたことにより、衿20の肩部21及び衿垂れ部26は表芯地32と裏芯地33とが二重に取り付けられ、衿20に適度な張りとコシを与える。肩部21については、衿ぐり22の自重によるたるみを防止し、衿20を後身頃12に向かって折り返す際の衿折れ線23を設計上の衿折れ線と同位置に保持することができる。また、衿ぐり22周囲のしわを防止することができる。よって、衿折れ線23が安定するとともに、衿20の自重による肩先15や背中上部への負担が軽減されることにより、肩部21の保型性を維持し、より軽い着用感を与えるとともに着用時に美しいシルエットを実現することができる。
【0019】
また、衿垂れ部26については、上述した肩部21の保型性の効果に加え、衿垂れ部26の側部27や底部28の波打ちとしてみられるしわやたるみの発生を抑制することができる。さらに、裏芯地33として裏衿布31の内面に取り付けた部分芯地35のうち、衿垂れ部26下端である底部28の左右両側に位置する角隅部29には、部分芯地35を取り付けず表芯地32として表衿布30に全面芯地34のみを取り付けることによって、全面芯地34と部分芯地35とを共に取り付けることで生じると考えうる衿垂れ部26の角隅部29の外方向への反り返りを防止することができる。よって、衿垂れ部26の保型性を維持し、着用時に美しいシルエットを実現することができる。
【0020】
衿先部24については、裏芯地33としての部分芯地35を配設せず表芯地32としての全面芯地34のみを配設することによって、衿先部24の自然な衿20の返りを妨げないよう適度なしなやかさを保持している。
【0021】
さらに衿20全体としては、衿20の肩部21及び衿垂れ部26に表芯地32と裏芯地33とを配設することにより、縫製加工性の安定を図るともに、パッカリング(生地のゆがみ)の発生を抑制することができる。
【0022】
上述の衿20を備えたセーラー服10は、長期間の着用やハンガーによる懸架等による保管、繰り返しの洗濯によっても衿ぐり22のたるみや衿20の型崩れを防止することができる。よって、長期にわたり衿20全体の保型性を維持し、心地よい着用感と着用時に美しいシルエットを実現することができるセーラー服10を提供することができたものである。
【実施例】
【0023】
以下、実施例に基づき本願発明を詳細に説明する。
【0024】
(実施例1〜実施例2)
実施例1及び実施例2として、図2(A)及び図2(B)に示す表衿布30及び裏衿布31を用いて形成した衿20(実施例2)、及びその衿20を備えたセーラー服10(実施例1)を作製した。セーラー服10の素材は、前身頃11、後身頃12、衿20、袖40ともに、ウール50%/ポリエステル50%の混紡糸によるカシミヤ織素材を使用した。衿20に使用した芯地は、基布がポリエステル100%で、坪量が59g/m2の加工糸織物芯地を使用した。前身頃11、後身頃12、袖40については、通常の縫製を施した。衿20は、表芯地32として全面芯地34を接着して取り付けた表衿布30と、裏芯地33として肩部21と衿垂れ部26の双方に渡る部分芯地35を接着して取り付けた裏衿布31とを、それぞれ取り付けられた表芯地32と裏芯地33とが内側になるよう重ね合わせて、首挿入穴13の周囲に取り付けられる衿先部24の内側の側部25と肩部21の衿ぐり22を除いた表衿布30と裏衿布31との周囲を縫着することによって形成し、本願発明に係るセーラー服10の衿20を得た。さらに、この衿20を前身頃11と後身頃12との間の首挿入穴13の周囲に沿うようにして取り付け、本願発明に係るセーラー服10を得た。なお、裏衿布31に接着して取り付けた部分芯地35のうち、衿垂れ部26下端である底部28の左右両側に位置し、その左右両側にある衿垂れ部26の側部27と底部28とによって直線同士の角をなす角隅部29には部分芯地35を取り付けなかった。部分芯地35が取り付けられなかった衿垂れ部26の角隅部29の大きさは、一辺が10cmの二等辺三角形の大きさとなるようにした。また、衿20における衿先部24の範囲としては、衿みつ22bから衿先点24aまでの距離Cを5cmとし、衿みつ22bから衿ぐり中心22aまでの距離Sを2cmとした。実施例1及び実施例2のセーラー服10の衿20の質量は、70.4gであった。
【0025】
(比較例1〜比較例2)
実施例1及び実施例2の比較のために、図2(B)に示す裏衿布31に裏芯地33として部分芯地35を取り付けず、図2(A)に示す表衿布30にのみ表芯地32として全面芯地34を接着して取り付けて形成した衿20(比較例2)、及びその衿20を備えたセーラー服10(比較例1)を作製した。セーラー服10の素材は、ウール50%/ポリエステル50%の混紡糸によるカシミヤ織素材を使用し、衿20に使用した芯地は、基布がポリエステル100%で、坪量が47g/m2の加工糸織物芯地を使用した。前身頃11、後身頃12、袖40の縫製や衿20の縫製、衿20の取り付けは実施例1と同様の方法によりセーラー服10の衿20とセーラー服10を作製した。得られた実施例1〜実施例2及び比較例1〜比較例2を、下記に示す方法により、保管性及び耐洗濯性について評価した。比較例1及び比較例2のセーラー服10の衿20の質量は、64.9gであった。
【0026】
(評価方法)
(1)保管性
実施例1、比較例1のセーラー服10を、それぞれ10日間ハンガーに懸架する保管テストを行い、セーラー服10の衿ぐり22のたるみやしわ、衿垂れ部26の波打ち、パッカリングの有無、及びそれらの程度について、目視にて評価した。実施例1及び比較例1の保管テスト後の写真又は図を、図5〜図8に示す。
(2)耐洗濯性
JIS L0217 105法を参考にして、実施例2、比較例2のセーラー服10の衿20を、それぞれ家庭用自動洗濯機による水洗い洗濯、吊り干しによる乾燥を連続して10回行う洗濯テストを行い、衿垂れ部26の波打ちの程度について、目視にて評価した。実施例2及び比較例2の洗濯テスト後の写真を図9〜図10に示す。
【0027】
まず、保管テストにおける衿ぐり22のたるみやしわについて評価した。図5(A)に示すように、実施例1は、テスト終了後であっても衿ぐり22が自重によって垂れ下がることなく、実施例1の衿折れ線23は設計上の衿折れ線と同じ位置を保っている。また、衿ぐり22の収まりが良く、衿ぐり22周囲にしわの発生が確認できなかった。一方、図5(B)に示すように、比較例1は、実施例1と比較して、衿20が軽いにも関わらず衿ぐり22が自重により垂れ下がり、かつ衿ぐり22周囲にしわの発生が確認された。よって、実施例1において、衿ぐり22を含む肩部21の保型性を確認することができた。さらに、図6(A)及び図6(B)に、比較例1において作製されたセーラー服10の自重による衿ぐり54のたるみを示す説明図を示す。図6(A)及び図6(B)における二点鎖線は、設計上の衿ぐり50及び衿折れ線51の位置を含む設計上の衿の位置を示している。図6(A)に示すように、比較例1においては、衿ぐり54が自重によって垂れ下がることによって、比較例1の衿折れ線55も下がり、設計上の衿折れ線51の位置を保つことができない。また、図6(A)及び図6(B)に示すように、比較例1の衿の位置(例えば、衿垂れ部26の側部56や底部57)は設計上の衿の位置(同じく衿垂れ部26の側部52や底部53)に収まらず外回りが不足するため、設計上の衿垂れ部26の側部52や底部53と比較して、比較例1の衿垂れ部26の側部56や底部57はより外側に位置している。よって、実施例1と比較して肩先15から背中上部、特に肩先15にかかる衿20の比重が大きく、着用感を低下させることが分かった。
【0028】
次に、保管テストにおける衿垂れ部26の波打ちや反り、パッカリングについて評価した。図7(A)に示すように、実施例1は、テスト終了後であっても衿垂れ部26の表衿布30側の側部27及び底部28ともに波打ちが確認されず、直線的で安定していた。また、衿垂れ部26の下端である底部28の左右両側に位置する角隅部29おいては、反り返りが確認されなかった。一方、図7(B)に示すように、比較例1は、実施例1と比較して、衿垂れ部26の側部27及び底部28ともに若干の波打ちが確認された。また、衿垂れ部26の角隅部29においては、内方向への若干の反り返りが確認された。さらに、図8(A)及び図8(B)は、裏衿布31側の底部28からの実施例1と比較例1の写真であり、図8(B)において楕円で示した箇所に、縫製によるパッカリング(生地のゆがみ)に関する有意差が目視によって確認された。詳しくは、比較例1の衿垂れ部26の裏衿布31側の底部28には、実施例1の衿垂れ部26の底部28には確認されなかった縫製によるパッカリング(生地のゆがみ)が確認されたものである。なお、図8の写真では一見すると顕著な差異が表現されていないが、実際には、表裏の衿布30、31の間の縫い目付近(上の方の楕円)や、表衿布30にライン用のテープを縫い付けるための縫い目付近(下の方の楕円)にパッカリングに関して、実施例1と比較例1には明確な差異が目視によって確認された。
【0029】
次に、洗濯テストにおける衿垂れ部26の波打ちについて評価した。今日の繊維製品の技術水準にあっては、洗濯によって何からの波打ちは発生するため、波打ちの多少や波の大きさ等の程度を評価した。図9(B)に示すように、比較例2は、衿垂れ部26全体、つまり衿垂れ部26の側部27及び底部28ともに波打ちが確認された。一方、図9(A)に示すように、実施例2は、衿垂れ部26の奥側の側部27(図9(A)においては上側)に波打ちが、衿垂れ部26の底部28に若干の波打ちが確認された。しかしながら、比較例2と比較して、全体的に浪の数が少ない上に波の大きさは小さく、衿垂れ部26の手前側の側部27(図9(A)においては下側)と底部28は直線的で安定していた。
また、図10(A)及び図10(B)に示すように、実施例2、比較例2ともに衿垂れ部26の底部28に波打ちが確認されたが、比較例2は、衿垂れ部26の底部28全体に実施例2と比較して大きな波打ちが確認されたが、実施例2は衿垂れ部26の底部28の一部に若干小さな波打ちが確認されたのみで、比較的直線的で安定していた。よって、実施例2において、衿垂れ部26の保型性が改善されていることが確認することができた。
【0030】
上記の保管性及び耐洗濯性の評価結果により、本願発明の実施例1〜実施例2においては、保管時や洗濯時における衿20全体の保型性に優れ、波打ちとしてみられるしわやたるみ、パッカリング(生地のゆがみ)の発生を抑制することができた。なお、上記の実施例ではカシミヤ織の布地を用いたが、サージ織に代表される他のセーラー服用生地を用いることも可能である。本願発明は、実施例によって限定して理解されるべきではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で種々変更して実施可能である。
【符号の説明】
【0031】
10 セーラー服
11 前身頃
12 後身頃
13 首挿入穴
20 衿
21 肩部
22 衿ぐり
24 衿先部
26 衿垂れ部
27 側部
28 底部
29 角隅部
30 表衿布
31 裏衿布
32 表芯地
33 裏芯地
34 全面芯地
35 部分芯地
50 (設計上の)衿ぐり
54 (比較例1の)衿ぐり
【技術分野】
【0001】
本願発明は、セーラー服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
女子生徒の制服の一種であるセーラー服は、セーラーカラーと呼ばれる独特な形状を有する衿が特徴である。前がV字型形状で後ろが四角形状をなすこの衿は、前身頃の胸部から肩を経て後身頃の背中上部にまで至るものであり、他の衣服と比較して衣服全体に対する衿の割合が高い。
【0003】
このため、衿の自重による衿ぐりのたるみや衿の型崩れ等を生じ、衿が肩先や背中上部に与える負担による着用感の低下や着用時のシルエットの低下等を引き起こしていた。
【0004】
また、従来のセーラー服の衿は、その衿を構成する表衿と裏衿のうち、表衿の内面にのみ全体に芯地を取り付け裏衿には芯地を取り付けていないために衿の張りやコシが弱く、上記の衿ぐりのたるみや衿の型崩れ等が着用初期から生じる恐れがあった。さらに、度重なる洗濯やハンガーによる懸架保管等によって、衿ぐりのたるみや衿の型崩れ等が着用期間を通して進行していく恐れがあった。
【0005】
上記問題を解決するために、特許文献1においては、上述のように、従来のセーラー服の衿では表衿の内面にのみ取り付けられていた芯地を、表衿と裏衿の何れか一方の内面には全体に渡って芯地を取り付けると共に、他方の内面には肩から首筋に当たる部分の領域のみに芯地を取り付けることによって、衿の型崩れ、特に肩の落ち込みによる型崩れを抑える提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4493241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明はこのことに鑑み、衿ぐりのたるみや衿の型崩れ防止を含め衿全体の保型性を長期間維持することによって、心地よい着用感と着用時に美しいシルエットを実現することができるセーラー服を提供することを課題とする。特に、肩から背中上部に垂下された衿垂れ部の保型性を長期間維持することによって、心地よい着用感と着用時に美しいシルエットを実現することができるセーラー服の提供を図らんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願の請求項1に係る発明は、前身頃と、後身頃と、上記前身頃と上記後身頃との間の首挿入穴の周囲に沿わされて取り付けられた衿とを備え、上記衿は、上記前身頃と上記後身頃とに渡って衿ぐりを含む位置に配設される肩部と、上記肩部から上記前身頃の左右前面に配設される衿先部と、上記肩部から上記後身頃に垂下される衿垂れ部とを備えたセーラー服において、上記衿は、表衿布と裏衿布とがその周囲において縫着されたものであり、上記表衿布は、その内面に表芯地を備え、上記裏衿布は、その内面に裏芯地を備え、上記表芯地と裏芯地とのいずれか一方は、上記衿の実質的に全体に渡って配設された全面芯地であり、上記表芯地と裏芯地とのいずれか他方は、上記衿の肩部と上記衿垂れ部の双方に渡って配設されると共に上記衿先部には配設されない部分芯地であることを特徴とするセーラー服を提供する。
【0009】
また、本願の請求項2に係る発明は、上記衿垂れ部は下端の左右両側が直線同士の角になった角隅であり、上記部分芯地は左右の上記両角隅の部分には配設されていないことを特徴とする請求項1記載のセーラー服を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本願の請求項1の発明では、前身頃と後身頃との間の首挿入穴の周囲に沿わされて取り付けられる、肩部と、衿先部と衿垂れ部とからなる衿を備えたセーラー服において、表衿布と裏衿布とがその周囲において縫着されたこの衿を構成する表衿布と裏衿布との何れか一方の内面には、衿全体に芯地を配設する全面芯地を用い、表衿布と裏衿布との何れか他方の衿の内面には、肩部と衿垂れ部の双方に渡って芯地を配設するとともに衿先部に芯地を配設しない部分芯地を用いることによって、衿全体の保型性を長期間維持し、衿ぐりのたるみや衿の型崩れを防止するとともに心地よい着用感を与え、かつ、着用時に全体にバランスの整った美しいシルエットを実現することができるセーラー服を提供することができたものである。
本願の請求項2の発明では、請求項1の発明の効果に加え、衿垂れ部下端の左右両側に位置し、衿垂れ部下端とその左右両側とによって直線同士の角をなす角隅部分に、全面芯地を配設するが部分芯地を配設しないことにより、全面芯地と部分芯地とを共に配設することで生じると考えうる上記角隅部分の外方向への反り返りを防止することができる。よって、衿垂れ部の角隅部分の保型性を確保し、着用時に美しいシルエットを実現することができるセーラー服を提供することができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本願発明の一実施形態に係るセーラー服全体を示す斜視図である。
【図2】本願発明の一実施形態に係るセーラー服の衿を構成する衿布を示す説明図であり、(A)は表芯地として全面芯地が配設された表衿布の説明図、(B)は裏芯地として部分芯地が配設された裏衿布の説明図である。
【図3】本願発明の一実施形態に係るセーラー服の衿の衿先部の範囲を示す説明図である。
【図4】(A)〜(C)は、それぞれセーラー服の衿の形状の一例を示す説明図である。
【図5】(A)は、本願発明の実施例1において作製されたセーラー服、(B)は、本願発明の比較例1において作製されたセーラー服の保管テスト後の写真である。
【図6】本願発明の比較例1において作製されたセーラー服の自重による衿ぐりのたるみを示す説明図であり、(A)は肩部及び衿垂れ部を背面視した状態を示す説明図、(B)肩部周辺を平面視した状態を示す説明図である。
【図7】(A)は、本願発明の実施例1において作製されたセーラー服、(B)は、本願発明の比較例1において作製されたセーラー服の保管テスト後の写真である。
【図8】(A)は、本願発明の実施例1において作製されたセーラー服、(B)は、本願発明の比較例1において作製されたセーラー服の保管テスト後の写真である。
【図9】(A)本願発明の実施例2において作製されたセーラー服の衿、(B)本願発明の比較例2において作製されたセーラー服の衿の洗濯テスト後の写真である。
【図10】(A)本願発明の実施例2において作製されたセーラー服の衿、(B)本願発明の比較例2において作製されたセーラー服の衿の洗濯テスト後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づき本願発明の実施の形態の一例を取りあげてを説明する。
【0013】
セーラー服10は、図1に示すように、前身頃11と、後身頃12と、前身頃11と後身頃12との間の首挿入穴13の周囲に沿うようにして取り付けられた衿20と、前身頃11と後身頃12との間の袖ぐり14に取り付けられた袖40と、衿20にくぐらせて前で結ぶスカーフ41とから構成されている。衿20は、前身頃11と後身頃12とに渡って衿ぐり22を含む位置に配設される肩部21と、肩部21から前身頃11の左右前面に配設される衿先部24と、肩部21から後身頃12に垂下される衿垂れ部26とから構成され、従来のセーラー服の衿と同様、前がV字型形状を、後ろが四角形状をなしている。
【0014】
衿20は、表衿布30と、裏衿布31とがその周囲において縫着されて形成されており、表衿布30の裏面には表芯地32が、裏衿布31の裏面には裏芯地33がそれぞれ配設されている。図2(A)及び図2(B)に示すように、表衿布30の裏面には、表芯地32として衿20の実質的に全体に渡って配設される全面芯地34が、裏衿布31の裏面には、裏芯地33として衿先部24以外の肩部21と衿垂れ部26の双方に渡って部分的に配設される部分芯地35がそれぞれ接着して取り付けられている。衿20の構成と取り付けられた芯地32,33との関係をわかりやすくするために、図2(A)は表芯地32が取り付けられた表衿布30を表面側からみた説明図を示し、図2(B)は裏芯地33が取り付けられた裏衿布31を裏面側からみた説明図を示す。本実施形態においては、表衿布30の裏面に表芯地32として全面芯地34を、裏衿布31の裏面に裏芯地33として部分芯地35をそれぞれ接着して取り付けているが、表衿布30の裏面に表芯地32として部分芯地35を、裏衿布31の裏面に裏芯地33として全面芯地34をそれぞれ接着して取り付けてもよい。また、本実施形態においては、図2(B)に示すように、裏衿布31の裏面に接着して取り付けた部分芯地35のうち、衿垂れ部26下端である衿垂れ部26の底部28の左右両側に位置し、その左右両側にある衿垂れ部26の側部27と底部28とによって直線同士の角をなす角隅部29には芯地が取り付けられていない。部分芯地35が取り付けられていない衿垂れ部26の角隅部29の大きさや形状には特に制限はないが、一辺が4cm〜15cmの範囲の四角形や二等辺三角形等とすることが好ましく、二等辺三角形の斜辺を曲線とした形状としてもよい。
なお、図3に示すように、衿20における衿先部24の範囲としては、前身頃11と後身頃12との境界に取り付けられる衿ぐり22の位置を衿みつ22bとし、衿みつ22bから前身頃側(図3においては上側)の衿ぐり22までの距離Cを20cm未満、好ましくは10cm未満、より好ましくは3cm以上7cm未満となる左右の点を衿先点24aとし、次に、衿先点24aを通る水平な仮想線を引き、その水平な仮想線よりも前身頃側を少なくとも衿先部24とする。また、衿みつ22bを通る水平な仮想線を引き、その水平な仮想線から後身頃側(図3においては下側)に従来のセーラー服と同様の数cmの距離Sをおいた位置に衿ぐり中心22aを設ける。図3において、点線は衿の出来上がり線を、二点鎖線は仮想線をそれぞれ示し、出来上がり線における衿ぐり中心22a、衿みつ22b、衿先点24aを用いて、衿先部24の範囲を特定した。また、図3において、わかりやすくするために衿先部24を斜線で示した。
【0015】
表衿布30と裏衿布31の素材には特に制限はなく、制服として在学中着用するための一定強度や耐久性、対候性、通気性、撥水性、耐洗濯性等に優れた素材であれば、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系等の各種合成繊維や、綿、毛、ヤシ繊維、ジュート等の天然繊維からなる織編布、不織布等の種々の素材の布を使用することができる。また、表衿布30と裏衿布31とは、同素材の布を用いることが好ましい。芯地としては、しなやかで、かつ適度な張りとコシを有し、布と接着可能な芯地であれば特に制限はなく、基布としては、加工糸織物や複合糸織物などの織物や、編物、不織布等を使用することができる。また、芯地の接着剤の素材にも制限はなく、ポリアミドやポリエステル、ポリエチレン等の種々の素材の接着剤を使用することができる。
【0016】
また、衿20の形状、つまり、衿20をなす表衿布30及び裏衿布31の形状については特に制限はなく、本実施形態のように衿垂れ部26の下端である底部28の左右両側に角隅部29を備えた形状にするほか、角隅部29に丸みをもたせた曲線形状としてもよい。また、衿先部24の長さや形状、肩部21の肩幅の長さや形状等についても、本願発明の目的を逸脱しない範囲において適宜調整すればよい。図4に、衿20の形状の一例として、裏芯地33として部分芯地35を取り付けた裏衿布31を裏面側からみた説明図を示す。
【0017】
表芯地32又は裏芯地33を接着して取り付けられた表衿布30と裏衿布31は、それぞれ接着して取り付けられた表芯地32と裏芯地33とが内側になるよう重ね合わせて、その周囲を縫着することによって衿20を形成し、この衿20を前身頃11と後身頃12との間の首挿入穴13の周囲に沿うようにして取り付ける。より詳しくは、衿先部24の内側の側部25と肩部21の衿ぐり22を、前身頃11と後身頃12との間の首挿入穴13の周囲に沿うようにして取り付ける。衿20の両身頃11,12への取り付け方法には特に制限はなく、縫製によって取り付けてもよいし、衿20または首挿入穴13の周囲の何れか一方にボタンを備え、衿20または首挿入穴13の周囲の何れか他方にボタンホールを備えて、ボタンをボタンホールに係合することによって取り付けてもよい。
【0018】
上述のように、表衿布30の内面に表芯地32として衿20の実質的に全体に渡って全面芯地34が接着して取り付けられ、かつ裏衿布31の内面に裏芯地33として衿先部24以外の肩部21と衿垂れ部26の双方に渡って部分芯地35が接着して取り付けられたことにより、衿20の肩部21及び衿垂れ部26は表芯地32と裏芯地33とが二重に取り付けられ、衿20に適度な張りとコシを与える。肩部21については、衿ぐり22の自重によるたるみを防止し、衿20を後身頃12に向かって折り返す際の衿折れ線23を設計上の衿折れ線と同位置に保持することができる。また、衿ぐり22周囲のしわを防止することができる。よって、衿折れ線23が安定するとともに、衿20の自重による肩先15や背中上部への負担が軽減されることにより、肩部21の保型性を維持し、より軽い着用感を与えるとともに着用時に美しいシルエットを実現することができる。
【0019】
また、衿垂れ部26については、上述した肩部21の保型性の効果に加え、衿垂れ部26の側部27や底部28の波打ちとしてみられるしわやたるみの発生を抑制することができる。さらに、裏芯地33として裏衿布31の内面に取り付けた部分芯地35のうち、衿垂れ部26下端である底部28の左右両側に位置する角隅部29には、部分芯地35を取り付けず表芯地32として表衿布30に全面芯地34のみを取り付けることによって、全面芯地34と部分芯地35とを共に取り付けることで生じると考えうる衿垂れ部26の角隅部29の外方向への反り返りを防止することができる。よって、衿垂れ部26の保型性を維持し、着用時に美しいシルエットを実現することができる。
【0020】
衿先部24については、裏芯地33としての部分芯地35を配設せず表芯地32としての全面芯地34のみを配設することによって、衿先部24の自然な衿20の返りを妨げないよう適度なしなやかさを保持している。
【0021】
さらに衿20全体としては、衿20の肩部21及び衿垂れ部26に表芯地32と裏芯地33とを配設することにより、縫製加工性の安定を図るともに、パッカリング(生地のゆがみ)の発生を抑制することができる。
【0022】
上述の衿20を備えたセーラー服10は、長期間の着用やハンガーによる懸架等による保管、繰り返しの洗濯によっても衿ぐり22のたるみや衿20の型崩れを防止することができる。よって、長期にわたり衿20全体の保型性を維持し、心地よい着用感と着用時に美しいシルエットを実現することができるセーラー服10を提供することができたものである。
【実施例】
【0023】
以下、実施例に基づき本願発明を詳細に説明する。
【0024】
(実施例1〜実施例2)
実施例1及び実施例2として、図2(A)及び図2(B)に示す表衿布30及び裏衿布31を用いて形成した衿20(実施例2)、及びその衿20を備えたセーラー服10(実施例1)を作製した。セーラー服10の素材は、前身頃11、後身頃12、衿20、袖40ともに、ウール50%/ポリエステル50%の混紡糸によるカシミヤ織素材を使用した。衿20に使用した芯地は、基布がポリエステル100%で、坪量が59g/m2の加工糸織物芯地を使用した。前身頃11、後身頃12、袖40については、通常の縫製を施した。衿20は、表芯地32として全面芯地34を接着して取り付けた表衿布30と、裏芯地33として肩部21と衿垂れ部26の双方に渡る部分芯地35を接着して取り付けた裏衿布31とを、それぞれ取り付けられた表芯地32と裏芯地33とが内側になるよう重ね合わせて、首挿入穴13の周囲に取り付けられる衿先部24の内側の側部25と肩部21の衿ぐり22を除いた表衿布30と裏衿布31との周囲を縫着することによって形成し、本願発明に係るセーラー服10の衿20を得た。さらに、この衿20を前身頃11と後身頃12との間の首挿入穴13の周囲に沿うようにして取り付け、本願発明に係るセーラー服10を得た。なお、裏衿布31に接着して取り付けた部分芯地35のうち、衿垂れ部26下端である底部28の左右両側に位置し、その左右両側にある衿垂れ部26の側部27と底部28とによって直線同士の角をなす角隅部29には部分芯地35を取り付けなかった。部分芯地35が取り付けられなかった衿垂れ部26の角隅部29の大きさは、一辺が10cmの二等辺三角形の大きさとなるようにした。また、衿20における衿先部24の範囲としては、衿みつ22bから衿先点24aまでの距離Cを5cmとし、衿みつ22bから衿ぐり中心22aまでの距離Sを2cmとした。実施例1及び実施例2のセーラー服10の衿20の質量は、70.4gであった。
【0025】
(比較例1〜比較例2)
実施例1及び実施例2の比較のために、図2(B)に示す裏衿布31に裏芯地33として部分芯地35を取り付けず、図2(A)に示す表衿布30にのみ表芯地32として全面芯地34を接着して取り付けて形成した衿20(比較例2)、及びその衿20を備えたセーラー服10(比較例1)を作製した。セーラー服10の素材は、ウール50%/ポリエステル50%の混紡糸によるカシミヤ織素材を使用し、衿20に使用した芯地は、基布がポリエステル100%で、坪量が47g/m2の加工糸織物芯地を使用した。前身頃11、後身頃12、袖40の縫製や衿20の縫製、衿20の取り付けは実施例1と同様の方法によりセーラー服10の衿20とセーラー服10を作製した。得られた実施例1〜実施例2及び比較例1〜比較例2を、下記に示す方法により、保管性及び耐洗濯性について評価した。比較例1及び比較例2のセーラー服10の衿20の質量は、64.9gであった。
【0026】
(評価方法)
(1)保管性
実施例1、比較例1のセーラー服10を、それぞれ10日間ハンガーに懸架する保管テストを行い、セーラー服10の衿ぐり22のたるみやしわ、衿垂れ部26の波打ち、パッカリングの有無、及びそれらの程度について、目視にて評価した。実施例1及び比較例1の保管テスト後の写真又は図を、図5〜図8に示す。
(2)耐洗濯性
JIS L0217 105法を参考にして、実施例2、比較例2のセーラー服10の衿20を、それぞれ家庭用自動洗濯機による水洗い洗濯、吊り干しによる乾燥を連続して10回行う洗濯テストを行い、衿垂れ部26の波打ちの程度について、目視にて評価した。実施例2及び比較例2の洗濯テスト後の写真を図9〜図10に示す。
【0027】
まず、保管テストにおける衿ぐり22のたるみやしわについて評価した。図5(A)に示すように、実施例1は、テスト終了後であっても衿ぐり22が自重によって垂れ下がることなく、実施例1の衿折れ線23は設計上の衿折れ線と同じ位置を保っている。また、衿ぐり22の収まりが良く、衿ぐり22周囲にしわの発生が確認できなかった。一方、図5(B)に示すように、比較例1は、実施例1と比較して、衿20が軽いにも関わらず衿ぐり22が自重により垂れ下がり、かつ衿ぐり22周囲にしわの発生が確認された。よって、実施例1において、衿ぐり22を含む肩部21の保型性を確認することができた。さらに、図6(A)及び図6(B)に、比較例1において作製されたセーラー服10の自重による衿ぐり54のたるみを示す説明図を示す。図6(A)及び図6(B)における二点鎖線は、設計上の衿ぐり50及び衿折れ線51の位置を含む設計上の衿の位置を示している。図6(A)に示すように、比較例1においては、衿ぐり54が自重によって垂れ下がることによって、比較例1の衿折れ線55も下がり、設計上の衿折れ線51の位置を保つことができない。また、図6(A)及び図6(B)に示すように、比較例1の衿の位置(例えば、衿垂れ部26の側部56や底部57)は設計上の衿の位置(同じく衿垂れ部26の側部52や底部53)に収まらず外回りが不足するため、設計上の衿垂れ部26の側部52や底部53と比較して、比較例1の衿垂れ部26の側部56や底部57はより外側に位置している。よって、実施例1と比較して肩先15から背中上部、特に肩先15にかかる衿20の比重が大きく、着用感を低下させることが分かった。
【0028】
次に、保管テストにおける衿垂れ部26の波打ちや反り、パッカリングについて評価した。図7(A)に示すように、実施例1は、テスト終了後であっても衿垂れ部26の表衿布30側の側部27及び底部28ともに波打ちが確認されず、直線的で安定していた。また、衿垂れ部26の下端である底部28の左右両側に位置する角隅部29おいては、反り返りが確認されなかった。一方、図7(B)に示すように、比較例1は、実施例1と比較して、衿垂れ部26の側部27及び底部28ともに若干の波打ちが確認された。また、衿垂れ部26の角隅部29においては、内方向への若干の反り返りが確認された。さらに、図8(A)及び図8(B)は、裏衿布31側の底部28からの実施例1と比較例1の写真であり、図8(B)において楕円で示した箇所に、縫製によるパッカリング(生地のゆがみ)に関する有意差が目視によって確認された。詳しくは、比較例1の衿垂れ部26の裏衿布31側の底部28には、実施例1の衿垂れ部26の底部28には確認されなかった縫製によるパッカリング(生地のゆがみ)が確認されたものである。なお、図8の写真では一見すると顕著な差異が表現されていないが、実際には、表裏の衿布30、31の間の縫い目付近(上の方の楕円)や、表衿布30にライン用のテープを縫い付けるための縫い目付近(下の方の楕円)にパッカリングに関して、実施例1と比較例1には明確な差異が目視によって確認された。
【0029】
次に、洗濯テストにおける衿垂れ部26の波打ちについて評価した。今日の繊維製品の技術水準にあっては、洗濯によって何からの波打ちは発生するため、波打ちの多少や波の大きさ等の程度を評価した。図9(B)に示すように、比較例2は、衿垂れ部26全体、つまり衿垂れ部26の側部27及び底部28ともに波打ちが確認された。一方、図9(A)に示すように、実施例2は、衿垂れ部26の奥側の側部27(図9(A)においては上側)に波打ちが、衿垂れ部26の底部28に若干の波打ちが確認された。しかしながら、比較例2と比較して、全体的に浪の数が少ない上に波の大きさは小さく、衿垂れ部26の手前側の側部27(図9(A)においては下側)と底部28は直線的で安定していた。
また、図10(A)及び図10(B)に示すように、実施例2、比較例2ともに衿垂れ部26の底部28に波打ちが確認されたが、比較例2は、衿垂れ部26の底部28全体に実施例2と比較して大きな波打ちが確認されたが、実施例2は衿垂れ部26の底部28の一部に若干小さな波打ちが確認されたのみで、比較的直線的で安定していた。よって、実施例2において、衿垂れ部26の保型性が改善されていることが確認することができた。
【0030】
上記の保管性及び耐洗濯性の評価結果により、本願発明の実施例1〜実施例2においては、保管時や洗濯時における衿20全体の保型性に優れ、波打ちとしてみられるしわやたるみ、パッカリング(生地のゆがみ)の発生を抑制することができた。なお、上記の実施例ではカシミヤ織の布地を用いたが、サージ織に代表される他のセーラー服用生地を用いることも可能である。本願発明は、実施例によって限定して理解されるべきではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で種々変更して実施可能である。
【符号の説明】
【0031】
10 セーラー服
11 前身頃
12 後身頃
13 首挿入穴
20 衿
21 肩部
22 衿ぐり
24 衿先部
26 衿垂れ部
27 側部
28 底部
29 角隅部
30 表衿布
31 裏衿布
32 表芯地
33 裏芯地
34 全面芯地
35 部分芯地
50 (設計上の)衿ぐり
54 (比較例1の)衿ぐり
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃と、後身頃と、上記前身頃と上記後身頃との間の首挿入穴の周囲に沿わされて取り付けられた衿とを備え、
上記衿は、上記前身頃と上記後身頃とに渡って衿ぐりを含む位置に配設される肩部と、上記肩部から上記前身頃の左右前面に配設される衿先部と、上記肩部から上記後身頃に垂下される衿垂れ部とを備えたセーラー服において、
上記衿は、表衿布と裏衿布とがその周囲において縫着されたものであり、
上記表衿布は、その内面に表芯地を備え、
上記裏衿布は、その内面に裏芯地を備え、
上記表芯地と裏芯地とのいずれか一方は、上記衿の実質的に全体に渡って配設された全面芯地であり、
上記表芯地と裏芯地とのいずれか他方は、上記衿の肩部と上記衿垂れ部の双方に渡って配設されると共に上記衿先部には配設されない部分芯地であることを特徴とするセーラー服。
【請求項2】
上記衿垂れ部は下端の左右両側が直線同士の角になった角隅であり、上記部分芯地は左右の上記両角隅の部分には配設されていないことを特徴とする請求項1記載のセーラー服。
【請求項1】
前身頃と、後身頃と、上記前身頃と上記後身頃との間の首挿入穴の周囲に沿わされて取り付けられた衿とを備え、
上記衿は、上記前身頃と上記後身頃とに渡って衿ぐりを含む位置に配設される肩部と、上記肩部から上記前身頃の左右前面に配設される衿先部と、上記肩部から上記後身頃に垂下される衿垂れ部とを備えたセーラー服において、
上記衿は、表衿布と裏衿布とがその周囲において縫着されたものであり、
上記表衿布は、その内面に表芯地を備え、
上記裏衿布は、その内面に裏芯地を備え、
上記表芯地と裏芯地とのいずれか一方は、上記衿の実質的に全体に渡って配設された全面芯地であり、
上記表芯地と裏芯地とのいずれか他方は、上記衿の肩部と上記衿垂れ部の双方に渡って配設されると共に上記衿先部には配設されない部分芯地であることを特徴とするセーラー服。
【請求項2】
上記衿垂れ部は下端の左右両側が直線同士の角になった角隅であり、上記部分芯地は左右の上記両角隅の部分には配設されていないことを特徴とする請求項1記載のセーラー服。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−77410(P2012−77410A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223483(P2010−223483)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(395004977)株式会社トンボ (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(395004977)株式会社トンボ (5)
【Fターム(参考)】
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