説明

タイル剥落防止工法及びそれに用いる止め金具

【課題】本発明は手間が掛からず経時変化の変色の心配がなく、且つ修復したタイル周囲のタイルとの色調が変化する心配もなくなると共に隣のタイルも強化されるタイル剥落防止工法及びそれに用いる止め金具を提供することを目的とする。
【解決手段】浮いたタイル1の適宜な目地2を除去し、該目地2からコンクリート11に達するまで挿入穴3を穿設させ、エポキシ樹脂6を挿入穴3に充填すると共にエポキシ樹脂6を目地2の適宜高さまで充填し、その後、挿入穴3に止め金具8の挿入部を押込んで挿入すると共に止め金具8の目地載置部が目地にセットして止め金具8を装着させ、エポキシ樹脂6が固化後、目地2に目地材9を埋め戻す目地埋め戻し工程を少なくとも順次行う工法とする。又、止め金具8は、挿入穴3に挿入する挿入部と、該挿入部の先端と固着すると共に除去された目地2に装着させる目地載置部とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は壁面のタイル自体や石材自体などに浮きが生じた部分の剥離や剥落を防止するためのタイル剥落防止工法及びそれに用いる止め金具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外壁のタイルの浮きを修復する場合、タイルの浮きチェックを行った際、タイル自体の浮きと、コンクリートとモルタル層の境の浮きとの2種類が生じていた。この時、コンクリートとモルタル層の境の浮きの場合の修復は、浮き状態に合わせた注入穴をコンクリートドリルで穿設させ、グリースガンのノズルを深く突っ込み、高圧を加えて浮いた空間にエポキシ樹脂を流し込み、エポキシ樹脂で接着し一体化させる工法であった。
【0003】
一方、タイル自体の浮きの場合の修復は、前記グリースガンを使用して修復しようとすると、テーパー状のノズルが充分に挿入するための深さが得られないため、注入時にノズルが浮き上がり、エポキシ樹脂がタイルの裏面に回り込めずに、その周りに溢れ出してタイルの表面やその周囲を汚してしまう結果となる。この場合、後から溶剤を使用して拭き取っても、時間が経つと紫外線によって残存成分が黄色く変色するので、依頼主からクレームが多くなる原因となり、且つ、接着不良を多発させる原因となる恐れがある。又、例えエポキシ樹脂がノズルからタイルの裏面に回り込んでも、高圧のためタイル自体が浮き上がる或いはタイルに亀裂を生じてしまう問題も起き易い等の原因で、前記グリースガンを使用して修復することは行われていないのが現状である。
【0004】
このため、一般にタイル自体の浮きの場合の修復工法としては、カッターを入れて浮いているタイルを撤去し、新たなタイルを貼り付ける方法と、タイルの中央に穴を開け、アンカーピンで一枚ずつ固定する方法が行われている。又、この時に使用されるアンカーピンとしては、棒状のステンレスピンを用いる場合が多い。
【0005】
しかしながら、前記浮いているタイルを撤去し、新たなタイルを貼り付ける方法は、浮いたタイルを割って除去し、且つモルタルも除去させてからタイル貼着面をきれいにし、更に新たなタイルを貼着するため、手間が掛かると共に、新たなタイルを貼着したタイルが周囲のタイルと色調が異なってしまい、修復した所が目立つものとなっていた。又、前記タイルの中央に穴を開け、アンカーピンで一枚ずつ固定する方法は、タイルに穴を穿設すると共にアンカーピンをタイルの表面よりも凹ませて打込み、凹み部を修復する作業が行われるため、手間が掛かると共に、アンカーピンを打込んだ箇所は近くで見ると直ぐに分かってしまい、外観を均一な色調に仕上げることは難しかった。
【0006】
一方、棒状の前記ステンレスピンは、挿入穴にエポキシ樹脂を充填させ、その中にステンレスピンを埋め込むことにより、浮いたタイルがエポキシ樹脂を介してステンレスピンと一体化されて剥落防止が可能となるものであるが、このステンレスピンによる剥落防止は穴をあけたタイルだけが剥落防止されるものである。このため、他の周囲のタイルが後日浮いた場合、或いはコンクリートとモルタル間に隙間が生じて他のタイルが浮いたりした場合には、そのタイルの剥落を防止することは出来なかった。
【0007】
尚、コンクリート構造物のひび割れを修復する場合と同様にして、エポキシ樹脂が低圧注入器で用いられて、タイル自体の浮きを修復する工法として本発明者が特願2006−202762で提案したところである。
【特許文献1】特願2006−202762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は手間が掛からず経時変化の変色の心配がなく、且つ修復したタイル周囲のタイルとの色調が変化する心配もなくなると共に隣のタイルも強化されるタイル剥落防止工法を提供することを目的とする。
【0009】
又、他の発明は手間が掛からず簡単にタイル剥落防止が行えるための止め金具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記現状に鑑み成されたものであり、つまり、浮いたタイルの側面の目地を除去するイ)目地除去工程と、目地からコンクリートに達するまで挿入穴を穿設させるロ)穴穿設工程と、目地部分の周囲にマスキング材を貼着して汚れ防止するハ)マスキング工程と、目地に低圧注入器の注入口座金をマスキング材の上に接着して固定するニ)座金固定工程と、低圧注入器の注入器本体に適宜粘度のエポキシ樹脂を入れ、その注入器本体を注入口座金に取付け、低圧力で加圧させながらエポキシ樹脂をタイルの裏面に注入すると共に目地と挿入穴に充填させるホ)接着工程と、その後、低圧注入器の注入器本体を注入口座金から外すと共に、該注入口座金をマスキング材から剥がして低圧注入器を撤収するヘ)注入器撤収工程と、目地に詰まったエポキシ樹脂を注入口座金の除去後、直ぐに掻き取るト)樹脂除去工程と、挿入穴に止め金具の挿入部を押込んで挿入すると共に止め金具の目地載置部が前記目地にセットするチ)止め金具装着工程と、目地にタイル用の目地材を埋め戻すリ)目地埋め戻し工程と、マスキング材を剥がすヌ)マスキング材除去工程とを、順次行うタイル剥落防止工法と成す。尚、本発明で言う「タイルの側面」とは、タイルの裏足方向と直角面側の側面を指す。又、本発明で言う「タイル」とは、単にタイルだけを指すのではなく、外壁や内壁などの貼着面に貼着されるものを指し、例えば、陶磁器製タイル,レンガ,外壁タイル,石板などの総称として用いるものとする。
【0011】
別のタイル剥落防止工法として、浮いたタイルの適宜な目地を除去し、該目地からコンクリートに達するまで挿入穴を穿設させ、目地周囲をマスキングした後、エポキシ樹脂を挿入穴に充填すると共にエポキシ樹脂を目地の適宜高さまで充填し、その後、挿入穴に止め金具の挿入部を押込んで挿入すると共に止め金具の目地載置部が目地にセットして止め金具を装着させ、エポキシ樹脂が固化後、目地にタイル用の目地材を埋め戻し、マスキング材を除去する工程を少なくとも順次行う工法としても良い。
【0012】
他の発明であるタイル剥落防止用の止め金具として、目地に穿設させた挿入穴に挿入する挿入部と、該挿入部の先端と固着すると共に除去された目地に装着させる目地載置部とから構成する。又、前記止め金具として、1本の全ネジ棒を折曲させてL字状に形成した挿入部と目地載置部が一体化するものとしても良い。更にI字状,L字状,X字状の1つに形成した目地載置部の中央下部或いは端部に全ネジ棒の挿入部の一端と固着させても良く、またコの字状断面形状の目地載置部の中央或いは端部の下部に挿入部の一端と固着すると良い。尚、目地載置部を挿入部と差換え可能な構造としても良い。
【発明の効果】
【0013】
請求項1のようにイ)浮いたタイル(1)の側面の目地(2)を除去する目地除去工程と、ロ)目地(2)からコンクリート(11)に達するまで挿入穴(3)を穿設させる穴穿設工程と、ハ)目地(2)部分の周囲にマスキング材(4)を貼着して汚れ防止するマスキング工程と、ニ)目地(2)に低圧注入器(5)の注入口座金(51)をマスキング材(4)の上に接着して固定する座金固定工程と、ホ)低圧注入器(5)の注入器本体(52)に適宜粘度の注入材であるエポキシ樹脂(6)を入れ、その注入器本体(52)を注入口座金(51)に取付け、低圧力で加圧させながらエポキシ樹脂(6)をタイル(1)の裏面に注入すると共に目地(2)と挿入穴(3)に充填させる接着工程と、ヘ)その後、低圧注入器(5)の注入器本体(52)を注入口座金(51)から外すと共に、該注入口座金(51)をマスキング材(4)から剥がして低圧注入器(5)を撤収する注入器撤収工程と、ト)目地(2)に詰まったエポキシ樹脂(6)を注入口座金(51)の除去後、直ぐに掻き取る樹脂除去工程と、チ)挿入穴(3)に止め金具(8)の挿入部(81)を押込んで挿入すると共に止め金具(8)の目地載置部(82)が目地(2)にセットする止め金具装着工程と、リ)目地(2)にタイル用の目地材(9)を埋め戻す目地埋め戻し工程と、ヌ)マスキング材(4)を剥がすマスキング材除去工程とを、少なくとも行うことにより、浮いているタイル(1)を撤去することなく、且つ新たなタイル(1)を貼着する必要がないと共に修復するための箇所が目地(2)だけであるため、従来の如き手間が掛ることなく、且つ修復した箇所の色調がその周囲と殆ど変わらず目立ないものとなる。しかも、従来の如き経時変化の変色の心配もなく、タイル(1)裏面へ確実にエポキシ樹脂(6)が注入されて接着が確実なものとなり、タイル(1)の剥落防止が確実に行えるものとなる。更に特願2006−202762よりも止め金具(8)が装着されているため、特に目地載置部(82)が目地(2)にセットされた隣のタイル(1)に対しても強化され、修復したタイル(1)周辺のタイル(1)に対しても剥落防止が可能なものとなると共にコンクリート(11)とモルタル層(10)の間に隙間が生じた場合でも剥落防止が可能なものとなるのである。
【0014】
請求項2のように浮いたタイル(1)の適宜な目地(2)を除去し、該目地(2)からコンクリート(11)に達するまで挿入穴(3)を穿設させ、目地(2)部分の周囲にマスキング材(4)を貼着させた後、注入材であるエポキシ樹脂(6)を挿入穴(3)に充填すると共にエポキシ樹脂(6)を目地(2)の適宜高さまで充填し、その後、挿入穴(3)に止め金具(8)の挿入部(81)を押込んで挿入すると共に止め金具(8)の目地載置部(82)が目地(2)にセットして止め金具(8)を装着させ、エポキシ樹脂(6)が固化後、目地(2)にタイル用の目地材(9)を埋め戻し、更にマスキング材(4)を除去する工程を少なくとも順次行うタイル剥落防止工法とすることにより、請求項1のようにタイル(1)の裏面全体にエポキシ樹脂(6)が流れ込まないが、止め金具(8)とエポキシ樹脂(6)によって、タイル(1)がコンクリート(11)側と一体化されるため、地震などの揺れに対して充分に耐える強度を有するものとなり、更に止め金具(8)の目地載置部(82)がセットされてエポキシ樹脂(6)で固化されることで、隣接するタイル(1)の強度も向上し、上記タイル(1)と同様に地震などの揺れに対しても充分に耐え、落下防止効果が得られるものとなる。
【0015】
請求項3に示すように挿入穴(3)に挿入する挿入部(81)と、該挿入部(81)の先端と固着すると共に除去された目地(2)に装着させる目地載置部(82)とから構成することにより、目地(2)と隣接するタイル(1)も躯体側と一体化されるため、修復するタイル(1)の周囲も強度が向上し、剥落しにくいものとなる。また本発明品のセットは、挿入穴(3)に挿入し且つ目地載置部(82)を目地(2)に装着して押圧するだけの簡単な作業で完了するものとなる。
【0016】
請求項4に示すように挿入部(81)と目地載置部(82)が1本の全ネジ棒であり、これが折曲されてL字状に形成された止め金具(8)とすることにより、構造が簡単で単価が安く、且つ挿入部(81)と目地載置部(82)の外周にネジ山が設けられているため、挿入部(81)と目地載置部(82)がエポキシ樹脂(6)と良好に密着して抜けにくいものとなり、躯体側に固定した止め金具(8)によって、隣接するタイル(1)がエポキシ樹脂(6)を介在して一体化されるものとなる。
【0017】
請求項5のように挿入部(81)が全ネジ棒であり、目地載置部(82)が、除去する2つの目地(2)の長さに相当する全ネジ棒であり、目地載置部(82)の中央下部と挿入部(81)の一端を溶接で固着してT字状に形成することにより、隣接する4枚のタイル(1)も剥落防止が可能になる。
【0018】
請求項6のようにコの字状断面形状の目地載置部(82)の中央の下部に挿入部(81)を固着することにより、請求項5と同様な効果が得られる。また前記目地載置部(82)の端部の下部に挿入部(81)を固着することにより、隣接するタイル(1)も剥落防止が可能になる。
【0019】
請求項7に示すように挿入部(81)が全ネジ棒で且つ一端中心にネジ穴(81a)を設け、目地載置部(82)が全ネジ棒でI字状,L字状,X字状の1つに形成すると共にその中央下部或いは端部に、ネジ部(82a)を設けることにより、目地載置部(82)が挿入部(81)と差換え可能となるため、浮いたタイル(1)を修復する際の補強工法が幾通りか選択できるものとなる。また浮いたタイル(1)を修復する際の補強工法に用いる止め金具(8)の種類が多くなっても、挿入部(81)が共通部品として使用できるものとなるため、部品管理が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1、図2は本発明の実施形態を示す図であり、この図番について説明する。(1)は外壁などのタイルであり、該タイル(1)の裏面には溝(1a)が複数本設けられている。尚、前記溝(1a)の本数は、タイル(1)の種類や大きさによって異なる。(2)はタイル(1)の側面に設けた目地である。尚、前記目地(2)は図4に示すようにタイル(1)の側面以外に上下面に設けたものもある。(3)は浮いたタイル(1)箇所の目地(2)に穿設した挿入穴であり、該挿入穴(3)はコンクリート(11)に達するまで穿設されている。この穿設方法は従来のコンクリート(11)とモルタル層(10)によるタイル(1)の浮き修復方法と同様に行うのが好ましい。(4)は目地(2)部分の周囲の汚れ防止のために貼着したマスキング材であり、該マスキング材(4)としては、布テープが好ましいが、マスキング材(4)の上面が後述する注入口座金(51)を接着固定可能であれば、布テープ以外の他のものでも良く、更にテープ以外に、マスキング用溶液を塗布して被膜が形成されるものとしても良い。(5)は目地(2)に配置させると共にマスキング材(4)の上に接着して固定させるための注入口座金(51)と、後述する適宜粘度のエポキシ樹脂(6)を入れた注入器本体(52)とから成る低圧注入器であり、該低圧注入器(5)は、ゴム等の弾性による圧力で加圧させながら目地(2)にエポキシ樹脂(6)を低圧で注入するためのものである[図2(f)参照]。この低圧注入器(5)としては、コンクリート(11)のひび割れ注入工法で使用される注入器具、例えばコニシ株式会社製の注入器具(ボンドシリンダー)を用いるのが好ましい。
【0021】
(6)は低圧注入器(5)に入れられて用いる適宜粘度のエポキシ樹脂であり、該エポキシ樹脂(6)は注入口座金(51)から目地(2)に向かって注入されると、タイル(1)の裏足に沿ってエポキシ樹脂(6)が溝(1a)へ回り込んでタイル(1)裏面全体に充填される。この時、前記エポキシ樹脂(6)の粘度の目安としては、垂直面に塗布した際に流れずに止まっている状態、つまり、チキソ性を有したものが好ましい。又、前記粘度は夏場と冬場では異なり、夏場では固化時間が2時間〜3時間のものが好ましい。例えば、コニシ株式会社製の注入材の中粘度タイプを使用するのが良く、特にE207DS或いはE207DWを用いるのが良い。(7)はエポキシモルタルである。(8)は止め金具であり、該止め金具(8)は浮いたタイル(1)の適宜な目地(2)を除去すると共に該目地(2)に挿入穴(3)を穿設させ、その挿入穴(3)と除去された目地(2)に装着してタイル(1)が躯体側のコンクリート(11)と一体化するために用いるものである。又、前記止め金具(8)は、挿入穴(3)に挿入する挿入部(81)と、該挿入部(81)の先端と一体に取付けると共に除去された目地(2)に装着させる目地載置部(82)とから構成されており、これは挿入部(81)と目地載置部(82)が1本の全ネジ棒で、これを折曲してL字状に形成させた図3(a)に示すものを用いるのが好ましい。尚、前記止め金具(8)は上記構成に限定されるものではない。(9)はタイル用の一般的な目地材であり、(10)はタイル(1)をコンクリート(11)に貼着する際に設けた既存のモルタル層である。
【0022】
図3は他の発明である止め金具(8)の実施形態を示す図であり、この止め金具(8)について詳細に説明する。図3(a)は、挿入部(81)と目地載置部(82)が1本の全ネジ棒であり、これを折曲してL字状に形成したものである。図3(b)は、挿入部(81)が全ネジ棒であり、目地載置部(82)が、除去する2つの目地(2)の長さに相当する全ネジ棒であり、前記目地載置部(82)の中央下部に挿入部(81)の一端を溶接で固着してT字状に形成したものである。図3(c)は、挿入部(81)が全ネジ棒であり、図3(b)に示す目地載置部(82)の中央を直角に折曲し、この折曲部下方に挿入部(81)の一端を溶接で固着したものである。図3(d)は、挿入部(81)が全ネジ棒であり、4本の全ネジ棒の一端を溶接で固着してX字状に形成した目地載置部(82)の中央下部に、挿入部(81)の一端を溶接で固着したものである。尚、この時、目地載置部(82)を形成するに当り、図3(b)の目地載置部(82)1本と他の2本の全ネジ棒を用意して形成させても良い。又、前記挿入部(81)と目地載置部(82)が固着される部分や、前記目地載置部(82)の折曲部分にネジを設けなくても良い。更に前記挿入部(81)と目地載置部(82)の外周のネジの代りに、凹凸部を設けたものとしても良い。
【0023】
又、図3(e)は、図3(b)に示す目地載置部(82)の代りに、コの字状断面形状のものを用い、その中央下部に挿入部(81)の一端を溶接で固着したものである。このコの字状断面形状のものを他の全ネジ棒のものの代りに使用しても良い。更に図3(f)は、図3(b)の挿入部(81)と目地載置部(82)を用い、前記挿入部(81)の一端の中央にネジ穴(81a)を設け、且つ目地載置部(82)の中央下部には、前記ネジ穴(81a)に螺合するネジ部(82a)を設けて、挿入部(81)に目地載置部(82)が着脱可能な分離型としたものである。尚、前記目地載置部(82)の形状はI字状に限定されるものではなく、前記したL字状,X字状のものにネジ部(82a)を設けたものとしても良い。
【0024】
次に本発明の剥落防止工程について説明する。予め、テストハンマーを用いてタイル(1)の打音調査し、タイル自体の浮き箇所にマーキングを付けておく[図1(a)参照]。先ず始めに浮いたタイル(1)の側面の目地(2)、つまり、タイル(1)の裏足方向と直角面側を、本発明者が提案した特願2006−202762で記載した要領でコンクリートカッターにより目地(2)が除去されることにより、図2(a)の状態から(b)の状態になり、イ)目地除去工程が終了する[図1(b)参照]。尚、コンクリートカッター切込み後、小バツリして目地材を綺麗に取除いておく。次に目地材を除去した後、振動ドリルで目地(2)の下側にコンクリート(11)に達するまで挿入穴(3)を穿設させてロ)穴穿設工程が終了する[図1(c),図2(c)参照]。この時、挿入穴(3)の深さは40mm以上あけると良い。その後、浮いたタイル(1)の上から振動型タイル圧着機などを用い、敢えてタイル(1)全体が浮くようにさせることにより、低圧注入が可能となり、接着面積が確実に得られるものとなる。前記除去された目地(2)の周囲に布製テープのマスキング材(4)を貼着するハ)マスキング工程が行われる。この時は目地(2)部分の周囲に布製テープなどのマスキング材(4)を、5cm〜10cm四方の広さに貼着することにより、開口する目地(2)以外の汚れが防止されるのである[図1(d),図2(d)参照]。そして注入口座金(51)を目地(2)のマスキング材(4)の上にシール材等で接着し固定するニ)座金固定工程が行われる[図1(e),図2(e)参照]。この時、注入口座金(51)をマスキング材(4)の上に接着する際には、上方にエア抜きを確保しておく。更に前記低圧注入器(5)の注入器本体(52)に適宜粘度に調節したエポキシ樹脂(6)を入れ、その注入器本体(52)を注入口座金(51)にセットして取付け、低圧力で加圧させながら目地(2)にエポキシ樹脂(6)を注入すると、タイル(1)の裏面に流れ込むと共にタイル(1)の裏足に沿って溝(1a)に入り込み、且つ目地(2)と挿入穴(3)に充填することにより、ホ)接着工程が終了する[図2(f)参照]。この時の低圧注入器(5)によるエポキシ樹脂(6)の注入方法は、本発明者が提案した特願2006−202762で開示した方法と同様に行えば良い。
【0025】
注入後、低圧注入器(5)の注入器本体(52)を注入口座金(51)から外す[図2(g)参照]。そして、注入口座金(51)とマスキング材(4)との間に隙間を作って剥がすための皮スキなどで注入口座金(51)を外して取除くことによって、へ)注入器撤収工程が終了する。この時、図2(g)に示すようにエポキシ樹脂(6)は目地(2)と挿入穴(3)に充填される。前記注入口座金(51)の除去後、直ぐに目地(2)に詰まった固化されていないエポキシ樹脂(6)を、目地(2)の幅に合ったヘラ或いは割箸などで掻き取ることにより、ト)樹脂除去工程が終了する。この時、タイル(1)裏面の溝(1a)にはエポキシ樹脂(6)が充填されていると共にマスキング材(4)の上には注入口座金(51)の接着痕が図1(f)のように残される。そして目地(2)の厚さの3分の1程度にエポキシモルタル(7)を充填させておく。次に挿入穴(3)に向って止め金具(8)の挿入部(81)を押込んで挿入すると共に、除去された目地(2)部分に目地載置部(82)をセットするチ)止め金具装着工程が行われる[図2(h)、図1(f)参照]。この時、目地載置部(82)を押さえ込んでおく。又、止め金具(8)としてL字状のステンレス製の全ネジ棒を使用すると良い。この状態でエポキシ樹脂(6)が固化するまで放置しておく。次に目地(2)にタイル用の目地材(9)を埋め戻す目地埋め戻し工程が行われる[図2(i)、図1(g)参照]。そしてマスキング材(4)を剥がすヌ)マスキング材除去工程が行われることにより、タイル剥落防止工法が完了するのである[図1(h)、図2(j)参照]。従って、タイル(1)の表面にはエポキシ樹脂(6)の汚れが一切付かずに剥落防止のための修復作業が行えるものとなるのである。
【0026】
次に本発明の別実施形態の剥落防止工程について説明する。これは前記実施形態と比べ、タイル(1)の裏面全体にエポキシ樹脂(6)を流し込まずにタイル(1)の剥落防止が簡易に行えるものである。つまり、イ)目地除去工程,ロ)穴穿設工程,ハ)マスキング工程を上記同様に行い、エポキシ樹脂(6)を目測で、挿入穴(3)に充填すると共にエポキシ樹脂(6)を目地(2)の適宜高さまで充填するホ)接着工程が行われる。尚、前記ロ)穴穿設工程後、振動型タイル圧着機により敢えてタイル(1)全体が浮くようにさせる工程は行わない。その後、挿入穴(3)に止め金具(8)の挿入部(81)を押込んで挿入すると共に止め金具(8)の目地載置部(82)が目地(2)にセットして止め金具(8)を装着させるチ)止め金具装着工程が行われる。そして目地(2)にタイル用の目地材(9)を埋め戻すリ)目地埋め戻し工程が行われ、更にヌ)マスキング材除去工程を行ってタイル剥落防止工法が終了するものである。従って、別実施形態の剥落防止工法は前記実施形態と比べ、ニ)座金固定工程,へ)注入器撤収工程,ト)樹脂除去工程が省略出来るものとなる。
【0027】
次に他の発明である止め金具(8)の使用方法について説明する。予め図3(f)に示す分離型のものを使用する場合は、浮いたタイル(1)の状況に合せた目地載置部(82)を挿入部(81)に螺合させて取付けておく。先ず始めに図3(a)に示すL字状に形成したものは、挿入穴(3)にエポキシ樹脂(6)を充填させると共に目地(2)の厚さの3分の1程度にエポキシモルタル(7)を充填させた後、挿入穴(3)に挿入部(81)を押込んで挿入すると共に目地載置部(82)を押さえ込むと、止め金具(8)は図4(a)のように装着される。また図3(b),図3(e),図3(f)に示すT字状に形成したものを使用する場合は、止め金具(8)が図4(b)或いは図4(c)のように取付けられる。又、図3(c)のような中央で直角に折曲された目地載置部(82)のものを使用すると、止め金具(8)は図4(d)のように取付けられる。更に図3(d)のようにX字状の目地載置部(82)の中央下部に挿入部(81)が固着されたものを用いると、図4(e)に示すように取付けられるである。このように1つのタイル(1)だけでなく、2つ以上のタイル(1)を躯体側と一体化することが可能となるため、タイル(1)が剥落しにくいものとなる。又、コンクリート(11)とモルタル層(10)の間に隙間が出来たとしても、他の発明である止め金具(8)を用いて修復されたタイル(1)は、挿入部(81)がコンクリート(11)側と固着するものとなり、且つ目地載置部(82)が介在されてタイル(1)同士をエポキシ樹脂(6)やエポキシモルタル(7)或いは目地材(9)によって固着するため、タイル(1)の剥落は防止出来るものとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図2】図1のX−X方向に於ける本実施形態の工法を示す断面図である。
【図3】他の発明である止め金具の実施形態を示す説明図である。
【図4】止め金具の使用状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 タイル
2 目地
3 挿入穴
4 マスキング材
5 低圧注入器
51 注入口座金
52 注入器本体
6 エポキシ樹脂
8 止め金具
81 挿入部
81a ネジ穴
82 目地載置部
82a ネジ部
9 目地材
11 コンクリート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イ)浮いたタイル(1)の側面の目地(2)を除去する目地除去工程。
ロ)目地(2)からコンクリート(11)に達するまで挿入穴(3)を穿設させる穴穿設工程。
ハ)前記目地(2)部分の周囲にマスキング材(4)を貼着して汚れ防止するマスキング工程。
ニ)前記目地(2)に低圧注入器(5)の注入口座金(51)を前記マスキング材(4)の上に接着して固定する座金固定工程。
ホ)前記低圧注入器(5)の注入器本体(52)に適宜粘度の注入材であるエポキシ樹脂(6)を入れ、その注入器本体(52)を前記注入口座金(51)に取付け、低圧力で加圧させながらエポキシ樹脂(6)を前記タイル(1)の裏面に注入すると共に前記目地(2)と前記挿入穴(3)に充填させる接着工程。
ヘ)その後、前記低圧注入器(5)の前記注入器本体(52)を前記注入口座金(51)から外すと共に、該注入口座金(51)を前記マスキング材(4)から剥がして前記低圧注入器(5)を撤収する注入器撤収工程。
ト)前記目地(2)に詰まったエポキシ樹脂(6)を前記注入口座金(51)の除去後、直ぐに掻き取る樹脂除去工程。
チ)前記挿入穴(3)に止め金具(8)の挿入部(81)を押込んで挿入すると共に前記止め金具(8)の目地載置部(82)を前記目地(2)にセットする止め金具装着工程。
リ)前記目地(2)にタイル用の目地材(9)を埋め戻す目地埋め戻し工程。
ヌ)前記マスキング材(4)を剥がすマスキング材除去工程。
以上の工程を少なくとも行うことを特徴とするタイル剥落防止工法。
【請求項2】
浮いたタイル(1)の適宜な目地(2)を除去し、該目地(2)からコンクリート(11)に達するまで挿入穴(3)を穿設させ、前記目地(2)部分の周囲にマスキング材(4)を貼着させた後、注入材であるエポキシ樹脂(6)を前記挿入穴(3)に充填すると共に前記エポキシ樹脂(6)を前記目地(2)の適宜高さまで充填し、その後、前記挿入穴(3)に止め金具(8)の挿入部(81)を押込んで挿入すると共に前記止め金具(8)の目地載置部(82)が前記目地(2)にセットして前記止め金具(8)を装着させ、前記エポキシ樹脂(6)が固化後、前記目地(2)にタイル用の目地材(9)を埋め戻し、更にマスキング材(4)を除去する工程を少なくとも順次行うことを特徴とするタイル剥落防止工法。
【請求項3】
浮いたタイル(1)の適宜な目地(2)を除去すると共に該目地(2)に挿入穴(3)を穿設させ、その挿入穴(3)と除去された目地(2)に装着すると共にエポキシ樹脂(6)の接着力によって前記タイル(1)が躯体側のコンクリート(11)と一体化するために用いるものであり、前記挿入穴(3)に挿入する挿入部(81)と、該挿入部(81)の先端に取付けると共に除去された目地(2)に装着させる目地載置部(82)とから構成したことを特徴とするタイル剥落防止工法用の止め金具。
【請求項4】
前記挿入部(81)と前記目地載置部(82)が1本の全ネジ棒であり、これが折曲されてL字状に形成された請求項3記載のタイル剥落防止工法用の止め金具。
【請求項5】
前記挿入部(81)が全ネジ棒であり、前記目地載置部(82)が、除去する2つの目地(2)の長さに相当する全ネジ棒であり、前記目地載置部(82)の中央下部と前記挿入部(81)の一端を溶接で固着してT字状に形成された請求項3記載のタイル剥落防止工法用の止め金具。
【請求項6】
前記目地載置部(82)がコの字状断面形状であり、その中央或いは端部の下部に前記挿入部(81)が取付けられた請求項3記載のタイル剥落防止工法用の止め金具。
【請求項7】
前記挿入部(81)が全ネジ棒で且つ一端中心にネジ穴(81a)が設けられ、前記目地載置部(82)が全ネジ棒でI字状,L字状,X字状の1つに形成されると共に前記目地載置部(82)の中央或いは端部の下部に、前記ネジ穴(81a)と螺合して取付けるネジ部(82a)が設けられた請求項3記載のタイル剥落防止工法用の止め金具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−75249(P2008−75249A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252208(P2006−252208)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(302027664)株式会社ヤグチ技工 (14)
【Fターム(参考)】