説明

ソレノイドの唸り防止装置

【課題】固定鉄心と可動鉄心との吸着状態における、可動鉄心の振動による唸りの発生を防止するソレノイドの唸り防止装置を提供すること。
【解決手段】可動鉄心12の吸着面121に、固定鉄心11のクマドリコイル用の溝112より内側の位置において凹状面122を形成する。凹状面122は、周縁部に、吸着面121から底面122aに向かって先細り状のテーパ面122bを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固定鉄心と可動鉄心とを有するソレノイドにおいて、クマドリコイルを装着した固定鉄心に、可動鉄心が吸着する際に発生する唸り音を防止するソレノイドの唸り防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、交流ソレノイドでは、固定鉄心と可動鉄心とが吸着状態にあるとき、吸引力が0から最大値まで2倍の周波数で脈動している。そのため、可動鉄心に負荷をかけると吸引力の低下した時点で、可動鉄心が固定鉄心から離脱し、吸引力が最大の時点で可動鉄心が固定鉄心に吸着することがある。このため、可動鉄心が固定鉄心に吸着状態にあるときに、可動鉄心の固定鉄心への離脱・吸着を繰り返して振動することがある。このことが騒音の要因となることから、通常、固定鉄心の吸着面にリング状の溝を形成して、溝内に電気抵抗の低い銅又は銅合金等で形成された短絡線を装着することがある。これが一般にクマドリコイルと呼ばれていて、このクマドリコイルを装着することによって、線輪内の磁束と外部の磁束との間に位相差を持たせて合成吸引力が0まで下がらないように最低限の吸着力を上げている。
【0003】
従来においては、クマドリコイルを装着した例が、特許文献1によって知られている。
【特許文献1】特開平11−238621号公報(2〜3頁、図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献によれば、この発明はクマドリコイルの耐久性を向上するために、固定鉄心側でその改良を施していた。しかし、クマドリコイルを装着する場合、図6に示すように、固定鉄心21の吸着面211が太鼓状に形成されていると、可動鉄心22との吸着面221が点当たりとなって吸着面のギャップが大きくなるという問題を生じることとなる。このことは、固定鉄心21にクマドリコイル23を装着してもその効果が得られにくく、可動鉄心の振動による騒音を防止することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、固定鉄心と可動鉄心との吸着面のギャップをできるだけ小さく形成して、ソレノイドの唸りを防止できるソレノイドの唸り防止装置を提供することを目的とする。
【0006】
そのために本発明に係るソレノイドの唸り防止装置は、以下のように構成するものである。すなわち、
請求項1記載の発明では、固定鉄心と、該固定鉄心に対して接近離隔する方向に移動される可動鉄心と、を備えたソレノイドの唸り防止装置であって、
前記固定鉄心における前記可動鉄心との吸着面に、クマドリコイル用の溝がリング状に形成され、
前記可動鉄心の吸着面に、僅少寸法の深さを有する凹状面が形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2記載の発明では、前記凹状面が、前記可動鉄心の吸着面から延設する先細り状のテーパ面を有して形成されていることを特徴としている。
【0008】
請求項3記載の発明では、前記凹状面には油密着防止用の溝が形成されていることを特徴としている。
【0009】
請求項4記載の発明では、前記凹状面の深さが、20〜100μmであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固定鉄心の吸着面が、可動鉄心側に突出する僅少寸法の高さを有する突出面が太鼓状に形成されている場合に、固定鉄心の吸着面は、その可動鉄心の凹状面に吸収されて、可動鉄心の凹状面底部と周縁部で吸着面を形成することになる。従って、吸着面のギャップを小さくすることができ、吸着力を増すことができる。そのため、固定鉄心と可動鉄心の吸着状態において、クマドリコイルを装着して最低限の吸引力を上げるようにした場合、その最低限の吸引力を下げないように維持することができる。これによって、吸着時における可動鉄心の振動を防止して唸りの発生を防止することができる。
【0011】
また、この凹状面は、固定鉄心の太鼓状の突出面をできるだけ効率的に吸収するためには、吸着面から凹状面の底部に向かって先細り状のテーパ面を有していることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の一実施形態によるソレノイドの唸り防止装置を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1はソレノイドの主要断面図であり、主にソレノイドのチューブアッシ部位を示している。図1において、固定鉄心11と可動鉄心12を備えるチューブアッシ10は、励磁コイル6を含むコイルアッシ5(二点鎖線で示す)に内嵌されている。固定鉄心11と可動鉄心12とは、薄肉円筒状のパイプ13内に収納され、可動鉄心12が固定鉄心11に対して吸着できるようにパイプ13内で摺動可能に配置されている。
【0014】
パイプ13は下部において固定鉄心11と一体的に結合され、上部においてストッパ部材15と一体的に結合されている。
【0015】
固定鉄心11の可動鉄心12側に形成される吸着面111には、図1〜2に示すように、クマドリコイル用の溝112がリング状に形成され、クマドリコイル17が挿入されている。また、固定鉄心11の中央部にはピン挿入孔113が形成され、可動鉄心12に連結する図示しない可動ピンが挿入される。
【0016】
なお、ここで固定鉄心の吸着面111には何らかの要因で可動鉄心12側に突出する太鼓面が形成されている場合がある。この場合、この太鼓面の最大高さは、10〜200μmの範囲で形成されている。
【0017】
この太鼓面が形成されることによって、固定鉄心11と可動鉄心12との吸着面が点当りとなってギャップが生じることとなる。そのため、可動鉄心12の吸着面121には、固定鉄心11の太鼓面を吸収する吸収手段を形成して唸り防止装置を構成している。
【0018】
実施形態においては、例えば、図3に示すように、可動鉄心12の吸着面121には、固定鉄心11のクマドリコイル用の溝112より内側の部位あるいは溝112を跨って、吸着面121から、図3中、上方に向かって凹状面122を形成する。なお、可動鉄心12の吸着面121には、固定鉄心11との吸着状態から離隔する際に、油の密着を防止するための油密着防止の溝123がリング状に形成されている。この溝は、断面V字状又はU字状あるいは可動鉄心12の吸着面121側から見て、十字状に形成されていてもよい。なお、図例においては、凹状面122内において断面V字状に形成されている。
【0019】
凹状面122は、図3〜4に示すように、周縁部が吸着面121から凹状面122の底面122aに向かって先細り状に延設するテーパ面122bが形成されている。これによって、固定鉄心11の吸着面111とのギャップを少なくすることができる。この場合、凹状面122の深さは、可動鉄心12の径がφ10〜20mmにおいて、固定鉄心11の太鼓面より僅かに大きく形成され、20〜100μmの範囲でほぼ形成される。これによって、固定鉄心11の吸着面111は、可動鉄心12の凹状面122の底面122a又はテーパ面122bと、可動鉄心12の吸着面121における周縁部の一部とが接触することとなり吸着面のギャップを少なくすることとなる。
【0020】
なお、可動鉄心12には、図3〜4に示すように、外周面から中心部に向かって4箇所の油通し溝124が等間隔で形成されている。この油通し溝124は、可動鉄心12の断面視において1〜3箇所でもよく、また、可動鉄心12の軸方向に貫通する1箇所又は2箇所以上の貫通孔に形成されていてもよい。
【0021】
また、図5に示すように、可動鉄心12に形成された凹状面125が、その外周縁部をV字状の溝123の内周縁部にかかるように形成したものであってもよい。この場合、凹状面125の底面125aはV字状の溝123の内周縁部に連接している。従って、固定鉄心11の太鼓面は可動鉄心12の凹状面125の底面125a又はV字状の溝123の内壁に接触することとなる。なお、凹状面125の深さは、図4に示す形態と同様20〜100μmの範囲で形成される。
【0022】
次に、上述のように構成されたソレノイド1の作用について説明する。ソレノイド1には、固定鉄心11の反吸着側にねじ部181を有する装着部13が形成されていて、ねじ部181を図示しないバルブに取り付ける。一方、ストッパ部材15には、プッシュピン19が挿入されていて、可動鉄心12を手動で強制的に吸着位置に移動できるように規制している。
【0023】
そして、可動鉄心12が、固定鉄心11との吸着を解除している状態において、励磁コイル6を作動させると可動鉄心12は固定鉄心11に接近して吸着面121を固定鉄心11の吸着面111に吸着させる。この際、固定鉄心11の吸着面111に形成された太鼓面は、可動鉄心12の凹状面122に挿入されて凹状面122の底面122a又はテーパ面122bと吸着面121の外周縁部の一部に接触することになる。そのため、固定鉄心11と可動鉄心12との吸着状態における、固定鉄心11の吸着面111と可動鉄心12の吸着面121とのギャップは少なくなる。
【0024】
一方、クマドリコイル17を装着した固定鉄心11は、クマドリコイル17が銅又は銅合金等の材料で形成していることから、クマドリコイル17の内部を通る磁束とその外部との磁束との位相差を持つことができて、合成吸引力が0まで下がらないように最低の吸引力を向上させている。この最低の吸引力を、固定鉄心11と可動鉄心12との吸着面のギャップを少なくすることによって維持することになる。
【0025】
上述のように、実施形態のソレノイドの唸り防止装置は、可動鉄心12の吸着面121に僅少寸法の深さの凹状面122を形成することによって、固定鉄心11と可動鉄心12との吸着面のギャップを少なくすることができるから、クマドリコイル17を装着した状態で、吸着状態における可動鉄心12の振動を防止することができソレノイドの唸りを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ソレノイドのチューブアッシを示す断面図である。
【図2】図1における固定鉄心の吸着面を示す平面図である。
【図3】本発明の一形態による固定鉄心と可動鉄心との吸着状態を示す側面断面図である。
【図4】図3における可動鉄心の吸着面を示す底面図である。
【図5】本発明の別の形態の可動鉄心の吸着面を示す側面断面図である。
【図6】従来の固定鉄心と可動鉄心との吸着状態を示す一部断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1、ソレノイド
10、チューブアッシ
11、固定鉄心
111、吸着面
112、クマドリコイル用の溝
12、可動鉄心
121、吸着面
122、凹状面
122a、底面
122b、テーパ面
123、溝
17、クマドリコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定鉄心と、該固定鉄心に対して接近離隔する方向に移動される可動鉄心と、を備えたソレノイドの唸り防止装置であって、
前記固定鉄心における前記可動鉄心との吸着面に、クマドリコイル用の溝がリング状に形成され、
前記可動鉄心の吸着面に、僅少寸法の深さを有する凹状面が形成されていることを特徴とするソレノイドの唸り防止装置。
【請求項2】
前記凹状面が、前記可動鉄心の吸着面から延設する先細り状のテーパ面を有して形成されていることを特徴とする請求項1記載のソレノイドの唸り防止装置。
【請求項3】
前記凹状面には油密着防止用の溝が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のソレノイドの唸り防止装置。
【請求項4】
前記凹状面の深さが、20〜100μmであることを特徴とする請求項1,2又は3のいずれかに記載のソレノイドの唸り防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−129139(P2007−129139A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322164(P2005−322164)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000176958)三明電機株式会社 (37)
【Fターム(参考)】