説明

ゼオライトの製造方法及びε−カプロラクタムの製造方法

【課題】触媒活性及び触媒寿命の点で優れるゼオライトを製造する方法を提供し、こうして得られたゼオライトを触媒として用いて、ε−カプロラクタムを長期間に渡り高収率で製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】ケイ素化合物の水熱合成反応により得られた結晶を焼成した後、アンモニア及び/又はアンモニウム塩を含む水溶液で接触処理し、次いで、500〜700℃で熱処理することにより、ゼオライトを製造する。こうして製造されたゼオライトを触媒として用い、この触媒の存在下にシクロヘキサノンを気相にてベックマン転位反応させることにより、ε−カプロラクタムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライトを製造する方法に関するものである。また本発明は、ゼオライトを触媒として用いて、シクロヘキサノンオキシムからε−カプロラクタムを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ε−カプロラクタムの製造方法の1つとして、固体触媒としてゼオライトを使用し、該ゼオライトの存在下、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させる方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。かかるゼオライトの製造方法として、例えば、特開平5−170732号公報(特許文献3)には、ケイ素化合物の水熱合成反応により得られた結晶を、焼成した後、アンモニア、低級アルキルアミン、アリルアミン及び水酸化アルキルアンモニウムから選ばれる塩基性物質とアンモニウム塩の水溶液、又はアンモニア水で接触処理する方法が提案されている。また、特開2004−75518号公報(特許文献4)には、ケイ素化合物の水熱合成反応により得られた結晶を、焼成した後、4級アンモニウム塩とアンモニアの水溶液で接触処理する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−250866号公報
【特許文献2】特開平2−275850号公報
【特許文献3】特開平5−170732号公報
【特許文献4】特開2004−75518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の方法では、必ずしも触媒活性や触媒寿命の点で満足できないことがあった。そこで、本発明の目的は、触媒活性及び触媒寿命の点で優れるゼオライトを製造する方法を提供することにある。また本発明のもう1つの目的は、こうして得られたゼオライトを触媒として用いて、シクロヘキサノンオキシムを高転化率で反応させて、長期間にわたり生産性良くε−カプロラクタムを製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、ケイ素化合物の水熱合成反応により得られた結晶を焼成した後、アンモニア及び/又はアンモニウム塩を含む水溶液で接触処理し、次いで、500〜700℃で熱処理することを特徴とするゼオライトの製造方法を提供するものである。
【0007】
また、本発明によれば、前記方法により製造されたゼオライトの存在下に、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させることによるε−カプロラクタムの製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた触媒活性及び触媒寿命を有するゼオライトを製造することができ、こうして得られたゼオライトを触媒として、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させることにより、シクロヘキサノンオキシムを高転化率で反応させることができ、長期間にわたり生産性良くε−カプロラクタムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明が製造の対象とするゼオライトは、その骨格を構成する元素としてケイ素及び酸素を含むものであり、実質的にケイ素と酸素から骨格が構成される結晶性シリカであってもよいし、骨格を構成する元素としてさらに他の元素を含む結晶性メタロシリケート等であってもよい。メタロシリケート等の場合、ケイ素および酸素以外に存在しうる元素としては、例えば、Be、B、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Sb、La、Hf、Bi等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上が含まれていてもよい。
【0010】
前記ゼオライトとしては、種々の構造のものが知られているが、中でもペンタシル型構造を有するものが好ましく、特にMFI構造を有するものが好ましい。
【0011】
ケイ素化合物の水熱合成反応は、公知の方法を適宜採用することができるが、中でも、ケイ素化合物を水及び水酸化テトラアルキルアンモニウムと混合し、この混合液を熱処理する処方が、好適に採用される。ケイ素化合物としては、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラプロピル、オルトケイ酸テトラブチルのようなオルトケイ酸テトラアルキルが好ましく用いられる。水酸化テトラアルキルアンモニウムは、鋳型剤ないし塩基として作用しうるものであり、水酸化テトラメチルアンモニウムや水酸化テトラプロピルアンモニウムが好ましく用いられる。
【0012】
前記混合液を調製する際には、必要に応じてケイ素化合物、水及び水酸化テトラアルキルアンモニウム以外の成分を混合原料として用いてもよい。例えば、混合液中の水酸化物イオン濃度を調整するために、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような塩基性化合物を混合してもよい。また、混合液中のテトラアルキルアンモニウムイオン濃度を調整するために、臭化テトラアルキルアンモニウムのようなテトラアルキルアンモニウム塩を混合してもよい。
【0013】
前記混合液中、ケイ素に対する水のモル比は、通常5〜100、好ましくは10〜60に調整され、ケイ素に対するテトラアルキルアンモニウムイオンのモル比は、通常0.1〜0.6、好ましくは0.2〜0.5に調整され、ケイ素に対する水酸化物イオンのモル比は、通常0.1〜0.6、好ましくは0.2〜0.5に調整される。また、先に例示したケイ素及び酸素以外の元素を含む化合物を混合する場合には、前記混合液中、これら元素に対するケイ素のモル比は、好ましくは5以上、さらに好ましくは500以上に調整される。
【0014】
前記混合液を水熱合成反応に付する際の熱処理温度は、通常80〜160℃であり、また熱処理時間は、通常1〜200時間である。
【0015】
前記の水熱合成反応により得られる反応混合物から、濃縮、ろ過等により結晶を分離し、この結晶を必要に応じて乾燥等の処理に付した後、焼成する。この焼成は、通常、酸素含有ガス雰囲気下、例えば、空気雰囲気下や空気と窒素との混合ガス雰囲気下に、400〜600℃の温度で好適に行われる。また、この酸素含有ガス雰囲気下の焼成の前ないし後に、窒素等の不活性ガス雰囲気下での焼成を行ってもよい。
【0016】
前記焼成後の結晶に対し、アンモニア及び/又はアンモニウム塩を含む水溶液による接触処理を行う。ここで用いられるアンモニウム塩は、アンモニアの塩であり、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。なお、この水溶液による接触処理の前に前記焼成後の結晶に対して、必要に応じて他の処理を施しておいてもよく、例えば、200℃以下で水又は水蒸気による接触処理を行うことにより、結晶の強度を向上させることができる。
【0017】
前記水溶液に含まれるアンモニア及び/又はアンモニウム塩の濃度は、水溶液のpHが通常9以上、好ましくは9〜13となるように調整するのがよい。また、前記水溶液には、必要に応じてアンモニア及びアンモニウム塩以外の成分が含まれていてもよく、例えば、アミンや4級アンモニウム化合物を添加してもよい。
【0018】
前記アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンのようなアルキルアミン類や、モノアリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミンのようなアリルアミン類等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0019】
前記4級アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、n−プロピルトリメチルアンモニウム、テトラ−n−プロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、4,4’−トリメチレンビス(ジメチルピペリジウム)、ベンジルトリメチルアンモニウム、ジベンジルジメチルアンモニウム、1,1’−ブチレンビス(4−アザ−1−アゾニアビシクロ[2,2,2]オクタン)、トリメチルアダマンチルアンモニウムのような各種4級アンモニウムのハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。中でも、臭化テトラ−n−プロピルアンモニウムのようなハロゲン化4級アンモニウムが好ましい。
【0020】
前記水溶液による接触処理は、回分式で行ってもよいし、連続式で行ってもよく、例えば、攪拌槽中で結晶を前記水溶液に浸漬して攪拌してもよいし、結晶を充填した管状容器に前記水溶液を流通させてもよい。
【0021】
前記水溶液による接触処理の温度は、通常50〜250℃、好ましくは50〜200℃、さらに好ましくは60〜150℃であり、接触処理の時間は通常0.1〜10時間である。また、前記水溶液の使用量は、結晶100重量部に対して通常100〜5000重量部である。
【0022】
前記水溶液による接触処理後の結晶は、必要に応じて水洗、乾燥等の処理に付される。なお、前記水溶液による接触処理は、必要に応じて複数回行ってもよい。
【0023】
前記水溶液による接触処理後の結晶に対し、500〜700℃で熱処理を行う。該熱処理の温度は、通常500〜700℃、好ましくは525〜675℃、さらに好ましくは550〜650℃であり、熱処理の時間は通常0.1〜100時間である。
【0024】
前記熱処理は、酸素含有ガスの雰囲気下で行ってもよいし、窒素等の不活性ガスの雰囲気下で行ってもよい。また、該熱処理は、酸素含有ガス又は不活性ガスの雰囲気下、多段階で行ってもよい。
【0025】
前記熱処理に酸素含有ガスを用いる場合、酸素源としては、通常、空気や純酸素が用いられ、必要に応じて不活性ガスで希釈される。酸素含有ガスとしては、中でも、空気が好ましい。酸素含有ガス雰囲気下で行う焼成は、通常、酸素含有ガスの気流下で行われる。
【0026】
前記熱処理に用いられる不活性ガスは、例えば、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。不活性ガスとしては、中でも、窒素が好ましい。不活性ガス雰囲気下で行う焼成は、通常、不活性ガスの気流下で行われる。
【0027】
前記熱処理は、水蒸気を含有するガス雰囲気下で行うのが好ましい。水蒸気を含有するガス中の水蒸気濃度は、通常0.05〜100体積%、好ましくは0.5〜30体積%、さらに好ましくは2.0〜20体積%、最も好ましくは3.0〜10体積%である。該水蒸気を含有するガスに含まれうる水蒸気以外の成分としては、前記酸素含有ガスや前記不活性ガスが挙げられる。また、水蒸気の使用量は、結晶100重量部に対して通常0.1〜10000重量部、好ましくは1.0〜1000重量部、さらに好ましくは10〜100重量部である。
【0028】
前記熱処理は、流動層式で行ってもよいし、固定床式で行ってもよく、例えば、結晶を充填した管状容器に前記酸素含有ガス、不活性ガス及び水蒸気を含有するガスの少なくとも一つを流通させて行うことができる。
【0029】
本発明のゼオライトは、有機合成反応用触媒をはじめ各種用途に用いることができるが、中でも、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させることによりε−カプロラクタムを製造する際の触媒として、好適に用いることができる。
【0030】
前記触媒としてのゼオライトは、使用する反応器等に合わせて、成形して使用することができる。成形方法としては、例えば、固体を圧縮して成形する方法や、スラリーを噴霧して乾燥する方法等が挙げられる。また、成形した触媒は、例えば、200℃以下で水又は水蒸気による接触処理を行うことにより、強度を向上させることができる。また、この触媒は、実質的にゼオライトのみからなるものであってもよいし、ゼオライトを担体に担持したものであってもよい。
【0031】
ベックマン転位の反応条件は、反応温度が通常250〜500℃、好ましくは300〜450℃であり、反応圧力が通常0.005〜0.5MPa、好ましくは0.005〜0.2MPaである。この反応は、固定床形式で行ってもよいし、流動床形式で行ってもよく、原料のシクロヘキサノンオキシムの供給速度は、触媒1kgあたりの供給速度(kg/h)、すなわち空間速度WHSV(h−1)として、通常0.1〜20h−1、好ましくは0.2〜10h−1である。
【0032】
シクロヘキサノンオキシムは、例えば、単独で反応系内に導入してもよいし、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスと共に導入してもよい。また、特開平2−250866号公報に記載の如きエーテルを共存させる方法、特開平2−275850号公報に記載の如き低級アルコールを共存させる方法、特開平5−201965号公報に記載の如きアルコール及び/又はエーテルと水を共存させる方法、特開平5−201966号公報に記載の如きアンモニアを共存させる方法、特開平6−107627号公報に記載の如きメチルアミンを共存させる方法等も有効である。
【0033】
また前記反応は、触媒を空気等の酸素含有ガス雰囲気下に焼成する操作と組み合わせて実施してもよく、この触媒焼成処理により、触媒上に析出した炭素質物質を燃焼除去することができ、シクロヘキサノンオキシムの転化率やε−カプロラクタムの選択率の持続性を高めることができる。例えば、反応を固定床式で行う場合には、固体触媒を充填した固定床式反応器に、シクロヘキサノンオキシムを必要に応じて他の成分と共に供給して反応を行った後、シクロヘキサノンオキシムの供給を止め、次いで、酸素含有ガスを供給して焼成を行い、さらに、これら反応及び焼成を繰り返す処方が、好適に採用される。また、反応を流動床式で行う場合には、固体触媒が流動した流動床式反応器に、シクロヘキサノンオキシムを必要に応じて他の成分と共に供給して反応を行いながら、該反応器から固体触媒を連続的又は断続的に抜き出し、焼成器で焼成してから再び反応器に戻す処方が、好適に採用される。
【0034】
なお、前記反応により得られた反応混合物の後処理操作としては、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、反応生成ガスを冷却して凝縮させた後、抽出、蒸留、晶析等の操作を行うことにより、ε−カプロラクタムを分離することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、シクロヘキサノンオキシムの空間速度WHSV(h−1)は、シクロヘキサノンオキシムの供給速度(g/h)を触媒重量(g)で除することにより算出した。また、シクロヘキサノンオキシム及びε−カプロラクタムの分析はガスクロマトグラフィーにより行い、シクロヘキサノンオキシムの転化率及びε−カプロラクタムの選択率は、供給したシクロヘキサノンオキシムのモル数をX、未反応のシクロヘキサノンオキシムのモル数をY、生成したε−カプロラクタムのモル数をZとして、それぞれ以下の式により算出した。
【0036】
・シクロヘキサノンオキシムの転化率(%)=[(X−Y)/X]×100
・ε−カプロラクタムの選択率(%)=[Z/(X−Y)]×100
【0037】
実施例1
(a)ゼオライトの製造
[水熱合成(1)]
ステンレス製オートクレーブに、オルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]100重量部、40重量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液57.4重量部、48重量%水酸化カリウム水溶液0.36重量部、及び水279重量部を入れ、室温にて120分間激しく攪拌した後、105℃にて36時間攪拌し、水熱合成反応を行った。得られた反応混合物をろ過し、濾残を洗液のpHが9付近になるまでイオン交換水で連続的に洗浄した後、110℃にて乾燥し、結晶を得た。
【0038】
[焼成(1)]
前記[水熱合成(1)]で得られた結晶を、530℃にて1時間窒素流通下に焼成した後、530℃にて1時間空気流通下に焼成し、粉末状白色結晶を得た。この粉末状白色結晶は、粉末X線回折で分析した結果、MFIゼオライトと同定された。
【0039】
[水溶液による接触処理(1)]
前記[焼成(1)]で得られた結晶7.0重量部をオートクレーブに入れ、この中に、7.5重量%硝酸アンモニウム水溶液77重量部と25重量%アンモニア水溶液118重量部との混合液(pH=11.5)を加えて、90℃にて1時間攪拌した後、ろ過により結晶を分離した。この結晶に対し、前記と同様の硝酸アンモニウム水溶液とアンモニア水溶液との混合液による処理をさらに2回繰り返した後、水洗、乾燥を行った。
【0040】
[熱処理(1)]
前記[水溶液による接触処理(1)]で得られた結晶1.0gを、内径1.2cmの石英ガラス製反応管中に充填して触媒層を形成させ、3.7体積%の水蒸気を含有する空気を70ml/minの速度で流通させながら、室温から600℃まで3時間かけて昇温した後、600℃にて5時間保持した。こうして得られたゼオライトを、下記(b)で触媒として使用した。
【0041】
(b)ε−カプロラクタムの製造
前記(a)で得られたゼオライト0.375gを、内径1cmの石英ガラス製反応管中に充填して触媒層を形成させ、窒素4.2L/hの流通下、350℃にて1時間予熱処理した。次いで、窒素4.2L/hの流通下、触媒層の温度を327℃に下げた後、気化させたシクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.8(重量比)の混合物を8.4g/h(シクロヘキサノンオキシムのWHSV=8h−1)の供給速度で反応管に供給し、反応を行った。反応開始から5.5時間後〜5.75時間後の反応ガスを捕集し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.93%であり、ε−カプロラクタムの選択率は95.73%であった。
【0042】
実施例2
[熱処理(1)]において、室温から650℃まで3.5時間かけて昇温した後、650℃にて5時間保持した以外は、実施例1(a)と同様の操作を行った。得られたゼオライトを触媒に用いて、実施例1(b)と同様に反応を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.90%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.18%であった。
【0043】
比較例1
[熱処理(1)]において、室温から450℃まで2.25時間かけて昇温した後、450℃にて5時間保持した以外は、実施例1(a)と同様の操作を行った。得られたゼオライトを触媒に用いて、実施例1(b)と同様に反応を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.77%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.38%であった。
【0044】
比較例2
[熱処理(1)]において、室温から750℃まで4.25時間かけて昇温した後、750℃にて5時間保持した以外は、実施例1(a)と同様の操作を行った。得られたゼオライトを触媒に用いて、実施例1(b)と同様に反応を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.16%であり、ε−カプロラクタムの選択率は95.09%であった。
【0045】
比較例3
実施例1(a)において、[熱処理(1)]を省略した以外は、同様の操作を行った。得られたゼオライトを触媒に用いて、実施例1(b)と同様に反応を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.86%であり、ε−カプロラクタムの選択率は95.89%であった。
【0046】
比較例4
実施例1(a)において、[水溶液による接触処理(1)]を省略した以外は、同様の操作を行った。得られたゼオライトを触媒に用いて、実施例1(b)と同様に反応を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は8.16%であり、ε−カプロラクタムの選択率は9.34%であった。
【0047】
実施例1〜2、比較例1〜4の反応結果を表1にまとめる。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例3
(c)ゼオライトの製造
[水熱合成(2)]
実施例1(a)の[水熱合成(1)]と同様の操作を行い、結晶を得た。
【0050】
[焼成(2)]
前記[水熱合成(2)]で得られた結晶を、530℃にて1時間窒素流通下に焼成した後、530℃にて1時間空気流通下に焼成し、粉末状白色結晶を得た。この粉末状白色結晶は、粉末X線回折で分析した結果、MFIゼオライトと同定された。次いで、この粉末状白色結晶を、80℃の水蒸気で3時間接触処理した。
【0051】
[水溶液による接触処理(2)]
前記[焼成(2)]で得られた結晶8.8重量部をオートクレーブに入れ、この中に、7.5重量%硝酸アンモニウム水溶液96重量部、25重量%アンモニア水溶液147重量部及び臭化テトラ−n−プロピルアンモニウム0.003重量部との混合液(pH=11.5)を加えて、90℃にて1時間攪拌した後、ろ過により結晶を分離した。この結晶に対し、前記と同様の硝酸アンモニウム水溶液、アンモニア水溶液及び臭化テトラ−n−プロピルアンモニウムの混合液による処理をさらに2回繰り返した後、水洗、乾燥を行った。
【0052】
[熱処理(2)]
前記[水溶液による接触処理(2)]で得られた結晶2.0gを、内径1.2cmの石英ガラス製反応管中に充填して触媒層を形成させ、3.7体積%の水蒸気を含有する空気を70ml/minの速度で流通させながら、室温から600℃まで3時間かけて昇温した後、600℃にて5時間保持した。こうして得られたゼオライトを、下記(d)で触媒として使用した。
【0053】
(d)ε−カプロラクタムの製造
前記(c)で得られたゼオライト0.375gを、内径1cmの石英ガラス製反応管中に充填して触媒層を形成させ、窒素4.2L/hの流通下、350℃にて1時間予熱処理した。次いで、窒素4.2L/hの流通下、触媒層の温度を343℃に下げた後、気化させたシクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.8(重量比)の混合物を8.4g/h(シクロヘキサノンオキシムのWHSV=8h−1)の供給速度で反応管に供給し、反応を行った。反応開始から20時間後〜20.25時間後の反応ガスを捕集し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.98%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.73%であった。
【0054】
実施例4
[熱処理(2)]において、3.7体積%の水蒸気を含有する空気に代えて、乾燥空気(水蒸気濃度<500体積ppm)を使用した以外は、実施例3(c)と同様の操作を行った。得られたゼオライトを触媒に用いて、実施例3(d)と同様に反応を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.97%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.41%であった。
【0055】
比較例5
[熱処理(2)]において、室温から750℃まで4.25時間かけて昇温した後、750℃にて5時間保持した以外は、実施例3(c)と同様の操作を行った。得られたゼオライトを触媒に用いて、実施例3(d)と同様に反応を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は98.21%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.19%であった。
【0056】
比較例6
実施例3(c)において、[熱処理(2)]を省略した以外は、同様の操作を行った。得られたゼオライトを触媒に用いて、実施例3(d)と同様に反応を行った。シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.95%であり、ε−カプロラクタムの選択率は96.24%であった。
【0057】
実施例5
実施例3(c)で得られたゼオライト0.375gを、内径1cmの石英ガラス製反応管中に充填して触媒層を形成させ、窒素4.2L/hの流通下、350℃にて1時間予熱処理した。次いで、窒素4.2L/hの流通下、触媒層の温度を343℃に下げた後、気化させたシクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.8(重量比)の混合物を8.4g/h(シクロヘキサノンオキシムのWHSV=8h−1)の供給速度で反応管に供給し、10.25時間反応を行った。
【0058】
シクロヘキサノンオキシム/メタノール混合物の供給を停止し、窒素を空気に切り替え、空気5L/hの流通下、触媒層の温度を340℃から430℃に昇温した後、430℃にて20時間焼成処理した。その後、空気を窒素に切り替え、窒素4.2L/hの流通
下、触媒層の温度を343℃に調整した。
【0059】
以上の反応から焼成の一連の操作をさらに7回繰返し、合計8回の反応を行った。1回目、2回目、5回目、8回目の各反応において、反応開始後10〜10.25時間の間、反応ガスを捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析して求めたシクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を表2に示す。
【0060】
比較例7
実施例3(c)において、[熱処理(2)]を省略した以外は、同様の操作を行った。得られたゼオライトを触媒に用いて、実施例5と同様に反応から焼成の一連の操作を繰返し、合計8回の反応を行った。1回目、2回目、5回目、8回目の各反応において、反応開始後10〜10.25時間の間、反応ガスを捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析して求めたシクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を表2に示す。
比較例8
実施例1(a)において、[熱処理(1)]を省略した以外は、同様の操作を行った。得られたゼオライトを触媒に用いて、実施例5と同様に反応から焼成の一連の操作を繰返し、合計8回の反応を行った。1回目、2回目、5回目、8回目の各反応において、反応開始後10〜10.25時間の間、反応ガスを捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析して求めたシクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示すとおり、実施例5では、600℃で熱処理を施した触媒を使用することにより、反応から焼成の一連の操作を繰返しても、シクロヘキサノンオキシムの転化率を高く維持できることがわかる。これに対して、比較例7及び8では、熱処理を施さなかった触媒を使用し、反応から焼成の一連の操作を繰返すと、シクロヘキサノンオキシムの転化率の低下割合が実施例5に対して大きいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素化合物の水熱合成反応により得られた結晶を焼成した後、アンモニア及び/又はアンモニウム塩を含む水溶液で接触処理し、次いで、500〜700℃で熱処理することを特徴とするゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記熱処理を水蒸気を含有するガス雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ゼオライトがペンタシル型ゼオライトである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法によりゼオライトを製造し、このゼオライトの存在下に、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させることを特徴とするε−カプロラクタムの製造方法。

【公開番号】特開2011−153047(P2011−153047A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16536(P2010−16536)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】