説明

タイヤHILシミュレータ

【課題】 タイヤ試験装置に車両モデルを組み込んだ試験装置において、3次元の車両モデルを用いた場合にも車両の3次元的挙動によるタイヤの挙動を再現できる試験装置を提供すること。
【解決手段】 タイヤ試験装置2は、代用路面体4によりタイヤ4aの走行試験を行うものであって、タイヤ横力を計測する横力計測手段37と、接地荷重、横滑り角度、およびキャンバ角を各々付与する各アクチュエータとを有し、タイヤ試験装置2に接続された車両モデル5は、ステアリング角度と横力計測手段37からのタイヤ横力とを入力値として車両の3次元的な運動を計算し、その計算結果に基づき前記接地荷重、横滑り角度、およびキャンバ角の各指令値を前記タイヤ試験装置2の各アクチュエータへ出力するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の実走行試験条件に近い条件で試験が行えるようにした、タイヤHILシミュレータ(Tire Hardware-In-the Loop Simulator)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の開発等において、タイヤ・サスペンションシステムの最適化を検討する必要性がある。この場合、タイヤの表面温度、内圧、接触荷重、さらにタイヤの材質や形状等の数多くの条件設定が必要であると共に、最適な条件を設定するためには多大な試験時間が必要となる。さらに、サスペンションの機構やコンプライアンスがタイヤ性能に与える影響の評価が必要とされるため、コンピュータシミュレーションでは複雑なタイヤモデルをそのまま最適化の検討に適用することは難しい。
一方、実走行試験の場合、実際のタイヤ特性を直接得ることができるが、最適化を図る上で路面条件等の再現性に難点がある。
【0003】
そこで、実走行試験に代わるものとして、各種のタイヤ試験装置が提案されている。例えば特許文献1においては、走行時に発生するタイヤ単体の特性を測定することができる試験装置が提案されているが、該特許文献1の試験装置においては、車両の特性を考慮することができない。
また、特許文献2においては、サスペンションの挙動を再現すべく演算器からタイヤ保持力に相当する力をタイヤに与えることによって、実走行試験状態に近づけようとする試みがなされている。しかし、該特許文献2の試験装置においては、タイヤ横力が変化するため、サスペンションを含めた車両の挙動が変化し、実走行状態を忠実に再現することは難しい。
【0004】
一方、特許文献3においては、車両モデルを再現するシミュレーションモデルを試験装置に組み込み、より実走行試験状態に近づける試みがなされている。ところが、該特許文献3の試験装置においては、タイヤモデルをシミュレーションモデルに組み込んでいるため、タイヤ特性の最適化を行う場合には、タイヤモデルを新たに作る必要があり、手間がかかる。
そこで、上述の如き問題点を解決することが可能な装置として、実物のタイヤをハードウェアとして有するタイヤ試験装置にソフトウェアによるシミュレーションモデルの車両モデルをインターフェイスを介して接続したHILシミュレータが提案されている(非特許文献1参照)。該タイヤHILシミュレータは、ソフトウェアに複雑なタイヤモデルを用いることなく、実物のタイヤをハードウェアとして有する装置構成とされているので、実走行条件に近い条件で試験を行うことが可能である。
【特許文献1】特開昭57−91440号公報
【特許文献2】特開平5−5677号公報
【特許文献3】特開平10−2842号公報
【非特許文献1】「134 タイヤHILシミュレータによる車両運動性能の研究(第1報)」(社)自動車技術会 学術講演会前刷集No.101−02(14〜19頁)「2002593」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記タイヤHILシミュレータにおいては、車両モデルが等価2輪モデルとされているため、タイヤの挙動としては、タイヤの回転、タイヤ横滑り角及びタイヤ接地荷重を制御する機構が存在するのみであり、車両モデルを3次元まで考慮した場合に発生する車両のローリング角によるタイヤのキャンバ角を試験装置にて再現することができないという問題がある。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、タイヤ試験装置に車両モデルを組み込んだ試験装置において、3次元の車両モデルを用いた場合にも車両の3次元的挙動によるタイヤの挙動を再現することができる試験装置を提供することを目的とする。
【0006】
さらに、走行シミュレータを組み合わせることによって、タイヤ部分は実物を用いたバーチャルな走行試験を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、次の手段を講じた。すなわち、本発明のタイヤHILシミュレータは、代用路面体によりタイヤの走行試験を行うタイヤ試験装置と、該タイヤ試験装置における計測データを入力値として所定の計算を行い、該計算結果に基づき前記タイヤ試験装置のアクチュエータへ指令値を出力する車両モデルを備えた制御装置とを有する。前記タイヤ試験装置は、タイヤ横力を計測する横力計測手段と、接地荷重、横滑り角、およびキャンバ角を各々付与する各アクチュエータとを有する。前記車両モデルは、ステアリング角度と前記横力計測手段からのタイヤ横力とを入力値として車両の3次元的な運動を計算し、その計算結果に基づき前記接地荷重、横滑り角、およびキャンバ角の各指令値を前記各アクチュエータへ出力するものである。
【0008】
なお、本発明においては、タイヤ横力を図18及び図19に示すFy、接地荷重を図18に示すFz、キャンバ角を図18に示すα、横滑り角を図19に示すβとする。
本発明によれば、タイヤ試験装置に装着した実物のタイヤの特性を計測することができる。そして、その計測データ(タイヤ横力)及びステアリング角度が車両モデルに入力値として入力されることにより、該車両モデルによって上述の如き車両の動特性(接地荷重、横滑り角及びキャンバ角)がリアルタイムに計算され、該計算によって得られた値をタイヤ試験装置の各アクチュエータに指令値として出力することによりこれらの各アクチュエータが作動し、これによって、タイヤの代用路面体に対する支持状態が制御されるのである。
【0009】
このように、本発明によれば、実物のタイヤの特性を車両モデルに入力することができると共に、入力されたタイヤ特性の影響を受けた車両モデルによる車両の動特性を各アクチュエータを介して再びタイヤ試験装置の実物のタイヤに付与することでき、このタイヤ試験装置と制御装置の間の情報交換がリアルタイムに展開することにより、実走行試験状態に極めて近いシミュレーションを実現することが可能となる。
前記タイヤ試験装置は、車両の前後左右の4本のタイヤを同時装着できるものが好ましい。前記車両モデルは、四輪乗用車を対象としてサスペンション機構を備えた3次元車両モデルであるのが好ましい。
【0010】
本発明によれば、四輪乗用車の如く車両の前後左右の4本のタイヤの特性をそれぞれ計測することができると共に前記車両モデルの動特性を前後左右の4本のタイヤにそれぞれ付与することができ、さらに実走行試験状態に近いシミュレーションを実現することが可能となる。
また、サスペンション機構を考慮した3次元車両モデルを採用することにより、ヨーイング方向に加えて、ピッチング方向及びローリング方向の回転運動を考慮したの車両の動特性を計算することができる。
【0011】
前記タイヤ試験装置は、タイヤのブレーキ力を付与するブレーキ力アクチュエータを有し、前記車両モデルは前記ブレーキ力アクチュエータへの指令値を出力するものであるのが好ましい。
本発明によれば、タイヤにブレーキ力を作用させた場合のタイヤの特性を計測することができる。
前記タイヤ試験装置は代用路面体を駆動する駆動装置を有し、前記車両モデルは前記駆動装置への指令値を出力するものであるのが好ましい。
【0012】
本発明によれば、車両モデルからの指令値が駆動装置に入力されることによって、代用路面体の駆動を変化させた場合のタイヤの特性を計測することができる。
前記駆動装置には駆動トルク検出手段が設けられ、前記車両モデルは前記駆動トルク検出手段に基づき算出された転がり抵抗をパラメータの一つに有しているのが好ましい。
本発明によれば、転がり抵抗を考慮した車両の動特性を計算することができる。
なお、本発明における転がり抵抗とは、タイヤが代用路面体に接触することによって生じる代用路面体の駆動抵抗力であり、タイヤを代用路面体に押し付けている状態での前記駆動装置の駆動トルクとタイヤを代用路面体に押し付けていない状態での前記駆動装置の駆動トルクの差に比例する。
【0013】
前記タイヤ試験装置にはタイヤのトラクティブ荷重計測手段が設けられ、前記車両モデルはトラクティブ荷重をパラメータの一つに有しているのが好ましい。
本発明によれば、トラクティブ荷重を考慮したタイヤの特性を計測することができる。
なお、本発明におけるトラクティブ荷重とは、図19中にF’xで示されるタイヤ走行時の牽引抵抗力であり、該牽引抵抗力をタイヤに作用させることによって、車両の走行速度を変化させることが可能である。 前記タイヤ試験装置はタイヤの横方向変位を付与する横方向変位アクチュエータを有し、前記車両モデルは前記横方向変位アクチュエータへ指令値を出力するものであるのが好ましい。
【0014】
本発明によれば、前記制御装置の車両モデルにおいて計算された横方向変位を前記タイヤ試験装置のタイヤに作用させることができ、該横方向変位を付与した場合のタイヤの特性を計測することができる。
なお、本発明における横方向変位とは、タイヤ走行方向とは直角方向のタイヤの変位であり、所謂横滑りに相当する。
前記タイヤHILシミュレータにおいて、前記制御装置には、模擬運転席装置が接続されているのが好ましい。
【0015】
前記模擬運転席装置を設けることにより、バーチャルな走行試験を実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、より実走行条件に近い条件でタイヤ試験を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1(a)は、本発明の実施の形態を示すシステム構成図である。
本発明に係るタイヤHILシミュレータ1は、タイヤ試験装置2と、該タイヤ試験装置2における計測データを入力し且つ該タイヤ試験装置2を制御する制御装置3とを有する。
なお、図1(a)において、その左側に描かれているタイヤ試験装置2は、上側が正面図で下側が平面図である(以下、図9、図11、図13、図15、図16及び図17において同じ)。
【0018】
前記タイヤ試験装置2は、代用路面体4により実物のタイヤ4aの走行試験を行うものである。
また、前記制御装置3は、タイヤ試験装置2における計測データを入力値として所定の計算を行い、該計算結果に基づきタイヤ試験装置2のアクチュエータへ指令値を出力する車両モデル5を備えている。
該車両モデル5は、コンピュータのソフトウェアとして構成されている。本実施の形態において、車両モデル5には、ステアリング機構が記述されていないので、別途、ステアリング機構が記述されたステアリングモデル6が接続されている。しかし、該ステアリングモデル6は、車両モデル5と一体化されたものであっても良い。
【0019】
前記車両モデル5を備えたソフトウェアとタイヤ試験装置2からなるハードウェアは、インターフェイス7を介して接続されている。
図2及び図3には、タイヤ試験装置2の一例が示されている。
タイヤ試験装置2は、代用路面部11とタイヤ装着部12とから主構成されている。
該代用路面部11は、4本の柱を横架材にて連結してなる本体フレーム13を備え、該本体フレーム13に前記代用路面体4が支持されている。本実施の形態においては、代用路面体4として円柱状の鋼製ドラムが例示されているが、特開2002−39919号公報に記載の如き無端ベルトを代用路面体4として採用することももちろん可能である。
【0020】
該代用路面体4の一対の円形平板面には、該円形平板面の中心を貫通する軸線上に軸体が設けられており、前記軸線を水平に保った状態で軸体が前記本体フレーム13に回転自在に枢支されることにより、代用路面体4の外周面は縦方向に回転する。また、代用路面体4は、前記本体フレーム13に2基設けられており、該一対の代用路面体4、4は同形同大とされ、両代用路面体4、4の軸体は、水平な同一軸線上に配置されている。
また、本体フレーム13の上部には、代用路面体4を回転駆動させる駆動装置15が設けられており、本実施の形態においては、該駆動装置15として電動モータが例示されている。該駆動装置15は、前記本体フレーム13上に2台載置され、各駆動装置15と各代用路面体4とは巻き掛け伝動体16により連動連結されている。
【0021】
各代用路面体4の左右両側には、前記タイヤ装着部12が1基ずつ配備されている。これによって、タイヤ試験装置2は合計4基のタイヤ装着部12を備え、図1(a)に示す如く該4基のタイヤ装着部12をインターフェイス7を介して前記車両モデル5に接続することにより、4基のタイヤ装着部12の各タイヤ4aは前記車両モデル5の前後左右のタイヤとして設定される。ここで、並置された一対の代用路面体4、4の一方の側方に配備された2基のタイヤ装着部12、12のタイヤ4a、4aが車両モデル5の左右一対の前輪として設定されると共に、前記一対の代用路面体4、4の他方の側方に配備された2基のタイヤ装着部12、12のタイヤ4a、4aが車両モデル5の左右一対の後輪として設定されている。
【0022】
各タイヤ装着部12は同じ構造とされている。
該タイヤ装着部12には、代用路面体4の前記軸線と平行な回転軸上を回転するタイヤ4aが配備されている。タイヤ装着部12は、代用路面体4の水平な直径線上においてドラム外周面にタイヤ4aの外周面を近接自在に押圧させる接地荷重付与装置17を備えている。タイヤ装着部12は、タイヤ4aに横滑り角度を付与する横滑り角付与装置18を備えている。タイヤ装着部12は、タイヤ4aのキャンバ角度を付与するキャンバ角付与装置19を備えている。
【0023】
図2〜図4に示す如く、前記キャンバ角度付与装置19は、前記本体フレーム13に垂直軸心回り回動自在に設けられた揺動フレーム20を有する。該揺動フレーム20は、本体フレーム13に前記垂直軸心回りに揺動自在に枢結された上下一対の横フレーム21、21と、該上下一対の横フレーム21、21の各遊端側を結合する縦フレーム22とを有している。上下一対の横フレーム21、21の前記回動中心は、同一垂直軸線上にあり、該垂直軸線は代用路面体4のドラム外周面に接する位置に設けられている。
図2及び図3に示す如く、前記揺動フレーム20は、縦フレーム22に突設されたアーム24を介してキャンバ角付与アクチュエータ23に連接されており、該キャンバ角付与アクチュエータ23は、アーム24に連結されたスクリュー軸25と、該スクリュー軸25に螺合されたナット26と、該ナット26を回動させる電動サーボモータ27とを備えると共に、図1(a)に示す如く、インターフェイス7を介して制御装置3の車両モデル5に接続されている。
【0024】
図2に示す如く、前記垂直軸線に対する揺動フレーム20の揺動角度αがキャンバ角度である。キャンバ角付与アクチュエータ23に車両モデル5からの指令値が入力されることにより、該指令値に応じて図2に示す電動サーボモータ27がナット26を回動させ、これに伴ってスクリュー軸25が軸方向に移動する。このように、揺動フレーム20の前記垂直軸線回りの揺動が所定の角度αの範囲で制御されることにより、平面視でタイヤ4aが代用路面体4に対して傾斜するのである。
なお、キャンバ角付与装置19は、例えば、油圧サーボモータや油圧シリンダなどで揺動フレームを揺動させるものや、特開平5−52711号公報に記載の円弧状ラックに噛み合うピニオンを駆動する形式のものであっても良い。
【0025】
図4に示す如く、該キャンバ角付与装置19の揺動フレーム20内に前記接地荷重付与装置17が配備されている。
図5に示す如く、該接地荷重付与装置17は、前記揺動フレーム20に上下一対の横フレーム21、21に設けられた上下一対のガイドレール28、28に摺動自在に設けられたスライダ29を備えている。
該スライダ29は、接地荷重付与アクチュエータ30によって上下一対のガイドレール28、28間を前記代用路面体4に近接自在に移動する。この実施の形態において、該接地荷重付与アクチュエータ30は、スクリュジャッキ31ならびにモータを用いて前記スライダ29を駆動させ、ロードセル32によって荷重を検出することによってタイヤ接地荷重を制御するものとされているが、これに限定されるものではなく、図3の如く油圧シリンダ等を用いたものであっても良い。
【0026】
なお、該接地荷重付与装置17は、上述の如き構成のものに限らず、例えば、特開平3−67148号公報に記載のものや、特公平1−15809号公報に記載の如きドラムを移動させる形式のものであっても良い。
図1(a)に示す如く、接地加重付与アクチュエータ30は、インターフェイス7を介して制御装置3の車両モデル5に接続されており、ロードセル32による計測データに基づいて車両モデル5によって導出された指令値が接地荷重付与アクチュエータ30に入力されることにより、該指令値に応じてスクリュジャッキ31が作動し、これに伴って前記スライダ29を代用路面体4に近接する。これによってタイヤ4aの接地荷重が制御されるのである。
【0027】
図6に示す如く、前記横滑り角付与装置18は、接地荷重付与装置17のスライダ29に設けられている。該横滑り角度付与装置18は、左右一対のリンク機構33a、33aを介してスライダ29に傾斜自在に連結された垂直台33を備え、該垂直台33の側面には、タイヤ4aに連結されるべきタイヤ取付軸34が突設されており、タイヤ4aの回転軸は、ボルト等の締結具を介してタイヤ取付軸34の先端に回転自在に装着されている。
該タイヤ4aは、締結具による締結を解除することによってタイヤ取付軸34から容易に取り外すことができ、これによって、タイヤ装着部12のタイヤ4aの取り替えが容易に行われるのである。
【0028】
また、垂直台33は、該垂直台33を傾斜させるための横滑り角度付与アクチュエータ35に連接されている。
図1(a)に示す如く、該横滑り角度付与アクチュエータ35は、スクリュジャッキならびにモータを用いて前記垂直台33を傾斜させる構成とされ、インターフェイス7を介して制御装置3の車両モデル5に接続されている。
該横滑り角度付与アクチュエータ35に車両モデル5から出力された指令値が入力されることにより、該指令値に応じて垂直台33が傾斜し、これによってタイヤ取付軸34の軸心が水平状態から上下方向に傾斜することにより、タイヤ4aのタイヤ横滑り角が制御されるのである。
【0029】
なお、横滑り角付与装置18は前記構成のものに限定されるものではなく、例えば、特公昭62−8739号公報に記載の如き構成を採用することができる。
図2に示す如く、前記タイヤ試験装置2の各タイヤ装着部12には、横力計測手段37がそれぞれ設けられている。
該横力計測手段37は、タイヤ4aに加えられる横力を計測するためのものであって、前記タイヤ取付軸34のスライダ側の端部に連接されている。
図1(a)に示す如く、横力計測手段37は、インターフェイス7を介して前記車両モデル5に接続されている。該横力計測手段37によって計測されたタイヤ横力が車両モデル5に入力されることにより、実物のタイヤ4aのタイヤ横力を車両モデル5に付与した場合の車両の動的挙動が計算される。
【0030】
図7に模式図として示す如く、本実施の形態に用いられた3次元の車両モデル5は、車両及びサスペンション機構を有限要素法におけるはり要素あるいはトラス要素を用いてモデル化したものであり、車両の剛性及びサスペンション機構の幾何学的非線形性を考慮している。
該車両モデル5において、各節点は6自由度を有し、各節点間は、有限要素法における大回転を考慮したはり要素によって結合されている。これによって車両モデル5は、車両の上下方向、左右方向及び前後方向の運動に加えてピッチング方向、ローリング方向及びヨーイング方向の回転を考慮することができ、車両の3次元的な運動を全て表現することができる。
【0031】
なお、図7の車両モデル5は、ウィッシュボーン型サスペンションをモデル化したものであり、サスペンションのばね力及び減衰力がはり要素の特性として表現されている(詳細は文献:日本機械学会論文集(C編)、69巻685号(2003−9)を参照)。
本実施の形態においては、図1(b)に概念的に示す如く、ステアリングモデル6によるステアリング角度と前記横力計測手段37によって計測されたタイヤ横力とが入力値として車両モデル5に入力されることにより、車両の3次元的な運動が計算され、その計算結果に基づいて導出された接地荷重、横滑り角度及びキャンバ角の各指令値が前記各アクチュエータへ出力されることにより、各タイヤ4aに付与される接地荷重、横滑り角度及びキャンバ角が制御され、これによって実走状態に近い状態が再現されるのである。
【0032】
以下に、車両モデル5によって各タイヤ4aに付与される横滑り角の導出過程について説明する。
図20に示す如く、本実施の形態において、速度Vで走行中の車両モデル5に前記ステアリングモデル6によってステアリング角δが入力された場合、車両モデル5の前輪のX軸に対して成す角γfは以下の(1)によって与えられ、後輪のX軸に対してなす角γrは以下の(2)によって与えられる。
【0033】
【数1】

【0034】
【数2】

【0035】
また、ここで、Vは車両速度を示し、lfは前記重心Oから前輪の回転軸の軸線までの距離を示し、lrは前記重心Oから後輪の回転軸の軸線までの距離を示している。
また、前輪の向いている方向とX軸のなす角θfは以下の(3)によって与えられ、後輪の向いている方向とX軸のなす角θrは以下の(4)によって与えられる。
【0036】
【数3】

【0037】
【数4】

【0038】
ここで、θzoは前記重心Oの進行方向とX軸のなす角であり、図20中のθに等しい。
そして、前輪の横滑り角βfは以下の(5)によって導出され、後輪の横滑り角βrは以下の(6)によって導出される。
【0039】
【数5】

【0040】
【数6】

【0041】
これら前輪及び後輪の横滑り角βf、βrは、車両モデル5を介してコンピュータによって計算され、これら横滑り角βf、βrを指令値として各タイヤ装着部12の横滑り角度付与アクチュエータ35に入力することにより、各タイヤ4aに横滑り角が付与されるのである。
同様に、図1(b)に示す如く前記ステアリング角δ及び横力計測手段37によって計測された各タイヤ4aのタイヤ横力Yf、Yrが車両モデル5に入力されることにより、車両モデル5によってこれらの入力値に基づく前輪の接地荷重Fzf及びキャンバ角αfと後輪の接地荷重Fzr及びキャンバ角αrが導出され、これら接地荷重Fzf、Fzr及びキャンバ角αf、αrを指令値として各タイヤ装着部12の接地荷重付与アクチュエータ30及びキャンバ角付与アクチュエータ23に入力することにより、各タイヤ4aに接地荷重及びキャンバ角が付与されるのである。
【0042】
これによって、車両モデル5によって導出されたヨーイング方向の回転運動はもちろん、モデル化したサスペンション機構の影響によるローリング方向の回転運動の実際の4本のタイヤ4aに発生させることができ、これらの運動下でのタイヤ特性を計測することができるのである。
このように、本実施の形態によれば、実物のタイヤ4aの特性を車両モデル5に入力することができると共に、入力されたタイヤ特性の影響を受けた車両モデル5による車両の動特性を各アクチュエータを介して再びタイヤ試験装置2の実物のタイヤ4aに付与することでき、このタイヤ試験装置2と制御装置3の間の情報交換がリアルタイムに展開することにより、実走行試験状態に極めて近いシミュレーションが実現されるのである。
【0043】
図8及び図9に示すものは、本発明の第2の実施の形態である。該実施の形態においては、図8に示す如く、各タイヤ装着部12にブレーキ力アクチュエータ38がそれぞれ設けられている。
該ブレーキ力アクチュエータ38は、タイヤ4aにブレーキ力を付与するためのものであって、前記横力計測手段37の近傍にて各タイヤ4aに連接され、図9に示す如く、インターフェイス7を介して車両モデル5に接続されている。
該実施の形態においては、車両モデル5において導出された前輪及び後輪のブレーキ力を指令値としてブレーキ力アクチュエータ38に入力することにより、各タイヤ4aに車両モデル5によって導出されたブレーキ力を付与することができる。これによって、車両モデル5にピッチング方向の回転運動を発生させることができ、ブレーキ力を付与した場合のシミュレーションが可能となる。
【0044】
図10及び図11に示すものは、本発明の第3の実施の形態である。該実施の形態においては、図10に示す如く、駆動装置15に代用路面体4の速度を検出するための速度検出手段40が設けられている。
該速度検出手段40及び駆動装置15は、図11に示す如く、インターフェイス7を介して車両モデル5に接続されている。
該実施の形態においては、代用路面体4のドラム速度を計測し制御する手段が設けられているので、車両モデル5において導出されたドラム速度を代用路面体4に付与することができ、これによって代用路面体4のドラム速度を変化させた場合のシミュレーションが可能となる。
【0045】
図12及び図13に示すものは、本発明の第4の実施の形態である。該実施の形態においては、図12に示す如く、前記駆動装置15に代用路面体4の駆動トルクを検出するための駆動トルク検出手段41がそれぞれ配備されている。
該駆動トルク検出手段41は、図13に示す如く、インターフェイス7を介して車両モデル5に接続されており、該車両モデル5は、駆動トルク検出手段41に基づいて導出される転がり抵抗をパラメータの一つに有している。
該実施の形態においては、駆動トルク検出手段(ドラム速度制御用電動機)41によって検出されたドラム駆動トルクから転がり抵抗力が算出され、該転がり抵抗力を車両モデル5に入力することにより、転がり抵抗の影響を考慮したシミュレーションが可能となる。
【0046】
転がり抵抗力の算出手段としては、ドラム速度制御用電動機の駆動トルクを計測し、タイヤ4aを代用路面体4の外周面に押し付けていない状態での駆動トルクと押し付た状態での駆動トルクの差から転がり抵抗を算出する。すなわち、転がり抵抗力FRは以下の(7)によって与えられる。
【0047】
【数7】

【0048】
ここで、T1はタイヤ4aを代用路面体4の外周面に押し付けていない状態でのドラム駆動トルク、T2はタイヤ4aを代用路面体4の外周面に押し付けている状態でのドラム駆動トルク、rは代用路面体4のドラム半径、nは各代用路面体4に対するタイヤ数であり、図13の場合にはn=2である。
図14及び図15は、本発明の第5の実施の形態である。該実施の形態においては、図14に示す如く、各タイヤ装着部12のスライダ29の上端部にトラクティブ荷重計測手段39がそれぞれ設けられている。
該トラクティブ荷重計測手段39は、代用路面体4を駆動してタイヤ4aを回転させた場合にタイヤ4aに生じる図19に示す牽引抵抗力F’xを計測するためのものであり、図15に示す如く、インターフェイス7を介して車両モデル5に接続されている。また、車両モデル5は、前記トラクティブ荷重をパラメータの一つに有している。
【0049】
該実施の形態においては、トラクティブ荷重計測手段39によって検出されたトラクティブ荷重を車両モデル5に入力することにより、該トラクティブ荷重の影響を考慮したシミュレーションが可能となる。
図16は、本発明の第6の実施の形態を示すシステム構成図である。タイヤ試験装置2の各タイヤ装着部12には、タイヤ4aの横方向変位を付与する横方向変位アクチュエータ42が配備されている。
該横方向変位アクチュエータ42は、インターフェイス7を介して車両モデル5に接続されている。
【0050】
該実施の形態においては、前記車両モデル5から前記横方向変位アクチュエータ42へ指令値を出力することにより、各タイヤ4aを横方向に変位させた場合のシミュレーションが可能となる。
図17は、本発明の第7の実施の形態を示すシステム構成図であり、前記制御装置3に模擬運転席装置44が接続されている。
該模擬運転装置44は、枠体45によって覆われた運転室46を備え、該運転室46には、実際の車両と同様のシート47が配備されると共に、ステアリングハンドル48、アクセルペダル、ブレーキペダル、計器パネル等を有する運転操作装置49が配備されている。
【0051】
該運転操作装置49は、走行状態のフロントガラスの景色などを表示するディスプレイ50を備えると共に、インターフェイス7を介して車両モデル5に接続されている。
また、運転室46は油圧装置等により駆動される運動装置51によって支持されており、該運動装置51は、前記車両モデル5にインターフェイス7を介して接続され、実走行と同じ車体の運動を与えるように構成されている。
運転操作装置49のステアリングハンドル48を操作することにより制御される車両モデル5のステアリング角を制御装置3のコンピュータに取り込み、その状態量およびタイヤ横力を車両モデル5に入力して車両の動的挙動を計算し、その計算結果から得られた指令値をタイヤ試験装置2の各タイヤ装着部12の上記各アクチュエータに出力することにより、タイヤ試験装置2の各タイヤ4aを制御することができると共に、前記車両の動的挙動に応じた指令値を運転操作装置49及び運動装置51に出力することにより、模擬運転装置44が制御されることとなる。
【0052】
したがって、本実施の形態によれば、走行時の車両挙動を実走行試験状態に極めて近い状態として再現することができる。
なお、本発明は、前記実施の形態に示したものに限定されるものではない。
例えば、タイヤ試験装置2に上述のブレーキ力アクチュエータ38、速度検出手段40、駆動トルク検出手段41、トラクティブ荷重計測手段39及び横方向変位アクチュエータ42を備え、さらに制御装置3に運転席操作装置44を接続した構成であってもよく、また、これらの内の複数を備えた構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、自動車関連、タイヤ関連の産業に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1(a)は、本発明のタイヤHILシミュレータの実施の形態を示すシステム構成図であり、図1(b)は、該タイヤHILシミュレータのシステムブロック図である。
【図2】図2は、該タイヤHILシュミレータのタイヤ試験装置の平面図である。
【図3】図3は、該タイヤ試験装置の正面図である。
【図4】図4は、該タイヤ試験装置のタイヤ装着部のキャンバ角付与装置の構成を示す斜視図である。
【図5】図5は、該タイヤ装着部の接地加重付与装置の構成を示すイメージ図である。
【図6】図6は、該タイヤ装着部の横滑り各付与装置の要部を示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態に用いる車両モデルのイメージ図である。
【図8】図8は、本発明のタイヤHILシミュレータの第2の実施の形態に用いるタイヤ試験装置の平面図である。
【図9】図9は、本発明のタイヤHILシミュレータの第2の実施の形態を示すシステム構成図である。
【図10】図10は、本発明のタイヤHILシミュレータの第3の実施の形態に用いるタイヤ試験装置の平面図である。
【図11】図11は、本発明のタイヤHILシミュレータの第3の実施の形態を示すシステム構成図である。
【図12】図12は、本発明のタイヤHILシミュレータの第4の実施の形態に用いるタイヤ試験装置の平面図である。
【図13】図13は、本発明のタイヤHILシミュレータの第4の実施の形態を示すシステム構成図である。
【図14】図14は、本発明のタイヤHILシミュレータの第5の実施の形態に用いるタイヤ試験装置の正面図である。
【図15】図15は、本発明のタイヤHILシミュレータの第5の実施の形態を示すシステム構成図である。
【図16】図16は、本発明のタイヤHILシミュレータの第6の実施の形態を示すシステム構成図である。
【図17】図17は、本発明のタイヤHILシミュレータの第7の実施の形態を示すシステム構成図である。
【図18】図18は、本発明で用いる用語の定義を示す説明図である。
【図19】図19は、本発明で用いる用語の定義を示す説明図である。
【図20】図20は、本発明で用いる用語の定義を示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
1 タイヤHILシミュレータ
2 タイヤ試験装置
3 制御装置
4 代用路面体
4a タイヤ
5 車両モデル
6 ステアリングモデル
7 インターフェイス
11 代用路面部
12 タイヤ装着部
13 本体フレーム
15 駆動装置
17 接地荷重付与装置
18 横滑り角付与装置
19 キャンバ角付与装置
29 スライダ
37 横力計測手段
38 ブレーキ力アクチュエータ
39 トラクティブ荷重計測手段
40 速度計測手段
41 駆動トルク検出手段
42 横方向変位アクチュエータ
44 模擬運転装置
46 運転室
49 運転操作装置
51 運動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
代用路面体によりタイヤの走行試験を行うタイヤ試験装置と、該タイヤ試験装置における計測データを入力値として所定の計算を行い、該計算結果に基づき前記タイヤ試験装置のアクチュエータへ指令値を出力する車両モデルを備えた制御装置とを有するタイヤHILシミュレータにおいて、
前記タイヤ試験装置は、タイヤ横力を計測する横力計測手段と、接地荷重、横滑り角度、およびキャンバ角を各々付与する各アクチュエータとを有し、
前記車両モデルは、ステアリング角度と前記横力計測手段からのタイヤ横力とを入力値として車両の3次元的な運動を計算し、その計算結果に基づき前記接地荷重、横滑り角度、およびキャンバ角の各指令値を前記各アクチュエータへ出力するものであることを特徴とするタイヤHILシミュレータ。
【請求項2】
前記タイヤ試験装置は車両の前後左右の4本のタイヤを同時装着できるものであり、前記車両モデルは四輪乗用車を対象としてサスペンション機構を備えた3次元車両モデルであることを特徴とする請求項1記載のタイヤHILシミュレータ。
【請求項3】
前記タイヤ試験装置はタイヤのブレーキ力を付与するブレーキ力アクチュエータを有し、前記車両モデルは前記ブレーキ力アクチュエータへの指令値を出力するものであることを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤHILシミュレータ。
【請求項4】
前記タイヤ試験装置は代用路面体を駆動する駆動装置を有し、前記車両モデルは前記駆動装置への指令値を出力するものであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載のタイヤHILシミュレータ。
【請求項5】
前記駆動装置には駆動トルク検出手段が設けられ、前記車両モデルは前記駆動トルク検出手段に基づき算出された転がり抵抗をパラメータの一つに有していることを特徴とする請求項4記載のタイヤHILシミュレータ。
【請求項6】
前記タイヤ試験装置にはタイヤのトラクティブ荷重計測手段が設けられ、前記車両モデルはトラクティブ荷重をパラメータの一つに有していることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載のタイヤHILシミュレータ。
【請求項7】
前記タイヤ試験装置はタイヤの横方向変位を付与する横方向変位アクチュエータを有し、前記車両モデルは前記横方向変位アクチュエータへ指令値を出力するものであることを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載のタイヤHILシミュレータ。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一つに記載のタイヤHILシミュレータにおいて、前記制御装置には、模擬運転席装置が接続されていることを特徴とするタイヤHILシミュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−138827(P2006−138827A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334999(P2004−334999)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年5月19日 社団法人自動車技術会発行の「学術講演会前刷集 No.56−04 2004年春季大会」に発表
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)