説明

ソバの組織培養法、ソバの植物体

【課題】 ソバの組織をin vitroで培養することにより、遺伝的修飾が容易な未分化組織を経て植物体を安定して再生させる技術を提供する。
【解決手段】 ソバの胚軸組織の切片をオーキシンとサイトカイニンを添加した液体培地で培養することにより、一段階でカルスの誘導と不定芽および不定胚の誘導を行い、誘導した不定胚から直接あるいは増殖を経て完全な植物体を短期間に再生させる。オーキシンはIAA(ヨード酢酸)又はNAA(ナフタレン酢酸)であり、サイトカイニンはBA(ベンジルアデニン)であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の組織培養法、特にソバの組織培養法、ソバの植物体に関する。
【背景技術】
【0002】
普通ソバでは、他の固体の花粉を受け取るように花内部の構造が異なる異型花柱性であることに加えて、自らの花粉で受粉しない自家不和合性であるため純系が得にくい。また、花が小さく花粉も少ないことに加えて開花時間が短いため交配時間が限られる。
さらには、異型花柱性のため同型花同士で人工受粉したとしても、花粉管の伸長が停止することによって受粉しないという生理的な不和合性も持つ。
【0003】
このため、従来の交雑育種法などによる品種改良は進んでいない。例えば、品種「信州大ソバ」は、別品種である「信濃1号」の染色体を倍加させることにより育成されたものである。
よって、交雑育種法以外の方法による品種改良方法の開発が期待されている。
【0004】
ここで、植物の品種改良に使用可能な交雑育種法以外の方法として、植物の組織培養方法がある。
植物の組織培養方法は、in vitro(試験管内)で細胞から植物体を作り出すことを可能とする方法で、試験管内での突然変異の誘発や、細胞工学的な改良、遺伝子工学的な改良を可能とする。
【0005】
品種改良に植物組織培養を利用しようとする場合、植物組織や細胞を試験管内で無菌的に培養し、培養した組織やカルスから植物体を再生させることが必須となる。
一般に、植物組織やカルスから植物体を再生させる場合、不定芽または不定胚を誘導し、そこから完全な植物体を形成させる。特に、不定胚を経た植物体の再生では、カルス細胞や組織細胞が受精卵と同様の胚発生を経て幼植物へと発達するため、根、胚軸、子葉を備えた完全な植物体が得られる。
【0006】
このような不定胚形成による植物体の再生はニンジンをはじめ複数の植物種で確認されているが、その種類は限られている。不定胚の誘導ではオーキシン、特に、2,4−Dに強い誘導効果があるとされる。
しかしながら、植物体の再生のための条件は植物種によって大きく異なり、汎用性のある方法はない。そのため、培地組成や植物ホルモンの濃度や組合せについて種々の実験を行うことで、その植物に最適な方法が模索される。
よって、ソバにおいても品種改良のための組織培養系と不定胚からの植物体の再生方法の確立が望まれている。
【0007】
非特許文献1を参照すると、ソバを用いた組織培養に関する研究として、Yamaneは普通ソバの発芽種子からのカルス誘導およびカルスからの植物体再生を試み、カルス形成にはWhite培地に2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)の1.0mg/Lの添加が効果的であること、増殖したカルスからのシュートと根の分化においては植物ホルモンを含まないココナッツミルクと酵母抽出物とを添加したRM−1964培地に継代することが効果的であると報告している(以下、この技術を従来技術1とする。)。
【0008】
一方、ソバにおいても不定胚を経て植物体が再生可能であることが報告されている。非特許文献2を参照すると、Gumerovaらは胚軸組織を6〜15ppmの高濃度の2,4−Dを含む液体培地で4〜8日培養した後、2,4−Dを2ppm以下の培地に移植して1ヶ月〜2ヶ月間培養することで胚様体を形成させ、この胚様体を植物ホルモンを含まない培地で不定胚に分化させ、これにより植物体が得られることを報告している(以下、この技術を従来技術2とする。)。このように、従来、ソバの不定胚形成は基本的に2,4−Dによって制御されていると考えられていた。
従来技術1におけるYamaneの結果も、カルスを長期間培養した後に、植物体の再生が始まることを示している。一般には、カルスを長期間培養した場合、植物体の再生能力は著しく低下することが知られているため、長期間培養はあまり好ましくない。
【非特許文献1】Yamane、”Induced differentiation of buckwheat plants from subcultured calluses in vitro.”、Japanese Journal Genetics、日本、日本遺伝学会、1974年、49、3、p.139−146
【非特許文献2】Gumerovaら、”Smonatic embryogenesis and bud formation on cultured Fagopyum esculentum hypoctyls.”、Russian Journal PlantPhysiology、独国、Springer、2003年、50、5、p.716−721
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来技術1は、カルス誘導から植物体に至るまでの再現性が低く、長期間を要するという問題があった。
また、従来技術2も、不定胚の形成効率が悪く、植物体の再生まで長期間を要するという問題があった。
また、従来技術2は、2,4−Dの濃度を複数回に渡って変化させることが必要なので手間が掛かるという問題があった。
さらに、従来技術1、従来技術2とも、再現性が高くはなく、特に品種により植物体の再生にばらつきがあるという問題があった。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のソバの組織培養方法は、ソバの胚軸組織をオーキシンとサイトカイニンを含む培地で培養し、不定芽と不定胚を誘導することを特徴とする。
本発明のソバの組織培養方法は、前記オーキシンは0.1〜10ppmであることを特徴とする。
本発明のソバの組織培養方法は、前記サイトカイニンは0.1〜10ppmであることを特徴とする。
本発明のソバの組織培養方法は、前記不定芽と不定胚を誘導する際に、一段階で行うことを特徴とする。
本発明のソバの組織培養方法は、前記培地は液体培地であることを特徴とする。
本発明のソバの組織培養方法は、前記不定胚を、オーキシンを含まない培地で培養し、不定胚を増殖させるか又は増殖させずに、植物体を再生させることを特徴とする。
本発明のソバの組織培養方法は、前記不定胚を寒天培地に移植することで、胚軸組織から直接、不定根を発生させることを特徴とする。
本発明のソバの組織培養方法は、前記寒天培地に、0ppmより多く2ppm以下のオーキシンをさらに加えることを特徴とする。
本発明のソバの組織培養方法は、前記オーキシンはIAA(ヨード酢酸)であることを特徴とする。
本発明のソバの組織培養方法は、前記オーキシンはNAA(ナフタレン酢酸)であることを特徴とする。
本発明のソバの組織培養方法は、前記サイトカイニンはBA(ベンジルアデニン)であることを特徴とする。
本発明のソバの植物体は、ソバの胚軸組織を0.1〜10ppmのIAA又はNAAと0.1〜10ppmのBAを含む液体培地で培養し、一段階で不定芽と不定胚を誘導し、前記不定胚を、オーキシンを含まない培地で培養し、不定胚を増殖させるか又は増殖させずに再生したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ソバの胚軸組織からin vitroで植物体を培養し、確実に短期間で植物体を再生させる方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<実施の形態>
本発明者らは鋭意研究の結果、オーキシンとサイトカイニンを含む液体培地でソバの胚軸組織を培養することで、カルスの誘導と同時に不定芽および不定胚を誘導できることを見出し、さらに不定胚からは直接あるいは増殖を経て完全な植物体を再生しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、ソバの胚軸組織をオーキシンとサイトカイニンを添加した液体培地で培養し、一段階で不定胚を含む多芽体を誘導し、不定胚から植物体を再生させることを特徴とするソバの組織培養法に関する。
ここで、本発明において一段階とは、培養をする際の培養条件を設定する回数のことを言う。すなわち、本発明において不定胚を含む多芽体を誘導するためには、培養条件の設定を1回だけ行うことで可能である。
【0015】
本発明のソバの組織培養により植物体を再生する技術は、ソバの胚軸組織を最適な植物ホルモンを組合せた液体培地で培養することによって胚様体を形成させ、これらを増殖させ、得られた胚様体を寒天培地に移植することにより不定胚を生長させ完全な植物体を再生することを特徴とする。
【0016】
本発明に言うソバとは、タデ科に属する1年生の草本である普通ソバ(Fagopyum esculentum)を指すが、それ以外にも有翅種(F.emarginatum)、ダッタンソバ(F.tataricum)およびシャクチリソバ(F.cymosum)なども同属に属する植物である。
【0017】
組織培養に用いる組織としては、ソバの実生の胚軸組織を用いるが、無菌的に発芽させたソバ実生のもの、または通常に発芽させた実生の胚軸を殺菌して用いることができる。この胚軸組織を0.5〜2mm程度の厚さに輪切りにした切片を作成し、作成した切片をオーキシンとサイトカイニンを含む液体培地に植えつける。基本培地としては、MS(ムラシゲ・スクーグ)培地を用いるが、特に制限されるものではない。
【0018】
オーキシンとしては、NAA(ナフタレン酢酸)、IAA(インドール酢酸)、またはIBA(インドール酪酸)等が挙げられるが、NAAが好ましい。
また、サイトカイニンとしてはBA(ベンジルアデニン)、ゼアチン(Zeatin)、カイネチン(Kinetin)、TDZ(チジアズロン)等が挙げられるが、BAが好ましい。
オーキシンの濃度は0.1〜10ppm、サイトカイニンの濃度は0.1〜10ppmの範囲が好ましい。これは、10ppmを超えると、不定胚を含む多芽体には、ほとんど誘導できなくなり、胚軸が枯死する確率が高くなるためである。
さらに、オーキシンの濃度を0.5〜5ppm、サイトカイニンの濃度を0.5〜5ppmとすると、不定胚を含む多芽体の誘導効率を上げることができる。
【0019】
上記培地に植えられた組織切片を、振とう培養により2週間程度培養することにより、カルスの形成とともに不定芽および不定胚が形成されはじめる。培養を継続するにつれて時間とともに多数の不定芽や不定胚からなる多芽体が形成されてくる。
形成された不定胚を含む多芽体を断片化し、上記培地を用いて継代培養することで、不定芽および不定胚を増殖させることができる。さらに、形成された不定胚や増殖させた不定胚を植物ホルモンが含まれていない寒天培地に置床することで、新たな不定胚の誘導とともに不定胚を生長させて完全な植物体を得ることができる。寒天培地の基本培地としてMS培地を用いるが、特に制限されるものではない。
【0020】
また、根の生長が不完全な植物体については、次の方法により発根を誘導し完全な植物体にすることができる。
すなわち、植物ホルモンを含まない寒天培地あるいは低濃度のオーキシンを含む寒天培地に、胚軸部分で切断した植物体を挿すことで発根させることができる。
発根用の寒天培地としてはMS培地や、これを1/2〜1/3に希釈した培地を用いるが、特に制限はされない。
【0021】
発根用に用いるオーキシンとしてはIAAやIBAが挙げられ、その濃度としては0〜2ppmの範囲が好ましい。特に、0〜0.5ppmの範囲とすると、発根の効率を上げることが可能になる。
さらに、胚様体の誘導や増殖段階で培地に含まれるサイトカイニンによって発根が抑制される場合には、発根に用いた寒天培地に再度移植することで発根を誘導する。発根した完全な植物体は、バーミュキュライト等に移植し過湿状態で一定期間馴化させる。新たな葉が展開する段階で培養土等に移植し、通常に生育させ開花させる。
【0022】
以上のように、本発明の実施の形態においては、液体培地を用いて最適な植物ホルモンを組合せることによって不定胚を含む多芽体を一段階で短期間に形成させることができる。
さらに、これらを直接あるいは増殖を経て不定胚を生長へと導くことで効率的に植物体を再生できる。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0024】
(実施例1)
普通ソバの栽培品種である「常陸秋ソバ」の種子のそば殻を取り、10粒ずつ一重にしたガーゼに包んだ。界面活性剤(シグマアルドリッチ社製、Tween20)を1滴加えた有効塩素濃度2%の次亜塩素酸ナトリウムで15分間滅菌した後、滅菌水で3回洗浄した。これらの種子を1/2MS無機塩にショ糖を3%添加した寒天培地に播種し、25℃、350 luxで1週間生育させた。
【0025】
生育した実生から胚軸部分を切り取り、切り取った胚軸を厚さ約5mmの切片にし、20mLの液体培地を分注した100mLの三角フラスコに液体培地に浮遊させた。液体培地は、MS培地に、オーキシンとして2,4−DとNAAを用い、サイトカイニンとしてBAを用い、これらを種々の濃度で組み合わせて添加した。胚軸切片を浮遊させたフラスコは、25 、350lux、24時間照明の培養室内で振とう培養した。
1ヵ月間の培養した結果を以下の表1と表2に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
表1、表2より明らかなように、NAAを2ppmとBAを2ppm含む培地を用いた場合には、カルスとともに不定芽と不定胚が誘導されることを示している。
さらに図示しない他の濃度の組み合わせの条件に従うと、NAAを0.1〜10ppmとBAを0.1〜10ppm含む培地を用いた場合は、同様にカルスとともに不定芽と不定胚が誘導される。NAAとBAが10ppmを超えると、胚軸切片が枯死する可能性があるため、望ましくない。
実際の効率としては、NAAを0.5〜5ppm、BAを0.5〜5ppmとするのが好ましい。
【0029】
また、NAAを2ppmとBAを2ppm含む培地で1ヶ月間培養した胚軸組織の状態を示す図1を参照すると、実際にカルスと共に不定芽と不定胚が誘導されていることが分かる。
【0030】
一方、2,4−DとBAを組合せた場合には表1に示すようにカルスのみが誘導された。
また、NAAや2,4−D単独では胚軸組織に変化が見られないことから、サイトカイニンが胚軸組織の培養には不可欠であることがわかる。
すなわち、ソバにおいては、サイトカイニンとオーキシンを最適な濃度で組み合わせることにより不定芽や不定胚を誘導できることが示された。
【0031】
(実施例2)
上述の実施例1と同様に育成した無菌の実生から、根を含む胚軸の下方部3分の1を切り落とした。
切断した胚軸部分をMS培地に植物ホルモンのIAAを0ppm,0.02ppm、0.2ppm、2ppmの4段階、BAを0ppmと2ppmの2段階の濃度で組み合わせて添加した8種類の寒天培地に軽く挿し込んだ。この上で、25℃ 、350lux、24時間照明に設定された培養室で静置培養した。
図2は、1週間後の胚軸からの発根率とIAAの濃度との関係を示すグラフである。縦軸が発根率で、横軸がIAA濃度を示している。BAの濃度が0ppmの結果を実線、BAの濃度が2ppmの結果を波線で示した。
この結果より、IAAを0.02ppm、BAを0ppmとするのがもっとも好ましいことが分かる。さらに、他の濃度の組み合わせの条件に従うと、発根の効率を上げるためにはIAAのみ0〜0.5ppmの範囲で添加するのが好ましいことが分かった。
【0032】
図2から、ソバの胚軸組織からは高い効率で根の発生を誘導できることが明らかとなった。
また、発根には低濃度のオーキシンが有効であること、サイトカイニンは発根を阻害することが示された。
【0033】
図2のグラフより発根が確認された培養液を示す図3を参照すると、各不定芽や不定胚が、確実に発根していることが分かる。
このように、根が発生した胚軸組織は、植物体の再生において、重要なステップとなる。
【0034】
(実施例3)
普通ソバとして「常陸秋ソバ」、「信濃夏ソバ」、「キタワセソバ」、「信州大ソバ」および「北海3号」を用いた。実施例1の方法に従い、胚軸切片を調整した。MS培地にNAAを2ppm、BAを2ppm添加した液体培地20mLを分注した100mLフラスコに、胚軸切片を浮遊させた。
胚軸切片を浮遊させたフラスコは、25 、350lux、24時間照明の培養室内で振とう培養した。
実験は各品種につき5反復行い、培養3週間目、4週間目および5週間目の不定芽と不定胚の発生率を表3に示した。
【0035】
【表3】

【0036】
表3から、供試した普通ソバの5品種全てにおいて胚軸組織から不定胚および不定芽が形成されることが明らかとなった。
また、不定芽および不定胚の発生率は品種により異なることも明らかとなった。
さらに、誘導される不定芽や不定胚は培養期間に伴って増加することが示された。すなわち、この培養方法が普通ソバに広く適用可能であることが示された。
【0037】
(実施例4)
実施例1で不定胚、不定芽およびカルスが誘導された胚軸組織を植物ホルモンが含まれていないMS寒天培地に移植した。
この上で、25℃ 、350lux、24時間照明の培養室内で静置して培養を行った。
この状態の培地を示す図である図4を参照すると、定期的に新たな培地に移植を繰返した結果、新たな不定芽や不定胚が次々と誘導されてくることが明らかとなった。
【0038】
(実施例5)
実施例1で形成された不定胚を植物ホルモンが含まれていないMS寒天培地に移植し、25 、350lux、24時間照明の培養室内で静置して培養を行った。
この結果を示す図5Aと図5Bを参照すると、不定胚が成長し、子葉と胚軸を持つ完全な植物体が得られた。
この植物体からは根も発生した。図6と図7を参照すると、この植物体は馴化処理を経て、温室内で開花に至った。このことから、胚軸組織から誘導された不定胚からは完全な植物体が得られることが明らかとなった。
すなわち、本発明の実施の形態に係る実施例により、ソバにおいて胚軸組織からin vitro で胚発生を経て植物体が再生することが可能となった。
【0039】
以上の、本発明の実施の形態における効果について、以下で更に説明を行う。
一般に、植物の組織培養においては、汎用性のある方法は知られていない。すなわち、植物種や培養に用いる組織などによって、無機塩の組成、添加物、植物ホルモンの種類や濃度、さらにはそれらの組み合わせなど最適な培養条件は異なる。
従って、対象とする植物毎に、培養に適した組織や培地、培養環境など、最適な条件が模索されている。
本発明の実施の形態においては、第一段階目の培養では、液体培養を用いることにより、安定したソバの組織培養を行うことができた。つまり、従来技術1又は2の寒天培地ではソバの場合は安定してカルス誘導を行うことが難しかったが、液体培地を用いることでこれが可能になった。
さらに、本発明の実施の形態においては、オーキシンとしてソバでは従来技術1又は2には用いられていなかったNAAを使用することで、ソバの胚発生を確実に誘導することが可能になった。
よって、本発明の実施の形態においては、in vitroで培養することにより、遺伝的修飾が容易な未分化組織を経て植物体を安定して再生させる技術を提供することができる。
【0040】
以上のように、本発明の実施の形態においては、ソバの胚軸組織からin vitroで植物体が短期間で得ることが可能になるという効果が得られる。
これにより、ソバの細胞工学的な改良や遺伝子工学的な改良、さらには突然変異による改良の基礎となる植物組織培養系を提供することで新たなソバの品種育成に途を開くことができるという効果を奏する。
【0041】
本発明の方法では組織学的に未分化な状態の細胞の状態を経由して植物が再生するため細胞工学的手法や遺伝子工学的手法による遺伝的修飾が適応しやすい。
すなわち、本発明によって培養突然変異の誘発や細胞融合、遺伝子操作などを可能とし、ソバの品種改良などの産業利用に途を開くという効果を奏する。
また、本発明は、栄養価の高いソバの品種改良に利用され、ソバの栽培適性の改良による栽培面積の拡大、収量性の向上による生産拡大、成分育種により機能性食品としての利用の拡大などを通じた産業利用が期待される。
【0042】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、ソバの改良のため、ソバの組織細胞から直接、あるいはカルスを経て植物体を再生させる技術に関するもので、ソバのin vitroにおける突然変異体の作出、大量増殖、細胞工学的改良、遺伝子組換え等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態に係るNAA2ppmとBA2ppmを含むMS液体培地で4週間後に誘導された不定芽と不定胚を含むカルスの写真である。
【図2】本発明の実施の形態に係るIAAとBAを加えたMS液体培地から1週間後の胚軸からの発根を調査した結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態に係るIAA0.02ppmを含むMS寒天培地での胚軸からの発根の写真である。
【図4】本発明の実施の形態に係る植物ホルモンを含まないMS寒天培地で不定胚の増殖の写真である。
【図5A】本発明の実施の形態に係る植物ホルモンを含まないMS寒天培地で不定胚から成長した植物体の写真である。
【図5B】本発明の実施の形態に係る植物ホルモンを含まないMS寒天培地で不定胚から成長した別の植物体の写真である。
【図6】本発明の実施の形態に係るバーミキュライトで馴化中の不定胚由来のソバ植物体の写真である。
【図7】本発明の実施の形態に係る温室で開花した不定胚由来のソバ植物体の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソバの胚軸組織をオーキシンとサイトカイニンを含む培地で培養し、不定芽と不定胚を誘導することを特徴とするソバの組織培養方法。
【請求項2】
前記オーキシンは0.1〜10ppmであることを特徴とする請求項1に記載のソバの組織培養方法。
【請求項3】
前記サイトカイニンは0.1〜10ppmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のソバの組織培養方法。
【請求項4】
前記不定芽と前記不定胚を誘導する際に、一段階で行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のソバの組織培養方法。
【請求項5】
前記培地は液体培地であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のソバの組織培養方法。
【請求項6】
前記不定胚を、前記オーキシンを含まない培地で培養し、前記不定胚を増殖させるか又は増殖させずに、植物体を再生させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載のソバの組織培養方法。
【請求項7】
前記不定胚を寒天培地に移植することで、胚軸組織から直接、不定根を発生させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載のソバの組織培養方法。
【請求項8】
前記寒天培地に、0ppmより多く2ppm以下のオーキシンをさらに加えることを特徴とする請求項7に記載のソバの組織培養方法。
【請求項9】
前記オーキシンはIAA(ヨード酢酸)であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1つに記載のソバの組織培養方法。
【請求項10】
前記オーキシンはNAA(ナフタレン酢酸)であることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1つに記載のソバの組織培養方法。
【請求項11】
前記サイトカイニンはBA(ベンジルアデニン)であることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか1つに記載のソバの組織培養方法。
【請求項12】
ソバの胚軸組織を0.1〜10ppmのIAA又はNAAと0.1〜10ppmのBAを含む液体培地で培養し、一段階で不定芽と不定胚を誘導し、
前記不定胚を、オーキシンを含まない培地で培養し、不定胚を増殖させるか又は増殖させずに再生したソバの植物体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−228609(P2008−228609A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70220(P2007−70220)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【Fターム(参考)】