説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】良好な加工性を維持しつつ、低燃費性、耐摩耗性を改善できるタイヤ用ゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】天然ゴム及びジエン系合成ゴムからなる群より選択される少なくとも1種と、カーボンブラック表面のカルボキシル基がオキシラン環の開環反応によりヒドロキシエステル化して化学修飾された表面処理カーボンブラックと、酸性及び塩基性官能基を有する両性化合物とを含有するタイヤ用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に対する省燃費性の要請が高まり、タイヤのゴム物性が省燃費性に重要な影響を及ぼすことが知られているため、省燃費性に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することが望まれている。一般に、省燃費タイヤとするためにはゴム組成物のヒステリシスロスを低下させることが有効である。
【0003】
タイヤ用ゴム組成物の充填剤としては、補強性と耐摩耗性の点でカーボンブラックが汎用されている。カーボンブラック配合で低燃費化を図る場合、カーボンブラックの粒子径を大きくする、カーボンブラック量を少なくするといった方法が考えられるが、耐摩耗性などの低下が避けられない。
【0004】
一方、充填剤としてシリカを用いて低燃費化を図れることも知られているが、シリカ配合は、カーボンブラック配合に比べて耐摩耗性などが劣り、充分な性能を得ることが困難である。
【0005】
また、特許文献1には、ジアミン化合物の添加によりカーボンブラックの分散性を向上し、低発熱性を改善する技術が提案されている。しかしながら、良好な耐摩耗性を維持しつつ、低燃費性を改善する点については、未だ改善の余地がある。また、スコーチタイムが短く、加工性に劣るという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2912845号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、良好な加工性を維持しつつ、低燃費性、耐摩耗性を改善できるタイヤ用ゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、天然ゴム及びジエン系合成ゴムからなる群より選択される少なくとも1種と、カーボンブラック表面のカルボキシル基がオキシラン環の開環反応によりヒドロキシエステル化して化学修飾された表面処理カーボンブラックと、酸性及び塩基性官能基を有する両性化合物とを含有するタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0009】
上記両性化合物が下記式(I)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】

(式(I)中、Rは、炭素数2〜30のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を表す。Aは、酸性官能基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基若しくはアルキニル基、又は炭素数1〜20のアルコキシシリル基を表す。式(I)で表される化合物は、該化合物の金属塩でもよい。)
【0010】
上記両性化合物が下記式(I−1)及び/又は下記式(I−2)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】

[式(I−1)中、pは2〜8の整数を表す。式(I−2)中、qは2〜8の整数を表す。Mr+は金属イオンを表し、rはその価数を表す。]
【0011】
上記式(I−2)中のMr+で表される金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオン、又は亜鉛イオンであることが好ましい。
【0012】
上記表面処理カーボンブラックの化学修飾されたヒドロキシエステル化構造が、下記(1)〜(5)の構造式の少なくとも1つの構造を有するものであることが好ましい。
【化3】

(R及びRは、同一若しくは異なって、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基を表す。Rは、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基を表す。)
【0013】
上記表面処理カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10〜100質量部であることが好ましい。
【0014】
上記両性化合物の含有量は、上記表面処理カーボンブラック100質量部に対して0.01〜30質量部であることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、天然ゴム及びジエン系合成ゴムからなる群より選択される少なくとも1種と、カーボンブラック表面のカルボキシル基がオキシラン環の開環反応によりヒドロキシエステル化して化学修飾された表面処理カーボンブラックと、酸性及び塩基性官能基を有する両性化合物とを含有するタイヤ用ゴム組成物であるので、良好な加工性を維持しつつ、低燃費性、耐摩耗性を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、天然ゴム(NR)及びジエン系合成ゴムからなる群より選択される少なくとも1種と、カーボンブラック表面のカルボキシル基がオキシラン環の開環反応によりヒドロキシエステル化して化学修飾された表面処理カーボンブラックと、酸性及び塩基性官能基を有する両性化合物とを含有する。
【0018】
天然ゴムやジエン系合成ゴムに、カーボンブラックと、酸性官能基及び塩基性官能基の両官能基を有する両性化合物とを配合すると、該両性化合物の酸性官能基がゴムと反応し、塩基性官能基がカーボンブラック表面(カーボンブラック表面に存在するカルボキシル基やヒドロキシル基など)と反応するため、カーボンブラックの分散性が向上するとともに、カーボンブラックの拘束により発熱を抑制できる。従って、低燃費性、耐摩耗性をバランスよく改善できる。また、良好な加工性も得られる。
上記表面処理カーボンブラックは、ヒドロキシエステル化されているため、ヒドロキシエステル化構造部分に含酸素親水性官能基であるヒドロキシル基やエステル基を有する。更に、カーボンブラック表面には、ヒドロキシル基や、ヒドロキシエステル化されずに残存するカルボキシル基等の含酸素親水性官能基も有する。
このように、上記表面処理カーボンブラックは、含酸素親水性官能基として、ヒドロキシエステル化構造部分に由来する含酸素親水性官能基と共に、元々カーボンブラック表面に有する含酸素親水性官能基も有する。
本発明では、カーボンブラックとして、この表面処理カーボンブラックを使用するため、両性化合物の塩基性官能基と、カーボンブラック表面(表面処理カーボンブラックが有する含酸素親水性官能基)との反応性が向上し、良好な加工性を維持しつつ上記性能の向上効果を相乗的に得られる。
【0019】
また、表面処理カーボンブラックのみを配合した場合、通常のカーボンブラックを配合した場合に比べて、低燃費性、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、通常のカーボンブラックと共に両性化合物を配合した場合には、低燃費性は向上するものの耐摩耗性が低下する傾向がある。このように、表面処理カーボンブラック、両性化合物を単独で配合すると、いずれも耐摩耗性が低下する傾向がある。一方、表面処理カーボンブラックと両性化合物を併用すると、それぞれを単独で配合した場合には低下していた耐摩耗性をも向上することができ、更に低燃費性も相乗的に向上でき、良好な加工性を維持しつつ、低燃費性、耐摩耗性を顕著に改善できる。
【0020】
本発明では、ゴム成分として、NR、ジエン系合成ゴム(イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)など)が使用される。なかでも、低燃費性、機械的強度の点からは、NRが好ましく、耐摩耗性、耐屈曲亀裂性の点からは、BRが好ましい。なお、NRとBRを併用してもよい。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0022】
ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。20質量%未満であると、充分な低燃費性、ゴム強度が得られない傾向がある。NRの含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってもよいが、NRと共に他のゴム成分を使用する場合には、70質量%以下が好ましい。
【0023】
BRとしては特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR150B等の高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等の1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を含むBR等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、耐摩耗性の向上効果が高いという理由から、シス含量が95質量%以上のBRが好ましい。なお、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析法により測定できる。
【0024】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%未満であると、充分な耐摩耗性が得られない傾向がある。該BRの含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0025】
本発明では、カーボンブラック表面のカルボキシル基がオキシラン環の開環反応によりヒドロキシエステル化して化学修飾された表面処理カーボンブラックが使用される。
【0026】
上記表面処理カーボンブラックは、ヒドロキシエステル化構造を有する。本発明において、ヒドロキシエステル化構造とは、カーボンブラック表面のカルボキシル基がオキシラン環の開環反応によりヒドロキシエステル化されることにより生成され、ヒドロキシル基とエステル基を有する構造であれば特に限定されない。このようなヒドロキシル基とエステル基を有する構造を表面に有する表面処理カーボンブラックを、両性化合物と併用することにより、上述の性能を顕著に改善できる。
【0027】
本発明の効果が好適に得られるという理由から、ヒドロキシエステル化構造が、下記(1)〜(5)の構造式の少なくとも1つの構造を有するものであることが好ましく、下記(1)〜(2)の構造式の少なくとも1つの構造を有するものであることがより好ましく、下記(2)の構造式の構造を有するものであることが更に好ましい。
【化4】

(R及びRは、同一若しくは異なって、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基を表す。Rは、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基を表す。)
【0028】
本発明では、上記(1)〜(5)の構造のように、ヒドロキシル基とエステル基を有する構造であれば、本発明の効果が好適に得られるため、R、R及びRのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは炭素数が1〜30、より好ましくは炭素数が1〜15、更に好ましくは炭素数が1〜5である。同様に、R、R及びRのアリール基の炭素数も特に限定されないが、好ましくは炭素数が6〜30、より好ましくは炭素数が6〜15、更に好ましくは炭素数が6〜10である。
【0029】
は、水素原子であることが好ましい。これにより、カーボンブラック表面のヒドロキシル基の数が増加し、本発明の効果がより好適に得られる。
【0030】
上述のように、カーボンブラックの表面には、カルボキシル基と共にヒドロキシル基が存在するが、オキシラン環の開環反応によるヒドロキシエステル化にはヒドロキシル基は関与しない。また、上述のように、ヒドロキシエステル化されずに残存するカルボキシル基も存在する。そのため、表面処理カーボンブラックの構造は、例えば、以下のような構造となる。
【化5】

(CBは、カーボンブラックを模式的に表す。R、R及びRは、上記(1)〜(5)中のR、R及びRと同一である。)
【0031】
表面処理カーボンブラックの製造方法としては、例えば、カーボンブラックとオキシラン系化合物を反応溶媒中で、触媒の存在下に還流してオキシラン環を開環反応させることにより、カーボンブラック表面のカルボキシル基をヒドロキシエステル化する方法等が挙げられる。なお、カーボンブラック表面のカルボキシル基量を増加させるために、オキシラン系化合物と反応させる前に、カーボンブラックを酸化処理することが好ましい。
【0032】
カーボンブラックの酸化処理は、例えば、オゾン酸化、空気酸化による気相法、あるいは、過酸化水素水、硝酸、硫酸、塩素酸塩、過硫酸塩、過炭酸塩などの酸化剤の水溶液中にカーボンブラックを入れ攪拌反応させる液相法で行えばよい。
【0033】
液相法で酸化処理する場合は、例えば、カーボンブラックを適宜な濃度の酸化剤水溶液中に入れて形成したスラリーを、混合攪拌槽中で適宜な温度、例えば室温〜90℃の温度で攪拌混合すればよい。 なお、スラリー中にカーボンブラックを均一に分散させるために界面活性剤の添加も好ましく、界面活性剤としてはアニオン系、ノニオン系、カチオン系いずれも使用することができる。
【0034】
また、酸化処理により生成した還元塩は、以降のヒドロキシエステル化反応を阻害する要因となり、またカーボンブラックの再擬集を抑制するために除去することが好ましい。還元塩の除去は、例えば、限外濾過膜(UF)、逆浸透膜(RO)、電気透析膜などの分離膜を用いて行えばよい。
【0035】
酸化処理されるカーボンブラックとしては、特に限定されず、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどを使用できる。
【0036】
酸化処理されるカーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は40m/g以上が好ましく、60m/g以上がより好ましい。NSAが40m/g未満では、耐摩耗性向上効果が小さい傾向がある。また、酸化処理されるカーボンブラックのNSAは200m/g以下が好ましく、150m/g以下がより好ましく、100m/g以下が更に好ましい。NSAが200m/gを超えると、表面処理カーボンブラックの分散性が低下し、耐摩耗性、低燃費性が低下する傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0037】
酸化処理によりカーボンブラック粒子表面にはカルボキシル基やヒドロキシル基などの親水性の酸性基(含酸素親水性官能基)が生成する。
【0038】
次に、カーボンブラック(好ましくは酸化処理されたカーボンブラック)表面のカルボキシル基は、オキシラン系化合物と反応溶媒中で触媒の存在下で還流して、オキシラン環を開環反応させることによりヒドロキシエステル化される。
【0039】
オキシラン系化合物は分子末端にオキシラン環を一つ持つ化合物であって、カーボンブラック表面のカルボキシル基量を考慮して、カルボキシ基量(μmol/g)の0.5〜5.0倍の分子数の比率となるように使用することが好ましく、比率が0.5を下回る場合には分散不良となり、比率が5.0を上回る場合には副生成物による保存安定性の悪化が顕著となる。より好ましい範囲は、1.0〜2.5である。
【0040】
また、オキシラン化合物の分子量は、9000以下が好ましい。9000を超えると、化合物自身又は分子間の立体障害により反応率が低下するという不具合がある。より好ましい範囲は、60〜5000である。
【0041】
オキシラン系化合物の具体例としては、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシオクタデカン;2,3−エポキシブタン、7,8−エポキシ−2−メチルオクタデカン、1−フェニルプロピレンオキシド、スチルベンオキシド、4−クロロスチルベンオキシド、2−4−ジクロロスチルベンオキシド、1−メトキシ−2−メチルプロピレンオキシド、クロロオキシラン、エピクロロヒドリン、クロロエチルオキシラン、ヘキサフルオロプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシサイド;1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン;グリシドール(2,3−エポキシ−1−プロパノール)、2−メチルグリシドール、3−プロピルオキシランメタノール;メチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ピヴァロイルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリルグリシジルエーテル、キシリルグリシジルエーテル、ニトロフェニルグリシジルエーテル、クロロフェニルグリシジルエーテル、エチルフェニルグリシジルエーテル、tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル;4−メトキシカルボニルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、プロパルギルグリシジルエーテル、メトキシカルボニルオキシラン、ステアロキシカルボニルオキシラン、グリシジルアセタート、グリシジルステアラート、グリシジル2−エチルヘキサナート、グリシジル2,2−ジメチルプロパナート、グリシジルベンゾエート、グリシジルメチルベンゾエート、グリシジルニトロベンゾエート、グリシジルクロロベンゾエート、グリシジルエチルベンゾエート、グリシジルtert−ブチルベンゾエート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、スチレンオキシド、トリルオキシラン、キシリルオキシラン、ニトロフェニルオキシラン、クロロフェニルオキシラン、エチルフェニルオキシラン、tert−ブチルフェニルオキシラン、4−メトキシカルボニルフェニルオキシラン、ベンジルオキシラン、フルフリルオキシラン、シクロヘキセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロオクテンオキシド、シクロドデカンエポキサイド、アルファピネンオキシド、エキソ−2,3,−エポキシノルボルネン、リモネンオキシド;等が挙げられる。なかでも、グリシドールが好ましい。
【0042】
また、反応溶媒としては非プロトン系溶媒が好ましく、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、メチレンクロライド、トルエン等を用いることができ、さらに好ましくはアセトニトリルまたはテトラヒドロフランが反応収率が高いので好ましい。
【0043】
触媒はハロゲン化第4級アンモニウム化合物(NR)が好ましく、具体的にはテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムヨーダイド、テトラプロピルアンモニウムブロマイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロキサイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート、テトラブチルアンモニウムヨーダイド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、トリラウリルメチルアンモニウムクロライド、ジ硬化牛脂アルキルジメチルアンモニウムアセテート、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムハイドロキサイド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられ、単独又は複数で用いることができる。なかでも、テトラブチルアンモニウムブロマイドが好ましい。なお、触媒の添加量はカーボンブラックに対して0.05〜10質量%の範囲が好ましい。
【0044】
ヒドロキシエステル化反応の一例を、上記(1)の構造の場合を例に以下に示した。
【化6】

(CBは、カーボンブラックを模式的に表す。Rは、上記(1)中のRと同一である。NRは、ハロゲン化第4級アンモニウム化合物を表す。)
【0045】
ヒドロキシエステル化反応の反応温度は、20〜200℃が好ましく、60〜120℃がより好ましく、反応時間は、1〜20時間が好ましく、3〜7時間がより好ましい。
【0046】
ヒドロキシエステル化反応終了後、残留したオキシラン系化合物や触媒は反応溶媒を除去した後、エーテルやMEKなどの溶剤で洗浄することにより除去できる。その後、乾燥することにより、表面処理カーボンブラックが得られる。乾燥は、例えば、真空下において10〜100℃(好ましくは10〜40℃)で、1〜20時間(好ましくは1〜10時間)行えばよい。
【0047】
本発明のゴム組成物において、表面処理カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。10質量部未満では、充分に低燃費性、耐摩耗性を向上できない傾向がある。また、該表面処理カーボンブラックの含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは70質量部以下である。100質量部を超えると、加工性が著しく低下するおそれがある。また、表面処理カーボンブラックの分散性が低下し、耐摩耗性、低燃費性が低下する傾向がある。
【0048】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、表面処理カーボンブラックと共に、表面処理カーボンブラック以外のカーボンブラックを使用してもよい。使用できるカーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0049】
本発明では、酸性官能基と塩基性官能基とを有する両性化合物が使用される。酸性官能基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、チオスルホン酸基(−SSOH)、ジチオカルボン酸基(−CSSH)、炭素数1〜20のアルキル基を有するチオアルキルカルボン酸基(−SRCOOH:Rは直鎖状又は分岐状のアルキル基)、フェノール性水酸基などが挙げられ、なかでも、チオスルホン酸基が好ましい。塩基性官能基としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基などが挙げられる。両性化合物は、該化合物の金属塩でもよい。
【0050】
上記両性化合物として、下記式(I)で表される化合物を好適に使用できる。
【化7】

【0051】
(式(I)中、Rは、炭素数2〜30のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を表す。Aは、酸性官能基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基若しくはアルキニル基、又は炭素数1〜20のアルコキシシリル基を表す。式(I)で表される化合物は、該化合物の金属塩でもよい。)
【0052】
式(I)の窒素を含む官能基部分は、表面処理カーボンブラック表面に存在する含酸素親水性官能基と反応することで表面処理カーボンブラックと結合し、酸性官能基部分は、ポリマーの二重結合と反応する。そのため、反応により、ポリマーが拘束されているため、発熱性を抑えることも可能となる。よって、低燃費性、耐摩耗性をバランス良く改善できる。
【0053】
のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基の炭素数は、好ましくは2〜18、より好ましくは2〜12である。Rは直鎖状、分岐状のいずれでも良く、アルキレン基の具体例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基など、アルケニレン基の具体例としては、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基など、アルキニレン基の具体例としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基などが挙げられる。Rとしては、アルキレン基が好ましい。
【0054】
Aの酸性官能基としては、前述の同様のものが挙げられる。R及びRの炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など、アルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基など、アルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基などが挙げられ、炭素数1〜20のアルコキシシリル基としては、トリエトキシシリル基、トリメトキシシリル基などが挙げられる。R及びRとしては、水素原子が好ましい。
【0055】
本発明では、両性化合物として、下記式(I−1)で表される化合物及び/又は下記式(I−2)で表される化合物を使用することが好ましい。
【化8】

[式(I−1)中、pは2〜8の整数を表す。式(I−2)中、qは2〜8の整数を表す。Mr+は金属イオンを表し、rはその価数を表す。]
【0056】
上記式(I−2)で表される化合物は任意の公知の方法により製造できる。例えば、ハロアルキルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法、フタルイミドのカリウム塩及びジハロアルカンを反応させて得られた化合物と、チオ硫酸ナトリウムとを反応させ、得られた化合物を加水分解する方法などが挙げられる。
【0057】
具体的には、qが6の化合物の場合、6−ハロヘキシルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法、フタルイミドのカリウム塩及び1,6−ジハロヘキサンを反応させて得られた化合物と、チオ硫酸ナトリウムとを反応させ、得られた化合物を加水分解する方法などが挙げられる。
【0058】
また、qが3の化合物の場合、3−ハロプロピルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法、フタルイミドのカリウム塩及び1,3−ジハロプロパンを反応させて得られた化合物と、チオ硫酸ナトリウムとを反応させ、得られた化合物を加水分解する方法などが挙げられる。
【0059】
上記式(I−1)で表される化合物は、例えば、上記式(I−2)で表される化合物とプロトン酸とを反応させることにより製造できる。
【0060】
本発明では、式(I−1)及び(I−2)で表される化合物の混合物も使用できる。該混合物は、式(I−1)で表される化合物と式(I−2)で表される化合物とを混合する方法、上記Mで示される金属を含有する水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩などを用いて式(I−1)で表される化合物の一部を金属塩化する方法、プロトン酸を用いて式(I−2)で表される化合物の一部を中和する方法により製造できる。このようにして製造した式(I−1)、(I−2)で表される化合物は、濃縮、晶析などの操作により、反応混合物から取り出すことができ、取り出された式(I−1)、(I−2)で表される化合物は、通常0.1〜5%程度の水分を含む。また、本発明では、式(I−1)で表される化合物のみ、又は式(I−2)で表される化合物のみを用いることもできる。更に、複数種の式(I−1)で表される化合物、式(I−2)で表される化合物を併用することもできる。
【0061】
式(I−1)中、pは2〜8の整数を表し、2〜5が好ましい。式(I−2)中、qは2〜8の整数を表し、2〜5が好ましい。
【0062】
r+で示される金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオン及び亜鉛イオンが好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンがより好ましく、ナトリウムイオンが更に好ましい。rは金属イオンの価数を表し、当該金属において可能な範囲であれば、限定されない。通常rは、金属イオンがアルカリ金属イオンの場合は1、コバルトイオンの場合は2又は3、銅イオンの場合は1〜3の整数、亜鉛イオンの場合は2である。上記製法によれば、通常、式(I−1)で表される化合物のナトリウム塩が得られるが、カチオン交換反応を行うことで他の金属塩に変換できる。
【0063】
上記式(I−1)、(I−2)で表される化合物のメディアン径は、好ましくは0.05〜100μmの範囲であり、より好ましくは1〜100μmの範囲である。メディアン径は、レーザー回折法にて測定できる。
【0064】
上記式(I−1)、(I−2)で表される化合物は、予め担持剤と混合してから使用してもよい。担持剤としては、日本ゴム協会編「ゴム工業便覧<第四版>」第510〜513頁に記載されている「無機充てん剤、補強剤」が挙げられ、なかでも、カーボンブラック、シリカ、焼成クレー、水酸化アルミニウムが好ましい。担持剤の使用量は、特に限定されないが、上記式(I−1)及び/又は(I−2)で表される化合物の合計量100質量部に対して、10〜1000質量部の範囲が好ましい。
【0065】
本発明のゴム組成物において、上記両性化合物の含有量は、表面処理カーボンブラック100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上である。0.01質量部未満であると、低燃費性の改善効果が低く、低燃費性、耐摩耗性を充分に改善できないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは30質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。30質量部を超えても、低燃費性の更なる向上効果は得られず、加工性が低下する傾向がある。
【0066】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、シリカ、クレーなどの補強用充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加工助剤、各種老化防止剤、オイルなどの軟化剤、ワックス、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合できる。
【0067】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系若しくはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、又はキサンテート系加硫促進剤が挙げられる。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。
【0068】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)などが挙げられる。なかでも、TBBSが好ましい。
【0069】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上であり、また、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。上記範囲内に調整することで、低燃費性、耐摩耗性の性能バランスに優れたゴムを調製できる。
【0070】
オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。1質量部未満であると、加工性に劣り、低燃費性、耐摩耗性が低下する傾向がある。該オイルの含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。15質量部を超えると、ウェットグリップ性、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0071】
本発明のゴム組成物は、トレッド(キャップトレッド)、ベーストレッド、アンダートレッド、サイドウォール、クリンチ、インナーライナーなどに好適に使用できる。
【0072】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0073】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤ部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【実施例】
【0074】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0075】
以下、製造例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
3−ブロモプロピルアミン臭化水素酸塩:関東化学(株)製
チオ硫酸ナトリウム・五水和物:関東化学(株)製
フタルイミドカリウム:関東化学(株)製
ジメチルホルムアミド:関東化学(株)製
1,6−ジブロモヘキサン:関東化学(株)製
ヒドラジン・一水和物:関東化学(株)製
【0076】
(製造例1 S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸(両性化合物A))
窒素ガスで置換した反応容器に3−ブロモプロピルアミン臭化水素酸塩75g、チオ硫酸ナトリウム・五水和物85.26g、メタノール375ml、水375mlを加え、これらの混合物を70℃、5時間還流した。放冷した後、減圧下でメタノールを除去した。残渣に水酸化ナトリウム13.68gを加え、室温で1時間攪拌した後、減圧下で溶媒を除去した。得られた残渣にエタノール600mlを加えて1.5時間還流した。熱ろ過を行い、ろ液を減圧下で濃縮し結晶を得た。結晶をろ過により取り出し、エタノールで洗浄し、更にヘキサンでの洗浄を行った。得られた結晶を真空乾燥し、S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸ナトリウムを得た。
窒素ガスで置換した反応容器にS−(3−アミノプロピル)チオ硫酸ナトリウム52g、水90ml、5mol/l塩酸を加え、得られた溶液を減圧下で濃縮し、ろ過により結晶を取り出した。得られた結晶を真空乾燥し、S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸を得た。
【化9】

【0077】
(製造例2 S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸(両性化合物B))
反応容器に、フタルイミドカリウム99.2g及びジメチルホルムアミド480mlを加えた。この混合物に1,6−ジブロモヘキサン200gとジメチルホルムアミド200mlとの混合物を室温で滴下した。滴下終了後、得られた混合物を120℃まで昇温して5時間還流し、放冷後、反応混合物から溶媒を留去した。酢酸エチルと水とを加えて分液した後、有機層を濃縮した。得られた残渣にヘキサンと酢酸エチルを加え、結晶を析出させた。結晶を取り出し、真空乾燥して、N−(6−ブロモヘキシル)フタルイミドを得た。
反応容器に、N−(6−ブロモヘキシル)フタルイミド40g、チオ硫酸ナトリウム・五水和物32.0g、メタノール200ml、水200mlを加え、これらの混合物を5時間還流させ、放冷後、反応混合物から溶媒を留去した。得られた残渣に、エタノール200mlを加えて1.5時間還流した。熱ろ過を行い、ろ液を減圧下で濃縮し結晶を得た後、静置した。結晶をろ過により取り出し、エタノールで洗浄し、更にヘキサンでの洗浄を行った。得られた結晶を真空乾燥し、6−フタルイミドヘキシルチオ硫酸ナトリウム塩を得た。
窒素置換した反応容器に、6−フタルイミドヘキシルチオ硫酸のナトリウム塩20.0g(54.7mmol)及びエタノール200mlを仕込み、得られた混合物にヒドラジン・一水和物4.25g(84.8mmol)を滴下した。滴下終了後、得られた混合物を70℃で5時間攪拌した後、減圧下でエタノールを留去した。残渣にメタノール100mlを加えて1時間還流させた。熱ろ過により結晶を取得し、これをメタノールで洗浄し、真空乾燥することにより、S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸ナトリウム塩を得た。
窒素ガスで置換した反応容器に、S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸ナトリウム26g、水45ml、5mol/l塩酸を加え、得られた溶液を減圧下で濃縮し、ろ過により結晶を取り出した。得られた結晶を真空乾燥し、S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸を得た。
【化10】

【0078】
上記製造例1〜2で得られた両性化合物A〜Bのメディアン径(50%D)を、(株)島津製作所製SALD−2000J型を用い、レーザー回折法(測定操作は下記のとおり)により測定したところ、メディアン径(50%D)は66.7μmであった。得られた両性化合物A〜Bを粉砕し、そのメディアン径(50%D)を14.6μmに調製し、以下の実施例で使用した。
<測定操作>
両性化合物A〜Bを分散溶媒(トルエン)と分散剤(10質量%スルホこはく酸ジー2−エチルヘキシルナトリウム/トルエン溶液)との混合溶液に室温で分散させ、得られた分散液に超音波を照射しながら、該分散液を5分間撹拌して試験液を得た。該試験液を回分セルに移し、1分後に測定した。(屈折率:1.70−0.20i)
【0079】
(製造例3 カーボンブラックB(表面処理カーボンブラック))
カーボンブラックとして東海カーボン(株)製のシースト3(NSA:79m/g、DBP:101ml/100g)を用い、オゾン発生機(ヤマト科学社製CO−101)により圧力0.02MPa、流量5リットル/分、室温の条件で8時間オゾン酸化し、酸化処理カーボンブラックを得た。得られた酸化処理カーボンブラックを、下記の方法によりカルボキシル基量およびヒドロキシル基量を測定した結果、カルボキシル基量は480μmol/g、ヒドロキシル基量は125μmol/gであった。
(1)カルボキシル基量の測定
濃度0.976Nの炭酸水素ナトリウム水溶液に酸化カーボンブラックを約2〜5g添加して6時間程振とうした後,濾別し、濾液の滴定試験を行って測定した。
(2)ヒドロキシル基量の測定
2,2′−Diphenyl−1−picrylhydrazyl(DPPH)を四塩化炭素中にて溶解し,5×10−4mol/l溶液を作製する。該溶液に酸化カーボンブラックを0.1〜0.6g添加し、60℃の恒温槽中にて6時間攪拌した後、濾別し、濾液を紫外線吸光光度計で測定して吸光度から算出した。
【0080】
得られた酸化処理カーボンブラック60gに、溶媒として無水アセトニトリル740gを加え、TKホモミキサー(プライミクス社製)を用いて、2000rpmで室温下、0.5時間攪拌して均一なスラリーとした。
このスラリーを室温下、200rpmで攪拌しながらグリシドール(C、3−ヒドロキシプロピレンオキシド)を5g添加し、さらに触媒としてテトラブチルアンモニウムブロマイドを0.6g加えて90℃で5時間還流して反応させた後、減圧下溶媒を留去し、室温で4時間真空乾燥して、カーボンブラックB(表面処理カーボンブラック)を得た。
【0081】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
BR:宇部興産(株)製のウベポールBR150B(シス含量:97質量%)
カーボンブラックA:東海カーボン(株)製のシースト3(NSA:79m/g、DBP:101ml/100g)
カーボンブラックB:上記製造例3で得られた表面処理カーボンブラック
両性化合物A:S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸(製造例1で調製)
両性化合物B:S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸(製造例2で調製)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製の椿
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0082】
(実施例及び比較例)
表1に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を160℃の条件下で3分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃で15分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0083】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物について下記の評価を行った。結果を表1に示した。
【0084】
<ムーニー粘度の測定>
未加硫ゴム組成物について、JIS K6300に準拠したムーニー粘度の測定方法に従い、130℃で測定した。比較例1のムーニー粘度(ML1+4)を100とし、各配合の結果を指数表示した。指数が大きいほどムーニー粘度が低く、加工性に優れる。
【0085】
<粘弾性試験>
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度50℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で各加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定し、比較例1のtanδを100として、下記計算式により指数表示した(転がり抵抗指数)。指数が大きいほど転がり抵抗特性(低燃費性)に優れることを示す。
(転がり抵抗指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0086】
<耐摩耗性試験>
得られた加硫ゴム組成物について、ランボーン摩耗試験機を用いて、温度20℃、スリップ率20%及び試験時間2分間の条件下でランボーン摩耗量を測定した。さらに、測定したランボーン摩耗量から容積損失量を計算し、比較例1のランボーン摩耗指数を100とし、各配合の容積損失量を指数表示した(ランボーン摩耗指数)。ランボーン摩耗指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
【0087】
【表1】

【0088】
表1の結果より、天然ゴム及びジエン系合成ゴムからなる群より選択される少なくとも1種と、表面処理カーボンブラック(カーボンブラックB)と、酸性及び塩基性官能基を有する両性化合物(両性化合物A、B)とを含有する実施例は、良好な加工性を維持しつつ、低燃費性、耐摩耗性を改善できた。
【0089】
比較例1、3、6、実施例1の比較、比較例2、3、6、実施例3の比較により、表面処理カーボンブラックと、両性化合物とを併用することにより、それぞれを単独で配合した場合には低下していた耐摩耗性をも向上することができ、更に低燃費性も相乗的に向上でき、良好な加工性を維持しつつ、低燃費性、耐摩耗性を顕著に改善できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム及びジエン系合成ゴムからなる群より選択される少なくとも1種と、カーボンブラック表面のカルボキシル基がオキシラン環の開環反応によりヒドロキシエステル化して化学修飾された表面処理カーボンブラックと、酸性及び塩基性官能基を有する両性化合物とを含有するタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記両性化合物が下記式(I)で表される化合物である請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【化1】

(式(I)中、Rは、炭素数2〜30のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を表す。Aは、酸性官能基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基若しくはアルキニル基、又は炭素数1〜20のアルコキシシリル基を表す。式(I)で表される化合物は、該化合物の金属塩でもよい。)
【請求項3】
前記両性化合物が下記式(I−1)及び/又は下記式(I−2)で表される化合物である請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【化2】

[式(I−1)中、pは2〜8の整数を表す。式(I−2)中、qは2〜8の整数を表す。Mr+は金属イオンを表し、rはその価数を表す。]
【請求項4】
前記式(I−2)中のMr+で表される金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオン、又は亜鉛イオンである請求項3記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
化学修飾されたヒドロキシエステル化構造が、下記(1)〜(5)の構造式の少なくとも1つの構造を有するものである請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【化3】

(R及びRは、同一若しくは異なって、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基を表す。Rは、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基を表す。)
【請求項6】
前記表面処理カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10〜100質量部である請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
前記両性化合物の含有量は、前記表面処理カーボンブラック100質量部に対して0.01〜30質量部である請求項1〜6のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2013−107990(P2013−107990A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254176(P2011−254176)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】