説明

ゼオライト製造方法

【課題】 必ずしも高価な原料を使用する必要がなく、簡便に平均粒子径が1μm以下であるゼオライトを製造できるゼオライト製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のゼオライト製造方法は、ケイ酸アルカリ金属化合物と、アルミン酸ナトリウムと、アルカリ金属水酸化物と、を含む透明な水溶液であるクリアー溶液を調製するクリアー溶液調製工程と、調整されたクリアー溶液を結晶化する結晶化工程と、を有することを特徴とする。
ハイドロゲルを生成しないモル組成比にて含む水溶液(本発明におけるクリアー溶液)を調製し、その水溶液をオートクレーブや還流方式などにて結晶化することで、平均粒子径が1μm以下のゼオライトを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトを触媒,吸着剤,イオン交換材,光学材料,膜形成などで利用する際には、粒子径が1μm以下であると性能が優れていることは、一般に広く知られている。従来、マイクロサイズのゼオライトの製造方法として、ケイ素原料およびアルミニウム原料を混合し、適当な水熱合成条件にて結晶化する方法が用いられていた。このような製造方法により得られるゼオライトは、数μm程度の一次粒子径をもつ粉末状結晶である。
【0003】
近年、1μm以下のゼオライトを製造するために、数々の合成方法が提案されている。例えば、(i)テトラエトキシシランやアルミニウムイソプロポキシド等の金属アルコキシドを原料とする製造方法、(ii)有機構造規定剤(例えばテトラエチルアンモニウム水酸化物)を用いる製造方法、(iii)有機溶剤と界面活性剤を用いるエマルション法による製造方法(特許文献1参照)などが提案されている。
【特許文献1】特開2005−225682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記(i)の製造方法は、原料となる金属アルコキシドが高価であり、さらに大気中の水分により加水分解するためその取扱に注意が必要であるという問題がある。上記(ii)の製造方法は、製造過程で使用した有機構造規定剤が、得られた生成物に含有されるため、生成物の用途が制限されるという問題や、有機構造規定剤の除去のため熱処理等の工程が必要となるという問題がある。また、上記(iii)の製造方法は、製造方法が簡便でなく、さらにシクロヘキサンやヘプタン等の有機溶剤を使用するため環境への負荷が大きいという問題がある。
【0005】
このような問題から、通常のマイクロサイズのゼオライトと同様の原料および設備にて、1μm以下のゼオライトを製造すること、すなわち、原料には、ケイ酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウムのような廉価でかつ取扱が容易であるものを用い、また、有機構造指向剤などの添加物を使用せず、オートクレーブなどの一般的な結晶化設備を用いて製造することが望まれている。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、必ずしも高価な原料を使用する必要がなく、簡便に平均粒子径が1μm以下であるゼオライトを製造できるゼオライト製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した問題点を解決するためになされた請求項1記載のゼオライト製造方法は、ケイ酸アルカリ金属化合物と、アルミン酸ナトリウムと、アルカリ金属水酸化物と、を含む透明な水溶液であるクリアー溶液を調製するクリアー溶液調製工程と、調整されたクリアー溶液を結晶化する結晶化工程と、を有することを特徴とするゼオライト製造方法である。
【0008】
従来のゼオライト製造方法では、ケイ酸アルカリ金属化合物,アルミン酸ナトリウム,アルカリ金属水酸化物,およびイオン交換水を所定のモル組成比で混合し、まず、ハイドロゲルといわれる反応物を得ていた。そして、このハイドロゲルを結晶化することによりゼオライトを製造していた。しかし、この従来の製造方法では、1μm以下の粒子径のゼオライトを製造することができなかった。
【0009】
それに対し、上述した本発明のゼオライト製造方法では、クリアー溶液調製工程にて、ケイ酸アルカリ金属化合物,アルミン酸ナトリウム,およびアルカリ金属水酸化物を、ハイドロゲルを生成しないモル組成比にて含む水溶液(本発明におけるクリアー溶液)を調製し、その水溶液をオートクレーブや還流方式などにて結晶化する。その結果、平均粒子径が1μm以下のゼオライトを得ることができる。
【0010】
このように、本発明のゼオライト製造方法であれば、有機構造指向剤などの添加物を使用せず、廉価でかつ取扱が容易である原料のみを使用することができるため、必ずしも高価な原料を使用する必要がなく、複雑な操作を行わずに簡便に平均粒子径が1μm以下であるゼオライトを製造することができる。
【0011】
なお、上述したケイ酸アルカリ金属化合物およびアルカリ金属水酸化物に含まれるアルカリ金属とは、ナトリウム,カリウムなどのアルカリ金属が該当するが、少なくともナトリウムを含有していることが望ましい。
【0012】
なお、請求項2に記載のゼオライト製造方法のように、ケイ酸アルカリ金属化合物を、ケイ酸ナトリウムとし、アルカリ金属水酸化物を、水酸化ナトリウムとしてもよい。
このようなゼオライト製造方法であれば、ケイ酸ナトリウム,水酸化ナトリウムを原料としてゼオライトを製造することができる。
【0013】
請求項3に記載のゼオライト製造方法は、請求項2のゼオライト製造方法において、クリアー溶液の一般式(xNa2O−Al23−ySiO2−zH2O)におけるモル組成比が、8≦x,8≦y≦12,80≦z≦140の範囲であることを特徴とする。
【0014】
このようにモル組成比を調節するゼオライト製造方法であれば、ハイドロゲルが生成しないので、クリアー溶液を得ることができ、その結果、平均粒子径が1μm以下となるゼオライトを得ることができる。
【0015】
請求項4に記載のゼオライト製造方法は、結晶化工程において、クリアー溶液を25℃〜50℃にて結晶化させることを特徴とする。
クリアー溶液を25℃以上の温度に保持して結晶化させると、25℃より低い温度に保持する場合と比較して結晶化速度が早いため、ゼオライトを効率よく製造することができる。一方、クリアー溶液を50℃より低い温度に保持して結晶化させると、製造されるゼオライトの粒子径を小さくすることができる。よって、クリアー溶液を結晶化させる際の温度は、25℃〜50℃の範囲が好適であり、その中でも35℃〜40℃の範囲が一層好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態を、実施例を用いて説明する。
(1)ゼオライトの製造
[実施例1]
まず、下記(a)〜(d)の原料を用いてクリアー溶液を生成した。なお、クリアー溶液とは、ハイドロゲルを生成せず、白濁の生じない透明な溶液のことである。
(a)3号ケイ酸ナトリウム:富士化学(株)製、SiO2;29.32wt%、Na2O;9.41wt%、モル比(SiO2/Na2O);3.22
(b)アルミン酸ナトリウム:(株)北陸化成工業所製、Al23;19.01wt%、Na2O;19.50wt%、モル比(Na2O/Al23);1.69
(c)水酸化ナトリウム
(d)イオン交換水
ここでは、(c)水酸化ナトリウムを(d)イオン交換水に溶解し、水酸化ナトリウム水溶液を得た。この水酸化ナトリウム水溶液に、(b)アルミン酸ナトリウムを添加し、さらに(a)ケイ酸ナトリウムを添加し、混合溶液がクリアーになるまでよく攪拌して、クリアー溶液を得た。なお、上記(a)〜(d)の量は、このときのクリアー溶液でのモル組成比(出発モル組成比)を、10Na2O−Al23−10SiO2−100H2Oとなるように調整した。
【0017】
次に、得られたクリアー溶液を、オートクレーブを用いて40℃にて18時間の結晶化を行った。その後、濾過、水洗、乾燥を行い、ゼオライトの生成物を得た。
[実施例2]
本実施例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、本実施例におけるクリアー溶液の出発モル組成比を、10Na2O−Al23−9SiO2−100H2Oとした。
[実施例3]
本実施例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、本実施例におけるクリアー溶液の出発モル組成比を、10Na2O−Al23−8SiO2−100H2Oとした。
[実施例4]
本実施例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、本実施例におけるクリアー溶液の出発モル組成比を、9Na2O−Al23−9SiO2−100H2Oとした。
[実施例5]
本実施例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、本実施例におけるクリアー溶液の出発モル組成比を、10Na2O−Al23−10SiO2−120H2Oとした。
[実施例6]
本実施例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、本実施例におけるクリアー溶液の出発モル組成比を、10Na2O−Al23−10SiO2−80H2Oとした。
[実施例7]
本実施例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、本実施例におけるクリアー溶液の出発モル組成比を、8Na2O−Al23−10SiO2−100H2Oとした。
[実施例8]
本実施例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、上記(a)の3号ケイ酸ナトリウムに代えて、1号ケイ酸ナトリウム(富士化学(株)製、SiO2;36.40wt%、Na2O;17.92wt%、モル比(SiO2/Na2O);2.10)を用いた。また、本実施例におけるクリアー溶液の出発モル組成比は、10Na2O−Al23−12SiO2−100H2Oとした。
[実施例9]
本実施例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、オートクレーブによる結晶化の条件を、温度を25℃,時間を72時間とした。
[実施例10]
本実施例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、オートクレーブによる結晶化の条件を、温度を50℃,時間を18時間とした。
[実施例11]
本実施例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、オートクレーブによる結晶化の条件を、温度を60℃,時間を18時間とした。
[実施例12]
本実施例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、オートクレーブによる結晶化の条件を、温度を80℃,時間を18時間とした。
[実施例13]
本実施例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、オートクレーブによる結晶化の条件を、温度を180℃,時間を18時間とした。
[比較例1]
本比較例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、出発モル組成比を、10Na2O−Al23−7SiO2−100H2Oとした。なお、本比較例では、実施例1と同様の方法で原料を混合したが、クリアー溶液ではなく、白濁した水溶液が調製された。
[比較例2]
本比較例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、出発モル組成比を、10Na2O−Al23−6SiO2−100H2Oとした。なお、本比較例では、実施例1と同様の方法で原料を混合したが、クリアー溶液ではなく、白濁した水溶液が調製された。
[比較例3]
本比較例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、出発モル組成比を、10Na2O−Al23−10SiO2−150H2Oとした。なお、本比較例では、実施例1と同様の方法で原料を混合したが、クリアー溶液ではなく、白濁した水溶液が調製された。
[比較例4]
本比較例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、出発モル組成比を、10Na2O−Al23−0.6SiO2−100H2Oとした。なお、本比較例では、実施例1と同様の方法で原料を混合したが、クリアー溶液ではなく、白濁した水溶液が調製された。
[比較例5]
本比較例では、上記実施例1と基本的には同様の手法にてゼオライトを製造したが、出発モル組成比を、4Na2O−Al23−0.5SiO2−30H2Oとした。なお、本比較例では、実施例1と同様の方法で原料を混合したが、クリアー溶液ではなく、白濁した水溶液が調製された。
(2)平均粒子径の測定
平均粒子径の測定は、X線回折測定(XRD)、電子顕微鏡観察(SEM)により行った。
【0018】
上記実施例1におけるXRDパターンを図1に示す。図1に示されるXRDパターンから、実施例1で得られたゼオライトは、FAU型ゼオライトであって、Sherrer式を用いて求めた結果、粒子径は40nmであることが分かった。
【0019】
また、実施例1のSEM像を図2に示す。倍率30000倍のSEM像から無作為に80個の粒子を抽出した。そして、一定軸方向の長さについて測定する「定方向径」から平均粒子径を算出した。その結果、平均粒子径は、上記Sherrer式から求めた粒子径と同様の40nmであった。
【0020】
実施例2〜13および比較例1〜5においても、上述したものと同様の手法で平均粒子径を測定した。
(3)結晶のゼオライト種の同定
結晶のゼオライト種の同定は、XRDにより検出されたXRDパターン,および,29Si MAS NMRにより測定されたSi/Al比に基づいて行った。上記実施例1において、Si/Al比は、1.08であり、X型ゼオライトであることが確かめられた。実施例2〜13および比較例1〜5においても、同様の手法で結晶のゼオライト種の同定を行った。
(4)表面積の測定
表面積の測定は、N2吸着測定を行い、BET理論により表面積を算出した。また、αsプロットおよびDRプロットから、外表面積と細孔容積をそれぞれ求めた。
【0021】
上記実施例1においては、比表面積が542/m2・g-1、外表面積が141/m2・g-1、細孔容積が0.257/ml・g-1となった。
また、上記実施例9においては、比表面積が612/m2・g-1、外表面積が218/m2・g-1、細孔容積が0.311/ml・g-1となった。
(5)効果
上記各実施例および比較例における出発モル組成比,クリアー溶液調製工程におけるクリアー溶液の調製の可否,結晶化工程における結晶化条件,製造したゼオライトのゼオライト種,平均粒子径を表1に示す。なお、クリアー溶液調製の可否の項目において「○」はクリアー溶液が調製できたことを指し、「×」はハイドロゲルが生成し、クリアー溶液が調整できなかったことを指す。
【0022】
また、実施例1,実施例7および一般的なマイクロサイズの粒子径(平均粒子径3μm)であるFAU型ゼオライトの表面積測定の結果を表2に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

表1から分かるように、上述した実施例1〜13のゼオライト製造方法では、クリアー溶液を調製しすることができた。そのクリアー溶液を結晶化させると、平均粒子径が1μm以下のゼオライトを製造することができた。一方、比較例1〜5では、ハイドロゲルが生成し、クリアー溶液が得られなかった。その結果、平均粒子径が1μm以下のゼオライトを製造することができなかった。
【0025】
クリアー溶液を調製することができたモル組成比は、クリアー溶液の一般式(xNa2O−Al23−ySiO2−zH2O)において、8≦x,8≦y≦12,80≦z≦140(特に、8≦x≦10,8≦y≦12,80≦z≦120)の範囲であった。一方、比較例1〜5のモル組成比では、クリアー溶液を得ることができなかった。
【0026】
また、実施例1〜10のように、クリアー溶液を結晶化させる際の温度を50℃以下にすると、平均粒子径が100nm以下のナノサイズのゼオライトを製造することができ、また、ゼオライト種がX型であるゼオライトのみを製造することができた。一方、結晶化させる際の温度が50℃以上のときは、ソーダライト(SOD)やカンクリナイト(CAN)の種が製造された。
(6)変形例
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることは言うまでもない。
【0027】
例えば、上記各実施例においては、クリアー溶液調製工程において、ケイ酸アルカリ金属化合物として、ケイ酸ナトリウムのみを用いる構成を例示した。しかし、ケイ酸ナトリウムのみでなく、ケイ酸ナトリウムとケイ酸カリウムとの混合物を材料として用いてもよい。
【0028】
ゼオライトの平均粒子径は、結晶化速度の影響を受ける。その結晶化速度は、結晶化の際の温度に加え、ケイ酸アルカリ金属化合物におけるアルカリ金属種の影響を受ける。つまり、上述したようにケイ酸カリウムを混合させると、ゼオライトの結晶化速度が変化する。よって、ゼオライトを製造する際に、結晶化の温度だけでなく、ケイ酸カリウムの混合量を調節することで、平均粒子径を調節することができるので、製造されるゼオライトの平均粒子径を、より詳細にコントロールすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1におけるXRDパターンを示す図
【図2】実施例1におけるSEM像を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸アルカリ金属化合物と、アルミン酸ナトリウムと、アルカリ金属水酸化物と、を含む透明な水溶液であるクリアー溶液を調製するクリアー溶液調製工程と、
前記クリアー溶液を結晶化する結晶化工程と、を有する
ことを特徴とするゼオライト製造方法。
【請求項2】
前記ケイ酸アルカリ金属化合物とは、ケイ酸ナトリウムであり、
前記アルカリ金属水酸化物とは、水酸化ナトリウムである
ことを特徴とする請求項1に記載のゼオライト製造方法。
【請求項3】
前記クリアー溶液は、下記の一般式におけるモル組成比が、8≦x,8≦y≦12,80≦z≦140の範囲であることを特徴とする請求項2に記載のゼオライト製造方法。
xNa2O−Al23−ySiO2−zH2
【請求項4】
前記結晶化工程において、前記クリアー溶液を25℃〜50℃にて結晶化させる
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のゼオライト製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−113996(P2009−113996A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285092(P2007−285092)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(391003598)富士化学株式会社 (40)
【Fターム(参考)】