説明

タイヤサイドウォール用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】本発明は、老化防止剤のブルーム現象等によるサイドウォールの外観変化を防止でき、更に、機械的強度や耐疲労性等のゴム物性に優れるタイヤサイドウォール用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ハロゲン化ブチルゴムとジエン系ゴムとを含有するゴム100質量部と、特定の化合物0.5〜10質量部とを含有するタイヤサイドウォール用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤサイドウォール用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤには、原料ゴムとして天然ゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムが用いられているので、オゾンや酸素による老化防止を目的として、原料ゴムにアミン系老化防止剤、パラフィン系のワックス等を多量に配合したゴム組成物が用いられている。
【0003】
しかし、これらの老化防止剤は、その性質上、ゴム表面にブルームすることでゴムの劣化を防いでいるので、保管中または走行中にタイヤ表面が変色したり、外観を著しく悪化させる原因となる。かかる問題は、外観の美しさが要求されるサイドウォール部においては重大な問題となる。
また、サイドウォール部は自動車が走行する際に最も屈曲の激しい部分であるので、タイヤサイドウォール用ゴム組成物には繰り返しの屈曲に対してもゴム物性を維持できる特性(以下、「耐疲労性」という。)が要求されている。
【0004】
一方、ブチルゴムや非ジエン系ゴムをブレンドすることにより、老化防止剤を減量または未添加にして外観を向上する方法が提案されている(特許文献1参照。)。特に、サイドウォール部を非黒色(例えば、白、灰または有彩色)にする場合、サイドウォールに汚染性の老化防止剤を配合することができないため、この方法が有効である。
【0005】
【特許文献1】特開昭55−3478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来より、ハロゲン化ブチルゴムや非ジエン系ゴムとジエン系ゴムとは共架橋することはできなかった。そのため、特許文献1の方法のようにブチルゴムや非ジエン系ゴムをブレンドした場合、これらのゴムとジエン系ゴムとが結合されていないため、破断強度や耐屈曲疲労性等のゴム物性が低下するという問題があった。
また、ホワイトサイドウォール用のゴム組成物にはカーボンブラックを用いることができないため、モジュラス等の物性が劣るという問題があった。
【0007】
本発明は、老化防止剤のブルーム現象等によるサイドウォールの外観変化を防止でき、更に、機械的強度や耐疲労性等のゴム物性に優れるタイヤサイドウォール用ゴム組成物を提供することを目的とする。また、それを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、ハロゲン化ブチルゴムとジエン系ゴムとを含むブレンドゴムと、特定の架橋剤とを含有することにより、上記目的を達成できるタイヤサイドウォール用ゴム組成物となることを知見し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(5)を提供する。
【0009】
(1)ハロゲン化ブチルゴムとジエン系ゴムとを含有するゴム100質量部と、
下記式(1)で表される化合物0.5〜10質量部とを
含有するタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Zは、活性水素含有基を表し、Xは、置換基を有していてもよく、かつ、SO2、O、NおよびSからなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい、炭素数1〜24個の有機基を表し、Aは、活性水素を有さず、かつ置換基を有していてもよい炭素数1〜24個の有機基を表し、nは、1〜4の整数を表す。)
【0012】
(2)前記Xで表される有機基が、芳香族基または複素環基である上記(1)に記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【0013】
(3)前記Zで表される活性水素含有基が、カルボキシ基、イミノ基またはアミノ基である上記(1)または(2)に記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【0014】
(4)非黒色である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【0015】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物をサイドウォール部に用いた空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0016】
本発明のタイヤサイドウォール用ゴム組成物は、老化防止剤のブルーム現象等によるサイドウォールの外観変化を防止でき、更に、機械的強度や耐疲労性等のゴム物性に優れる。
また、本発明の空気入りタイヤは、サイドウォール部に要求される機械的強度や耐疲労性等のゴム物性を満足し、更に、老化防止剤によるサイドウォール部の汚染を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のタイヤサイドウォール用ゴム組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)は、ハロゲン化ブチルゴムとジエン系ゴムとを含有するゴム100質量部と、上記式(1)で表される化合物0.5〜10質量部とを含有するものである。
【0018】
本発明の組成物に用いられるゴムは、ハロゲン化ブチルゴムとジエン系ゴムとを含有する。
【0019】
ハロゲン化ブチルゴムとしては、例えば、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)等が挙げられる。これらの重量平均分子量は、5万超が好ましく、10万以上であることがより好ましい。
【0020】
ジエン系ゴムとしては、特に限定されないが、具体的には、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
中でも、NR、IR、BRおよびSBRが、安価で、物性に優れる点から好ましい。
【0021】
本発明の組成物において、ハロゲン化ブチルゴムとジエン系ゴムとを混合する際の質量比は、30/70〜70/30が好ましい。この範囲であれば、耐候性に優れるため、老化防止剤を減量または未添加にすることができ、更に、カーカス等の他のタイヤ部材への接着性およびゴムの加工性を損なわない。
【0022】
本発明の組成物に用いられるゴムは、上述した各ゴム以外の他のゴムを含んでいてもよい。他のゴムとしては、具体的には、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPM)等の非ジエン系ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、エピクロロヒドリンゴム(CO、ECO、GCO)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の組成物は、更に、EPMおよび/またはEPDMを含むのが好ましい態様の一つである。安価なEPMやEPDMを用いることによりハロゲン化ブチルゴムの使用量を減らすことができ、コストを低減することができる。
EPMまたはEPDM(併用するときはこれらの合計)の含有量は、本発明の組成物に用いられるゴムの合計に対して5〜30質量%であるのが好ましく、10〜25質量%であるのがより好ましい。上記範囲であれば、本発明の目的を損なうことなく、コストを低減できる。
【0023】
次に、本発明の組成物に用いられる下記式(1)で表される化合物(以下、便宜上「化合物(1)」ともいう。)を説明する。
【0024】
【化3】

【0025】
式中、nは、1〜4の整数を表す。
Zは、活性水素含有基を表す。Zは、活性水素含有基であれば特に限定されないが、本発明の組成物の貯蔵安定性の点で、有する活性水素が1個である活性水素含有基であるのが好ましい。有する活性水素が1個である活性水素含有基としては、例えば、チオール基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、イミノ基が挙げられる。イミノ基としては、例えば、−NHR1(式中、R1は、水素以外の原子数1〜20個の有機基を表す。)が挙げられる。より具体的には、例えば、−NHC65が挙げられる。
なお、本発明の組成物が、活性水素を2個有する活性水素含有基と反応して、その2個の活性水素を残さないような官能基(例えば、イソシアネート基)を有するゴムを含有する場合は、活性水素を2個有する活性水素含有基も、貯蔵安定性の問題がないので、Zとして好ましく用いられる。活性水素を2個有する活性水素含有基としては、例えば、アミノ基が挙げられる。
【0026】
また、Zで表される活性水素含有基は、本発明の組成物が加硫される加硫温度を考慮して選択することができる。例えば、Zがカルボキシ基のような電子吸引性の高い基である場合には、後述する熱解離(マレイミド化合物の脱離)が起こりやすくなるため、加硫温度を低くすることができる。
【0027】
Xは、置換基を有していてもよく、かつ、SO2、O、NおよびSからなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい、炭素数1〜24個の有機基を表す。Xの価数は、上記式(1)からも分かるように、(1+n)価である。置換基は、特に限定されない。
【0028】
上記Xとしては、具体的には、例えば、非環状脂肪族基、環状脂肪族基、芳香族基、複素環基、アルキル芳香族基等が挙げられる。これらの中でも、芳香族基および複素環基が、ゴム製品の製造時における一般的な加硫温度条件である150〜180℃付近が解離温度となることから好ましい。より具体的には、エチレン基、ヘキサメチレン基(−(CH26−)、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、キシリル基、イミダゾール環を有する2価の基、ナフタレン環を有する2価の基、下記式(a)で表される2価の基、下記式(b)で表される3価の基が挙げられる。中でも、1,2−フェニレン基、1,4−フェニレン基、下記式(a)で表される2価の基、下記式(b)で表される3価の基、下記式(c)で表される2価の基が好ましい。
【0029】
【化4】

【0030】
(式中、R2は炭素数1〜24個の有機基を表す。)
【0031】
また、Xも、Zと同様に、本発明の組成物が加硫される加硫温度を考慮して選択することができる。
【0032】
n個のAは、それぞれ独立に、活性水素基を有さず、かつ、置換基を有していてもよい、炭素数1〜24個の1価の有機基を表す。
Aで表される有機基は、特に限定されないが、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基;これらの水素原子の1個以上を、置換基で置換した基が挙げられる。中でも、芳香族基(例えば、フェニル基)、シクロアルキル基が好ましい。
【0033】
ところで、従来より、ハロゲン化ブチルゴムや非ジエン系ゴムと、ジエン系ゴムとを共架橋することはできなかった。しかし、上記化合物(1)を上記ゴムの架橋剤として用いた場合は、ハロゲン化ブチルゴム等とジエン系ゴムとを共架橋することができるため、硬化物の機械的強度や耐疲労性に優れ、更に、組成物の貯蔵安定性および硬化物の耐熱性にも優れたものになるので極めて有用である。
【0034】
化合物(1)の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、チオール基と上記Zで表される活性水素含有基とを有する化合物と、下記式(2)で表されるマレイミド化合物とを用い、上記マレイミド化合物の炭素原子間の二重結合に上記チオール基を付加させる方法を用いることができる。
【0035】
【化5】

【0036】
(式中、Aは式(1)中と同様の意味である。)
【0037】
上記方法において、上記Zで表される活性水素含有基がチオール基よりも反応性が高いものである場合には、この活性水素含有基を適当な保護基で保護してから反応させる等の方法を採ればよい。
【0038】
上述した方法に用いられるチオール基と上記Zで表される活性水素含有基とを有する化合物としては、例えば、チオサリチル酸、2−アミノエタンチオール、2−ピリジンチオール、4−ピリジンチオール、2−アミノベンゼンチオール、4−アミノベンゼンチオール、4−ヒドロキシベンゼンチオール、2−メルカプトイミダゾール、2−メルカプトイミダゾリン、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メトキシベンゾイミダゾール、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5−メチル−1H−1,2,4−トリアゾール−3−チオール、メタンジチオール、1,3−ブタンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,2−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,9−ノナンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、トルエン−3,4−ジチオール、3,6−ジクロロ−1,2−ベンゼンジチオール、1,5−ナフタレンジチオール、1,2−ベンゼンジメタンチオール、1,3−ベンゼンジメタンチオール、1,4−ベンゼンジメタンチオール、4,4′−チオビスベンゼンチオール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール(トリメルカプト−トリアジン)、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン、2−フェニルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ポリチオール(例えば、チオコールまたはチオールで変性されたゴムおよび/または樹脂)等が挙げられる。
【0039】
中でも、芳香族性チオール、複素環式チオールが、熱による解離を起こしやすいという点で好ましい。具体的には、例えば、チオサリチル酸、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン、2−フェニルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン、トリメルカプト−トリアジン、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール等が好適に挙げられる。特に、チオサリチル酸、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン、2−フェニルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジンは、固体で臭気がないため取り扱いやすいという点、および、熱による解離を起こしやすいという点で好ましい。
【0040】
上述した方法に用いられる上記式(2)で表されるマレイミド化合物としては、N−置換マレイミドとして公知のものが挙げられる。具体的には、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−ジクロロヘキシルマレイミド等のN−アルキル基置換マレイミド;N−シクロヘキシルマレイミド等のN−シクロアルキル基置換マレイミド;N−フェニルマレイミド等のN−芳香族基置換マレイミドが好適に挙げられる。中でも、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドが安価に入手することができる点で好ましい。
【0041】
上述した方法は、より具体的には、例えば、チオール基と上記Zで表される活性水素含有基とを有する化合物に、上記式(2)で表されるマレイミド化合物を、モル比で、0.90〜1.10倍、好ましくは0.95〜1.05倍加え、有機溶媒中、室温から150℃で、1〜24時間かくはんする方法が好適に挙げられる。
【0042】
有機溶媒は、チオール基と上記Zで表される活性水素含有基とを有する化合物および上記式(2)で表されるマレイミド化合物の両者を溶解することができるものであれば特に限定されない。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド等が好適に挙げられる。中でも、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミドが高い溶解性を示す点で好ましい。
反応終了後、減圧下で有機溶剤を濃縮除去することにより上記化合物(1)が得られる。
【0043】
上記化合物(1)の好適な具体例としては、上述したチオール基と上記Zで表される活性水素含有基とを有する化合物と、上記式(2)で表されるマレイミド化合物のそれぞれの具体例の組み合わせから得ることができる化合物が挙げられる。より具体的には、チオサリチル酸とN−フェニルマレイミドとから得ることができる下記式(3)で表される化合物、2−フェニルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジンとN−フェニルマレイミドとから得ることができる下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0044】
【化6】

【0045】
本発明の組成物は、上述した化合物(1)の1種以上と、上述したゴムの1種以上とを含有する。
本発明の組成物における化合物(1)の含有量は、ゴムの合計100質量部に対して、0.5〜10質量部である。上記範囲であると、後述するように、熱解離により発生するチオール基の量が十分となり、ゴムとの架橋が進行しやすくなり、その結果、本発明の組成物の硬化後の物性が良好となる。これらの特性により優れる点から、1〜8質量部がより好ましい。
【0046】
本発明の組成物は、酸化マグネシウムを含有するのが好ましい態様の一つである。酸化マグネシウムは、後述するように、化合物(1)の活性水素含有基とゴムの活性水素含有基と反応しうる基(不飽和基等)との反応の際に発生する酸を捕捉して、スコーチを防止する。
酸化マグネシウムの含有量は、化合物(1)100質量部に対して、1〜50質量部であるのが好ましく、1〜10質量部であるのがより好ましい。
【0047】
また、本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、化合物(1)の他に、化合物(1)以外の架橋剤(加硫剤)を含有することができる。化合物(1)以外の架橋剤としては、例えば、硫黄系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤、フェノール樹脂系架橋剤が挙げられる。そのような架橋剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
本発明の組成物は、更に、老化防止剤を、上記ゴム100質量部に対して0.5質量部以下含有していてもよい。含有量がこの範囲であれば、老化防止剤のブルーム現象によるサイドウォール表面の汚染がほとんどなく、更に、耐候性を向上することができる。
【0049】
更に、本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、可塑剤、充填剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、難燃剤、補強剤、界面活性剤、分散剤、接着付与剤、帯電防止剤等の配合剤を含有することもできる。これらの配合剤としては、通常、タイヤサイドウォール用ゴム組成物に用いられるものを用いることができる。配合剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
本発明の組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記の各必須成分と任意成分とを入れ、噛合い式ミキサー、接線式ミキサー、ニーダー、一軸混練押出機、二軸混練押出機、ロール等の通常のゴム工業で用いられている混合機を用いて混練し、本発明の組成物を得ることができる。
【0051】
本発明の組成物における架橋の機構、ならびに、本発明の組成物が貯蔵安定性および熱安定性に優れる理由は、以下のように推定される。なお、以下の説明に用いる式は、本発明の組成物の一例の反応を推定したものである。
本発明の組成物を加熱すると、まず、化合物(1)の活性水素含有基と、ゴム活性水素含有基と反応しうる官能基(不飽和結合基等)とが反応して、化合物(1)がゴムの主鎖と結合する(下記式中の反応1)。なお、この反応は、本発明の組成物を加熱する前の保存時に一部起こっていてもよい。この反応で発生した酸は、本発明の組成物が酸化マグネシウムを含有する場合、酸化マグネシウムに捕捉される。
更に加熱を続けると、ゴムの主鎖と結合した化合物(1)は、熱により解離してマレイミド化合物が脱離して、チオール基を発生させる(下記式中の反応2)。
ついで、発生したチオール基と、ゴムのチオール基と反応しうる官能基とが反応して結合する。即ち、ゴムの主鎖同士が、化合物(1)を介して架橋する。
【0052】
【化7】

【0053】
ここで、化合物(1)は活性水素含有基を分子内に1個のみ有しているので、室温での保存時において、または架橋時の架橋温度に達する前の加熱過程において、その活性水素含有基がゴムと反応しても、架橋は起こらず、貯蔵安定性、スコーチ等の問題がない。また、酸化マグネシウムを含有する場合には、上記反応で発生する酸が捕捉されるため、スコーチが防止される。
一方、化合物(1)はマレイミド化合物で保護されたチオール基を分子内に有しており、このマレイミド化合物は一定温度範囲(例えば、160〜180℃)で脱離するので、架橋温度をその温度範囲に設定すれば、架橋時において架橋温度に達したときに、速やかに架橋が起こる。そして、脱離したマレイミド化合物は、ラジカル捕捉剤として働くため、架橋温度を高くした場合(例えば、200℃)であっても、ラジカルによるゴムの主鎖の分解を抑制することができるので、熱安定性に優れる。
【0054】
なお、本発明の組成物は、更に、硫黄、有機過酸化物、キノンジオキシム、金属酸化物およびアルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋剤を含有する場合、ハロゲン化ブチルゴムとジエン系ゴムとの共架橋を実現することができる。具体的には、例えば、以下のような方法が挙げられる。
ハロゲン化ブチルゴムとジエン系ゴムとを含むゴムと、化合物(1)と、硫黄とを含有する本発明の組成物を加熱すると、化合物(1)の活性水素含有基と、ハロゲン化ゴムの炭素−臭素結合とが反応して、化合物(1)がゴムの主鎖と結合する(下記式中の反応3)。また、ハロゲン化ブチルゴムの主鎖と結合した化合物(1)が、熱により解離してマレイミド化合物が脱離して、チオール基を発生させる。発生したチオール基とジエン系ゴムの二重結合とが反応して結合するとともに、ジエン系ゴムが硫黄により架橋する(下記式中の反応4)。このようにして、ハロゲン化ゴムおよびジエン系ゴムの両者を共架橋することができる。
【0055】
【化8】

【0056】
有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、4,4−ジ−t−ブチルパーオキシ−バレリアン酸−n−ブチルエステルが挙げられる。
金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウムが挙げられる。
【0057】
この場合、更に、スルフェンアミド系またはチウラム系の加硫促進剤を含有するのが好ましい。これにより、架橋が促進され、かつ、物性が向上する。
スルフェンアミド系の加硫促進剤としては、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N′−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドが挙げられる。
チウラム系の加硫促進剤としては、例えば、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドが挙げられる。
【0058】
上述した本発明の組成物は、老化防止剤のブルーム現象等によるサイドウォールの外観変化を防止でき、更に、機械的強度や耐疲労性等のゴム物性に優れる。
【0059】
本発明の空気入りタイヤは、上述した本発明の組成物をサイドウォール部に用いたものである。以下、本発明の空気入りタイヤの一実施形態を図を用いて説明する。ただし、本発明はこれに限定されない。
図1は、本発明のサイドウォール用ゴム組成物からなる黒色サイドウォールおよびホワイトサイドウォールを有する、空気入りタイヤ1の部分断面図である。
【0060】
図1において、空気入りタイヤ1は、タイヤの骨格を形成するコード層となるカーカス3と、カーカス3を強く締め付けトレッドの剛性を高めるベルト5と、路面と直接接触する部分でカーカス3を保護するとともに磨耗や外傷を防ぐキャップトレッド7と、キャップトレッド7の両端からタイヤ半径方向の内側に伸びる、黒色サイドウォール9とホワイトサイドウォール11とから構成されるサイドウォール部と、各サイドウォール部の内方端に位置する、ビードフィラー13、ビードコア15、リムクッション17から構成されるビード部とを備える。
【0061】
カーカス3は、カーカスコードをタイヤ周方向に対して、例えば70〜90度の角度で配列した少なくとも1枚のカーカスプライから形成される。このカーカスプライは、その両端部がビード部のビードコア15のまわりで折り返されることにより係止される。
【0062】
また、ベルト7は、スチールコード等の高強力のベルトコードをタイヤ周方向に対して、例えば、10〜35度の角度で配列した少なくとも2枚のベルトプライから形成される。このベルトプライは、ベルトコードがプライ間で交差するように、傾斜の向きを互いに違えて配されており、これによってキャップトレッド7の全体を補強することができる。
【0063】
次に、サイドウォール部は、黒色サイドウォール9と、その内部に埋入されるホワイトレター形成用のホワイトサイドウォール11とを含んで形成される。この黒色サイドウォール9とホワイトサイドウォール11は、それぞれ本発明の組成物を用いて形成されたものである。したがって、サイドウォール部に要求される機械的強度や耐疲労性等のゴム物性を満足し、更に、老化防止剤によるサイドウォール部の汚染を防止できる。
また、ホワイトサイドウォール11の表面を外部からの汚れ等から保護する目的で、ホワイトサイドウォール11の表面を薄い非汚染ゴム(図示せず。)で被覆するのが好ましい。
非汚染ゴムとは、例えば、ホワイトサイドウォールに近似したポリマーの組み合わせにカーボンブラックを配合したゴム層である。このゴム層は汚染性の老化防止剤を含有しないのでホワイトサイドウォールへの老化防止剤の移行がなく、周囲のゴムによる汚染からホワイトサイドウォールを保護することができる。
【0064】
本発明の空気入りタイヤは、公知の製造方法により得ることができる。例えば、黒色サイドウォール用、ホワイトサイドウォール用、非汚染用、リムクッション用の4種類のゴム組成物をホワイトサイドウォールの周囲を黒色の非汚染ゴムで包み、この両側に黒色サイドウォールおよびリムクッションゴムを配置した形状になるように同時に押出し、セルに巻き取っておく。次に、タイヤ成形ドラムにインナーライナー層を巻きつけ、その周囲方向の両端部を重ね合わせ接合する。次に、カーカス層を貼り付け、その後、ビードフィラーを予め取り付けたビードコアをドラム両端に打ち込む。カーカス両端部をビードフィラーとビードコアを包み込むようにして折り返し、その外周部に上述のサイドウォールを貼り付けてカーカス組立体を成形する。
次に、これをトロイダル上にインフレートし、予め成形したベルト層とトレッドゴムからなる円筒状のベルト・トレッド組立体の外周部に圧着し、空気入りタイヤを得る。
【0065】
本発明の空気入りタイヤは、サイドウォール部に要求される機械的強度や耐疲労性等のゴム物性を満足し、更に、老化防止剤のブルーム現象等によるサイドウォール部の外観変化を防止できる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
1−1.化合物(1)の合成
(合成例1)
2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン272.1g(1mol)とN−フェニルマレイミド346.3g(2mol)とをメチルエチルケトン1000g中で、90℃で5時間反応させた。反応終了後、反応物を減圧下90℃で濃縮して、下記式(5)で表される化合物1を593g得た(収率96%)。
【0067】
【化9】

【0068】
(合成例2)
2−フェニルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン236g(1mol)とN−フェニルマレイミド346.3g(2mol)とをメチルエチルケトン1000g中で、90℃で5時間反応させた。反応終了後、反応物を減圧下90℃で濃縮して、上記式(4)で表される化合物2を547g得た(収率94%)。
【0069】
(合成例3)
チオサリチル酸15.4g(0.1mol)とN−フェニルマレイミド17.3g(0.1mol)とをメチルエチルケトン150g中で、90℃で5時間反応させた。反応終了後、反応物を減圧下90℃で濃縮して、上記式(3)で表される化合物3を32.5g得た(収率99%)。
【0070】
1−2.ゴム組成物の調製
まず、下記第1表に示すA成分を、第1表に示す組成(質量部)で配合し、接線式ミキサーで十分に混練した。その後、第1表に示す組成(質量部)で、第1表に示すB成分を加えてオープンロールで十分に混合し、各ゴム組成物を得た。
【0071】
1−3.ゴム組成物の評価
1−3−1.材料物性
上記で得られた各ゴム組成物について、160℃で15分間加硫し、15cm×15cm×2mmの加硫シートを作成した。この加硫シートからJIS3号ダンベル形状の試験片を打ち抜いた。試験片を500mm/minの速度で引っ張り、300%モジュラス(M300)、破壊時の引張応力(TB)および破壊時の伸び(EB)を測定した。結果を第1表に示す。
【0072】
1−3−2.定歪シート疲労試験(耐疲労性の評価)
上記と同様の方法で作成した各ゴム組成物のJIS3号ダンベル形状の試験片を、歪み率80%、400rpmで繰り返し歪みを与え、破断するまでの回数を測定した。各ゴム組成物についてそれぞれn=5ずつ試験を行った。得られた結果の平均値を第1表に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
上記第1表に示される各成分は、以下のとおりである。
・臭素化ブチルゴム:Bayer Bromobutyl X2、バイエル(株)製
・天然ゴム:RSS#3
・エチレンプロピレンゴム:エスプレン505A、住友化学工業(株)製
・FEF級カーボンブラック:HTC#100、新日化カーボン(株)製
・酸化チタン:タイペークR−280、テイカ(株)製
・クレイ:シュープレックスクレイ、ケンタッキーテネシークレイ(株)製
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸、日本油脂(株)製
・アロマオイル:デゾレックス3号、昭和シェル石油(株)製
・パラフィンオイル:サンパー2280、日本サン石油(株)製
・酸化亜鉛:亜鉛華#3、正同化学(株)製
・硫黄:金華印微粉硫黄150mesl、鶴見化学工業(株)製
・加硫促進剤:ノクセラーDM、大内新興化学(株)製
【0075】
第1表から明らかなように、化合物2または3を含有するゴム組成物(実施例1〜3)は、化合物2または3を含まないゴム組成物(比較例1〜3)に比べて、材料物性は同等または優れており、耐疲労性は極めて優れていた。
イミノ基を有する化合物2を含有するゴム組成物(実施例1)が、活性水素含有基を持たない化合物1を含有するゴム組成物(実施例1)と比べて耐疲労性が極めて優れていた理由は、化合物2のイミノ基の活性水素がゴム成分の反応基(Br−または不飽和結合)と反応して架橋するのに対して、化合物1は活性水素含有基を持たないため架橋密度が低下したことに起因すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、本発明のサイドウォール用ゴム組成物からなる黒色サイドウォールおよびホワイトサイドウォールを有する、空気入りタイヤ1の部分断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 空気入りタイヤ
3 カーカス
5 ベルト
7 キャップトレッド
9 黒色サイドウォール
11 ホワイトサイドウォール
13 ビードフィラー
15 ビードコア
17 リムクッション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化ブチルゴムとジエン系ゴムとを含有するゴム100質量部と、
下記式(1)で表される化合物0.5〜10質量部とを
含有するタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【化1】


(式中、Zは、活性水素含有基を表し、Xは、置換基を有していてもよく、かつ、SO2、O、NおよびSからなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい、炭素数1〜24個の有機基を表し、Aは、活性水素を有さず、かつ置換基を有していてもよい炭素数1〜24個の有機基を表し、nは、1〜4の整数を表す。)
【請求項2】
前記Xで表される有機基が、芳香族基または複素環基である請求項1に記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項3】
前記Zで表される活性水素含有基が、カルボキシ基、イミノ基またはアミノ基である請求項1または2に記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項4】
非黒色である請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物をサイドウォール部に用いた空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−63124(P2006−63124A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244818(P2004−244818)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】