説明

タイヤ

【課題】薄ゲージ化が可能なインナーライナー層として単層又は多層熱可塑性フイルムを使用するタイヤであって、前記熱可塑性フイルム層とゴム層とを接着剤層を介して接合一体化させ、接着剤層を構成する接着剤組成物が、従来接着剤が含有する有機溶剤を含まないことによる低環境負荷、並びにより高い接着性能、耐久性を有し、接着剤に由来する製造上の不具合点を解消した低燃費性の優れた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】(A)インナーライナー層を構成する(B)樹脂フイルム層を含む層と(C)ゴム層とが、接着剤層を介して接合するに当り、前記(D)接着剤層を構成する接着剤組成物が、(E)熱硬化性樹脂及び(F)水性ラテックス中に含まれるゴム成分を含むことを特徴とするタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄ゲージ化が可能なインナーライナー層として単層又は多層熱可塑性フイルムを使用するタイヤであって、前記熱可塑性フイルム層とゴム層とを接接着剤層を介して接合一体化させ、接着剤層を構成する接着剤組成物が、従来接着剤が含有する有機溶剤を含まないことによる低環境負荷、並びにより高い接着性能、耐久性を有し、接着剤に由来する製造上の不具合点を解消した空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入タイヤの内面には、空気漏れを防止しタイヤ空気圧を一定に保つために、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどの低気体透過性ブチル系ゴムを主成分とするインナーライナー層が設けられている。しかし、これらのブチル系ゴムの含有量を多くすれば、未加硫ゴムの強度が低下し、ゴム切れやシート穴空きなどを生じ易く、特にインナーライナーを薄ゲージ化する場合には、タイヤ製造時に内面のコードが露出し易いという問題を生じる。
したがって、前記のブチル系ゴムの配合量は自ら制限され、該ブチル系ゴムを配合したゴム組成物を用いる場合、空気バリア性の点からインナーライナー層の厚さは、1mm前後が必要であった。そのため、タイヤに占めるインナーライナー層の重量は約5%程度となり、タイヤの重量を低減し、自動車燃費を向上するための障害となっていた。
そこで、近年の省エネルギーの社会的な要請に伴い、自動車タイヤの軽量化を目的として、インナーライナー層を薄ゲージ化するための手法が提案されている。
例えば、ナイロンフイルム層や塩化ビニリデン層をインナーライナー層として従来のブチル系ゴムの代わりに用いる手法が開示されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。また、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂とエラストマーとのブレンドからなる組成物のフイルムをインナーライナー層に用いることが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、これらのフイルムを用いる方法は、タイヤ軽量化はある程度可能であるとしても、マトリックス剤が結晶性の樹脂材料であるために、特に5℃以下の低温での使用時における耐クラック性や耐屈曲疲労性が通常用いられるブチル系ゴム配合組成物層の場合より劣るという欠点があり、また、タイヤ製造も複雑となる。
一方、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある。)はガスバリア性に優れていることが知られている。EVOHは、空気透過量がブチル系ゴムを配合したインナーライナーゴム組成物の100分の1以下であるため、50μm以下の厚さでも、内圧保持性を大幅に向上することができる上、タイヤを重量低減することが可能である。したがって、空気入りタイヤの空気透過性を改良するために、EVOHをタイヤインナーライナーに用いることは有効であると言える。例えばEVOHからなるタイヤインナーライナーを有する空気入りタイヤが開示されている(例えば、特許文献4、及び5参照)。
【0004】
しかしながら、上記のような、ゴム組成物とゴム組成物以外の材料、例えば樹脂を複合化させる方法においては、ゴム組成物の部材間で起こるような共加硫による接着性がないため、ゴム組成物層と樹脂層が剥離する場合がある。こうした剥離を防止するためには、ゴム組成物層と樹脂層などとを接着するための適切な接着剤が必要であるが、接着剤を塗工する際には、通常、有機溶媒を含んだ塗工液を用いるため、作業環境の低下問題や、該有機溶媒によりゴムあるいは樹脂組成物が膨潤し、接着面が平滑にならないなど、生産上の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−40702号公報
【特許文献2】特開平7−81306号公報
【特許文献3】特開平10−264607号公報
【特許文献4】特開平6−40207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下になされたものであり、薄ゲージ化が可能なインナーライナー層として単層又は多層熱可塑性フイルムを使用するタイヤであって、前記熱可塑性フイルム層とゴム層とを接着剤層を介して接合一体化させ、接着剤層を構成する接着剤組成物が、従来接着剤が含有する有機溶剤を含まないことによる低環境負荷、並びにより高い接着性能、耐久性を有し、接着剤に由来する製造上の不具合点を解消した高い接着性を有した、低燃費性の優れた空気入りタイヤを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、インナーライナー層を構成する樹脂フイルム層を含む層とゴム層とが接着剤層を介して接合されるに当たり、前記接着剤層を構成する接着剤組成物が、特定の熱硬化性樹脂、及び特定の水性ラテックス中に含まれるゴム成分を含有することにより上記課題を解決し、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1](A)インナーライナー層を構成する(B)樹脂フイルム層を含む層と(C)ゴム層とが、(D)接着剤層を介して接合するに当り、前記(D)接着剤層を構成する接着剤組成物が、(E)熱硬化性樹脂及び(F)水性ラテックス中に含まれるゴム成分を含むことを特徴とするタイヤ、
[2]前記(E)熱硬化性樹脂が、(F)水性ラテックスの存在下レゾルシン系化合物とホルムアルデヒド系化合物とをレゾール化反応により縮合させて得られる(G)初期縮合物を室温で乾燥することによって得られる上記[1]のタイヤ、
[3]前記(G)初期縮合物が5000以下の低分子量成分を含む上記[1]又は[2]のタイヤ、
[4] (E)成分の熱硬化性樹脂が、フェノール、エポキシ、メラミン、尿素、不飽和ポリエステル、ウレタン、イミド及びレゾルシンのいずれか1種の官能基又はセグメントを含んでなる上記[1]〜[3]いずれかのタイヤ、
[5] (A)インナーライナーを構成する樹脂フイルムを含む層の最外層が、(H)成分の熱可塑性樹脂10〜100質量%,(I)成分のエラストマーを90〜60質量%含むガスバリア層、もしくは(I)エラストマー成分40〜100質量%を含む保護層からなり、該保護層のタイヤ径方向内側に(H)成分の熱可塑性樹脂を含むガスバリア層が熱溶着された樹脂フイルム層からなる上記[1]のタイヤ、
[6] (H)成分の熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂及びエチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種である上記[5]のタイヤ、
[7] (H)成分の熱可塑性樹脂が変性あるいは未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体である上記[5]又は[6]のタイヤ、
[8] (A)インナーライナーを構成する樹脂フイルム層が、(J)熱可塑性ウレタン系エラストマー層を含むと共に、変性あるいは未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層を少なくとも1層含む多層フイルムからなる上記[1]〜[7]いずれかのタイヤ、
[9] (A)インナーライナーを構成する樹脂フイルム層が、(I)エラストマー成分を40〜100質量%を含む最外層及び該最外層のタイヤ径方向内側に熱溶着された変性あるいは未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層を有する上記[8]のタイヤ、
[10] (F)成分の水性ラテックス中に含まれるゴム成分が、レゾルシン系化合物とホルムアルデヒド系化合物とをレゾール化反応により縮合させて得られる(G)初期縮合物と反応する官能基を有するジエン系ゴム又は該初期縮合物と縮合重合できる官能基を有するジエン系ゴムのいずれか一種を含む上記[1]〜[9]いずれかのタイヤ、
[11] (F)成分の水性ラテックス中に含まれるゴム成分が、ジエン系ゴムの末端又は分子内にイソシアネート基、カルボキシル基及びピリジル基のいずれか一種を含む上記[10]のタイヤ、
[12] (D)接着剤層が、前記(G)初期縮合物及び(F)水性ラテックスを(K)水中に分散して得られた接着剤組成物を被着体に塗布後、室温にて乾燥させることによって得られる上記[1]〜[11]いずれかのタイヤ、
[13] (K)成分の水100質量部に対して、(G)初期縮合物0.1〜50質量%、(F)水性ラテックス中のゴム成分1〜60質量%の割合で含む上記[11]のタイヤ、
[14] 接着剤組成物を被着体に塗布する前に、被着体表面にコロナ放電による表面処理を行う上記[1]〜[13]いずれかのタイヤ、
[15] 前記(D)接着剤層を構成する接着剤組成物を被着体に塗布し、乾燥させた後、さらに、100℃以上で、かつ30秒以上の加熱処理後に(C)ゴム層との接着を行う上記[1]〜[14]いずれかのタイヤ、
[16] (A)樹脂フイルム層の厚さが500μm以下、(C)ゴム層の厚さが200μm以上である上記[1]〜[15]いずれかのタイヤ、及び
[17] 前記(C)ゴム層がカーカスゴム層である上記[1]〜[16]いずれかのタイヤ、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、薄ゲージ化が可能なインナーライナー層として単層又は多層熱可塑性フイルムを使用するタイヤであって、前記熱可塑性フイルム層とゴム層とを接接着剤層を介して接合一体化させ、接着剤層を構成する接着剤組成物が、従来接着剤が含有する有機溶剤を含まないことによる低環境負荷、並びにより高い接着性能、耐久性を有し、接着剤に由来する製造上の不具合点を解消した、かつ低燃費である空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(A)インナーライナー層を構成する(B)樹脂フイルム層を含む層と(C)ゴム層とが、(D)接着剤層を介して接合するに当り、前記(D)接着剤層を構成する接着剤組成物が、(E)熱硬化性樹脂及び(F)水性ラテックス中に含まれるゴム成分を含むことを特徴とする。
【0010】
[(A)インナーライナー層を構成する樹脂フイルム]
(A)インナーライナー層を構成する樹脂フイルムとしては、ガスバリア性が良好で、適度の機械的強度を有するものであればよく、特に制限されずに、様々な樹脂フイルムを用いることができる。このような樹脂フイルムの素材としては、例えばポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂及びエチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂などの(H)熱可塑性樹脂を挙げることができる。中でもエチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂は、空気透過量が極めて低く、ガスバリア性に優れており、好ましい素材である。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、樹脂フイルムとしては、熱可塑性樹脂であるこれらの素材と後述する(I)エラストマー成分とをブレンドしたものを用いることができる。これら樹脂フイルム層は単層であっても良く、二層以上の多層であっても良い。
【0011】
(エチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂)
前記(H)成分のエチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂としては、未変性のものが好ましく用いられるが、特にエチレン−ビニルアルコール共重合体にエポキシ化合物を反応させて得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。このように変性することにより、未変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体の弾性率を大幅に下げることができ、屈曲時の破断性、クラックの発生度合いを改良することができる。
この変性処理に用いられる未変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体においては、エチレン単位含有量は25〜50モル%であることが好ましい。エチレン単位含有量が25モル%以上であると十分な耐屈曲性及び耐疲労性が得られ、かつ、溶融成形性も良好である。一方50モル%以下であると十分なガスバリア性が得られる。より良好な耐屈曲性及び耐疲労性を得る観点からは、エチレン単位含有量は、30モル%以上がさらに好ましく、35モル%以上が特に好ましい。一方、ガスバリア性の観点からは、エチレン単位含有量は48モル%以下がより好ましく、45モル%以下が特に好ましい。
さらに、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化度は好ましくは90モル%以上であり、より好ましくは95モル%以上であり、さらに好ましくは98モル%以上であり、最適には99モル%以上である。ケン化度が90モル%以上であると、十分なガスバリア性及び積層体作製時の熱安定性が得られる。
【0012】
変性処理に用いられる未変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、21.18N荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分である。但し、エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは21.18N荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
変性処理は、前記の未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、エポキシ化合物を、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは2〜40質量部、さらに好ましくは5〜35質量部を反応させることにより行うことができる。この際、適当な溶媒を用いて、溶液中で反応させるのが有利である。
【0013】
溶液反応による変性処理法では、エチレン−ビニルアルコール共重合体の溶液に酸触媒あるいはアルカリ触媒存在下でエポキシ化合物を反応させることによって変性エチレン−ビニルアルコール共重合体が得られる。反応溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドおよびN−メチルピロリドン等のエチレン−ビニルアルコール共重合体の良溶媒である極性非プロトン性溶媒が好ましい。反応触媒としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸および三弗化ホウ素等の酸触媒や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキサイド等のアルカリ触媒が挙げられる。これらのうち、酸触媒を用いることが好ましい。触媒量としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対し、0.0001〜10質量部程度が適当である。また、エチレン−ビニルアルコール共重合体およびエポキシ化合物を反応溶媒に溶解させ、加熱処理を行うことによっても変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を製造することができる。
【0014】
変性処理に用いられるエポキシ化合物は特に制限はされないが、一価のエポキシ化合物であることが好ましい。二価以上のエポキシ化合物である場合、エチレン−ビニルアルコール共重合体との架橋反応が生じ、ゲル、ブツ等の発生により積層体の品質が低下するおそれがある。変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造の容易性、ガスバリア性、耐屈曲性および耐疲労性の観点から、好ましい一価エポキシ化合物としてグリシドール及びエポキシプロパンが挙げられる。
【0015】
この変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を素材とする樹脂フイルム層の20℃、65RH%における酸素透過量は、3×10-15cm3・cm/cm2・sec・Pa以下であることが好ましく、7×10-16cm3・cm/cm2・sec・Pa以下であることがより好ましく、3×10-16cm3・cm/cm2・sec・Pa以下であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明において、少なくとも樹脂フイルム層を含む層は、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体などの樹脂フイルムからなる単層フイルムであってもよいし、樹脂フイルム層として変性エチレン−ビニルアルコール共重合体などの樹脂フイルム層を有するとともに、他の層をも有する多層フイルムであってもよい。
また、樹脂フイルム層としては、上述した熱可塑性樹脂100%で構成されるフイルムでも良いが、以下の(I)エラストマー成分と熱可塑性樹脂とのブレンド系あるいは(I)エラストマー成分と熱可塑性樹脂の積層体のものも好ましく用いることができる。
(I)エラストマー成分としては、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム及び(L)熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一種が用いられる。
中でもジエン系ゴム、熱可塑性エラストマーが好ましく、ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム及びこれらの変性ゴム、IIR,Br−IIR、Cl−IIR及びイソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化ゴム(Br−IPMS)等が挙げられる。
ガスバリア性を考慮するとIIR,Br−IIR、Cl−IIR及びイソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化ゴム(Br−IPMS)が好ましい。
【0017】
<(T)熱可塑性ウレタン系エラストマー>
(T)熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等が挙げられる。
他の層としては、これらのうち、耐ゴムとゴムに対する接着性の点から、熱可塑性ウレタン系エラストマーからなる層が好ましく、特に樹脂フイルム層を挟持する形で外層部分に熱可塑性ウレタン系エラストマー層を配置することが好ましい。
このような多層フイルムの具体例としては、前記の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる樹脂フイルムの両面に、それぞれ熱可塑性ウレタン系エラストマーフイルムが積層された三層構造の多層フイルムを挙げることができる。
【0018】
前記熱可塑性ウレタン系エラストマー(以下、TPUと略記することがある。)は、分子中にウレタン基(−NH−COO−)をもつエラストマーであり、(1)ポリオール(長鎖ジオール)、(2)ジイソシアネート、(3)短鎖ジオールの三成分の分子間反応によって生成する。ポリオールと短鎖ジオールは、ジイソシアネートと付加反応をして線状ポリウレタンを生成する。この中でポリオールはエラストマーの柔軟な部分(ソフトセグメント)になり、ジイソシアネートと短鎖ジオールは硬い部分(ハードセグメント)になる。TPUの性質は、原料の性状、重合条件、配合比によって左右され、この中でポリオールのタイプがTPUの性質に大きく影響する。基本的特性の多くは長鎖ジオールの種類で決定されるが、硬さはハードセグメントの割合で調整される。
種類としては、(イ)カプロラクトン型(カプロラクトンを開環して得られるポリラクトンエステルポリオール)、(ロ)アジピン酸型又はアジペート型(アジピン酸とグリコールとのアジピン酸エステルポリオール)、(ハ)PTMG(ポリテトラメチレングリコール)型又はエーテル型(テトラヒドロフランの開環重合で得られたポリテトラメチレングリコール)などがある。
【0019】
本発明おいて、樹脂フイルムを構成する(H)成分である熱可塑性樹脂と(I)成分のエラストマーの組成は空気透過性、フイルムの厚さ、樹脂フイルム層の最外層とカーカスゴム等の(C)ゴム層との接着性を考慮して決定される。
最外層であってガスバリア層として用いられるポリマーの組成は、(H)成分の熱可塑性樹脂10〜100質量%と(I)エラストマー90〜0質量%を含有していることが好ましい。(H)熱可塑性樹脂と(I)エラストマーの含有量を上記範囲にすることによってガスバリア性と(C)ゴム層との優れた接着性能を確保することができる。最外層は、熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性樹脂とエラストマーの混合物からなるバリア層あるいはエラストマーを含む保護層でもよい。
最外層であって保護層として用いられるポリマー組成は、(I)エラストマーを40〜100質量%を含み、該保護層のタイヤ径方向内側に(H)熱可塑性樹脂を含むガスバリア層が熱溶着された樹脂フイルム層からなることが好ましい。
さらに、上記熱可塑性樹脂が、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂であることがより好ましい。
また、(A)インナーライナーを構成する樹脂フイルム層が、上述の熱可塑性ウレタン系エラストマー層を含むと共に、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層を少なくとも1層含む多層フイルムからなることがガスバリア性、疲労性の観点から見て最も好ましい。
【0020】
本発明において、ガスバリア層を保護するために、保護層をガスバリア層に隣接して配設することが好ましい。保護層は、ガスバリア層の片側のみでもよいが、両側に配設されることが好ましい。保護層の配設により、ガスバリア層のクラックの発生や成長が抑制され、耐屈曲性及び耐疲労性はさらに改良される。
上記保護層の厚みは10μm以上が好ましくその上限については特に限定されないが通常500μm程度である。
保護層としては、熱可塑性ウレタンエラストマー、ナイロン6、ナイロン66、エチレン−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレン又は無水マレイン酸変性ポリプロピレン、ハロゲン化ブチルゴム等のブチルゴム、ジエン系エラストマー等が好適なものとして例示される。前記ジエン系エラストマーとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム等が好適なものとして例示される。これらは、1種又は2種以上組み合わせて用いられる。
保護層の薄膜化及びクラックの発生、伸展抑制の観点から、熱可塑性ウレタン、ナイロン6、ナイロン66、エチレン−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレン又は無水マレイン酸変性ポリプロピレンが好ましく、熱可塑性ウレタン系エラストマーが特に好ましい。
【0021】
本発明において、(A)層を構成する樹脂フイルムの成形方法に特に制限はなく、単層フイルムの場合、従来公知の方法、例えば溶液流延法、溶融押出法、カレンダー法などを採用することができるが、これらの方法の中で、Tダイ法やインフレーションなどの溶融押出法が好適である。また、多層フイルムの場合は、共押出しによるラミネート法が好ましく用いられる。
本発明の積層体の製造方法における(A)樹脂フイルム層を含む層の厚さは、該積層体をインナーライナーとして用いる場合の薄ゲージ化の観点から、200μm以下が好ましい。(A)層の厚さの下限については特に限定されないが、通常1μm程度であり、より好ましい厚さは10〜150μm、さらに好ましい厚さは20〜100μmの範囲である。
【0022】
この樹脂フイルム層を含む層は、後述する(C)ゴム層などとの密着性を向上させるために、所望により、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。
上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材フイルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。
【0023】
[(D)接着剤層を構成する接着剤組成物]
次に、(D)接着剤層を構成する接着剤組成物について説明する。
本発明に用いられる接着剤組成物は、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックス混合液を熟成させた所謂RFL系の接着剤組成物が用いられ、(D)接着剤層を構成する接着剤組成物が、(E)熱硬化性樹脂及び(F)水性ラテックス中に含まれるゴム成分を含むことが必要である。
接着剤組成物として(E)成分及び(F)成分とを含有することによって(A)樹脂フイルム層と(C)ゴム層とを接着剤層を介して接着するに当たり、タッキネス及び接着力に優れた接着剤組成物を得ることができる。
【0024】
上記RFL系接着剤は、レゾルシン、ホルムアルデヒド及びゴム成分を含む水性ラテックスの混合水溶液に微量のアルカリ触媒を加え、常温で熟成させた後、レゾルシンとホルムアルデヒドとをレゾール化反応させて得られる所謂レゾルシンホルムアルデヒド(G)初期縮合物を添加して作製される。該接着剤をインナーライナー層を構成する樹脂フイルムに塗布し、室温にて乾燥し、必要に応じて更に100℃以上の高温下で30秒から数分間かけて熱処理を行うことによって初期縮合物を熱硬化樹脂化したのち後にカーカスゴムに代表される(C)ゴム層との接着処理を行うことによって(A)樹脂フイルム層または保護層と(C)ゴム層の間に優れた接着性が付与される。その他の(C)ゴム層としては主にブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムからなるインナーライナーゴムが挙げられる。
【0025】
<(F)水性ラテックス>
本発明の接着剤組成物に用いる水性ラテックスは、ゴム成分としてビニルピリジン−スチレン−共役ジエン系共重合体粒子を含む以外特に制限は無く、更に、ビニルピリジン−スチレン−共役ジエン系共重合体をカルボキシル基あるいはイソシアネート基等で変性した変性ラテックス、スチレン−ブタジエンラテックス及びその変性ラテックス、天然ゴムラテックス、アクリル酸エステル共重合体系ラテックス、ブチルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックスの他、被着ゴムに配合されるゴム成分と同種のゴム成分を水に分散させて調製したラテックス等を含んでもよい。上記ゴムラテックスは、一種単独で用いても、複数種を混合して用いてもよい。特にスチレン−ブタジエンラテックスと組み合わせて用いることが好ましい。
中でも、水性ラテックスを構成するジエン系ゴムの末端又は分子内にイソシアネート基、カルボキシル基及びピリジル基のいずれか一種を含んでいるものを用いることが好ましい。
また、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と反応する官能基を有するジエン系ゴム、または該初期縮合物と縮合重合ができるジエン系ゴムのいずれか1種を含んでいるものを用いることも好ましい。
【0026】
上記ビニルピリジン−スチレン−共役ジエン系共重合体は、ビニルピリジン系化合物と、スチレン系化合物と、共役ジエン化合物とを三元共重合させたものである。ここで、ビニルピリジン系化合物は、ビニルピリジンと、該ビニルピリジン中の水素原子が置換基で置換された置換ビニルピリジンとを包含する。該ビニルピリジン系化合物としては、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン、5-エチル-2-ビニルピリジン等が挙げられ、これらの中でも、2-ビニルピリジンが好ましい。これらビニルピリジン系化合物は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
上記スチレン系化合物は、スチレンと、該スチレン中の水素原子が置換基で置換された置換スチレンとを包含する。該スチレン系化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジイノプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等が挙げられ、これらの中でも、スチレンが好ましい。これらスチレン系化合物は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
上記共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等の脂肪族共役ジエン化合物が挙げられ、これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。これら共役ジエン化合物は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
<レゾルシン系化合物及びホルムアルデヒド系化合物からなる初期縮合物>
本発明の接着剤組成物が含有するレゾルシン系化合物及びホルムアルデヒド系化合物からなる縮合物は、レゾルシン系化合物とホルムアルデヒド系化合物とを縮合反応させて得られる反応物であり、レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物であるのが好ましい。
該レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物は、ホルムアルデヒド由来の構成単位とレゾルシン由来の構成単位とを含有し、ホルムアルデヒド由来の構成単位が化学量論的に不足する状態を維持することが重要である。即ちこれにより樹脂を低分子量で可溶性を維持することができる。特に5000以下の低分子量のものを含むことが好ましい
本発明においては、固形分換算で、接着剤組成物中の当該成分の含有割合は、接着性の観点から、通常1〜10質量%程度、好ましくは3〜7質量%である。
該縮合物には、上記のホルムアルデヒドと反応して熱硬化性樹脂を与えるレゾルシン以外の化合物としては、メラミン、尿素、フェノール等を挙げることができ、これらの初期縮合物はメラミン樹脂、尿素樹脂及びフェノール樹脂といった熱硬化性樹脂を得ることができる。
これらの中でメラミンが好適である。すなわち、メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物を用いることによっても、ゴムとの優れた接着性を得ることができる。その他、エポキシ、不飽和ポリエステル、ウレタン及びイミドのいずれか1種の官能基又はセグメント等を含んでなることが接着性向上のために好ましい。
レゾルシン系化合物以外のフェノール誘導体が第三成分として含まれていてもよく、また、該縮合物は、スルフィメチル化剤等による変性や、カルボキシル化等の変性を受けていてもよい。
【0030】
上記レゾルシン系化合物は、レゾルシンと、該レゾルシン中の水素原子が置換基で置換された置換レゾルシンとを包含する。該レゾルシン系化合物としては、レゾルシンの他、5-メチルレゾルシン、4,5-ジメチルレゾルシン等のアルキルレゾルシン等が挙げられ、これらの中でも、レゾルシンが好ましい。これらレゾルシン系化合物は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
上記ホルムアルデヒド系化合物は、ホルムアルデヒドと、該ホルムアルデヒド中の水素原子が置換基で置換された置換ホルムアルデヒドと、該ホルムアルデヒドの重合体等を包含する。上記ホルムアルデヒド系化合物としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、へキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキサール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられ、これらの中でも、ホルムアルデヒドが好ましい。これらホルムアルデヒド系化合物は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
上記レゾルシン系化合物とホルムアルデヒド系化合物とからなる縮合物は、水性ラテックスの存在下でレゾルシン系化合物とホルムアルデヒド系化合物とをレゾール化させて得られたものであるのが好ましい。これは、接着剤組成物の粘着性を下げて、付着処理工程における装置への付着汚れの発生やガムアップ発生の抑止と同時に、接着剤組成物の熟成がほぼ終了した後にpHを低くしても、ゴムラテックスの凝集発生を抑制できるためである。
【0033】
レゾルシン系化合物とホルムアルデヒド系化合物とをレゾール化させて得られる縮合物を、ゴムラテックスの存在下で得る方法としては、(i)アルカリ性液下で、レゾルシン系化合物及び/又は比較的低分子量のレゾルシン系化合物・ホルムアルデヒド系化合物縮合物とゴムラテックスとを混合し、ホルムアルデヒドを分割添加する方法、(ii)縮合反応開始時にはゴムラテックスを混合せず、アルカリ性液下で、レゾルシン系化合物及び/又は比較的低分子量のレゾルシン系化合物・ホルムアルデヒド系化合物縮合物にホルムアルデヒドを分割添加してレゾール化反応を開始させ、縮合反応初期段階の低縮合度の反応中間体が生成した時点でゴムラテックスを加え混合して反応を続行させる方法等が挙げられるが、いずれの方法においても、レゾール型縮合物の縮合反応が終了する前に、ゴムラテックスを加え混合する必要がある。なお、縮合反応が終了したか否かは、レゾール化反応中は反応中間体のメチロール基等の生成に伴い、pHが一時的に下がり、縮合反応が進むにつれてメチロール基等が消費されて、pHが再び上昇し、反応が終了するとpHがほぼ一定になることで判定でき、本発明においては、pHの変化を指標として、水性ラテックスの添加を行う。
【0034】
本発明の接着剤組成物は、レゾルシン系化合物とホルムアルデヒド系化合物とが縮合する前の組成として、該接着剤組成物の全固形分中、レゾルシン系化合物が0.5〜15質量%で、ホルムアルデヒド系化合物が0.2〜8質量%で、ラテックスの固形分が80〜97質量%である。
【0035】
上記接着剤組成物の全固形分中、レゾルシン系化合物が0.5質量%未満では、接着剤組成物の接着性が低下する傾向があり、15質量%を超えると、接着剤組成物のpHが低くなって熟成が進行せず、接着剤組成物を塗布する過程での粘着性が強く、処理機を汚したり、延いては接着剤組成物の塗布状態が悪化して接着力が低下する傾向があるため好ましくない。なお、レゾルシン系化合物が1〜12質量%の場合、接着剤組成物のフイルムへの接着性が最適となり、高い接着力が得られるため特に好ましい。
【0036】
上記接着剤組成物の全固形分中、ホルムアルデヒド系化合物が0.2質量%未満では、接着剤組成物の架橋による十分な凝集破壊抗力が得られず、接着層が脆弱となるため好ましくなく、8質量%を超えると、ホルムアルデヒド系化合物を分割添加しても、接着剤組成物の熟成時のpHを所望の範囲に制御しにくく、前述のとおり接着性が光により劣化するため好ましくない。
【0037】
上記接着剤組成物の全固形分中、ラテックスが80質量%未満では、ラテックスと被着ゴムとが接する面積が小さくなり、接着力が低下するため好ましくなく、97質量%を超えると、ゴム成分が多過ぎて接着層の凝集破壊抗力が小さくなって接着力が低下するため好ましくない。
【0038】
(K)成分の水100質量部に対して、(G)初期縮合物が、0.1〜50質量%、(F)成分の水性ラテックス1〜60質量%の割合で含むことが好ましい。(K)成分及び(F)成分の範囲を上記範囲にすることによって接着剤組成物の塗布作業性および接着性に優れた接着剤組成物を得ることができる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0040】
製造例1 フイルム(a)保護層の製造
エラストマーとして熱可塑性ポリウレタン((株)クラレ製、クラミロン9190)100%を使用し樹脂フイルムインナーライナー最外層の保護層として用いられるフイルム(a)を製造した。インナーライナー層に使用される保護層の厚みは通常200μm以上であるが、タッキネス、剥離接着強さの評価に用いられるため厚さ1.5mmのフイルムを製造した。
押出機仕様:
熱可塑性ポリウレタン:
25mmφ押出機 P25−18AC(大阪精機工作株式会社製)
Tダイ仕様:
500mm幅 (株式会社プラスチック工学研究所製)
冷却ロールの温度:50℃
引き取り速度:4m/分
【0041】
製造例2 フイルム(b)ガスバリア層の製造
(株)クラレ製「G156B」エチレン−ビニルアルコール共重合体(EV0H、エチレン共重合比率48%)50質量%と、エラストマーの熱可塑性ポリウレタン((株)クラレ製、クラミロン9190)50質量%とを2軸押出機を用いて200℃で溶融混合しペレット化した。製造例2同様押し出し機を用いて樹脂フイルムインナーライナー最外層のガスバリア層として用いられるフイルム(b)を製造した。樹脂フイルムインナーライナー層に使用される樹脂フイルム層1層の厚みは通常200μm以下であるが、タッキネス(粘着性)、剥離接着強さの評価のために厚さ1.5mmのフイルムを製造した。
【0042】
製造例3 ゴム層(a)カーカスコーテイングゴムの製造
ゴム層aのカーカスコーテイングゴムは、天然ゴム70質量部及びスチレンブタジエン共重合体ゴム[JSR社製,SBR#1712、ゴム分100質量部に対して37.5質量部のアロマオイルで油展]41.25質量部に対して、カーボンブラック(N330)45質量部、ステアリン酸1質量部、亜鉛華5質量部、加硫促進剤DM[大内新興化学社製、ノクセラーDM]1.0質量部及び不溶性硫黄3.5質量部を配合して調整し、タッキネス、剥離接着強さの評価のために厚さ2.0mmの未加硫のゴムシートを製造した。
尚、カーカスプライは、ポリエステル製コードをコーテイングゴム用ゴム組成物で被覆して作製する。
【0043】
製造例4 ゴム層(b)ブチルゴムの製造
ブチルゴムは、臭素化ブチルゴム100質量部,GPFカーボブラック60質量部、SUNPAR2280、7質量部、ステアリン酸1質量部、ノクセラーDM1.0質量部、亜鉛華3質量部、硫黄0.5質量部を配合して調整し、タッキネス、剥離接着強さの評価のために厚さ2.0mmの未加硫のゴムシートを製造した。
【0044】
実施例1〜20
第1表−1、第2表−2に記載の接着剤組成に従って配合し、25℃で24時間熟成し接着剤液を作製した。この時点で接着剤液中には塩基性触媒(苛性ソーダ)によってレゾール化が進みレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物が存在している。この接着剤液を被着体のフイルム(a)、フイルム(b)の全てに塗布するが、実施例5〜8,13〜20についてはその前に信光電気計装社製コロナ放電処理装置[コロナマスターPS−1M]を使用して電極間距離1mm、放電電圧7kV、周波数15kHzの条件でコロナ放電を実施した。
接着剤液を塗布された被着体は室温で乾燥され、被着体に塗布されたレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物は熱硬化樹脂化が進む。
その中で実施例9〜20については、接着剤塗布表面に対してさらに150℃で5分間の熱処理をおこなった。これら実施例1〜20の試料について、JIS Z0237「粘着テープ・粘着テープ試験方法」に準拠して「180度はがし粘着力」を測定した。
【0045】
また、実施例1〜20の試料に対して製造例3で得られたカーカスコーテイングゴム(a)及び製造例4で得られたブチルゴムの未加硫シート(b)を貼合した積層体を160℃にて15分間加熱・加硫処理し、JIS K6854「剥離接着強さ」の180度剥離接着強さの測定をおこなった。測定結果を第1表−1及び第1表−2に示す。
【0046】
比較例1〜4
接着剤組成物の調整
第3表に示す種類と量の接着剤組成成分を、常法に従って混練りした後、有機溶媒であるトルエン(δ値:18.2MPa1/2)1000質量部に加え、溶解又は分散して粘着剤組成物を調製した。
該粘着剤組成物からなる塗工液を第3表に示すフイルムの片面に粘着剤層の厚さが20μmとなるようにテスター産業(株)製「SA203バーコーターNo.55」を用いて、塗工し、100℃で2分乾燥処理して、粘着剤層を得た。
次に、製造例3で得られたカーカスコーテイングゴム(a)及び製造例4で得られたブチルゴムの未加硫シートを貼合し、貼合した積層体を160℃にて15分間加熱・加硫処理し、JIS K6854「剥離接着強さ」の180度剥離接着強さの測定をおこなった。測定結果を第3表に示す。
【0047】
【表1】

[注]
*1.ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合ラテックス:日本A&L社製、商品名「PYRATEX」固形分41質量%
*2.スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス:JSR社製、「2108」固形分40質量%
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

[注]
*3.Br−IIR;臭素化ブチルゴム:JSR社製「BROMOBUTYL2244」
*4.IR;イソプレン合成ゴム:日本ゼオン社製「NIPOL IR2200」
*5.クロロスルホン化ポリエチレン;Dupont−Dow ElastomerLLC社製「ハイパロンH−20」
*6.カーボンブラック:;東海カーボン社製「シーストNB」
*7.ポリ−p−ジニトロソベンゼン;大内新興化学工業社製「バルノックDNB」
*8.1,4−フェニレンジマレイミド;大内新興化学工業社製「バルノックPM」
*9.促進剤ZTC;ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛;大内新興化学工業(株)製「ノクセラーZTC」
*10.C5樹脂;日本ゼオン社製「クレイトン」
*11.促進剤DM;ジベンゾチアジルジスルフィド;大内新興化学工業社製「ノクセラーDM」
*12.促進剤D;1,3−ジフェニルグアニジン;大内新興化学工業社製「ノクセラーD」
【0050】
第1表−1及び第1表−2から次のことがわかる
(1)本発明の接着剤はコロナ放電処理の追加によって処理なしに比べ粘着力、接着力共に改良され特に接着力が大幅に改善されている。
(2)さらに、コロナ放電処理と熱処理を組み合わせることによって接着力がさらに改善される。
さらに上記(2)項にSBRラテックスを追加することによって粘着力についても、改善することができ、従来例の有機溶媒を用いた接着剤にくらべても粘着性を維持し接着力を大幅に改善している。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、薄ゲージ化が可能なインナーライナー層として単層又は多層熱可塑性フイルムを使用するタイヤであって、前記熱可塑性フイルム層とゴム層とを接着剤層を介して接合一体化させ、接着剤層を構成する接着剤組成物が、従来接着剤が含有する有機溶剤を含まないことによる低環境負荷、並びにより高い接着性能、耐久性を有し、接着剤に由来する製造上の不具合点を解消した低燃費性の優れた空気入りタイヤを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)インナーライナー層を構成する(B)樹脂フイルム層を含む層と(C)ゴム層とが、接着剤層を介して接合するに当り、(D)接着剤層を構成する接着剤組成物が、(E)熱硬化性樹脂及び(F)水性ラテックス中に含まれるゴム成分を含むことを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記(E)熱硬化性樹脂が、(F)水性ラテックスの存在下レゾルシン系化合物とホルムアルデヒド系化合物とをレゾール化反応により縮合させて得られる(G)初期縮合物を室温で乾燥することによって得られる請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記(G)初期縮合物が5000以下の低分子量成分を含む請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
(E)成分の熱硬化性樹脂が、フェノール、エポキシ、メラミン、尿素、不飽和ポリエステル、ウレタン、イミド及びレゾルシンのいずれか1種の官能基又はセグメントを含んでなる請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項5】
(A)インナーライナーを構成する樹脂フイルムを含む層の最外層が、(H)成分の熱可塑性樹脂10〜100質量%,(I)成分のエラストマーを90〜60質量%含むガスバリア層、もしくは(I)エラストマー成分40〜100質量%を含む保護層からなり、該保護層のタイヤ径方向内側に(H)成分の熱可塑性樹脂を含むガスバリア層が熱溶着された樹脂フイルム層からなる請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
(H)成分の熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂及びエチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項5に記載のタイヤ。
【請求項7】
(H)成分の熱可塑性樹脂が変性あるいは未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体である請求項5又は6に記載のタイヤ。
【請求項8】
(A)インナーライナーを構成する樹脂フイルム層が、(J)熱可塑性ウレタン系エラストマー層を含むと共に、変性あるいは未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層を少なくとも1層含む多層フイルムからなる請求項1〜7のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項9】
(A)インナーライナーを構成する樹脂フイルム層が、(I)エラストマー成分を40〜100質量%を含む最外層及び該最外層のタイヤ径方向内側に熱溶着された変性あるいは未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層を有する請求項1〜8のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項10】
(F)成分の水性ラテックス中に含まれるゴム成分が、レゾルシン系化合物とホルムアルデヒド系化合物とをレゾール化反応により縮合させて得られる(G)初期縮合物と反応する官能基を有するジエン系ゴム又は該初期縮合物と縮合重合できる官能基を有するジエン系ゴムのいずれか一種を含む請求項1〜9のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項11】
(F)成分の水性ラテックス中に含まれるゴム成分が、ジエン系ゴムの末端又は分子内にイソシアネート基、カルボキシル基及びピリジル基のいずれか一種を含む請求項10に記載のタイヤ。
【請求項12】
(D)接着剤層が、前記(G)初期縮合物及び(F)水性ラテックスを(K)水中に分散して得られた接着剤組成物を被着体に塗布後、室温にて乾燥させることによって得られる請求項1〜11のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項13】
(K)成分の水100質量部に対して、(G)初期縮合物0.1〜50質量%、(F)水性ラテックス中のゴム成分1〜60質量%の割合で含む請求項1〜12のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項14】
接着剤組成物を被着体に塗布する前に、被着体表面にコロナ放電による表面処理を行う請求項1〜13のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項15】
前記(D)接着剤層を構成する接着剤組成物を被着体に塗布し、乾燥させた後、さらに、100℃以上で、かつ30秒以上の加熱処理後に(C)ゴム層との接着を行う請求項1〜14のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項16】
(B)樹脂フイルム層の厚さが500μm以下、(C)ゴム層の厚さが200μm以上である請求項1〜15のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項17】
前記(C)ゴム層がカーカスゴム層である請求項1〜16のいずれかに記載のタイヤ。

【公開番号】特開2012−101611(P2012−101611A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250325(P2010−250325)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】