説明

ゼオライト膜の形成法

【課題】ゼオライト膜を多孔質支持体表面の凹凸形状に沿って形成でき、これにより耐久性および分離性能の高いゼオライト分離膜を製造できる方法を提供する。
【解決手段】多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる分離膜の製造方法において、多孔質支持体上にゼオライトの種結晶を担持する工程と、種結晶から水熱合成法により多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する工程とを含み、前記水熱合成法における合成温度を段階的に昇温することを特徴とするゼオライト膜の形成法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる分離膜の製造方法におけるゼオライト膜の形成法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト結晶は、結晶中にナノオーダーの細孔を有し、ゼオライトの細孔の大ささや形状により分子を選択的に通過させる分子ふるいの性質や特異な吸着特性を有している。ゼオライトはこれらの性質を利用してガス分離膜や、浸透気化分離、逆浸透分離、ガスセンサー等の分野に応用されている。とりわけ、ゼオライト膜を、水と有機溶剤等を含む混合液から水等を分離する分離膜としての用途が注目されている。一方、ゼオライト膜をフィルターとして利用するには、ゼオライト膜単体では強度に問題があるため、通常はセラミック焼結材からなる多孔質支持体の表面にゼオライト膜を形成する。多孔質支持体上へのゼオライト膜の代表的な形成法として水熱合成法がある。水熱合成法は、シリカ源とアルミナ源を主成分として含む懸濁液に多孔質支持体を浸漬し、所定の温度条件下で水熱反応により懸濁液中のゼオライト種結晶を核として膜を成長させ、多孔質支持体にゼオライト膜を形成する方法である(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−82008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
水熱合成法によるゼオライト膜の形成において、水熱合成時の温度が高いと結晶成長速度が速くなり、ゼオライト膜が多孔質支持体表面の凹凸形状に沿って形成することができず、凹部では空洞が生じた状態でゼオライト膜が形成されるため、膜の強度が部分的に低下し、クラック発生の原因となり、耐久性および分離性能が低下するという問題があった。
【0004】
本発明は、前記の点に鑑み、ゼオライト膜を多孔質支持体表面の凹凸形状に沿って形成でき、これにより耐久性および分離性能の高いゼオライト分離膜を製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく実験を重ねた結果、支持体上にゼオライト種結晶を担持し、水熱合成法で支持体上にゼオライト膜を形成する際に、水熱合成工程でのヒートパターンを変えることで高性能のゼオライト膜を形成できることを見出した。すなわち、従来は水熱合成法の反応温度を100℃程度まで昇温していたところを、反応液が沸騰しない程度の比較的低い温度で一定時間保持し、その後、通常の水熱反応温度に昇温して水熱合成法を行うことで、ゼオライト膜表面の均一性および耐久性が向上することを見出した。
【0006】
請求項1の発明は、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる分離膜の製造方法において、多孔質支持体上にゼオライトの種結晶を担持する工程と、種結晶から水熱合成法により多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する工程とを含み、前記水熱合成法における合成温度を段階的に昇温することを特徴とするゼオライト膜の形成法である。
【0007】
請求項2の発明は、前記水熱合成法における合成温度が、40〜80℃の範囲で少なくとも1回一定に保持する段階を含むことを特徴とする請求項1記載のゼオライト膜の形成法である。
【0008】
請求項3の発明は、前記水熱合成法における合成温度が、40〜80℃の範囲で20分以上少なくとも1回一定に保持する段階を含むことを特徴とする請求項1記載のゼオライト膜の形成法である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のゼオライト膜の形成法により得られたゼオライト分離膜である。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4記載のゼオライト分離膜を具備した分離膜モジュールである。
【0011】
本発明で用いる多孔質支持体は、例えばアルミナセラミックなどの無機材料で構成され、蒸気ガス・溶液の高透過性能を得るために粒子径の大きなアルミナ粉末を用いて焼成したものである。多孔質支持体は、フィルター材であるゼオライト膜を支持することができる強度、好ましくは3.0〜13kg/mm、より好ましくは5.0〜13kg/mmを有し、同支持体の厚みは好ましくは1.0〜5.0mmである。多孔質支持体は、分離物質の透過性に優れた多孔質構造をなし、多孔質支持体の窒素ガスを用いた透過速度は、好ましくは100〜3000m/(m・h・atm)、より好ましくは200〜6000m/(m・h・atm)である。
【0012】
まず、多孔質支持体上にゼオライトの種結晶を担持する工程では、A型やY型などのゼオライト種結晶を水溶液中に分散させた懸濁液に多孔質支持体を浸漬する、該懸濁液を多孔質支持体の表面に刷毛塗りする、などの方法を採用することができ、浸漬法は生産性に優れており望ましい。種結晶を多孔質支持体表面に均一で適度な量で付着させるには、ゼオライト種結晶を水溶液中に分散させた懸濁液中の種結晶の濃度は、好ましくは0.01〜l.0重量%、より好ましくは0.01〜0.5重量%である。多孔質支持体の表面にゼオライト種結晶を付着させた後、必要であればこれを乾燥する。
【0013】
つぎに、水熱合成法により多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する工程では、種付着多孔質支持体をゼオライト合成反応用の溶液に接触させ、加熱処理し、水熱合成法によりセラミック焼結材の表面にゼオライト膜を形成する。その後、ゼオライト膜の洗浄、乾燥を行う。
【0014】
水熱合成法は、密閉容器または圧力容器内で昇温速度を制御して行うことが好ましい。
【0015】
本発明によるゼオライト膜の形成法は、水熱合成法における合成温度を段階的に昇温することを特徴とする。
【0016】
好ましくは、水熱合成法における合成温度を、反応液が沸騰しない程度の比較的低い温度で一定時間保持し、その後、通常の水熱合成温度に昇温して水熱合成法を行う。反応液が沸騰しない程度の比較的低い一定温度での保持は1回でもよいが複数回でもよい。
【0017】
反応液が沸騰しない程度の比較的低い温度は、40〜80℃の範囲が好ましく、より好ましくは50〜70℃である。
【0018】
その理由は、下記の通りである。
【0019】
40℃未満では、ゼオライト結晶の成長がほとんど行われず、一定時間保持後に昇温しても、ゼオライト結晶の成長が十分でないまま急速にゼオライト結晶の成長が進み、多孔質支持体表面の凹凸形状に沿った形成にはならず、クラックなど耐久性および分離性能が低下する。
【0020】
80℃を超えると、ゼオライト結晶の成長が急速に進み、高温になり沸騰が始まるとさらにゼオライト結晶の成長が加速し、前記と同じく多孔質支持体表面の凹凸形状に沿ったゼオライト膜の形成ができず、クラック発生など耐久性および分離性能が低下する。
【0021】
また、ゼオライト結晶を多孔質支持体表面の凹凸形状に沿って緩やかに成長できる温度範囲として、50〜70℃が好ましい。
【0022】
1回または複数回の一定温度の保持時間は、温度によって異なるが、反応液の温度が所定温度になってから少なくとも20分以上は保持することが望ましい。上限は特に設定しないが、長すぎると膜厚が大きくなり、透過速度に効いてくるので好ましくない。望ましい上限は3〜5時間程度である。
【0023】
低温で形成される膜は、結晶が不完全でアモルファスになっているため、最終的には所定の高い温度で合成し、完全に結晶化させる必要がある。
【0024】
形成されたゼオライト膜は、ゼオライトの組成によって、或る範囲に限定された結晶構造的な微細孔を有し、その孔径によって、例えば、水とエタノールやイソプロパノール等のような有機物との混合液から、水のみを分離するフィルターとして作用する。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、水熱合成法により多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する工程において、水熱合成法の合成温度を段階的に昇温することで、表面に凹凸がある支持体表面上でもゼオライト膜を凹凸に沿って均一に形成することができる。よって、得られたゼオライト膜はクラッキングも起こり難くなり、分離性能や耐久性が向上する。
【0026】
このメカニズムは、まず合成温度を比較的低温域で一定時間保持することで、ゼオライト結晶の成長が不十分な状態(アモルファス)を維持し、その後通常の水熱合成温度まで昇温することで、ゼオライト結晶の成長がゆっくりと行われ、支持体の凹凸に密着した膜が形成されるものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例をいくつか挙げる。
【0028】
実施例1
A型ゼオライト種結晶を水溶液中に分散させた懸濁液(濃度0.1重量%)に、アルミナセラミックからなる管状の多孔質支持体を浸漬し、ついで乾燥し、この操作を2回繰り返すことで、多孔質支持体の外表面上にゼオライトの種結晶を担持した。
【0029】
つぎに、この種付着多孔質支持体をゼオライト合成反応用の溶液に接触させ、合成温度60℃で40分保持した後、100℃で3.5時間加熱し、水熱合成法により多孔質支持体の表面にA型ゼオライト膜を形成した。その後、ゼオライト膜を洗浄、乾燥した。こうして管状の分離膜を製造した。
【0030】
実施例2
水熱合成法の合成温度を40℃で20分保持した後、100℃で3.5時間加熱をした以外、実施例1と同様の操作を行った。
【0031】
比較例1
水熱合成法の合成温度を直接100℃まで昇温し、3.5時間加熱した以外、実施例1と同様の操作を行った。
【0032】
性能試験
図1において、実施例および比較例で得られた管状の分離膜(1)の一端部を緻密質アルミナからなる封止栓(2)で封止するとともに、分離膜(1)の他端部に緻密質アルミナからなる排出管接続用の接続管(3)を設け、分離膜モジュール(4)を構成した。(5)はシール材である。この分離膜モジュール(4)を、図2に示す試験装置に組み込んでエタノール/水系の蒸気透過分離膜として使用し、下記の条件で分離膜の性能評価試験を行った。
【0033】
試験条件
蒸気透過試験温度:100℃
原液エタノール濃度:93.3重量%
評価結果は下記の通りである。
【0034】
実施例1の分離膜の分離係数:695
実施例2の分離膜の分離係数:224
比較例1の分離膜の分離係数:41
この結果から明らかなように、本発明により高性能の分離膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】分離膜モジュールを示す縦断面図である。
【図2】試験装置を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0036】
(1) 分離膜
(2) 封止栓
(3) 接続管
(4) 分離膜モジュール
(5) シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる分離膜の製造方法において、多孔質支持体上にゼオライトの種結晶を担持する工程と、種結晶から水熱合成法により多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する工程とを含み、前記水熱合成法における合成温度を段階的に昇温することを特徴とするゼオライト膜の形成法。
【請求項2】
前記水熱合成法における合成温度が、40〜80℃の範囲で少なくとも1回一定に保持する段階を含むことを特徴とする請求項1記載のゼオライト膜の形成法。
【請求項3】
前記水熱合成法における合成温度が、40〜80℃の範囲で20分以上少なくとも1回一定に保持する段階を含むことを特徴とする請求項1記載のゼオライト膜の形成法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のゼオライト膜の形成法により得られたゼオライト分離膜。
【請求項5】
請求項4記載のゼオライト分離膜を具備した分離膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−58015(P2010−58015A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224225(P2008−224225)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】