説明

ソフトカプセル皮膜及びソフトカプセル

【課題】アミロースの割合が高いエンドウ澱粉を原料としながら、老化を抑制して成形性よく成形できるソフトカプセル皮膜を提供する。
【解決手段】ソフトカプセル皮膜は、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉、ゲル化剤、及び、可塑剤を含有する。上記において、ゲル化剤をイオタカラギーナンとし、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対し25重量部〜33重量部を含有させることができる。また、可塑剤をグリセリンとし、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対し44重量部〜47重量部を含有させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜基剤としてゼラチンを使用しないソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、ゼラチンを皮膜基剤とするソフトカプセル皮膜であって、エンドウ蛋白を含有させたソフトカプセル皮膜を提案している(特許文献1参照)。この技術によれば、高温・多湿下におけるソフトカプセル皮膜表面の粘着性を、十分に抑制することができる。そして、エンドウ蛋白を含有させたソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルは、粘着しにくい保存性の良さと、植物由来のエンドウ蛋白の良いイメージとが相まって、需要者から高く評価され支持されている。加えて、エンドウは、遺伝子組み換え作物が存在しない(遺伝子組み換えが認められていない)植物であり、且つ、アレルギーの原因となる食品として表示が義務付けられている食品又は表示が推奨されている食品にも該当しないため、経口摂取される用途の多いソフトカプセルの原料として、需要者が安心感を得やすいという利点も有している。
【0003】
一方、ソフトカプセルの皮膜基剤として多用されているゼラチンは、牛や豚などの動物を由来とするため、宗教上の理由や狂牛病(牛海綿状脳症)対策などにより敬遠される傾向があり、ゼラチンを使用することなく植物由来の原料で形成されたソフトカプセル皮膜が要請されている。そこで、本出願人は、ゼラチンを使用することなく、エンドウに由来する材料を主要な原料とするソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルを製造しようと考えるに至った。
【0004】
ここで、ロータリーダイ式によるソフトカプセルの製造では、フィルムがヒートシール性を有することが必要であるため、皮膜基剤にはフィルム形成能と温度変化でゾル・ゲル変化する性質の二つが必要である。ゼラチンは優れたフィルム形成能と常温に近い温度で可逆的にゾル・ゲル変化する性質とを兼ね備えている特異な物質であり、ゼラチンを使用しないとなると、フィルム形成能とゲル化能とをそれぞれ異なる物質に負担させることになる。
【0005】
従来、ゼラチンに代替して植物由来の原料でソフトカプセル皮膜を形成する試みとして、フィルム形成剤として澱粉を使用したものが種々提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。澱粉は緑色植物により光合成される多糖類で、根、茎、種子、果実などに貯蔵されており、工業的にはトウモロコシ、小麦、タピオカ、米、ジャガイモ、豆類などから取り出されている。そこで、エンドウに由来する材料を主要な原料とするソフトカプセル皮膜を製造するという上記目的のために、エンドウに由来する澱粉をフィルム形成剤として使用することを想到し得る。
【0006】
しかしながら、一般的に、澱粉はブドウ糖を基本単位として直鎖状に重合したアミロース成分と、分枝構造を有するアミロペクチン成分とを有するところ、図1に示すように、エンドウ由来の澱粉は、他の植物に由来する澱粉に比べてアミロースの割合が高い。そして、アミロースの割合が高い澱粉は、糊液が老化しやすいという性質がある。ここで、澱粉を水中に懸濁させて加熱すると、澱粉の分子間に水分子が浸入して膨潤し、澱粉の結晶構造が崩壊して透明で高粘度の糊液となるが(糊化)、この糊液を冷却すると、水中に分散した澱粉の分子が再び結晶化することにより、澱粉の分子間に保持されていた水が放出され、低粘度の白濁した液となる。この現象を糊液の「老化」と称している。従って、アミロースの割合が高いエンドウ澱粉から糊液を調製した場合、糊液が老化しやすいため、澱粉の分散状態が不均一となりやすく、粘度も変化しやすい。そして、このように老化しやすく安定性が低い糊液から、ソフトカプセル皮膜を成形することは困難である。
【0007】
そのため、フィルム形成剤として澱粉を使用している従来技術では、アミロースの割合がエンドウほど高くないタピオカ、トウモロコシ、ジャガイモ等に由来する澱粉を原料とするのが一般的である。例えば、特許文献2は、フィルム形成剤としてヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピル化酸改質タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピル化メイズスターチ、ヒドロキシプロピル化酸改質コーンスターチ等から選ばれる少なくとも一種を使用するものであり、特許文献3は、フィルム形成剤として酸処理ヒドロキシプロピル化タピオカデンプン、酸処理ヒドロキシプロピル化トウモロコシデンプン、酸処理ヒドロキシプロピル化バイレショデンプン及び酸処理ヒドロキシプロピル化小麦デンプンから選ばれる一種類以上を使用するものである。その他、由来植物を特に限定していない従来文献であっても、実施形態としてはエンドウ以外の植物に由来する澱粉を使用する例を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、アミロースの割合が高いエンドウ澱粉を原料としながら、老化を抑制して成形性よく成形できるソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルの提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるソフトカプセル皮膜は、「酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉、ゲル化剤、及び、可塑剤を含有する」ものである。
【0010】
本発明者らは検討の結果、アミロースの割合の高いエンドウ澱粉であっても、ヒドロキシプロピル化され、且つ、酸処理されたエンドウ澱粉を使用することにより、糊液が老化しにくく安定性に優れており、ソフトカプセル皮膜の成形における流延工程に適した粘度の液(カプセル皮膜液)を調製でき、成形性よくソフトカプセルを成形できることを見出し、本発明に至ったものである。ここで、ヒドロキシプロピル化は、澱粉のグルコース残基にヒドロキシプロピル基を導入したものであり、ヒドロキシプロピル基の存在により親水性が増し糊化温度が低下すると共に、フィルム形成能が増大すると考えられる。また、「酸処理」は、希塩酸や希硫酸等の希薄な酸に、原料となる澱粉粒子を糊化しない温度下で所定時間浸漬した後、中和、水洗、乾燥することにより行われる。澱粉を酸処理することにより、澱粉粒の非晶質部が優先的に分解し、短鎖化する。
【0011】
一般的に、澱粉の酸処理により、糊液の粘度は低下するが、老化しやすくなると言われている。本発明では、本来的に老化しやすいエンドウ澱粉を使用しながら、老化しにくいカプセル皮膜液から成形できるソフトカプセル皮膜を提供することを課題としているが、意外にも、一般的には澱粉が老化しやすくなる酸処理を、ヒドロキシプロピル化と組み合わせることにより、エンドウ澱粉から老化しにくいカプセル皮膜液が得られることが見出されたことは意義が高い。
【0012】
なお、「ゲル化剤」としては、例えば、イオタカラギーナン、カッパカラギーナン、ラムダカラギーナンを、単独又は併用して使用することができる。また、「可塑剤」としては、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、ポリエチレングリコール等を、単独又は併用して使用することができる。
【0013】
本発明にかかるソフトカプセル皮膜は、上記構成に加え、「前記ゲル化剤はイオタカラギーナンであり、前記酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対し25重量部〜33重量部を含有する」ものとすることができる。
【0014】
ゲル化剤としてイオタカラギーナンを使用し、その割合を上記範囲とすることにより、詳細は後述するように、流延などソフトカプセル皮膜を成形する工程におけるハンドリングがし易いカプセル皮膜液から、ロータリーダイ式成形の際に十分にヒートシールされるソフトカプセル皮膜を成形することができる。ここで、イオタカラギーナンの割合が小さい場合は、ヒートシールによるソフトカプセル皮膜の接着が不十分となる。一方、イオタカラギーナンの割合が高い場合は、カプセル皮膜液の粘度が高くなり成形性が低下する。なお、イオタカラギーナンの割合は、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対し28〜30重量部であれば、成形の際のハンドリングが極めて良好であり、より望ましい。
【0015】
本発明にかかるソフトカプセル皮膜は、上記構成に加え、「前記可塑剤はグリセリンであり、前記酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対し44重量部〜47重量部を含有する」ものとすることができる。
【0016】
ゼラチンを皮膜基剤とする従来のソフトカプセルでは、可塑剤の添加量はゼラチン100重量部に対し25〜100重量部という広い範囲として、正常なソフトカプセル皮膜を成形することが可能である。検討の結果、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉を皮膜基剤とする場合、ゼラチンを皮膜基剤とする場合に比べて非常に鋭敏に、可塑剤の添加量がソフトカプセル皮膜の性状に影響することが分かった。上記のように酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対して可塑剤を44重量部〜47重量部とすることにより、詳細は後述するように、乾燥後に割れや変形が生じにくく、且つ、カプセル同士の付着が抑制されたソフトカプセル皮膜が得られる。ここで、グリセリンの割合が小さい場合は、ソフトカプセル皮膜が柔軟性に乏しく割れが生じ易いものとなる。一方、グリセリンの割合が高い場合は、ソフトカプセル皮膜が伸びて変形しやすく、皮膜表面がべたついてカプセル同士が付着しやすいものとなる。なお、グリセリンの割合は、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対し44〜46重量部であれば成形の際のハンドリングが極めて良好であると共に、割れや変形のない正常なカプセル皮膜を高い収率で成形することができ、より望ましい。
【0017】
次に、本発明にかかるソフトカプセルは、「上記に記載のソフトカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセル」である。
【0018】
「内容物」は、特に限定されるものではなく、医薬成分、健康食品成分、栄養補助成分などの目的物質を、油脂または油状物質に溶解又は懸濁させたもの、或いは、上記の目的物質自体が油状やペースト状であるものを使用することができる。
【0019】
本発明により、ゼラチンを使用することなく、遺伝子組み換え作物が存在せず、且つ、アレルギーの原因となる食品として表示が義務付けられている食品又は表示が推奨されている食品にも該当しないエンドウを原料とする澱粉をフィルム形成剤として使用していることにより、需要者が安心感を得やすいソフトカプセルを提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の効果として、アミロースの割合が高いエンドウ澱粉を原料としながら、老化を抑制して成形性よく成形できるソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】アミロースの割合を由来植物の種類が異なる澱粉で比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態であるソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルについて説明する。
【0023】
本実施形態のソフトカプセル皮膜は、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉、ゲル化剤、及び、可塑剤を含有する。より具体的には、ゲル化剤として、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対し25重量部〜33重量部のイオタカラギーナンを含有し、可塑剤として、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対し44重量部〜47重量部のグリセリンを含有する。
【0024】
このようなソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルは、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対し25重量部〜33重量部のイオタカラギーナン、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対し44重量部〜47重量部のグリセリン、及び、水を含有するカプセル皮膜液を調製し、下記のようにロータリーダイ式成形装置を用いて成形することにより、得ることができる。
【0025】
ロータリーダイ式成形装置は、一般的に、カプセル皮膜液をフィルム状に成形するキャスティングドラムと、外表面に成形鋳型が形成された一対のダイロールと、ダイロール間に配されたくさび状のセグメントと、セグメント内に内容物を圧入すると共にセグメントの先端から内容物を押し出すポンプとを主に具備している。
【0026】
そして、成形の工程では、まず、カプセル皮膜液が、キャスティングドラム表面に流延され、ゲル化することによりフィルム化される。次に、形成されたフィルムの二枚が、セグメントに沿って一対のダイロール間に送入される。そして、一対のダイロールの相反する方向への回転に伴い、二枚のフィルムがヒートシールされて上方に開放したカプセルが形成されると、この中にセグメントから押し出された内容物が充填される。これと同時に、二枚のフィルムが上部でヒートシールされ、閉じた内部空間に内容物が充填されたソフトカプセルが形成される。
【0027】
なお、成形されたソフトカプセルは、所定の水分含有率となるまで調湿乾燥機内で乾燥させることができる。
【0028】
次に、本実施形態のソフトカプセル皮膜を、上記組成とした根拠について説明する。まず、未加工のエンドウ澱粉(S1)、及び、加工処理の方法が異なる5種類の加工エンドウ澱粉、すなわち、リン酸架橋エンドウ澱粉(S2)、アセチル化エンドウ澱粉(S3)、アセチル化したエンドウ澱粉を更に酸処理した酸処理アセチル化エンドウ澱粉(S4)、ヒドロキシプロピル化したエンドウ澱粉を酸処理した酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉(S5)、及び、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉をα化したα化・酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉(S6)について、ロータリーダイ式成形法に適した実用的な粘度、及び、安定性を有する糊液が調製可能であるか否かの検討を行った。ここで、糊液の調製は、分散媒を水とする30質量%の澱粉懸濁液を、沸騰湯浴中で加熱しながら撹拌することにより行った。なお、S6については糊化のために加熱する必要はないが、S1〜S5と同条件で加熱した。
【0029】
粘度測定は、B型粘度計を使用し(No.4ローター,回転速度60rpm)、測定温度90℃で行った。また、上記の糊液をカプセル皮膜液とし、ロータリーダイ式成形装置を用いて、内容物として油脂が充填されたソフトカプセル(フットボール型,No.5)を成形した。成形において、フィルム化まで糊液が安定しているか否かにより、糊液の「老化のしにくさ」を評価した。これらの検討結果を、表1に示す。なお、S1〜S6は、何れも黄色エンドウの子実を乾燥、粉砕した粉末から外皮を除去した後、水を加えて分離させたエンドウ澱粉を原料としている。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示したように、未加工のエンドウ澱粉S1、リン酸架橋エンドウ澱粉S2、及び、アセチル化エンドウ澱粉S3から調製した糊液は、粘度が高く分散状態も不均一であり、カプセル皮膜液として適していなかった。また、酸処理アセチル化エンドウ澱粉S4からは均一な糊液を調製することができ、粘度も900mPa・sとロータリーダイ式成形における流延に適した粘度であったが、糊液が老化しやすくゲル化が速過ぎることにより、フィルムが白濁すると共に、澱粉由来の粘着性が不十分となりキャスティングドラム表面から剥離した。一方、酸処理ヒドロキシプロプル化エンドウ澱粉S5、及び、α化・酸処理ヒドロキシプロプル化エンドウ澱粉S6からは、均一な糊液を調製することができ、粘度もそれぞれ500mPa・sと流延に適した粘度であると共に、フィルム化の完了まで糊液が安定しており、正常にソフトカプセルを成形することができた。
【0032】
従って、アミロースの割合が高いエンドウ澱粉であっても、ヒドロキシプロプル化、及び、酸処理を施すことにより、糊液の老化が抑制されていると考えられた。そして、酸処理ヒドロキシプロプル化エンドウ澱粉の糊液は、未加工のエンドウ澱粉及び他の加工を施したエンドウ澱粉より低い粘度であり、ロータリーダイ式成形における流延に適していた。すなわち、酸処理ヒドロキシプロプル化エンドウ澱粉は、α化の有無によらず、水を分散媒とする30重量%の懸濁液が90℃において500mPa・sの粘度を示すものであった。
【0033】
次に、イオタカラギーナンの割合について検討した結果を示す。まず、酸処理ヒドロキシプロプル化エンドウ澱粉100重量部に対し、可塑剤(グリセリン)の割合を45重量部と一定とし、イオタカラギーナンの割合の異なる組成R1−1〜R1−6のカプセル皮膜液を調製した。調製されたカプセル皮膜液を使用し、ロータリーダイ式成形装置により、内容物として油脂が充填されたソフトカプセル(フットボール型,No.5)を成形した。下記の方法で、成形性及びソフトカプセル皮膜の性状を評価した。各組成と評価結果を表2に示す。
【0034】
<成形性の評価>
流延により均一な厚さのフィルムを成形できるか否か、及び、成形の際のハンドリングのしやすさを総合的に評価し、「◎」(非常に良好)、「○」(良好)、「△」(やや不良)、「不良」(×)で評価した。
<ソフトカプセル皮膜の性状の評価>
成形されたソフトカプセル皮膜の外観を肉眼で観察し、ヒートシールによる封止が十分に行われ内容物の漏出がないと共に、つぶれ等の変形や割れがなく、正常に成形されているソフトカプセルの個数が、成形したソフトカプセルの全個数に占める割合が、95%以上の場合を「◎」(非常に良好)、90%以上95%未満の場合を「○」(良好)、80%以上90%未満の場合を「△」(やや不良)、80%未満の場合を「×」(不良)と評価した。
【0035】
【表2】

【0036】
表2に示したように、酸処理ヒドロキシプロプル化エンドウ澱粉100重量部に対して、ゲル化剤であるイオタカラギーナンが22重量部の組成R1−1は、成形されたフィルムの厚さが不均一であり、ヒートシールによるソフトカプセル皮膜の封止も不十分であった。また、イオタカラギーナンの割合が35重量部の組成R1−6では、カプセル皮膜液の粘度が高過ぎハンドリングがしにくいと共に、所定時間以上は安定した成形を行うことが困難であり、それが正常に成形できたカプセルの個数に影響した。一方、イオタカラギーナンの割合が25〜33重量部の組成R1−2〜R1−5では、成形性が極めて良好または良好であると共に、成形されたソフトカプセル皮膜の性状も良好であり、ソフトカプセル皮膜の組成として適していると考えられた。特に、イオタカラギーナンの割合が28〜30重量部の組成R1−3及びR1−4は、95%以上の高い収率で正常なカプセルを成形することができ、より好適であると考えられた。
【0037】
次に、グリセリンの割合について検討した結果を示す。イオタカラギーナンの割合を、上記の好適な範囲内である28重量部と一定とし、酸処理ヒドロキシプロプル化エンドウ澱粉100重量部に対する、グリセリンの割合の異なる組成R2−1〜R2−6のカプセル皮膜液を調製し、ロータリーダイ式成形装置を用いて、内容物として油脂が充填されたソフトカプセル(フットボール型,No.5)を成形した。各組成について、上記と同様に成形性及びソフトカプセル皮膜の性状を評価した。加えて、下記の方法でソフトカプセルの強度を評価した。各組成及び評価結果を表3に併せて示す。
【0038】
<ソフトカプセルの強度の評価>
正常に成形された(内容物の漏出、変形、割れがない)ソフトカプセル100粒をアルミニウムシート製の袋に入れ、1mの高さから10回自由落下させた後に、ソフトカプセル皮膜の割れや変形(つぶれ)を肉眼で観察した。全てのソフトカプセルにおいて割れやつぶれが確認されなかった場合を「○」(良好)、割れやつぶれが観察されたソフトカプセルが1〜4個の場合を「△」(やや不良)、割れやつぶれが観察されたソフトカプセルが5個以上の場合の場合を「×」(不良)と評価した。
【0039】
【表3】

【0040】
表3から明らかなように、酸処理ヒドロキシプロプル化エンドウ澱粉100重量部に対して、グリセリンが43重量部の組成R2−1は、成形性及びソフトカプセル皮膜の性状は良好であったものの、強度試験においてソフトカプセル皮膜に割れが発生した。また、グリセリンの割合が48重量部の組成R2−6では、ソフトカプセル皮膜の表面がべたつきやすく、成形性がやや不良であると共に、成形後のソフトカプセル皮膜に伸びによる変形が生じ易く、強度試験においてつぶれるソフトカプセルが発生した。一方、グリセリンの割合が44〜47重量部の組成S2−2〜S2−5は、成形性、ソフトカプセル皮膜の性状、及びソフトカプセルの強度において、極めて良好または良好であり、ソフトカプセル皮膜の組成として適していると考えられた。特に、グリセリンの割合が44〜46重量部の組成R2−2〜R2−4は、成形性及びソフトカプセルの強度に優れており、より好適であると考えられた。グリセリンの割合として好適またはより好適であるこのような範囲は、ゼラチンを皮膜基剤とする従来のソフトカプセルにおいて可塑剤の割合として可能な範囲(ゼラチン100重量部に対し可塑剤25〜100重量部)に比べると、非常に狭い範囲である。
【0041】
上記の結果より、好適な組成と考えられた組成S1−2〜S1−5及びS2−2〜S2−5のソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルを、ソフトカプセル皮膜中の水分含有率が約7重量%となるまで乾燥した。乾燥後のソフトカプセルをガラス瓶に収容し、温度40℃、相対湿度75%の恒温調湿槽内で2カ月間保存した。保存の前後で崩壊性の評価を行うと共に、保存後に内容物の漏出の有無、付着性、及び、透明性の評価を行った。ここで、崩壊性の評価は、日本薬局方の規定に則って崩壊試験を行い、20分以内に崩壊した場合を「○」、それ以外を「×」で評価した。また、内容物の漏出の有無の評価は、目視で観察することにより行い、内容物の漏出が認められたソフトカプセルが1個も存在しなかった場合を「○」で、内容物の漏出が確認されたソフトカプセルが1個でも存在した場合を「×」で評価した。また、付着性の評価は同じく目視で観察することにより行い、カプセル同士の付着が全く確認されなかった場合を「○」、一部でも付着が確認された場合を「×」で評価した。また、透明性の評価も目視で観察することにより行い、ソフトカプセル皮膜が透明な場合を「○」、やや不透明な場合を「△」で評価した。これらの評価結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
表4に示したように、本実施形態のソフトカプセル皮膜を供えるソフトカプセルは、何れも良好な崩壊性を示し、保存に伴う崩壊性の低下、内容物の漏出、カプセル同士の付着、透明性の低下もなく、実用的なソフトカプセルであった。
【0044】
上記のように、本実施形態によれば、ゼラチンを使用することなく、植物由来であると共に、遺伝子組み換え作物が存在せずアレルギーの原因となる食品として表示が義務付けられ又は推奨された食品にも該当しないことから、需要者に安心感を与え受け容れられやすいエンドウ澱粉を原料とするソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を供えるソフトカプセルを提供することができる。
【0045】
そして、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉をフィルム形成剤として使用することにより、アミロースの割合が大きいために本来は糊液が老化しやすいエンドウ澱粉を原料としながら、成形性よくソフトカプセルを成形することができる。加えて、本実施形態のソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルは、割れや変形、内容物の漏出がなく、崩壊性に優れていると共に、保存性も良好であり、カプセル同士の付着性も抑制されていた。
【0046】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0047】
例えば、酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉として、既にα化処理されたα化・酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉を使用することができる。その場合は、必ずしも加熱を要することなく糊液が得られ、カプセル皮膜液を容易に、かつ、時間及びエネルギーの点で効率的に、調製することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0048】
【特許文献1】特許第3802550号公報
【特許文献2】特表2003−504326号公報
【特許文献3】特開2005−112849号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉、ゲル化剤、及び、可塑剤を含有するソフトカプセル皮膜。
【請求項2】
前記ゲル化剤はイオタカラギーナンであり、前記酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対し25重量部〜33重量部を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載のソフトカプセル皮膜。
【請求項3】
前記可塑剤はグリセリンであり、前記酸処理ヒドロキシプロピル化エンドウ澱粉100重量部に対し44重量部〜47重量部を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のソフトカプセル皮膜。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載のソフトカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセル。

【図1】
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【公開番号】特開2012−144504(P2012−144504A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6256(P2011−6256)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(503315676)中日本カプセル 株式会社 (9)
【Fターム(参考)】