説明

ゼオライト膜、分離膜、および成分分離方法

【課題】 分離性能に優れ、耐酸性を有するゼオライト膜およびこれを用いた分離膜を提供する。
【解決手段】2以上の異なる種類のゼオライト結晶が混在する層を有するゼオライト膜であって、前記2以上の異なる種類のゼオライト結晶は、いずれも(A)X線の出力を1.2kWとすること、(B)銅(Cu)のX線管球を用いること、(C)X線の波長を1.54058オングストロームとすること、を条件とするX線回折により得られるX線パターンにより検出されることを特徴とするゼオライト膜。または、ゼオライト結晶を含む第一の層と前記第一の層とは種類が異なるゼオライト結晶を含む第二の層を有するゼオライト膜であって、前記第一の層と前記第二の層は積層構造を形成し、前記積層構造の厚みは20μm以下であることを特徴とするゼオライト膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜、分離膜、および成分分離方法に関する。詳しくは、水分及び有機成分を含む混合成分から、有機成分を分離する性能に優れ、水分及び有機酸等に対する耐性に優れたゼオライト膜、分離膜、および成分分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは分子程度の大きさの細孔を有する結晶性アルミノケイ酸塩である。ゼオライトからなる膜は分子のサイズや形状の違いにより選択的に分子を通過させる性質を有するので、分子ふるいとして広く利用されている。なかでも水と有機溶剤等の分離膜としての用途が注目されている。
ゼオライトは、例えばA型(LTA)、Y型(FAU)、モルデナイト(MOR)、ベータ型(BEA)、ZSM−5(MFI)、ZSM−11(MEL)など種々の構造が存在する。なお、括弧内の表記は国際ゼオライト学会が規定した構造コードである。また、さらに製造条件により結晶の大きさ、形状が異なるため、これらを用いた分離膜の性能は極めて多様である。
【0003】
一般にゼオライトで形成された膜(ゼオライト膜)を分離膜として使用する場合、その性能は透過物質の透過流束Q(kg/m・時間)と分離係数αとにより表すことができる。ここで、分離係数とは、例えば分離対象となる有機物と水を分離する場合、分離前の水の濃度をA質量%、有機物の濃度をA質量%とし、膜を透過した液体又は気体中の水の濃度をB質量%、有機物の濃度をB質量%とすると、下記式:
α=(B/B)/(A/A
により表されるものである。分離係数αが大きいほど、分離膜の性能が良いことになる。
【0004】
例えば、MORは、一般に耐酸性が強く、有機酸を含む水溶液の分離膜として用いることができるが、非特許文献1に記載されるように、酢酸50重量%水溶液の分離において、流束Qが、0.7kg/m・時間であり、その水透過性は低い。また、非特許文献1、2に記載されるように、有機酸以外のイソプロピルアルコール90重量%水溶液の分離においても、流束Qが、それぞれ0.66kg/m・時間、0.26kg/m・時間と低い。
【0005】
一方、MFIの一般性能は、非特許文献2〜4に開示されている。例えば、非特許文献2に記載されるように、イソプロピルアルコール90重量%水溶液の分離において、流束Qが3.1kg/m・時間であり、MORより水透過性は高い。また、非特許文献3に記載されるように、酢酸50重量%水溶液の分離においても水透過性は3.96kg/m・時間と高い。しかしながらMFIの分離係数αは、MORより低く、また、酸に対する耐性が低いため、長期間使用する実用場面においては多くの課題があった。
【0006】
一方、2段階の水熱合成によりMORの単相とMFIの単相からなる2層構造を有するゼオライト膜が非特許文献5に開示されている。しかしながら、2段階の合成が必要な上、さらにテンプレート除去のための高温過熱プロセスが必要であり、工程が複雑な上、分離性能が必ずしも良好とはいえなかった。また、このゼオライト膜は基体に近いMFIの単相からなる層が触媒的に機能することを目的としており、本質的に分離性能を改善するという目的を有していない。そのため、分離性能改善という目的を達成するために必要である薄膜化の可能性は技術的にも極めて低い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gang Li, Eiichi Kikuchi, Masahiko Matsukata, ”Separation of water-acetic acid mixtures by pervaporation using a thin mordenite membrane”, Separation and Purification Technology 32 (2003) p.199-206
【非特許文献2】Gang Li, Eiichi Kikuchi, Masahiko Matsukata, ”The control of phase and orientation in zeolite membranes by the secondary growth method”, Microporous and Mesoporous Matereials 62 (2003) p.211-220
【非特許文献3】Gang Li, Eiichi Kikuchi, Masahiko Matsukata, ”ZMS-5 zeolite membranes prepared from a clear template-free solution”, Microporous and Mesoporous Matereials 60 (2003) p.225-235
【非特許文献4】Gang Li, Eiichi Kikuchi, Masahiko Matsukata,”A study on the pervaporation of water-acetic acid mixtures through ZMS-5 zeolite membranes”, Journal of Membrane Science 218 (2003) p.185-194
【非特許文献5】Oscar de la Iglesia, Silvia Irusta, Reyes Mallada, Miguel Menendez, Joaquin Coronas, Jesus Santamaria, ” Preparation and characterization of two-layered mordenite-ZSM-5 bi-functional membranes”, Microporous and Mesoporous Matereials 93 (2006) p.318-324
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、ゼオライトは、その構造や性能が多様であるが、ゼオライト分離膜としては、分離性能として、流束Qと分離係数αの両方に優れるものが求められていた。また、高い分離性能を有しつつ、さらに実用場面での耐酸性が付与されたゼオライト分離膜は、容易に想到、実現し得る性能ではなかった。
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、分離性能に優れ、耐水性、耐酸性を有するゼオライト膜およびこれを用いた分離膜を提供することにある。また、本発明の他の目的は、水分及び有機成分を含む混合成分から、有機成分を効率よく分離し、さらに有機成分が有機酸を含む場合にも適用可能な成分分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、2以上の異なる種類のゼオライトが混在する層を有するゼオライト膜を形成させることにより、耐水性、耐酸性と分離性能のいずれをも備えた高性能な分離膜が得られることを見出した。具体的には、MORとMFIを混合して比較的均質に結晶成長させたゼオライト膜を得ることにより、上記目的を達成することを見出した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、以下の〔1〕〜〔12〕に存する。
〔1〕2以上の異なる種類のゼオライト結晶が混在する層を有するゼオライト膜であって、
水10重量%およびイソプロピルアルコール90重量%の混合液の、前記混合液温75℃、大気圧条件下、浸透気化分離(パーベーパレーション)における、測定開始から45分後における分離係数αが、500以上であり、かつ
前記2以上の異なる種類のゼオライト結晶のうち、少なくとも2以上が下記条件(A)〜(C)におけるX線回折により得られるX線パターンにより検出されることを特徴とするゼオライト膜。
(A)X線の出力を1.2kWとすること
(B)銅(Cu)のX線管球を用いること
(C)X線の波長を1.54058オングストロームとすること
〔2〕ゼオライト結晶を含む第一の層と前記第一の層とは種類が異なるゼオライト結晶を
含む第二の層を有するゼオライト膜であって、
前記第一の層と前記第二の層は積層構造を形成し、
前記積層構造の厚みは20μm以下であることを特徴とするゼオライト膜。
〔3〕 銅(Cu)のX線管球を用いた、X線の波長が1.54058オングストロームの条件におけるX線回折により得られるX線パターンにおいて、
(i)ピークトップの位置(2θの値)が6.4°以上6.6°以下、9.6°以上9.9°以下、13.3°以上13.6°以下、13.7°以上13.9°以下、および22.1°以上22.4°以下のいずれか1以上の領域に存在し、かつ、
(ii)ピークトップの位置(2θの値)が7.7°以上8.0°以下、8.6°以上8.9°未満、8.9°以上9.1°以下、22.8°以上23.1°未満、23.1°以上23.3°以下、23.5°以上23.7°未満、および23.7°以上23.9°以下のいずれか1以上の領域に存在する前記〔1〕または〔2〕に記載のゼオライト膜。
〔4〕 MOR及びMFIの混在するゼオライト膜であって、下記(a)及び(b)の層が膜表層から膜内部に向かってこの順に積層されていることを特徴とするゼオライト膜。(a)実質的にMORのみからなる層
(b)MORおよびMFIを含む混合層
〔5〕 さらに、下記(c)の層を有し、(a)、(b)および(c)の層が膜表層から膜内部に向かってこの順に積層されている前記〔4〕に記載のゼオライト膜。
【0011】
(c)MOR、MFI、ならびに、金属、セラミックスおよび有機高分子のいずれか1以上を含む混合層
〔6〕 MOR及びMFIの混在するゼオライト膜であって、下記(a)及び(b’)の層が膜表層から膜内部に向かってこの順に積層される積層構造を有し、
前記積層構造の厚みは20μm以下であることを特徴とするゼオライト膜。
(a)実質的にMORのみからなる層
(b’)MFIを含む層
〔7〕 さらに、下記(c)の層を有し、(a)、(b’)および(c)の層が膜表層から膜内部に向かってこの順に積層されている前記〔6〕に記載のゼオライト膜。
【0012】
(c)MOR、MFI、ならびに、金属、セラミックスおよび有機高分子のいずれか1以上を含む混合層
〔8〕 前記〔1〕乃至〔7〕に記載のゼオライト膜を用いて形成された分離膜。
〔9〕 水30重量%および酢酸70重量%の混合液の、前記混合液温70℃、大気圧条件下、浸透気化分離(パーベーパーレーション)における、測定開始から45分後における透過流束Q(kg/m・時間)および分離係数αが、それぞれ下記式(1)および(2)で示され、かつ測定開始から45分後における透過流束Qに対する測定開始から375分後の透過流束Q375minの減少率が20%以下である前記〔8〕に記載の分離膜。
Q≧1 ・・・(1)
α≧400 ・・・(2)
〔10〕 水30重量%および酢酸70重量%の混合液の、前記混合液温70℃、大気圧条件下、浸透気化分離(パーベーパーレーション)における、測定開始から45分後における透過流束Q(kg/m・時間)および分離係数αが、それぞれ下記式(1)および(2)で示され、かつ測定開始から45分後における透過流束Qに対する測定開始から375分後の透過流束Q375minの減少率が20%以下であることを特徴とする分離膜。
Q≧1 ・・・(1)
α≧400 ・・・(2)
〔11〕 水分及び有機成分を含む混合成分から、前記有機成分の一部を分離する成分分離方法であって、前記〔8〕乃至〔10〕に記載の分離膜を用いることを特徴とする成分
分離方法。
〔12〕
前記有機成分が有機酸を含有する前記〔11〕に記載の成分分離方法。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、分離性能に優れ、耐水性、耐酸性を有するゼオライト膜およびこれを用いた分離膜を提供することができる。また、水分及び有機成分を含む混合成分から、有機成分を効率よく分離し、さらに有機成分が有機酸を含む場合にも適用可能な成分分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のゼオライト膜のX線回折により得られるX線パターンを示すチャートである。
【図2】本発明のゼオライト膜の膜構造の断面を示す模式図である。
【図3】図2の模式図と根拠となる深さ方向の情報を示すX線回折図である。
【図4】本発明のゼオライト膜の表面を走査型電子顕微鏡にて観察した写真である。
【図5】MOR型ゼオライト膜のX線回折により得られるX線パターンを示すチャートである。
【図6】本発明の分離膜の透過性能を評価する回分式パーベーパーレーション装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内であれば種々に変更して実施することができる。
[1]ゼオライト膜
前述の通り、本発明のゼオライト膜は、以下の少なくともいずれかの特徴を有する。
(I)2以上の異なる種類のゼオライト結晶が混在する層を有するゼオライト膜であって、前記2以上の異なる種類のゼオライト結晶のうち、少なくとも2以上が下記条件(A)〜(C)におけるX線回折により得られるX線パターンにより検出されることを特徴とするゼオライト膜(以下、「第一の本発明のゼオライト膜」と称することがある。)。
(A)出力1.2kWとすること
(B)銅(Cu)のX線管球を用いること
(C)X線の波長を1.54058オングストロームとすること
(II)ゼオライト結晶を含む第一の層と前記第一の層とは種類が異なるゼオライト結晶を含む第二の層を有するゼオライト膜であって、前記第一の層と前記第二の層は積層構造を形成し、前記積層構造の厚みは20μm以下であることを特徴とするゼオライト膜(以下、「第二の本発明のゼオライト膜」と称することがある。)。
以下、本発明のゼオライト膜について、2以上の異なる種類のゼオライトがMORとMFIである場合を例に挙げてさらに詳細に説明する。
本発明は必ずしもMORとMFIとの混合膜に限定されるものではない。しかしながら、MORは分離係数が高く耐酸性を有する一方、MFIは水透過性(透過流束)が高いので、それぞれの長所を補完し合うことができる点で、MORとMFIの混合膜は好ましい態様である。
【0016】
[1−1]X線回折により得られる膜全体からのX線パターン
第一の本発明のゼオライト膜は、前記条件(A)〜(C)の条件におけるX線回折により得られるX線パターンから、2以上の異なる種類のゼオライト結晶が検出されることを特徴とする。すなわち、本発明のゼオライト膜は、X線回折により検出される程度に2以上の異なる種類のゼオライト結晶が混在していることが特徴である。このようなゼオライト膜は2種類以上のゼオライトの性質を生かすことができるため、所望の課題を達成する
ことができる。
【0017】
このような本発明のゼオライト膜の一例として、
(i)ピークトップの位置(2θの値)が6.4°以上6.6°以下、9.6°以上9.9°以下、13.3°以上13.6°以下、13.7°以上13.9°以下、および22.1°以上22.4°以下のいずれか1以上の領域に存在し、かつ、
(ii)ピークトップの位置(2θの値)が7.7°以上8.0°以下、8.6°以上8.9°未満、8.9°以上9.1°以下、22.8°以上23.1°未満、23.1°以上23.3°以下、23.5°以上23.7°未満、および23.7°以上23.9°以下のいずれか1以上の領域に存在するものを挙げることができる。
【0018】
(i)のピークはMOR由来のものであり、(ii)のピークはMFI由来のものである。
本発明者が本発明のゼオライト膜をX線回折により分析したところ、図1の通りのパターンが得られた。即ち、ピークトップの位置(2θの値)がMOR結晶を示すX線パターンである、6.49°、9.74°、13.45°、13.84°、および22.29°の位置に確認された。また、MFI結晶を示すX線パターンである、7.86°、8.76°、9.02°、22.97°、23.20°、23.63°、および23.80°の位置にもピークが確認された。X線回折パターンは正確に測定され得るが、若干の測定誤差を想定すれば、上述の(i)および(ii)の領域にピークを有するものであるといえる。
【0019】
なお、非特許文献3には、X線回折でMFI相のみが観察されるゼオライト膜を合成した例において、走査型電子顕微鏡により、しばしば大粒の、MOR型ゼオライト結晶の観察が報告されている。そして非特許文献3はこれらの、しばしば大粒のMOR型ゼオライト結晶は、外来から付着したものであることが記載されている。即ち、MFIとMORが同時に観察される非特許文献3のゼオライト膜は、膜の内部からMORとMFIが混合して成長したものではなく、本発明と明らかに異なる構造を示している。また、このような場合、X線で観察されなかったのは大粒の結晶として散在しその量および量比が少ないため、上述のX線回折により得られるX線パターンには前記(i)のピークは確認されない。また、非特許文献3のゼオライト膜では耐酸性と分離性能の両方を備えた高性能な分離膜が得ることができない。
一方、本発明のゼオライト膜は、膜表面に限らず膜深部からMORとMFIが混合されて結晶成長させた膜であるといえる。
【0020】
[1−2]膜の微細構造
本発明のゼオライト膜の表面を走査型電子顕微鏡により観察すると、ゼオライト膜表面から観察される表面結晶の最大径がいずれも5μm以下であることが確認される。
ここで、最大径とは、走査型電子顕微鏡により観察した際に、ゼオライト膜表面に露出して観察される結晶粒の外郭の任意の2点を結んだ距離のうちの最大のものをいう。
なお、非特許文献3には、MORとMFIを混合して結晶成長させた実験例があり、走査型電子顕微鏡により両方の結晶が観察されることが記載されているが、最大径が5μmを超える大粒のMOR結晶が散在しており、かつX線回折によりモルデナイト相が観察されておらず、本発明と明らかに異なる構造を示している。
【0021】
さて、第二の本発明のゼオライト膜は、ゼオライト結晶を含む第一の層と前記第一の層とは種類が異なるゼオライト結晶を含む第二の層を有するゼオライト膜であって、前記第一の層と前記第二の層は積層構造を形成し、前記積層構造の厚みは20μm以下であることを特徴とする。前記積層構造においては、前記第一の層と前記第二の層以外にさらに別の層を有していてもよい。
すなわち、本発明のゼオライト膜は、2以上の異なる種類のゼオライト結晶層が積層構造を形成していることが特徴である。このようなゼオライト膜も前述の第1の本発明のゼ
オライト膜と同様に、2種類以上のゼオライトの性質を生かすことができるため、所望の課題を達成することができる。なお、2以上の異なる種類のゼオライト結晶層の積層構造は以下の態様が挙げられる。
【0022】
(i)第一の層が単一のゼオライトAからなり、第二の層が単一のゼオライトBからなるもの
(ii)第一の層が単一のゼオライトAからなり、第二の層は2種以上のゼオライト(ゼオライトAを含んでいてもよい)が混在するもの
(iii)第一の層が2種以上のゼオライト(ゼオライトAを含んでいてもよい)が混在するものであり、第二の層が単一のゼオライトAからなるもの
(iv)第一の層および第二の層が2種以上のゼオライトが混在するものであり、それぞれの層におけるゼオライト種の構成が一部または全部異なるもの
(v)第一の層および第二の層が2種以上のゼオライトが混在するものであり、それぞれの層におけるゼオライト種の構成は同じであるが、その構成比が異なるもの
【0023】
本発明者が製造した本発明のゼオライト膜を例に挙げて説明する。前述の通り、本発明のゼオライト膜は、膜全体としてみた場合、MORとMFIが混合されて結晶成長された膜であるが、その最表面は図2に示されるように実質的にMORのみからなる層を有する場合がある。ここで「実質的にMORのみからなる層」としたのは、MFIを含まないMORの単相層であることを意図したためであり、MOR以外の不純物を全く含まないという解釈を除く趣旨である。
【0024】
上述した本発明のゼオライト膜について、膜最表面から膜深部へ向かう深さ方向の膜の構成相を、微小角入射X線回折手法により、X線の入射角度を変えることで微細に調べた結果、図3に示すように、結晶成長させる支持体(例えばアルミナなどの多孔質基体など)の上にMORとMFIの混合相から成る層が成長し、さらに最表層としてMORの単相層を有することが確認された。
【0025】
即ち、図3のゼオライト膜は、(a)実質的にMORのみからなる層、(b)MORおよびMFIを含む混合層、および(c)MOR、MFIおよび支持体成分を含む混合層が、膜表層から膜内部に向かってこの順に積層されていることを特徴としている。
ここで、支持体成分は、本発明のゼオライト膜を結晶成長させるための材料が挙げられる。
【0026】
支持体成分の材料としては、(i)ステンレススチール、焼結されたニッケル又は焼結されたニッケルと鉄の混合物等の金属、(ii)ムライト、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物、金属窒化物を含むセラミックス、および(iii)テトラフルオロエチレンとパーフルオロスルホン酸のコポリマー(例えばナフィオン(登録商標))等の有機高分子が挙げられる。中でも、耐熱性・機械的強度の観点から、アルミナ、ステンレスを用いるのが好ましい。
【0027】
また、膜の成長条件により異なるが、ゼオライト膜の全体の厚みは、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下である。ゼオライト膜の厚みは薄いほど好ましいが、通常1μm以上である。
また、最表層のMORの単相層の厚みは、通常0.2μm以上、好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上であり、通常5μm以下、好ましくは3μm以下、更に好ましくは2μm以下である。最表層のMORの単相層が厚すぎると、透過抵抗が高くなり透過流束が低くなってしまうので好ましくない。
また、(b)MORおよびMFIを含む混合層、又は(b′)MFIを含む層の厚みは、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。透過抵抗を低くする観点から(b)又は(b′)の厚みは薄い程好ましいが、通常0.5μm以上である。
【0028】
本発明のゼオライト膜が耐酸性を有するのは、膜最表面に前記MORの単相層が存在することによるものと考えられる。そのような観点から、本発明のゼオライト膜は、(a)実質的にMORのみからなる層および(b’)MFIを含む層を有するものであることが好ましいが、(b’)に代えて(b)MORおよびMFIを含む混合層を含むものが好ましく、(c)MOR、MFIおよび支持体成分を含む混合層を含むものが更に好ましい。このような混合層を含むことにより、MORの単相、MFIの単相を積層させた場合に比べて材料特性がスムーズかつ連続的に漸移し不連続な境界を持たないので、膜全体としての機械的安定性の点で優れる。
また、本発明のゼオライト膜は、透過流束Qおよび分離係数αの観点で、分離性能が高いことが特徴である。本発明のゼオライト膜の分離性能の詳細は、[2]で後述する分離膜の特性と同様である。
【0029】
[2]分離膜
[2−1]特性
本発明の分離膜は、水30重量%および酢酸70重量%の混合液の、前記混合液温70℃、大気圧条件下、浸透気化分離(パーベーパーレーション)における、測定開始から45分後における透過流束Q(kg/m・時間)および分離係数αが、それぞれ下記式(1)および(2)で示され、かつ測定開始から45分後における透過流束Qに対する測定開始から375分後の透過流束Q375minの減少率が20%以下であることを特徴とする。
Q≧1 ・・・(1)
α≧400 ・・・(2)
【0030】
分離膜の性能は、上述のように透過物質の透過流束Qと分離係数αとにより表すことができる。本発明の分離膜における、水30重量%および酢酸70重量%の混合液の、前記混合液温70℃、大気圧条件下、浸透気化分離(パーベーパーレーション)における透過流束Qは、通常1kg/m・時間以上、好ましくは1.5kg/m・時間以上、更に好ましくは1.8kg/m・時間以上である。
【0031】
また、分離係数とは、前述の通り、分離係数とは、例えば分離対象となる有機物と水を分離する場合、分離前の水の濃度をA質量%、有機物の濃度をA質量%とし、膜を透過した液体又は気体中の水の濃度をB質量%、有機物の濃度をB質量%とすると、下記式:
α=(B/B)/(A/A
により表されるものである。分離係数αが大きいほど、分離膜の性能が良いことになる。
【0032】
本発明の分離膜においては、水30重量%および酢酸70重量%の混合液の、前記混合液温70℃、大気圧条件下、浸透気化分離(パーベーパーレーション)における測定開始から45分後における分離係数αは、通常400以上であり、好ましくは500以上であり、更に好ましくは600以上であり、特に好ましくは650以上である。
また、本発明の分離膜においては、水10重量%およびイソプロピルアルコール90重量%の混合液の、前記混合液温75℃、大気圧条件下、浸透気化分離(パーベーパーレーション)における測定開始から45分後における分離係数αは、通常500以上であり、好ましくは700以上であり、更に好ましくは1000以上であり、特に好ましくは3000以上である。
【0033】
また、本発明の分離膜において、測定開始から45分後における透過流束Qに対する測定開始から375分後の透過流束Q375minの減少率は、通常20%以下、好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下である。即ち、本発明の分離膜は耐酸性を付与しているため、長時間の酢酸分離においても膜の劣化が少なく、膜の透過性能が低下しにくいものとなっている。なお、測定開始から45分後における透過流束Qを基準としたのは、以下の理由による。即ち、測定開始直後の透過流束は、数値的に不安定である場合がある。そこで、測定開始から45分後以降の安定的な数値である透過流束を基準に採用した。本発明においては、具体的には、測定開始45分から50分間における透過流束の平均値をQとし、測定開始から375分後から50分間における透過流束の平均値をQ375minとしている。測定開始時は、通常、分離膜の性能を評価するパーベーパーレーション装置の作動時であり、実質的に分離膜が、水分及び有機成分を含む混合成分(水30重量%および酢酸70重量%の混合液)を分離する開始時点を示す。
本発明の上記分離膜としては、前述の本発明のゼオライト膜を用いて形成されるものが挙げられる。以下、本発明の分離膜の製造方法の一例について詳述する。
【0034】
[2−2]製造方法
本発明の分離膜は、通常、多孔質基体の表面にゼオライトの結晶を付着(担持)させ、水熱合成することによって得られる。以下、各工程について詳述する。
[2−2−1]種結晶の多孔質基体への付着
ゼオライトの合成反応に先立って、多孔質基体の表層(下地層)にゼオライトの種結晶を付着させる。ゼオライトの種結晶の平均径dsmと下地層の平均細孔径dtmとの関係が1/3≦dtm/dsm≦6を満足することが好ましく、より好ましくは1≦dtm/dsm≦4を満足することである。例えば種結晶の平均径dsmが0.3μmであり、下地層の平均細孔径dtmが0.6μmであると、dtm/dsmが2となり、上記の関係を満足する。上記の関係を満足することが好ましい理由は、最終的に成膜されるゼオライト膜の膜厚は下地層の平均細孔径dtmとゼオライト種結晶の平均径dsmとの関係で決まるからである。dtm/dsmが1/3より小さい場合、十分に連続的に結晶化したゼオライト膜が得られず、また、ゼオライト膜中のピンホールの発生率が増加して、その結果分離性能が低下する。また、dtm/dsmが6より大きい場合、下地層へのゼオライト種結晶の付着量が過度に増大し、その結果、例えばディッピング後の乾燥工程において種結晶中にクラックが生じ、ゼオライト膜成膜後のフィルター材の分離性能が低下する。
【0035】
(1)種結晶
ゼオライトの微細粒子を水に入れて混合し、撹拌してスラリーにする。本発明のゼオライト膜を得る際には、種結晶の組成、形状、大きさを適宜調整するのが好ましい。ゼオライトは、例えばMFI型ゼオライト結晶またはMOR型ゼオライト結晶とMFI型ゼオライト結晶の混合物を用いることができ、これを湿式粉砕法などで通常5μm以下、好ましくは1μm以下の粒径に粉砕する。
スラリー中に含まれる種結晶の濃度は、通常0.1重量以上、好ましくは0.5重量%以上であり、通常5重量%以下、好ましくは1.5重量%以下である。
例えば、ゼオライトの微細粒子(種結晶)の平均径dsmは、0.3μmであり、スラリー中に含まれる種結晶の濃度は0.5重量%であるのが好ましい。
【0036】
(2)多孔質基体
多孔質基体としては、通常ゼオライト分離膜に用いる種々のものを用いることができる。
多孔質基体の形状は特に限定されず、管状、平板状、ハニカム状、中空糸状、ペレット状等、種々の形状のものを使用できる。例えば管状の場合、多孔質基体の大きさは特に限定されないが、実用的には長さ2〜200cm程度、内径0.5〜2cm、厚さ0.5〜
4mm程度である。
また、多孔質基体は、単層からなるもの(いわゆる対称膜)、基層と下地層からなる2層構造の多孔質基体(いわゆる非対称膜)のいずれを用いてもよい。さらに3層以上の構造の多孔質基体を用いることも可能である。
【0037】
材料としては、通常セラミックス、有機高分子又は金属からなるのが好ましく、セラミックスからなるのがより好ましい。セラミックスとしては、ムライト、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア等が好ましい。有機高分子としては、テトラフルオロエチレンとパーフルオロスルホン酸のコポリマー(例えばナフィオン(登録商標))等が好ましい。
金属としてはステンレススチール、焼結されたニッケル又は焼結されたニッケルと鉄の混合物等が好ましい。
【0038】
(3)種結晶の付着
ゼオライトの種結晶を含むスラリーに多孔質基体をディッピングする。尚、前記スラリーを多孔質基体に付着させるには、多孔質基体の形状に応じてディップコート法、スプレーコート法、塗布法、濾過法等の方法を適宜選択する。多孔質基体とスラリーとの接触時間は0.5〜60分間が好ましく、1〜10分間がより好ましい。
MOR型ゼオライト結晶及びMFI型ゼオライト結晶の混合物を得る一例として、以下の方法を挙げることができる。即ち、種結晶スラリーの種結晶濃度を1%とし、円筒管状の支持体を垂直に種結晶スラリーに浸漬(ディップ)させる。浸漬時間を3分間程度とする。浸漬後、前記円筒管状の支持体を垂直に引き上げる。引き上げ速度は0.3cm/秒程度とする。
このような方法により付着する種結晶量は付着される種結晶が層を形成しない程度に少量であることが好ましい。
【0039】
種結晶を付着させた後、多孔質基体を乾燥させるのが好ましい。高温で乾燥させると、溶媒の蒸発が早く、種結晶粒子の凝集が多くなるため、均一な種結晶付着状態を壊してしまうおそれがあるので好ましくない。このため乾燥は70℃以下で行うのが好ましい。加熱時間を短くするため、室温乾燥と加熱乾燥を組み合わせて行うのがより好ましい。乾燥は多孔質基体が十分に乾燥するまで行えばよく、乾燥時間は特に限定されないが、通常2〜24時間程度で良い。
MOR型ゼオライト結晶及びMFI型ゼオライト結晶の混合物を得る一例として、以下の方法を挙げることができる。即ち、種結晶を表面に付着、担持させた多孔質支持体を垂直の状態にして、乾燥機内に設置する。乾燥機は36℃程度の設定で12〜18時間行う。
【0040】
[2−2−2]ゼオライトの合成反応
多孔質基体上でのゼオライト膜の合成は、水熱合成法、気相法等により行うことができる。以下水熱合成法を例にとって、ゼオライト膜の合成方法を説明するが、本発明はこの方法のみに限定されない。
【0041】
(1)原料
水熱反応の原料を水に加えて撹拌し、ゼオライト合成反応に使用する反応溶液又はスラリーを作製する。原料はアルミナ源及びシリカ源と、必要に応じてアルカリ金属源及び/又はアルカリ土類金属源である。アルミナ源としては、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等のアルミニウム塩の他、アルミナ粉末、コロイダルアルミナ等が挙げられる。シリカ源としては、ケイ酸ナトリウム、水ガラス、ケイ酸カリウム等のアルカリ金属ケイ酸塩の他、シリカ粉末、ケイ酸、コロイダルシリカ、ケイ素アルコキシド(アルミニウムイソプロポキシド等)等が挙げられる。アルカリ(土類)金属源としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カ
ルシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩は、シリカ源及びアルカリ金属源として兼用できる。
【0042】
シリカ源とアルミナ源のモル比(SiO/Alに換算)は、目的とするゼオライトの組成によって適宜決定する。本発明において、MFI型ゼオライト結晶、MOR型ゼオライト結晶を用いた場合は、それぞれMOR型ゼオライト、MFI型ゼオライトが混合して形成されるように組成を調節する。
反応溶液又はスラリーに、ゼオライトの結晶化促進剤を添加しても良い。結晶化促進剤としては、テトラプロピルアンモニウムブロマイドや、テトラブチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
【0043】
(2)水熱合成処理
種結晶を付着させた多孔質基体に反応溶液又はスラリーを接触させ(例えば反応溶液又はスラリー中に浸漬し)、水熱合成処理する。反応温度(反応溶液又はスラリーの温度)は、通常40℃以上、好ましくは80℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトの合成反応が十分に起こらない。また高すぎると、ゼオライトの合成反応を制御するのが困難であり、均一なゼオライト膜が得られない。反応時間は反応温度に応じて適宜変更し得るが、一般に1〜100時間であれば良い。なお水系の反応溶液又はスラリーを100℃超の温度に保持する場合、オートクレーブ中で反応させてもよい。なお、本発明においては、前述の通り、原料としてMOR型ゼオライト、MFI型ゼオライトが混合して形成されるように組成を調節し、一度の水熱合成処理を行うことにより、本発明のゼオライト膜を合成することができる。
【0044】
[2]成分分離方法
本発明の成分分離方法は、上述の分離膜を用い、水分及び有機成分を含む混合成分から、前記有機成分の一部を分離することを特徴とする。
有機成分は、アルコール、有機酸などの液体が挙げられるが、本発明においては、耐酸性の観点から、有機酸の分離にも好適に用いられることが特徴である。アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどを挙げることができる。有機酸としては、酢酸、アクリル酸などを挙げることができる。また、その他の有機成分として、ヘキサン、トルエンなどを挙げることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、それらは本発明の説明を目的とするものであって、本発明をこれらの態様に限定することを意図したものではない。
[1]試料の作製
[1−1]ゼオライト膜Aの作製
長さ10cm、外径1.2cm(内径0.9cm)の多孔質のアルミナ支持管(多孔質基体)の表面にMFI型ゼオライトの結晶を担持させた。種結晶担持は、湿式ボールミルにより1ミクロン以下の大きさに粉砕したZeolyst社製MFI型ゼオライト結晶(SiO/Al(mol/mol)=32)を用いた。1重量%のスラリー溶液に前記種結晶を3分間浸漬した。その溶液中に支持管を3分間浸漬した。その後、3mm/
秒の速度で垂直に引き上げた。この管を垂直の状態にして、36℃に設定した乾燥機内に14時間設置した。
【0046】
結晶担持の後、180℃で10時間水熱合成しゼオライト膜を形成した。水熱合成においては、反応溶液として、10NaO:0.15Al:36SiO:960HOを用いた。
得られたゼオライト膜Aを、銅(Cu)のX線管球を用い、X線の波長を1.54058オングストロームとし、X線の出力が1.2kWの条件におけるX線回折によりパターン測定したところ、図1の通りであった。
【0047】
即ち、ピークトップの位置(2θの値)がMOR結晶を示すX線パターンである、6.49°、9.74°、13.45°、13.84°、および22.29°の位置に確認された。また、MFI結晶を示すX線パターンである、7.86°、8.76°、9.02°、22.97°、23.20°、23.63°、および23.80°の位置にもピークが確認された。
【0048】
また、走査型電子顕微鏡にて観察したところ、図4の通りであり、ゼオライト膜A表面のゼオライト結晶の最大径がいずれも5μm以下であることが確認された。
さらに、ゼオライト膜Aについて、膜最表面から膜深部へ向かう深さ方向の膜の構成相を、微小角入射X線回折手法により、X線の入射角度を変えることで微細に調べた結果、図3に示すように、結晶成長させたアルミナ多孔質基体の上にMORとMFIの混合相から成る層が成長し、さらに最表層としてMORの単相層を有することが確認された。
【0049】
[1−2]ゼオライト膜Cの作製
水熱合成における反応液を、10NaO:0.37Al:36SiO:1720HOを用いた以外は前記ゼオライト膜Aの作製方法と同様の方法でゼオライト膜Cを得た。
得られたゼオライト膜Cを、前記と同じ条件にてX線回折によりパターン測定したところ、MFIとMORの混合相としての膜が確認された。
【0050】
[1−3]ゼオライト膜Bの作製
長さ10cm、外径1.2cm(内径0.9cm)の多孔質のアルミナ支持管の表面にMOR型ゼオライトの種結晶を担持させた。1ミクロン以下の大きさに粉砕した東ソー社製MOR型ゼオライト結晶(SiO/Al(mol/mol)=18)を1重量%のスラリー溶液に3分間浸漬した。その溶液中に支持管を3分間浸漬した。その後、種結晶が担持された支持管を0.3cm/秒の速度で垂直に引き上げた。この管を垂直の状態にして、36℃に設定した乾燥機内に14時間設置した。
【0051】
結晶担持の後、180℃で7時間水熱合成しゼオライト膜を形成した。水熱合成においては、反応溶液として、10NaO:0.15Al:36SiO:960HOを用いた。
得られたゼオライト膜BはMOR型であり、銅(Cu)のX線管球を用い、X線の波長を1.54058オングストロームとし、X線の出力が1.2kWの条件におけるX線回折によりパターン測定すると、図5の通りであった。
【0052】
即ち、ピークトップの位置(2θの値)がMOR結晶を示すX線パターンの位置に確認された。MFI結晶を示すX線パターンは観察されなかった。
[2]水分と有機成分(アルコール)の分離(実施例1−1)
[2−1]ゼオライト膜AおよびCの分離性能
前記ゼオライト膜AおよびCを75℃の温度条件にてイソプロピルアルコール90重量%と水10重量%の混合溶液を分離した。即ち、前記分離膜の透過性能を評価するために、図6に示す回分式パーベーパーレーション装置を用いた。装置において、ゼオライト膜2はガラスフラスコ内の供給混合液3に浸漬し、ゼオライト膜2の片端を金属と高分子チューブで封止し、他方の開放端を連結した真空系ラインの管12に連結した。供給混合溶液3を充填したガラスフラスコを75℃の熱媒5を入れたウオーターバスに入れ、供給混合溶液3を、撹拌子1およびスターラー6により撹拌し、液温が75℃になるように保持
した。透過物質は供給混合物から膜を透過し液体窒素7で冷却されたトラップ8で冷却固化し捕集した(図3の9)。冷却固化し捕集された透過物質を解凍し、その重量と化学組成を測定することにより、透過流束Qと分離係数αを求めた。なお、化学組成の測定にはガスクロマトグラフ(株)島津製作所製「GC−14B」を用いた。
【0053】
上記測定開始から45分後における透過流束Qは、ゼオライト膜AおよびCにおいてそれぞれ4.6kg/m・時間および4.4kg/m・時間であった。また分離係数αはゼオライト膜AおよびCにおいてそれぞれ5200および4300であった。これは、いずれも従来のMORおよびMFIに比べて極めて高い分離性能であった。
[2−2]ゼオライト膜の反応条件と分離性能(実施例1−2)
ゼオライト膜Aと同じ製造条件で、反応液組成と温度を変えて合成を行った。反応液は10NaO:0.56Al:36SiO:1720HOを用いた。合成時間を6時間から11時間まで1時間ずつ時間を変えて6種類のゼオライト膜を得た。
【0054】
得られたゼオライト膜について前記と同じ条件にてX線回折によりパターン測定したところ、MFIとMORの混合相としての膜が確認された。
得られた6試料の膜性能評価を実施例1−1と同じ条件である75℃、イソプロピルアルコール90重量%と水10重量%の供給混合液を用いた回分式パーベーパーレーションによる膜の透過性能実験を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
上記表1の結果より、これらゼオライト膜は、いずれも従来のMORより高い透過流束であった。また、従来のMFIに比べて極めて高い透過分離性能であった。
[3]水分と有機成分(有機酸)の分離(実施例2〜5、比較例1〜6)
前記ゼオライト膜Aを80℃の温度条件にて、酢酸50重量%と水50重量%の混合溶液を分離した。
【0057】
40分の透過時間内において8.34gの透過物質がゼオライト膜を透過し捕集された。その化学組成は水が99.58重量%であり酢酸が0.42重量%であった。これらの測定データから、透過流束Qは3.3(kg/m・時間)、分離係数αは240と決定された。
なお、この透過時間40分の測定は、透過実験開始後195分後に開始された。これに先立ち、20分後、60分後、100分後、155分後、195分後、235分後にそれぞれ20分間、40分間、40分間、55分間、40分間、40分間の透過時間の測定を計6回行った。この総計235分、6回の測定結果から上記の測定値は膜性能が安定しており、20分後には十分安定した測定値を示していることを示すものであった。つまり2回目から6回目の測定の結果透過流束Qと分離係数αは10%以内の変動に収まっていた。
【0058】
同様の操作により、前記ゼオライト膜A、Bを70℃、および80℃の温度条件にて、
酢酸50重量%と水50重量%の混合溶液、酢酸70重量%と水30重量%の混合溶液、および酢酸90重量%と水10重量%の混合溶液を分離した。表2にその結果を示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2より、本発明のゼオライト膜は、透過流束QがMOR型のそれと比較して高かった。即ち、実施例2および比較例2、または実施例4と比較例6のように混合溶液の酢酸濃度と温度が同じものを比較した場合、透過流束Qは、本発明のゼオライト膜が比較的高いことが確認された。
なお、MFI型のみからなるゼオライト膜は、非特許文献4に記載されるように分離係数がα=8〜24である。よって、本発明のゼオライト膜の分離係数は、従来のMFI型のみからなるゼオライト膜と比較して極めて高いことが確認された。
【0061】
[4] ゼオライト膜Aの高温高圧条件下の膜透過分離性能(実施例6)
前記ゼオライト膜Aを実際の工業プロセスの条件である高温高圧条件下において膜透過分離性能をパーベーパーレーションで測定した。供給液はイソプロパノール50重量%と水重量50重量%の混合液を用いた。温度条件を90℃から130℃まで変えて透過分離性能を測定した。その結果、透過流束Qは90℃における5.1kg/m・時間から130℃における14.1kg/m・時間まで増加した。各温度における透過流束Qと分離係数αを表3に示す。分離係数は270から330まで変化した。透過液中へのイソプロパノールの漏洩は高々0.4重量%であった。これは分離プロセスへの実用には充分の性能である。
【0062】
【表3】

【0063】
また、上記実験中にゼオライト膜Aの性能の劣化は認められなかった。一方、既に商業化されているA型ゼオライト膜は上記実験条件のような含水重量%が50に及ぶ高含水条件での脱水においては劣化しやすい。即ち、本発明のゼオライト膜は従来のゼオライト膜と比較して耐水性に極めて優れた性質を有するといえる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上により、本発明のゼオライト膜は、従来のゼオライト膜に比べて耐水性、耐酸性および分離係数のいずれにも優れた性質を兼ね備えたものであり、分離膜として利用価値が高く、産業上の利用可能性が極めて高いことが確認された。
【符号の説明】
【0065】
1 攪拌子
2 ゼオライト膜
3 供給混合液
4 温度計
5 熱媒
6 スターラー
7 液体窒素
8 トラップ
9 捕集された透過物質
10 真空ポンプ
11 真空計
12 リーク弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の異なる種類のゼオライト結晶が混在する層を有するゼオライト膜であって、
水10重量%およびイソプロピルアルコール90重量%の混合液の、前記混合液温75℃、大気圧条件下、浸透気化分離における、測定開始から45分後における分離係数αが、500以上であり、かつ
前記2以上の異なる種類のゼオライト結晶のうち、少なくとも2以上が下記条件(A)〜(C)におけるX線回折により得られるX線パターンにより検出されることを特徴とするゼオライト膜。
(A)X線の出力を1.2kWとすること
(B)銅(Cu)のX線管球を用いること
(C)X線の波長を1.54058オングストロームとすること
【請求項2】
ゼオライト結晶を含む第一の層と前記第一の層とは種類が異なるゼオライト結晶を含む第二の層を有するゼオライト膜であって、
前記第一の層と前記第二の層は積層構造を形成し、
前記積層構造の厚みは20μm以下であることを特徴とするゼオライト膜。
【請求項3】
銅(Cu)のX線管球を用いた、X線の波長が1.54058オングストロームの条件におけるX線回折により得られるX線パターンにおいて、
(i)ピークトップの位置(2θの値)が6.4°以上6.6°以下、9.6°以上9.9°以下、13.3°以上13.6°以下、13.7°以上13.9°以下、および22.1°以上22.4°以下のいずれか1以上の領域に存在し、かつ、
(ii)ピークトップの位置(2θの値)が7.7°以上8.0°以下、8.6°以上8.9°未満、8.9°以上9.1°以下、22.8°以上23.1°未満、23.1°以上23.3°以下、23.5°以上23.7°未満、および23.7°以上23.9°以下のいずれか1以上の領域に存在する請求項1または2に記載のゼオライト膜。
【請求項4】
MOR及びMFIの混在するゼオライト膜であって、下記(a)及び(b)の層が膜表層から膜内部に向かってこの順に積層されていることを特徴とするゼオライト膜。
(a)実質的にMORのみからなる層
(b)MORおよびMFIを含む混合層
【請求項5】
さらに、下記(c)の層を有し、(a)、(b)および(c)の層が膜表層から膜内部に向かってこの順に積層されている請求項4に記載のゼオライト膜。
(c)MOR、MFI、ならびに、金属、セラミックスおよび有機高分子のいずれか1以上を含む混合層
【請求項6】
MOR及びMFIの混在するゼオライト膜であって、下記(a)及び(b’)の層が膜表層から膜内部に向かってこの順に積層される積層構造を有し、
前記積層構造の厚みは20μm以下であることを特徴とするゼオライト膜。
(a)実質的にMORのみからなる層
(b’)MFIを含む層
【請求項7】
さらに、下記(c)の層を有し、(a)、(b’)および(c)の層が膜表層から膜内部に向かってこの順に積層されている請求項6に記載のゼオライト膜。
(c)MOR、MFI、ならびに、金属、セラミックスおよび有機高分子のいずれか1以上を含む混合層
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のゼオライト膜を用いて形成された分離膜。
【請求項9】
水30重量%および酢酸70重量%の混合液の、前記混合液温70℃、大気圧条件下、浸透気化分離における、測定開始から45分後における透過流束Q(kg/m・時間)および分離係数αが、それぞれ下記式(1)および(2)で示され、かつ測定開始から45分後における透過流束Qに対する測定開始から375分後の透過流束Q375minの減少率が20%以下である請求項8に記載の分離膜。
Q≧1 ・・・(1)
α≧400 ・・・(2)
【請求項10】
水30重量%および酢酸70重量%の混合液の、前記混合液温70℃、大気圧条件下、浸透気化分離における、測定開始から45分後における透過流束Q(kg/m・時間)および分離係数αが、それぞれ下記式(1)および(2)で示され、かつ測定開始から45分後における透過流束Qに対する測定開始から375分後の透過流束Q375minの減少率が20%以下であることを特徴とする分離膜。
Q≧1 ・・・(1)
α≧400 ・・・(2)
【請求項11】
水分及び有機成分を含む混合成分から、前記有機成分の一部を分離する成分分離方法であって、請求項8乃至10のいずれか1項に記載の分離膜を用いることを特徴とする成分分離方法。
【請求項12】
前記有機成分が有機酸を含有する請求項11に記載の成分分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−247150(P2010−247150A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66532(P2010−66532)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】