説明

タイヤ用インナーライナーゴム組成物

【課題】加工性を損なうことなく、優れた耐空気透過性を得ることができるタイヤ用インナーライナーゴム組成物を提供する。
【解決手段】ゴム成分100重量部に対して、液状ポリスルフィドポリマー1〜25重量部と、平板状充填剤1〜70重量部を配合する。液状ポリスルフィドポリマーとしては、末端にメルカプト基又はエポキシ基を持つものが好適であり、また、平板状充填剤としては石炭粉砕物などの有機充填剤が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのインナーライナーに用いられるゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤにおいては、そのタイヤ内面に、空気の透過を抑えるインナーライナーと呼ばれるゴム層が設けられている。かかるインナーライナーには、トレッドやサイドウォールなどを構成するゴム層に比べて空気透過性の低いハロゲン化ブチルゴムが使用されている。
【0003】
従来、インナーライナーの耐空気透過性(ガスバリヤー性)を改良する方法としては、ハロゲン化ブチルゴムの含有率を上げることが一般に採用されているが、ハロゲン化ブチルゴムの含有率を上げるとコストアップにつながることから、それ以外の方法で耐空気透過性を向上させることが求められる。
【0004】
そこで、下記特許文献1には、粒径の大きい平板状粒子からなる充填剤をインナーライナーのゴムに配合することにより、耐空気透過性を改良することが提案されている。このような平板状充填剤を用いることにより、カーボンブラックのような通常の充填剤のみを用いる場合に比べて耐空気透過性の向上効果が認められるが、更なる耐空気透過性の改良が求められている。
【0005】
なお、下記特許文献2には、オレフィン系不飽和を含む少なくとも一種のエラストマー100重量部に対し、分子量が500〜10000の液状ポリスルフィドポリマー1〜20重量部を配合した空気入りタイヤのゴム部材が開示されている。しかしながら、同文献では、上記液状ポリスルフィドポリマーの添加により、耐熱老化性、耐トレッド摩耗性、加工性、転がり抵抗性、低発熱性などが改善されることについては開示されているものの、耐空気透過性については明らかにされていない。
【特許文献1】特開2002−205507号公報。
【特許文献2】特開2001−106833号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、加工性を損なうことなく、優れた耐空気透過性を得ることができるタイヤ用インナーライナーゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るタイヤ用インナーライナーゴム組成物は、ゴム成分100重量部に対して、液状ポリスルフィドポリマー1〜25重量部と、平板状充填剤1〜70重量部を含有してなるものである。
【0008】
前記の液状ポリスルフィドポリマーは、末端にメルカプト基及びエポキシ基よりなる群から選択される少なくとも一種の官能基を持つものであることが好適である。また、前記の平板状充填剤としては有機充填剤が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、平板状充填剤と液状ポリスルフィドポリマーとを併用することにより、充填剤が平板状であることによる構造的なガスバリヤー性と、液状ポリスルフィドポリマーの極性によるガスバリヤー性との相乗効果により、加工性を損なうことなく、優れた耐空気透過性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0011】
本発明のゴム組成物において、ゴム成分としては、インナーライナー用ゴム組成物として通常使用される各種ゴムを用いることができ、例えば、ハロゲン化ブチルゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、ブチルゴムなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上ブレンドして用いてもよい。好ましくは、臭素化ブチルゴムや塩素化ブチルゴムなどのハロゲン化ブチルゴムと、ジエン系ゴムとを併用することである。
【0012】
本発明のゴム組成物に使用される液状ポリスルフィドポリマーは、主鎖に−(R−で表されるポリスルフィドを持つ常温で液状のポリマーであれば特に限定されないが、好ましくは、主鎖に−(R−を持ち(但し、x=1〜6、m=1〜50)、末端にメルカプト基(−SH)及び/又はエポキシ基を持つ液状ポリスルフィドポリマーである。このような液状ポリスルフィドポリマーを配合することで、その極性によりインナーライナーの耐空気透過性を向上することができる。また、末端にメルカプト基やエポキシ基といった官能基を持たせることにより、上記効果をより高めることができる。更に、末端をエポキシ基とすればスコーチを防止する上で有利である。
【0013】
該液状ポリスルフィドポリマーとして、より好ましくは、下記a〜dが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0014】
a.一般式(1)で表される液状ポリスルフィドポリマー
−(R−R−R (1)
式中、R,Rは、炭素数2〜10のアルキレン基及び/又は炭素数2〜10のオキシアルキレン基及び/又は炭素数2〜10のヒドロキシアルキレン基及び/又は酸素数2〜20のポリオキシアルキレン基であり、RとRは互いに同一でも異なってもよい。好ましくは、RとRともに、−COCHOC−で表されるジエトキシメタンである。Rは、メルカプト基又はエポキシ基である。xは1〜6、より好ましくは2〜6、更に好ましくは2である。nは1〜50であり、より好ましくは2〜30である。
【0015】
b.一般式(2)で表される末端エポキシ液状ポリスルフィドポリマー
【化1】

【0016】
式中、Rとxとnは上記式(1)の場合と同じである。R,Rは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂のようなビスフェノール骨格を含む有機基であり、互いに同一でも異なってもよい。
【0017】
c.主鎖に、−(RO)−で表されるポリエーテル部分(但し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基であり、好ましくは、−C−又は−C−である。mは6〜200である。)と、
−(R−(但し、x=1〜6、m=1〜50)とを有し、
末端にメルカプト基(−SH)及び/又はエポキシ基を持つポリスルフィドポリエーテル。
【0018】
d.上記cの具体例として、
主鎖に、−(RO)−で表されるポリエーテル部分(但し、R,mは上記cと同じ。)と、
−(COCHOC−S)−及び/又は−(CHCH(OH)CH−S)−で表される構造単位(但し、xは1〜5の整数)とを有し、
末端に、−COCHOC−SH及び/又は−CHCH(OH)CH−SHで表されるチオール基を持つポリスルフィドポリエーテル。
【0019】
上記c及びdのように、主鎖にポリエーテル部分を導入することにより、低温性能を改良することができる。
【0020】
該液状ポリスルフィドポリマーの分子量は特に限定されないが、数平均分子量が600〜200000であることが好ましく、より好ましくは1000〜10000である。
【0021】
該液状ポリスルフィドポリマーは、ゴム成分100重量部に対して1〜25重量部配合され、より好ましくは下限が2重量部であり、上限が15重量部である。1重量部未満では、上記した本発明の効果を十分に発揮させることができず、25重量部を越えると、不良分散塊が発生し、本発明の効果を十分に発揮させることができない。該液状ポリスルフィドポリマーは、ゴム組成物において軟化剤として通常配合されるオイルの一部又は全部を置換するように配合してもよい。なお、一部を置換する場合、併用するオイルとしては、芳香族系プロセス油や、ナフテン系プロセス油、パラフィン系プロセス油が挙げられ、該オイルはゴム成分100重量部に対して1〜20重量部配合されることが好ましい。
【0022】
本発明のゴム組成物では、充填剤として平板状の充填剤を用いる。かかる平板状充填剤は、薄いゴム層からなるインナーライナーを、ロールなどを用いてシート状に押出成形したときに、ゴム層中において層表面に略平行に寝かされた状態で配設されるため、ゴム層を厚み方向に透過しようとする空気が平板状の充填剤によりその通過を遮られ、もって耐空気透過性が向上する。
【0023】
平板状充填剤としては、粒子の主形状が平板状であれば特に限定されず、例えば、クレー、雲母、石炭粉砕物などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても2種以上併用してもよい。特には、石炭粉砕物などの有機充填剤を用いると、液状ポリスルフィドポリマーとの相互作用により混合しやすくなり、また、耐空気透過性が一層向上することから好ましい。上記石炭粉砕物とは、瀝青炭などの石炭を粉砕してなるものであり、石炭は層状構造を有するため、ボールミル等の粉砕機で砕くことにより平板状の粒子が得られる。該平板状充填剤は、平均粒径が0.5〜100μmであることが好ましい。ここで、平均粒径はレーザー回折散乱法により測定されるものである。
【0024】
該平板状充填剤は、ゴム成分100重量部に対して1〜70重量部配合され、より好ましくは下限が3重量部であり、上限が25重量部である。本発明のゴム組成物には、該平板状充填剤とともに、平板状でない充填剤を配合することもできる。かかる平板状でない充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、澱粉、木粉等が挙げられ、特にはカーボンブラックが好ましい。平板状でない充填剤を併用する場合、ゴム成分100重量部に対して充填剤全体で20〜100重量部であることが好ましい。
【0025】
本発明のゴム組成物には、上記した成分の他に、老化防止剤、軟化剤、加工助剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤ用インナーライナーゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0026】
本発明のゴム組成物を常法に従ってロールなどでシート状に押し出し、押し出したシート状物をトレッドやサイドウォールなどを構成する通常ゴム層の内側に貼り付けて加硫成形することにより、タイヤ内面に薄いゴム層よりなるインナーライナーを備える空気入りタイヤが形成される。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
下記表1に示す配合に従い、実施例1〜6及び比較例1〜6のゴム組成物を調製した。表1の各成分の詳細は以下の通りである。
【0029】
・臭素化ブチルゴム:バイエル株式会社製「ブロモブチル2030」
・天然ゴム:RSS3号
・カーボンブラック:東海カーボン社製「シーストV」
・平板状充填剤1:コールフィラー社製の瀝青炭粉砕物「オースティンブラック325」
・平板状充填剤2:HUBER社製のクレー「ポリフィルD/L」。
【0030】
・液状ポリスルフィドポリマー1:東レ・ファインケミカル社製「チオコールLP−32」(上記aに相当する両末端がSH基の液状ジエトキシメタンポリスルフィドポリマー。数平均分子量=4000)
・液状ポリスルフィドポリマー2:東レ・ファインケミカル社製「フレップ50」(上記bに相当する末端エポキシ液状ポリスルフィドポリマー(式(2)中、Rは−COCHOC−)55〜65重量%とビスフェノールF型エポキシ樹脂35〜45重量%の混合物である。)
・液状ポリスルフィドポリマー3:東レ・ファインケミカル社製「チオコールLP−282」(上記dに相当するポリスルフィドポリエーテル。数平均分子量=3500)
・比較液状ポリマー:クラレ製液状ポリイソプレンゴム「LIR 50」
・プロセスオイル:JOMO社製芳香族プロセスオイル「プロセスX−140」。
【0031】
また、各ゴム組成物には、共通の添加剤として、ステアリン酸(花王製「ルナックS−20」)1.0重量部、亜鉛華(三井金属鉱業株式会社製「亜鉛華3号」)3.0重量部、硫黄(鶴見化学社製「油処理150メッシュ粉末硫黄」)0.2重量部、加硫促進剤(大内新興化学工業製「ノクセラーDM」)1.2重量部を配合した。
【0032】
得られた各ゴム組成物について、ムーニー粘度を測定するとともに、耐空気透過性を評価した。各測定・評価方法は次の通りである。
【0033】
・ムーニー粘度:JIS K6300に準拠して行い、比較例1を100とした指数で表示した。数値が小さいほど加工性に優れることを示す。
【0034】
・耐空気透過性:ASTM D1434に準拠して行い、空気透過係数を算出して、比較例1を100とした指数で表示した。数値が小さいほど、耐空気透過性、即ちガスバリヤー性に優れることを示す。
【表1】

【0035】
結果は表1に示す通りであり、液状ポリスルフィドポリマーと平板状充填剤を組み合わせた実施例1〜6であると、コントロールである比較例1に比べて、加工性を損なうことなく、耐空気透過性が大幅に改善されており、平板状充填剤単独使用の比較例2,3や液状ポリスルフィドポリマー単独使用の比較例4,5に比べて、耐空気透過性の相乗的な改善効果が認められた。特に、平板状充填剤として瀝青炭粉砕物を用いた実施例1〜5では、極性を持つ液状ポリスルフィドポリマーと瀝青炭との相互作用により、特に優れた効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係るゴム組成物は、加工性を損なうことなく、耐空気透過性に優れるため、自動車用空気入りラジアルタイヤを始めとする各種空気入りタイヤのインナーライナーを構成するためのゴム組成物として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100重量部に対して、液状ポリスルフィドポリマー1〜25重量部と、平板状充填剤1〜70重量部を含有するタイヤ用インナーライナーゴム組成物。
【請求項2】
前記液状ポリスルフィドポリマーは末端にメルカプト基及びエポキシ基よりなる群から選択される少なくとも一種の官能基を持つものであることを特徴とする請求項1記載のタイヤ用インナーライナーゴム組成物。
【請求項3】
前記平板状充填剤が有機充填剤であることを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤ用インナーライナーゴム組成物。

【公開番号】特開2006−225616(P2006−225616A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44840(P2005−44840)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】