説明

タイヤ周辺空間の解析方法及びタイヤ周辺空間の解析用コンピュータプログラム、並びに解析装置

【課題】タイヤの周辺に存在する空間において発生する事象を解析するにあたって、計算精度の低下を抑制すること。
【解決手段】タイヤを複数の節点で構成される複数の要素に分割することによりタイヤモデル10を作成し、タイヤモデル10を路面モデル12に接触させ、接地解析を行う。次に、得られたタイヤモデル表面上の各節点の物理量に基づき、表面領域21を作成する。次に、表面領域21に、タイヤ表面領域の内部と外部とを区画する境界部分22を設ける。そして、タイヤ境界領域と、路面モデル12の接触表面領域24と、半球領域15とを用いて、空間モデル30を作成し、この空間モデル30用いて、タイヤ周辺空間で発生する事象を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータを用いてタイヤの周辺に存在する空間の解析を実行する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの開発時間を短縮するために、タイヤの試作品を製造して評価する替わりにタイヤの解析モデルを作成し、数値解析を用いたシミュレーションによりタイヤの特性を評価することが行われている。ここで、タイヤの特性としては、タイヤの弾性性能、摩擦性能、耐久性能、コーナリング性能といったタイヤ自身の性能以外に、タイヤを走行させた際にタイヤ周辺空間に及ぼす影響として、タイヤから発せられる音(放射音)の周辺空間への伝搬や、タイヤ周辺の空気の流れなどが挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1のシミュレーション方法では、トレッド溝を有するタイヤモデルを作成し、タイヤモデルを用いて転動シミュレーションを行い、この転動シミュレーションの結果から、溝接地転動区間におけるタイヤモデルの表面座標値を時系列的に取得し、この表面座標値を用いてタイヤ周辺の音空間領域を定め、この音空間領域で空力シミュレーションを行うことにより、タイヤ走行時に生じる放射音を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−161115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来のシミュレーション方法では、タイヤ周辺の解析空間を定める際に十分な配慮がなされていないため、解析精度の低下を招いている。本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、タイヤの周辺に存在する空間において発生する事象を解析するにあたって、計算精度の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るタイヤ周辺空間の解析方法は、コンピュータが、複数の節点を有する複数の要素で分割されたタイヤモデルを、当該タイヤモデルが接触する接触対象モデルに接触させて接触解析を実行する接触解析手順と、前記コンピュータが、当該接触解析手順が終了した後の前記タイヤモデルの表面に存在する節点から、前記タイヤモデルの表面情報を取得するとともに、前記表面情報から得られる前記タイヤモデルの表面領域と、当該表面領域の内部と外部とを区画する境界部分とを含むタイヤ境界領域を作成する表面情報抽出・境界領域作成手順と、前記コンピュータが、少なくとも前記タイヤ境界領域を用いて、当該タイヤ境界領域の周辺空間の空間モデルを作成する空間モデル作成手順と、前記コンピュータが、前記空間モデルを用いて解析を実行する解析手順と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の望ましい態様として、前記表面情報抽出・境界領域作成手順において、前記コンピュータは、前記タイヤモデルと前記接触対象モデルとが接触する接触領域に存在する、前記タイヤモデルの節点の物理量に基づいて、前記タイヤモデルの接触領域に存在する少なくとも1つの節点を移動させることが好ましい。
【0008】
本発明の望ましい態様として、前記コンピュータは、前記接触対象モデルとの距離が所定の閾値以下である、前記タイヤモデルの表面に存在する節点を前記接触対象モデルの表面に移動させることが好ましい。
【0009】
本発明の望ましい態様として、前記所定の閾値は、前記タイヤモデルの直径の0.2%以下、又は1mm以下のいずれか一方であることが好ましい。
【0010】
本発明の望ましい態様として、前記表面情報抽出・境界領域作成手順において、前記コンピュータは、前記接触領域が、前記タイヤモデルの幅方向と平行な第1軸と、前記タイヤモデルの周方向と平行な第2軸との両方に対して軸対称となるように、前記接触領域の形状を変更することが好ましい。
【0011】
本発明の望ましい態様として、前記コンピュータは、複数の直線で前記接触領域の形状を形成することが好ましい。
【0012】
本発明の望ましい態様として、前記表面情報抽出・境界領域作成手順において、前記コンピュータは、前記空間モデルに、さらに1以上の境界を設けることが好ましい。
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るタイヤ周辺空間の解析用コンピュータプログラムは、前記タイヤ周辺空間の解析方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るタイヤ周辺空間の解析装置は、複数の節点を有する複数の要素で分割されたタイヤモデルを、当該タイヤモデルが接触する接触対象モデルに接触させて接触解析を実行する接触解析部と、当該接触解析が終了した後の前記タイヤモデルの表面に存在する節点から、前記タイヤモデルの表面情報を取得する表面情報抽出部と、前記表面情報から得られる前記タイヤモデルの表面領域と、当該表面領域の内部と外部とを区画する境界領域とを含むタイヤ境界部分を作成する境界領域設定部と、少なくとも前記タイヤ境界領域を用いて、当該タイヤ境界領域の周辺の空間モデルを作成する空間モデル作成部と、前記空間モデルを用いて解析を実行する空間モデル解析部と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、タイヤの周辺に存在する空間において発生する事象を解析するにあたって、計算精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、タイヤの子午断面を示す断面図である。
【図2】図2は、本実施形態に係るタイヤ周辺空間の解析装置を示す説明図である。
【図3】図3は、本実施形態に係るタイヤ周辺空間の解析方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】図4は、接触解析の概念図である。
【図5】図5は、タイヤモデルの接触領域を決定する手法の一例を示す説明図である。
【図6】図6は、タイヤモデルの接触領域を決定する手法の一例を示す説明図である。
【図7】図7は、タイヤモデルの表面領域の内部と外部とを区画する境界領域を示す子午断面図である。
【図8】図8は、タイヤモデルの表面領域の内部と外部とを区画する境界領域を示す子午断面図である。
【図9】図9は、空間モデルを示す斜視図である。
【図10】図10は、空間モデルを示す正面図である。
【図11】図11は、タイヤモデルの接触領域を決定する手法の第1変形例を示す説明図である。
【図12】図12は、タイヤモデルの接触領域を決定する手法の第1変形例を示す説明図である。
【図13】図13は、タイヤモデルと路面モデルとの関係を示す拡大図である。
【図14】図14は、タイヤモデルの接触領域を決定する手法の第2変形例を示す説明図である。
【図15】図15は、第3変形例に係る空間モデルを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する、発明を実施するための形態(実施形態)の内容によりこの発明が限定されるものではない。また、以下に説明する構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0018】
図1は、タイヤの子午断面を示す断面図である。以下において、幅方向とはタイヤ1の回転軸(Y軸)と平行な方向であり、周方向とはタイヤ1の円周方向である。Z軸は、タイヤ1が接地している場合においてタイヤ1が接地している面と直交する軸である。X軸は、Y軸及びZ軸と直交する軸である。
【0019】
タイヤ1は、回転軸(Y軸)を中心として回転する環状の構造体である。タイヤ1は、回転軸(Y軸)の周りに、周方向に向かって同様の形状の子午断面が展開される。図1に示すように、タイヤ1の子午断面には、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4、ビードコア5が現れている。タイヤ1は、母材であるゴムを、補強材であるカーカス2、ベルト3、あるいはベルトカバー4等の補強コードによって補強した複合材料の構造体である。
【0020】
カーカス2は、タイヤ1に空気を充填した際に圧力容器としての役目を果たす強度メンバーである。カーカス2は、タイヤ1に充填される気体の内圧を保持するとともに、前記内圧によって荷重を支え、タイヤ1が走行している間の動的荷重に耐えるようになっている。ベルト3は、キャップトレッド6とカーカス2との間に配置されたゴム引きコードを束ねた補強コードの層である。ラジアルタイヤにおいて、ベルト3は形状保持及び強度メンバーとして重要な役割を担っている。
【0021】
ベルト3の踏面G側には、ベルトカバー4が配置されている。ベルトカバー4は、ベルト3の保護層としての役割や、ベルト3の補強層としての役割を持つ。ビードコア5は、内圧によってカーカス2に発生するコード張力を支えているスチールワイヤの束である。ビードコア5は、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4及びトレッドとともに、タイヤ1の強度部材となる。キャップトレッド6の踏面G側には、周方向溝7が形成される。タイヤ1の側部はサイドウォール8と呼ばれており、ビードコア5とキャップトレッド6との間を接続する。また、キャップトレッド6とサイドウォール8との間はショルダー部Shである。次に、本実施形態に係るタイヤ周辺空間の解析方法を実行するタイヤ周辺空間の解析装置について説明する。
【0022】
図2は、本実施形態に係るタイヤ周辺空間の解析装置を示す説明図である。タイヤ周辺空間の解析装置(以下解析装置という)50はコンピュータであり、処理部52と記憶部54とを有する。解析装置50には、入出力装置51が電気的に接続されている。入出力装置51が有する入力手段53は、タイヤ1を形成するゴムの物性値や補強コードの物性値、あるいは後述するタイヤモデルを用いた接触解析、及び後述する空間モデルを用いた解析において、初期条件、あるいは境界条件等を処理部52や記憶部54へ入力する。
【0023】
入力手段53には、キーボード、マウス等の入力デバイスを使用することができる。解析結果を出力する出力手段55には、液晶ディスプレイ等の表示装置を使用することができる。記憶部54には、タイヤモデルの解析周辺空間の解析や、本実施形態に係るタイヤ周辺空間の解析方法を含むコンピュータプログラムが格納されている。記憶部54は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、又はフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリあるいはこれらを組み合わせて構成することができる。
【0024】
上記コンピュータプログラムは、コンピュータシステムに既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、上記した接触解析及び本実施形態に係るタイヤ周辺空間の解析方法を実現できるものであってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
【0025】
処理部52は、タイヤモデル作成部52aと、解析部52bと、表面情報抽出部52cと、境界領域設定部52dと、空間モデル作成部52eとを有している。タイヤモデル作成部52aは、後述する接触解析の解析対象となるタイヤを、複数の節点を有する複数の要素に分割することによりタイヤモデルを作成し、これを記憶部54の所定領域に格納する。また、タイヤモデル作成部52aは、解析対象となるタイヤが接触する接触対象(例えば、路面)を基にして接触対象モデル(例えば、路面モデル)を作成し、これを記憶部54の所定領域に格納する。
【0026】
解析部52bは、接地解析部及び空間モデル解析部に相当する。解析部52bは、タイヤモデル作成部52aが作成したタイヤモデル及び接触対象モデルを記憶部54から読み出し、所定の条件の下で接触解析(接地解析)を実行する。そして、解析部52bは、解析結果を記憶部54の所定領域に保存する。接触解析とは、タイヤと接触対象(例えば、路面)との静的、動的な接触状態において、タイヤの変形やひずみ、あるいは応力の状態を解析するものである。具体的には、タイヤモデルを接触対象モデル(路面モデル)に接触させた状態で、タイヤモデルの各節点の物理量(タイヤモデルの変形やひずみ、あるいは応力の状態)を解析する。
【0027】
表面情報抽出部52cは、接触解析が終了した後のタイヤモデルの表面に存在する節点から、タイヤモデルの表面情報(タイヤモデルの表面に存在する節点の座標の情報)を抽出する。そして、表面情報抽出部52cは、抽出した表面情報を、記憶部54の所定領域に格納する。境界領域設定部52dは、表面情報から得られる、タイヤモデルの表面領域と、表面領域の内部と外部とを区画する境界領域とを含むタイヤ境界領域を作成し、記憶部54の所定領域に格納する。
【0028】
空間モデル作成部52eは、後述するタイヤ周辺空間の解析を実行するにあたって、解析対象である、タイヤの周辺環境を再現する。すなわち、空間モデル作成部52eは、少なくともタイヤ境界領域を用いて、タイヤ境界領域の周辺空間、すなわち、前記周辺環境の空間モデルを作成する。具体的には、空間モデル作成部52eは、少なくともタイヤ境界領域を用いて、空間モデルを作成する。より好ましくは、空間モデル作成部52eは、タイヤ境界領域、及び接地対象モデルの表面情報から得られる接触表面領域、及び前記周辺環境に存在する対象物(タイヤハウスやタイヤ試験器等)の対象物表面情報を用いて得られる対象物表面領域を用いて、空間モデルを作成する。
【0029】
後述するタイヤ周辺空間の解析において、例えば有限要素法を用いる場合、空間モデルは、タイヤ境界領域と接触表面領域と対象物表面領域とで区画される空間及びこれらの領域を、複数の節点を有する複数の要素に分割して得られる解析モデルである。なお、空間モデルは、このような複数の要素に分割された解析モデルに限定されるものではなく、解析手法によって適宜変更される。空間モデル作成部52eは、作成した空間モデルを、記憶部54の所定領域に格納する。
【0030】
上述した解析部52bは、空間モデル解析部としても機能する。この場合、解析部52bは、空間モデル作成部52eによって作成され、記憶部54に格納された空間モデルを用いて、タイヤ周辺空間を解析する。タイヤ周辺空間の解析としては、例えば、タイヤの表面から発生する放射音がタイヤの周辺空間へどのように伝播するかを解析する音響解析や、タイヤが転動しているときにおける、タイヤ周辺空間の空気の流れを解析する流体解析等がある。次に、本実施形態に係るタイヤ周辺空間の解析方法の手順を説明する。本実施形態に係るタイヤ周辺空間の解析方法は、解析装置50が実現する。
【0031】
図3は、本実施形態に係るタイヤ周辺空間の解析方法の手順を示すフローチャートである。図4は、接触解析の概念図である。まず、ステップS11において、解析装置50のタイヤモデル作成部52aは、図4に示すように、解析対象であるタイヤのタイヤモデル10と、タイヤモデル10が接触する接触対象モデルとしての路面モデル12とを作成する。タイヤモデル作成部52aは、作成したタイヤモデル10及び路面モデル12を、記憶部54に格納する。
【0032】
タイヤモデル10は、有限要素法や有限差分法等の数値解析手法を用いて接触解析を実行するために用いるモデルである。タイヤモデル10及び路面モデル12は解析モデルであり、コンピュータで解析可能である。本実施形態では、接触解析に有限要素法(Finite Element Method:FEM)を使用するので、タイヤモデル10は、有限要素法に基づいて作成される。なお、接触解析の手法は有限要素法に限られず、有限差分法(Finite Differences Method:FDM)や境界要素法(Boundary Element Method:BEM)等も使用することができる。
【0033】
ステップS11(タイヤモデル作成手順)において、タイヤモデル作成部52aは、解析対象のタイヤを、複数の節点を有する複数の要素に分割して、3次元形状のタイヤモデル10(図4参照)を作成する。タイヤモデル10が有する要素は、例えば、3次元のタイヤモデルでは四面体ソリッド要素、五面体ソリッド要素、六面体ソリッド要素等のソリッド要素や三角形シェル要素、四角形シェル要素等のシェル要素、面要素等、コンピュータで取り扱い得る要素とすることが望ましい。3次元のタイヤモデル10が有する要素は、解析の過程において、3次元座標や円筒座標を用いて逐一特定される。路面モデル12(図4参照)は、タイヤが接触して転動する路面を解析モデル化したものである。
【0034】
路面モデル12は、タイヤモデル10と同様に作成されてもよい。この場合、タイヤモデル作成部52aは、複数の節点を有する複数の要素に路面を分割して路面モデル12を作成する。また、路面モデル12は、弾性体として解析モデル化してもよいし、さらには剛体として解析モデル化してもよい。また、路面モデル12は、三次元離散化モデルでもよいし、サーフェスとして解析モデル化してもよい。
【0035】
通常、タイヤは、踏面に複数の溝を有する。この溝は、例えば、周方向に延在する周方向溝及びタイヤ幅方向に向かって延在するラグ溝がある。周方向溝とラグ溝との少なくとも一方によってタイヤの踏面には、いわゆるトレッドパターンが形成される。タイヤモデル10の作成にあたって、タイヤモデル作成部52aは、タイヤモデル10の踏面に、周方向溝とラグ溝との少なくとも一方を設けてもよい。
【0036】
次に、ステップS12(接触解析手順)に進み、解析装置50の解析部52bは、記憶部54からタイヤモデル10及び路面モデル12を読み出す。そして、解析部52bは、タイヤモデル10を路面モデル12に接触させて接触解析を実行する。接触解析を実行する場合、タイヤモデル10に負荷する荷重及びタイヤの内圧等の解析条件が設定される。また、接触解析を実行する場合、解析部52bは、予め作成されて記憶部54に格納されているリムモデルを記憶部54から読み出して、タイヤモデル10を嵌合させることにより、タイヤ/ホイール組立体モデルを作成し、これを接触解析に用いてもよい。
【0037】
解析部52bは、図2に示す入出力装置51を介して前記解析条件を取得し、当該解析条件をタイヤモデル10及び路面モデル12に付与して、接触解析を進める。接触解析は、タイヤモデル10の回転軸からタイヤモデル10に静的荷重を負荷する静的接触解析であってもよい。また、接触解析は、タイヤモデル10を路面モデル12に接触させた状態で、タイヤモデル10を回転軸(Y軸)周りに回転させながら転動させる転動解析を実行してもよい。この場合、定常転動解析が好ましい。
【0038】
接触解析が終了したら、解析部52bは、タイヤモデル10のそれぞれの節点から物理量を取得して記憶部54の所定領域に格納する。解析部52bが取得する物理量としては、例えば、力、応力、圧力、せん断力、せん断応力、ひずみ、変位等が挙げられる。解析部52bは、タイヤモデル10の表面上の各節点における物理量を記憶部54に格納する。また、タイヤモデル10と路面モデル12との接触領域Cに生じる相互作用によって生ずる物理量としては、接触反力、接触せん断力、位置、変位、接地圧、接触せん断応力等がある。本実施形態において、タイヤモデル10の物理量は、タイヤモデル10の表面領域を作成する際に、タイヤモデル10と路面モデル12との接触領域Cを判別するために用いられる。このため、本実施形態において、解析部52bは、接触領域Cの近傍におけるタイヤモデル10の表面の物理量のみを取得してもよい。このようにすれば、物理量の量を低減できるので、物理量を取得する時間を短縮できるとともに、記憶部54の記憶領域も小さくて済む。
【0039】
次に、ステップS13に進み(表面情報抽出手順)、解析装置50の表面情報抽出部52cは、接触解析が終了した後のタイヤモデル10の表面に存在する節点から、タイヤモデル10の表面情報を取得する。すなわち、表面情報抽出部52cは、タイヤモデル10の表面の幾何形状を取得することになる。具体的には、表面情報抽出部52cは、記憶部54に格納された、タイヤモデル10の節点の情報から、タイヤモデル10の表面に存在する節点の情報(座標)を表面情報として取得する。そして、表面情報抽出部52cは、取得した表面情報を記憶部54の所定領域に格納する。タイヤモデル10の表面領域は、表面情報を用いることにより表現することができる。
【0040】
本実施形態において、表面情報は、タイヤモデル10の表面において、ホイールのリム(リムモデル)よりも径方向外側に露出する部分に存在する節点の情報である。そして、本実施形態において、表面情報には、図4に示す、タイヤモデル10と路面モデル12との接触領域Cにおいて、タイヤモデル10の表面に存在する節点は含まない。このため、表面情報抽出部52cは、リム(リムモデル)よりも外側に露出する部分の表面に存在する節点から表面情報を取得する。また、表面情報抽出部52cは、タイヤモデル10の表面の節点のうち、接触領域Cに存在するものは除外する。このため、表面情報が取得されるにあたり、表面情報抽出部52cは、接触領域Cを除いた部分におけるタイヤモデル10の表面から表面情報を取得する。接触領域Cの形状は、タイヤモデル10の表面領域の形状に影響を与える。
【0041】
図5、図6は、タイヤモデルの接触領域を決定する手法の一例を示す説明図である。図5、図6に示す符号13’、13は、タイヤモデル10と路面モデル12との接触領域である。後述する音響解析や流体解析の精度を向上させるため、接触領域13’、13の形状は、できる限り現実の接触領域の形状を反映することが好ましい。図5、図6は、タイヤモデル10と路面モデル12とが接触又は近接する領域におけるタイヤモデル10の表面の節点P及び要素26を示している。表面情報を取得するにあたり、表面情報抽出部52cは、タイヤモデル10の接触領域13’、13を決定する。
【0042】
表面情報抽出部52cは、例えば、タイヤモデル10の表面に存在する節点の物理量を用いて、タイヤモデル10の表面の節点が路面モデル12と接触しているか否かを判定する。そして、表面情報抽出部52cは、タイヤモデル10の表面の節点のうち、路面モデル12と接触している節点で囲まれる領域を接触領域として決定する。前記物理量としては、例えば、接触圧力、ひずみ、変位等がある。図5に示す例は、前記物理量として接触圧力を用いて、前記接触が判定される。例えば、表面情報抽出部52cは、表面の節点の接触圧力が、予め定めた所定の閾値以上である場合に、その節点は路面モデル12と接触していると判定する。そして、表面情報抽出部52cは、表面の節点の接触圧力が、予め定めた所定の閾値よりも小さい場合に、その節点は路面モデル12と接触していないと判定する。
【0043】
図5に示す例では、節点Pの接地圧力が所定の閾値未満であり、節点Pの接地圧力が所定の閾値以上である。したがって、表面情報抽出部52cは、節点Pは路面モデル12と接触しておらず、節点Pは路面モデル12と接触していると判定する。表面情報抽出部52cに、路面モデルと接触していると判定された節点で囲まれる領域が、接触領域13’となる(図5中、破線Lで囲まれる領域)。
【0044】
図5に示す例では、接触圧力が所定の閾値未満の節点(節点P)と、接触圧力が所定の閾値以上の節点(節点P)との間に接触領域13’と非接触領域との境界(図5中、実線Lで囲まれる領域)が存在する。この境界上に節点Pが存在すれば、接触領域の形状は、より現実に近くなるといえる。このため、次のような手法で接触領域を決定することが好ましい。
【0045】
表面情報抽出部52cは、まず、接触圧力が所定の閾値未満の節点(以下、第1節点Pという)、及び接触圧力が所定の閾値以上の節点(以下、第2節点Pという)を求める。そして、表面情報抽出部52cは、第2節点Pに隣接する第1節点Pを求め、これらを一組として取り扱う。次に、表面情報抽出部52cは、隣接する第1節点Pの接触圧力と第2節点Pの接触圧力とに基づいて、第1節点Pと第2節点Pとの間に存在する前記境界の位置を求める。そして、表面情報抽出部52cは、隣接する第1節点Pと第2節点Pとの組のすべてに対して前記境界の位置を求める。これによって得られた前記境界の位置(図6中の実線L)で囲まれる領域が、図6に示す接触領域13になる。
【0046】
前記境界の位置を求める手法は、例えば、第1節点Pと第2節点Pとの間を一定の比で分割した点を前記位置とする方法がある。また、第1節点Pの接触圧力と第2節点Pの接触圧力とに基づき、第1節点Pと第2節点Pとを内分する比で分割した点を前記境界の位置とする方法もある。さらに、次のような手法で前記境界の位置を求めてもよい。まず、第1節点Pと第2節点Pとを結ぶ直線上に存在し、かつ第2節点Pに隣接するとともに、接触圧力が前記所定の閾値以上の節点(第3節点という)の接触圧力を求める。次に、第3節点の接触圧力Q3から第2節点Pの接触圧力Q2への変化率(Q3−Q2)/dを求める(dは第3節点と第2節点Pとの距離)。そして、第2節点Pから第1節点Pに向かって前記変化率で接地圧力を変化させたときに接地圧力が0となる位置を前記境界の位置とする。表面情報抽出部52cは、これらの処理を実行して前記境界の位置を求め、記憶部54の所定領域に格納する。
【0047】
次に、表面情報抽出部52cは、第2節点Pを、境界の位置、すなわち、図6に示す実線L上に移動させる。表面情報抽出部52cは、前記境界の位置を記憶部54から読み出す。そして、表面情報抽出部52cは、第2節点Pの位置情報(座標)を、前記境界の位置の位置情報(座標)に書き換えた上で、境界の節点(境界節点)Pとして記憶部54に記憶させる。表面情報抽出部52cは、すべての第2節点Pに対してこの処理を施して境界節点Pを生成し、その情報を記憶部54の所定領域に格納する。このようにして得られた境界節点Pは、タイヤモデル10の表面領域の接触対象側境界23となる。境界節点Pは、タイヤモデル10の表面領域に属する。境界節点Pは、後述するステップS15において、空間モデルが作成される際に利用される。上述した処理により、接触領域13は現実の接触領域の形状により近づくので、後述するステップS16における音響解析等の精度を向上させることができる。
【0048】
タイヤモデル10が、踏面に溝(例えば、周方向溝)を有する場合、接触領域13’、13に存在する溝の溝壁(タイヤモデルの踏面側に存在するエッジ部の節点も含む)及び溝底に存在する節点も、タイヤモデル10の表面に存在する節点となる。すなわち、このような節点は、ステップS13において、表面情報抽出部52cが表面情報を取得する対象となる。次に、ステップS14に進む。
【0049】
図7、図8は、タイヤモデルの表面領域の内部と外部とを区画する境界領域を示す子午断面図である。ステップS14(境界領域作成手順)において、解析装置50の境界領域設定部52dは、図7、図8に示すように、表面情報から得られるタイヤモデルの表面領域21と、表面領域21の内部16と外部とを区画する境界部分22とを含むタイヤ境界領域とを作成する。表面領域21の内部16は、表面領域21と境界部分22とで囲まれる空間である。図7、図8に示すように、境界部分22は、表面領域21の、タイヤモデル10のビード部に相当する部分に設けられる。そして、境界部分22は、表面領域21の開口部(タイヤモデル10の両方のビード部に相当する部分の間に形成される開口)を塞ぐ。
【0050】
図7に示される例では、タイヤを実際に組み付けるホイールのリムの形状に沿った形状の境界部分22が、表面領域21の、タイヤモデル10のビード部に相当する部分に設けられる。図8に示す例では、円筒形状の境界部分22が、表面領域21の、タイヤモデル10のビード部の底面に相当する部分をつないでいる。円筒形状の境界部分22を用いることにより、リムを模した境界部分22を用いる場合と比較して、境界部分22が作成される手間を軽減できる。境界部分22は、表面領域21の内部16と外部(タイヤ周辺空間20)とを区画する。境界部分22の形状は、上述したものに限定されるものではない。例えば、境界部分22は、タイヤモデル10のビード部に相当する部分の内周部分を塞ぐ円形形状であってもよい。この場合、一対のビード部に相当する部分それぞれに境界部分22を設ける。後述する音響解析を実行する場合、境界部分22は、表面領域21の発生する放射音を吸収したり反射したりする境界条件が付与されてもよい。
【0051】
境界部分22は、例えば、タイヤモデル作成部52aが予め作成して、記憶部54の所定領域に格納しておく。ステップS14において、境界領域設定部52dは、記憶部54から表面情報を読み出して表面領域21を作成する。また、境界領域設定部52dは、記憶部54から境界部分22を読み出す。そして、境界領域設定部52dは、表面領域21と境界部分22とを結合することにより、タイヤ境界領域を作成する。作成されたタイヤ境界領域は、記憶部54の所定領域に格納される。なお、ステップS14において、境界領域設定部52dは、作成された表面領域21の情報を用いて、境界部分22を生成してもよい。例えば、境界領域設定部52dは、表面領域21の、タイヤモデル10のビード部に相当する部分の座標情報を用いて、両方の前記ビード部の底面に相当する部分をつなぐように境界部分22を生成する。
【0052】
このように、タイヤ境界領域は、境界部分22を有するので、表面領域21の内部16とタイヤ周辺空間20とが境界部分22によって切り離される。その結果、例えば、後述するステップS16で音響解析を実行する場合には、表面領域21が発生する放射音が内部16に回り込んだり、タイヤ周辺空間20に存在する対象物に反射された前記放射音が内部16に入り込んだりすることを回避できる。また、例えば、後述するステップS16で流体解析を実行する場合には、流体が内部16に入り込んだり内部から流体が流出したりすることを回避できる。その結果、ステップS16で実行される解析の精度低下を抑制できる。
【0053】
上述したステップS13とステップS14とが、表面情報抽出・境界領域作成手順である。すなわち、表面情報抽出・境界領域作成手順は、表面情報抽出手順(ステップS13)と、境界領域作成手順(ステップS14)とを含む。表面情報抽出手順(ステップS13)と、境界領域作成手順(ステップS14)とは、実行される順序は問わない。したがって、解析装置50は、例えば、ステップS14を実行した後、ステップS13を実行してもよい。
【0054】
境界領域作成手順(ステップS14)を表面情報抽出手順(ステップS13)よりも先に実行する場合、例えば、次のようにする。タイヤモデル作成部52aは、タイヤモデル10のビード部に相当する部分に設けられる境界部分22を予め作成し、記憶部54の所定領域に格納する。そして、境界領域作成手順(ステップS14)において、境界領域設定部52dは、タイヤモデル10のビード部に相当する部分と境界部分22とを結合することにより、タイヤ境界領域を作成する。次に、表面情報抽出手順(ステップS13)に進み、表面情報抽出部52cは、境界部分22が設けられたタイヤモデル10の表面に存在する節点から、タイヤモデル10の表面情報を取得する。本実施形態において、表面情報は、タイヤモデル10の表面において、ホイールのリムよりも径方向外側に露出する部分に存在する節点の情報である。表面情報及び境界部分22が、タイヤ境界領域となる。表面情報抽出・境界領域作成手順において、境界領域設定部52dがタイヤ境界領域を作成したら、ステップS15へ進む。
【0055】
図9は、空間モデルを示す斜視図である。図10は、空間モデルを示す正面図である。ステップS15において、解析装置50の空間モデル作成部52eは、少なくともタイヤ境界領域を用いて、タイヤ境界領域の周辺の空間モデル30を作成する。空間モデル30は、タイヤ境界領域の周辺空間(タイヤ周辺空間)20、すなわち、タイヤの周辺環境を解析モデル化したものである。前記周辺環境で発生する事象が、空間モデル30を用いて模擬される。図9に示す例では、表面領域21及び境界部分22を含むタイヤ境界領域と、路面モデル12の接触表面領域24と、タイヤモデル10を中心とする対象物としての半球領域15とで囲まれる部分がタイヤ周辺空間20となる。図9に示す接触領域13は接触表面領域24に含まれないが、接触対象側境界23は接触表面領域24に含まれる。したがって、空間モデル30は、接触対象側境界23を含み、接触領域13を含まない。
【0056】
空間モデル30を作成するにあたって、空間モデル作成部52eは、記憶部54から、タイヤ境界領域、及び路面モデル12の表面情報から得られる接触表面領域24、及び半球領域15を取得する。そして、空間モデル作成部52eは、タイヤ境界領域と、接触表面領域24と、半球領域15とを組み合わせる。次に、空間モデル作成部52eは、タイヤ境界領域と、接触表面領域24と、半球領域15と、タイヤ周辺空間20とを解析モデル化して、空間モデル30を作成する。空間モデル30は、有限要素法、有限差分法、境界要素法等の数値解析手法を用いて、タイヤ周辺空間20における事象を模擬する際に用いる解析モデルである。
【0057】
空間モデル作成部52eは、例えば、図9、図10に示すタイヤ周辺空間20を、複数の節点を有する複数かつ有限個の要素に分割して、3次元形状の空間モデル30を作成する。作成された空間モデル30は、記憶部54に格納される。空間モデル30が有する要素は、上述したタイヤモデル10が有する要素と同様である。なお、空間モデル30は、タイヤ境界領域と、接触表面領域24と、半球領域15とを含む。空間モデル30が作成されたら、ステップS16へ進む。
【0058】
ステップS16に進み、解析部52bは、空間モデル30を用いて、タイヤ周辺空間20で発生する事象を解析する。この解析は、例えば、音響解析や流体解析がある。音響解析を実行する場合、解析部52bは、音の反射条件、吸収条件、音響インピーダンス等が解析条件として空間モデル30(例えば、タイヤ境界領域と、接触表面領域24と、半球領域15)に付与される。解析部52bは、記憶部54から空間モデル30を読み出し、この空間モデル30に解析条件を付与して、音響解析や流体解析等を実行する。解析が終了したら、解析部52bは、図2に示す記憶部54に解析結果を格納するとともに、出力手段55に出力させる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態では、表面領域の内部と外部とを区画する境界部分を設ける。これによって、タイヤ境界領域の内部と外部との間で、音や流体等の出入りが回避できる。その結果、タイヤ周辺空間で発生する事象を解析する際において、解析精度の低下を抑制できる。また、タイヤ境界領域の内部と外部との間で、音や流体等の出入りが回避できるので、余計な計算が不要になり、計算の収束が早くなる。その結果、解析に要する時間を短縮できる。さらに、余計な計算が不要になることから、ハードウェア資源の負荷を低減できる。
【0060】
(第1変形例)
図11、図12は、タイヤモデルの接触領域を決定する手法の第1変形例を示す説明図である。図11、図12に示す符号13’、13は、タイヤモデル10と路面モデル12との接触領域である。図11、図12中に示す略楕円形状の実線は、タイヤモデル10と路面モデル12との理想的な接触領域を示す。本変形例では、ステップS13で表面情報抽出部52cが表面情報を取得するにあたり、タイヤモデル10の接触領域を決定する手法の変形例を説明する。本変形例は、図4に示す接触領域Cを簡易な形状(本変形例では複数の直線)で近似することにより、節点を移動させることなく、簡易にタイヤモデル10の接触領域を決定できる。
【0061】
節点を移動させずにタイヤモデル10の接触領域を決定する場合、理想的な接触領域に最も近い複数の節点を選択し、これらの節点で囲まれる部分をタイヤモデル10の接触領域とする。すると、図11の実線Lで囲まれる接触領域13’が得られる場合がある。図11には、接触領域13’の中心を通る幅方向と平行な第1軸31と、周方向と平行な第2軸32とが示されている。
【0062】
図11に示すように、接触領域13’は、第1軸31と第2軸32とが交差して作られる2次元座標系において、第2象限及び第4象限に存在する突起形状の領域33、34が形成される。このように、接触領域13’は、第1軸31及び第2軸32のいずれに対しても軸対称になっていない。通常、実際のタイヤの接触領域は、第1軸31及び第2軸32の両方に対しても略軸対称になる。実線Lで囲まれる接触領域13’は実際の形状とは相違しており、上述したステップS16の解析においては、解析精度の低下を招くおそれがある。
【0063】
そのため、表面情報抽出部52cは、ステップS13において、次のような手法で、節点を移動させることなくタイヤモデル10の接触領域を決定する。まず、表面情報抽出部52cは、第1軸31と第2軸32とを、接触領域の中心で両者が交差するように設定する。接触領域の中心は、タイヤモデル10の幅方向中心でタイヤモデル10の回転軸を通り、かつ路面モデル12と直交する直線が、タイヤモデル10と交差する部分である。第1軸31及び第2軸32は、タイヤモデル10の表面の節点を通るようにすることが好ましい。
【0064】
表面情報抽出部52cは、第1軸31上、及び第2軸32上に存在する節点のうち、路面モデル12と接触している節点(接触節点)をそれぞれの軸について2つずつ抽出する。また、表面情報抽出部52cは、第1軸31と所定の角度(例えば45度)傾斜し、かつ第1象限と第3象限とを通る直線(第1直線)と、第1軸31と所定の角度(例えば45度)傾斜し、かつ第2象限と第4象限とを通る直線(第2直線)とを生成する。第1直線及び第2直線は、タイヤモデル10の表面の節点を通るようにすることが好ましい。そして、表面情報抽出部52cは、第1軸31上、及び第2軸32上に存在する節点のうち、路面モデル12と接触している節点(接触節点)をそれぞれの軸について2つずつ抽出する。また、表面情報抽出部52cは、第1直線上、及び第2直線上に存在する節点のうち、路面モデル12と接触している節点(接触節点)をそれぞれの軸について2つずつ抽出する。節点と路面モデル12との接触判定は、上述した通りである。
【0065】
次に、表面情報抽出部52cは、第1軸31上のそれぞれの接触節点を通り、かつ第2軸と略平行(好ましくは平行)の直線36a、36bを生成する。また、表面情報抽出部52cは、第2軸32上のそれぞれの接触節点を通り、かつ第1軸と略平行(好ましくは平行)の直線35a、35bを生成する。さらに、表面情報抽出部52cは、第1直線上のそれぞれの接触節点を通り、かつ第1軸と所定の角度θを有する直線37b、37dを生成する。また、表面情報抽出部52cは、第2直線上のそれぞれの接触節点を通り、かつ第1軸と所定の角度を有する直線37a、37cを生成する。θはいずれも同じ大きさである。表面情報抽出部52cは、直線35a、35b、36a、36b、37a、37b、37c、37dが、いずれもタイヤモデル10の表面に存在する節点を通るように生成する。直線35a、35bは互いに平行であり、直線36a、36bは互いに平行であり、直線37a、37cは互いに平行であり、直線37b、37dは互いに平行である。この8本の直線35a、35b、36a、36b、37a、37b、37c、37dで囲まれた領域が、タイヤモデル10の接触領域13となる。なお、直線35a、35b、36a、36cで囲まれた領域を接触領域13としてもよい。
【0066】
このようにして生成された接触領域13は、第1軸31と第2軸32との両方に対して軸対象となる。これにより、図11に示す接触領域13’と比較して、ステップS16における解析の精度低下が抑制される。また、複数の直線で接触領域13を形成することにより、すべての節点に対して接触判定をする必要はなく、また、節点を移動させる必要もない。このため、表面情報抽出部52cが接触領域13を生成する際の処理を軽減できるので、処理時間を短縮できるとともに、ハードウェア資源の負荷も軽減できる。このように、本変形例に係る手法によれば、簡易に接触領域13を生成できる。なお、上述した手法は一例であり、複数の直線でタイヤモデル10の接触領域を生成できれば、手法は問わない。
【0067】
(第2変形例)
図13は、タイヤモデルと路面モデルとの関係を示す拡大図である。図14は、タイヤモデルの接触領域を決定する手法の第2変形例を示す説明図である。本変形例では、ステップS13で表面情報抽出部52cが表面情報を取得するにあたり、タイヤモデル10の接触領域を決定する手法の変形例を説明する。図13、図14は、タイヤモデル10と路面モデル12との接触領域の周縁部を表わしている。図13、図14中のP、Pはタイヤモデル10が有する節点である。節点Pは路面モデル12に接地しており、節点Pは路面モデル12から離れている。
【0068】
タイヤモデル10上の節点Pが路面モデル12の近傍に存在すると、節点Pと、節点Pと、節点Pから路面に下ろした垂線の足Fとを頂点とするくさび形状Sとなる。このようなくさび形状Sは、アスペクト比(図13において、点Fと節点Pとを結ぶ線分の長さに対する節点Pと点Fとを結ぶ線分の長さの比)が大きいため、上述した空間モデル30には、このようなくさび形状Sが含まれてしまう。空間モデル30に、このようなくさび形状Sが含まれると空間モデル30を用いた解析においては、精度が低下してしまう。
【0069】
本変形例においては、タイヤモデル10と路面モデル12との接触領域の周縁部にアスペクト比が大きいくさび形状Sが出現した場合、次の処理によって、このくさび形状Sを消去する。ステップS13において、表面情報抽出部52cは、節点Pの座標を路面モデル12の表面に設定する。路面モデル12の表面と直交する方向が図7や図8に示すZ軸に相当するので、路面モデル12の表面は、X軸とY軸との2次元座標系で表現される。表面情報抽出部52cは、節点PのZ座標を路面モデル12上に変更し、X座標及びY座標は変更しない。この処理によって、節点Pを路面モデル12の表面に設定できるので、アスペクト比の大きいくさび形状Sを消去できる。このため、タイヤモデル10と路面モデル12との接触領域の周縁部から、アスペクト比が大きいくさび形状Sを消去できる。その結果、空間モデル30を用いた解析の精度低下を抑制できる。なお、路面モデル12がドラム形状を模している場合、表面情報抽出部52cは、節点Pを通る路面モデル12の表面の法線と、路面モデル12の表面との交点に節点Pを移動させる。
【0070】
節点P、節点P、及び節点Pから路面モデル12に下ろした垂線の足Fを頂点とするくさび形状が、上記処理の対象となるくさび形状であるかどうかを判断する閾値としては、節点Pから路面モデル12までの距離がタイヤモデル10の半径の0.2%以下、又は1mm以下という値を採用することが好ましい。節点Pから路面モデル12までの距離が上記数値以下である場合、くさび形状のアスペクト比が特に大きくなるため、上記処理によって解析精度の低下を抑制させる効果が大きくなる。なお、本変形例に係る処理を単独で用いてもよいし、上述した接触領域を生成する際に、本変形例に係る処理を併用してもよい。これによって、空間モデル30を用いた解析の精度低下をより効果的に抑制できる。
【0071】
(第3変形例)
図15は、第3変形例に係る空間モデルを示す斜視図である。上記例では、ステップS15において、図9に示すように、タイヤ境界領域、及び路面モデル12の表面情報から得られる接触表面領域24、及び半球領域15を用いて空間モデル30が作成された。本変形例では、半球領域15の代わりに、解析対象である、タイヤの周辺環境に存在する対象物(タイヤハウスやタイヤ試験器等)の対象物表面情報を用いて得られる対象物表面領域を用いて空間モデル30を作成する。すなわち、タイヤ境界領域、及び路面モデル12の表面情報から得られる接触表面領域24に加えて、さらに1以上の境界を設ける。
【0072】
上述した半球領域15は、仮想的な境界であるが、実際にタイヤを転動させる際には、車体が有するホイールハウスやサスペンションアーム等の部材がタイヤの近傍に設けられている。また、タイヤを試験する場合、試験装置がタイヤの近傍に配置される。車体が有する部材や試験装置等は、タイヤが発生した放射音を反射したり吸収したりする。また、車体が有する部材や試験装置等は、タイヤの周辺における空気の流れに影響を及ぼしたりする。したがって、前記部材や試験装置等を空間モデル30が有する境界として追加することにより、より実際の事象に近い状態を再現できる。
【0073】
図15に示す空間モデル30は、タイヤ周辺空間20内に対象物としてタイヤハウスモデル40を設置し、このタイヤハウスモデル40の表面に、境界としての対象物表面領域41を設けている。このように、タイヤ周辺空間20内に車体が有し、かつタイヤの近傍に存在する部材をモデル化して配置し、その表面に対象物表面領域41を設定することで、ステップS16における解析の精度低下をより効果的に抑制できる。境界は、複数であってもよい。例えば、図15に示すタイヤモデル10において、タイヤハウスモデル40に加えて車軸モデルやサスペンションアームモデル等を追加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明に係るタイヤ周辺空間の解析方法及びタイヤ周辺空間の解析用コンピュータプログラム、並びに解析装置は、コンピュータを用いたタイヤ周辺空間の音響解析等に有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 タイヤ
10 タイヤモデル
12 路面モデル
13、13’ 接触領域
15 半球領域
16 内部
20 タイヤ周辺空間
21 表面領域
22 境界部分
23 接触対象側境界
24 接触表面領域
26 要素
30 空間モデル
31 第1軸
32 第2軸
33 領域
35a、35b、36a、36b、37a、37b、37c、37d 直線
40 タイヤハウスモデル
41 対象物表面領域
50 タイヤ周辺空間の解析装置(解析装置)
51 入出力装置
52 処理部
52a タイヤモデル作成部
52b 解析部
52c 表面情報抽出部
52d 境界領域設定部
52e 空間モデル作成部
54 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、複数の節点を有する複数の要素で分割されたタイヤモデルを、当該タイヤモデルが接触する接触対象モデルに接触させて接触解析を実行する接触解析手順と、
前記コンピュータが、当該接触解析手順が終了した後の前記タイヤモデルの表面に存在する節点から、前記タイヤモデルの表面情報を取得するとともに、前記表面情報から得られる前記タイヤモデルの表面領域と、当該表面領域の内部と外部とを区画する境界部分とを含むタイヤ境界領域を作成する表面情報抽出・境界領域作成手順と、
前記コンピュータが、少なくとも前記タイヤ境界領域を用いて、当該タイヤ境界領域の周辺空間の空間モデルを作成する空間モデル作成手順と、
前記コンピュータが、前記空間モデルを用いて解析を実行する解析手順と、
を含むことを特徴とするタイヤ周辺空間の解析方法。
【請求項2】
前記表面情報抽出・境界領域作成手順において、前記コンピュータは、
前記タイヤモデルと前記接触対象モデルとが接触する接触領域に存在する、前記タイヤモデルの節点の物理量に基づいて、前記タイヤモデルの接触領域に存在する少なくとも1つの節点を移動させる請求項1に記載のタイヤ周辺空間の解析方法。
【請求項3】
前記コンピュータは、
前記接触対象モデルとの距離が所定の閾値以下である、前記タイヤモデルの表面に存在する節点を前記接触対象モデルの表面に移動させる請求項2に記載のタイヤ周辺空間の解析方法。
【請求項4】
前記所定の閾値は、前記タイヤモデルの直径の0.2%以下、又は1mm以下のいずれか一方である請求項3に記載のタイヤ周辺空間の解析方法。
【請求項5】
前記表面情報抽出・境界領域作成手順において、前記コンピュータは、
前記接触領域が、前記タイヤモデルの幅方向と平行な第1軸と、前記タイヤモデルの周方向と平行な第2軸との両方に対して軸対称となるように、前記接触領域の形状を変更する請求項1に記載のタイヤ周辺空間の解析方法。
【請求項6】
前記コンピュータは、
複数の直線で前記接触領域の形状を形成する請求項5に記載のタイヤ周辺空間の解析方法。
【請求項7】
前記表面情報抽出・境界領域作成手順において、前記コンピュータは、
前記空間モデルに、さらに1以上の境界を設ける請求項1に記載のタイヤ周辺空間の解析方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載のタイヤ周辺空間の解析方法をコンピュータに実行させることを特徴とするタイヤ周辺空間の解析用コンピュータプログラム。
【請求項9】
複数の節点を有する複数の要素で分割されたタイヤモデルを、当該タイヤモデルが接触する接触対象モデルに接触させて接触解析を実行する接触解析部と、
当該接触解析が終了した後の前記タイヤモデルの表面に存在する節点から、前記タイヤモデルの表面情報を取得する表面情報抽出部と、
前記表面情報から得られる前記タイヤモデルの表面領域と、当該表面領域の内部と外部とを区画する境界領域とを含むタイヤ境界部分を作成する境界領域設定部と、
少なくとも前記タイヤ境界領域を用いて、当該タイヤ境界領域の周辺の空間モデルを作成する空間モデル作成部と、
前記空間モデルを用いて解析を実行する空間モデル解析部と、
を含むことを特徴とするタイヤ周辺空間の解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−225124(P2011−225124A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97404(P2010−97404)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】