説明

タイヤホイール

【課題】車両走行時の操縦安定性の向上を図るとともに、重量増加を抑えることができ、かつ耐久性を向上できるタイヤホイールを提供する。
【解決手段】略円筒形状を有するウェル部8と、ウェル部8よりも大径の環形状を有し、且つウェル部8の両端部分に一体に形成されたリムフランジ5,6とからなるリム体3と、リム体3の内周面に、且つウェル部8の一端側に接続されるホイールディスク4とを備えたタイヤホイールに、ホイールディスク4とウェル部8との接続部からウェル部8の全幅の8%までの少なくとも一部をウェル部8全体の平均厚み寸法よりも厚く形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ径方向へ窪むウェル部を有する略円筒状のリム体を備えたタイヤホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来のタイヤホイールとして、特許文献1に開示されたものがある。このタイヤホイールは、車軸側に固定されるホイールディスクと、このホイールディスクの外周端にゴム弾性体を介して接続され、空気入りタイヤが装着されるリム体とを備えている。このタイヤホイールでは、車両走行時にリム体からホイールディスクへ伝わる振動や横力をゴム弾性体で緩和することにより、操縦安定性、防振性能および防音性能を向上することができる。
【特許文献1】特開2004−106567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されたものでは、車両走行中の繰り返し変形により、ホイールディスクとリム体とを接続するゴム弾性体に応力集中が生じるため、長時間の使用による疲労破壊が発生しやすいという問題がある。
【0004】
なお、従来からタイヤホイールの変形が車両走行時の操縦安定性に影響があることが知られている。そこで、車両走行時の操縦安定性の向上を図ることを目的として、ホイールディスクの肉厚を増やす方法や、ホイールディスクに含まれるスポークの肉厚分布を最適化する方法により、ホイールディスクの面外曲げ剛性を上げてタイヤホイール変形を抑制することが行なわれている。しかしながら、ホイールディスク(スポークを含む)の表面は意匠面であることから、デザイン上の制約が多く、上記目的でホイールディスクの表面を大幅に変更することが難しく、また、ホイールディスクの裏面側に関してもブレーキキャリパーとの干渉を避けるために制約があり、ホイールディスクの裏面側も大幅に変更することが難しい。さらに、タイヤホイール変形を抑制すためホイールディスクの肉厚を増やすことも考えられるが、その結果として、タイヤホイール重量がかなり増えた場合には車両の乗り心地を損なうため、重量増加を最小限に抑える必要がある。
【0005】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、車両走行時にタイヤホイール変形を抑制して操縦安定性の向上を図るとともに、重量増加を抑えて車両の乗り心地を良好なものに保つことができ、しかも長時間にわたって使用可能であり耐久性を向上することができるタイヤホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、略円筒形状を有するウェル部と、該ウェル部よりも大径の環形状を有し、且つ該ウェル部の両端部分に一体に形成されたリムフランジとからなるリム体と、該リム体の内周面に、且つ該ウェル部の一端側に接続されるホイールディスクとを備えたタイヤホイールにおいて、前記ホイールディスクと前記ウェル部との接続部から該ウェル部の全幅の8%までの少なくとも一部が該ウェル部全体の平均厚み寸法よりも厚く形成されたことを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記接続部から前記ウェル部の全幅の8%までの範囲が該ウェル部全体の平均厚み寸法よりも厚く形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、リム体のウェル部の厚みを、ホイールディスクとの接続部からリム体の幅方向へウェル部の全幅の8%の少なくとも一部まで、ウェル部の平均厚み寸法より厚くすることにより、前記ホイールディスクおよび前記リム体からなるタイヤホイールの剛性を向上させることができるので、タイヤホイール変形を抑制して操縦安定性の向上を図ることができる。また、ウェル部を厚くする部分を所定範囲のみに限定したので、重量増加を抑えて車両の乗り心地を良好なものに保つこともできる。さらに、車両走行時にリム体からホイールディスクへ前記接続部を介して振動や横力を伝える構造であるので、ゴム弾性体を介してホイールディスクとリム体とを接続する従来技術と比べて、長時間の使用による疲労破壊を抑制でき、長時間にわたって使用可能であり耐久性を向上することができる。
【0009】
請求項2の発明によれば、タイヤホイール全体の重量増加を抑えつつ、充分な剛性を確保し、操縦安定性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態を示し、タイヤホイールの要部を示す断面図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態のタイヤホイール1は、図示しない空気入りタイヤが装着される略円筒状のリム体3と、図示しない車軸側に固定されるホイールディスク2とから一体的に形成されている。
【0012】
リム体3は、略円筒形状を有するウェル部8と、ウェル部8よりも大径の環形状を有し、且つウェル部8の両端部分に一体に形成されたリムフランジ5,6とから構成されている。リム体3の一端側内周面には、後述するホイールディスクが接続され、リム体3の他端側は開口している。
【0013】
ホイールディスク2は、リム体3の幅方向の中心線Lから一端側(図1の左側)にオフセットされるとともに、ホイールディスク2は、図示を省略したが車軸ハブが挿入されるハブ穴を有するボス部と、このボス部からホイールディスク2の外径方向へ放射状に延びる複数のスポーク4とを備えている。なお、図1左側の破線は、スポーク4がない部位でのリムフランジ5の外形形状を示している。
【0014】
また、ホイールディスク2の外周端には、リム体3のウェル部8が接続され、ホイールディスク2との接続部8aからウェル部8がリム体3の幅方向へ延びている。ウェル部8の所定範囲Aに渡って形成された厚肉部9は、ウェル部8の平均厚み寸法より厚い肉厚T1に設定されており、前記所定範囲Aは、ホイールディスク2との接続部8aからウェル部8の全幅Wの8%までに設定されている。なお、厚肉部9の肉厚T1は、ウェル部8で最も薄い部分の肉厚T2の1.8倍以上とするのが望ましい。
【0015】
この実施形態では、厚肉部9の肉厚T1をウェル部8の平均厚み寸法より厚くすることにより、ホイールディスク2およびリム体3からなるタイヤホイール1の剛性を向上させることができるので、タイヤホイール1の変形を抑制して車両走行時の操縦安定性の向上を図ることができる。また、ウェル部8を厚くする部分を所定範囲Aのみに限定したので、重量増加を抑えて車両の乗り心地を良好なものに保つこともできる。さらに、車両走行時にリム体3からホイールディスク2へ前記接続部8aを介して振動や横力を伝える構造であるので、ゴム弾性体を介してホイールディスクとリム体とを接続する従来技術と比べて、長時間の使用による疲労破壊を抑制でき、長時間にわたって使用可能であり耐久性を向上することができる。
【0016】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【0017】
例えば、上記一実施形態では、ウェル部8の所定範囲Aを、ホイールディスク2との接続部8aからウェル部8の全幅Wの8%までに設定したが、この代わりに、所定範囲Aを、ホイールディスク2との接続部8aからウェル部8の全幅Wの8%までのうちの一部に設定した場合も、タイヤホイール1の変形を抑制して車両走行時の操縦安定性の向上を図ることができる。
【0018】
また、上記一実施形態では、厚肉部9について、内面側と外面側の両方に肉盛りするように肉厚T1を設定しているが、内面側のみに肉盛りする構成、および外面側のみに肉盛りする構成のどちらの構成にしても同様の作用効果が得られる。
【0019】
次に、上記一実施形態の変形例を図2に基づいて説明する。図2は、本発明の一実施形態の変形例を示し、タイヤホイールの要部を示す断面図である。
【0020】
上記一実施形態とは、厚肉部9aが形成される範囲が異なり、他の構成は同様である。つまり、厚肉部9aとして、接続部8aからウェル部8の全幅の16%までの範囲(所定範囲A1)がウェル部8全体の平均厚み寸法T2よりも厚く設定されるとともに、厚肉部9aの肉厚T1aは、上記実施形態と同様の厚み寸法(肉厚T1)に設定されている。
【0021】
なお、厚肉部9aの所定範囲A1は、接続部8aから20%以内の範囲に留めることが好ましく、さらには接続部8aから16%以内の範囲とすることがより好ましい。厚肉部9aが形成される範囲を20%以内、さらには16%以内と設定することで、タイヤホイール全体の重量増加を抑えつつ、充分な剛性を確保し、操縦安定性を向上している。
【実施例】
【0022】
従来例と各種比較例と実施例のタイヤホイールの単体負荷試験を行なうとともに、車両装着車両走行時の操縦安定性を同一タイヤ・同一試験車両で評価した。図4は、その際の各種データを示す。
【0023】
(タイヤホイールの単体負荷試験)
上記単体負荷試験では、サイズ8J−18のアルミ製タイヤホイールを使用して、リム体3の他端(車両装着内側の端部)を固定し、ボス部に所定のモーメント1kNのモーメントをホイールディスクが面外にねじれる方向に加え、負荷荷重を変形角度で除することにより、モーメント剛性を測定した。
【0024】
上記単体負荷試験の結果、ウェル部8の所定範囲Aの増減に応じて、タイヤホイール1のモーメント剛性の変化率が図3の実線L1で示すように推移する。図3の横軸は、ウェル部8の厚肉部9の範囲(所定範囲A)を表し、例えば「8%」は所定範囲Aがホイールディスク2との接続部からウェル部8の全幅Wの8%までであり、「16%」、「24%」、「32%」、「40%」、および「48%」などもそれぞれ同様である。図3の縦軸は、ウェル部の肉厚増加(すなわちタイヤホイール1の重量増加)に対して、タイヤホイール1のモーメント剛性がどの程度、変化するかを表している。
【0025】
タイヤホイール1のモーメント剛性は図3の実線L1で示すように推移し、ウェル部8の厚肉部9がホイールディスク2との接続部からウェル部の全幅Wの8%を少し越えるまで、ウェル部の肉厚増加に対してタイヤホイール1のモーメント剛性が大きく変化するので、タイヤホイール1の重量増加を抑えつつ、タイヤホイール1のモーメント剛性を向上させることができる。したがって、上記厚肉部9をホイールディスク2との接続部からウェル部8の全幅Wの8%までに設定することにより、タイヤホイール1のモーメント剛性を効率的に向上させることができる。一方、上記厚肉部9が、ホイールディスク2との接続部からウェル部の全幅Wの8%を越えた場合、ウェル部8の肉厚増加に対して、タイヤホイール1のモーメント剛性がほぼ一定となる。
【0026】
(操縦安定性の評価試験)
車両装着車両走行時の操縦安定性の評価試験では、3000ccクラスの乗用車に上記タイヤホイール、およびサイズ225/45R18のタイヤを装着してタイヤ内圧を230kPaとし、1名乗車状態で走行させたときの操縦安定性を官能(フィーリング)評点で測定し、図4に示すように、従来例のタイヤホイールのものを100として指数で評価した。指数が大きいほど車両走行時の操縦安定性が良い。
【0027】
比較例1は、ホイールディスクの肉厚を厚くして重量が300g増した場合である。比較例1では、ホイールディスクの肉厚増加によりタイヤホイール変形が抑制されるので、車両走行時の操縦安定性の向上が認められるが、タイヤホイールの重量が300g増加した。
【0028】
比較例2は、ウェル部の肉厚を一律に厚くして重量が100g増した場合である。比較例2では、ウェル部の肉厚増加によりタイヤホイール変形が少し抑制されるが、車両走行時の操縦安定性の向上が認められなかった。
【0029】
実施例は、ウェル部の肉厚を、ホイールディスクとの接続部からウェル部の全幅の8%まで、最も薄い部分の肉厚の1.5倍厚くし、その結果、タイヤホイールの重量が100g増加した場合である。実施例では、タイヤホイールの重量増加が比較的少ないにもかかわらず、比較例1と同等の操縦安定性の向上が認められた。
【0030】
(ウェル部の所定範囲の増減)
ウェル部の肉厚が比較的厚い所定範囲の増減に応じて、図5に示すように操縦安定性および重量が変化する。例えば、上記所定範囲がホイールディスクとの接続部からウェル部の全幅の8%までの場合、タイヤホイールの重量が100g増加し、操縦安定性の指数は120で、車両走行時の操縦安定性の向上が認められた。また、上記所定範囲がホイールディスクとの接続部からウェル部の全幅の8%より小さい場合、例えば4%および6%の場合、上記所定範囲の増加に応じて、タイヤホイールの重量が増加するとともに操縦安定性の向上が認められた。一方、上記所定範囲がホイールディスクとの接続部からウェル部の全幅の8%より大きい場合、例えば10%、16%、20%などの場合、上記所定範囲の増加に応じて、タイヤホイールの重量が増加するが、車両走行時の操縦安定性の指数は120〜123でほぼ一定であり、操縦安定性のさらなる向上は認められなかった。したがって、ウェル部の肉厚が比較的厚い所定範囲がホイールディスクとの接続部からウェル部の全幅の8%までである場合、車両走行時の操縦安定性を向上させる効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態を示し、タイヤホイールの要部を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の変形例を示し、タイヤホイールの要部を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例を示し、タイヤホイールのモーメント剛性の変化率を示す特性図である。
【図4】従来例と各種比較例と実施例の操縦安定性を同一タイヤ・同一試験車両で評価し、その際の各種データを示す図である。
【図5】ウェル部の肉厚が比較的厚い所定範囲の増減に対応する操縦安定性の指数および増加重量を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 タイヤホイール
2 ホイールディスク
3 リム体
4 スポーク
8 ウェル部
8a 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒形状を有するウェル部と、該ウェル部よりも大径の環形状を有し、且つ該ウェル部の両端部分に一体に形成されたリムフランジとからなるリム体と、該リム体の内周面に、且つ該ウェル部の一端側に接続されるホイールディスクとを備えたタイヤホイールにおいて、
前記ホイールディスクと前記ウェル部との接続部から該ウェル部の全幅の8%までの少なくとも一部が該ウェル部全体の平均厚み寸法よりも厚く形成されたことを特徴とするタイヤホイール。
【請求項2】
前記接続部から前記ウェル部の全幅の8%までの範囲が該ウェル部全体の平均厚み寸法よりも厚く形成されたことを特徴とする請求項1に記載のタイヤホイール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−6173(P2010−6173A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166078(P2008−166078)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)