説明

タイヤ金属ケーブル異常検出方法及び装置

タイヤ構造体内のケーブルの異常を検出する装置及び方法が開示される。複数個の磁界感受性センサが磁石によって提供された磁界の中に整列して配置される。センサと磁石の整列関係は、磁石からの磁束線が磁気センサの占める平面に全体として平行であるようなものである。磁界感受性センサ相互間に存在するタイヤケーブル異常は、かかる異常によって生じる垂直磁束パターンの形成の結果として磁界感受性センサにより生じる信号の検出可能な差を生じさせる。センサからの入力信号を受け取った信号処理回路が、複数個のセンサの各々からの出力信号を複数個のセンサのうちの他のセンサの各々からの出力信号と対にすることによって各センサからの信号相互間の差を評価する。出力信号としては、外部から測定可能な信号が挙げられると共に/或いはタイヤ異常の存在を表す視覚的信号が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの検査に関する。本発明は、特に、タイヤ内部の金属ケーブルに異常があるかどうかについて非破壊検査を行う方法及び装置に関する。
【0002】
〔関連出願の説明〕
本願は、2009年4月9日に出願された国際出願PCT/US2009/040017号の権益主張出願である。
【背景技術】
【0003】
タイヤの更生(リトレッド)を含むタイヤの補修が当該技術分野において周知である。更生を含む補修に先立ってタイヤの或るレベルの検査が、この作業を実施するのに妥当であるかどうかを判定するよう行われるのが通例であることも周知である。幾つかの場合では検査は簡単な目視検査を含む場合があるが、更生の場合、例えばサイドウォール包囲ワイヤを含むタイヤの内部コンポーネントの状態を判定することが重要である場合が多い。
【0004】
一般に、かかる判定は、目視検査又はシェアログラフィック(shearographic)画像検査に基づくX線分析を用いて実施されていた。頻繁にシェアログラフィック画像検査を行い、次に実際に、X線検査を行って識別された異常性がケーブルに関連しているかどうかを判定する。しかしながら、かかる方法は、時間がかかり、しかも、必要な機器は、所有して動作させるのには費用が高くつく。したがって、これら高価であり且つ時間のかかる方法のうちの幾つかに対する要望を解決する装置及び方法を解決することが有利である。
【0005】
スクホルコフ等(Sukuhorukov et al)に付与された米国再発行特許第40,166号の発明は、“Magnetic nondestructive method and an arraratus for measurement of cross sectional area of elongated ferrous object such as steel wire ropes and for detecting local flaws”(細長い鉄製の物体、例えばスチールワイヤロープの断面積の測定及び局所傷の検出を行う磁気非破壊方法及び装置)に関する。
【0006】
バイシェーデル(Weischedel)に付与された米国特許第4,659,991号の発明は、“Method and apparatus for magnetically inspecting elongated objects for structural defects ”(構造的欠陥があるかどうかについて細長い物体を磁気的に検査する方法及び装置)に関する。
【0007】
ハメリン等(Hamelin et al)に付与された米国特許第5,565,771号の発明は、“Apparatus for increasing linear resolution of electromagnetic wire rope testing ”(電磁ワイヤロープ検査の線形分解能を向上させる装置)に関する。
【0008】
ハメリン等(Hamelin et al)に付与された米国特許第5,804,964号の発明は、“Wire rope damage index monitoring device”(ワイヤロープ損傷指標モニタ装置)に関する。
【0009】
カーファー‐ホフマン等(Kaefer-Hoffmann et al)に付与された米国特許第6,005,388号の発明は、“Device and process for detecting defects in the disposition of reinforcing members of magnetizable material in casing piles in the sidewall region of tire”(タイヤのサイドウォール領域中の包囲プライ内の磁化可能な材料の補強部材の配置における欠陥を検出する装置及び方法)に関する。
【0010】
ストイラ等(Stoila et al)に付与された米国特許第7,185,535号の発明は、“Ply wire sensor system”(タイヤのプライワイヤセンサシステム)に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国再発行特許発明第40,166号明細書
【特許文献2】米国特許第4,659,991号明細書
【特許文献3】米国特許第5,565,771号明細書
【特許文献4】米国特許第5,804,964号明細書
【特許文献5】米国特許第6,005,388号明細書
【特許文献6】米国特許第7,185,535号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
検査装置及び方法の種々の具体化例が開発されると共に検査方法の組み合わせが開発されたが、一般に、以下に本発明に従って提供される所望の特性の全てを含む設計例は現れていない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
先行技術で見受けられると共に本発明によって取り組まれる公認の特徴を考慮して、タイヤ中の異常があるかどうかについて検査する改良型装置及び方法が開発された。
【0014】
例示の構成例では、タイヤ金属ケーブルの異常を検出する装置であって、共通線に沿って位置決めされていて、検出された磁界に比例する個々の電気信号を生じさせるよう構成された複数個の磁界センサと、複数個の磁界センサの各々のところに共通線に平行な磁界を生じさせるよう位置決めされたN極及びS極を有する磁石と、個々の電気信号の対の相互間の差を表す信号を生じさせるよう構成された信号処理回路とを有し、複数個の磁界センサの各々からの電気信号は、複数個の磁界センサのうちの他の各々からの電気信号と対にされることを特徴とする装置が提供される。特定の実施形態では、複数個の磁界センサは、表面実装型ホール効果センサから成る。
【0015】
本発明の他の実施形態によれば、信号処理回路は、損傷の大きさ(magnitude)を表す信号を生じさせるために、最も強い電気信号と逆向きの最も強い電気信号を対にする一方で残りの電気信号を無視するように構成される。本発明の他の実施形態によれば、信号処理回路は、減算による信号差、各々が所定の大きさを超える勾配をもつ符号が互いに逆の勾配付き信号の存在、及びゼロ平均化乗算波形の畳み込み分析のうちの1つに基づく信号を生じさせるよう構成される。
【0016】
本発明の別の実施形態によれば、複数個の磁界センサ及び磁石を支持するよう構成された構造体が提供され、複数個の磁界センサは、金属ケーブルの異常の検出のために金属ケーブルに手動で差し向け可能である。別の特定の実施形態では、複数個の磁界センサを金属ケーブルの異常の検出のために金属ケーブルに自動的に差し向けるよう構成された自動制御システムが提供される。本発明の或る特定の実施形態によれば、少なくとも3つの磁界センサが提供され、更に別の実施形態では、磁石は、永久磁石である。
【0017】
本発明は又、タイヤ金属ケーブルの異常を検出する方法であって、複数個の磁界センサを共通線上に位置決めするステップと、複数個の磁界センサの各々のところに共通線に平行な磁界を生じさせるN極及びS極を有する磁石を用意するステップと、複数個の磁界センサを金属ケーブルに差し向けるステップと、複数個の磁界センサの各々と複数個の磁界センサの他のものの各々を対にすることによって生じた信号相互間の差を検出するステップとを有することを特徴とする方法に関する。
【0018】
或る特定の実施形態では、この方法は、複数個の磁界センサの各々からの最も強い正の信号と他の磁界センサの各々からの最も強い負の信号を対にするステップと、残りの磁界センサ信号を除外して、最も強い正の信号と最も強い負の信号の差を分析するステップとを更に有する。別の或る特定の実施形態では、この方法は、減算による信号差、各々が所定の大きさを超える勾配をもつ符号が互いに逆の勾配信号の存在、及びゼロ平均化乗算波形の畳み込み分析のうちの1つに基づく信号を生じさせるステップを更に有する。
【0019】
本発明の方法の或る特定の実施形態では、磁界センサを位置決めするステップは、表面実装型ホール効果センサを位置決めするステップから成り、特定の実施形態では、磁石を位置決めするステップは、共通線に平行な線に沿って磁石のN極とS極の両方を位置決めするステップから成る。
【0020】
本発明の或る特定の実施形態では、複数個の磁界センサを位置決めするステップは、少なくとも3つの磁界センサを位置決めするステップから成り、別の特定の実施形態では、磁石を位置決めするステップは、永久磁石を位置決めするステップから成る。
【0021】
本発明の追加の目的及び追加の利点が記載されており、これらは本明細書における詳細な説明から当業者には明らかであろう。また、具体的に図示し、言及し及び説明する特徴及びその要素の改造例及び変形例は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく本発明の種々の実施形態及び使用法で実施できることは更に理解されるべきである。変形例としては、図示し、言及し又は説明する手段、特徴又はステップについて均等手段、特徴又はステップの置換及び種々の部分、特徴、ステップ等の機能的動作的又は位置的逆転が挙げられるが、これらには限定されない。
【0022】
さらに、本発明の種々の実施形態並びに種々の現時点において好ましい実施形態は、本明細書において開示する特徴、ステップ若しくは要素又はこれらの均等手段の種々の組み合わせ又は形態(明示的には図示されておらず又はかかる図の詳細な説明には明示的に記載されていない特徴、部品若しくはステップ又はこれらの形態の組み合わせを含む)を含む場合があることは理解されるべきである。必ずしも発明の概要の項において明示されていない本発明の追加の実施形態は、上記発明の概要の項において言及した特徴、コンポーネント又はステップ及び/又は違った仕方で本願において説明する他の特徴、コンポーネント又はステップの観点の種々の組み合わせを含むことができる。当業者であれば、本明細書の以下の説明を検討すると、かかる実施形態の特徴及び観点等を良好に理解されよう。
【0023】
当業者に対する本発明の完全且つ実施可能な要件の開示(その最適実施態様を含む)は、添付の図を参照する本明細書に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】オプションとしての自動制御システムを含む本発明のホール効果及び永久磁石センサの例示の形態を示す図である。
【図2】例示の異常を含むタイヤケーブルの存在下における例示の磁束パターンと一緒に永久磁石に対する1対のホール効果センサの相対的位置決め状態を示す図である。
【図3】タイヤケーブル異常の存在の指標を提供するよう1対のホール効果素子からの信号を処理するよう構成された例示の信号処理回路のブロック図である。
【図4】本発明の技術を用いて検出できるタイヤケーブルの代表的な異常の概略的X線画像図である。
【図5】本発明の技術に従ってタイヤの自動スイープ検査中に集められたフィルタリングされると共に平均化されたデータのグラフ図である。
【図6】別のデータ分析方法で採用可能な例示の畳み込み演算子のグラフ図である。
【図7】センサ中心が単一の完全なタイヤケーブル破断部の各端上に直接心出しされるようセンサを間隔を置いて配置したことにより得られる磁束線を示す図である。
【図8】センサの中心が単一の完全なタイヤケーブル破断部の各端上に配置された場合における読みの磁束の大きさのプロットを示すと共に図示の矢印によってこれを強調して示す図である。
【図9】1つのセンサが単一の完全なタイヤケーブル破断部の一端に位置合わせした例示の10mm中心間距離でセンサを間隔を置いて配置したことにより得られる磁束線を示す図である。
【図10】センサの中心を図9に示すように位置決めした場合における読みの磁束の大きさのプロットを示すと共に図示の矢印によりこれを強調して示す図である。
【図11】センサ間隔よりも大きな損傷離隔距離に起因して生じる磁束線を示す図である。
【図12】センサの中心を図11に示すように位置決めした場合における読みの磁束の大きさのプロットを示すと共に図示の矢印でこれを強調して示す図である。
【図13】例示のタイヤケーブルに対して作動的に位置決めされた本発明による例示のセンサアレイを示す図である。
【図14】本発明の利点を説明するのに有用なセンサアレイの形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
明細書及び添付の図面全体にわたって参照符号を繰り返し用いることによって、本発明の同一又は類似の特徴又は要素が示されている。
【0026】
発明の概要の項目で説明したように、本発明は、特に、タイヤ中の異常を、特にタイヤコード構造体に対応する金属ケーブルの異常があるかどうかについて検査する改良型装置及び方法に関する。
【0027】
当業者であれば理解されるべきこととして、本発明を主としてタイヤ構造体と関連した金属ケーブルの異常の検出に関して説明するが、かかる説明は、説明する装置又は動作上の方法の特定の限定ではない。例えば、実質的に同一の装置及び方法を非磁性材料と関連し又はこの中に埋め込まれた磁気応答性の細長い構造体の異常の検出に利用できる。一例は、例えば個人及び/又は電子機器のためのEMI又はRFI遮蔽体として有用な織物材料の状態に織成された磁気応答性細線の異常の検出に対応する。
【0028】
次に、現時点において好ましい実施形態としての本発明の金属ケーブル異常検出方法及び装置を詳細に参照する。今、図面を参照すると、図1は、本発明に従って構成されたホール効果及び永久磁石センサ100の例示の形態を示している。
【0029】
図1に示されているように、1対のホール効果素子HE1,HE2が全体として垂直の整列平面内に設けられており、永久磁石102が支持構造体104の端面106に取り付けられている。一般に、ホール効果素子HE1,HE2は、共通線110に沿って設けられ、ホールセンサのこの配置場所に関連付けられた測定上の観点が、本明細書全体にわたって説明するように本発明の重要な観点であることは理解されるべきである。また、変形実施形態では、複数の対をなすホール効果素子又はかかるセンサのアレイを単一又は多数個の永久磁石と関連して使用できることは理解されるべきである。さらに、全体として図1に示されている複数個のセンサは、複合形態で利用できる。いずれの場合においても、広い面積及び/又は多数本のケーブルを検査する可能性を提供できる。さらに、本明細書における開示は、特にホール効果センサの使用に関するが、かかる開示は、本発明を全く限定するものではないことは理解されるべきである。というのは、他形式の磁界応答性センサをも使用できるからである。例えば、磁気抵抗型センサを利用しても、実質的に同一の作用効果を得ることができる。
【0030】
本発明によれば、図1の例示の実施形態に関し、支持構造体104の少なくとも端面106は、ホール効果素子HE1,HE2の電気的絶縁を可能にするよう絶縁表面に相当している。永久磁石102は、任意適当な手段によって支持構造体104の頂面108に固定可能であり、この永久磁石は、例えば永久磁石102のN極Nを支持構造体104の前面106及びかくしてホール効果素子HE1,HE2に実質的に整列させるよう図1に示されているように差し向けられている。センサ100を検査されるべき領域にわたって自動的にスイープするようオプションとしての自動制御システム120を設けるのが良い。理解されるべきこととして、かかるシステムは、センサと検査対象のアイテムの相対運動を生じさせて検査されるアイテムとセンサのうちのいずれか一方又はこれら両方を制御システム120によって動かすことができるようにするよう構成されているのが良い。
【0031】
例示の構成例では、永久磁石102は、12,900ガウスを生じさせる12.7×25.4mmNi‐Cu‐Niめっき44ポンド(1ポンド=約453.6グラム)引っ張り力ネオジミウム磁石に対応しているのが良い。当然のことながら、類似の特性をもつ他の磁石を使用することができる。さらに、支持構造体104は、一方の面に固定された非導電性厚紙を備えた75×37×37mmアルミニウムストラットに対応するのが良く、ホール効果素子HE1,HE2は、約8mm間隔で設けられた4平方mm半導体デバイスに対応するのが良く、ホール効果素子HE2の1つの縁は、永久磁石102から見て反対側の面106の縁から約4mmの間隔を置いて位置している。永久磁石102に対するホール効果素子HE1,HE2のかかる位置決めにより、具体的に図2に示されているホール効果素子の両方を横切る磁束が生じる。理解されるべきこととして、本発明の他の実施形態では、永久磁石102に代えて且つ/或いはこれに加えて電磁石を用いても良い。さらに又、異なる磁石形態並びに磁石の種々の向き及びそれ自体、棒磁石、ドーナツ形磁石、円筒形磁石、馬蹄形磁石及び他の形態を含む磁石の他の形態も又使用できることが理解されるべきである。
【0032】
変形実施形態では、支持構造体104は、任意の非鉄材料に対応するのが良く、かかる非鉄材料としては、Plexiglas(登録商標)、木材、Cycolac(登録商標)又は他のプラスチック材料が挙げられるが、これらには限定されない。非鉄支持構造体104の物理的特性に応じて、ホール効果素子HE1,HE2及び永久磁石102をこれらの支持のために少なくとも部分的に材料中に埋め込むことができる。
【0033】
図2を参照すると、参照符号230のところに破断部として代表的に示されている例示の異常を含むタイヤケーブル220の存在下において例示の磁束線202,204と一緒に永久磁石102に対する1対の比較的密に間隔を置いて設けられたホール効果センサHE1,HE2の相対的位置決め状態が示されている。
【0034】
図4を大まかに参照すると、図4は、本発明の技術を用いて検出可能なタイヤケーブルの代表的な異常402,404,406の概略X線画像図を提供していることが理解されよう。図4に示されているように、異常402は、包囲又は巻き付けワイヤ410の破断部に対応し、異常404は、スチールストランド412のうちの1本の破断部に対応し、異常406は、ケーブル全体の破断部に対応している。異常402,404は、重要性の低い異常であると考えられ、異常406は、重要性の高い異常であると考えられる。
【0035】
次に更に図2を参照すると、上述したように、この場合破断部230として示されているタイヤケーブル中の異常の結果として、ホール効果センサHE1,HE2に提供される磁界の変化が生じることになる。当業者であれば理解されるように、比較的密に間隔を置いて設けられたホール効果センサHE1,HE2の近くに位置する少なくとも破断領域230の磁束線202,204は、破断していないケーブルを通る先の経路から逸脱し、今や、例示の破断状態のタイヤケーブルの部分220,222を通る別の経路を辿っている。かかる破断部は、局所N磁極252及びS磁極254を生じさせ、これら磁極は、比較的密に間隔を置いて設けられたホール効果センサHE1,HE2の近くの磁界を改変して異常によって生じる少なくとも検出可能なレベルの垂直磁界パターンを生じさせる。
【0036】
理解されるべきこととして、図4の説明に関して上述した種々の異常のうちの任意のものは、ホール効果センサの平面に対して少なくとも幾分垂直に差し向けられた磁界の発生に起因して磁界の検出可能な変化を様々な程度で生じさせる。ホール効果センサHE1,HE2の近くの領域内において、これら異常は、ホール効果素子HE1,HE2相互間に生じる信号相互間の差として検出可能である。ホール効果センサHE1,HE2の近くの領域の外側でも磁界の変化を検出でき、かかる変化は、先に検出した基準磁界に対して磁界の一方向性変化として表示可能である。異常を識別してこれらの存在場所を突き止めることが本発明の目的のうちの1つであるが、本発明は、ホール効果センサHE1,HE2相互間の検出可能な磁界の差の検出に直接関連しており、かかる検出と関連して本発明について説明する。
【0037】
しかしながら、磁界の一方向性変化のホール効果信号の他の分析を行うことができる。理解されるべきこととして、本明細書における説明に関し、「差」という用語は、1つの信号の別の信号からの数学的減算だけを表すものではなく、広く、少なくとも1対のセンサにより生じる信号相互間の識別可能な差を分析しようとする種々の形式の分析を含むものであり、これについては、提供される本発明の種々の実施形態に関して詳細に説明する。
【0038】
次に図3を参照すると、1対のホール効果素子HE1,HE2からの信号を処理し、タイヤケーブル異常の存在の指標を提供するよう構成された例示の信号処理回路300のブロック図が示されている。理解できるように、信号処理回路300は、ホール効果センサHE1,HE2からの信号をそれぞれ非反転型フォロア又はバッファを介して受け取る。
【0039】
例示の構成では、フォロアU1,U4並びに信号処理回路300内の他の増幅器は、LM741CNと演算増幅器に対応しているのが良い。当然のことながら、これら演算増幅器の他の適当な形態、例えば複数個の均等な増幅器を含むデバイス又は他の類似のデバイスを使用することができる。当業者であれば理解されるように、「フォロア」及び「バッファ」という用語は、同義の用語であり、本明細書全体を通じてそのように用いられる。さらに、この例示の構成では、ホール効果素子HE1,HE2は、アレグロ・マイクロシステムズ・インコーポレイテッド(Allegro Microsystems, Inc.)から入手できるA1302レシオメトリック線形ホール効果センサに対応するのが良い。この場合も又、類似形式のデバイス並びに異なる形式のデバイスを採用することができる。
【0040】
さらに図3を参照すると、各ホール効果素子HE1,HE2の入力回路と関連して、それぞれバッファ(緩衝)増幅器U1,U4が関連しており、これらバッファ増幅器が緩衝信号をミクサ312,314の各々の1つの入力にそれぞれ提供していることが理解されよう。増幅器U2、U5は、ゼロオフセット回路302,304からそれぞれバッファゼロオフセット信号を提供してミクサ312,314への第2の入力を介してホール効果素子HE1,HE2からのそれぞれの信号を合計し、それによりホール効果素子の出力をオフセットする。ミクサ312,314からのそれぞれの出力信号は、可変利得可調式バッファ増幅器U3,U6への入力として提供される。増幅器U3,U6は、所望の全体的信号利得及びかくして感度を生じさせるよう利得可調式デバイスとして構成されている。増幅器U3,U6は又、必要に応じて低域フィルタリングを可能にするよう構成可能である。
【0041】
例示の構成では、ゼロオフセット回路302,304は、適当な電圧源に結合されると共にバッファU2,U5のそれぞれの非反転入力に結合された適当な電位差計(ポテンショメータ)に対応するのが良い。他の形態では、ゼロオフセット信号をマイクロプロセッサ使用可能実施形態用の、又はディジタル・アナログ変換器使用可能実施形態用のディジタル入力として提供できる。本発明の更に別の実施形態は、ホール効果センサ信号の各々の自動ゼロ平均化方式を採用可能である。
【0042】
ホール効果素子HE1,HE2をホール効果素子センサの平面に垂直な磁界中に導入すると、素子の出力は、素子の特有の直線範囲内において印加されると共に検出された磁界強さに比例する。増幅器U7は、ホール効果素子HE1,HE2の各々からのオフセット調節且つ緩衝(バッファ)信号を受け取り、2つの信号相互間の差を増幅する。本発明のこの特定の実施形態では、2つの信号相互間の差は、2つの信号の数学的減算に基づいて評価される。上述したように、他の形態では、後で更に説明するように、信号の選択的差分析を提供することができる。図3の実施形態の例示の構成では、増幅器U7は、10X固定利得増幅器として構成されているが、他の実施形態では、異なる固定利得レベルを提供することができ又は変形例として、増幅器U7は、増幅器U3,U6に類似した可調式利得増幅器として提供されても良い。
【0043】
増幅器U7からの出力信号を電圧計又はオシロスコープ(図示せず)として適当な装置、例えば電圧測定又は表示装置によるモニタのために端子362のところに提供するのが良く、又、一入力として比較器U8に印加するのが良い。
【0044】
比較器U8は、例えば、演算増幅器を開ループ増幅器として構成することによって提供でき、この比較器は、比較器U8の1つの入力に提供された増幅器U7の出力が異常レベルしきい値調節回路306から印加された基準レベル信号を超えた場合に出力レベルを切り変えるしきい値検出器として用いられる。比較器U8からの出力信号は、検出された異常、例えば本明細書において上述した破断状態のサイドウォールワイヤ又は他の異常を視覚的に確認するための視覚的に観察可能な表示器、例えば発光ダイオード(LED)364を照明するようバッファ/ドライバU9によって検出される。
【0045】
また、当業者であれば理解すべきこととして、種々の検出レベルを増幅器U3,U6の利得設定値の変化並びに異常レベルしきい値調節回路306の調節によって達成できる。さらに、当業者であれば理解されるように、異常レベルしきい値調節回路306から出された信号をゼロオフセット回路302,304からの信号と同一の仕方で提供でき、かかる信号は、選択された装置の具体的構成に応じて、適当な入力電圧をもつ調節可能な電位差計からの電圧信号又は本明細書において上述したディジタル入力信号に対応するのが良い。或る特定の実施形態では、異常レベルしきい値調節回路306は、電圧レベル調節電位差計の手動設定又はディジタル具体化構成例にとって適当なデータの手動入力によって手動で調節されるのが良い。
【0046】
図1〜図3を参照して上述すると共に図1及び図2に関して特に構造について説明した素子は、所望の物理的動作要望に応じて多くの実施形態で構成できる。例えば、全体が図1に示されている素子は、タイヤ構造体の自動検査を実施するよう別の支持構造体に取り付けられるのが良い。かかる構成では、全体が図1に想像線で示されている自動制御システム120は、タイヤ領域にわたり、例えば検査されるべきタイヤの領域の内面にわたりセンサを自動的にスイープするよう用いられるのが良い。また、変形例として、センサとタイヤの相対運動をもたらす他の方法を具体化しても良く、かかる方法としては、自動制御システム120がセンサ及びタイヤのうちのいずれか一方又は両方を動かすことができるようにすることが挙げられる。当然のことながら、センサは又、検査されるべきタイヤの内側領域又は外側領域のいずれかにわたって手動でスイープすることができるコンパクトな携帯型手持ち器具として構成されても良い。
【0047】
本発明の別の特徴によれば、図1及び図2に示されているセンサは、センサ組立体をタイヤカーカスの内面上に半径方向に位置決めするためにタイヤ又はセンサ組立体を回転させるよう構成された機械に取り付けられても良く、それにより、タイヤカーカスの内面全体をケーブル評価のためにセンサに効果的に向ける。センサは、タイヤ表面に対するセンサ組立体の配置場所の正確な情報を提供することができる位置フィードバックを提供するようパーソナルコンピュータ(PC)又はアニメーションシステムに結合されるのが良く、それにより、存在場所、サイズ、関与するケーブルの本数、及び異常の深刻度をオペレータに提供することができる。さらに、後で更に説明するように、PCも又、別の評価方法を実施するよう使用できる。
【0048】
図3と関連して説明したシステムに類似した信号調整システム及び関連の分析アルゴリズムを提供して検査対象のタイヤの条件に関する診断情報を多くの形式で生じさせることができる。かかる形態としては、タイヤ内の磁気構造体の地形的表示が挙げられる。3次元(3D)磁気応答の寸法形状は、異常を検出して測定するよう評価可能であり、かかる異常としては、破断状態の補強ケーブル、1本又は2本以上の破断したワイヤを含む補強ケーブル、曲がった補強ケーブル、腐蝕した補強ケーブル及び補強ワイヤ平面に進入した金属物体が挙げられるが、これらには限定されない。表示は、タイヤ中の磁気構造体の着色表面表示を含むのが良く、オペレータに対する等高線結節点の分析により、上述したような異常の検出及び測定が可能である。かかるシステムは又、タイヤ中の磁気異常の存在場所、寸法、形状及び強度を示す異常の数値表を提供するよう構成でき、数値データの分析により上述した異常の検出及び測定が可能である。
【0049】
手持ち型構成では、本発明による技術は、好都合には、オペレータへの異常の即時表示を可能にするよう視覚表示器、例えばLED364(図3)を提供するのが良い。異常レベルしきい値回路306(図3)の手動調節を手持ち型実施形態の感度を調節する際のオペレータの便宜のために提供されるのが良い。
【0050】
永久磁石102及びホール効果センサHE1,HE2の配置に鑑みて、図1及び図2に示されている本発明の実施形態は、コンパクトな形態型手持ち型構成で用いるのに好適である。ただし、かかる構成は、本発明の技術を限定するものではない。というのは、かかる構成は上述の自動構成にも用いることができるからである。いずれの場合においても、最適な検出結果がセンサが取り付けられている共通線をタイヤケーブルにほぼ平行に維持することが有利であることが判明した。かかる位置決めにより、本発明にとって最大の信号検出能力が提供される。ただし、異常検出にとって平行な向きが絶対必要であるというわけではない。
【0051】
上述の本発明の技術によれば、信号処理は、種々の方法を用いて達成できる。図3を参照して上述したように、上記方法の中の或る特定の方法は、コンピュータ処理の仕様を必要としない場合がある。かかる実施形態では、信号処理は、上記図3に例示的に示されているカスタム回路基板を用いて実施できる。この方法は、HE1及びHE2からの信号を増幅して減算し、それにより差信号を生じさせ、この差信号を増幅してしきい値電圧と比較し、それにより異常の存在場所を上述したように突き止めた場合には発光ダイオード(LED)を照明する。当然のことながら、当業者であれば理解されるべきこととして、この上述の方法は、図5に示された回路を用いて実施できるが、パーソナルコンピュータ及び特定用途向けプログラマブルデバイスを含む(これらには限定されない)他の回路も又図3を参照して上述したのと同一の信号処理又は以下に説明する別の信号処理を実施するよう使用できる。
【0052】
本発明の別の実施形態によれば、図5及び図6を参照して説明するように別の信号処理を採用することができる。図5を参照すると、本発明に従って構成されたセンサは、図1に代表的に示されているように自動制御システム120を用いてタイヤ全体にわたってスイープするのが良い。収集データを多種多様な方法を用いて後処理のために一時的に又は永続的に記憶させるのが良いが、各方法は、信号中の識別可能な差を探す1つ又は2つ以上の対をなす又はアレイ状に配置されたセンサからの信号を吟味する分析法を採用する。
【0053】
例示の実施形態では、The Math Works(商標)から入手できるMatlab(登録商標)信号処理ソフトウェアを用いると、収集データを分析することができる。例示の構成では、タイヤのサイドウォールを検査するよう構成されたデータ収集システムは、サイドウォールのデータトラック1つ当たり約40,000点を含むことができる。当然のことながら、トラック1つ当たりのこの点は、別の数のサンプルを収集することができるので例示である。ここで注目されるべきこととして、トラック1つ当たりの点は、タイヤサイドウォール周りの単一のパス又はトラックを表している。本発明の重要な特徴は、この技術を用いてかかる単一パス又は僅かな数のパスを利用することにより、タイヤ上の正確な半径方向位置ではなく、異常部分のアジマス(方位角)を突き止めることができるということにある。
【0054】
この場合の目的は、タイヤの1回転又は2回転の間に、ケーブルが破断しているかどうかを判定することにある。これは、破断したケーブルのアジマス、及び場合によってはそれがタイヤのどちらの側であるかを提供するようになっている。原理は、走査した大抵のタイヤが破断したケーブルを備えていないということにある。破断したケーブルが発見された場合、時間のかかる自動スイープ又は手動手持ち型方法を用いて異常の存在場所を正確に突き止めることができる。本発明の一般的な実施形態では、複数のパスを用いてアジマスと半径方向存在場所の両方によって異常の存在場所を正確に突き止める。
【0055】
収集データを評価する第1ステップは、ホール効果センサHE1,HE2から収集したデータ点を再サンプリングしてフィルタリングすることである。エンコーダを用いて例えばタイヤの1回転当たり約10,800のパルスを提供するのが良い。当業者であれば理解されるように、この例示のサンプルサイズは、タイヤのサイズ及びリムサイズに基づいて変化する。再サンプリングルーチンは、同一のエンコーダ点について各ホール効果信号のデータ点を平均化して1つのエンコーダ点にする。この結果、タイヤの周囲に沿って10,800の点の各センサに関する波形が得られる。データを再サンプリングした後、5次バターワースフィルタをかける。例示の構成では、フィルタのカットオフ周波数を0.025に設定するのが良い。いずれの場合においても、このカットオフ振動数値は、0〜1にセットされなければならず、この値は、生データ周波数内容の比例周波数を表す。このステップの結果は、図5に示されているように、再サンプリングされると共にフィルタリングされた表示可能な波形502,504である。
【0056】
図5に示されているように、波形502は、センサHE1から再サンプリングされると共にフィルタリングされた信号に対応し、波形504は、センサHE2からの同様な信号に対応している。注目されるように、センサがタイヤ内の異常に反応しているときに方向が逆のスパイクが同時に生じる。異常の程度が低いと、これは振幅の小さい信号として表され、重大な異常は、振幅の大きな信号によって示される。図5に示されているように、波形502,504によって表された信号を縦軸においてボルト(V)によって測定することができ、サンプル数は、横軸に沿って示されている。
【0057】
再サンプリング及びフィルタリングに続き、両方のセンサ信号をスライディング窓の使用により同時に処理する。この窓の中において、各センサ信号の勾配を計算して互いに比較し且つしきい値と比較する。勾配が互いに逆である場合および各勾配がしきい値よりも大きい場合、勾配の大きさの合計を表す出力勾配大きさ波形が生じる。
【0058】
次に、波形を点ごとにサーチして、比較的迅速に負の勾配が続く正の勾配により識別されるシグナチュア(特徴)信号の存在を判定することによって、勾配大きさ波形が処理される。各々が所定のしきい値を超える正の勾配と負の勾配の検出相互間の時間差は、公知の異常サイズに基づく。かかるシグナチュアに遭遇した場合、センサHE1とHE2の大きさの組み合わせから出力波形を生じさせる。この結果、センサHE1の負のスパイクとセンサHE2の正のスパイクの振幅の合計を表す正のスパイクをもつ波形が生じる。結果的に生じる波形を視覚的に検査することができ、所望ならば、大きさ及びスパイクの幅の観点で検査できる値の表も又作成することができる。
【0059】
別の分析方法では、畳み込み方式を用いることができる。畳み込みでは、以下の幾つかのステップが実施される。第1に、図6に例示の形態で示す畳み込み演算子を選択する。この形状は、完全なケーブル異常よりも低い一致のために選択されている。例示の構成では、演算子は、いわゆるメキシコ帽ウェーブレット又はより一般的にリッカー(Ricker)ウェーブレットに基づいており、例示の構成では、45のシグマ(標準偏差)をもつ160個の点の幅である。数学及び数値分析では、メキシコ帽ウェーブレットは、ガウス関数の負の正規化された2次導関数であり、ハミルトンウェーブレットと呼ばれている連続ウェーブレットの族の特定の場合である。図6に示されている例示の構成では、相対的値Rが縦軸に沿って示され、サンプル点は、上述したように0〜160の範囲内にある。本発明の例示の畳み込み演算子は、サンプル範囲にわたる値Rの合計がゼロに等しい関係に基づいている。
【0060】
畳み込み演算子の設定に続き、センサHE1,HE2からの信号を平均化してゼロにする。かかるゼロへの平均化では、各波形の平均値を取り、次に各センサ波形から平均値を除算することが必要である。演算子を各波形に適用し、結果的に得られる2つの波形を互いに乗算する。
【0061】
次に幾つかの発見的方法を適用する。第1に、同一方向にある、即ち両方とも正であり又は両方とも負であるセンサHE1,HE2に関する演算子一致を除外する。この発見的方法を適用する。というのは、理論と実験の両方により、異常がセンサ信号を互いに逆に反らすということが分かっているからである。
【0062】
第2に、メキシコ帽演算子は、「ブリム(つば)」が正の応答周りに結果的に生じるので、これら応答は、検討事項から除外されるべきである。第3に、センサHE2が正であり、センサHE1が負である応答だけを保持する。これが適用される理由は、理論と実験により正しい磁石の極の向きでは、一方のセンサが正の応答を常時生じ、他方は負の応答を生じさせることが分かっているからである。
【0063】
上述の畳み込みステップを適用した後、結果としての波形を作る。この結果としての波形を視覚的に検査するのが良く、又、大きさ及びスパイクの幅の観点で検査できる値の表を生じさせるのが良い。この結果としての波形は、演算子に対する一致度を表し、異常の大きさ及び形状に比例する。
【0064】
まず最初に図14を参照すると、共通線に沿って設けられると共に別々の出力信号を生じさせるよう構成された3つのセンサHE1,HE2,HE3を含むセンサアレイに対応して本発明の技術が立脚するセンサ組立体の別の実施形態が示されている。例示の構成では、センサHE1,HE2,HE3は、表面実装チップ型ホール効果素子であり、これらセンサは、回路板1410に取り付けられた共通基板(別個には示されていない)に取り付けられている。しかしながら、他形式のセンサを用いても良いことは理解されるべきである。永久磁石1420がプリント回路板及びセンサHE1,HE2,HE3と関連しており、かかる永久磁石は、永久磁石のN極とS極が、センサHE1,HE2,HE3が取り付けられている共通線と整列するよう位置決めされている。例示の構成では、磁石1420は、端と端を突き合わせた状態で配置された1対の1/4インチ×1/4インチ×1インチ(1インチは、2.54cm)のN50ネオジミウム磁石に対応しているのが良く、相補極が実際に、2インチ長さの磁石を形成している。
【0065】
図14に示されている実施形態では、センサHE1,HE2は、第1の対をなすと考えられ、センサHE2,HE3は、第2の対をなすと考えられる。この構成により、センサ組立体の単一のパスで覆われる表面積を2倍にすることができ、それにより全検査サイクル時間を短縮させることができる。そのようにする際、信号処理は、例えばケーブル1432の破断部1430を含む損傷したタイヤケーブルについての走査中、固定されたセンサの対が保持されるという点において図3を参照して上述した実施形態とほぼ同じ仕方で取り扱われ、多数本のケーブルにわたり全体として矢印1434の方向に走査されるセンサと磁石の組立体は、ひとまとめにケーブル1440として示されている。
【0066】
しかしながら、3対以上のセンサを用いると、その結果として、提供されるセンサの全ての組み合わせを考慮した場合、単に検査サイクル時間をスピードアップする以上の向上結果が得られることが判明した。この場合、図12の構成の場合、HE1,HE2を1対として考え、HE2,HE3を1対として考えることに加えて、HE1,HE3を1対であると考えることができる。この場合、3つのセンサの各々の間隔が実質的に等しい場合、HE1,HE3に対応した対相互間の間隔の増大に基づいて追加の情報を導き出すことができる。
【0067】
さらに、場合によっては小型デバイス、例えば図14に示されている3つを超えて設けられる増大した数のセンサと結合された表面実装チップ型センサ(これには限定されない)を用いることにより提供されるセンサ相互間の間隔が減少した場合、検査サイクル時間の短縮だけでなくタイヤケーブルの異常の検出能力の向上を可能にする別の利点が得られる。
【0068】
次に図7及び図8を参照すると、本発明の技術の基礎をなす原理の一層の理解を良好に得ることができる。予備的事項として、対HE1,HE2及び対HE2,HE3だけを考慮した図14に示されているセンサの構成を用いることにより、3つの問題が生じる場合があることが理解された。第1の問題は、1つのセンサが損傷したケーブルの領域と一線をなす場合に生じることがある。第2の問題は、最大の磁束漏れがセンサに近接していることに起因して、センサによって容易に検出ができない非常に低い磁束漏れをもたらす低レベルの損傷の場合に起こることがある。第3に、ケーブルの離隔距離がセンサ相互間の間隔よりも大きい場合がある。
【0069】
上述の問題にどのように取り組むかを理解することができるようにするため、センサ構成とケーブル損傷の理想的な関係を認識することが必要である。単一の完全なケーブル破損が説明のために用いられるが、その概念は、部分的ケーブル損傷まで非常に容易に拡張できる。すでに確立されていることとして、1対のセンサは、損傷が一方のセンサでの正の磁束検出と、他方のセンサでの負の磁束検出とにより検出される自己参照システムを提供する。損傷に関する理想的な存在場所は、センサが以下に説明するように損傷の端のすぐ上に配置された状態で、磁石の両端間の中心に位置する。結果としての損傷の程度の大きさの検出は、最後においては、各センサからの絶対値の合計であり、従って、各センサが損傷からの最大磁束漏れを検出するような仕方で配置されることが理想的である。
【0070】
図7及び図8を参照すると、1対のセンサHE1,HE2を互いに間隔を置いて配置することによって生じる永久磁石から生じる磁束線が図7に示されており、センサの中心は、単一の完全なタイヤケーブル破断部706の各端702,704のすぐ上に心出しされている。図8は、磁束の大きさのプロットを示す図であり、図示の矢印802,804によってセンサの中心が単一の完全なタイヤケーブル破断部706の各端702,704上に配置されているときの例示の読みを強調している。矢印802,804のところの図8のプロットから理解できるように、最大磁束漏れは、損傷の各端702,704のすぐ上に心出しされる。
【0071】
図9及び図10は、上述の第1の問題、即ち、一方のセンサHE1がケーブル破断部端902,904のうちの1つの上ではなく、ケーブル損傷部906の領域と一線をなしているという問題を示している。この場合、図10の磁束の大きさのプロットから理解できるように、矢印1002,1004がそれぞれ、図9に示されているように位置する各センサHE1,HE2の中心のところの磁束の大きさを示している場合、いずれのセンサも上記において図7に示されている損傷部の端上の最適配置からオフセンタ状態で位置決めされていることに起因して利用できる全漏れを検出することはないであろう。
【0072】
上述の第2の問題、即ち、損傷部の縁がセンサ相互間の間隔よりも近い場合の低レベル損傷検出の問題は、少なくとも1つには、センサの中心間間隔に関連している。例示の構成では、中心間間隔は、10mmに設定されていた。かかる場合、損傷が小さいと、これらかかる損傷は、オフセンタに且つ各センサに関する最適配置場所から遠く離れて通過する可能性がある。損傷は、適切な磁束漏れの指標を提供するよう一方のセンサにとって十分近いが、他方のセンサは、磁束漏れの指標をもたらさないほどに損傷の縁から遠く離れて位置することが有り得る。上述の例示の10mm間隔では、この間隔は、損傷の幅が10mmであった場合にのみ最適である。
【0073】
次に図11及び図12を参照すると、上述の第3の問題、即ち、異常の離隔距離がセンサ間隔よりも大きいという問題の結果が示されている。損傷離隔距離がセンサHE1,HE2の中心間距離よりも大きい場合、最大磁束漏れを検出することができない。というのは、センサは、損傷部1106の縁1002,1004のところには位置していないからである。図12に矢印1202,1204で示されているように、図11に示されている各センサHE1,HE2の中心のところで検出される磁束漏れは、最大磁束漏れではなく、かくして、かかる最大磁束漏れは、この構成では検出されないであろう。
【0074】
これら問題に取り組むため、本発明の技術は、異常検出を向上させるよう一緒になって相乗的に動作する先の実施形態の2つの変形例を提供する。
【0075】
第1の問題、即ち、センサの対が最大磁束漏れと不正確に一線をなしているという問題だけに対処する場合、これを取り扱うには、タイヤの後続の走査相互間の間隔を減少させることにより、損傷がセンサ対からのオフセットではなくセンサ対相互間に収まるようにする可能性を増大させることによって、対処できるかもしれない。しかしながら、かかる解決策は、タイヤの完全な走査を行うにはサイクル時間が増大するという望ましくない作用効果を有し、当然のことながら、第2の問題及び第3の問題に全く対処しない。
【0076】
この技術によれば、センサ組立体の改造とセンサ出力信号を分析するための方法の改造の組み合わせによって上述の3つ全ての問題に取り組む。センサの例示の構造的改造は、図13を参照すると理解でき、信号分析方法の改造は、以下の表1を参照するとより明確に理解できる。物理的改造では、できるだけ又は実際に多くのセンサを密に実装して上記において用いられたのと同一のフットプリントに収める。
【0077】
図13に示されている例示の構成では、検査されるべきタイヤケーブルに対する位置関係では、6つの表面実装チップ型磁気センサHE1〜HE6を共通線に沿ってプリント回路板1310上に配置する。例示の構成では、6つの表面実装チップ型磁気センサHE1〜HE6が4mm中心間距離で位置決めされるのが良く、その結果、アレイについて約20mmの全長が生じる。磁石1320は、図14を参照して上述したのと同じ仕方でセンサHE1〜HE6が配置されている同一の共通線に沿って配置されることによってセンサアレイと関連している。例示の構成では、チップ型磁気センサHE1〜HE6及び磁石1320は、図4を参照して上述した磁石1420に一致するのが良い。
【0078】
注目されるべきこととして、センサ相互間の他の間隔が可能であると共にセンサ相互間の間隔を効果的に減少させる他のセンサアレイ形態の採用が可能である。例えば、物理的に同一の第2の6つセンサのアレイが第1のアレイと平行に配置されると共に、第2のアレイのセンサ相互間の空間が第1のアレイのセンサ相互間の空間相互間に収まるよう位置決めされるのが良い。信号処理システムへの適切な調節が行われたかかる位置決めは、センサ相互間の間隔を効果的に半分にする。当然のことながら、この概念は、第3、第4等の平行なセンサアレイに拡張できる。
【0079】
上述したように、磁気センサHE1〜HE6相互間の間隔の単純な減少は、上述の第1の問題しか取り組まない。本発明の技術によれば、上述の他の問題は、各センサHE1〜HE6が図3の例示の構成ではアレイの他の全てのセンサと対をなす信号分析方法の改造の追加によって取り組まれる。かかる構成では、センサHE1,HE2,HE3,HE4,HE5,HE6の6個のセンサから成るアレイは、次のように15対のセンサを提供する。
【0080】
【表1】

【0081】
本発明の技術によれば、各センサの出力信号の大きさを評価し、最も強い正の磁束漏れ検出信号を逆向きの最も強い、即ち、負の磁束漏れ検出信号と対にしてその特定の部分、即ちタイヤのアジマスに関する残りの信号を除外してしまうほどに結果としての損傷大きさ信号を生じさせる「対」を生じさせる。換言すると、最も大きな正の信号を最も大きな負の信号と対にし、残りの信号を無視する。一例として、図5を参照すると、符号502のところの正の進行中の信号に類似した信号及び符号504のところの負の進行中の信号に類似した信号を対にするよう選択し、他方、これよりも小さな図示の信号を無視する。この装置の構成及び分析法を採用することにより、上述の全ての問題を考慮し、それによりセンサが損傷したケーブルの最大磁束漏れの近くを通る可能性が高くなると共に信号分析方法は、どのセンサが信号を出したかどうかを選択的に判定することができる。
【0082】
本発明をその特定の実子形態に関して詳細に説明したが、理解されるように、当業者であれば、上述の内容を理解すると、かかる実施形態の変更例、変形例及び均等例を容易に想到できよう。したがって、本発明の範囲は、本発明を限定するものではなく一例として提供され、本発明は、当業者には容易に想到できる本発明のかかる改造例、変形例及び/又は追加例を含むということを排除するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ金属ケーブルの異常を検出する装置であって、
共通線に沿って位置決めされていて、検出された磁界に比例する個々の電気信号を生じさせるよう構成された複数個の磁界センサと、
前記複数個の磁界センサの各々のところに前記共通線に平行な磁界を生じさせるよう位置決めされたN極及びS極を有する磁石と、
前記個々の電気信号の対の相互間の差を表す信号を生じさせるよう構成された信号処理回路と、を有し、
前記複数個の磁界センサの各々からの電気信号は、前記複数個の磁界センサのうちの他の各々からの電気信号と対にされる装置。
【請求項2】
前記複数個の磁界センサは、表面実装型ホール効果センサから成る、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記信号処理回路は、損傷の大きさを表す信号を生じさせるために、最も強い電気信号と逆向きの最も強い電気信号とを対にする一方で残りの電気信号を無視するように構成されている、請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記信号処理回路は、減算による信号差、各々が所定の大きさを超える勾配をもつ符号が互いに逆の勾配信号の存在、及びゼロ平均化乗算波形の畳み込み分析のうちの1つに基づく信号を生じさせるよう構成されている、請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記複数個の磁界センサ及び前記磁石を支持するよう構成された構造体を更に有し、
前記複数個の磁界センサは、金属ケーブルの異常の検出のために前記金属ケーブルに手動で差し向け可能である、請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記複数個の磁界センサを金属ケーブルの異常の検出のために前記金属ケーブルに自動的に差し向けるよう構成された自動制御システムを更に有する、請求項1記載の装置。
【請求項7】
前記複数個の磁界センサは、少なくとも3つの磁界センサから成る、請求項1記載の装置。
【請求項8】
前記磁石は、永久磁石である、請求項1記載の装置。
【請求項9】
タイヤ金属ケーブルの異常を検出する方法であって、
複数個の磁界センサを共通線上に位置決めするステップと、
前記複数個の磁界センサの各々のところに前記共通線に平行な磁界を生じさせるN極及びS極を有する磁石を位置決めするステップと、
前記複数個の磁界センサを金属ケーブルに差し向けるステップと、
前記複数個の磁界センサの各々と前記複数個の磁界センサの他のものの各々とを対にすることによって生じた信号相互間の差を検出するステップと、を有する方法。
【請求項10】
前記複数個の磁界センサの各々からの最も強い正の信号と他の磁界センサの各々からの最も強い負の信号を対にするステップと、
残りの磁界センサの信号を除外して、前記最も強い正の信号と前記最も強い負の信号の差を分析するステップとをさらに有する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
信号相互間の差を検出する前記ステップは、減算による信号差、各々が所定の大きさを超える勾配をもつ符号が互いに逆の勾配信号の存在、及びゼロ平均化乗算波形の畳み込み分析のうちの1つに基づく信号を生じさせるステップから成る、請求項9記載の方法。
【請求項12】
磁界センサを位置決めする前記ステップは、表面実装型ホール効果センサを位置決めするステップから成る、請求項9記載の方法。
【請求項13】
磁石を位置決めする前記ステップは、前記共通線に平行な線に沿って磁石のN極とS極の両方を位置決めするステップから成る、請求項9記載の方法。
【請求項14】
複数個の磁界センサを位置決めする前記ステップは、少なくとも3つの磁界センサを位置決めするステップから成る、請求項9記載の方法。
【請求項15】
磁石を位置決めする前記ステップは、永久磁石を位置決めするステップから成る、請求項9記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2012−523566(P2012−523566A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504711(P2012−504711)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2010/029390
【国際公開番号】WO2010/117855
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)
【出願人】(599093568)ソシエテ ド テクノロジー ミシュラン (552)